in side
「ほほほ……君達が相川 翔太君と谷川 理華君じゃな」
「え、ええ……」
問い掛ける老人に理華が戸惑った様子で言葉を返すが……
あ、ちなみに俺と理華は用意してもらった椅子に座ってる。流石に立ってるのはキツイしな。
刹那と真名に頼んだおかげで椅子を用意してもらったってわけ。で、理華がなんで戸惑っているかというと――
「あなた……本当に人間?」
「なぜ、そう思うのじゃな?」
「だって、頭が長いホ」
「お前ら、気持ちはわからなくもないが……とりあえず、あまり気にしない方がいいぞ」
ミュウの疑問に老人は首を傾げるが、フロストが指を差してんなことを言い出す。
そ、もうわかっている人もいるだろうが、老人とは麻帆良学園学園長の近衛 近右衛門だ。
まぁ、2人の気持ちも本気でわからなくもない。見た目仙人とかそういう感じだし。なので、頭を抱えつつそう言っておいた。
いや、俺も実際に見て、本当にあんな頭なんだと思い知らされたけどね。
そうそう、ミュウ達は今は出しっぱなしである。学園長が実際に見てみたいと言い出したんで、喚び出す羽目になったんだが――
「あ〜、俺からもいいですか?」
「なんじゃね?」
右手を軽く上げてそんなことを言ってみる。学園長は顔を向けたが、俺は1回盛大にため息を吐き――
「周りの人達、なんとかなりません?」
本音をぶちまけてみる。言い忘れてたが、俺達がいる場所は学園長室だ。
ここには俺と理華に仲魔達、学園長に高畑さんと刹那に真名とエヴァに茶々丸……ここまではいい。
問題なのは魔法先生と魔法生徒がいるってこと。しかも、大勢……更にはこっちをめっちゃ見てる。
ていうか、明らかに睨んでますよね? なんで睨まれてるかはわからなくもないけど、流石に居心地悪すぎるって。
「ああ、すまんのぉ……さて、まだ名乗っておらんかったの。
わしは近衛 近右衛門。この麻帆良学園の学園長をしておる。君達のことは高畑君や刹那君、真名君らから聞いておるよ。
君達のおかげで君達が言う異界という空間から生徒を助け出せたことや異界の消滅に貢献してくれたこともな。
じゃが……君達はこの麻帆良に不法侵入したというのも事実なのでな。故に彼らから見れば、君達は得体の知れぬ輩なのじゃよ。
なので、申し訳無いのじゃが――」
「あ〜……そういうことでしたら、しょうがないですよね……」
学園長の話にやっぱりかと思い、1人納得する。いや、俺だって穴を抜けたらネギま!の世界だったなんて思わなかったよ。
ていうか、普通そんなこと思わないよね。……今、思ったんだが、次の世界もアニメやゲーム、マンガとかの世界じゃないよな?
なんだろう……すっげぇ、不安になってきたんだけど……それはそれとして、彼らから見れば俺達は不法侵入したみたいなもんだし。
「それでじゃ……高畑君らに話を聞いてはおるが、改めて聞きたい。君達はなぜに麻帆良に来たのかを」
で、学園長にそんなことを聞かれるが……悩む。理由は単純、言って良いものかと。
なにしろ、俺だってまだ半信半疑――
「いいかな? あの時、現われた女の子は世界が崩壊がどうとか言ってたように思えるんだけど……それが関係してるのかい?」
「どういうことかの?」
右手を軽く挙げて聞いてくる真名に学園長が顔を向けるけど……そういや、あの場には真名や刹那、このかもいたんだっけ。
となると、誤魔化すのは無理だよなぁ……
「まだ、話していませんでしたが……あの場に女の子が現われてそんなことを言ったんです」
「ふむ……その女の子とは何者かの?」
話を聞いた学園長が視線を向けつつ聞いてくるが、真名はというとなぜか顔を背けた。隣にいた刹那も複雑そうな顔をしている。
「どうしたのかの……」
「その……なんと言えばいいか悩みますが……1つだけ言えるのは……怖いんです」
「怖い?」
顔を背けながら答える真名だが、問い掛けた学園長はといえば首を傾げるが……その顔は少し驚いたといったようにも見える。
まぁ、真名のその一言に周りにいた魔法先生や魔法生徒達が騒がしくなった。
でもまぁ、気持ちもわからなくはない。俺だって、普通に話してはいるけど……ゴスロリボクっ娘に敵うとは絶対に思えないもん。
「怖いとはどういうことかね?」
「言葉通り……としか言えません。見た目は黒いドレスを着た女の子でしたが……ハッキリと言えます。
あれは人じゃない……あれは……なんと言えばいいかわからないけど……とんでもない者だというのはわかるんだ……」
学園長の問い掛けに真名は顔を背けたまま話すけど……良く考えたら、あいつって何者なんだろ?
