俺の始めてのKMFでの実戦であるあの模擬戦から今日で早くも2週間が過ぎた。

あの日から俺の生活は激変・・・することはなく、変わる事のない訓練生としての日常が続いていた。

そう、今日の朝までは・・・

事の起こりは教官から流された放送。

「訓練生は全員ただちに第一訓練場に集合」

この指示が出て、俺たち訓練生は駆け足で第一訓練場へと向かう。

この放送では具体的な内容が話されていなかったので、俺たち訓練生は訳も解らぬまま訓練場に集まった。

訓練生全員が第一訓練場に集まって十分ほどすると、どこか見た事のある顔が二つ。背の高い金髪・美形の男が一人と、携帯をいじりながら暇そうにしている、へそだしスタイルのピンク色の髪の女の子が一人、教官の後についてやってきた。

その二人の登場に、訓練生は戸惑ったようにざわめく。

それは俺も同様だが、戸惑う理由が違う。

周りは見も知らぬ二人のために集められたこと、だが俺にとってはこの二人は知っている存在、もっと言えばこの国の中核を担う存在となる二人なのだ。

まさかとは思ったがもう一度二人の姿を確認して確信する。

やはりあの二人なのだろう。

「諸君、このたび本国の各地にある3ヵ所の士官学校から、各1人づつ推薦し、有望なものをこの帝都ペンドラゴン士官学校に集め、その3人で1つの小隊を作り、徹底的なエリート教育を行うことを皇帝陛下から承った」

これも超実力主義であるブリタニア帝国の方針の一つなのか?

周りの生徒は「誰が選ばれるか」とか現在上位のやつは「俺に決まってる」とか言っている。

さらに前にいる二人が他校から選ばれた二人であると気づいたのか、ある者は金髪の男を見ながら「あいつかなりの美系だな」とか「どんなやつだろうな」とか、「ウホ、かわいがりのありそうないい男」など言っていて、

ピンク髪の子のほうを見ている者は、「あんな子がナイトメア・フレームに乗れるのか?」とか「なんだあのいけない格好は、俺を挑発しているのか、へそだし萌え〜、ハァハァ」など言ってる。

だがそれぞれ最後の発言をしたやつら、誰だ?

前の2人も身の危険を感じたのか、ビクッと体を震わし、周りをきょろきょろと見回している。

俺も変なやつが近づかないように心がけようと心に誓った。

教官が一言「うるさい! 静かにしろ! 」と注意すると何とか静かになった。

「まずこの2人に挨拶してもらう」

すると、金髪の男が先に前に出てくる。

「私の名前はジノ・ヴァインベルグです、よろしくお願いします」

ジノがそう挨拶をすると、ピンク髪の女の子が続けて前に出てくる。

「アーニャ・アールストレイム、よろしく」

そう挨拶すると、俺たちに携帯をむけカメラで撮影すると、満足そうにもとの位置に戻って行った。

アーニャは確か取った写真をブログに載せたりしているので、この光景も載せたりするのだろうか? というか教官もなんで怒らないのか?

そんな事を考えていると、再び教官が前に出てきた。

「それでは我が校から推薦するものを発表する」

教官の言葉を聞き取ろうと、周りの訓練生は一斉に耳を立て息を飲んだ。

その中で俺も少なからず緊張している。

「我が校からの推薦者は・・・レイス・リンテンドだ」

俺は俺が選ばれた事に少なからずショックを受けた。

たしかにこの前の模擬戦でジャックに勝ち、2位の奴は負けたので俺が1位になっている。

だから選ばれたんだろう。

しかしそんな小隊に入ってしまえば、訓練はより厳しくなり、卒業したら絶対に危険な所にしか投入されないに違いない。

そんな死亡フラグがたくさん立ちそうなところに入りたくなどない。

周りのやつらは「俺の方が良いに決まっている! 」などといっているが、変われるもんなら変わりたい。

「この決定に変更はない、もし文句を言ったら皇帝陛下に対する暴言として不敬罪になるぞ」

この一言で先ほどまで煩かったやつらも一斉に黙ってしまう。

もし仮に俺がこの決定を拒否しようものなら、国家反逆罪で捕まってしまうだろう。

俺は逃げ道などなく、この決定に従うしかなかった。

「では本日はこれで解散し、30分後から訓練を開始する。リンテンドはこの場に残りこの2人に自己紹介でもして、この学校の中を案内してやれ。それが終わったらミーティングルームに集合だ。大体2時間後にはミーティングを始めたいからそれまでに案内を終わらせておけ」

