out side
その一方、翔太はどうしているかといえば――
「ああ、くっそぉ!?」
鎧を纏う者と剣で打ち合っていた。いや、剣をぶつけ合っていたと言えばいいか……
実力的に言えば、鎧を纏う者の方が上だ。だが、翔太も今までただ戦ってきたわけではない。
自分よりも上の実力の相手と戦うのはいつものことだ。だからこそ、今もこうして剣で打ち合うことが出来た。
翔太にとって幸いだったのは、鎧を纏う者の力がそれほどではなかったということだった。
むろん、鎧を纏う者の力も弱いわけではないが、それでも悪魔と比べればということになる。
種族にもよるが、悪魔とこうして打ち合うことはまず難しい。時には打ち合おうとして、剣ごと突き飛ばされるなんてこともある。
だから、こうして戦えることは翔太にとっては運が良かったと言える。
『ふ、人の身で私と戦えるか……だが……』
「ぬお!?」
だが、それで勝てるかと言えば話が違ってくる。先程も言ったが、鎧を纏う者の実力は翔太よりも上だ。
現に今も打ち合いから逃れた剣を翔太はかろうじて避けているし、鎧を纏う者の声は余裕が感じられた。
確かに翔太は自分よりも実力が上の相手と打ち合えるだけの力はある。しかし、それは神経を研ぎ澄ましていたらの話だ。
当然だが、そんなのは長続きはしない。その現れとして、翔太の表情に苦悶の色が浮かんでいた。
このままでは翔太は凶刃に倒れることになる。もっとも、それはスカアハの思惑の範疇であるが。
スカアハとしては頃合いを見て助けに入り、翔太に今の自分の実力を実感させるつもりでいたのだ。
が、ここでスカアハにとって予想外のことが起きる。
突然だが、今の翔太の姿はいつも探索に出ている時と同じフル装備、すなわちリュックなども背負った状態である。
これは突然だったことに驚いた翔太が、慌てていたせいで思わず持ってきてしまったのだが……それが翔太にとって功を奏した。
「く……」
スカアハに押されっぱなしのブラックマリアは思わず鎧を纏う者に視線を向けた。
これは鎧を纏う者の身を案じてのことだが、その時に翔太も一緒に見てしまい――
「な!? リニアス様!? その者から宇宙の卵の気配が!!」
『なに?』
それに気付いたブラックマリアは思わず叫んでしまった。村にあると思い込んでいた物が、自分の主と戦う者が持っていた。
それに驚いたが故のことだったが……その事実にリニアスと呼ばれた鎧を纏う者は思わず手を止めてしまう。
「なっろぉぉぉぉぉぉ!!」
『む!』
それに翔太が反応し、剣を振り上げた。だが、リニアスも後ろに跳んで……同時に胸の鎧が2つに割れながら弾け飛んだ。
そう、わずかな……わずかな差で翔太の剣が届き、リニアスの胸の鎧を斬り裂いたのだ。
「へ?」
それによって、翔太は見てしまう。左下から右上へと斜めに切り傷が付いた、豊かに張り出た胸をモロに――
「リ、リニアス様!?」
その光景に驚いたブラックマリアが慌てた様子でリニアスへと駆け寄る。
スカアハはそこを狙おうと思ったが、翔太がなぜか固まっていることに気付き、仕方なくそちらへと向かった。
「まったく、何を呆けている?」
「あ? いや、その……なんというか……」
声を掛けるスカアハだが、翔太は戸惑った様子であった。まぁ、仕方がない。
戦っていた相手が”女”だったとは思わなかったが故に――
「ああ、リニアス様……申し訳ありません……私が……私があの時、声を掛けたばかりに……」
一方、ブラックマリアが蒼白の表情でリニアスを気遣っていた。
リニアスが傷を負ったのは明らかに自分が声を掛けたからだ。そのことに深い後悔をしていたのだが――
『……貴様、宇宙の卵を持っているというのは本当か?』
「え? 宇宙の卵と言われても……ん? もしかして――」
リニアスに聞かれて、翔太は最初は困ったが……あることを思い出してリュックを降ろし――
「もしかして、これのこと?」
リュックから赤い宝玉がはめ込まれた石版を取り出してしまう。
「な!?」
『は……世界の羅針盤……もか……』
それを見たブラックマリアは驚き、リニアスもそんなことを漏らすが……どこか喜んでいるようにも思えた。
一方でクノーとトニオと共に戦いを見守っていたシエナもまた驚きを隠せずにいた。
なぜ、あんな物を翔太が持っているのか? そのことに驚いていたのだ。だって、あれは――
ちなみにクノーとトニオが参加しなかったのはなぜか?
