目の前には、跪く俺を見下ろすブリタニア帝国の98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア。
さすが世界の三分の一を支配する超大国の皇帝というべきか、目の前に跪く俺たちはおろか、周りでこの様子を見守る来賓者たちをも圧倒するオーラが感じさせる。
転生する前は皇帝(笑)としか思っていなかったが、実際に目の前にするとまるで笑い事にならない。
そしてこの式典を見守るために、ブリタニアの皇子、皇女、さらにはブリタニアでも名のある貴族たちの当主とその婦人がずらりと参列している。
また、この光景はブリタニアの国営放送を通じてブリタニア国内はもちろん、世界中に放送されている。
ブリタニア国内には新たなラウンズの誕生を祝い、また国外にはブリタニア軍の脅威を世界中に知らしめるために。
「レイス・リンテンド」
跪く三人のうち、まず俺の名が告げられる。
「は!」
名を呼ばれた俺は立ち上がり、皇帝の目の前まで移動すると、再び膝を付く。
俺が今身に纏っている服装は昨日まで袖を通していたブリタニア軍の軍服ではなく、ナイトオブラウンズにのみ着用を許された白き軍服である。
ラウンズに任命されるに当たり、俺たちは今日この式典のときからこの軍服の着用を許されたのだ。
皇帝はほんのわずかな時間、黙って俺を見つめる。
「レイス・リンテンド 汝、ここに騎士の制約を立て、わがブリタニアの騎士として戦うことを願うか」
「Yes, Your Majesty」
「汝、我欲を捨て、我がブリタニアに栄光をもたらすことを誓うか」
「Yes, Your Majesty」
腰に携えていた剣を抜き、己に刃を向けて構える。
皇帝は剣を取り、俺の右肩を、そして次に左肩を一度づつ打つ。
「レイス・リンテンド。今この時より汝をナイトオブファイブと認める」
皇帝のその言葉に、俺は立ち上がる。
2人の男性が手にあるものを乗せたトレイを持って、俺に近づいてくる。
1人がそのトレイからそのあるもの、赤いマントを取り上げると俺の身体に取り付ける。
マントを取りつけ終わると、その二人は静かに持ち場へと下がる。
俺はその姿を参列者に堂々と見せつける、これが新たなラウンズの姿であると見せつけるように。
その光景を見て、参列者たちは新たなラウンズの誕生を喜ぶように拍手喝采した。
はじめは軍人としてやっていけるのか、そんな不安ばかりだった。
だが今こうして多くの人々に認められるようになった。
始まりこそ唐突な第二の人生だったが、今は大事な仲間とともに楽しく生きていこう。
そんなことを考えている俺自身だった。
俺はまだ儀式の済んでいないジノとアーニャの方に目を向ける。
ジノは周りには見えないように、小さく親指を上に向ける。
その様子に俺は笑顔を向けるとジノもうれしそうに笑い返す。
アーニャも表情こそ普段と変わらないが、俺の方をじっと見つめながら拍手を続けている。
こちらの視線に気づいたのか、少し頬を赤く染めるのは照れているのだろうか?
やがて拍手が鳴りやむと、俺は皇帝の後ろに控えるように並んでいる他のラウンズたちの列に加わる。
そして残るジノとアーニャも同様に儀式を済ませると、二人もこの列に加わる。
こうして新たに3人のラウンズを加え、儀式は終了となるのだった。
「ダールトン将軍! お久しぶりです」
「おぉ、これはラウンズの皆さん、お久しぶりです」
式典も終わり、俺たちはふとかつての恩師を見つけたので声をかける、だが帰ってきた返事は予想外のものだった。
「やめてくださいよ、俺たちに敬語なんて。今は勤務中ではないので普通に話しましょうよ」
ジノがそう声をかけるが、ダールトン将軍は渋い表情を見せる。
「しかし「なんなら命令しましょうか?」うっ、わかった。久しぶりだなお前たち。お前たちの活躍は私の所にも報告が来ていたぞ。報告を受けて、私も鼻が高かったぞ」
その言葉を受け、ダールトン将軍も以前と変わらぬ話し方に戻る。
そう話すダールトンは本当に自分のことのように、俺たちの昇進を喜んでいるようだ。
「いえ、今の俺やレイやアーニャがこうしてラウンズになれたのは、ダールトン将軍の特別訓練やエニアグラム卿が俺たちを上手く使ってくれたおかげであると思っています。だから本当に感謝しているんです」
「私も感謝しています、ありがとうございました」
「俺も感謝しています、ところでダールトン将軍今回はなぜ本国に? まさか俺たちの為だけに来てくれたのですか?」
感謝の言葉を伝えながら、ジノは将軍にそう尋ねる。
確かに将軍は第二皇女、コーネリア殿下につき従って各地の戦場を飛び回っているはずだった。
「あぁ、先日エリア14の抵抗活動の鎮圧が終わったので本国に戻っていたのだ。それに今日はお前たちの晴れ舞台だからな」
「そうですか、わざわざありがとうございます。将軍は何時まで本国にいられるのでしょうか?」
その問いかけに、将軍はあごに手を当て少し考える。
「私たちも本国に戻ってきたばかりだからな、次の命令が出るまであと2週間はあるだろう」
2週間ということは時間にもそれなりに余裕があるのだろう。
「じゃあダールトン将軍、約束通り将軍のおごりで食事に行きましょうよ。まさか忘れたとは言わせませんよ」
「大丈夫だ、しっかり覚えている。日にちはお前たちに合わせるから、決まったら連絡してくれ」