俺も未だに名前も知らないしな。今度あったら聞いておこうかな? どこで会えるかわからんが……
「ふむ……どういうことかの?」
「言っとくが、俺も知り合いってだけで、そいつのことは名前も知らない。あっちから勝手に話しかけてくるしな。
それとそいつに関しては俺も真名と同意見だ」
学園長に聞かれるが、俺は肩をすくめて答える。真名の気持ちはすっごくわかるしな。
「普通に……話していたようでしたが?」
「話すだけならな。何度か顔を合わせてるし……でも、戦うとなると絶対に負ける自信はあるぞ」
「それは情けすぎないか?」
刹那にそう言われるが、俺だって何度か会ってたおかげで慣れてるだけ。さっきも考えたが、勝てるなんて絶対に思えないぞ。
それに関してエヴァに呆れられるが、あいつに直接会ってみろ。エヴァの封印が解けてたとしても勝てないと思うぞ。
ふと思ったんだが、エヴァって封印が解けたらどんだけ強いんだろ? ちょっと気になるな。
「そうか……それはそれとしておこう。で、世界の崩壊とはどういうことかの?」
と、学園長が視線を向けて聞いてくる。理華も心配そうにこっちを見てるが……しょうがないか……
「俺もそいつに話を聞いただけで詳しいことはわからないが……ボルテクス界とボルテクス界と繋がった世界が崩壊するらしい」
俺が話すとわずかに騒がしくなるが……良く見てみると誰もが戸惑っている……というか、良くわかってないように見える。
だが、学園長だけは違った。なにやら睨むようにこっちを見てくる。
「それは……この麻帆良も崩壊する……ということかの?」
「そいつの話を信じるなら……な。ま、麻帆良ごとこの世界が……って、ことになるんだろうけど」
そのことに気付いた学園長が聞いてきたのでそう言っておく。その途端、周りが騒がしくなった。
まぁ、自分達の世界が崩壊すると聞けば、こうなるのは普通か……でもまぁ、こっちを睨んでくるってことは信じられないってとこだろうけど。
「それは……本当かい?」
「俺達も半信半疑だよ。でも、そいつはボルテクス界と繋がった世界に崩壊を止める鍵があるって言ってね。
俺達は話が本当か確かめるためにあちこちの世界に行ってるんだわ」
戸惑っている様子の高畑さんにそう言っておく。まぁ、あちこちといっても、まだ麻帆良を入れて2つしか行ってないけど。
あ、自分の世界を入れたら3つか?
