out side

「もう、なんなんや……」
 太刀と小太刀を振るう月詠だが、その表情は不満が浮かんでいた。
というのも――
「なんで斬り合わへんの〜?」
 クー・フーリンは動き回るだけである。それだけで月詠が振るう太刀と小太刀を危なげなく避け続けていた。
月詠は手加減しているわけではない。すでに本気といっていい。奥義も何度か使っている。
だが、結局は届かない。クー・フーリンは受けずにかわすだけ。決して、槍を使おうとはしない。
この時点で月詠は自分とクー・フーリンの実力の差を思い知っていた。敵わないであろうこともわかっている。
それでも不満だったのはクー・フーリンの態度……ではない。
確かにクー・フーリンは失望の色を浮かべている。月詠もそれが気に入らないのは確かだが――
「お願いやから、少しは真面目にやってくれへんかな?」
 斬り合いたい。そして、クー・フーリンがどれほどの高みにいるのかを見てみたい。
クー・フーリンが強いとわかったからこそ、月詠はそれを見てみたいと思った。
「つれないお人やなぁ……でもまぁ、せめて名前だけでも教えてもらへんかな?」
「……クー・フーリン」
 一旦動きを止めて問い掛ける月詠にクー・フーリンは静かに答えた。
この時、月詠にケルト神話の知識があれば、訝しむか驚くかのどちらだったかもしれない。
訝しむのはクー・フーリンとは本来男の英雄だからだ。しかし、目の前のクー・フーリンはどう見ても女性である。
驚くのは神話通りとも言える実力を持っているとわかるからだ。現に身のこなしだけでも自分を上回っている。
「おかしな名前やね〜」
「ほっとけ」
 しかし、月詠はケルト神話を知らないために首を傾げながらそんなことを言うだけであった。
言われたクー・フーリンはそんな文句を漏らしていたが……
「まぁ、ええわ……なぁ〜、うちと斬り合いましょうや。
してくれへんのなら、あのあんちゃんと斬り合おうかな〜」
 などと言いながら月詠は駆け巡りながら式神や悪魔を斬り倒している翔太に視線を向け――
「あのお嬢さんも面白そうやなぁ〜」
 と、今度は刀身が見えない剣を振り続けるセイバーへと視線を向ける。
なお、もし翔太と戦おうとしたのなら、小太郎と同じ運命を辿っていたかもしれないし――
セイバーと戦ったとしても容赦なく叩きのめされていたかもしれない。
「それとも……あちらで見ているお嬢さん達を斬ったら、本気を出してくれはるんやろか?」
 と、月詠は美綴達やのどか達に視線を向けてから、くすりと笑みを浮かべながらクー・フーリンに顔を向ける。
この月詠の行動はケルト神話を知っていようがやっていたかもしれないし、危険を感じて撤退したかもしれない。
だが、月詠が取ったのは撤退ではなく挑発。純粋にクー・フーリンの実力を見たかったからだ。
 それが間違いだったとは、クー・フーリンがあからさまなため息を吐く所を見たとしても気付きはしなかったが。
「なんですの、その態度? あのお嬢さん方がどうなってもええんの?」
「いや、お前のことを三下と思っていたんだが……それは間違いだったな。それは謝るよ」
 それを見て不満そうにしている月詠だったが、クー・フーリンの言葉に訝しげな顔をし――
「てめぇは……雑魚以下だ」
「な……」
 クー・フーリンが槍を構えながら出た言葉に、月詠は思わず口を半開きにしながら呆然とした。
最初は何を言われたのかわからなかった。だが、理解すると同時に月詠は睨みつけていた。
「なんですのそれ? 余裕のつもりですか?」
「は! 雑魚を雑魚と言ったまでだ。それが違うというなら証明してみろ。ただし、掛かってくるならば……死を覚悟しろよ?」
 構えを解かず顔を背けずにクー・フーリンはそう言い放ち、最後の言葉は睨みつけるオマケ付きである。
