外伝その441『綱渡り5』
――日本連邦がダイ・アナザー・デイで見せる敢闘精神は他国を震え上がらせた。同時に、参謀職が有名無実となり、ロンメルやパットンのような前線指揮官が持て囃されるようになった事を危惧したアイゼンハワーであったが、十字砲火の中で指揮官が自ら銃を取る日本連邦軍を世論は歓迎するので、アイゼンハワーもどうしようもなかった。その一方で日本連邦軍の投入した超兵器の圧倒的威力は機甲戦力が枯渇しつつあった連合軍には大いに助けとなった。そして、航空戦力も紫電改、烈風、そして扶桑最後の『制式採用された最後のレシプロ戦闘機』という称号を得た陣風。ジェット戦闘機はこの時期は比較的に少数が投入されるに留まったが、レシプロ重爆を根こそぎ陳腐化させるには充分であった――
――グレートヤマトが出港準備に入る5時間ほど前――
「敵爆撃機、視認。毎度のB公ですわ」
「コスモタイガーの前では模擬標的だ。不時着に追い込んでやれ。この時代の米軍も徴兵が主体だからな」
「了解」
この時期になると、地球連邦宇宙軍が本格参戦し、B29などの超重爆の処理を担当していた。航空戦力も圧倒的多数が際限なく飛来するため、連合軍の高射砲弾の備蓄が切れ、航空機関砲用の弾丸の補充も追いつかない有様であった。そのため、パルスレーザーを撃てるコスモタイガー、機銃威力がレシプロと段違いであるセイバーフィッシュ、ワイバーンなどは特に重宝された
「各機、B公の射撃管制装置はコスモタイガーの速度には対応しておらん。エンジンを二発程度停止に追い込めば、高度を維持できなくなるから、遊んでやれ」
コスモタイガーはB29の防御機銃程度では、傷一つつかない装甲を持つ。更にモデルによるが、B29を一瞬で火達磨にできる弾幕を展開可能であるので、彼等に狙われたほうがまだ幸運である。日本軍義勇兵に襲われれば、空対空特攻すら辞さないため、相手がジェット機のほうが『まだマシ』と評判であった。史実と異なり、紫電改や雷電のみならず、最新鋭機の陣風も12000mでの飛行を可能にしており、それが集中攻撃をかけ、時には体当たりする。彼等に襲われ、捕虜になった爆撃機の搭乗クルーはシェルショックに罹患する確率が突出して高い。ジェットに襲われたほうが気分的に楽だったと、後年に生存者は語る。体当たりすら躊躇しない姿勢は恐怖しかなかったと言い、爆撃機でなく、戦闘機に乗るべきだったと漏らす者が多く、こうして、B29は史実と違い、『落とされる側』に当初から置かれる事になった。
「なんで当たんねえんだ!射撃指揮装置はちゃんと動いてんのか!?」
B29には最新鋭のアナログコンピュータによる射撃指揮装置が備えられていたが、所詮は1940年代相応の代物。遥か未来の新鋭宇宙戦闘機の機動力に対応できるはずはなかった。逆に動力銃座が動作した時には敵機が照準を外れている(ミグ15までは対応できる能力はあり、当時としては最高レベルであったが)有様。史実で日本軍が味わった恐怖を彼等が味わう事になった。
「最後尾を脱落させろ。あまり短期間に大勢が亡命してしまうと、敵が怪しむ」
「了解」
最後尾の機がコスモタイガーの機銃攻撃でエンジンを容易く破壊され、不時着に追い込まれると、編隊は密集しての弾幕を展開したが、逆にコスモタイガーがクラスター弾頭のミサイルを一発放つ。すると、七機が何かしらの損傷を負わされてしまう。当たりどころの悪い機体はそのまま炎上して、空中爆発する。ジェット相手では回避行動も無意味である事を知っていた編隊長機の機長は『全滅は免れない』」と判断。本格攻撃に入られる前に、敵機に降伏する趣旨の無電を入れる。元々、同胞同士の戦争に意欲の薄い者が当たり前なので、こうした行為はしばしば行われ、搭乗員は捕虜になってすぐに亡命を申請する事が七割近くに登った。そこもアメリカ人の合理性の表れであったと言える。中には爆撃部隊が航空軍単位で亡命を申請してくる事もあり、悪い言い方だが、真面目にダイ・アナザー・デイを戦うリベリオン軍の数は実際にはけして多くはなく、日本側の超兵器の威力に恐れをなす者も多かった。その事がウィッチの『タダ飯ぐらい』を殊更に強調し、後年に至るまで禍根となり、、世論がウィッチに厳しい目を向ける理由付けにされたのは否めない。Gウィッチはティターンズによる督戦がついている部隊との最前線に投入され続け、捕虜になる(仮面ライダーらに救出されたが)失態も犯している。それ以外の地では日本連邦軍の超兵器との交戦を恐れ、表向きは膠着状態を装っての休戦協定を独自に結ぶ部隊も生じ、ティターンズは督戦の必要性を痛感するに至る。つまり、ダイ・アナザー・デイの実態は『当初の派遣部隊は士気旺盛だったが、次第に戦う理由の希薄化とティターンズの言いなりな本国への疑念が渦巻き、日本連邦との対立に疲れが生じた』ほど統制が崩れていた。
