in side

「なんだありゃ?」
 悪魔の襲撃を受けて戦っていたのだが、最後の1体を倒した後に開けた場所に出たのに気付いて――
で、その中央に石碑みたいなのがあって……あれ? あの石碑の形、なんか変じゃないか? なんか、人みたいな形……って、人だよね、あれ!? 
なんか、下半身と両腕が塗り込められた感じになってるんだけど、絶対に生身の人間だよね!?
「あれは……お嬢様!?」
「あ、ちょっと!?」
  いきなり刹那が走り出したもんだから、理華が慌てて呼び止めようとして……お嬢様?
良く見たら石碑に塗り込められてるのって、このかじゃね? あ、なんかすっげぇ嫌な予感が……
だってさ。なんで、石碑に塗り込められてるのかわからないけど、ああなってるってことは絶対に碌なことじゃないって。
「お嬢様!? しっかりしてください、お嬢様!?」
「ん……あ……う、あ……あ、あれぇ? せっちゃんがおるぅ〜……」
 どうやら生きてるようで、刹那の呼びかけでこのかが目を覚ました。なんか、寝惚けてるようにも見えるけど……
「なぁ、あれってどう思う?」
「ただ事じゃないだろうな。何をしようとしてるかは知らないが、このかにあんなことしてる時点で普通じゃない」
「だよなぁ……」
 真名から帰ってきた話にため息を吐き、それでも辺りを見回す。
誰がこのかにあんなことをしたかは知らないが、あのままにしとくなんて考えにくいし。
「じゃあ、待ち伏せってこと?」
「さてね。とりあえず、みんな油断するなよ」
「わかってるって」
 理華に答えつつ、仲魔達に指示を出す。ミュウが返事をするが……
「あ、あれ? なにこれ? うち、どないなったんや?」
「落ち着いてください、お嬢様。今、お助けいたします!」
「そうはさせぬ――」
 戸惑うこのかをなだめつつ助け出そうとする刹那だったが、そこで聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「来たぞ!」
 オニがそう言って指を指すと、その先で何かが集まっていき――
「な……なんだ、あれは……」
「あ、ああ……あぁ……」
「せ、せっちゃん……怖い……」
 それが現われた。姿としては古代の戦士って風に見えるが……そいつを見た真名は戸惑い、刹那とこのかにいたっては完全に怯えている。
無理もないか。あいつの威圧感は凄い。俺もゴスロリボクっ娘に会ってなきゃ、3人と同じ反応だったかもしれない。
たく、本当に嫌なことに慣れたよね、俺って……あ、理華も普通に見てるか。
「来たか……我らが母の邪魔をする者達よ」
「あの……母って誰? それに邪魔ってなにさ?」
 なんか、いきなり変なことを言い出す悪魔に右手を向けつつ聞いてみる。
いやね、嫌な予感しかしないけど、聞いておかないとダメだよね?
「知らぬとは言わせぬ……我らが同胞を屠った貴様に……」
「いや、なにさその言いがかり!?」
 いきなり睨まれました。いや、色々と待て! 同胞ってのはもしかしてと思うけど、何しようとしてるか知らないよ!?
「同胞はなんとなくわからなくもないけど、あんたらの目的なんて俺なんも知らないんだけど!?」
 思わず絶叫です。いや、しょうがないじゃん。だって、明らかに言いがかりだよ?
同胞はたぶん前に倒した牛みたいな顔した奴なんだろうけど、あれだって言いがかりの上にいきなり襲われたし。
「黙れ! ならば、なぜここにいる?」
「あ〜……それは……」
 悪魔に聞かれて思わず顔を背ける。ゴスロリボクっ娘に脅されましたなんて言ったら怒るよね?