クノーの場合単純に実力差を見せられ、自分が行っても邪魔になると判断した為である。
トニオの場合は戦いに魅入っていた為であった。自分には出来ない……激しくも勇ましい戦いに――
だから、それが出来る翔太を妬ましくも思っていたが……
「え? えっと?」
一方、ブラックマリアの様子に理解出来てない翔太は戸惑うのだが――
『……帰るぞ』
「え? ですが――」
リニアスの言葉にブラックマリアは戸惑っていた。だって、目的の物は目の前にあるのに――
『構わん。いずれ手に入れればいいだけのことだ』
「は、は! ベオウルフ! リリス! ここは退くぞ!」
「む? わかった」
「しょうがないわねぇ〜」
リニアスに言われて頭を下げるブラックマリアはすぐさま指示を出し、それにベオウルフとリリスが従ってリニアスの元へと駆け付ける。
「く、はぁ……はぁ……」
「やれやれ……危なかった……ね……」
「う、うぅ……」
その一方で刹那は膝を付き、真名も立ってはいるものの、少し苦しそうな表情から見るにかろうじてといった様子であった。
理華にいたってはうつぶせに倒れてしまっている。他の仲魔達も似たような状況であった。
あの後、どうなったかと言えば……いつもの調子を取り戻したリリスが圧倒していた。
それは本来の力取り戻した……と言えばいいかはわからないが、その刹那でも対抗しきれず……
結果、自分達の身を守るだけで精一杯だったのである。
それはそれとしてベオウルフとリリスが来ると、それを待っていたかのようにリニアスは兜を脱いだ。
それと共に銀色に煌めく髪がさらりと流れるように腰の辺りまで落ちる。
そして、凛々しく整った……戦乙女と呼んでもいいような顔立ちの少女の顔が見えた。
「これは……驚いたな。あやつは人間だぞ」
「ええ!?」
そんなリニアスをスカアハは興味深そうに見ているが、それを聞いた翔太は驚いていた。
なにしろ、リニアスの実力の高さは直接戦った翔太が思い知っている。それ故に悪魔だと思っていたのだ。
なので、リニアスが人間であったことに驚いたが――
「貴様の名は?」
「へ? あ……相川 翔太だけど……」
「ショウタ……か……その名、覚えておこう。貴様が持つ宇宙の卵と羅針盤を私の物とするまではな」
問われて思わず名乗ってしまう翔太だが、リニアスはその名を心に刻むと振り返って去っていくのだった。
「えっと……いいのかな?」
「とりあえず、なんとか退けたといった所だが……」
戸惑う翔太にスカアハは答えつつもある方へと顔を向ける。その先にはシエナがいたのだが――
「なぜ、あなたがそれを持っているのですか?」
「へ?」
睨みつけるように見てくるシエナの言葉の意味を、翔太は理解出来てはいなかった。
さて、去っていったリニアス達はどうしたかといえば――
「でも、いいの? 目の前にあるのに手に入れないで?」
リリスがそんなことを問い掛けてきた。翔太とリニアスの実力差を考えれば、手に入れることは出来たはずなのだ。
なのに、リニアスはそれをしなかった。それが疑問だったのだが――
「少々……楽しみが出来た……それだけだ」
微笑み……見る者が見たら見惚れそうな微笑みを浮かべながらリニアスが答えた。
リニアスは人の身でありながら、人を超えた力を生まれならに持っていた。
故に人々に恐れられ、ののしられてしまった。悪魔と……
両親はそんなリニアスを守ろうとしたが、リニアスの心はすさんで行き……やがて、人々の前から姿を消した。
逃げたのではない。少なくともリニアス本人はそう思っている。自分をののしる者達を殺そうと思えば、彼女なら簡単に出来ただろう。
それすらもしなかったのは世界に絶望したからであった。
自分をののしる者達を見て、世界とはこんなにもつまらないものなのかと思ってしまった。
だったら、こんな世界は無くなってしまえばいい……そう考えたリニアスはその方法を求め、見つけた。
それが宇宙の卵だったのである。そして、それを探すためにブラックマリアにリリス、ベルセルクを仲魔とした。
もっとも、リニアスとしては手駒程度の考えだったが――
そんな彼女が目的の物があったのに、なぜああもあっさりと引き下がったのか?