「ふむ……鍵とはどういう物かの?」
「ああ、これなんだけど――」
学園長に聞かれたんで、椅子の横に置いてたリュックから石版を取り出して、学園長に渡したんだけど――
「ふむ……何かしらの力を感じるが……すまぬが、これをここで調べてもいいかの?」
「あ、いや……俺達、明日ボルテクス界に戻るんだけど?」
「もう……行ってしまうのかい?」
学園長に聞かれるけど、そう言っておく。高畑さんに驚かれたけど、麻帆良でやることはもう無いしな。
なんてのは甘い考えだったというのは後で思い知るんだけど、それはいずれ話すとして――
「まぁ、長居する理由も無いし……」
後頭部を掻きつつ、そう言っておく。本音を言うとネギま!の世界に来たんだから、ネギのクラスの人達には会いたいけどね。
だってさぁ……実際、どんな奴らなのか見てみたいじゃん? でも、今も魔法先生や魔法生徒達にめっちゃ睨まれてます。
なので、下手なことするとなんかとんでもないことになりそうなので、泣く泣く諦めることにしたと。
で、なんで明日にしたかといえば、動くのもやっとな状態でボルテクス界に戻るのは自殺行為だから。
確かに魔石とかを使えば体力を回復は出来るけど……今回は色々とありすぎたしな。
今日はもうゆっくりと寝たいというのが本音だったりする。
「そうか……なら、仕方がないの……」
「あの、いいでしょうか?」
学園長が石版を返しながらため息を吐いた時に刹那は右手を遠慮がちに挙げて――
「なにかの?」
「あの……私もボルテクス界に行ってもいいでしょうか?」
「いや、なぜに?」
学園長の問い掛けに刹那はんなことを言い出すが、本気でわけわからんかったので思わず聞いてしまう。
いや、本当になんでいきなりそんなことを?
「理由を聞いていいかの?」
「その……翔太さんがボルテクス界に行けば、私の剣を直せるかもしれないとおっしゃっていたので……
あの……お手を煩わせるわけにもいかないと思ったものですから……」
学園長の問い掛けに刹那はうつむきながら答えていた。そういや、そんな話もしてたっけな。
でも、付いていくって……いいのかね? 刹那って、中学生だよね? それに今、何月だろ?
まだ、学校があったと思ったけどな? それにこのかの護衛どうするのさ?
「本当かの?」
「え? ああ……俺達の武器もボルテクス界にいる刀鍛冶の人に造ってもらった物だしな。
だから、もしかしたらと思って言ってみたんだけど……けど、来るって言ったってなぁ……」
学園長に答えつつ悩む。つ〜のも、当然だがボルテクス界にも悪魔はいる。
まぁ、刹那の実力なら大丈夫そうだけど、俺達も付いていかないとマズイだろうし……
「しかし、付いていくといってもな……もう少しで修学旅行なんだぞ? 時間は大丈夫なのかい?」
「それは……その……」
「ふむ……その場所まではどれくらい掛かるのかの?」
真名に言われて刹那は困ったような顔をする中、学園長が問い掛けてくる。
「ここと繋がってる穴から4時間くらいかな? でもまぁ、時間のズレがあるだろうし……」
「時間のズレとは?」
考えながら答えるんだけど、学園長にそのことを聞かれる。
ちなみにだが、幻想郷からボルテクス界に戻った際にも時間のズレが起きてた。
正確な時間はわからないけど、幻想郷で1日すごしたのにもかかわらず、ボルテクス界じゃ数時間ほどしか経ってなかったしな。
「俺達も良くはわからないんだけど、穴のせいで時間の進みが変わるというか……
例えば、ここで1日すごしてもあっちじゃ数時間しか経ってないとか。あ、その逆もあったりするんだけどな」
とりあえず、正直に話してみるが……学園長の様子を見てると良くわかってないように見える。
まぁ、俺も良くわからんし……しょうがないといえばしょうがないか。
「刹那君の件じゃが、わしからもお願いしても良いかの?」
「へ? あ、いや……なぜに?」
「世界が崩壊する云々はともかくとして、ボルテクス界というのがどういう所なのかを調べる必要がある。
しかしながら、何もわからん場所にただ人を送るのは危険じゃからな。そこで君達と一緒に行ってもらいたいと思ったのじゃよ」
思わず問い掛けるけど、学園長の話に納得。確かに俺達も初めての場所は警戒するしな。
でもなぁ……俺達の場合、探索が主になるから、どうしても危険な場所に行くことになるんだけど――
ていうか、刹那はこのかの護衛は本気でどうする気なんだ?