――後年には『ダイ・アナザー・デイはすべての地で激戦だった』とされているが、それは実際には『事後に、軍が参加したとされる部隊の体面とメンツのために、当時の参謀本部が組織的に報告をでっち上げた』からである。日本側の勘違いと早合点のせいで、後年に至るまで負い目を背負うことになった者達はその埋め合わせを求め、日本側も協議の結果、太平洋戦争で最前線に置くことで埋め合わせを行うことにし、彼女らの外聞に配慮して、ダイ・アナザー・デイの従軍記章は予定通りに発行される。(必要上、等級は部内で設けられることとなったが)日本側はこれに強く反対したが、従軍記章はウィッチ世界では絶対に必要なため、結局は引き下がった。とは言え、逆に海軍航空隊の過度な集団主義を責め立てるなど、日本側が優位に立った場面もあった。海軍は『全部隊に個人戦果の記録を破棄させたところだったのに!!戦闘詳報にも……』と泣いたが、源田実を除くと、陸軍航空部隊の人員が空軍の主要人員に収まる事が判明したことで焦り、この時期に出されていた『坂本の要望』を山口多聞の意向で受け入れるが、芳佳は軍医学校の卒業後に空軍へ移籍してしまうことになる。空軍では『兵科間の差別はない』からで、別世界の芳佳が『兵科将校としての教育を受けていないから』という理由で降格人事を受けるのと対照的である。芳佳の移籍は海軍航空隊に多大なショックをもたらし、急速に改革が進むが、太平洋戦争では『空軍が空母に乗艦する時の防諜用の身分』として用いられるに至る。また、プロパガンダ的な理由から始まった『撃墜王ランキング』では記録が公的にある陸軍系エースがトップ10の大半を占めるなど、屈辱を味わうのだ――
――海軍は水上艦部隊は華々しく活躍できているが、航空隊は一撃離脱戦法の普及期にあったところに、軽快な運動性を持つジェット戦闘機への対応に追われてしまったため、結局、日本軍義勇兵には『ジャク』(使えない搭乗員の意)扱いされるわ、烈風や紫電改への機種変更にさえ拒否感を示す者もいる始末であった。ルーデルが直々に教育する始末であった。(後に判明したことだが、カールスラント最強の対地攻撃エースのハンナ・U・ルーデルはウマ娘のゴールドシップの同位体であった。ルーデルの『ウォーモンガーなイカレポンチ』な性格が別ベクトルで発露したのが、ゴールドシップの『破天荒さ』だと判明する。(つまり、ルーデルは世界線によっては、競走馬のゴールドシップを経て、ウマ娘のゴールドシップに転生することになる。)だが、彼女の存在を活かせず、カールスラントは結局、ナチスの存在のせいで帝国解体論まで吹き出るに至り、軍隊も有名無実化が進む。結局、ナチス残党のバダンがカールスラントを乗っ取ることへの懸念から、軍隊の一定範囲での再建は最終的に認められるが、表面化した東西対立などの負の要素が重くのしかかり、NATO軍による治安維持が数十年は続く。その間に日本連邦の覇権が確定してしまったため、科学立国のブランドも急速に失われていく。カールスラントは史実西ドイツをモデルに再建が進むが、軍事的復興は必要最低限の範囲で留められる。(史実の三カ国分の必要最低限であるため、史実より規模は大きいが)海外派兵も機会が減っていくため、日本連邦に移民したエースたちの活躍で溜飲を下げるのが精一杯であった。帝国という形が保たれただけでも大万歳で、カールスラント人の多くはナチス・ドイツを恨んだという――
