out side
そこには2人の女性の姿があった。
1人若く整った顔立ちの少女で、背中まで伸びる軽くウェーブが掛かったブロンドの髪にナイトキャップのような帽子を被り――
白のフリルが付いたドレスの上に和尚さんが着るような紫の袈裟を掛け、その手には変わった形の日傘を持っていた。
もう1人は翔太にゴスロリボクっ娘と呼ばれた少女である。
さて、そんな2人はある方へと顔を向けている。それはなにやら逃げ惑う翔太達の姿であった。
「あれがそうなの? ただの人間じゃない」
「そうさ、ただの人間だよ」
ゴスロリの少女の返事に日傘を差す少女は思わず睨んでしまう。
なにしろ、これからのことは日傘を差す少女にとって重要なことなのだ。神経をとがらせる程に。
故にゴスロリの少女の態度は気に障ったのだが――
「な〜に、彼は確かにただの人間だ。だが、ただの人間には出来ないことをやってのけたんだよ。
そして、彼はここに来た。いやいや、逃げ出すと思ったんだけどね。これはこれで面白いか」
などとゴスロリの少女は面白そうに笑っている。それを見た日傘を差した少女はため息を吐いていたが。
「ほら、動きがあったよ」
と、ゴスロリの少女が指をさす。その先では翔太達が何かをしようとしていた。
in side
「なんなの、あの子ぉ!?」
「わかるかぁぁぁぁぁぁ!?」
理華に対して思わず叫び返してしまう。俺達は今、全力で逃げてます。
というのも――
「待て〜」
あの子が追い掛けてくるのだ。いや、ただ追い掛けて来るだけなら逃げる必要は無い。
問題なのは――
「んなの避けられるかぁぁぁぁ!?」
叫びながらもなんとかそれを避けてるけどね。どういうことかと言えば、あの女の子が攻撃してきたんだよ。
しかも、ただの攻撃じゃなくて、光の弾をいくつも広範囲にばらまいてくるんだよ。それで逃げ出したわけだが、あの女の子は追い掛けてくる。
ただ、あの女の子。どっかで見覚えがあったんだが……今はそんなの気にしてられない。ていうか、光の弾がなんか威力が凄そうなんだけど!
当たったらただじゃ済まなそうなんですけど!? それにあの子は空飛んでるから、こっちから攻撃しずらいんだけど!?
「あの〜……私達ならあの者に近付けますが?」
「そうだった! ミュウ! あの子をなんとかしてくれ!」
「しょうがないなぁ〜。モー・ショボー、行くよ!」
「うん!」
エンジェルの言葉にそのことを思い出す。そうだよ、ミュウ達飛べるじゃん!?
そんなわけにミュウ達に行ってもらい――
「え? 何、あなた達?」
「アギ!」
「ガルーラ!」
「きゃん!?」
あの子に向かって問答無用に魔法をぶっ放した。で、魔法をぶつけられた女の子はというと――
「もう〜、邪魔しないでよ!」
「きゃ!?」
「いやぁん!?」
「くっ!」
今度はミュウ達に向かってあの光の弾をぶっ放した。ていうか、よろけただけですかい!
ミュウ達は攻撃をなんとか避けてるけど、あのままじゃマズイな。
「理華!」
「う、うん!」
このままではマズイと、理華と共に銃をぶっ放す。でも、距離がある。当たるか?
銃を使ってみてわかったが、距離が離れると銃ってのは途端に当てるのが難しくなる。
あの子が空を飛んでることもあって離れてるから当たるか不安だったんだけど――
「いたたた!? もう! なんなのよぉ〜!」
当たったようで、痛がって逃げていきました。ていうか、痛いだけですかい……
しかし、これはちょっと深刻な問題だったりする。ゲームでも同じように悪魔にも弱点がある。
銃攻撃が弱点の悪魔もいるんだけど……それ以外の悪魔だと、銃が牽制にしかならないのが最近多くなってる。
ちなみに逆に耐性とか持ってる悪魔もいて、それに気付かないで戦ったもんだから死にかけたことがあったけどな。
死にかけたといえば、悪魔と交渉した時に成功したと思ったら騙されてばっさり……なんて事もあったなぁ〜。
ともかくとして、今の武器が悪魔に太刀打ち出来なくなり始めている。
なんとかしたいけど……道具兼武器屋にある剣なんかは種類や材質が違うってだけで、威力に違いがあるわけじゃないらしい。
銃は流石に使える弾丸によっては威力に違いは出るらしいけど……確か、それが使える銃って大きくなるんじゃなかったっけ?
