out side

 その日、凜は先日召喚したサーヴァント『アーチャー』と共に町を歩き回っていた。
理由は他のサーヴァントの捜索である。その時にランサーと遭遇、戦闘となった。
一進一退の攻防を続けるアーチャーとランサー……だが、それに決着がつくことは無かった。
というのも――
「な、なに!?」
「なんだありゃ!?」
「なんと――」
 なぜなら、いきなりとんでもない魔力を感じたからであった。
あまりの強さに凜はもちろんのことランサーですら戦闘の手を止めて顔を向けて驚くほどである。
アーチャーも普段なら見せないような狼狽した表情を見せていた。
 その後、ランサーは離脱。どうやらマスターである言峰に調査を命令されたらしい。
忌々しいといった表情を見せていた。
「どうするのだ?」
「私達も行くに決まってるでしょ!」
 アーチャーの疑問に凜は叫ぶようにして答える。理由はあれだけの魔力を放った奴に文句を言うためであった。
なにしろ、今の魔力は魔術の秘匿がどうとかの問題では無い。下手をすれば一般人にも気付かれないものであった。
故にこんなことをした奴がどんな者なのかを確かめようと思ったのである。
 で、向かう先は士郎の家。それを知った時、凜はどことなく不安げな表情を見せた。
凜にとって士郎は少しばかり気になる存在であった。あの時、無茶な高飛びを続ける士郎を見てから……
その為だろうか? 一瞬だけアーチャーの表情が曇ったことには気付いてはいなかった。
 で、士郎の家のそばに来てみたが、なぜかランサーの姿は見えない。
そのことを訝しげに思いつつ、気付かれぬように慎重に様子をうかがってみた。
見てみると妹……桜を士郎が抱きしめている。そのことに凜はショックを受けるが……すぐに様子がおかしいことに気付いた。
なぜなら、2人とも泣いていたのである。それに見知らぬ奴らが静かにそれを見守っているし――
「おい、凜。何を――」
 気が付くと凜は塀の上に立っていた。アーチャーの制止すら無視して。
なぜだろうか? 士郎と桜が抱き合っている所を見ていると黙っていられない。
それに変な奴らが話していることも気になる。それ故の行動であった。
「へぇ……どういうことか聞かせてもらえないかしら?」
 その一言に呆れた様子でアーチャーも凜の横に立つ。こうして先程の場面になるのである。


 あの後、話をしようとスカアハが言い出し、そのことに凜が悩んだものの結局は話に乗った。
アーチャーが警告したものの、凜としては色々と確かめたかったために話に乗ったのだった。
その反面、なぜ桜が混じっていたり、他の者達は何者なのかという疑問はあったが。
「さてと……それじゃあ、話してもらいましょうか?」
 士郎の家の居間にあるテーブルの前に正座で座り、にっこりと微笑む遠坂 凜。
だが、この場にいる者達には般若の形相に見えていた。あながち間違いとも言えない。
だって、凜は怒っていたし。それはもう、見知らぬサーヴァントがいるわ変な奴らはいるわショーツを見られるわ……
 ちなみに撃たれた士郎であるが、メディアの治療によって事無きを得ている。
「さて、どこから話したものか……ああ、自己紹介がまだだったな。
私の名は女神スカアハ。そこにいる相川 翔太の師をわけあってやっている」
「ちょっと待ちなさい」
 スカアハの言葉に凜が右手を向けて待ったを掛ける。そして、人差し指をこめかみに当てつつ考える仕草をし――
「私の記憶違いじゃなければ……スカアハってケルト神話に出てくる女神よね?」
「その当人というわけではないが……まぁ、その認識で間違いは無い」
 笑顔で首を傾げつつ問い掛ける凜にスカアハはさも当然とばかりに答えた。
で、それを聞いた凜は固まった。笑顔のままで……
「あ、お前ら……耳塞いだ方がいいぞ」
「へ?」
 言いながら耳を塞ぐ翔太に首を傾げる士郎。
理華は何かを感じ取ったのか慌てて耳を塞ぐものの、それ以外は訳がわからずきょとんとし――
「ふざけんなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「わあぁぁぁぁ!?」
