out side

「嘘……」
 凜はその光景が信じられなかった。
サーヴァント同士の戦い……それを自身のサーヴァントであるアーチャーとランサーが見せてくれた。
あの戦いは苛烈にして演舞……速く、激しく、力強く、それでいて美しく……だからこそ、普通ではありえないものであった。
それと似たものが自分の前で行われている。前回と違う点があるとすれば、それがサーヴァント同士では無く人間同士という所か――
「はははは……やるではないか、ショウタ!」
「喜ぶなぁ!?」
 見た目にも喜んでいる様子のリニアスに翔太は怒鳴っていた。
以前にもあった剣と剣とのぶつけあい。だが、凜にはそれが暴風に思える。
なにしろ、2人が振るう剣は速すぎて目で捕らえられない。2人の動きは速すぎて消えているようにも見える。
これがサーヴァント同士なら凜の驚きも薄かっただろう。だが、2人とも人間である。
いや、リニアスはまだなんとなくだがわかる。彼女からは魔力のようなものを感じる。
それを使って強化しているのだろうと凜は見ていた。実はそんなことをしていないと知ったら、もっと驚いただろうが……
問題なのは翔太だった。なぜなら、彼から魔力の欠片も感じないのだ。
凜は翔太がサマナーと聞いていたので魔術師の類かと思っていた。まぁ、そう思われてもしょうがないだろう。
召喚と聞けば大抵の人は魔法の類と思ってしまう。確かに間違いではないが……翔太の場合は違う。
召喚機『COMP』を用いることで『悪魔』という種族を召喚するサマナーであり、決して魔法使いなどではない。
それにCOMPはただの人間でも扱えるという機械でもある。故に一般人であった翔太はサマナーとなれた。
その翔太が魔術などの補助無しであのような動きをすることが凜には信じられなかったのである。
 一方でアーチャーは睨むようにその光景を見ていた。
セイバーからは翔太は戦いの才が無いと聞いていた。それは間違いない。
長い間戦ってきた自分から見ても翔太に戦いの才のようなものは見られない。
その一方で魔術などの補助も行わずにあれだけの力を発揮出来る翔太をアーチャーは思わず妬んでしまう。
なにかしら特別な力を持っていたのだろう……アーチャーはそう考えてしまったのだ。
もし、あの時セイバーが生体マグネタイトのことも話していたら、アーチャーは別な見方をしていただろうが……
「どうかしたのですか?」
 ふと、セイバーが声を掛ける。というのもスカアハがなにやら神妙な顔付きをしていたからである。
「いや、このままではまずいかもしれん」
「と、言いますと?」
「リニアスだったか……あやつの表情を見てどう思う?」
 バゼットの問い掛けにそのことを漏らしたスカアハは指差しながら聞いてきた。
言われてバゼットとセイバー、クー・フーリンも見てみる。
「ははははは! いいぞ! まさか、ここまで強くなっているとはな!」
「やかましい! 俺はちっとも嬉かないわぁぁぁぁ!?」
 笑うリニアスと絶叫する翔太。それでも2人とも剣をぶつけ合い、素早く動き続けていた。
前回、リニアスと戦ったのは一ヶ月も前の話だ。多少成長していてもおかしくはない。
なのに翔太に余裕は感じられない。余裕を感じるのはむしろリニアスの方だろう。先程から笑みを崩してはいない。
「笑っている?」
「おい、まずくねぇか?」
 そのことにセイバーとクー・フーリンが気付いた。
翔太は必死だ。すでに全力と言っていい状態で戦っている。なのに、リニアスには笑っている。
考えられる理由は2つ。テンションが上がったために笑っているのか、笑っていられるだけの余裕があるのか……
スカアハ、クー・フーリン、セイバーはそれを後者と見ていた。
「どういう……ことなんですか?」
「下手をすれば……翔太は討ち取られるかもしれん」
「え!?」
 戸惑いを見せる士郎の疑問にスカアハは睨みつけるような視線を戦いに向けながら答える。
そのことに理華は驚きを隠せずにいた。