まぁ、それはそれとして――
「ありがとう」
「いや、いいんだがね。しっかし、この世界……なんか大変そうだな」
戻ってきたミュウに声を掛けてから考える。そういや、さっきも思ったけど……あの子、どっかで見たような?
あ〜でも、その前にこの世界ってあの子みたいなのばっかなのかな? そうだとすると色々と大変――
「なるほど……それなりに戦えるということね……」
なんてことを考えてたら、ま〜た声が聞こえてきた。
みんなしてそこに顔を向けると……なんか、空間に裂け目みたいなのが出来て、そこから1人の少女が……ちょっと待て?
「八雲……紫?」
思わず声に出たが……裂け目から出てきたのは間違いなく八雲 紫。確か有名な同人ゲームのキャラのはず……
え? 待って? じゃあ、ここって幻想郷なの? そういや、さっきの女の子って、どっかで見たことあると思ったらルーミアじゃね?
でも、美人だよね。ゲームの絵と違って本当に綺麗な人だし。あれ? 俺、何言ってんの?
「どうして……私の名前を知っているのかしら?」
で、どうやら少女は八雲 紫に間違いないようで、とんでもねぇ殺気を向けられました。
こ、こえぇぇ……
「ちょ、ちょっと……どういうことなのよ!? なんで、あの人のこと知ってるの!?」
「あ、いや……俺達の世界のゲームに登場する人と似てたんだけど……まさか、本人とは……」
理華にそう答えたが……見知らぬ世界だと思ってた訪れた所がゲームの世界でしたって……
いや、ボルテクス界でも同じ事考えたか? ともかく、普通はそんなこと考えないだろ? おかげで俺もわけわかんないんだけど。
「へぇ……興味深い話ね。まぁ、いいわ。その話は後で聞かせてもらうとして……来て欲しい所があるのよ」
「来て欲しいって……どこに?」
「案内するわ」
思わず聞いてしまうと、八雲……紫さんでいいか? が、笑っていて――
「へ?」
地面が紫さんが出てきた時に見た裂け目に変わってました。結果――
「なんでえぇぇぇぇぇ!?」
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
「おわぁ!?」
「待って〜」
理華とオニと一緒に落ちる羽目になりましたとさ。あ、ミュウ達が追い掛けて来る――
いや、なんでさぁぁぁぁぁぁ!?
「おわ!?」
「ぐべ!?」
で、なぜかオニと一緒に地面に落ちる。俺は落ち方がまずかったのですっげぇ痛い思いをして――
「きゃん!?」
「ぐはぁ!?」
その上になぜか理華が落ちてくる。い、いや……本気でなぜさ……
「なに、こいつら?」
「もしかして、あいつが言ってた奴らか?」
「その格好……外の世界の方なのでしょうか?」
なんか、3人の女性の声が聞こえたんで顔を上げてみると、そこには赤と緑の巫女さんといかにも魔法使いといった黒い服を着た少女がいた。
うわ〜い、博麗 霊夢と霧雨 魔理沙に東風谷 早苗だ〜……ははは……まさか、主役級の3人に会えるなんてな〜……
「て、どいてくれぇ!?」
「あ、ごめん!」
流石に乗られっぱなしは苦しいので、思わず叫んだが……俺、悪くないよね? 理華もすぐに降りてくれたし。
「で、こいつらはなんなの?」
「あつつ……俺の仲魔だ……」
「仲間? 妖精か? にしちゃ、変な姿だな……もう1人は男のようだけど……」
「あ〜、確かに私は妖精だけどね。妖精、ピクシーのミュウよ」
「私、凶鳥のモー・ショボー」
「天使、エンジェルと申します」
「妖鬼、オニだ。よろしくな」
霊夢に聞かれたんで答えたんだが、魔理沙は首を傾げてた。まぁ、悪魔なんて初めて見ただろうしな。
で、ミュウ達は自己紹介してたんだが――
「オニ? 萃香の仲間か?」
