外伝その442『綱渡り6』
――ウィッチ世界のジョージ・パットンは炎上将軍というありがたくない渾名がついている。発言がいちいち炎上するからである。とはいえ、日本人の『一つのミスを鬼の首を取ったように叩く』気質には苦言を呈している。自身の史実のミスがまさにそれであるからだ。M26パーシングのことだが、パットン自身『戦車指揮官なら、戦車のことを知れ!!なんてのは後世の後知恵だ!運動戦さえ理解できればいいんだ』とぼやいている。彼自身が騎兵だったからだが、ダイ・アナザー・デイ当時においては立派なスキャンダルであった。M4中戦車の供給が止まり、南洋新島の工場は建設中であったことから、連合軍は保有する多くの車両を次善の策でイージエイト仕様にしていたり、高速徹甲弾を配備していたが、敵がM26やM36を相次いで投入していくと、一方的に蹂躙される戦闘が続出。パットンも自身の指揮車(ジープ)がM26の榴弾の爆風で横転し、実は死にかけている。投げ出されたところに、援護に駆けつけた米軍の『M1エイブラムス』戦車に救助されたことで戦車の性能格差の意味を実感するに至った。とはいえ、戦車は制空権がなければ、力を発揮できない。空軍の多くの部隊がサボタージュで有名無実の扱いであったダイ・アナザー・デイの大半の期間、制空権確保は友軍頼りというお涙頂戴の状況であった。ウィッチは『航空機一個中隊分以上の戦力である』とされたが、実際は対実弾防御のノウハウが失われていたため、想定外の損害を被るケースが大半であった――
――連合軍統合参謀本部――
「この部隊も後送か……」
「動ける人員も、多くがシェルショックで戦えん状態だ。陸戦はそこそも戦えているのに、空戦は64F頼りとはな」
「陸戦はまだいい。ストライカーさえ新型に変えれば、まだ渡り合える。空戦は物量差がありすぎる。64Fの超兵器、あるいは友軍の支援がなければ、我々はとうに欧州から逃げ出してるさ」
連合軍の将官達はこの頃、ウィッチ・ハンティングで続出する『ウィッチ部隊の後送』、『空戦部隊の数が圧倒的に足りない』という問題に頭を悩ませていた。報告される空戦関連の事柄の多くは『空戦ウィッチ部隊が戦闘の度に大ダメージを負う』というもの。友軍や義勇兵が勇戦するのに比べて、情けない有様だが、当時の空戦ウィッチは怪異対策で『実体弾用防弾板』をストライカーから外しており、それが裏目に出ていたわけだ。また、航空機相手には装甲の弱体化補正があるわけではないので、F6F、P-47のような『空飛ぶ重戦車』相手では、12.7ミリ機銃の初速アップは焼け石に水であった。ウィッチ用としては『反動が強すぎる』と嫌われ者であった『20ミリ機銃』が脚光を浴び、地球連邦軍による迅速な補給の実現もあり、急速に淘汰が進んでいる。
「場当たり的だが、20ミリ砲の配備は?」
「ウィッチ達からは『携行できる弾数が減る!!』と文句が来ているが、15ミリ以下の機銃では限界がある。マガジンを三つ使おうと、P-47という新型は落とせんそうだ」
P-47の『空を飛ぶトラック』という評判は伊達ではなく、パルスレーザーやミサイルなどの新兵器を除いた場合、バルカン砲、リボルバーカノンではない旧来式の航空機関砲では、マウザー砲を以てしても、至難の業である。ウィッチはコックピットを狙えない事が八割方なので、それも撃墜率の低下を招いていた。そのため、陸戦を担える『強力な戦車』は現場から渇望された。P-47を粉砕するには、旧来式の航空機関砲の場合、『できれば』30ミリ砲が必要なことが認識されているが、戦車の場合は生産工場と在庫の都合で、M4を被害率を顧みずに投入し、場しのぎしつつ、センチュリオンの本格配備を待った。
「30ミリ砲は嫌われてるが、ウィッチの武器としては最強級だ。使わせよう」
「しかし、爆撃機に高度12000を飛ばれては、現場の既存ストライカーでの迎撃は不可能だぞ。試作段階のものでもな」