それに対し、月詠はここで初めて怒りの表情を浮かべた。馬鹿にされていると本人はそう思っていた。
クー・フーリンからは気迫も殺気も感じない。それが月詠を更にそう思わせる要因となっていた。
実は完全に失望されているのだが……それを知らない月詠は――
「にとーれんげきざんてつせーん!」
 その言葉が間違いであると証明するために月詠は斬りかかった。
なのにクー・フーリンは構えたまま動かない。斬れる……そう考える寸前で月詠はあることを思い出した。
確か、前にもこんな場面が……そう、刹那との戦いで――
「は!?」
 そのことに気付いて、飛び込んでいた月詠は止まろうとした。
「おせぇよ」
 それとほぼ同時にクー・フーリンは槍を突き出そうとしていた。
「く!?」
 間に合わない。そう感じた月詠は身をよじろうとする。
「だぁ!?」
 クー・フーリンの槍は……見えなかった。突き出した瞬間から、最初から無かったんじゃないかと思うくらいに。
そうとしか見えなかった月詠は驚愕の表情を浮かべ――
「が!?」
 次の瞬間、襲いかかってきた衝撃に月詠は吹き飛ばされる。
それはソニックブーム。槍の先端が音速を超えたために起きた衝撃波。
ただ純粋の突きでそれが出来たのはクー・フーリンが悪魔だったからだけではない。
この体は元々それだけの技量が備わっていた。しかし、この体に馴染んでなかったためにそれが出来ずにいた。
しかし、戦い続けることで今では先程のことが出来るようになったのだ。
「がふ!?」
 一方、ソニックブームによって飛ばされた月詠は地面に激突する形で倒れてしまう。
「く、あ……ぐ……」
 頭を打ったのかクラクラする。それでも月詠は頭を振って正気を保とうとする。
それと共に思ったことはクー・フーリンの強さ。やはり強かった。自分では到底敵わないほどに。
それも当然だろう。今、この場にいるのはケルト神話の英雄クー・フーリンの名を冠した悪魔なのだ。
確かに気迫も殺気も出してはいなかったし、格好こそ奇抜ではあるが姿はどう見ても人間の女である。
その為、月詠はクー・フーリンを人として見てしまったのはある意味しょうがなかっただろう。
もっとも、今でも月詠はクー・フーリンを人間と見ていたが……
ともかく、クー・フーリンの強さは垣間見えた。今は退くべきと月詠は立ち上がろうとして――
「きゃん!?」
 立てなかった。立てない? なぜ? 月詠にはそれが理解出来なかった。
だって、自分は右手を地面に付いて体を支えようとして――
「へ?」
 そこで見てしまった。あるはずの右腕が無い……右肩の少し先からが……
代わりに見えたのはちぎれた縄のようになった皮膚と筋肉組織に砕き折れた骨の先端。それに吹き出す血であった。
「い、いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 それを認識した途端に襲い来る激痛で左手で傷口を押えながら悲鳴を上げ、体を抱え込むようにしながら膝を付いてしまう。
そう、先程のクー・フーリンの一撃は月詠に右腕をえぐり取ってしまったのである。
「が! ぎひぃ!?」
 そんな月詠をクー・フーリンは蹴飛ばして仰向けにすると、槍の石突きを勢いよく振り落として左の股関節を突いた。
それと共に何かが砕ける音が聞こえ、それと同時に月詠は悲鳴を上げる。砕かれたのだ。左の股関節を……
「さてと……これでてめぇはもう戦えないだろ」
 あまりにも残酷な行為。だが、それをしたクー・フーリンは一仕事ついたといった様子でため息を吐くだけであった。
別に何も思わないわけではない。だが、戦いとは時にはこういうものなのだと知っていた。
だからこそ、月詠にしたことで心が揺れることは無かった。
 一方、あまりの激痛に歯を鳴らしながらクー・フーリンを睨みつける月詠。その形相は般若にも見えた。
