ブリタニア政庁のラウンズ専用の執務室、その中で俺はモニター越しにある人物と会話をしていた。

「陛下は先のことについて何も口にされていない。よって卿には引き続きエリア11の平定の補佐の任を続行してもらう。ただし次にあのようなことがあれば陛下も考えが変わるかもしれない。私から言えるのは先のことを覆い隠すほどの功を上げろ。以上だ」

会話の主はナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿だ。彼は俺にそれだけ伝えると通信を切ってしまった。

俺はモニターの前を離れ、執務用の机と共に置かれているイスにどさっと崩れるように座り込む。

先のチョウフでの失態となった夜が明けると俺は本国に報告を行った。それから一日、本国から俺宛に通信が届き、それに答えると俺の前に現れたのは皇帝陛下本人ではなく、実質上ラウンズの取りまとめ役を務めているビスマルク卿であった。

先の通信の通り、陛下は俺のことについて何も口を開いてはいないらしい。本来ならラウンズとしての地位を没収されるかもしれなかった。実際何の音沙汰もなかった間、俺はそのことが頭から離れなかった。

実を言うと俺の沙汰が決まる前にジノやアーニャから俺を心配する通信も届いていた。しかし俺はそれに出ることもせず、ただ陛下の処分を待っていた。同時期にラウンズになった俺が失態を犯したのだ、彼らの名もわずかに貶めることになるだろう。そんなことを気にする人間ではないとわかっているが、通信を取らなかったことといい、あとでこの二人にも謝らなければならない。

ラウンズの地位はく奪という最悪の事態は避けることができた。そして俺はこの恩に報いるためラウンズとして与えられた役割を果たさなければならない。

その意味ではやはりチョウフで藤堂を処刑できなかったことは大いに悔やまれる。これで黒の騎士団にはエース級と呼べるパイロットがカレンと藤堂の二人に、そして準エース級が四聖剣の4人となった。

藤堂と四聖剣を加入により、今後黒の騎士団はその体制を大きく変える。キョウトの全面的なバックアップにより、戦闘部隊はより精鋭が集められ、諜報、その他の部門もきちんと確立され、組織としてより完全なものとなる。

黒の騎士団はこれから今まで以上に強力な相手となるだろう。そんな中、俺は今のままで戦っていけるだろうか。

「リンテンド卿、お疲れ様です」

俺がイスにもたれながら今後について思考を凝らしていると、ヴィレッタがお茶を用意してくれた。

「ありがとう、ヴィレッタ。そういえば昨日用意しておいてといった資料は用意できてる?」

「こちらになります」

俺の言葉にヴィレッタは脇に抱えていたファイルを俺の前に差し出す。

「ありがとう」

俺はそのファイルを受け取ると、中に書かれている資料に目を通していく。

「あの、リンテンド卿?」

資料を半分ほど読み進めたころ、ヴィレッタが申し訳なさそうに俺に声をかけてくる。

俺は資料から目を外し、ヴィレッタの方に目を向ける。

「チョウフでは申し訳ありませんでした。卿に戦線を維持しろと命令を受けておきながら、敵KMFを抑えることはおろか、私が敵に抑えられ、結果的に卿の責任にまで発展してしまうことになってしまいました」

ヴィレッタは悔しそうに手を強く握りながら俺にそう告げる。そうか、ヴィレッタは責任感が強い女性だったな。だとすれば本国からの通信中は彼女も気が気でなかったのだろう。

「過ぎてしまったことはどうしようもない。それにあそこではあれ以上の働きを期待できなかった。むしろヴィレッタは向こうの新型を2機も抑えてくれていたんだ。その分俺の方に回ってくる機体が減って助かった」

俺は席から立ち上がり、ヴィレッタの肩に手を置いて彼女を慰める。

「俺はチョウフでの戦いで一人には限界があることを知った。昨日ヴィレッタに集めさせていたのは俺の元に専属の部隊を一つ作るための隊員選びのためなんだ」

ラウンズとして各地に飛び回る俺たちだが、基本的にはその基地に駐在しているブリタニア軍と協力して作戦にあたることが多い。

今まではそれに何の問題もなかったが、チョウフでの時のように俺一人では限界がある。部隊の指揮をすることもあれば、実際に戦場に出てKMFで戦うこともある。しかしそれを両立するのは難しいことだ。

EUでは俺たちラウンズは戦場で戦うことの方が多かった。それは俺たちが指揮を執らなくとも俺たちに代わる指揮官が何人もいたからだ。しかしエリア11ではコーネリア殿下を除くと俺が軍の最上位にあたる。

