in side
「なるほどな……」
俺は今、真名の肩を借りながら森の中を歩いている。その道中、俺達はアリスのことを聞いていた。
アリスは元々あの洋館に住んでいた夫婦の1人娘であり、普通の人間だったらしい。そして、その夫婦と幸せな生活をしていた。
それが現われるまでは……
ある日、ボルテクス界から1体の悪魔がアリスの前に現われた。
これは後で知ったんだけど、ボルテクス界の穴は短い時間に現われる物なら数日に1回の割合で現われるらしい。
その短い時間に現われた穴に悪魔が入り込み、俺達の世界に来てしまい……アリスを見つけてしまった。
アリスにとって不幸だったのは、彼女がある力を持っていたことだ。
どんな力かは今もわからないとのこと。もしかしたら、俺と融合出来たのがそうなのかもしれないけど。
ともかく、その力は悪魔にとっては魅力的で、それで奪い取ろうとしたらしい。
もちろん、アリスは拒絶したのだが……この辺りのことは彼女の記憶が曖昧で良くはわからないのだが、その悪魔と同化してしまったらしいのだ。
そして、悪魔はアリスの力を自分の物にしようと彼女の精神を乗っ取ろうとした。
当然、彼女は抵抗したけど……まだ幼かった自分ではいずれ抵抗出来なくなることを理解していたらしい。
「悪魔と同化したせいで……悪魔の記憶が私の中に流れ込んできたんです。そのせいで自分が自分じゃ無くなるのがわかって……怖くて……」
なんてことをつらそうに言っていたしな。なんか、見た目より大人びた感じを受けるのはそのせいかもしれない。
で、このままでは夫婦にも迷惑が掛かると思い、アリスは自らの手で命を絶った。それは夫婦を守るために行ったつもりであった。
しかし、非情にも自分の魂は悪魔と同化したままこの世に残ってしまい……
夫婦も自分の死が不可解すぎたために疑われ、結局は会社の倒産に追い込むなど不幸にしてしまった。
そのことに絶望したアリスは完全に悪魔に取り込まれ、洋館で見た感じになってしまったらしい。
で、俺の世界とボルテクス界が繋がったことで生体マグネタイトがわずかずつではあるが流れ込んできたこと。
また、ボルテクス界からやってきた悪魔がアリスに惹かれたのか洋館に集まってしまい、それで実体化してしまい……例の幽霊騒ぎになってしまったと。
ん〜、話を聞いてると俺の世界にも悪魔が結構行ってるみたいだな。なんとかした方、いいんだろうなぁ。
それであの洋館騒ぎで俺に傷付けられたのと俺の言葉で正気に戻り、アリスは今度こそ悪魔をなんとかしようと自殺するつもりだったらしい。
だが、なぜかGUMPに宿ってしまった。理由はアリスにもわからなくて……
ミトラスとの戦いの時に俺の声が聞こえて、出てこれたというわけらしい。それはいいんだが――
「ごめんなさい……私がもっと早く、目を覚ましていれば……」
「いいって言ってるだろ……」
つらそうにうつむくアリスにそう言ってやるが……さっきからこの調子なんだよ。
どうやら、オニが死んだのは自分のせいだと思っているらしい。でも、あれは誰が悪いかと考えたら、ややこしくなるんだろうなぁ……
というのも、刹那もオニが死んだのは自分のせいだと思ってるようで、落ち込んでるらしくうつむいたまま歩いてる。
このかが慰めてるが、効果は無いようだ。ま、俺としても責任を感じてたりするんだけど。
だってさ、あの時体が動いてればと思うとさ、やっぱり悔しいしな。
「いいの……ですか……あなたは?」
「それでオニが戻って来るんだったらな」
顔を上げて聞いてくる刹那だが、俺はそう答えておく。それで刹那がまた落ち込んだけど。
何度も言うようだが、俺だって悔しくないわけじゃない。正直に言えば、怒りたい気持ちだ。
けど、それでオニが戻って来るわけじゃない。それを考えると、怒る気にはなれなかった。
だから、今はこの話をしたくはなかった。色々と考えてしまいそうだし……
そんな微妙な空気なまま、俺達は森の中を歩き続けるのだった。
out side