「あの……俺達の目的考えると危険な場所とかに行くんですけど……それでもいいんですかね?」
「ふむ……では、一定期間の間だけというのはどうじゃろうか? 刹那君は学生故、それほど長い期間はおられんからの」
とりあえず、そのことを言ってみると学園長がそんなことを言い出した。
しかし、まぁ……麻帆良にあった異界の中にいた悪魔は、麻帆良と通じる穴と大体同じだったしな。
刹那1人じゃ流石に無理だろうけど、俺達と一緒ならなんとか戦えるだろう。
それに次の世界に通じる穴がどこにあるかはわからないし。意外と麻帆良に通じる穴の近くにあったりするかもしれないし。
「まぁ、俺達から離れないようにしてもらえれば……」
「ちょっと翔太。いいの? そんなこと言って?」
後頭部を掻きつつ答えると、理華が耳元でそんなことを聞いてくる。
まぁ、確かに理華の気持ちもわからなくもない。問題が無い訳じゃないしな。でも――
「でもさぁ、勝手にボルテクス界に行かれて、異界の中であったことがまた起きても嫌だろ?
それに断ったら怪しまれるかもしれないし……」
と、理華に耳打ちしながら答える。たぶんだけど、俺達が連れていかなかったとしてもこの人達はボルテクス界を調べると思う。
で、ボルテクス界には当然だが悪魔がいる。そんなのと相手をしたら、麻帆良の異界であったことの二の舞になりかねないしな。
後、学園長も言ってたけど、俺達はここじゃ不審者だし。だから、変に疑われるようなことはしない方がいいだろうし。
「ふむ、話し合いは済んだかの?」
「ああ、すいません。とりあえず、OKということで」
学園長に聞かれて、慌てて答えた。まぁ、断るろうにもなんて言えばいいか……危険だからってだけじゃ、納得しなさそうだしな。
とりあえず、近くにいてもらって、適当な場所に連れて行けばいいかな?
「あのさ……今思ったんだけど……今日はどこに泊まるの?」
なんて、ミュウのひと言に固まる。そうだった……泊まる場所、考えて無かった……
やっべ……頼むしか……ないよね? この場合は?
「あ〜すいません……こんなこと言うのもなんですが……泊まる場所ってないですか?」
渇いた笑みを浮かべてるなぁ〜と思いつつ、後頭部を掻きながら聞いてみる。
幻想郷の時は霊夢の家に泊まらせてもらったけど……ここじゃそう簡単には――
「ふむ、そうじゃの……」
「なら、私の家に来い」
学園長があごに手をやって考える素振りを見せるとそんなこと言う人は……エヴァ?
なんか、腕を組みつつ不敵な笑みを浮かべてこっち見てるんですけど。
「良いのかの?」
「ああ、こやつらには色々と話を聞きたかったのでな。ちょうどいい」
学園長の問い掛けにエヴァは不敵な笑みを崩さずに答えるんだけど……話を聞くって、何聞く気だろ?