「だからこそ、64Fにやってもらわなくてはならぬのだ。そうでなければ、司令部直属にした意義がない」
ダイ・アナザー・デイ後期に行われた作戦会議はそんな雰囲気のものの繰り返しであった。当時は新兵器の配備は生産工場の都合で進んでいない。現場のウィッチの多くは状況の変化でサボタージュを解き始めていたが、その頃には、敵新兵器や超人に部隊ごと蹂躙されることが常態化。役立たずの烙印を押されつつあった。64Fに陸海空の突撃任務をやらせざるを得ないのは、他部隊が消耗戦で悲鳴をあげていることも理由だ。義勇兵の奮戦、一部の高練度兵らの獅子奮迅の働きは清涼剤であるが、戦況への影響は少ないからだ。そんな時期からプロパガンダにされだしたのが、歴代プリキュアと歴代ヒーロー達の活躍であった。国連の関連組織の実働部隊でもあった『太陽戦隊サンバルカン』、『ジャッカー電撃隊』、『秘密戦隊ゴレンジャー』、『電撃戦隊チェンジマン』などは特に重宝された。
「彼らは?」
「綻びの生じた戦線をカバーすべく、各地に散ってくれている。おかげで、各戦線から熟練者を引き抜ける」
「よし、実行しよう」
当時、ヒーロー達の獅子奮迅の活躍は既に衆目の知るところであった。また、小康状態になっていた各地から熟練者を激戦地に引き抜くことは連合軍全体で推進される。新規志願の数が扶桑などで大規模には望めなくなったからだ。更に、日本人の行う反戦運動で世間的に軍人が嫌われ者になり始めていたため、『熟練者におんぶにだっこ』な状態になっていく。日本人にはそれで良かったかも知れないが、扶桑軍にとっては長期的観点から困るのである。日本人の世論や政治家の思考は『扶桑軍を押さえつけよう!』とする論調が強く、それが扶桑の全軍を挙げての作戦行動を政治的に困難としてしまう。次の太平洋戦争で日本連邦はそれに長らく苦しむ羽目となり、それが加速度的に扶桑の兵器を発達させ、1949年度には『航空雷撃』が『ミサイル攻撃』にほとんど取って代わられるに至る。既存の航空魚雷の在庫処分の意図もあり、工廠にあった航空魚雷は『技術資料』にされた少数本以外はこの戦いで消耗される。また、零式と一式戦もこの時に一線にあった型式の殆どが消耗し、翌々年に第一線から最後の機が引退する。ウィッチ世界の小国からすれば、『時速550キロ級の単発機』は充分に高性能であったため、小国は輸出を望んだが、日本連邦は『タイトな機体なので、他国の手に余る』という名目で輸出をしなかった。その結果、大国と小国の軍事格差は(日本の政治家が最新の軍事技術を門外不出にしようとした事もあって)ますます増し、連合軍から離脱する国も出始める。大国もその大半が消耗しきっていた1945年以降、日本連邦は超大国へと変貌を始めるのである。日本人の誤算は『欧州が例外なく消耗し、アメリカ相当の国家が敵国になれば、比較的に国力と軍事力が健在であった自分達が代わりにされる』のは当然の流れであるが、それを理解できる者が少なすぎた事だった。
――連合軍は通常兵器の補充が在庫の観点から困難になりつつあった。カールスラントの兵器は独自規格が多すぎるとされたが、要望も強かったため、部隊から引き上げられた装備(当時としては、強力な部類に入る)が惜しげなく放出された。扶桑軍の機甲部隊がごった煮になった理由である。ただし、高練度の部隊にしか供給されない事もあって、結局、戦線は『少数の超兵器』頼りであったのが、軍としての実情であった――
――連合艦隊司令部は当時、空母部隊の護衛艦隊、水雷戦隊旗艦ということで整備途上にあった超甲巡の存在意義の確定に苦心していた。同艦級はM動乱の戦訓で復活した水雷戦隊の旗艦、あるいは空母の護衛、甲巡の枠に収まらない『巡洋艦』として復活し、ダイ・アナザー・デイ中に第一ロットの四隻が就役している。だが、日本側は『31cm砲は帯に短し襷に長しである。36cm砲に強化し、完全に戦艦にすべし』と強行に主張した。とはいえ、新式31cm砲は射程以外の全ての性能で旧式技術での36cm砲を超えていたし、速射は砲身命数の問題があるので、敵もあまり行わない実情もあった。その兼ね合いもあり、結局、31cm砲の長砲身化で落ち着く。重量砲弾も導入され、旧式化していく巡洋艦を置き換えていく。ダイ・アナザー・デイ中に姿を見せた同艦級はその後、何かと軍事雑誌を賑やかす存在となる。戦艦に準ずる大きさの巡洋艦。その意義はウィッチ世界で問われていく――