「来たな」
こちらへと近付いてくる人影の群れを見つけ、エヴァはそんなことを漏らす。
思うのはあの翔太のこと。足手まといになってなければいいのだが……などと、意地悪な笑みを浮かべつつ見ていたが――
「あ、タカミチ……あれ? ショウタさん達は?」
やってきた高畑に笑顔で駆け寄るネギであったが、翔太達の姿が無いことに首を傾げる。
エヴァもそのことに訝しげに視線を向けていたが――
「ああ、彼らなら異界をなんとかすると言って、桜咲君と龍宮君と一緒に奥へと向かったけど……この様子だとなんとかなったみたいだね」
「なに?」
高畑の話にエヴァが睨みを向けた。エヴァは異界をなんとかしたのは高畑だと思っていた。
なにしろ、翔太はどう見たって一般人だ。気も魔力も感じない。動きも素人。それ故にだが――
「え? え? 刹那さんと龍宮さんがなぜ?」
「ああ、そうか……ネギ君は知らないだろうけど、2人は魔法使いの事情を知っていてね。時々、ボク達のことを手伝ってもらってるんだ」
「そうなんですか!? でも、なんで桜咲さんと龍宮さんが一緒に?」
戸惑うネギに高畑が説明するが、明日菜が驚きながらも聞いてくる。
あまり話す機会がないとはいえ、クラスメートがなぜそんな所に向かったのか気になったのだ。
「んむ……どうやら、このか君が中にいるかもしれなくてね。それで探すために一緒に向かったんだ」
「このかが!?」
高畑の話に明日菜が驚く。彼女にとってこのかはクラスメートであり、寮のルームメイトでもある。
親友といっていい彼女があの中にいたかもしれない。そのことに驚きながらもこのかの身を案ずる明日菜。
「おい……あの翔太とかいう奴はどうなんだ?」
「どう……って?」
と、いつの間にか近くにいたエヴァが高畑にそんなことを聞いてくる。
しかし、意味がわからず高畑は戸惑うが――
「奴は足手まといではなかったと思ってな」
「ああ……いや、そんなことはないよ。むしろ、助けられたと言ってもいいね。
あの中にいた悪魔というのはボク達が知るのとはまったく別種だった。翔太君に対策を聞いてなかったら、戦うのも難しかったかもしれない。
それに彼らがいたからこそ、中に入った生徒達を助けられた。まぁ、流石に全員とはいかなかったけど……」
エヴァの問い掛けに高畑は苦笑しながら答える。
どこかへ連れ去られた生徒や魔法先生、魔法生徒達を高畑達は戻る時に探してみたが、結局は見つけられなかった。
それどころか――
「え? もしかして、裕奈? それに那波さん? それに大河内さんまで……もしかして、あの中にいたの?」
「う、うん……私達、あの翔太って人に助けられて……戻ってこようとしたんだけど……」
「何かあったのか?」
裕奈と千鶴、アキラに気付いた明日菜が驚きながらも問い掛けると、裕奈が少し怯えた様子で話していた。
その様子にエヴァは訝しむが――
「いや、実はね……彼女達や調査隊のみんなを助け出して戻ろうとしたまでは良かったんだけど……
閉じ込められたようになってたらしくて出られなかったんだ。それでどうしようかと思っていたら、異界が消えてね。
もし、あのままだったら危なかったよ」
「なんだと?」
苦笑しながら話す高畑。翔太達と別れた後、戻ろうとして異界の端にたどり着いたまでは良かった。
しかし、そこから出ることが出来ず、その上悪魔達の襲撃にあってしまった。
悪魔達は翔太達から対策を聞いていたので、魔法先生や魔法生徒達と連携して戦ってこれたが……
何度も来られては疲弊してしまい、このままでは……という時に異界と悪魔が消えて助かったのである。
その話を聞いたエヴァの視線が鋭くなった。異界をなんとかしたのは高畑だと思っていた。
しかし、話からするとどうも違う。それどころか翔太達が異界をなんとかしたように思える。
「翔太は……強いのか?」
「そうだね……武術を習ってるとかそういう風には見えないし、気も魔力も使えるようには見えなかった。