――日本連邦としても、航空機の運用を空軍に集約しようとした試みの失敗で空母機動部隊の練度が低いため、空軍を万能化させて対応するしかなく、夜間飛行・空母着艦技能が必須となったため、新規人員の育成期間はそれまでより長期化。既存人員も再教育が必須となった。64Fはそれらを高レベルで備えた最精鋭を意図的に集めたからこそ、連日の激戦を戦い抜いているのだ。ダイ・アナザー・デイの激戦地に身を置く彼女らは疲労困憊。一度は捕虜になった者もいるが、相手側も超人を揃えていた以上は仕方なしとされた。特にドラえもんとのび太が『上位形態のプリキュアを圧倒する南斗鳳凰拳』の映像を流したことから、『プリキュアと言えど、極限まで鍛えた拳法の伝承者には遅れをとる事がある』ということが周知された。(ちなみに、シャッフル同盟は素手で軍用MSを粉砕できる)青年のび太は主に裏方でのサポートに専念していたが、今回の奇襲作戦にはコスモタイガーを駆って参戦する――
「考えられるだけの最精鋭を一つに集めて、一つの戦域に全力投入……前世なら抗議していたな」
「言えてるな。だが、暇な戦線に精鋭は置けんよ。日本は精鋭部隊の運用の成功経験がある国だから、それを何が何でも押し通す。大本営を解体してでも、な」
「参謀に同期が多いが、連中は怒鳴られっぱなしで、泣いてるぞ」
「史実じゃ、参謀の身勝手で、多くの兵士と指揮官が死んだんだ。憎まれ役にされるのは仕方ない。それに、今の軍にいる参謀は頭でっかちの硬直化した教育のエリートばかりだ。日本にとっては、いなくなって清々しただろうよ」
坂本は愚痴る。同期が参謀になり始めた時代だからだが、参謀という職責が政治的都合で有名無実化してしまったため、戦闘指揮官が上級指揮官と直接詰めることが常態化し、軍艦でも上級士官と下士官兵の食堂を統合するべきという意見が部外で強まるなど、各所で混乱が強まっていた。各所での混乱が大きくなっていたため、防衛省背広組もさすがに強く出られなくなっていた。参謀達の多くが理不尽にエリートコースから脱落させられ、苦労の果てに恩賜の軍刀を得たのに、『柔軟性のない頭でっかちの官僚軍人のシンボル』と見做されてしまったことへの不満は大きく、その不満は『唆された末のクーデター』という形で、後に爆発することになる。(ちなみに、黒島亀人、福留繁などの著名な海軍参謀の経験者も、この時期に中央から追放される形で失脚している)とは言え、不満をできるだけ抑えるため、宇垣纏や栗田健男などは中央に残された。彼等の手腕が買われたわけではないが、保守派を安心させるための『妥協』であった。
「しかし、参謀を狙い撃ちで失脚させて、どうする?指揮官が何から何までを判断せねばならんのか?」
「日本は太平洋戦争で参謀の暴走を経験した。だから、指揮官が直接判断するのを大衆は好むようになった。指揮官先頭って言葉が独り歩きして、後世まで残ったから、別世界の人間のはずの俺らに因果が回ってきた。お前は前世じゃ前線から離れた時間のほうが長いから、日本人の心境をまだ理解しとらんのさ。日本は戦後は軍事に感情論が強く入るから、真っ向からの軍事的議論は日本の大衆が見てる前ではできんよ。ブンヤが社会的に抹殺する。昔は有事法制の研究だけで職を追われたそうだからな」
実際、日本は戦後、世界情勢の変化や自国の大災害にうまく対応できなかった事が多い。ひどい時には政権がひっくり返るきっかけになるほどだ。黒江は日本でも暮らしているため、核兵器、あるいはその発展型の兵器を自国が『使う側』に回る事は許さない事は知っている。扶桑は敵が原子爆弾を使った場合は、『無制限報復』を宣言するつもりだが、日本側には伏せている。21世紀の『核兵器の定義』に当てはまらない技術に世代交代している『反応弾』を使用するつもりであった。扶桑の国民は日本が敗戦で捨てた『激昂心』を持っているため、呉で紀伊型戦艦『紀伊』が撃沈された際には『戦艦による報復』を望む世論が沸騰している。反応弾の保有はその選択肢のためである。
「上は極秘に無制限報復の研究に入った。扶桑の世論の沸騰に対応するためもある。日本人は忘れてるが、戦前の日本人は戦後の日本人と違うメンタルで動いてる。ましてや、扶桑は近世の頃から海洋大国だった自負があるんだ。根本が微妙に違うのさ」
黒江は軍人であるが、元々が古くからの武家の出身であるので、政治に一定の見識を持っている。そこも扶桑でウィッチ出身軍人では初の『将官の地位が約束された』理由である。