もちろん指揮官はいるし戦場に出る兵士も十分数は揃っているが、彼らはどうしても俺という存在のせいでその判断を俺に委ねる傾向がある。

実際チョウフでは俺は警備に口出ししていたが、実際の指揮はチョウフ基地の責任者である中佐に一任していた。実際、黒の騎士団が現れ、藤堂が連れ出されたとわかった後、俺は戦場に向かったわけだが基地の部隊は俺の到着前に大半が撃破されていた。

ヴィレッタが先行していたが、彼女も一人では多勢に無勢、四聖剣を二人抑えてくれたことはむしろ感謝するべきことだ。

このことで俺は自身の手足となる部隊の必要性を痛感した。俺がいなくても戦場で戦うことのできる、俺が信頼できる部隊が。

「これから先、俺とヴィレッタの二人だけではカバーできる範囲が限られている。少なくとも中隊規模の、俺が戦場で何のしがらみもなく戦うための部隊が必要だ」

「それで私に所属先が確定していないパイロットの資料を集めろと指示したのですね」

「あぁ、今日中に選考を終えこちらに呼び寄せる。これからイシカワに向かうがその移動中にそれを終わらせてしまおう」

「Yes,my load!」

ヴィレッタはそう言うとイシカワに向かう準備を始める。ラモラックは昨日のうちに整備を済ませ、あとは貨物列車に乗せるだけだ。俺も必要な準備を整えてイシカワに向かう。

それから半日とかからぬ間に俺とヴィレッタはブリタニア軍のイシカワ基地に到着した。

移動中資料に書かれたパイロット候補から数名を選出し、本国に俺の専属部隊として召集する旨を伝えた。数日中にはこのエリアにやってくるだろう。

基地の中を案内され、俺はコーネリア殿下が使用している部屋に通される。

「総督、リンテンド卿をお連れしました」

案内役の人間が部屋の中に声をかけると、入室の許可が得られたので俺は部屋の中へと入る。

「コーネリア殿下、こちらに来るのが遅くなって申し訳ありませんでした」

コーネリア殿下の前に立ち、俺はそう頭を下げる。

「かまわん。それよりもチョウフで黒の騎士団に協力した人間は誰か判明したのか?」

「いえ、依然誰もその事実を認めていません。全員がその時の記憶がないと言い張り、調査は難航しています」

ルルーシュのギアスにかかったのだから記憶にないのは当然だろう。それでも俺は彼らに責任を押し付けるしかなかった。

「くそ、ブリタニア軍人が死刑囚の脱走に手助けをするなど言語道断だ!」

コーネリアは机を叩き、怒りの形相でそう叫ぶ。

今回のことは当然コーネリア殿下にもその日のうちに通信で報告をしていた。しかしコーネリア殿下はチョウフ基地で起こった死刑囚の脱走には怒りをあらわにするものの、俺については何も言わなかった。

「コーネリア殿下、イシカワ攻略に際し、私から一つお願いしたいことがございます」

俺の言葉にコーネリア殿下は不審そうに俺の顔を見つめる。

「何だ? 言ってみろ」

「イシカワのテロリストの殲滅任務を私にお任せ願いませんか?」

「お前に任せるも何も、お前も前線に出て力を貸してもらう予定だ」

「いえ、そういう意味ではありません。私とラモラックだけでイシカワのテロリストを撲滅すると言っているのです」

言うや否や、コーネリア殿下は俺をにらみつけてくる。

「リンテンド、お前は本気でそんなことを言っているのか?」

「もちろんです」

コーネリア殿下の問いかけに俺ははっきりと答える。

「正直に言うと私もチョウフでの失態を挽回するために功績を積まないといけません。テロリスト集団を一つつぶした程度では大きな功績にはなりませんが、それでも私の仕事がこのエリアの平定の補佐ですから。なにとぞお許しを」

俺は決して無理なことを言っているつもりはない。いくらテロリストがKMFを複数所有しているとはいえ、彼らに黒の騎士団のカレンや藤堂、四聖剣ほどの腕前はないだろう。むしろこのテロリスト集団にそれほどの腕があるのなら、キョウトは彼らに多くの支援を行うはずだ。

それが行われないのは、この集団にはそこまでの腕を期待できないのだろう。EUや中華連邦の裏からの支援の受けるということは、この集団は構成員の数は多いが質はそこまで高くないと推測できる。

「無論すべてを私一人でできるとは思っておりません。地上部隊に町の制圧は任せますしKMF部隊は周囲の包囲をお願いします。私にはテロリストのKMFを殲滅するところまでお任せください。残りの兵力はこの後に行われるホクリク征伐にむけて温存しておいてください」

