俺たちがEU戦線に配属されて6ヶ月、俺たちは戦果を上げ続けている。
ラウンズが戦場に加わり、士気の上がったブリタニア軍はこの6カ月の間にどんどんと戦線を押し上げていった。
そんななか、俺たちの初任務はエニアグラム卿の指揮下に入り、偵察を行うというものだった。
偵察任務といってもそれは二つの種類に分かれる、それが隠密偵察と威力偵察である。
隠密偵察とは敵に察知されることなく行う偵察行動であり、威力偵察とは部隊を展開して小規模な攻撃を行うことによって敵情を知る偵察行動である。
俺たちの任務は威力偵察、つまりKMFを用いてEU軍の現状を調査するというものだった。
俺達3人はエニアグラム卿のすぐそばに配置され、彼女の指示を待ちながらも戦場を進んだ。
「よし、全機止まれ!」
彼女のその言葉に、この任務についてきていた30ものKMFは一斉にその場で停止する。
「今回の目的はあくまで様子見だ、功を焦って隊を乱すなよ。それから、リンテンド、ヴァインベルグ、アールストレイム」
名前を呼ばれ、俺たちはすぐに返事を返す。
「これがお前たちの初陣だ、気持ちを落ち着かせるのは難しいだろうが、お前たちならできる。この戦場でお前たちの名をEUの連中に刻み込んでやれ」
まわりの兵士たちには功を焦るなと諭しながら、それでいて俺たちには名を知らしめろという。
KMFに乗っているため顔は見えないが、彼らの表情はどうなっているのだろうか。
そんなことを考える余裕がある分、俺はまだ落ち着けているのかもしれなかった。
「「Yes, My Lord」」
そんなことを考えていたら返事をするのを忘れてしまい、一人だけ遅れて返事をすることになった。
エニアグラム卿からお叱りの言葉を受け、ジノ達からは笑われる羽目になり、戦場だというのにとんだ赤っ恥をかいてしまった。
それから少し前に進み、ついに目前にEU軍が現れる。
敵はこちらの動きをつかんでいたのだろう、既に展開された陣形はこちらを迎え撃つべく広がっている。
EU軍の主力、パンツァー・フンメルはブリタニアが開発したKMFとは異なったコンセプトで開発されている。
ブリタニアのKMFは地上を高速移動し、そのスピードでアドバンテージを得る。
一方EUで開発されたパンツァー・フンメルは、そのKMFの機動力の核となるランドスピナーが取り付けられていない。そのかわりにキャノン砲という武装で火力を持たせ、固定砲台という言葉がふさわしい機体となっていた。
それが数十機、整然とした様子でこちらの動きを静観している。
「各機、これより作戦を開始する。先陣はモード隊が取れ、各機、散開!」
その言葉を受け、モード卿の機体を先頭に5機がEU軍へと向かっていく。
そしてそれに続くようにさらに5機が続いていった。
対するEU軍もこちらの動きを見て攻撃を開始する。
さすがに敵の攻撃も厚く、前を行く10機はなかなか敵との距離を詰めることができない。
残った20機も機体を動かし、前を進む10機の援護射撃を行いながら、エニアグラム卿の指示を待つ。
前線の機体は奮戦するが決定的な決め手を欠き、あと一歩のところで戦線を押し戻される。
そんな状況が数度続いたころ、エニアグラム卿から新たな指示が飛ぶ。
「私が前に出る、部隊の指揮はラーズ卿が取れ。それからリンテンド、ヴァインベルグ、アールストレイム、お前たちも私に続け」
その言葉に俺とジノ、アーニャの心臓は跳ね上がる。
「「Yes, My Lord」」
「残りは前線への援護を続けろ、行くぞ!」
エニアグラム卿の乗るサザーランドを先頭に、俺達3人もそのあとに続く。
「まずは右翼から食い破るぞ、遅れるなよ」
そう言い残し、エニアグラム卿は敵右翼めがけて突撃していく。
俺たちもそのあとに続き、手近な敵に狙いをつける。
「ジノ、右側から回り込め」
俺の言葉に従ったジノは弧を描くように右側から距離を詰める。