それほどまでに憎かったのだ。自分にこんなことをしたクー・フーリンが……
「てめぇは色んな意味で危険そうだからな。ここで潰しといた方がいいと思っただけだ。
殺さなかったのはてめぇに思い知らせるためだよ。自分がどんだけ馬鹿かっていうのをな」
 槍を肩に抱えながら話すクー・フーリン。コミックスで読んでいたが、月詠の危険性は直接会ったことで確信してしまった。
こいつは斬り合いをするためならなんであろうと巻き込むと……それがクー・フーリンには許せなかった。
確かにオニの頃から強い奴と戦いたい思いは未だにある。だが、それによって起こるリスクも心得ているつもりだった。
しかし、月詠はそんなことを考えているようには見えなかった。それがクー・フーリンには許せなかったのである。
だから、腕と足を潰した。一生戦えないように……戦えないとはどういうことなのかを思い知らせるために……
「さてと……翔太を手伝ってやるか……」
 月詠のことは終わったと悟り、クー・フーリンは振り向いて残っている式神や悪魔達に向かっていく。
残された月詠は……激しく恨めしそうに睨んでいた……元の可愛らしい顔立ちの面影が無いほどに……
殺す……絶対に殺す。出来る出来ないではなく、殺すのだ。例え、自分がどうなろうとも――
 それを自らに誓い、月詠は持っていた符を使ってどこかへと転移してしまう。
結局、クー・フーリンが人間だと思ったままで……それがこの後にどういった結果をもたらすのか……
今はまだ、誰も気付かずにいるのだった。


 in side

「あ〜……やっと終わった……」
 式神と悪魔の姿がやっと見えなくなり、俺は肩を落としながらため息を吐いた。
まったく、誰だあんな数を喚んだ奴は……いや、なんとなくわかるけどね。
あれ? そういや、千草って悪魔も喚べたっけ? それとも喚んだのはフェイトだったとか?
ま、いっか。終わったし。
「相変わらず……いや、別れた時よりも強くなってるね、翔太さん」
「そうなのかね? 俺としては実感無いんだけど?」
「は、実感が無いだと? あれだけのことをしておいて良く言うわ」
 真名に言われて俺は頭を掻くのだが、エヴァがなぜかそんなことを言っております。
いや、あれは必死になってただけだしなぁ……なので、どれだけ倒したかなんてまったくわからないよ。
「しょ、翔太は……平気……なのか?」
「あ? ん〜……慣れた」
 で、息を荒げてる美希にそう答えると、なぜか呆然とされました。
というか、さっきの戦いはまだ楽な方なんだよな。士郎の世界に通じる穴周辺の悪魔だとあの数倍動いてるしな。
「お、お前は……とんでもないな……」
「えっと……戦ってる相手が相手だしなぁ……」
 どうやら驚いてる美希だが、俺は明後日を向きつつ遠い目をしてしまう。
うん、良く考えたら俺ってとんでもないのと戦ってるよね。ホント、どうしてこうなったんだか……
「ところでこの小さな子は何者なのかしら?」
「ふむ、初めて見るな……何者なのだ?」
 と、凜が問い掛けて来たと思ったらエヴァにも聞かれました。エヴァは小さいと言われたのが癪だったのか凜を睨んでたけど。
しかし、俺に聞かれてもな……さて、どう説明したもんか……
「彼女はエヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。この世界の真祖の吸血鬼だよ」
「な、真祖!?」
「安心しろ。お前達の世界の真祖とは別物だ」
「私としてはフルネームを言われたくなかったのだがな……」
 そこにやってきたスカアハの説明に凜は驚いていたが、スカアハは凜が驚いた所は訂正していた。
エヴァはなにやら沈痛な面持ちをしていたが……ああ、そういやフルネームに思う所があったっけ?