 凜が大絶叫した。それに吹き飛ばされような形で倒れる士郎。
スカアハと翔太、理華以外の者達もあまりの声の大きさに痙攣してたりする。
「落ち着いたか?」
 で、スカアハもまともに受けたはずなのに平然としてるのはなぜだろうか? と翔太はそんなことを考えてしまうが。
「本当なの?」
「そうだな……まずは我々のことを話さねばなるまい。質問は後でちゃんと聞くから、最後まで聞けよ。我々は――」
 睨みつける凜にスカアハはそう前置きしてから自分達のことを話し始めた。
自分達が悪魔という存在であること。自分達悪魔はどんな存在かということ。
クー・フーリンとメディアの紹介……メディアが元サーヴァントだったのは伏せたが……
自分達がボルテクス界という世界から来たということなどを――
「それって第二魔法じゃない……」
「別に我々に力でこの世界に来たのではない。
ボルテクス界とこの世界を繋ぐゲート……我々は穴と呼んでいるが、それを使ってこの世界に来た。
ついでに言っておくとその穴は自然発生に近い形で出来るのでな。我々が何かをしたわけではない」
「ふ〜ん……それであなた達が悪魔だってことを証明することは出来るのかしら?」
 スカアハの言葉にイラついた様子で問い掛けていた凜は睨みながら問い掛けた。
実を言えば、凜はスカアハの言葉をほとんど信じてなかった。まぁ、信じる要素が無いのだから当然とも言える。
一方でスカアハが悪魔か別として、人とは別な存在であるということはなんとなくだが感じている。
というのも、人ともサーヴァントとも違う気配を感じ取れるからである。
「ふむ、そうだな……翔太、ミュウを召喚しろ。それで信じてもらえるだろう」
「へ〜い」
「なにそれ?」
 うなずくスカアハに言われて翔太はリュックからGUMPを取り出し、見ていた凜が首を傾げるが無視して開いて操作をし――
「ふぅ〜……COMPの中って狭いから困るわ〜……」
「う……そ……」
「わぁ〜……」
 召喚されてため息を吐くミュウであったが凜は目を丸くして驚き、桜は驚きながらもどこか喜んでいるようにも見える。
凜の場合は魔術の観点から見て純粋に驚いていた。なにしろ、ミュウという存在は色んな意味でありえない。
使い魔とかそういう類のものでないことは一目でわかった。だからこそ戸惑う。ミュウという存在がどんなものなのかを。
桜の場合はどちらかというと少女的な思考によるものだ。おとぎ話だけの存在だったはずの妖精がこうして目の前にいる。
それ故に純粋に喜んでいたのだ。なお、アーチャーも声に出さないだけで、表情はしっかりと驚いていたが。
「これで信じてもらえたかな?」
「流石に全部というわけにはいかないけど……こんなものを見せられちゃね……ところで他にも喚べるのかしら?」
「出来ないことではないが……ここで喚び出すには少々問題があってな。
ま、機会があれば見せることもあるだろう」
 頭を抱える凜の疑問に問い掛けたスカアハはそんなもんだとばかりに答えるが……
まぁ、周知の事実だが翔太の仲魔は全員女性型である。
ケルベロスのみ大型の獣形態になれるが……それもここで見せるには問題があった。
スカアハとしてはこの場で翔太の評価を下げるような真似をするものでもないだろうと思い、誤魔化したのである。
「そう……じゃあ、セイバーはあなたのサーヴァントなのかしら?」
「いや、士郎のサーヴァントだ」
「へ?」
 ふと、凜が気になったことを問い掛ける。本当なら自分のサーヴァントとして喚び出したかったクラスだけに。
だが、スカアハの返事が予想外すぎて、逆に驚くはめとなったが……
というのも、サマナーというからには翔太が召喚したと凜は思っていたのである。
「どういう……ことよ?」
「なに、見習いではあるが士郎も魔術を使える身だった。そういうことだよ」
 スカアハはあっさりと答えるが、睨んでいた凜はそれを聞いて士郎を睨みつけた。
「ふ〜ん……衛宮君って魔術師だったんだ〜……それは気付かなかったわ……
私に気付かせないなんて……よほど隠密に長けているのかしら?」