ジノの機体に気を取られた敵機は反対側から回り込む俺に気づくのが遅れ、その身を破壊される。
俺が敵機を破壊した直後、俺の機体にアラートが鳴る、別の敵機が俺に照準を合わせているのだ。
だが俺はそれを無視するように別の機体に狙いを定める。
俺を狙っていた機体は既にアーニャにハチの巣にされているのだ。
次に狙いを定めた機体に向けてスラッシュハーケンを射出、しかし距離があったためだろう、それは敵機に当たることなく回避される。
だがそれでいい、死に体をさらしている敵機の腹にジノの駆るKMFのランスが突き刺さった。
俺は次の機体を探すが、俺たちの開けた穴から侵入したモード隊の機体が残る機体をつぶしまわっている。
エニアグラム卿自身はすでに中央の敵と戦い始めている。
これが既に戦場を知っていた者たちとの差なのだろうか、だがそんなことを考えている暇はない。
「二人とも、俺たちも遅れずに行くぞ!」
そう言ってエニアグラム卿の後を追うように中央の敵へと向かっていった。
結局、この戦闘はブリタニア軍の圧勝で終わった。
やはりラウンズであるエニアグラム卿が戦線に加わってから、流れがこちらに傾いた。
エニアグラム卿は一人で16機もの相手を落としたらしい。
俺たちは3人合わせて13機、これがラウンズとの差というものかとしみじみと感じさせられる結果だった。
そんな俺たちを、モード隊、ラーズ隊、そして援護に回っていた部隊の人々はよくやったとほめてくれた。
こちらも5機のKMFを失い、脱出できたのは一人だけ。
残りの4名は亡くなったというのに、彼らはその悲しみも見せずに俺たちを激励してくれたのだ。
そんな俺たちはこの初陣の後、すぐに最前線に投入されるようになり、エニアグラム卿の指揮の下、敵を倒し続けた。
そのような状況が2ケ月も経てば、俺たちは味方からも敵からもエース扱いされていて、向かう戦場はいつも最前線。場合によってはエニアグラム卿の指揮下から離れて戦場に立つこともあった。
戦場に出ると俺たちを倒して手柄を立てようという敵が増え、それをことごとく倒してきた俺たちの敵KMFの撃破レコードはドンドン上がり、今月は月別の小隊での新記録も出して、今度表彰されることになっているらしい。
話は変わるが、俺のサザーランドはロイドさんの魔改造を受け、元のサザーランドではなくなっている。
姿形はサザーランドなのだが、中身は別物になってしまっていた。機体性能がサザーランドの1,3倍ほどになっている。
どうも俺の機体を使って、ランスロットに使うパーツの実験をしているようだ。
一度ランスロットの完成予想データを見せてもらったのだが、アニメではサザーランドの1,6倍と言っていたが、俺が実験に参加しているせいで向上したのか、予想データは1,85倍となっている。
俺の適合率は85%ぐらいで今までの中では一番高いらしく、もし完成までに俺以上の適合者が現れなかったら、君にこの機体を任せるよとまで言われていた。
ランスロットのデヴァイサーである枢木スザクは94%の適合率を出していたので、俺にランスロットが回ってくる事はないだろう。ランスロットはいい機体だと思うが、俺の考えている理想のナイトメアとは少し違うので、それでいいと思う。
機体のパーツを改良するたびに俺にも説明はしてくれるのだが、毎回機体の性能が徐々に上がっていて、それに対応するために毎回訓練を行うので結構疲れる。
毎回少しずつ性能が上がるので、自分の考えと機体の動きがずれが生じることがある。
そのことをロイドさんに相談すると、「キミなら大丈夫だよ」といってスルーされる。
(その後セシルさんに怒られたので、いったん改良が終了し、ようやく自分の考えと機体の動きとを合わせる事ができるようになった。ありがとうセシルさん)
まだ改良が続いていた時、一度ジノとアーニャが俺の機体の異変に気づいて、事情を聞きに来て、俺のサザーランドを見て口を開きっぱなしだ。