「彼女は遠坂 凜。私達が先程までいた世界の者で魔術師という存在だ。詳しい話は彼女から聞いてくれ。他の者達のこともな」
「ほぉ……魔術師ねぇ……」
 で、スカアハの紹介にエヴァは興味深そうに凜に視線を向けている。
しっかし、別々のマンガやゲームの登場人物達がこうして顔を合わせてるってのは……なんか、不思議な感じがするな。
いや、普通じゃありえないじゃん? 二次創作でも文章がほとんどで、絵とかマンガとかってあんまり見ないし。
「ねぇ、彼女は大丈夫なんでしょうね?」
「ああ、エヴァは……まぁ、色々とあってな。自ら人を襲うことはまずないから、その辺りは心配しなくていい」
 小声で問い掛ける凜にスカアハは苦笑混じりに答えてるが……お〜い、聞こえてるぞ。
エヴァがなんか怒ってるように見えるんだが……
「待てよ? 貴様、スカアハか?」
「いかにも。女神スカアハ、訳あって翔太の師匠をしている」
「紫に話は聞いていたが……にしてはなんだ? その格好は?」
 エヴァの問い掛けにスカアハはあっさりと認めるが、格好のことで訝しがられる。
いや、エヴァさん……あんたも人のこと言えないよ。マントはまだしもなにそれ? ワンピース? 水着?
スカートの意味が全くないんですけど? いや、あれも服の一部か?
にしても紫の奴……そんなことまで話してたのか……あれ? なんかやばくね?
だって、なんか覚悟しろとか言われてた気がするんだけど……エヴァさん、忘れてる……のかな?
そうだったら思い出さないで欲しい。永遠に――
「格好に関しては……わけあってとしか言えんな。その辺りの説明はちと困るのでね」
「ほほぉ……まぁ、格好については他にもツッコミたい奴はいるが……」
 苦笑するスカアハにエヴァはそう言いつつ辺りを見回す。例えば俺の仲魔達とかセイバー達なんかを。
いや、まぁ……そっちのことは気にしないで欲しい……いや、マジで。
仲魔達のこと聞かれても答えられないよ、俺……
「いっや〜、あんたら凄いじゃん」
 と、声が聞こえてきたので振り向いてみると蒔寺が手を振りながらこっちにやってくる所だった。
美綴達やハルナ達もこっちに来てるけど……そういや、こいつらがいたのを忘れてたよ。
「一応聞いておく……なんでここにいるの?」
「ん? 面白そうだったから」
 なんか頭痛を感じつつも一応問い掛けると、蒔寺はあっさりと答えてくれやがりました。
しかも、悪びれた様子ねぇし……うん、怒ってもいいよね? 危険だって言われてたのに来たんだから……
「なぁ、殴っちゃダメかな?」
「気持ちはわかるが……後で説教は覚悟してもらおう」
「え? なんでよ!?」
 思わず聞いてしまうがスカアハも同じ気持ちだったらしい。
蒔寺は言われたことが意外だったのか驚いてたが……言っておくが、そう思ってるのはお前だけだと思うぞ。
見ろ、美綴と氷室なんて睨んでるし。
「久しぶりですね、エヴァンジェリン」
「詠春……いたのか……お前は戦わなかったようだが?」
「いや、お恥ずかしいお話なのですが、手ひどくやられましてね」
「お前ほどの者がか? もうろくしたものだな」
「いや、お恥ずかしい限りです」
 などと話し合ってる詠春さんとエヴァ。そういや、この2人って知り合いだったっけ。
なんてことを思ってたら、詠春さんがこっちを見た。
「で、彼らは何者なのですか? かなりの強さを持っているようですが……」
「悪いが、その話は後にしてもらおう。翔太、仲魔達や凜達にチャクラドロップを渡して回復させろ。
必要な者には魔石を使っても構わん。もしかしたら、もう一戦やることになるかもしれんからな」
「あ、了解」
 詠春さんに聞かれるが、そういや初対面だしな。怪しまれて当然か。
それに対してスカアハがそんなことを言ってくるのだが……返事しちゃったけどもう一戦って……
俺としては勘弁して欲しいんだけどなぁ……確か、マンガ通りならスクナとかいうのと戦うんじゃなかったっけ?
あれ? なんか、ヤバイと思うのは俺の気のせいだろうか?