それは翔太との戦いが要因となっていた。リニアスの力は人間は元より、悪魔すら単独で打ち倒す程である。
故にブラックマリア達は従っているとも言えるが……そんな彼女に翔太は戦って見せたのだ。
確かに翔太は押されはした。だが、油断があったとはいえ、最終的にはリニアスに手傷を負わせた。
それはリニアスにとって驚きであり、喜びでもあった。自分よりも劣るはずの人が自分に傷を付けたのが。
もはや、歓喜と言ってもいい。だからこそ、退いたのである。翔太と再び相まみえるための理由とするために。
「ところで〜……いつまでそのままなの?」
「は!? も、申し訳ありません!? すぐに治療を!?」
リリスに指摘されて、ブラックマリアが慌てだした。というのも、リニアスは胸の傷をそのままにしていたのである。
胸がモロ出しのままだったりするけど――
「いらん。これは残しておく」
「し、しかし……」
微笑みながら断るリニアスだが、ブラックマリアとしてはなぜそんなものを残すのかと戸惑っていた。
リニアスとしてはある意味記念として残しておきたかったのだ。自分をこんな気持ちにした者が付けた傷を……
なぜ、そう思うのか? 今はまだ、リニアスはそのことに気付きもしなかった。
in side
「そんなことが……」
あの戦いの後、俺達は宿屋の一室に集まっていた。そこで俺達に何があったのかを話して――
で、それを聞いたクノーさんがそんなことを漏らしたと。
あ、ちなみにここには町の人はいない。シエナさんはいるけどね。
というのも、スカアハがこれから言うことは町の人が知らない方がいいと言ったからなんだけど。
まぁ、それで納得してくれなかったので、シエナさんが説得して渋々といった形になったけどな。
「でさ……これってなんなの?」
そう言って、石版にはめ込まれた赤い宝玉を持ち上げた。今になって思うと、俺ってこれのことまったく知らないんだよね。
「本来ならば……話すのはまだ先だったはずなのだがな……」
と、スカアハはため息を吐いてるけど……この様子だとスカアハは知ってたってことか?
「世界の羅針盤……は、その石版のことだ。それを見ればわかるだろうが……宇宙の卵とは全部で6つある。
それ1つでもとんでもないエネルギーを秘めてるが、それが6つそろうと――」
「そろうと?」
「世界創世が可能になる」
「……はい?」
妙な所で区切られたんで、アリスが問い掛けると……スカアハはなぜかため息混じりに……え?
いや、思わず疑問を声に出しちゃったけどさ……いや、待て? 今、なんつった?
「そ、それは……本当なのですか?」
「ああ……そして、世界の羅針盤を用いることで……世界を新たに創ることも……世界を造り変えることも可能となる」
戸惑ってる刹那にスカアハはなぜか沈痛な面持ちで答えてるんだけど……待ってください?
え? なに? これってそんなに凄いもんだったの? いや、世界を創るとか造り変えるとかってなにさ!?
「え? あ、え? マジで!?」
「ていうか、なんでそんな物が世界の崩壊を止める鍵になるのよ!?」
混乱してると理華がそんなことを聞いてきた。あ、言い忘れてたが理華達は魔石とかで回復済みだぞ。
それはそれとして、確かにそうだよな。なんでそんな物が世界の崩壊を止める鍵になるんだろ?
あ、あれか? 世界を創る力があるんだから、それを使えば世界の崩壊を止められるとか?
「まだ、詳しくは言えないが……そいつを使うのは間違いない。だから、そいつを奪われないようにしておけ」
「え?」
「なるほど……それがここにある限り、早々に世界の崩壊が起きることは無いということか」
いきなりスカアハに言われて首を傾げたけど、真名の話に思わず納得。
まぁ、何がどうなのかはまったくわからないけど、世界の崩壊を止める鍵なんだから、奪われたりしたら大変なのは当然か。
「しかし、なぜ言えないのかな? わかれば、対処のしようもあると思うのだが?」
なんてことを言い出したのはクノーさんだけど、確かにそうだよな。わかってるなら、対処とか出来そうに思えるけどな。
「今の段階では、無意味だからだよ」
ええと、スカアハさん。それ、どういうことですか? 無意味って、何が無意味なんですか?