「レイ、こんな機体に乗って今まで俺たちに合わせてくれてたのか。これならもっと活躍できるはずだろ、クソッ、俺たちがレイの足をひっぱていたのか」
ジノは何を勘違いしたのか、俺の機体を見て、俺が手加減していると勘違いしたらしい。
だが言わせてもらうが、実際に足をひっぱっているのはむしろ俺だ。性能が徐々に変わるナイトメアに対応できなくなり、時々連携を崩していたのは他でもない俺なのだ。
「私たちが足手まとい、悔しい」
ジノの勘違いによりアーニャまで勘違いしてしまった。
「ロイド博士、俺とアーニャの機体も一緒に改良してくれませんか? このままでは俺とアーニャが自分を許す事ができません。お願いします!」
「お願いします」
二人はそう言ってロイドさんに頭を下げる。
完全な二人の感違いなのだが、ロイドさんは黙って目を輝かせている。
「彼もあの機体に慣れるのに君たちとの訓練とは別に個人で訓練しているよ、キミ達も彼と同じ訓練をする覚悟があるのかい?」
言葉ではジノとアーニャの覚悟を確認するようなことを尋ねる。
「「はい!」」
「それならいいよ、君たちの機体もここに持ってきてもらうように手配して置くよ、その後君たちの意見を聞きながら、改良するよ」
ものすごくいい笑顔で笑っているロイドさん。心の中では、これでより多くの実験データがとれる、と小躍りを舞っているに違いない。
こうしてジノとアーニャの機体も魔改造を受ける事が決定したのだった。
先に話した敵KMFの撃破レコード新記録の表彰のために、なぜか俺たち3人は本国に戻ってきていた。
案内されて連れて来られたのはペンドラゴン宮殿。
中にはこの日のために集められた爵位を持つ人物も多くいるらしい。
レコードの新記録ってそんなにすごいのか?
「ジノ、今日って表彰だけだよな? 何でこんなに人集まっているんだ?」
「わからない。何か噂では大事な発表があるから、集まるように言われたらしいぞ」
俺の問いかけにジノもあいまいな答えしか返せない。
アーニャは興味がないのか携帯に夢中である。
「大事な発表? まあ俺たち一軍人には関係ないと思うし気にしないでおこう」
「おう、そうしようぜ」
俺の言葉にうなづくと、ジノはアーニャのほうへ顔を向ける。
「アーニャはもう少し嬉しそうにしてくれよ、いつもみたいに淡々としてちゃダメだぞ。これは俺たち3人がもらう表彰なんだ、みんなで喜ばないと」
「わかった、努力する」
さすがにアーニャも携帯をしまい、ジノの言葉に従う。
「よし、そろそろ時間だから行こうぜ」
それから俺たちは陛下の見守る前で、軍のお偉方から勲章と表彰状を与えられた。
そして何事もなく表彰式も終わり、これでおれたちの出番は終わり。
俺たちが下がろうとすると、陛下が立ち上がる。
「レイス・リンテンド、ジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイム」
皇帝陛下に名前を呼ばれ、俺たち3人はひざまずく。
「お前たちの武功を認め、今ここにナイトオブラウンズへの加入を認める」
周りは騒然となるが、何も知らされていなかった俺たちの衝撃はもっとすごい。
ジノもアーニャも目をパチクリとして、口を開けて驚いている。
俺も開いた口がふさがらない。
「どうした、聞こえなかったのか?レイス・リンテンド、ジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイム」
「「「Yes, Your Majesty」」」
「お前たちはラウンズ披露会が終わるまでは本国で待機をしていろ、その後は追って指示を出す。よいな」
「「「Yes, Your Majesty」」」
知らされることなくラウンズ入りが決定していた俺たち3人は、こうしてラウンズ入りを果たした。
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