――海で連合軍が優位にあった一因は艦娘の存在で、実艦同様の火力を『人間サイズで行使できる』というのは、艦艇には脅威そのもの。特に長門、陸奥や大和、武蔵は第一線級の火力を持っていたため、ほとんど無敵であった。特に未来世界による艤装の改善、艦娘達のうちの少数に発現した『宇宙戦艦としての後継艦の能力』、21世紀世界の骨川貿易(23世紀における骨川コンツェルンの中核かつ、発祥にあたる貿易企業。スネ夫がそのCEOの地位にあった時期の多くは不況の時代であり、2021年時点では、疫病の影響で貿易業も打撃を受けているが、スネ夫はその辣腕で乗り切りつつある)の尽力が大きく関係していた――
――ある日――
「大淀、物資の搬入はどうか」
「骨川貿易よりレーションの搬入があります。これで、陸の将兵らの腹の安全は守られました」
連合艦隊旗艦の経験もある軽巡洋艦娘『大淀』。この時期からは艦娘が表舞台に立ったため、連合軍の高級幕僚という形で勤務している。傍らにいるのは、当時の連合艦隊参謀長である『矢野志加三』中将である。
「日本め。民間からの無闇な徴用や徴発を戒めたいのはわかるが、戦時に、平時の理屈を持ってこられても困るというのに」
「仕方ありません。すべてを犠牲にしても、退き際を誤り、無残に負けたのが、彼らの過去ですからね」
日本は扶桑の戦時動員法令を次々と停止させた。しかしながら、ウィッチ世界は世界的に戦時である。眼前にティターンズという敵がいるというのに、戦線の将兵を切り捨てるのかという扶桑軍からの批判に耐えかね、仕方がなく、動員工の労働環境の改善、きちんとした雇用契約の締結、生産ラインの自動化促進補助などの施策を扶桑に行わせ、21世紀水準の工作機械、指導工員の派遣などを見返りとして与えた。もちろん、すぐには効果は出ない施策である。さらに、戦時動員の解除で軍への食料品供給体制が崩れた扶桑軍は『食料品の提供を頼む!!』と懇願。日本側はこの要請に『兵隊には、白米でも食わせておけ!!』とする辛辣な意見が左派から続出したが、防衛省とレーションを手掛ける企業は政治的コネクションで政府を動かし、扶桑へレーション(戦闘糧食)を搬入していった。その仲立ちを担当したのが、双方の軍(扶桑軍、自衛隊)に強いコネクションを持つ骨川貿易であった。
「日本の政治屋はどうも好かんよ。票取りのために、その場の思いつきで口出ししおるからな」
「それが民主・資本主義の世の中ですよ、中将」
「君に言われると、形無しだよ」
連合艦隊にとっても、食料品は重要物資。特に甘味類は兵たちの士気の拠り所。それで名を馳せる給料艦・間宮などは最高の護衛がつけられるほどの優遇ぶりだ。この頃においても、給料艦・間宮は第一線で獅子奮迅の働きで、連合軍に食料品を運んでいた。当時の連合軍としても、貴重な種別の艦であるため、1945年当時には艦齢が20年を超える『老朽艦』であったが、代替艦の建造がダイ・アナザー・デイ後にずれ込む見込みであった事から、第一線の補給線を担い続けることになった。(ちなみに、間宮は太平洋戦争で、その名を継ぐ二代目が竣工したのと同時に退役し、博物館船になったという)この頃は連合艦隊全体の世代交代期の始めであったので、間宮の代艦はすぐさま検討されたが、潜水艦の改装などの緊急の改装などでドックは満杯。結局、全てが整うのは1950年以後であった。
「港に搬入された戦闘糧食は、ミデアで各地に運ぶように」
「ええ。欧州の連合軍の生命線ですからね」