「我らが母の邪魔はさせない……貴様達はここで消えろ……」
「お、おい……大丈夫なのか?」
「さてね。話し合いもしてくれなさそうだし……どうしたもんか……」
 悪魔の話にまだ戸惑ってる様子の真名が声を掛けてくるが、俺としてもどうしたもんかと悩む。
なんとか話し合い出来ればいいんだろうが、明らかに聞く耳持たないって感じだしな。
「とりあえず、あいつに下手に近付かないでくれ。どんな力を持ってるのかもわからないしな」
「というか、あれに近付きたくないというのが本音だけどね」
 真名がため息を吐くけど、言っておいてなんだが俺も同意だ。
あいつが言う同胞とやらの時は、頭に来てたこともあってだけど……普通に見たらあんま近付きたくないよ。
「来たよ!」
「くっそ! こっちの話を聞きやがれっての!」
 ミュウが叫んだんで顔を向けてみたら、あの悪魔が魔法を放とうとしているところだった。
思わず文句が出たけど、魔法から逃げるべく走りながら銃を撃ちまくる。
「我が名はミトラス。我が母の為に貴様達はここで消えろ!」
 なのに、悪魔……ミトラスと名乗った奴に効いちゃいない。いや、当たってはいるんだけど弾かれてる。
ちょっ! それって反則じゃねぇか! 思わず叫びそうになるが、飛んできた魔法を辛くも避けた。
「翔太! 離れて!」
「アギラオ!」
「ブフーラ!」
「ガルーラ!」
 理華がサブマシンガンを撃ち、ミュウ、アプサラス、モー・ショボーが魔法を放つけど――
「奴らに組みする悪魔に死を!」
「きゃあ!?」
「いやぁ!?」
 当たってるのに効いてない。サブマシンガンはまだしも魔法をまともに喰らったのに……
耐性持ちじゃない。頑丈すぎるんだ、こいつ。しかも、攻撃もとんでもない。腕の一振りでとんぜもない衝撃が起きた。
それで理華やモー・ショボーが吹き飛ばされそうになる。離れていたせいか、なんとか耐えていたけど……
「おい! 効いてないぞ!」
「わかってる! くっそ! 悪魔ってのは大概頑丈だけど、あいつは鉄の塊かよ!?」
 真名に思わず叫び返すけど、マジで固すぎるっての!
だが、効いてないわけじゃない。攻撃し続けるしかないか……問題はどんだけ攻撃すればいいかだけど……
「とりあえず、攻撃して逃げる。それしかない!」
「ヒットアンドウェイか。それしかないようだね」
「そういうこと。オニは真名の援護だ! みんなは離れて攻撃してくれ!」
「わかった!」
 真名に答えつつ指示を出し、オニの返事を聞くと俺は走り出した。俺の武器は基本的に近付かなきゃならない。
まったく、バズーカとか持ってた方が良かったか?
「うるさいぞ!」
「ぬわっと!?」
 銃を撃ちながら近付くが、そこにミトラスが剣を振り落とす。
それは前に跳んで避けて、ついでに刃物で斬り付けるが――
「こざかしい!」
「のわぁ!?」
 逆に魔法をぶっ放された。なんとか逃げ出したけど、見た感じ効いてないよ!?
「どうするんだい? こっちの攻撃が効いてないように見えるけど?」
「そうだホ! オイラ達の魔法も通じてないホ!」
「どうするんだホ?」
 真名にジャックフロスト、ジャックランタンが聞いてくるが、そんなのはこっちが聞きたい!
「翔太! なんとかしないとこっちが持たないわよ!」
「魔力が持たない〜……」
 理華も言ってくるけど……確かにモー・ショボーがへばってるように見える。
だけど、どうにかしたいのはこっちだっての! 待てよ……確か……
「理華! ミュウ! ランタン! 3人で火炎魔法を同時にぶっ放せ! アプサラスとフロストもだ!」
「え? うん、わかった!」
「わかりました!」
 俺の指示に理華は戸惑いつつもアプサラスと共にうなずく。頼む、上手く行ってくれよ……
「「「アギラオ!」」」
「「ブフーラ!」」
 理華とミュウ、ジャックランタンが火炎魔法を、ジャックフロストとアプサラスが氷結魔法をぶっ放す。
3人の火炎魔法と2人の氷結魔法が重なり合い、巨大な炎と巨大な氷となり――
「ぐおぉぉぉぉ!?」
 ミトラスにぶち当たってよろめいた。よっしゃ! 今のは効いてる!
「よし! 今のを続けて――」
「おのれ……ふざけた真似を!」
「きゃあ!?」
 続けようとしてミトラスが怒鳴ったかと思うと、このかがいきなり悲鳴を上げた。
て、このかがなんか光みたいなのに包まれてる? 何が起きたんだ?