「お前、政治に詳しいな」
「親父が政治に興味あったらしくて、仕事の話を家族の前でもしてたんだよ。それをおふくろは嫌ってたが。親父なりに、ばあさんに負い目があったって、兄貴から聞いてる。上の兄貴も映画会社の重役になって、世事に敏感になったから、小学校ん時はそのおかげで人気者になれたけどな。記憶が完全に戻った後は親父の最後の夢を叶えてやるって事もあって、華族になる話を受けたのさ」
「そうか、お前の親父さんは男だった故に、おばあさんに負い目があった。だから、華族になりたがったのか」
「華族は扶桑じゃ、立身出世の最終段階だからな。親父は友人にも恵まれて、家柄もそこそこ良かったが、華族になれるほどの功はなかったし、妻であるおふくろは後世の言い方で言えば悪女であり、毒親。で、忘れた頃に生まれた俺を苦しめた。だから、親父はおふくろを黙らせる権威が欲しかったんだろう。俺が軍に入るのを喜んだのも、親父とばあさんだ。死ぬ前、ばあさんはひいばあさんから聞かされたっていう家訓を俺に言い遺した。ウィッチが出ない時は伝えないっていう不文律があったが、俺が覚醒したから伝わった。それで親父は俺に夢を託した。おふくろは押し付けるだけだったが、親父は違ってた。だから、親父と兄貴達の頼みは断れない。俺が政治に詳しくなった理由は家族が原因さ」
黒江は自嘲気味に家族のことを語る。母親には愛憎入り交じる感情がある事、親の願いを叶えるという意味での親孝行をすることで、家族への想いに区切りをつけたいと。それは黒江が潜在的にさみしがり屋である事の根幹でもあった。坂本は前世での無思慮さを恥じ、黒江に尽くしているわけだが、坂本は生まれ変わることで、『黒江という存在』を知ったわけで、ミーナ(人格変化前)が立ち入れないモノが二人の間にはあったのだ。
――のぞみは覚醒後はなし崩し的に『中島錦』の持っていたものを受け継いだ。本人としては不本意な部分も多かったが、持ち前の放っておけない性分、後輩たちが戦いに関わっている事、かつての思い人の存在もあり、中島錦の地位を受け継ぎ、正規軍人となった。ダイ・アナザー・デイ期は彼女が最古参のプリキュアであった事もあり、そのまま後輩たちを統率する立場に置かれた――
「ところでさ、のぞみ君。君はどういうふうに後輩たちに合流したのかい?」
「コスモ。なんか、キャラ違くない?」
「私も色々と役割が多くてねぇ。ファンサービスをいつでもできるわけではないのだよ」
キュアコスモはガラッと口調を変え、声のトーンも低めにする。まるで、後に現れるウマ娘の『アグネスタキオン』のような印象を受ける。この時はそう言ってごまかしているが、キュアコスモはアグネスタキオンと関係が本当にあった事が後日に判明するのである…。
「あたしは最初はみなみちゃんと会ってさ、それで、シャーリーが響で、芳佳がみゆきちゃんだって言うからさー」
「で、三人で久しぶりにトリオ組んで戦ってみたん事があるんだけどよ。その時はまだ、肉体がプリキュアの力に馴染みきってなくて、技のパワーが全盛期のそれより落ちてて、ハッピーシャワーとミュージックロンドじゃ、怪異を倒しきれなくてさ」
「それで、あたしとシャーリーで『パッショナート・ハーモニー』撃ったわけ。正直、ぶっつけ本番だったから、できて良かったよ。本来、プリキュアは作品跨いでの合体攻撃ってあまりないんだけど、即興にしては上手くいったと思う。奏ちゃん(南野奏。キュアリズムである)から、昔に冗談のつもりで、技の動作教わっておいたんのが役に立ったよ」
「あん時は驚いたぞ。お前の方から『パッショナート・ハーモニー』やるって言い出したしさ。で、宮藤をハブにしたのは?」
「芳佳……いや、みゆきちゃん、あんま音楽の成績良くないじゃん?」
「ま、あいつは現役時代、お前よりドジ踏んでたってのは認めるけど。お前も似たりよったりだろ、成績」
「ぶー!昔、お父さんからエアギター仕込まれた事あるから、絶対音感あるもんー!」
「あったのかよ!?」
驚くシャーリー。のぞみは世界線によってだが、エアギターができ、更に普段はまったく活用できていないが、絶対音感を持つ。更に、元々、スイートまでは同じパワーソースを持っていた都合もあり、キュアドリームはスイートプリキュアの技を覚醒初期の段階で撃てたわけだ。後に合体技はキュアグレースとも行うことになるため、彼女は新旧のプリキュアを繋ぐ役目を担わされたとも言える。