「わかりました」と返事をして後のナイトオブラウンズとなる2人の方に近づいて行くことにする。

とりあえず集まった俺たち三人は改めて自己紹介しなおす事にした。

「はじめまして。北部仕官学校から来たジノ・ヴァインベルグです。歳は14歳でヴァインベルグ家の四男です。気軽にジノと読んでくれるとありがたい。ナイトメア・フレームは高機動戦で相手を叩き離脱するヒットアンドアウェイ的な戦いが得意です」


"ジノ・ヴァインベルグ"

彼は軍事帝国ブリタニアの最強の騎士ナイトオブラウンズのナンバー3であり、皇帝陛下直属の部下で、軍事におけるトップの1人といっても過言ではない。

現在の時点でも170cmも身長があり十分長身だ。

確かジノがR2のときに乗っていたKMF"トリスタン"はその速度を生かした一撃離脱を得意とした可変型のKMFだったな。

ナイトメアモードのときはあの鶴嘴のようなMVSで敵の機体を切り裂いていたし、フォートレスモードのときはハーケンやハドロン砲を用いた高速戦闘なので、近・中距離的な高機動戦闘が得意なんだろう。


変形するロボットは俺も大好きだったので"トリスタン"は俺のお気に入りだったロボットの一つだ。

ジノが一通り自己紹介を終えたようなので、アーニャの方を見てどちらが先に自己紹介するか確認しようとしたら先に自己紹介すると合図が来たので、次はアーニャの番となった。

「南部士官学校から来たアーニャ・アールストレイム。12歳、射撃が得意。アーニャでいい」


"アーニャ・アールストレイム"

彼女もナイトオブラウンズの1人でナンバーは6。

最年少でラウンズ入りを果たした天才。

彼女の乗っていたKMF"モルドレッド"は全身に装備されたミサイルと両肩に装備されたシュタルクハドロンを使う超砲戦向けのKMF。

またブレイズルミナスを装備しているので防御力も高くまさに"動く砲台"だ。

その仕様には夢とロマンを感じてしまうのは俺だけではないはず。


アーニャも自己紹介を終えたのでようやく俺の番がまわってきた。

「はじめまして、ジノ、アーニャ。ついさっきこの学校の代表として紹介された、レイス・リンテンドです。15歳で、近接戦が一番得意だけど、一応オールレンジで戦う事ができると思う。1番年上だけど敬語なんて使わなくていい、レイと読んでくれればいいよ」

以前の俺ならば近接戦しか無理だが、今の俺ならオールレンジに対応することが出来る。

と言うかこの二人と組むなら俺のポジションは必然的に中衛となってしまうから出来なければならない。

「じゃあレイ、早速この学校の中案内してくれよ! アーニャも行こうぜ」

「わかったけどそんなに急ぐな、時間もあるしゆっくり行こう。ほら、アーニャもおいで」

ジノは新しく来たこの学校の中がどんなものか早く見たいのか、親にせがむ子どものように俺の服の袖をひっぱってくる。

アーニャも俺たちのあとを黙ってついて来ている。

中庭や屋上に連れて行くと、アーニャが携帯で写真を撮っている。

「アーニャは写真を撮るのが好きなのかい?」

俺がそう聞くと、アーニャは黙って首を縦に振った。

今も携帯を弄っているが、こちらにも一定の注意を払ってくれているのはありがたい。

無視されてないだけまだこちらも傷つかない。

「じゃあ俺たちがここに集まって小隊を組む事になった記念に、1枚写真を撮ろうぜ」

そうジノが提案してきたのでみんなで屋上で記念撮影をした。

俺とジノが両サイドに立ち、アーニャを真ん中にして写真を撮ったが、ジノがアーニャの頭に手を乗せると、アーニャは鬱陶しそうに手を払うという光景が何回か続いたので、おれがジノにもう止めてやるように注意すると、ジノも止めてアーニャも小さい声で「ありがとう」とお礼を言ってくれた。

次に訓練室に連れて行くと、さすがにこの2人も目が変わり、訓練を見ながら褒めたり、ダメ出しをして自分なりの評価をつけていた。(アーニャは口にはしてないので予想ではあるが)