「お嬢様!? 貴様! お嬢様に何をした!」
「かの人間の魔力を使い、この地を我が物にしようとしたが……それは後だ! 貴様らを消してやる!」
 気付いた刹那が叫ぶとミトラスはなんかでっかい光を掲げてるんですけど……
話聞いてると、このかの力を使って何かしようとしてたみたいだけど……もしかしなくても、あれで攻撃する気だよね?
威力が本気でやばそうなんだけど!?
「お嬢様を離せぇ!!」
 て、やば!? 刹那が飛び出しやがった! 慌てて走り出す。ミトラスが何をしたかわからないけど、やばいって絶対!?
「でやぁ!?」
 なんか、刹那が持ってる剣が光に包まれて、それを振り落とそうとしてるけど――
「な!?」
 ミトラスの体に剣が振れた瞬間、ぱき〜んと澄んだ音と共に刹那の剣が折れた。
刹那はそのことに呆然となってるが、ミトラスは逆に持ってる剣を振り上げてる。くっそ、何してやがんだ!
「あぶねぇ!」
「きゃ!?」
 振り落とされるミトラスの剣が当たる直前になんとか刹那に飛びついて避けることが出来た。
「何してる! 逃げるぞ!」
「あ、ああ……あ……」
 声を掛けるが刹那は折れた剣を見て放心状態。ていうか、そんな場合じゃないんだけど!?
「やべ!?」
「きゃあ!?」
 それに気付いて刹那を突き飛ばす。俺も逃げだそうとするが――
「ぐあ!?」
「翔太!?」
 理華の叫び声が聞こえたが……くっそ……ミトラスが振り落とした剣を避けたまではいいが、その時の衝撃で吹き飛ばされて木に背中を打ち付けた。
そのまま、尻餅つく形で落ちて……くそぉ……思いっきりいてぇ……く、体が……
「まずは貴様からだ」
「翔太!」
 ミトラスが近付いてくるが……こっちはなぜか体が動かせない。
理華が止めようと仲魔と一緒に攻撃してくれるが――
「うるさい!」
「きゃあ!?」
「いやあ!?」
 ミトラスが放った魔法にみんな吹き飛ばされた。くそ……動けよ……
なんとか左手の銃を向けようとするが……持ち上げるだけで精一杯か……
「悔やむなら……我らが母の邪魔をした自分を悔やめ!」
「翔太ぁ〜!?」
 剣を構えるミトラス。聞こえてくる理華の叫び声。くっそ、動けぇ!!
その時、ミトラスの剣が俺に向かって真っ直ぐ伸び――
「ぐおおおおぉぉぉ!?」
「な!?」
 一瞬、その光景が信じられなかった。オニが俺の前に出て……ミトラスの剣に……刺された……
「なぜ邪魔をする!?」
「へ、へへ……わりぃが……俺のダチをやらせは……しねぇよ!」
「ぐお!?」
 ミトラスの顔面を殴り飛ばすオニ。
「く、ぐ……」
「おい! 大丈夫か!?」
 だが、すぐに背中から落ちるように倒れた。この時になってやっと体が動くようになり、俺はオニの元へと駆け寄る。
「くそ、宝玉を、って何するんだ!?」
「やめとけ……たぶん、そいつはもう効かねぇ……」
 助けようと慌てて宝玉を取り出そうとするが、オニが俺の手をつかんで止める。
「ふざけんな! 死ぬ気かよ!?」
「そんなつもりはねぇがな……核を砕かれた……」
 それで宝玉を取り出そうとするが、オニのひと言に手が止まった。
核というのがなんなのかはわからない。でも、オニの体が……消え始めたことで理解した。
「おい、嘘だろ……なんとかなんねぇのかよ……」
「はは……こうなったら、ダメだろうな……」
 悔しさのあまり手を握りしめるが、オニは笑みを見せるだけだった。くそ、なんで……なんでだよ!