戦闘糧食は激戦地の部隊で食されているが、日本人(扶桑人)の口に合わないものも多かった。日本の戦闘糧食は扶桑からの羨望の的で、その供給が優先的にされる部隊はエリート部隊であるという認識が出来上がりつつある。大淀はそんな空気を憂いていたが、日本の政治的事情で『尖った部隊を数個育成し、前線で使い倒す』案が推進され、結果的にエリート部隊と一般部隊の格差が確定していく。そこの面で、ジオンの源流とされるのである。
――綱渡り作戦の直前――
「飯は食える時に食っとけ。ステーキを食いそこねて出撃して、帰ってこなかった話は有名だからな」
黒江は作戦実行前、突入メンバーに訓示を行った。腹が減っては戦はできないからだ。
「先輩、今回はどれで出るんです?」
「奇襲の関係で、コスモタイガーになる。新コスモタイガーなら、宇宙からの垂直急降下にも耐えられるからな」
「強行着陸するからですか?」
「白色彗星帝国の時にヤマトが使っているからな。それで司令部が思いついたそうだ。敵空母に強行着艦した後はとにかく暴れまわれ。敵に超人がいたら、そいつもぶちのめせ。なんとしてもだ」
「かなり無茶ですね」
「ヤマトはそれをやってのけた。彼らにできて、俺達にやれんはずはない」
宇宙戦艦ヤマトは白色彗星帝国との戦争の際、戦没は免れたが、初代クルーの八割方が戦死を遂げている。ヤマトの行った戦闘には、このような投機的なケースも多い。すごいのは、ヤマトは対峙した敵を滅ぼしてきた点だろう。
「作戦はこうだ。味方の空母で敵空母の直上の衛星軌道に上がり、そこから垂直降下。攻撃で艦載機用エレベーターや武装を潰して、強行着陸する。それで敵将兵をぶちのめす。この作戦は、うちの試金石と見なされてるからな、とにかくやるぞ」
選抜された突入メンバーはプリキュアからは数人(フェリーチェ、メロディ、ドリームの三人)、のび太、ドラえもんだった。ウィッチからは菅野、黒田である。のび太は『名剣電光丸』、『ころばし屋』、ドラえもんは『スーパー手袋』と『ひらりマント』を持つ。基本的に殴り込みに強い面々が選ばれたわけだが、頭脳担当が黒田とドラえもんというのに一抹の不安があった武子は、ジャッカー電撃隊の行動隊長『番場壮吉』に支援を要請。番場壮吉はすぐに、ジャッカー電撃隊を率いての支援を確約した。
――その頃、ゴルゴ13はというと……。
「Mr.ゴルゴ。君ほどの男がなぜ、日本に与するのか?」
「俺はたった一人の軍隊だ……。……それに……今回は『過去に俺が救われた者』からの依頼なのでな」
ややあって、銃声が鳴り響く。依頼がどういうものかを示唆してから、撃ち抜くというのは、彼なりの慈悲であった。ゴルゴは明らかに活動期間におかしいところが多いため、21世紀の彼が冷戦時代の彼自身と本当に同一人物なのかは、後世から疑問視されていた。本当のところ、ゴルゴ13は21世紀には、冷戦時代に活動していた彼自身の記憶と能力を継承したクローン人間が(組織の技術によるもの)その座を継承している。彼の容姿が50代以上のものにならないのは、そういう裏のからくりがあり、その補助に野比家が加わっているのである。時たま饒舌になったりするのは、クローン体の時々による肉体年齢によるものであった。
「滅んだ軍隊による後世への抵抗、か……」
ゴルゴ自身、ナチス残党と事実上の宿敵といえる関係にあったため、軍隊の残党による後世への抵抗には思うところがあるようだ。(ちなみに、彼へんぽ依頼そのものが記録に残されずに闇に葬られた案件もある。80年代後半ごろ、英国の獣医師が日本の有力馬を投薬で再起不能にし、その後にイギリスのダービーで友人の馬を勝たせようとしたという。当時に好景気に湧く日本との関係悪化を恐れた英国王室の意向で闇に葬られた)ゴルゴは依頼を確実に遂行していくが、依頼主が少なくとも、ゴルゴの恩人の一人である事はわかる。その依頼主が彼に課したミッションとは?のび太らをなぜ助けているのか?謎が示される形であった。