「レイ、お前から見てここのレベルはどうなんだ?」

ジノは興味津々と行った表情でこの訓練校のレベルを知りたがる。

アーニャもこの話題には興味があるのか、携帯から目をこちらに向けている。

「う〜ん、みんな腕はあるけど、戦場で絶対的なエースとなれるようなやつはいないな。普通より少し万能な兵士といったところかな」

「まあそんなもんか」

俺の答えにジノは少し残念そうに嘆き、アーニャも興味を失なったのか、携帯に視線を戻した。

その後、保健室や資料室を案内した後、現在の時刻は12時前でミーティングまでまだ40分近く残っていたので食堂に向かい昼食を取る事にした。

「なあレイ、ここの食堂で一番おいしいものってなんだ?」

ここに着くころにはジノとは完全に打ち解けた、今は俺の肩に手を回しながら食堂のメニューを見渡している。

アーニャとはまだ距離を感じるが、少なくとも嫌われていると言うことはないだろう・・・たぶん。

「基本的に何でも食べられるくらいの味は保障できるけど一つだけ頼まないほうがいい物がある」

俺の言葉にいっそう興味が増したのだろう、ジノは楽しそうな表情を見せる。

「なんだそれ?そんなにまずいのか?」

笑いながらそう尋ねるジノは、まるで新しいおもちゃを前にする子供のようだ。

「あの飲み物を頼んでいるやつを見たことないが、俺は絶対に頼みたくないし、飲みたくもない。お前も絶対頼まないほうがいいぞ」

何故メニューにのっているのかさえ謎であるそのメニュー。

恐らくは教官がごり押したのだろう。

「絶対と言われると余計に気になるな、よし俺はラーメン大盛りとそいつにするぜ」

勇者がここに存在した、俺は心の中でこの勇者に冥福を祈る。

「ジノ、俺は止めておけと言ったからな。アーニャは何にする?」

俺は勇者、もといジノに最後の忠告を送ると、アーニャにもメニューを尋ねる。

「サンドイッチとミルクティー」

メニューも見ずにそう答えるアーニャ、恐らくは何処にでもあるメニューという事で選択したのだろう。

アーニャの注文も聞いたので、俺が自分の分のカレーも合わせて食堂のおばちゃんに伝えると、10分後にはみんなの分のメニューがそろった。

ちなみに注文した時おばちゃんに珍獣でも見るかのような視線を向けられたのは、ここだけの記憶として留めておこう。

(ちなみにこの学校では食費は学校に払う授業料で一部が賄われ、残りは国の税金で支払ってくれるなんともありがたいシステムだ。)

俺とアーニャの前にはそれぞれカレー、サンドイッチとミルクティーが置かれ、ジノの前にはラーメンと水のようなもの(・・・・・・・)が置かれた。

「なんだよレイ、ただの水じゃないか、あんまり驚かすなよ」

ジノは油断した表情で目の前の液体を揺らしながら、俺に文句をつけてくる。

ジノの目の前に置かれた水、通称"気合ジュース"

これは以前、催眠ジュースと言ったが本当はそれだけではない。

あれを見た覚えが5回ほどあるが、毎回色が変わり、味も効果も毎回違う。

ただし一度だけ無色の物を見た事があるがあれを飲んだやつらは悲惨だった。

「ジノ、ここから一番近いトイレはあっちだ。あともしもの時のためにこれを持って行け」

そう行って俺は事前に用意してもらったビニール袋を手渡す。

「大げさだって」

困ったように苦笑いを浮かべながら、それでも俺の手からビニール袋を受け取る。

「人の忠告を聞かないとこれから起こるような事になるからな」

俺がアーニャの耳元でそう言うと、アーニャも首をかしげながらも頷いた。

それから各々が頼んだメニューを食べはじめる。

俺とジノは男と言うこともありややハイペースで、アーニャは見た目から想像した通りゆっくりと食べている。

少し驚いたことは、ここのメニューは多くが男の訓練生と言うことでメニューは基本的に通常より大盛りで出される。そのメニューをアーニャは残すことなく食べきったということだろう。

軍人は食べられる時に食べるということが必要とされる、ゆえにアーニャもその術を覚えたのだろう。

ラーメンを食べ終えたジノは、何の警戒心も見せずに残されていたあのジュースを飲み込む。

「・・・なんだ、美味いじゃないか」

脅かすなよ、そう言うジノはケタケタと笑っている。

しかし見る見るうちに顔色が悪くなり、遂には俺が渡したビニール袋片手に、先ほど教えておいたトイレへと駆けて行った。

アーニャはジノの突然の豹変に目を丸くして、俺に理由をたずねてきた。

アーニャに"気合ジュース"について説明すると、少し顔を青くしながら、小さな声でお礼を言ってきた。

ミーティングに向かう5分前に戻ってきたジノはまだ気持ち悪いのか顔色が悪い。

俺達の元に戻ってきたジノは、目に涙を浮かべながら忠告を聞かなかったことを謝ってきた。

そんなにひどい味だったのか?トラウマになってなければいいが。

ジノはこんな状態だが、遅れるわけにはいかないので、ジノの肩を支えながら、俺たち3人はミーティングルームへと向かった。



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