「いんや、似てるようで違うよ。そいつはね」
と、魔理沙が更に首を傾げてるところに別の声が聞こえてくる。
誰だろうと辺りを見回してたら霧みたいなのが現われたかと思うと、そこから1人の女の子が出てきた。
頭に2本の角……うわ〜い、伊吹 萃香じゃん……
「違うのですか?」
「ああ……確かにそいつは鬼だけど、私と同類ってわけじゃないのさ」
「あ〜……ええと……あなた達って、何者なの?」
早苗が首を傾げてる所に萃香が答えてるが、そこに理華が右手を挙げて聞いてくる。
まぁ、理華はそもそも同人なんてほとんど知らないだろうしな。霊夢達を知らなくて当然か。
「そうね、まだ私達の自己紹介をしてなかったわね。私は霊夢。博麗 霊夢よ」
「私は霧雨 魔理沙。普通の魔法使いだ」
「私は東風谷 早苗と申します」
「伊吹 萃香だ。で、あんたらは?」
「俺は相川 翔太。一応、サマナーだ」
「私は谷川 理華。よろしくね」
「サマナー? なんだそりゃ?」
霊夢達の自己紹介の後に俺達も自己紹介をしたのだが、そこで魔理沙に首を傾げられた。
まぁ、ここにサマナーなんていないだろうしな。
「とりあえず、ミュウ達みたいなのと仲魔になって、一緒に戦ってもらってる奴だと思ってくれればいい」
なので、簡単にだがミュウ達を指さしつつ教えてやる。魔理沙の反応はといえば、そうなんだ〜という感じだったけど。
「ところで、俺達はいきなりここに落とされたんだけど……何がどうなってんだ?」
「それは……目的の場所に行ってから話すわ」
と、俺の疑問に答えたのは空間の裂け目から出てきた紫さんだった。目的の場所ねぇ……
「わかった。案内してもらえますか?」
「ええ、付いて来な――」
「ちょっと待て」
振り返って浮かび上がる紫さんに思わず待ったを掛ける。良く見れば霊夢と魔理沙、早苗に萃香も宙に浮かんでる。
ゲームと同じで霊夢達も空飛べるんだね。うん、それはいいんだよ。だけどな――
「俺達はあんたらみたいに空飛べないんだが……」
こっちのことも考えて欲しいんだけど。俺、普通の人だよ? 空飛べるわけないじゃん!?
「まったく、めんどくさいわね」
と、紫さんは持っていた扇子を一振りして――
「て、またかあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわあぁぁぁぁぁ!?」
「いやあぁぁぁぁぁ!?」
「翔太!?」
またしても裂け目に落とされてしまい――
「あだ!?」
「ぐお!?」
「きゃん!?」
「ぐほぉ!?」
んで、お決まりのようにオニと地面に落ちた挙句、理華に押し潰される。
「ほら、着いたわよ」
「あの……出来れば落とすとかそういうのはやめて欲しいんですけど……」
いつの間にか横にいる紫に文句を言ってみる。もう、さん付けなんてしてやらねぇ……
というか、なんで俺ばっか痛い思いするわけ?
「ふてくされないの。ほら、見てみなさい」
「はい?」
紫が顔を向ける方へと俺も顔を向けてみる。そこにあったのは……なんだろう?
いや、なんて言えばいいのかわからないんだよ。ただ、ボルテクス界に通じる穴と同じように空間がドーム状に歪んでるんだ。
しかも、かなりの大きさで。そして、それがまるで別物であることがなぜかわかった。
何が別物と聞かれると困る。俺も漠然とそう感じるだけだし……なんというか、空間みたいなのがあそこだけ違うというか……
ともかく、そんな感じなのだ。
「あそこはね、完全に異界化してるのよ。あの中はこの幻想郷とはまったく別の世界になっている」
まるで睨みつけるように異界と呼んだ場所を睨みつける紫。
なるほど、俺が感じたのってそういうものなのか……でもさ、ヤバイ物のような気がするのは気のせいか?