「ふむ……翔太君は良いかの?」
「ええ、まぁ……泊めてもらえるなら、別に文句はありませんし」
学園長にそう答えておく。まぁ、行き当たりばったりだしねぇ。泊めてもらえるだけ感謝だよな。
「ふむ、わかった。今回はこれで解散としよう。じゃが、高畑君とエヴァンジェリン、刹那君と真名君は残ってくれ。
少々話しておきたいことがあるのでな。翔太君達は別室で待ってもらえるかの?」
「ああ、それでしたら別に構いませんけど?」
「すまんの。誰か、翔太君達を隣の部屋に連れていってもらえんかな?」
「それじゃあ、ボクが。付いて来てください」
「あ、はい」
学園長の話にそう返すと、学園長に言われた魔法先生に隣の部屋へと案内された。
ちなみに案内した魔法先生はどっかで見覚えがあるなぁ〜と思ったんだけど……それを思い出すのはボルテクス界に戻ってからだった。
で、その魔法先生は瀬流彦という人だったというのはまったくの余談である。
out side
「さて、改めて聞いておきたいのじゃが……君達から見て、翔太君達はどう思えたかの?」
翔太達が隣の部屋に案内され、魔法先生や魔法生徒達が学園長室を去った後、残った学園長に高畑、エヴァ茶々丸、刹那と真名は話し合っていた。
なぜかといえば、翔太達をどう見るべきか? である。どういうことかというと、翔太達に関してはまだ不明な所が多い。
故にそこを疑わなければならない。理不尽にも聞こえるが、組織としては翔太達の言葉を全て信用するわけにはいかない。
特に守る物がある以上、そういったことをしなければならないのだ。
ちなみに茶々丸が残っているのは、エヴァの従者としてである。
「ボクは信用出来ると思います。彼がいなければ、生徒達を助けることも異界をどうにかすることも出来なかったと思います」
「私も高畑先生と同じです。翔太さんがいなければ、お嬢様をお助けすることは出来ませんでした……」
高畑に同意する形で話す刹那であったが、その表情は沈んでいる。自分がなんの役にも立っていないことに落ち込んでいたのだ。
しかしながら、あれは刹那が役に立っていないとは言えない状況であった。
相手は高位の悪魔。フォルマで合成し、強化された武器ですら大したダメージを与えられぬほどの強さを持っていたのだ。
刹那の力が通じなかったのも、致し方ないと言える。
「そういえば、あやつはどうやって異界を消したのだ?」
「ミトラスと名乗った悪魔を翔太さんが仲間と協力して倒したのさ。といっても、かなり危うかったけどね」
「なんだと?」
真名の話に問い掛けたエヴァの視線が鋭くなる。というのも、気になるひと言があったからだ。
「どうしたのじゃ?」
「私の記憶違いでなければ、ミトラスとは古代ローマに存在した神の名前だったはずだ」
「な……道理で……」
学園長の問い掛けにエヴァはそう答える。ミトラスとはローマ帝国時代に存在したとされるミトラス教という宗教の神の名前である。
ただ、その実態などは不明な点が多く、解明されてはいない。
そのエヴァの話に真名は思わず納得していた。確かにあの強さは半端じゃなかった。
なにしろ、普通の攻撃はまったくと言っていいほど効かない。強力な魔法は一応効いてはいたが……倒せるかとなると話は変わってくる。
ミトラスの攻撃も喰らえば一撃で塵と化しそうな威力があった。それが神と聞かされれば、思わず納得してしまいそうになる。
「そやつは本当にミトラスだったのか?」
「さてね……そいつがそう名乗っていただけだし。でも、強さは本物だった。
こっちの攻撃は効かない上に、あっちの攻撃はとんでもなくてね。あのままだったら、間違いなく殺されていただろうな」
「そんな奴をどうやって……」
肩をすくめながら話す真名ではあったが、内心は冷や汗を流していた。
言うなれば恐怖。ミトラスに敵わないとわかったが故に感じた感情であった。
その話にエヴァは思わず問い掛ける。それが本当にミトラスなのかは別として、真名の話からして実力は本物だろう。
そんな者をどうやって倒したというのか? 様子からして、刹那や真名が倒したとは思えない。となると――
「翔太さんがあのアリスって子と融合してね。それでミトラスと戦えるようになったのさ。で、仲魔の援護もあって倒したと――」
「ほぉ……」
真名の話にエヴァは興味深そうな目を向ける。