ジノの提案に、将軍は笑いながらそう答える。
その様子は訓練のときには感じられなかったもので、この人は軍務についている時とは厳格な人物だが、普段はとてもいい人なんだろうと思わせる。
「了解、覚悟しててくださいよ将軍。絶対に後悔させて見せますから」
「わかった、楽しみにしておく」
ジノとダールトン将軍のやり取りに、当人たちはもちろん俺も笑いをこらえきれず大声で笑うのだった。
その後もダールトン将軍と話していると、俺たちの元へ2人の女性が近づいて来た。
「ダールトン、そいつらがお前が指導してラウンズとなった者たちか?」
将軍に対して上から声をかけられる人物はそういない、つまりこの人物は将軍よりも身分が上であるということである。
「おぉ、姫様。紹介します、左からジノ・ヴァインベルグ、レイス・リンテンド、アーニャ・アールストレイムです」
「そうか、私はコーネリア・リ・ブリタニアだ。お前たちの事はダールトンから聞いてる」
「はじめまして、殿下。レイス・リンテンドです」
「はじめまして、ジノ・ヴァインベルグです」
「はじめまして、アーニャ・アールストレイムです」
コーネリアに対し、俺たちは姿勢を直すとそう挨拶する。
"コーネリア・リ・ブリタニア"
神聖ブリタニア帝国第2皇女で、クロヴィスが亡くなったあと、エリア11総督を勤めた。
"ブリタニアの魔女"の異名で、高い指揮能力とナイトメアの操縦技術を併せ持ち、「命を懸けて戦うからこそ統治する資格がある」という信念の下、専用のグロースターを駆り、自ら先陣を切って闘っていた。
また部下には厳しい性格だが身内には甘く、実の妹のユーフェミアを溺愛している。
俺たちのあいさつに片手で答えると、俺たちの姿をじっと見つめてくる。
その瞳は皇帝ほどとは言わないが、見る者を圧倒する力を秘めている。
「お前たちの活躍はダールトンを通じて私も聞いている。ナイトメアの操縦では、おそらく私も敵わんだろう。ラウンズとして、これまで以上にブリタニアのためにその力を振るってくれ」
「「「Yes, Your Highness!」」」
「こっちは私の妹でユーフェミアという、ユフィお前も挨拶をしろ。」
そう言うと、コーネリアは彼女の陰に隠れるように立っていたもう一人の少女に声をかける。
するとその少女は俺たちの前に立つ。
「はい、はじめましてジノさん、アーニャさん、私はユーフェミア・リ・ブリタニアです。それと・・・・・・お久しぶりです、レイさん」
初対面の二人にはそう挨拶をし、久しぶりの再会である俺に対してはそうおずおずと声をかけるユフィ。
「え〜と・・・久しぶりユフィ」
どう受け答えしていいかわからないが、この場で畏まられるのは嫌なんではないかという憶測の元、そう答える。
「何でレイが姫様と知り合いなんだよ? いつの間に?」
ジノは驚きの声を上げるが、声こそ上げぬがアーニャもダールトン将軍もコーネリアも、みな驚きの表情を見せている。
「あ〜一度だけ街で出会ってそれから友達として付き合ってたんだけど・・・知らぬ事とはいえ失礼いたしました、ユーフェミア殿下」
本当は知ってたけど言える訳ないのでとりあえず謝っておく。
「そんな、謝らないでください。黙っていた私が悪いのです、あなたがいなくなったらまた私はお友達がいなくなってしまいます」
涙目で俺に謝罪するユフィ。俺の良心が俺の心をちくちくと刺してくる。
心なしか俺にきつい視線を向けるコーネリア殿下、妹を泣かせるなということでしょうか
「頭をお上げくださいユーフェミア殿下、俺は殿下の友達をやめるつもりはありませんよ」
「ホントですか! 嘘じゃありませんよね、もう撤回なんてさせませんよ。」
俺の言葉に、一転ぱぁっと笑顔を浮かべてそう告げてくるユフィ。
「じゃあ2人の時は敬語は禁止します、いいですねレイさん?」
「わかりました、殿下」
ひとまず話がついて他の4人を見ると、4人は話がつかめず、俺に説明を求めているようだ。
知り合った経緯をそのまま伝えると、コーネリアは「その時のナンパ野郎を必ず見つけ出して牢にぶち込め」とダールトン将軍に命令していた。
ごめんなさいダールトン将軍、俺のせいで余計な仕事を増やしてしまって、そんな目で俺を睨まないでください。あなたに睨まれると本当に恐いです。
「リンテンド、お前のおかげでユフィが助かったようだな、私からも礼をいう。まあユフィがああ言っているから友達でいる事は許そう」
そこまで言って俺の耳元に近づき、「それ以上の事をしてみろ、私が地の果てまで追い詰めてやるぞ」とおっしゃられた。
ああ恐い、震える声で「Yes, Your Highness」と答えたが、周りには聞こえていないので、何の事だかわからず首をかしげている。
俺の答えに満足したのか、コーネリア殿下はユフィの元へと戻っていった。
俺が脅されている間にユフィは「ジノさん、アーニャさん、あなた方も私のお友達になってくださいますか?」と言って、
ジノとアーニャは「ユーフェミア殿下、あなたがレイの友達なら、俺たちの友達も同然です」と言ってお友達になっている。
今ひどい目にあったのって俺とダールトン将軍だけじゃねと思ったが、当然口に出せるわけないので、思わず口にしそうになったその言葉を飲み込むのだった。
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