「私達があれをなんとかしようと思った時、ある者が現われてこう言ったの。
しばらくすれば、これを解決してくれる者が現われる。それまで待て……とね」
「誰なんですか?」
「さぁ? なんか、真っ黒なドレスを着た奴だったな」
「ですが、ただ者ではないようでした」
紫の話に理華が問い掛けると、魔理沙と早苗が答えるんだけど……真っ黒なドレスを着てて、ただ者ではない?
まさか……
「あの、ゴスロリボクっ娘か!?」
「名前は知らないけど、そうじゃないの?」
思わず浮かんだ奴の名前を叫んでしまう。紫の言うとおり俺もあいつの名前がわからんから、自分で勝手に付けた名前を叫んだだけだが。
ていうか、あの野郎……なんのつもりだ……
「それで待ってみたら、あなた達が現われたというわけ」
「はぁ……じゃあ、俺達がなんとかすればいいので?」
とりあえず、紫の話でそう考えてみる。確か、ゴスロリボクっ娘が言ってたな。
繋がった先の世界に崩壊を止める鍵があるとか……それって、こういうことなのかね?
「そうね。霊夢達を付けるから、なんとかしてくれないかしら?」
「まったく、めんどくさいけどね」
「はいはい……」
「ところでいつまでそうやってるんだ?」
紫に返事をすると霊夢はやる気無さそうにため息を吐く。
その時に魔理沙がそんなことを聞いてきた。実はね、ま〜だ理華が俺の上に乗ってるんだよ。
「あ、ご、ごめん!?」
「いや、いいけどな……」
気付いたようで慌てて理華が立ち上がる。まぁ、本当にいいけどね……
「そんじゃ、行ってみますか」
「うん」
「は〜い」
ため息を吐きつつ、刃物と銃を手にする。理華やミュウの返事を聞き、俺達は異界の中へと入った。
さて、何が待ってるのやら――
out side
異界に突入する翔太達を紫と萃香は見送っていた。
「行ったみたいだね」
そこにゴスロリの少女が現われ、紫達は顔を向ける。
「ええ……でも、大丈夫なの、彼?」
「たぶん、ダメだろうね」
紫の問い掛けに、ゴスロリの少女があっさりと答えるが……それを聞いた紫の瞳が鋭くなる。
「どういうことよ?」
「彼らに勝てる要素なんて1つも無いからさ。今の彼らの武器も……そして、博麗の巫女達の力もあれの前には無力」
どこか楽しそうに語るゴスロリの少女に紫は殺気を向ける。気が弱い人間ならばショック死しかねない程の殺気を。
だが、ゴスロリの少女はそれをまるでそよ風のように受け流す。萃香ですら、思わず構えてしまうほどの殺気を。
「まぁ、そう怒らない。だけど、勝てないってわけじゃないさ」
「どういうことだ?」
「なに、あれに気付ければ彼らにも勝ち目はある。そういうことだよ」
(もっとも、あれに気付くなんてほぼ無理だろうけどね)
萃香の問いにゴスロリの少女は肩をすくめながら答えた。内心、そんなことを楽しそうに考えていた。
そう、ゴスロリの少女には異界の中がどうなっているのかわかっているのだ。
むろん、紫も自身の能力で異界の中を見ているが、より詳しいことを知っているのはゴスロリの少女の方である。
そして、ゴスロリの少女は別に解決出来なくていいと考えていた。彼女にとって、これは一種のゲームなのだ。
どう転んだって自分が楽しければそれでいい。翔太を選び、ちょっとした細工をしたのも別に意味があったわけじゃない。
普通の人間では倒すことが難しい悪魔を倒した。ただ、それだけの理由で期待とかしていたわけではない。
ゴスロリの少女自身、翔太が逃げ出すことも考えたほどである。だが、彼は来た。
さて、今度はどうするのか……楽しみに思いつつも無理であろうとも思う。あれはそういう物だから。
この時、何も無ければゴスロリの少女の考え通りになっていただろう。
だが、ゴスロリの少女も紫も萃香も気付いてはいなかった。一部始終の自分達を見ている者がいたことに――
in side
「くっそぉ!」
さて、異界の中に入ったはいいが、早速悪魔に襲われてます。
異界の中が見た目はさっきまでいた森と変わらない。でも、感じる雰囲気が……なんというかボルテクス界に似てる気がする。
それはそれとして――
「て、ぐはぁ!?」
「翔太!? アギ!」
「ごわぁ!?」
悪魔の攻撃を喰らって吹っ飛ぶ俺に気付いた理華が、その悪魔に向かって魔法をぶっ放す。
そのまま倒れた俺はすぐに立ち上がるが――
「まったく、役に立たないわね」
「あんたらと一緒にするな!?」
「霊夢さん……それはちょっとひどいですよ」
霊夢のひと言に思わず叫び返す。早苗もたしなめてるけど……いいよね、あんたらは! 空飛べるし、そうやって弾とか撃てるし!