「違うわよ。勘違いもあったのだけど、彼は間違った魔術行使をしていたの。
そのせいで回路が閉じきって……そのせいで気付かなかっただけよ」
 睨む凜に答えたのはため息混じりのメディアであった。ちなみにだが、今現在士郎の魔術回路は全て開ききっていない。
というのも無茶な魔術鍛錬を続けていたせいで、メディア曰く詰まりを起こしてしまっているとのこと。
これを使えるようにするには時間が掛かるのと言われていた。
「そう……まぁ、いいわ……それで……あなた達は何が目的でこの世界に来たの?」
 その言葉に納得出来ない部分はあったものの、凜は新たに問い掛けていた。
悪魔やサマナーのことなどまだ信じていいのか悩む部分もある。だが、それよりも気になることがあった。
今、この冬木では聖杯戦争の真っ最中なのだ。それ故にスカアハ達を聖杯を狙う者達と凜は思っていたのだが――
「この世界が崩壊する……と、聞いたらお前はどう思う?」
「え?」
 だが、スカアハから返ってきた言葉に凜はポカンとしてしまう。
あまりにも予想からかけ離れたことを言われたために理解が追いつかなかったが……
理解してくると共にその表情が睨みつけるようなものへと変わっていった。
「それって本気で言ってるの?」
「あいにくだがこれが冗談だったらと私も思わないこともないがな……だが、事実だ。
しかも、この世界だけではない。ボルテクス界も……ボルテクス界と繋がった世界も纏めて崩壊する。
我々はそれを防ぐ為に動いている」
 答えるスカアハだが、問い掛けた凜は睨んだままであった。桜はといえば戸惑っているように見える。
まぁ、いきなりこんな話をされば凜のように疑うか桜のように戸惑うか……
もしくは信じないかのどれかの反応をするのは当然だろう。
「ほう……まるで正義の味方気取りだな」
 と、アーチャーが睨みながらそんなことを言ってくる。どこか怒りをにじませているように見えるが……
「んなわけねぇじゃん……」
 と、テーブルに突っ伏しながらそんなことを言い出したのは翔太であった。
「いきなりボルテクス界に来ちゃったと思ったら変なことに巻き込まれてさぁ……
最初はさぁ……脅されてたというのもあったよ……でも、何が起きてるのか調べようと思っただけなんだよ……
そしたら、話がどんどん大きくなるし……気が付けば俺に呪いが掛けられてて……
それを解くには今回のこと解決しなきゃダメだっていうし……俺、何かしたかなぁ……」
 と、どこか涙をにじませるような表情でそんなことを言い出したりする。
ここ最近、ことの重大さを理解し始めてきた翔太であったが……その重大さに時折押し潰されそうになる時がある。
でもまぁ、これはある意味しょうがないとも言える。
翔太は冒険を始めるにあたって命の危険に関する覚悟は持っていたつもりだった。
しかし、冒険を続けるにつれて明らかになる事実まで覚悟していたわけではない。
その為、最近では時折このような姿を見せてしまうのである。
「なに……あれ……」
「まぁ、なんだ……翔太はボルテクス界とは別の世界から来た一般人なのだが……
とんでもない奴に目を付けられた挙句にそいつに呪いまで掛けられてな。
しかも覚悟も何も無い状態で巻き込まれたものだから、時折ああして悩むことがあるのだよ」
 顔を引きつらせつつ指を翔太に向けながら問い掛ける凜にスカアハはため息混じりに答えた。
こればっかりはスカアハも翔太を責めるつもりはない。翔太はあくまで巻き込まれた被害者なのである。
それに元と前置きが付く状態になってしまったが、翔太は一般人だ。
そして、翔太が関わっていることは一般人にはあまりにも重すぎた。故に今のようになってしまうのもある意味仕方が無いのである。
「では……なぜそんなことをする?」
「死にたくないから。知り合いがいなくなるのは嫌だから」
「は?」
 聞かれたので顔を向けつつ答える翔太であったが、睨みながら問い掛けるアーチャーはそれを聞いて一瞬呆気に取られる。
「なんだ……それは……」
「だってさぁ……世界が崩壊するってことは俺達が死ぬかもしれないってことじゃん?