「なんで、助けたんだよ……」
「は……てめぇはここで死んでいい奴じゃねぇよ……それに……お前のこと、気に入ってたからな……」
 笑みを見せたままオニは答えるが……その間にも体はどんどん消えていって……
「ふざけんなよ……こんな所で死なせるかよ!」
「はは……知り合いのために無茶するのはいいが……少しは考えて行動した方がいいぜ……」
 それでも助けようと……なんとかしようと宝玉を取り出そうとするが、オニがその手をつかんで止める。
なんでだよ……死ぬ気かよ……こんなの……あっていいわけねぇだろ……
「それがお前のいい所で……悪い所だがな……でもな……俺はそんなお前を……気に入ってた……
お前はいい奴で……俺やみんなとも良く話して……はは……俺が女だったら、惚れてたかもな……」
 その言葉を最後に……オニは消えた……なんでだ……なんで、消えなきゃならない……
なんでだよ……なんで、消えなきゃ……
「く……人間に組みする悪魔が……愚かな人間の下僕になるからこうなる……」
 立ち上がるミトラスの言葉に、俺はぶち切れた。あいつは……オニは……
「ふざけんな……オニは俺の下僕じゃない……仲魔だ……俺達の……仲魔だ!!」
 叫んでいた。ミトラスが許せなくて、ただ心の底から……その時だった。それが起きたのは。
GUMPから光が飛び出すと、それが俺の目の前で輝き――
「な!?」
 その輝きの中にアリスがいて――
「おわ!?」
 驚いてる間にアリスが俺の中に飛び込んで……これは――
「何をしたか知らんが、消えろ人間!」
「翔太!?」
 そこにミトラスが飛び込んできた。理華が叫んだ時、ミトラスは剣を振り回そうとしてるところで――
「なに!?」
 俺はその剣を刃物で受け止めた。ミトラスは驚いてるが……ああ、そうだ。今の俺なら――
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「なぁ!? ぐお!?」
 お前と戦える! その思いと共にミトラスの剣を押し返し、奴を蹴り飛ばす。
「ぬご!?」
 そこに銃を撃ち込んだ。弾丸は火球となり、それを受けるミトラスはひるんでいく。
「何、あれ……」
「わからない。でも、ただ事じゃないよ……」
 その時、理華は呆然としていたらしい。真名もそう思ってたらしいけど……
だが、俺は構わずミトラスに斬りかかる。わかってるんだ。今の俺なら、ミトラスと戦える。だが、その時間は短いことも……
「おのれ! 妙な力を持ちおって! そんなのが我に通じると思うな!」
「ダメ、あれじゃ……翔太!」
 ミトラスの剣と打ち合いになったが、やばい……こっちはそろそろ限界が近いってのに……
その時だった。ミュウが飛び込んできて――
「メギド!」
「ぐおおぉ!?」
 でっかい魔法をミトラスにぶち当てた。て、おいおい……あんなの使えるならすぐに使ってくれよ!?
でも、今はそんな暇は無い!
「ぐぅ!? おのれ、人間に組みする悪魔がぁ!?」
「俺を忘れてんじゃねぇ!!」
「何!?」
 叫ぶミトラスだが、それに構わず突っ込み――
「ぶごぉ!?」
 奴ののどに刃物をぶっ刺した。返り血を浴びながら、俺はミトラスを睨み――
「教えろ……てめぇらは何を企んでるんだ?」
 それを問い掛けた。ボルテクス界と通じる世界が崩壊する。あのゴスロリボクっ娘の話が事実なら、こいつらは関わっているはずなんだ。
だから、今ここで聞いておかなきゃならない。
「ぐ、ぬ……いつまでも……ふざける気か……人間!?」
 だが、ミトラスは激怒の表情で睨んでくる。言う気は無いか……この時の俺はぶち切れてたんだろう。
だから――
「おぶ!?」
「そうかい……だったら……とっとと消えろぉ!?」
「ごぶ!?」
 のどに突き刺した刃物を引き抜き振り上げ、叫びと共にミトラス顔を脳天から切り裂いた。
「ぐ、が! が、あが……がぁ!?」
 よろめき、尻餅をつくような形でミトラスは倒れていき、そのまま砕け散っていった。
それを見届けた俺だが――
「く、う……うぁ……」
「翔太!?」
 不意に力が抜け、前へと倒れていく。倒れた時に理華の悲鳴が聞こえ、みんなが慌てて駆け寄る音が聞こえた。
「翔太!? しっかりして!?」