弾幕だったっけ? その攻撃は悪魔に有効で次々と倒している。この異界の中で悪魔を一番倒してるのは霊夢達なのは間違いない。
ついで仲魔達。こっちは悪魔なので当然で、次が理華。理華は魔法も使えるしな。で、ドベが俺なんだが……
というのも、刃物はしょうがないにしても銃が牽制にしかなってないのだ。だけど、持ってる武器の関係上、前に出なきゃならないし……
でも、そうなると必然的に攻撃を受けやすくなる。流石に死にたくないのでなんとか避けてるけど、完全に避けるのは無理。
今のように受けてしまうこともしばしば。しかし……ただ殴るとかだから何とかなってるけど、魔法とか喰らったらマジでヤバイ。
ボルテクス界で炎系の魔法喰らって、腕が大変なことになったこともあったしな。魔石とか無かったら、本気でやばかった……
「あ〜ちょっと休憩……」
「そうだね……」
「私にチャクラドロップちょうだい」
「はいよ」
「あ、私にも〜」
「俺は魔石を頼むわ」
と、なんとかこの場にいる悪魔を倒しきったので、休憩を取ることにした。
理華も同意して座り込み、頼まれたんでミュウにチャクラドロップを渡すとモー・ショボーとオニも欲しがってきたので渡す。
渡してから俺も魔石を割って回復するんだが……げ、刃物が刃こぼれだらけじゃん。
おいおい、マジかよ。これ、幻想郷に来る前に買い換えたばかりだぞ……ちなみに刃物はこれで3本目だったりする。
つ〜のも、悪魔ってのは大概頑丈で……前に使ってた2本は折れて使い物にならなくなったのだ。
やばいな……ここじゃ替えなんてないし、こいつが折れたらナイフしかないぞ……替え用のを買っておくべきだったかな……
「まいったな、こりゃ……」
「ボロボロじゃない。使えるの?」
「使うだけなら、なんとかね。ただ、どれだけもつかは不安な所……だな!」
ミュウに答えつつ、俺は左手の銃を茂みに向ける。俺だけじゃなくミュウも振り返り、理華や仲魔達も茂みの方へと体を向けた。
霊夢達はそれを怪訝そうに見ていたが――
「ひ、ひぃぃぃ!? ま、待ってくれぇぇぇ!?」
その茂みから悪魔が飛び出してきた。
「良くわかったな?」
「茂みがあんなに動けば、誰だって気付くって」
魔理沙に答えるが……まぁ、ボルテクス界じゃ不意打ちなんて当たり前だしな。
ていうか、それで大変な目にあったことがあるので、嫌でもそういうのには敏感になる。
大変な目というのがどういうのかは……聞かないでくれ……あれは流石に思い出したくないから……
「お、俺はただ……面白いことが起きるって聞かされて……ただの興味本位なんだ!? こんな事になるって知ってりゃ、ここに来てねぇよ!?」
「どういうことだ?」
悪魔の言葉に俺は立ち上がって問い掛ける。聞かされたと言うことは、誰かに話を聞いたってことなんだろうが――
「わ、わかんねぇよ!? いきなり頭の中に声が聞こえてきたんだ!? 世界はやがて始まりへと還る……混沌の世界へと……
これを聞いた奴がいたら、ここへ来いって……なんか、面白そうだと思って、俺はここに来たんだ……
頼む! 見逃してくれ!? 俺は……俺はあんたらを襲う気なんて始めから無かったんだ!?」
怯える悪魔だが……俺はといえば、悪魔が話したことを考えていた。
どうやら、この悪魔はその話をした奴に会ってはいないようだが……しかし、わかんないな。
世界はやがて始まりへと還る? 混沌の世界へと? 混沌の世界ってのはどっかで聞いたフレーズだけど……
「あ、いや……仲魔だ! 俺を仲魔にしてくれよ!?」
「はぁ?」
悪魔のいきなりのお願いに思わず呆けてしまう。いや、仲魔ってなんで?