「と、なによこれ?」
「割ればわかるって」
「あ、ボクにも欲しいホ」
「ボクも欲しいホ」
 投げ渡したチャクラドロップを訝しげに見ている凜にそう言っておく。
で、嗅ぎ付けたフロストとランタンにも渡して、他の仲魔達にも渡していき――
「な!? なんでこんなので魔力が回復してるわけ!?」
「お〜驚いてら……クー・フーリンはどうする?」
「俺はいいよ。大して消耗してないしな」
 驚いてる凜を見てからクー・フーリンに聞いてみたけど、そう答えてきました。
そういや、クー・フーリンは魔法とかはあんまり使えないんだっけ。あれ? そういや……
「今気付いたんだが、確か月詠と戦ってなかった?」
「ん? ああ、とりあえず痛め付けておいたけど……逃げたか?」
 そのことに気付いて聞いてみたんだけど……あの、クー・フーリンさん……痛め付けたって何?
なんだろう……激しく嫌な予感しかしないのは……うん、激しく気のせいであって欲しいよ。
「わ〜……」
「これは……」
 と、チャクラドロップを使った桜とライダーが驚いたような顔をしている。
そういや、チャクラドロップを使うとどんな感じなんだろうか? 俺、魔法とか使えないからわからないんだよな。
「で、坊や達の後を追うつもりか?」
「どうやら、そうしなければならないらしい。見ろ」
 エヴァの問い掛けにスカアハは真剣な顔をしながらある所に顔を向けていた。
俺も顔を向けて見るとそこには俺達が通ってきた黒い穴がありました……え、どういうこと?
「迂闊だった……シンジがなぜ我らをこの世界に来させたのかを考えればわかることだったのに……」
「ええと……嫌な予感が激しくするけど……どういうこと?」
「刹那達だけでは対処出来ないようなことが起こるかもしれんということだ。
良く考えてみろ。先程戦った奴らにボルテクス界の悪魔がいたか?」
 なにやら悔しがるスカアハに聞いてみたら、そんなことを聞かれたんで思い出してみる。
確かにボルテクス界の悪魔はいなかったような……
あれ? スカアハはこの世界に悪魔が再び現われたんじゃないかって言ってたような――
「もしかして、刹那達の方に現われるかもってこと?」
「ああ……しかも、大物がいるかもしれん。急いだ方がいいな」
 とりあえず聞いてみたら、スカアハはあっさりとうなずいてくれやがりました。
そっかぁ……大物かぁ……マジですか? 泣いてもいいですか?
「よし、行くぞ。後、お前達はここへ残れ」
「え〜、なんでさ?」
「馬鹿者! この先、何が待ち受けているのかわからんのだぞ! そんな所に連れて行けるか!」
 残れと言われて蒔寺は不満そうにしてる。それはハルナや夕映とかもだったけどな。
でも、そう言ったスカアハさんは怒鳴っております。いや、確かに危険だってわかってる所に連れて行けるわけないよな。
本音を言えば俺も行きたくないけどね。呪いがなけりゃなぁ……
「よし、行くぞ!」
「へ〜い」
「ふ、しょうがないな」
「行こう。セイバー」
「はい!」
「まったく、しょうがないわね」
 スカアハの号令で穴に入る俺達。一応、返事はしたけど……
エヴァさん、しょうがないとかいいながら楽しそうな顔しないでください。
何が待ってるかわからないんだから……士郎はやる気満々だねぇ……セイバーもだけど。
で、凜はため息吐いてるが、こっちは本当にしょうがないなって顔してるな。
ま、それはそれとして……大変なのが出ないことを祈りたいな……いや、マジで……


 out side

「む〜、行ったっていいじゃん」
「で、でも……危ないって言ってたよ……」
 翔太達が黒い穴へと入ると黒い穴は消えてしまい、それを見送っていた蒔寺は不満そうな顔をしていた。
三枝は不安そうにしながらもなだめようとしていたが――
「大丈夫だって、離れてりゃ問題無いでしょ」
「ああ、なるほど――」
「確かにね」
 などとハルナが楽しそうに言ってしまったために蒔寺と朝倉はなるほどという顔をしていた。
これには美綴や氷室も呆れた顔をしていたし、詠春もなんとか言い止めようと考えた時――
「やめておいた方がいいですよ。あなた方が行こうとしている所は本来ならば人が立ち入ることなど出来ない領域なのですから」