「嘘……」
 イリヤはその光景が信じられなかった。
自分が喚び出した最強の……最強と信じてやまないサーヴァント、バーサーカー。
なにしろ、昨日ランサーと戦って苦も無く退けている……と、イリヤは思っている。
実際は言峰に命令されたランサーがバーサーカーの実力を確かめただけなのだが――
それはそれとして、イリヤがそう思っても無理はないだろう。
バーサーカーは狂化によって理性と助言者として能力が奪われる代わりに強力な身体能力を得ることが出来る。
しかも、イリヤが……いや、アインツベルンがバーサーカーとして喚び出したのはギリシャ神話にも登場するヘラクレスだ。
大神ゼウスと人間の女性であるアルクメーネーの間に生まれた半神半人であり、12の功業を成し遂げた英雄でもある。
英霊としては間違いなく破格であり、自身が持つ身体能力はサーヴァントの中では間違いなくトップクラスであった。
それがバーサーカーとして狂化された為に、身体能力ではセイバーすらも上回る。
更にはサーヴァントとしてのスキルもあり、そのどれもがバーサーカーの力となっている。
故にイリヤはバーサーカーに敵無し……と思っていた。
「なるほど……ただ暴れているだけではないということか……」
 バーサーカーと戦うベルセルクは余裕がある声で言い放つ。
ベルセルク……北欧神話に登場する異能の戦士の意味であり、軍神オーディンの神通力を受けた戦士である。
危急の時には野獣になりきって鬼神が如く戦ったと言われている。
ちなみにだがベルセルクはノルウェー語であり、英語にするとバーサーカーとなる。
 ベルセルクとバーサーカーとなったヘラクレス。どちらが優れているかと言えばヘラクレスだろう。
それは疑いようが無い。ただし、それはあくまでも神話同士での話である。
今、ここにいるベルセルクはボルテクス界に存在する悪魔であり、その身体能力は悪魔の中でも上位に位置する。
「■■■■■■■■■ーーーー!!??」
「だが、それで私に勝てると思うな!」
 故にバーサーカーが持つ斧剣受け止め、弾き、斬り付ける。普通では出来ないと思われることをベルセルクは出来た。
勘違いしないで欲しいのだが、これは別にバーサーカーが弱いわけではない。
現にバーサーカーの力はボルテクス界に行っても十分に通用するどころか一定レベルの悪魔にならば無双することも可能だ。
だが、今戦っているベルセルクはその一定以上の力を持つ。それに相性の悪さがベルセルクとバーサーカーの差となっていた。
ベルセルクは妖鬼という種族に属するのだが、妖鬼のほとんどは物理耐性を持つ。
ベルセルクも当然持っており、斧剣を振り回すなどの物理攻撃しか出来ないバーサーカーでは決定打を与えることが難しい。
 もし、ヘラクレスがバーサーカーではなく他のクラスで喚ばれていたのなら、この戦いの結果は違っていただろう。
アインツベルンは良くも悪くも生粋の魔術師の家系であり、故に戦いはあまりにも疎すぎたのである。
その為に能力ばかりに目が行ってしまい、ヘラクレスをバーサーカーとして喚び出し……このような結果を生み出してしまったのだ。
「狂いなさい! バーサーカー!?」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーー!!!!!????」
 しかし、そのことを知らないイリヤは思わず叫んでいた。
信じられなかった。信じたくなかった。バーサーカーがあんなのに負けるだなんて……
だからこそ叫んでしまい……それによってイリヤが持つ令呪が発動し、バーサーカーは声にならない雄叫びを上げた。
実はまだバーサーカーは完全には狂ってはいなかった。それがイリヤの命によって完全に狂ったのである。
これによってバーサーカーの身体能力は更に強化され、暴風……いや竜巻が如く暴れ出した。
 斧剣が振られるごとに地面が、立木が、街灯がなぎ払われるように次々と破壊されていく。
それをベルセルクは避けるしか出来ない……少なくともイリヤにはそう見えていた。
だが、ベルセルクの表情は変わらない。焦ることなく、静かにバーサーカーを見据えていた。
そして、同時にリリスも妖艶な笑みをイリヤに向けていた。