「理由を聞かせてもらいましょうか?」
「あの声だ! 邪魔する者を消せって……あの声が聞こえたと思ったら、自分が自分じゃ無くなったようになっちまうんだ!?
それであんたらを襲いかけて……でも、あんたらが悪魔を倒すのを見て怖くなって正気に戻れたんだが……
たぶん、あの声が聞こえたらまたそうなっちまう!? そうしたら、あんたらを襲っちまって……俺、殺されちまう!?
だから、頼む!? 仲魔にしてくれよ!!」
エンジェルの問い掛けに悪魔は慌てたように答えるんだが……なるほどな。
声の正体はわからないが、異界に入ってから悪魔がなんか積極的に襲ってくると思ったけど、たぶんその声とやらが関係してるんだろう。
で、この悪魔は死にたくないから仲魔にしてくれと……気持ちはわからなくもないなぁ〜。
「しょうがないな……ただし、必要な時には戦ってもらうからな?」
「あ、ああ……わかった!」
「いいのかよ?」
「別に仲魔にするくらいなら困ることも無いしな」
返事をする悪魔を見てオニが聞いてくるが、俺はミュウ達に視線を向けつつ答えた。
何をしてるかといえば、警戒してもらうためである。前にも話したが、交渉成功したように見せかけて不意打ちなんてのも悪魔はやってくる。
そういう不意打ちを避けるために、俺だけでなくミュウ達にも警戒してもらうわけなんだが――
「あ、あんがとよ! 妖精ゴブリンだ! よろしくな!」
それは徒労に終わり、悪魔ことゴブリンはGUMPの中へと消えて行くのだった。
「今のは?」
「仲魔にしたのさ。これで喚べば、いつでも一緒に戦ってくれるってわけだ」
「なら、さっさと呼びなさいよ」
「そういうわけにもいかないんだよ。制限ってものがあってね」
早苗の疑問に答えると霊夢がそんなことを言ってくるのだが、それが出来ない理由がある。
GUMPに登録出来る悪魔は今の所8体までだが、喚び出せる数は仲魔にしている全員。
つまり、8体登録しているとその8体全部を喚び出すことは可能なのだが……
当然というか、喚び出す数が多いと消費される生体マグネタイトの量も必然的に多くなる。
まぁ、1匹増えた位じゃそれほど気にするもんじゃないけど……で、もう1つの理由が即戦力となるか否かである。
ゲームと違ってGUMPには悪魔の能力とかが表示されるわけではない。つまり、何が出来るかは完全に手探りになるのだ。
余裕があるなら確かめてもいいけど、ここじゃそれは無理っぽい。何も出来ずに殺してしまったのでは仲魔にした意味も無いしな。
そういうわけで、ゴブリンを使うのはまたの機会ってことで……
「そんじゃ、行こうか?」
「そうだね」
理華が同意しながら立ち上がる。この異界で何が起きようとしているのか?