「それは……どういうことなのでしょうか?」
「言葉通りとしか言えん。あれは……今聞いたからといって、どうにか出来る者では無い」
戸惑ってる刹那だが、スカアハもため息混じりに答えてる。なんだろう? 聞いてるとすっげぇ不安になってきたんだけど。
「話せないのは、それだけではないがな……だが、これだけは言っておこう。翔太、貴様が背負う物はあまりにも大きすぎる。
だから、話せないのだよ。今のお前は、まだ弱すぎるからな」
「はい?」
スカアハに真剣な表情で言われたんだけど、意味がわからなくて首を傾げてしまった。
しかし、後になって俺はこの言葉の意味を思い知ることになる。ていうかさ、良く考えればわかることだったんだよね。
自分が色んな世界の命運に関わっていることなんて――
out side
あの後、疲れもあって翔太達は眠りに付いていた。しかし、なぜかスカアハだけは町の外れの方で空を見上げていた。
そんな彼女に近付く人影があった。
「1つ……お聞きしていいでしょうか?」
それはシエナだった。スカアハがなぜここにいるのかという疑問はあったものの、それでも聞いておきたいことがあった。
「何かな?」
「世界の崩壊を止めるということを……本当に翔太さんが行わなければならないのですか?」
問い掛けるスカアハにシエナはそう問い掛けた。確かに世界が崩壊するというのであれば、それを止めるのは当たり前だろう。
だが、それを翔太やその仲間達だけで行うというのはあまりにも無茶すぎる。
せめて、軍隊のような所に頼むとか、それが無理でも仲間を集めるとかするべきでは? そう、シエナは考えたのだ。
「確かにおぬしの疑問ももっともではあるのだがな」
どこか、寂しそうな笑みを浮かべるスカアハ。確かに世界の崩壊を止めるのならば、シエナの考えで行うのが普通であろう。
だが、ネックとなっているのは翔太に掛けられた呪いである。この呪いを解く方法はただ1つ。翔太自身でこの事件を解決すること。
でなければ他の者が今回の崩壊を止めたとしても、似たようなことが起きてしまう。
いや、翔太を殺して崩壊を止めるという方法も出来ないわけではない。だが、それは……あまりにも翔太に救いがなさすぎた。
翔太は巻き込まれただけなのだ。ただ、あのゴスロリの少女に見初められたというだけで……彼自身、何かをしたわけではない。
それにスカアハもだが、シンジもそのような方法を良しとはしない。彼は”無駄な殺し”は趣味では無いのだから――
「奴も運が無かった……そんな所だ……」
「はぁ?」
思わず苦笑してしまうスカアハだが、シエナはその言葉の意味を理解出来ずにいた。
女神パールヴァティたる彼女がこの町にいるのはその昔、手傷を負った際に町を訪れたのがきっかけである。
当時から女神という種族の気質もあってか、シエナは争い事を好まなかった。
だが、だからといって周りの悪魔が見逃してくれるわけでもなく、幾度となく襲われ――
それが元で手傷を負い、なんとか逃れようとして、この町にたどり着いたのである。
その時、シエナは町の人達によって治療を受けただけでなく、手厚い看護も受けた。
その心遣いがとても嬉しくて……感謝の印として、この町を守護することを町の人達と約束した。
以来数十年、シエナはこの町で色んな人々に会った。中にはシエナを悪く言う者もいたが……
そのいくつもの出会いによって、悪魔達が言うような人間とは全てが愚かな存在というわけでないとシエナは考えたのだった。
そんな彼女が翔太に起ったことを知った時、どう思うのだろうか? もしかしたら、知らない方がいいのかもしれない。
知ってしまえば、シエナは思い悩むだけかもしれないのだから……
「もう1つだけ……あなたは……何者なのですか?」
その返事には納得出来ないものの、シエナは改めて別のことを聞いてみた。
あの戦いでスカアハとクー・フーリンが悪魔では無いとシエナも気付いていた。
では、何者なのか? それが知りたくて、聞いてみたのだが――
「スカアハだよ。今の所はな……」
「え?」
振り返り、右手を振りつつ去っていくスカアハはそう答えるが、その意味をシエナが理解出来るはずも無かった。
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さて、朝になって朝食を食べてから、ノーディスに戻るために早速出発となった。
「私はこの町を守らねばならないのでお手伝いは出来ませんが……どうか、お体にお気を付けてがんばってくださいね」
町の人達と一緒に見送りに来たシエナさんに言われ、理華達と一緒に手を振りながら「わかりました」と答えて俺達は町を去っていった。
「にしても……今回のお仕事……変なことになっちゃったね……刹那さんがまさか悪魔だったなんて思わなかったし」
「あ、いやその……それはちょっと違うのですが……」
道中、ため息混じりに理華がそう言うのだが、刹那は困った様子で否定して……刹那が悪魔? なんのこと?
「いや、刹那が悪魔ってどういうことさ?」
「だって、刹那さんの背中に羽根があったんだよ」
聞いてみると理華がそう答えて……なんだって?