 という声が聞こえてきたために誰もがそこへと顔を向ける。
そこには穏やかながらもどこか真剣な顔をしているシンジの姿があった。
「あ、あなたは?」
「失礼……私はアオイ シンジ。まぁ、翔太さんのお知り合いと言っておきましょうか……
さて、もう一度言っておきますが、あなた方がこれから行こうとする所は人が立ち入ることが出来ない領域です。
それでも行きたいのですか?」
「人が立ち入ることが出来ない領域って大袈裟な……」
「だよな〜」
 のどかの疑問に優雅に頭を下げながら答えつつシンジはそう言うのだが、ハルナと蒔寺は信じられないといった顔をしている。
でも、それは無理もない。見たこともないものを想像しろというのはまず無理な話だ。
だから、ハルナと蒔寺の反応も当然と言える。朝倉や夕映、美綴に氷室も戸惑いはあるが、理解出来ないといった顔をしていたし。
のどかに三枝は不安そうにしているが内心は同じである。唯一、詠春だけは言葉の真意を感じ取り、顔を歪めていたが……
「やれやれ……このままだとネギさんや衛宮さんの負担にもなるでしょうし……今回は特別ですよ?」
 と、シンジはやれやれといった顔をすると、右手を高く上げて指を鳴らした。
「な、なんですかこれは!?」
「すっごい!? これって魔法!?」
 それと共に起きた現象に夕映は驚き、ハルナは興味深そうに見ていた。
何が起きたのか? それはシンジやハルナ達の足下に光り輝く巨大な魔方陣が現われたのである。
他の者達も驚いていたが、詠春だけはその驚きの種類が違っていた。
専門外ということもあるが、このような魔方陣は見たことがない。
しかも、描かれている文字は膨大にして緻密。普通に描いたら1日や2日で終わらないような物だ。
それを魔法らしきものを使ったとはいえ、一瞬で創り出してしまったシンジに詠春は思わず畏怖を感じてしまう。
「では、ご招待しましょう……神の領域にね」
 シンジがそう言うと景色が一変してしまう。そのことにハルナ達は戸惑うが――
「え? あ、え、あう……うぁ……」
 それが目に入った時、蒔寺は体の震いが止まらなくなる。しかし、それは誰も気には止めなかった。
なぜなら、シンジと詠春以外のみなは蒔寺と同じだったからだ。
なんだ、あれは? あれはなんなんだ? あんなのは……あんなのはあっちゃいけない――
個人的な差があれど、蒔寺達が思うことはほぼ同じであった。自分をたやすく塗りつぶせるような存在感。
そんなものを今まで感じたことが無かったが為に蒔寺達は感じてしまったのだ。本当の意味での恐怖を……
「なんなのですか……あれは……」
「神ですよ……正確には神の名を冠する存在といいましょうか……
そして、あれが翔太さん達が戦わねばならない存在です」
「なんですって……」
 シンジの話に問い掛けた詠春は驚愕した。
翔太という人物は良くわからないが、なぜあんなのと戦わねばならないのか……詠春にはわからなかった。
「どちらへ?」
 と、シンジが振り返ってどこかへ行こうとするのを詠春が呼び止める。
それに対し、シンジは振り返り――
「なに、まだやらなければならないことがありますので」
「え、あ、う……」
「ああ、この中にいる限りは安全ですから……それと知っておいた方がいいですよ。
あなた方が思っているほど、世の中は甘くはないとね」
 怯えながらも手を伸ばす蒔寺に、話していたシンジはウインク混じりにそんなことを話してから消えてしまった。
蒔寺達はそれを怯えながら見送るしか出来なかった。
 果たして、蒔寺達は何を見たのか……なぜ、こんなにも恐れるのか……それは少し時間を遡ることとなる。



 あとがき
そんなわけで前哨戦はこれにて終了。この後に翔太達に待ち受けているものとはいったい――
そして、蒔寺達は何を見たのか? 次回はそんなお話になります。
さらわれたこのかを助けるために急いで向かうネギ達。
しかしながら、刹那の実力に警戒していたフェイトによってスクナが召喚されてしまいますが――
いきなりの事態にネギ達はピンチに。果たして、どうなってしまうのか?
次回をお楽しみに〜……レスとかどうしようか……



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