それを調べてる途中だしな。しかし、この様子だとただ事じゃなさそうだが……
out side
悪魔を倒しながら探索を続けていた翔太達だったが――
「ねぇ? この森って、こんな感じだったかしら?」
ふと、霊夢がそんな疑問を漏らした。ここは人里に近い森のはず。確かに木々は生い茂ってはいるが、それくらいの普通の森のはずだ。
魔法の森や迷いの竹林ならともかく、決して迷路のような複雑な森では無いはずなのだ。
「さてね。もしかして、異界になったことで変わったのかもな」
「まったく、そいつがなけりゃ迷ってたとこだぜ」
翔太がそんなことを言うと、魔理沙が興味深げに翔太が持つGUMPを見ながらそんなことを言っていた。
GUMPのオートマッピング機能はこの異界の中でも有効であり、もしこれがなければ迷っていたのは間違いないだろう。
ただ、目的地がわからない状態ではどこに行けば良いのか迷ってしまうのだが……そんな中、翔太達は開けた場所へと踏み入れる。
この一画だけ初めから木が生えていなかったように平地になっており、代わりに草花が生い茂るだけである。
その中に誰かがいた。
「おい、あれってチルノじゃないか?」
ふと、魔理沙がこの場所にいた者を指さす。そこにいたのは幼い女の子。青と白の服を着て、襟には赤いリボンを結んでいた。
ショートヘアの青い髪に、髪よりも濃い青色をしたリボンを付けていた。顔は可愛らしく整っており、背中には6枚の氷のような翼があった。
彼女の名前はチルノ。氷の妖精である。
「本当だわ。どうしてあんな所にいるのかしら?」
霊夢も首を傾げながらチルノに近付こうとする。この時、霊夢、魔理沙、早苗はなんの警戒心も抱いていなかった。
知り合いがいた。そして、その知り合いがどんな者なのかをよく知るが故に……この場に悪魔がいなかったのもあるだろう。
だから、彼女らはそのままチルノに近付こうとする。その一方で翔太は別の感想を抱いていた。
彼も霊夢達が登場する某ゲームを知っている。なので、チルノのことも知っているのだが……ここで霊夢達と違ったのはチルノの様子であった。
チルノは立っていた。そう、立っていたのだ。翔太から見る限り、ただぼ〜っと立っているように見える。
そして、チルノからは自分達が見えているはずなのに、気付いた様子がない。それに何かを持っているような――
そこで気付く。チルノが持っている物が妖しい光を放ったのを。
「待て! 近付くな!」
「な、なんですかいきなり!?」
それを見た翔太は嫌な予感がして霊夢達の前にたった。チルノに背中を向ける形で。
そのことに早苗が思わず驚いてしまう。一体何を言って……霊夢達はそう思いかけて――
「ぐお!?」
チルノの体が輝いたかと思うと、翔太がいきなり吹っ飛んだのである。
そのまま仰向けの形で地面に倒れ……
「ぐ、うぐ……」
「しょ、翔太!?」
翔太の状態に理華は思わず絶句する。それは霊夢達も同じであった。
翔太の背中は何かに引っ掻き回されたかのようにズタズタになっていたのだ。
「ふふ……ふふふ……ははははは……どうだい、あたいの力は! 凄いだろう!」
と、声が聞こえる。霊夢達が顔を向けると、チルノがいたはずの所に女性がいた。
まるでチルノをそのまま大人にしたような姿。ただ、服だけは煌びやかな宝石をいくつもあしらった青と白のドレスのようになっていたが。
「く……ミュウとエンジェルは翔太の治療を! 私達はあいつの相手を……ほら、早く!」
「え? あ、でも……」
「翔太はミュウ達に任せて! あいつ、やる気よ!」
いち早く正気に戻った理華が、戸惑う早苗に怒鳴りつつも指示を出す。
翔太が重傷を負うのは今に始まったものではない。いいわけではないのだが、理華も慣れているので立ち直りも早かったのだ。
「そうね……まったく、何があったのかわからないけど――」
「聞き分けの無い奴にはお仕置きが必要だな」
理華の言葉で霊夢と魔理沙も正気に戻り、互いに構え始める。早苗も遅れて構え、理華もサブマシンガンを構えてチルノを見据えるのだった。
姿が変わろうともあのチルノだから……霊夢達はそう思っていた。すぐに黙らせることが出来ると思っていた。
霊夢達も翔太を傷付けられたことに少なからず怒りを感じていたのである。
「やるってのかい? いいよ、見せてやるよ。最強のあたいの力を!」
だが、それは自分達の勘違いであることに……チルノの自信がいつもと違うことに気付かずにいた。
あとがき
そんなわけでついに始まりました東方編。でも、次で終わっちゃいますが^^;
なお、東方では誰かが仲間になるとかはありません。理由は次回にて。
で、次回は対チルノ編。霊夢達の力が通じない? 翔太達の武器も効かず、仲魔達も苦戦。
そんな時に聞こえてきたのは? 次回はあの人登場します。あ、一応オリジナルですよ?
そんなわけで次回をお楽しみに〜
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