んなのは嫌だし……知り合いが死ぬのも嫌だしなぁ……そんなの嫌だから止めようと思ってな」
 言葉の意味を理解してか戸惑うアーチャーに翔太はあっさりと答える。
実際、翔太に正義感や義務感といったものはまったくといっていいほど無い。
嫌だから止める。ただそれだけの理由で戦っているのだ。
「言っておくがお前が思っているようなものは翔太は持っていない。
嫌だから戦う……ただ、それだけだが……それだけで戦えるのはある意味凄いとも言えるがね」
 と、スカアハは呆れた様子で答えていた。そう、正義感も義務感も翔太には無いが、覚悟も無い。
ただ嫌だから……それだけの曖昧な理由で戦っていた。
普通、そんな曖昧さでは現実に押し潰されたり、挫折したりするものなのだが……
翔太は周りの手助けもあってのことだが、それだけの理由で戦い続けていた。
これはある意味凄いとも言えるのは……まぁ、確かであろう。
「そういえば……他の人達はどこのどなたなのかしら?」
「ああ、そういや自己紹介してなかったっけ? 俺、相川 翔太。通りすがりのサマナーで〜っす」
「翔太……私は谷川 理華。翔太とは幼馴染みよ」
 睨みながら問い掛ける凜に翔太は軽い調子で、理華はそれに呆れつつ自己紹介をしていた。
凜も呆れていたが、今度は式に顔を向け――
「それであなたは?」
「俺? 俺は両儀 式。ここへは変な奴に頼まれて来た」
「ふ〜ん……あなたは?」
「バゼット・フラガ・マクレミッツ。封印指定の執行者です」
「は?」
 式の返事に問い掛けた凜は気になる点はあったもののバゼットに名前を聞き、その事項紹介に思わず固まる。
まぁ、魔術師にとって封印指定の執行者とはある意味死刑執行者と変わりない。
そんなのがなんでいるのか? 凜はその疑問に思わず思考が停止しそうになったのだ。
「な、なんで封印指定の執行者がこんな所にいるのよ!? ていうか、なんであんたらと一緒なのよ!?」
「それに関しては……後で話そう。今はやることがあるのでね」
 怒りの余りまくし立てる凜だが、スカアハは誤魔化していた。
というのも、これからやることを考えると凜に全てを話すには少しばかり問題があった。
凜は時として感情的になりやすい。全てを話した後に我慢しろと言えば凜は我慢するだろう。
だが、態度が出てしまう場合がある。もし、そうなってしまって、それをあいつに気取られたら……
スカアハとしては極力そのようなことを避けたいために、あえて話そうとはしなかったのである。
「まだ色々と疑問に思うことはあるんだけど……何をする気なの?」
「そうだな……まずは言峰教会に行って、挨拶をしてこようかと思っている」
「はぁ?」
 スカアハの言葉に額に指を当てつつ悩んだ様子を見せながら問い掛けた凜が思わず顔を上げた。
なお、この時バゼットの表情が曇ったのだが、そのことに気付いた者はいなかった。
それはそれとして、凜にとって疑問。それは――
「なんであんたがそんなこと知ってるのよ!?」
 というものであった。だって、スカアハ達は別の世界から来たはずなのだ。
だから、言峰教会のことなんて知っているはずが無いのだが――
「訳あってこの世界の情報を持っている……としか、今は言えない。
だが、そこに行って挨拶を済ませれば全てを話すと約束しよう」
「え? で、むぐ!?」
 話すスカアハを凜は睨むかのように見ていた。なぜ、この世界の情報を持っているのか?
凜としては当然そのことが気になる。それになにやらまだ隠していることがあるようだ。なら――
などと凜は考えを巡らせていた。ちなみにこの時、何かを言いかけた士郎の口をバゼットが塞いでいたりする。
「わかったわ……」
「凜、良いのか?」
「話してくれるって言うんなら、話してもらおうじゃないの。絶対にね……
ところであなたは何をしてるのかしら?」
「別に……」
 声を掛けるアーチャーにうなずいていた凜は答えた。
確かに本当に話してくれるかは疑わしいが……ここでことを荒げたとしても話してもらえるとは限らない。
それ故の判断であったが、ふと凜は士郎の口を手で塞ぐバゼットに視線を向けた。
バゼットは素知らぬ顔をしたが……まぁ、士郎がなにやら余計なことを言いそうだったので、口を塞いだのである。
「ふぅ……何をするんですか?」
「士郎君、正直なのは時として損をする。覚えておいた方がいいですよ」
「へ?」
 息を整えてから反論した士郎であったが、バゼットに言われて首を傾げてしまう。
まぁ、士郎としてはなぜなのかを理解出来ていなかった。
スカアハはこの様子にもう少し学ばせる必要があるなと感じていたりしたが……
 士郎もまたボルテクス界で美希や君嶋に香奈子と共に戦ってきたが……流石に4日間では大した事は学べなかった。