「なにぃぃぃぃぃ!?」
「きゃ!?」
「ど、どうしましたか!?」
意味を理解して思わず大絶叫。理華と刹那は驚いてたが――
「うっわ〜!? 全然、気付かなかった!? ていうか、俺見てねぇよ!?」
「……は?」
頭を抱えて思わず言ってしまうが……あの時は色々とありすぎて、まったく気付かなかった。
漫画じゃ何度も見てるけどさ、実際どんな感じなのか見てみたいと思ってたのにぃぃぃぃぃ!?
なんてことを考えてたんで、刹那がぽかんとしてることに気付かなかったりする。
「自分の身の上のことで色々と言ってきたり、身の危険を感じたりしたこともあっただろうが……
こういう奴もいるということも知っておいた方がいいぞ」
「は、はぁ……」
刹那の肩に手を置きながらそんなことを言うスカアハだが、刹那は困った顔で曖昧に返事を返すだけである。
あれ? もしかして、俺馬鹿にされてない? なんとなくそんな気がするんですけど?
まぁ、そんなことをしつつ、何度かあった悪魔の襲撃を退けながら俺達はノーディスに戻ってきた。
そこで商人さんから約束の報酬を受け取り、それをクノーさんやトニオに分けようと思ったのだが――
「いらない……じゃあな……」
「あ、兄さん……えっと、その……それじゃあ、今回はありがとうございました!」
トニオはなぜかこっちを睨んでから去ってしまった。
リィナが俺とトニオを慌てた様子で見てから頭を下げ、トニオの後を追っていってしまう。いや、ていうか……本当にいらないの?
「やれやれ……今回のことはあいつも堪えたようだね。ああ、私も報酬はいらないよ」
「え?」
やれやれといった様子でため息を吐くクノーさんだったが、その一言に思わず顔を向けてしまう。
いや、いらないって……どうしてさ?
「いや、なぜに?」
「なに、町の襲撃の時、私は何も出来なかったからね。だから、受け取る気になれないだけさ」
思わず聞いてみたら、クノーさんは肩をすくめながら答えてたけど……いいのかな?
町の襲撃の時は俺も大したこと出来なかったんだけど? リニアスだったっけ?
あいつって、逃げたというよりは見逃してくれたって感じだったし。良く戦えたよな、俺……
「ま、その代わりといってはなんだが……実は頼みがあるんだ」
「頼み……ですか?」
「うむ、実は知り合いもサマナーなんだが……その彼女にサマナーによるギルドを作らないかと誘われていたんだ。
もっとも、興味が無くて断っていたんだが……今回の事で色々と考えてね。手伝うことにしたよ。
で、そのギルドに君にも入って欲しいんだけど……いいかな?」
首を傾げるとクノーさんはそんなことを言い出すけど……ふむ、ギルドねぇ……それって、何する所?
いや、ネットゲーとかじゃ良く聞くけどさ……そっちの場合、集まりとかそんな感じだったし。
「まぁ、大したことは出来ないと思いますけど……それでいいなら……」
「そんなことはないさ。君は少し自分のネームバリューというものを自覚した方がいい。
君がいるというだけでもギルドとしては大助かりなんだよ。色んな意味でね」
とりあえず了承してみたら、クノーさんにそんなことを言われました。
ネームバリューって……あれか? レディースサマナーっていう……うん、意図して無かったとはいえ、確かに女性ばっかですよね。
今度、仲魔の交渉の時は少し意識した方がいいかもしれないな。
それはそれとして、そう言われても……俺としてはそんなに有名だとは思えないんですけど?
「じゃあ、知り合いに伝えておくよ。それと……今回は勉強になったよ。ありがとう」
なんて、クノーさんは俺の横に立ったかと思うと、頬にキスを……え?
「では、また会おう」
クノーさんは右手を挙げつつ去っていくのですが……俺は動けませんでした。
いや、頬にキスって……え? なんで? 俺、なんかした? 何も……してないよね?
突然の事に呆然としてしまって……気付いてなかった。スカアハと真名に呆れた顔を向けられ――
理華とミュウとクー・フーリンとルカとアリスとモー・ショボーとシルフに睨まれているのに気付いてなかったりする。
ちなみに刹那とミナトは顔が引きつっていたらしいけど……どうでもいいけど、俺はどうしたらいいのさ?
あとがき
というわけで、色々とフラグを立ててる翔太君。女性関係には気を付けよう(おい)
それはそれとして、翔太は色々なことを背負ってしまいますが、本人は気付いてない様子。
もし、気付いたらどう思うことやら……
さて、次回は幼馴染みの美希が再登場。しかし、なにやら怪しげな連中も現われて?
そんなお話です。お楽しみに〜……でも、次はいつ書き上がるやら……
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