でも、強かったよ。ビックリするくらいにね」
エヴァの疑問に高畑は頬を指で掻きながら答えた。それで高畑は思う。翔太はもしかしたら戦い方を習っていないんじゃないかと。
自分は修行をしてから戦いに身を置いたが、彼はそれをせずに戦いに身を置いたのではないかと。
それなら彼の素人くさい動きに説明が付く。だが、一方で疑問なのがあの速さだ。
あの速さは高畑としては気か魔力で強化でもしなければ出来ないと思っている。だが、翔太はそれをしている様子は無い。
それが高畑としても疑問だったが――
「あ、あれってショウタさん達じゃないですか?」
と、ネギが指さす。エヴァ達が顔を向けてみると、そこには真名に肩を借りながらこちらに来る翔太や理華に刹那、
このかに仲魔達がこちらへと来る姿が見えていた。
「このか!? 大丈夫なの?」
「あ、うん……うちは大丈夫なんやけど……」
このかに駆け寄り心配する明日菜であったが、このかはなぜかすまなそうな顔で刹那と翔太の顔を見ていたりする。
「何かあったのかい?」
「色々とあった……としか、言えないな……」
高畑も気になって問い掛けるが、翔太はため息混じりに答えるだけである。
そこで高畑は気付いた。翔太の仲魔の1人の姿が見えないことに。見知らぬ女の子のことも気になるが……
そのことに高畑は何があったのかを悟った。詳しい経緯はわからないが、その仲魔は誰かをかばって――
「そうか……それにしても、君は大丈夫かい?」
「疲れたくらいで……大した事は無いな」
またもため息混じりに翔太は答えるが、高畑にはそうは見えなかった。
どう見たって翔太はボロボロだ。それは理華に刹那、真名や仲魔達も同じだが、翔太は特にひどいように見える。
真名の肩を借りている辺り、そうしなければまともに歩けないくらいに疲弊しているのかもしれない。
「はい、もしもし?」
そんな時に持っていた携帯の着信音が鳴り響き、ポケットから出して繋げる高畑。
「はい、はい……ええ、はい……わかりました。ふぅ……学園長が君達に会いたいそうだよ」
「やれやれ……少し休ませて欲しいんだけどね……」
「はは、申し訳無いね」
やれやれといった様子の翔太に高畑は苦笑しながら携帯を閉じていた。しかしながら、これは仕方がないことだと高畑は思う。
翔太達は個人的には信用出来るものの、組織ともなればそれだけで判断材料にするわけにはいかない。
それにここに来た目的に関して、翔太は言葉を濁しているのはわかっていた。それを聞いておく必要がある。
すまないとは思いつつも、高畑もまた組織に属する1人として行動しなければならない。
そんなわけで翔太達は学園長室へと向かうことになったのだった。
in side
学園長室に向かうためにミュウ達をGUMPに戻してから、高畑さんに案内されつつ向かうことにした。
しかし、いつもはGUMPに入ることを文句を言うミュウが大人しかったのは不思議に思ったけど。
それはそれとして、学園長室ってことはあの人がいるんだよな? やっぱり、マンガ通りの頭なんだろうか?
なんてことを考えたりして……いや、気になるじゃん? しっかし、どうなるんかね、俺達って……
あとがき
そういうわけで今回からは麻帆良編が始まります。
しかし、今回は短すぎたかもと反省……まぁ、なんでこんなに短いかは……
一身上の都合ということで……(おいおい)
後、拍手のご質問ですが、この作品では物理・銃による吸収は無いものとしております。
というのも、魔法はまだしも物理とか銃とかの吸収による表現が難しいので^^;
なので、代わりに物理反射も有りにしておりますが……大抵のボスは物理反射持ちないんですよね。
それはそれとしまして、翔太達は組織のしがらみに囚われてしまいます。
果たして、彼らはどうなってしまうのか? しかし、話は意外な方向に?
というわけで、次回をお楽しみに〜
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