故に今自分がしようとしたことが後になってどうなるのか? という自覚が薄かったのである。
「そういうわけで翔太と理華と士郎は着替えてきてくれ」
「え? でも、あの格好で――」
「今の時間なら人通りも少ないし、メディアに認識阻害をしてもらうさ。
それにいきなりサーヴァントに襲われる可能性もありえるのでな」
 それ聞いて問い掛けようとした翔太であったが、言い出したスカアハがそう説明した。
今の所、この世界で異界や悪魔の姿などは見つかっていないが、それとは別にサーヴァントという存在がいる。
それと遭遇し、襲われる可能性もあった。その対処の為に装備をしておいた方がいいとスカアハは判断したのである。
翔太達も話を聞いて納得し、3人は着替えるために別室へと移動。10分ほどして戻ってきたが――
「なによ……それ……」
 凜が顔を引きつらせて翔太達の姿を見ていた。格好がコスプレっぽい……というのも確かにある。
だが、魔術師としてそれ以上に気になるのが翔太達が装備している物から感じられるものだった。
魔力にも何かしらの力にも感じられるそれ……アーチャーも感じたようで、その顔がしかめられていた。
「まぁ、ボルテクス界で造られる物とだけ、今は答えておくよ。さてと、桜をどうするか……」
「そうね。治療を終えたばかりだから、動くのはちょっとツライと思うけど……」
「なら、俺が残ってやるよ。別に俺まで行く必要は無いだろ?」
「そうだな。念のために結界を張っておく。留守番を頼んだぞ」
 スカアハとメディアの話を聞いて式がそう言い出すと、スカアハもうなずきながらそう言うのだが――
「ちょっと、どういうことよ?」
 そこに凜が睨みながら問い掛けてくる。というのも桜になにがあったのかを凜はまったくもって聞いていなかったのだ。
それに桜は自分の……故に気になったのである。
「そうだな……本人が良ければ話してもいいのだが……どうする?」
「え? あ、その……」
 スカアハに問われて桜はうつむいてしまう。桜にしてみれば自分に起きたことを話すのは怖かった。
だって、軽蔑されてもおかしくないと思っていたから……でも――
「先輩は……なんとも思わないんですか?」
「え? あ、あ……なんていうか、俺も悪いと思ってるし……」
「あのな……前も言ったが、お前が悪いとかの問題では無いわ」
 桜の問い掛けに最初は理解出来ずに戸惑った士郎だが、理解すると後頭部を掻きながら答えていた。
それにスカアハは呆れていたが……士郎の気持ちもわからなくはないものの、かといって自分を責めすぎるのも問題があった。
なので、この辺りもどうにかしないととスカアハは考えてしまう。
「だから、どういうことなのよ?」
「まぁ、人にとっては知られたくないことがある……桜にとってはそういう類の話なのだよ。
私はそういうことを言いふらすつもりは無いのだが……本人が良ければ、話してもいいのだがね?」
 まったく状況がわからずにイラつく凜であったが、スカアハは呆れた様子で答えていた。
それを聞いた凜は思わず顔をしかめる。自分にも人に走られたくない秘密はあるが故に……
なお、どんな秘密かはここでは触れないでおく。
「あ、あの……話しても……いいですか?」
 と、そんなことを言い出したのは桜であった。
「それは私が言うべきことなのだがな……いいのかね?」
「その……確かに怖いんですけど……でも、このままでいいのかな……って、思って……」
 顔を向けて問い掛けるスカアハに、桜はうつむきながら答えていた。
知られるのは怖い。本音を言うのなら、逃げ出したかった。でも、このままでいいのかと思ってしまう。
なぜか、そうしないといけないような気がして……でも、そうしていいのかわからなくて、思わず問い掛けてしまったのだ。
「わかった。では、桜のことを話すのは歩きながら……で、いいかな?」
「ええ……」
 うなずいてから顔を向けるスカアハに凜もまたうなずいた。
桜はうつむいたままであり、士郎はそんな彼女を心配そうに見守るのであった。



 あとがき

さて、事情を話したスカアハですが、凜は未だに信じ切れて無い様子。
ま、この辺りはしょうがないのですが……さて、これからどうなるのやら……
次回は言峰との対談。そこでスカアハはなぜか笑いだしてしまいます。その理由とは?
次回はそんなお話です。

さて、拍手で感想を書いてくださる方々。いつもありがとうございます。
ですが、長くなるようでしたら感想掲示板の方にてお願いいたします。
そちらの方は数日おきのチェックとなりますが、そちらの方でもレスはしておりますので。
ではでは、次回をお楽しみに〜



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