「ふふふ……凄い……凄いな……お前は!」
「いや、喜ばれても困るんだが……ていうか、帰ってくんない?」
 一方、笑うリニアスに翔太は顔を引きつらせつつ、思わず本音を漏らしていた。
褒められても嬉しくはない。というのも翔太は全力なのに対し、リニアスには余裕があるように見える。
翔太もそれを感じているために顔を引きつらせていたのだ。
「ああ……これなら全力で戦える……久しぶりなのだぞ、全力で戦うのは……だから、光栄に思うがいい。
私の全力を見られることを――」
「スルーかい!? ていうか、やっぱり全力じゃないのかよ!? それとやめてください!? 嬉しくもなんともないから!?」
 笑みを浮かべるリニアスに翔太は絶叫を続ける。
薄々気付いていたとはいえ相手がやはり本気では無かったとなれば、全力で戦っていた身としては少なからずショックを受けることもある。
翔太の場合はまさにそれだが、自分の思惑とはことが勝手に進むことに半ば怒りも感じていたための絶叫であったりする。
「ははははは……はははははは!」
「な、なによあれ!?」
「く、あやつ本当に人間か!?」
 笑い出すリニアス。その彼女の体から炎のように魔力が吹き出す。
見た目こそはセイバーの魔力放出に見えるが……わかる者にはわかる。
あの魔力量はセイバーを超えるどころかボルテクス界の悪魔から見ても驚異的なものであると。
故に凜もスカアハも驚きを隠せずにいた。それと同時にスカアハは己の失策に気付く。
この場は総力戦でリニアスを退けるべきであった。では、なぜ翔太だけを行かせたのか?
前回話していた被害を出さないというのもあるが、翔太の戦力をこの世界の者達に出来るだけ隠しておきたかったというのが強い。
スカアハは翔太が聖杯戦争に関わる可能性が高いと考えている。確かに翔太や仲魔達は強い。
全員が一丸となれば大抵の相手のは負けないであろう。だが、それを含めたことを知られたらどうなるか?
各個撃破を考える輩もいるはずだ。特に聖杯戦争に関わっている者達ならば、それを考えるだろう。
なにしろ戦力差がありすぎるのだ。その戦力差をどうやって埋めるか? となれば、各個撃破を考えてもおかしくはない。
むろん、他の手も無いわけではないが、各個撃破は色んな意味で危険となるために出来うる限り避けたかったのだ。
だが、初めてこの世界に来た時にランサーに見られてしまった。
だから、どれだけ知られているかを確認するために言峰教会に行こうとスカアハは言い出したのである。
それで会ってみたが、言峰はこちらのことを大して知っているようには見えなかった。
演技という可能性もあったので鎌を掛けてみたが、やはり結果は同じ。
ランサーの思惑はわからないが、どうやら話さずにいたらしい。それはある意味助かっている。
だが、今はそうはいかないだろう。もしかしたら、感覚の共有でこちらを見ている可能性もある。
だからこそ、翔太の戦力は隠しておきたかったのだが――
「ええと……マジ?」
「さて、お前はどうするのかな?」
 その一方で戦いは進んでいく。魔力を体中から炎のように吹き出すリニアスは笑みを浮かべながらいくつもの魔力の塊を生み出す。
その光景に翔太は顔を引きつらせていた。なにしろ、魔力の塊から嫌な予感しかしない程の力を感じるのだ。
しかも、それらは自分を取り囲んでいる。あれが一斉に飛んできたら……翔太はそれを避け切る自信が無い。
ある程度受けることを覚悟で斬り避けるか? などと考えたのだが――
「ガルーラ」
 直後、リニアスは魔法を放つ。魔力の塊から――
「そんなのありぃぃぃぃぃぃぃ!?」
 それに翔太は為す術もなく吹き飛ばされる。
なにしろ全方位から疾風魔法が襲いかかってきたのだ。避けることも斬り防ぐことも出来はしない。
「翔太ぁぁぁぁ!?」
「なによ……あれ……」
「強いとはわかってはいたが……ここまでとは……」
 その光景に理華が悲鳴を上げる中、メディアとスカアハは顔を強張らせていた。
魔力の塊を生み出し、それから魔法を放つ。聞けば単純なように思われるが、実際はそんなものでは無い。
基本的に魔法とは人の意志で制御するものである。そして、それはどのような魔法を使うかによって違ってくる。
威力が高く広範囲に効果を及ぼすものとなれば、その制御は格段に難しくなる。
リニアスが使ったガルーラは疾風魔法の中では中級レベル。
みなさんにはけん玉の技を一通り出来るようになったと言えばおわかりになるだろうか?
だが、リニアスはそれだけでなく、いくつもの魔力の塊から魔法を放ったのである。
これはけん玉を両手足だけでなく、口にもくわえてそれぞれ別な技を決めていく……
実際はそれ以上なのだが、こう言えばその難しさがわかるかもしれない。
確かにリニアスの魔力量はもしかしたら神や魔王に匹敵するかもしれない。
しかし、それだけの魔力を持っているから出来るという芸当でも無いのだ。
ハッキリ言って才能だけでどうにかなるものではない。リニアスには人には無い何かがある。
そのことに気付いたスカアハはリニアスを少しばかり脅威を感じるのであった。
「どわあぁぁぁぁぁ!?」
「翔太さん!?」
 で、吹き飛ばされた翔太はというとベンチとゴミ箱に衝突しながら地面に倒れ、そのことに士郎は思わず叫んでしまうのであった。



 あとがき
そんなわけで始まった翔太VSリニアスとバーサーカーVSベルセルク。
翔太は苦戦を強いられていますが……果たして結果は? そして、バーサーカーはどうなるのか?
次回は決着編です。バーサーカーVSベルセルクは意外な結果に。
そして、翔太は……なぜかマジギレしてしまい、あの力を再び使うことに……
戦いはどうなってしまうのか? というようなお話です。

それと翔太がFateに関する知識を知らなすぎるのは不自然じゃないかというご指摘ですが……
ごめんなさい。私の書き損じです。その辺りのこと書いたつもりでいました。
大変申し訳ありません。ここら変の修正はいずれ行います。
うん、時間があったらね……



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.