コーネリアは少し考えるしぐさを取るが、やがて諦めたように息をつく。

「わかった。本来私にはお前に命令する権限はないのだ。こちらとしてはお前が前線に出てくれるだけで軍の被害が減るのだから問題はない。だが危険とみたら私は迷わず部隊を投入する。いいな?」

「Yes,your highness」

コーネリアはそういうとギルフォードを呼び出して作戦の変更を告げる。彼らも最初は俺を心配して撤回を求めるが、俺自身が志願していることを聞くとしぶしぶそれに従う。

作戦の開始は明日の正午、俺はブリーフィングに参加した後ラモラックの調整に移る。ブリーフィングでも俺の単独での作戦に多くのブリタニア軍兵が驚きの声を上げたが、彼らは上官が決めたことに逆らうことはできず、素直に作戦の変更を了承した。

「リンテンド卿、明日の作戦は私だけでも出撃させてください!」

俺がラモラックのそばで機体の調整を眺めていると、ヴィレッタは俺にすがりつくようにそう懇願してくる。

「さっきもそれは断っただろう、ヴィレッタ。君の気持だけ受け取っておく」

「ですが万が一のことがあったらどうするのです。そのためにも私にも出撃の許可を!」

本気で俺のことを心配してくれているのだろう。ヴィレッタは食い下がるつもりはないようだ。

「ヴィレッタ大尉、その辺にしてあげてください」

俺とヴィレッタの間に入るようにレオ君が仲裁に入る。

「レイもチョウフでの件で失った信頼を取り戻すために戦わねばならないのです。もちろん私だってレイのことは心配です。できるなら彼の側で戦いたいという思いもあります。ですが彼がひとりでやるというのです。我々にできるのはレイの無事を祈り、信じて待つことだけです」

レオ君のヴィレッタも理解はできるが納得のいかないという表情を崩さない。

「ヴィレッタ、このようなことは今回だけだ。君のことは信頼している。だから今回は俺に任せてくれ」

俺はヴィレッタの瞳を見つめてそう告げる。

「……Yes,my load」

ヴィレッタはようやく俺の単騎での出撃を納得してくれた。

「(後のフォローを頼む!)」

「(それぐらい自分でやってください)」

「(お願い!)」

「(嫌です、ラモラックの整備で忙しいんです)」

レオ君に視線であとのことを頼もうと思ったが断られてしまった。このあとヴィレッタの機嫌を取ることに四苦八苦する俺なのであった。










翌日、時刻は11時55分、イシカワの町にはすでに避難勧告は行われており、テロリストと関係のない一般市民はすでにブリタニア軍が定めた戦闘指定区域外に避難している。

俺はラモラックに備えられている通信機を用いてテロリストたちに最後通告を行う。

「テロリスト諸君に告げる。武装を解除して投降せよ、などとは言わぬ。諸君らの相手は私一人で務める。諸君らはただブリタニアに逆らうことの愚かさをその身に刻んで死んでいくがいい」

それだけ告げると俺は通信機の電源を落とす。これで彼らの間にはブリタニア軍に対する怒りが溢れかえっているだろう。別に怒りで逆上させるのが目的ではない。本当の目的は戦力の温存をさせないことである。あんなことを言われれば、俺を落そうと向こうも躍起になるだろう。

時計が作戦開始時刻の12時を刻む。それと同時に俺はラモラックの操縦桿を深く握りこむ。ラモラックは俺の意志に従うように機体を市街地の中へと進んでいく。

市街地の中を走らせると、ラモラックのファクトスフィアはすぐに敵のKMFの姿をとらえる。前方、距離500、すぐに目視することができた。

テロリストの使用している機体はブリタニア軍が正式採用しているグラスゴー、サザーランド、グロースター、そのいずれでもなく、日本がコピーして製作したKMF、無頼や月下でもなかった。

テロリストが騎乗しているKMF中華連邦で生産されているKMF鋼髏(ガン・ルゥ)であった。

鋼髏(ガン・ルゥ)の特徴は、ブリタニア軍のKMFが人型であるのに対し、非人型であることである。さらに武装も固定式マシンガンと固定式キャノンの二つしかなく、装甲も薄く、武装、装甲の両方が貧弱である。

鋼髏(ガン・ルゥ)の唯一ブリタニア軍製のKMFに勝る、生産コストの安さが、このテロリスト集団が多数のKMFを保持できている理由だろう。そしてそのことから少なくとも彼らの後ろには中華連邦の影が見える。

だが残念なことにラモラックは通常のKMFよりさらに装甲が厚く、並の武装ではラモラックの装甲を破ることはできない。よって鋼髏(ガン・ルゥ)はラモラックの脅威になりえないのだ。