 理華が俺を抱きかかえて叫んでくる。いや、叫ばなくても聞こえるけどな……そんな時だった。
「え!?」
「な!?」
「な、なに!?」
 俺の体から光が飛び出す。それに理華、真名、ミュウが驚き……いや、みんなも驚いてるか……
その光が俺のそばに下りると、光が消えて代わりにそこにそいつはいた。俺の世界にあった洋館にいたアリスが……
「よぉ……久しぶり……って言っていいのかな?」
「ごめんなさい……私がもう少し早く目覚めてれば……」
「お前さんのせいじゃないさ……」
「翔太さん? 彼女はいったい……」
 アリスと話してると、彼女に視線を向けながら真名が聞いてきた。でも、なんと話せばいいんだか……
理華やミュウ達も戸惑ってるけど、こっちはしょうがないか。なにしろ、あの時は色々とあったし。
「せっちゃん……せっちゃん! どないしたんや?」
「あ、ああ……」
 ふと、声が聞こえたんで顔をそっちに向けてみる。
そこには膝を付いて呆然と折れた剣を見ている刹那と、その彼女を呼びかけるこのかがいた。
このかはどうやら解放されたみたいだけど……
「ごめんなさい……私が……私があの時、飛び出さなければ……あの人は……」
「いいよ……もう……」
「なぜですか? なんとも思わないんですか!?」
「せっちゃん……」
 俺の返事に刹那が叫び、このかは心配そうに見ていたが……
「悔しくないわけ……ないだろ……」
「う、う……うわぁ……」
 俺のひと言に刹那は泣き出した。俺だって、悔しくないわけがない。だから、拳を握りしめて――
「やれやれ……君には本当に驚かされる」
 そこでそいつの声が聞こえた。
「な、な……」
「え? あ……」
「あ、ああ……」
「翔太……」
「な、なんだホ……あいつは……」
「怖いホ……」
 怯える真名と刹那にこのか。ま、こいつに会ったのなら、当然の反応か。
アリスも少し怯えた様子で俺にしがみついてきた。フロストやランタンもだけど。ルカも怯えた様子でゴスロリボクっ娘を見てるし。
「俺は……今はお前に会いたく無かったけどな……」
「やれやれ、つれないね」
 俺のひと言にゴスロリボクっ娘は肩をすくめていた。たく、本当にこんな時に会いたく無かったよ。
「な、何者なのですか?」
「さてね……で、何の用だ?」
 戸惑うルカにそう言いつつ、俺はゴスロリボクっ娘を睨みつける。
ま、絶対に碌なことじゃないんだろうがな。
「まぁ、賞賛……かな? ボクの予想では君がこの世界に訪れるのは全てが終わった後。
全てが手遅れで君は絶望の淵に立たされる……はずだったんだけどねぇ〜」
 やれやれといった様子のゴスロリボクっ娘。確かにフォルマが無かったら、この麻帆良に来るのはずっと先だったかもしれない。
しかし、それも素直に喜べないけどな。
「でもまぁ、ボクとしては君のその顔を見られただけでも満足しておこうかな?」
 なんて、可愛らしい笑みを向けてくれる。笑ってくれる理由はハッキリ言って殴ってやりたいがな。
「てめぇは……」
「ふふふ、その顔だよ。さてと……あれは君の物だ。持っていきたまえ」
 文句を言ってやろうとしたら、ゴスロリボクっ娘がどこかを指した。
そっちに顔を向けてみると、赤い球体……宝石みたいなのが浮かんでいる。
「大事にしたまえよ……あれは世界の崩壊を止める鍵の1つとなるからね」
 その言葉を残して、あいつは消えていった。たく、あの野郎は……
「私、取ってくる」
「あ、ちょっと待て……」
 赤い宝石の元へと飛んでいくミュウ。しかし、石版の件もあったから心配なんだけど……
「はい、これ」
「あ、ああ……あんがと……」
 しかし、何も起きずにミュウは赤い宝石を持ってきた。やれやれ、何か起きると思ったんだけど……考えすぎたかな?
しかし、これが鍵ね……あれ、待てよ?
「わりぃ……石版出してくれないか?」
「え? あ、うん」
 理華に頼んでリュックに入ってる石版を取ってもらう。それを受け取って、もしかしてと思いつつ石版に赤い宝石を近付けると――
「あ――」
 なんと赤い宝石が勝手に石版のくぼみの1つにはまったのである。うわ〜……ありがちすぎるんだけど。
それはそれとして、さっきミュウが声を出さなかったか?