大したこと無いと思っていた者が異界に巻き込まれた者達を助けただけでなく、相当な実力者を倒した。
倒し方は気になることが色々とあったが、エヴァとしてはそれなりに興味をそそられたのだ。
「ふむ、そうなると……その翔太という少年を見過ごすわけにはいかなくなったの」
あごに手をやりながら学園長はふと漏らす。組織としては翔太が何者なのか? というのをどうしても疑わざるおえない。
エヴァも翔太はどこかの組織に属していると考えているし、異界や世界の崩壊の対処以外に何かしらの目的があるのではとどうしても思ってしまう。
まぁ、その辺りは完全に杞憂なのだが、組織というのは難儀なもので、どうしてもその辺りを警戒してしまうのである。
なまじ、守るものがあるとなれば、当然なのかもしれないのだが――
「ふむ、刹那君の言っておったことじゃが、何人か付けた方が良いかもしれんな」
「確かに……そうかもしれませんね」
学園長の言葉に高畑がうなずくが、これはそれぞれ思惑が異なる。
学園長としては刹那だけでは危険かもしれないと考えている。もしも、翔太が敵対者であった場合、刹那だけでは対処出来ないと判断したのだ。
それに翔太の背後に何かしらの組織があることも考えられる。それが存在するなら、確認をと考えたのだ。
高畑も似たような考えだが、こちらはボルテクス界という世界に対する警戒からである。
翔太からボルテクス界にも異界に現れたような悪魔が存在するのは聞いている。いくら翔太達が付いているといっても、刹那だけでは厳しいと思ったのだ。
一方の刹那がなぜ翔太達に付いていこうとしたかといえば、見極めるためである。いや、ある種の希望を見出したとも言える。
明らかに姿形が異なる存在、悪魔……その者達と時には戦い、時にはまるで普通の友達と変わらぬかのように接する。
そんな翔太が不思議に思えて……だからだろうか? 彼に何かしらの希望を見出したのは……
自分が変われるかもしれない。なぜか、そう思えて……ただし、それだけでなく、もう1つの理由があった。
なにしろ、あの時自分が飛び出さなければ翔太の仲魔は……そのため、何か償いをと思わずあんなことを言い出したのだ。
「もう1人じゃが、真名君。行ってくれるかの?」
「それが依頼なら、私は行くだけだよ」
「ふむ。それともう1人付けよう。こちらはボルテクス界の調査員となるがの」
真名の返事にうなずきつつ、学園長はそのことを告げた。翔太の事も気になるが、ボルテクス界というのがどんな所かも気になる。
故にその辺りの調査を怠るわけにはいかない。なので、刹那と真名と一緒に行かせる者とは別の調査団をボルテクス界に向かわせる必要はある。
ただ、そのまま向かわせても異界での二の舞になりかねないので、慎重を期さねばならないが。
「ありがとうございます。それでその……私がいない間、お嬢様のことは――」
「そのことはわかっておる。今の予定ならば、タカミチ君もしばらくは麻帆良におるし、魔法先生や魔法生徒達もおる。
早々、心配することにはならぬよ」
「はい」
学園町の話に刹那は頭を下げた。このかの護衛であるはずの自分が離れるのは本来ならばしてはいけないことだ。
だけど、今のままではこのかの護衛もまともに出来そうにない。ボルテクス界に行くと言い出したのも、気持ちの整理を付ける為であった。
「そうじゃ……そのミトラスという者は何が目的なんじゃろうな?」
「さてね。ただ、我らが母の願いと言っていたから、何者かの指示で動いているのは間違いないと思う」
「我らが母か……」
ふと、そのことを思い出して問い掛ける学園長。真名は答えるが、学園長はその意味を考えようとあごに手をやる。
この時、彼らはまだ気付いてはいなかった。自分達の想像も付かないことが行われていようとしたことに――
あとがき
そんなわけで刹那と真名が翔太達に同行することになりました。
ただし、期間限定的なものになってますがね。ちなみにもう1人の方はオリジナルな方になります。
さて、次回は麻帆良編最終回。翔太達はエヴァの家に泊まることになりますが、そこで話し合われることにエヴァはなにを思うのか?
つ〜わけで、次回をお楽しみに〜
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