すでに敵KMFがこちらに対しマシンガンとキャノン砲で迎撃を行っているが、俺はそれを気にせず、わずかな回避行動だけで突っ込んでいく。

左手の内蔵式機銃を左の鋼髏(ガン・ルゥ)に照準を合わせると、俺は迷わず撃ち放つ。左の鋼髏(ガン・ルゥ)が爆破するころには次の機体に照準を合わせ、同様に鋼髏(ガン・ルゥ)も破壊する。

俺は3機の鋼髏(ガン・ルゥ)を破壊したことを気にするまでもなく、次の標的を索敵する。そして次のポイントへと移動し、破壊してはまた次のポイントへと移動するということを繰り返す。時にはMVSを用いて、時にはミサイルで敵KMFを破壊して回る。

やがて敵も俺に数機で当たることは不利だと考えたのか、3機編成だった敵の数が6機に変化していた。おそらく2つの小隊をくっつけただけなのだろう。だがそれは悪手である。

通常、小隊というものにはその中のまとめ役としてリーダーが一人選ばれる。これはリーダーが他の2人に的確に指示を与えるほかに、他の2人が勝手な行動を取らないようにするという役割がある。

しかしその頭となるリーダーが二人になったらどうなるだろう。それがまだどちらかの指示に従うならいい。しかしそれがなければどうなるだろうか? 答えは簡単、頭の二つある組織は混乱し、通常よりも動きが悪くなる。

案の定リーダー同士の意思が疎通できていないのだろう、6機のその集団はそれぞれがばらばらな行動を取っており、動きにまとまりがない。

そんな隙を見逃すわけもなく、俺は1機ずつ確実に仕留めていく。1機が撃たれ、数が少なくなっていく敵KMFはさらなる混乱を生み、俺はより簡単に戦うことができた。

6機編成の小隊をさらに1つ潰した後に、俺はラモラックの計器に目を向ける。機体に残されたエネルギーは半分を切っており、武装の方もパイルバンカー以外は半数以上使いきっている。

「こちらレイス・リンテンド。すまないが機体のエネルギーが半分を切った。悪いが私の仕事はこのぐらいで終わらせることにする。待機中のKMF部隊で残りの殲滅を頼む」

司令部に通信を入れ、俺はこれ以上の戦闘の続行が不可能であることを告げる。まだエネルギーも武装も残っているが、無理に戦闘を続けるのは得策ではない。周りには自分のほかにも仲間がいるのだ、あとは彼らに任せればいい。

俺はラモラックを市街地から下がらせ、作戦本部となるG−1ベースを目指す。途中サザーランドやグロースターが市街地の奥に向け走っていくのが見えた。

そしてG−1ベースにたどりつくと、俺を待っていたのは興奮冷めやらぬブリタニア兵たちで、ラモラックから降りる俺に盛大な喝采を送っていた。それに応えるように手を上げると、喝采はさらに大きくなる。

俺は待ち構えるように立っていたレオ君たちにラモラックの整備を任せると、そんな彼らの相手もそこそこに俺はG−1ベース内の指令室に足を運ぶ。

その後ろを俺の副官であるヴィレッタが付いて歩く。

「リンテンド卿、水分をお取りください」

そう言ってヴィレッタは俺に水の入ったペットボトルを差し出す。

「ありがとう、ヴィレッタ」

俺はそれを受け取ると一気に半分ほど飲みこむ。

KMFに騎乗すると緊張でのどが渇き、汗も大量に出る。

ペットボトルから口を離し、わずかにこぼれた水滴を手で拭うと、ヴィレッタにタオルを差し出される。

そのタオルで汗を丁寧に拭き取る。そして司令部の前にたどりつくと、俺は思い出したようにヴィレッタに話しかける。

「ヴィレッタ」

「はい?」

「この後のホクリク征伐では君の働きも期待しているからな」

それだけ伝えると俺は一足先に司令部の中に入っていく。

司令部に入ると、俺の登場にその場にいた者は拍手で俺を出迎える。その中にはギルフォード、コーネリア殿下も含まれていた。

「殿下、すべて私がやると言っておきながら申し訳ありません」

「ふん、鋼髏(ガン・ルゥ)を33機も一人で破壊した人間に言われると嫌味にしか聞こえんぞ」

コーネリア殿下はそう言って俺の仕事を称える。

「作戦は佳境に入った。各員に油断せず作戦を実行するように伝えろ!」

「Yes,your highness!」

それから数十分ほどでKMFによる作戦は終了、地上部隊による制圧へと移行し、さらに2時間ほどでイシカワの制圧は完全に終了したのであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.