「どうかしたのか?」
「え? あ、うん。なんでもないよ」
「やれやれ……あの少女は何者なんだい?」
 聞いてみたが、ミュウは笑顔で答えるだけ。なんにも無いなら、それでいいけど……
なんてことを考えてたら、真名がこっちにやってきた。でも、顔がまだ引きつってるようにも見える。
ま、普通あんなの目の前にしたら怖がるのが普通だよな。なんで、慣れてるんだろうね、俺達……
「そうですわ……あれは一体……」
「名前は知らない。ただ、俺の困った顔を見たくてこんなことに巻き込んだらしいがな」
 ルカも少し怯えたように聞いてきたけど、俺としてはこうとしか言えない。
たく、本当に変なのに目を付けられたよね、俺……なんでこうなったんだか……
「せっちゃん……」
 あっちは落ち着いたのか、このかが刹那を心配そうに見ている。
刹那といえばすまなそうにこっちを見てるだけ。折れてる剣は持ったままだけど……
「あ〜……その剣だけど、直そうか?」
「え?」
「直せるのかい?」
 俺のひと言に刹那の表情が変わり、真名もそんなことを聞いてくる。いや、剣のことは詳しくないけどさ――
「ボルテクス界に刀鍛冶の知り合いがいるから、その人に頼めば直してもらえると思うけど……」
「いいの……ですか?」
「まぁ、いったんボルテクス界に戻らなきゃダメだけどな」
 とりあえず答えると、刹那がなぜか不思議そうな顔で聞いてくる。ただ、村正さんはボルテクス界にいるんでそう答えておいたけど。
で、なんで直そうかと言い出したかというと……まぁ……なんていうか、見てると可哀想というか……見てられないというか……
「これからどうするの?」
「そうだな……とりあえず、戻ろうか……それに色々と聞きたいこともあるし……」
 モー・ショボーの問い掛けにそう答えておく。とりあえず終わったんだ。戻るしかないだろう。
それにこっちをすまなそうに見てるアリスにも色々と話を聞きたいし……
なんて、この時はそんなことしか考えてなかった。それが甘いと思い知るのは……いつものことか……


 out side

 ミュウは戸惑っていた。最近、自分の体に何かが起きているのを感じて。
あの石版を触ってから、時折違和感を感じるようになった。最初はそれほど気にはしてなかった。
違和感といっても体に不具合が起きたわけでもないし、強力な魔法を使えるようにもなっていたので逆に喜んだくらいだ。
だが、今は違う。あの時……翔太がアリスと同化し、ミトラスと戦った時――
あの時、翔太が危ないとハッキリとわかった。なんで、わかったのかはわからないけど……
でも、危ないとわかったからなんとかしたくて……気が付いたら、使えないはずの魔法を使っていた。
わかるはずのないことがわかり、使えないはずの魔法が使えてしまい……
そして、石版に赤い宝石がはめ込まれた時、何かが自分に流れ込んでくる感覚が生まれた。
それがミュウを戸惑わせる。自分に何が起きているのかと……


 その一方でその者は隠れながら翔太達の様子を見ていた。
「魔人融合ですか……アリスさんをGUMPに宿らせたとはいえ、まさかあんなことが起きるとは……」
 なんてことをシンジはつぶやいていたりするが、その表情はどこか悩んでいるようにも見える。
「しかし、人の身で魔人の力を使うのは無茶でしょう……使い続ければ、翔太さんは……」
 沈痛な面持ちのシンジ。ふと、右手にある物に視線を向ける。
それは光だった。優しくもどこか力強さを感じる輝きを放つ光を――
「どうやら、あなたは彼のそばにいた方がいいようですよ」
 まるで光に語りかけるように話すシンジ。その後、景色に溶け込むかのようにその姿を消していった。

 この時、翔太は気付いてもいなかった。自分の知らないところで事態が動いていることに――




 あとがき
というわけでオニが倒され、その怒りで翔太はアリスを復活させ、魔人融合という力を手に入れました。
しかし、その一方でその力を危惧するシンジ。彼が持つ光はいったい……
一方でミュウは自分の身に起きていることに戸惑っています。果たして、ミュウに何が起きたのか?
そんなわけで麻帆良異界編はこれにて終了。ですが、麻帆良編はまだ続きます。
組織のしがらみに囚われる翔太達。それが元である事態に巻き込まれることになり――
さて、翔太達はどうなってしまうのか? 次回をお楽しみに〜



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