――ティターンズもM26重戦車、M36戦車駆逐車を戦線に本格投入。連合軍の機甲部隊を蹂躙し、戦線の一角を突破した。同戦域にはティーガー重戦車が配置されていたが、それを仮想敵として設計された後発車両により、あえなく倒されてしまった。連合軍の機甲部隊の主力の多くはM4からの機材更新中であり、すぐには動けなかった。そこで足止めのために、彼らの後方を叩くため、地球連邦空軍の重MS大隊が敵の後方の陣地を蹂躙し返した――
――戦線――
「後退、後退ーーー!!」
第二次世界大戦水準の野砲、高射砲などの攻撃をものともせず、地球連邦空軍の重MS大隊は敵を蹂躙する。目的は敵の進出してきた機甲部隊の背後を突くこと。第二次世界大戦水準の軍隊にとって、MSは大怪獣も同然。23世紀のジオン軍残党が『ジークフリート』と呼び、その名が定着したダブルゼータの派生機は当初の仮想敵であるティターンズの走狗相手に威力を見せつけていた。ほとんど怪獣映画かなにかのようだが、戦線を維持するためには多少のズルはやむを得ないのである。
「これ、いいのかな」
「いいんだにゃ。敵だって、南斗聖拳や北斗琉拳を控えさせてんだから。こっちだって、チートは必要なんだって」
キュアコスモは観測役のため、キュアラブリーと共に帯同していた。あまりに一方的な光景な、なんとなく気まずいらしいキュアラブリーに、コスモはサラッという。
「あ〜、大淀?こっちは順調。長時間の支援砲撃の必要はなさそう。敵は遁走を始めた。伊勢と日向には悪いけど、テキトーに応力射して、三式弾を使わせてから、帰投させて」
キュアコスモは64Fの参謀的ポジションにいるためか、艦娘の艦隊にも顔が利くようだ。また、伊勢型姉妹を地上戦に駆り出させ、火力支援に用いているらしいなど、意外に綿密な作戦を練っている。火力重視のドクトリンはプラウダ高校がよく用いるものなので、それが基になっている面はあった。
「でもさ、相手がプロペラ機なのに、こっちは宇宙戦闘機?」
「普通のジェット機は対多数戦は無理だしね。セイバーフィッシュでも、オーバーキルなくらいだよ」
「でもさ、なんで宇宙用の装備をつけたままなの?」
「高高度でも自由に動くためさ。宇宙と大気圏の境界上まで行けるっていう触れ込みだしね。それに、対多数戦を見込んでの初めての戦闘機だもの。黎明期の宇宙戦闘機としては、すごくいいものだよ」
セイバーフィッシュは義勇兵の操縦で、かなりの空中戦の戦果を挙げていた。宇宙戦闘機といっても、コスモ・ゼロ以降のような『深宇宙での運用』は想定されていないが、実際の運用では、セイバーフィッシュくらいの性能でも必要充分であった。特に、21世紀の現用機と違い、多数撃ちを想定したミサイルランチャーは好評であった。熱核タービン搭載型であれば、化学燃料ロケット式より遥かに扱いやすい。セイバーフィッシュは新鋭機であった一年戦争よりも、その後の時代の運用で評価された稀有な戦闘機となったわけだ。
「さて、仕事だよ」
「仕事残ってる?」
「まー、戦闘以外だよ。戦闘はもう大勢は決してるからね」
「でもさ、どこで見つけてきたの?あのユニコーンのエンブレム」
「古いマンガにゃ。1980年代前半くらいの。のび太が文庫と復刻版で全巻持っててね。ドラえもんがタケコに推薦したんだにゃ。」
「その辺の漫画は読んでないなぁ」
「今度、見てみたらいいよ。時間はたっぷりあるんだし」
64Fのシンボル『炎の鬣の一角獣』。それを推薦したのが、のび太とドラえもんである事を教えるキュアコスモ。すっかり縁の下の力持ちが板についていたが、その理由は、ある人物とのつながりがあるからでもある。その人物の名を、基地の執務室にいるルーデルは知っているようだった。それは自分の同位体である『破天荒が服を着ている』ような存在のためであり、この頃から、ルーデルは同位体と感応していた事がわかる。有能な軍人ながら、ウォーモンガーな気質の彼女と共通する点のある同位体。それは……。
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