「ほう。それは興味深い。研究の対象になるかもしれないねぇ」
キュアコスモはマッドサイエンティストのような邪悪な微笑みを浮かべる。声色を変えている事もあり、まったく異なる印象を与える。
「お前、なんだよ、そのマッドサイエンティストじみてる台詞は」
「ふふふ、いずれわかると思うよ。いずれね」
「ヤロウ、焦らしやがって」
「君だって、キャラ崩れてるだろう?」
「るせー!」
キュアコスモは何か含めた物言いであった。
「でもさ、シャーリー。ミーナの件のガス抜きだよね、プリキュアの存在誇示は」
「政治判断だよ、政治判断。カールスラントは衰退するだろうし、多くの軍人がクビになるだろうが、その代わりになる存在が必要ってことさ。ハルトマン、お前とバルクホルンの日本連邦の永住権は?」
「来年か、再来年あたりに取れるはずだよ。44戦闘団とJG52の出身者たちには声をかけてる。これから、カールスラントはあたしらを冷遇するだろうから、日本連邦に家買ってある。これからは日本連邦に永住するよ」
バルクホルンとハルトマンは第44戦闘団と第第52戦闘航空団の出身者に声をかけ、日本連邦への移住を斡旋していた。戦前〜大戦初期に軍歴がある軍人をドイツ領邦連邦が閑職に回し、飼い殺しにするという噂が既に出回っており、祖国に愛想が尽きた将校や下士官たちは予備役編入願いを出した後に、相次いで日本連邦へ移住していく。そして、移住先で義勇兵として戦っていく。カールスラント政府がドイツ政府に猛抗議することになるのは、この時期から相次いだ『有力将校と下士官の離脱と移住』で、軍組織が機能不全を起こした上、内乱で統治すら危うくなるという事態に至り、NATO軍がそれを収めるものの、カールスラントはその時には警察と軍隊のみならず、国家そのものが機能不全状態に陥っており、NATO軍はやむなく皇室を保護下に置き、委任統治という形での軍政を敷かざるを得なかったという。
「これから、お前んとこは冬の時代だぜ」
「東西ドイツの対立が形を変えて表面化するだろうからね。かといって、うちの国は、緒戦でのガリアの醜態で民主共和制に決定的に嫌悪感を持ってるから、ドイツの思うような民主化は成功しない」
「ガリアとカールスラントの分まで、うちら(日本連邦)が軍事的負担をすることになるのかぁ」
「史実のアメリカが担うはずの役目を負わされるのさ、日本連邦は。リベリオン合衆国が事実上、ソ連邦と東西ドイツの役目を負うだろうから、太平洋戦争はこれから起こる東西冷戦時代の序章に過ぎない。ティターンズと日本は皮肉にも、史実と役者を変えただけの『同じような流れ』をこの世界にもたらしてしまったってわけだ」
「日本は気づいているのか?」
「そういうのは22世紀になって初めて、研究が進む分野だから、21世紀の存在である彼らに知る由はない。だけど、カンのいい者なら気づいていると思うよ。その罪悪感が扶桑に技術を流している。金属の冶金技術、質のいい紙の製造法、絶縁皮膜の質の向上、良質な潤滑油、燃料の製造法……。多分、史実より早い段階で高度経済成長期を迎えるかもしれない」
キュアコスモは未来を予見していた。扶桑はカールスラントやブリタニアからの導入に頼っていた『最先端の先進技術』の入手が容易になったことを背景に、高度経済成長期の到来を現実にせんとして、経済成長へひた走っていく。その過程で軍事を軽視する風潮も生まれるが、身近に危機が転がる世界であった都合、史実ほどの支持は得られずに終わるわけだ。扶桑は科学の急速な発展で、ウィッチ信仰の強さに陰りが生ずるが、他国のように『魔女狩り』には至らず、『安定して人数を確保できないものか』という風に思想が変遷していく。その一方で『絶対無敵』、『熱血最強』の象徴はウィッチの社会的地位の維持に必要なことから、43年頃までは『突然変異のははみ出し者』と忌み嫌っていたはずの『Gウィッチ』を掌を返すように優遇しだすのである…。
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