out side
「待ってください」
千草達を追い掛けていた刹那達だが、なにやら祭壇のような所が見えた所で刹那が呼び止めてしまう。
「刹那さん、どうしたの?」
「いえ、このまま向かってもこのちゃんを助けられません。あの白髪の少年は油断なりませんので」
明日菜の疑問に刹那は真剣な表情で答えた。
フェイトの実力は侮れない……いや、正直に言ってしまうと刹那の実力でも勝てる気がしなかった。
悪魔の横やりが入るまでは食い下がっていたが、それでもかろうじてという状態であった。
フェイトが本気を出していたかはわからないが、そうでないならこのまま向かっても勝ち目は無い。
「じゃあ、どうするんですか?」
「私が囮になります。ネギ先生達はその間にこのちゃんを助けてください」
「え? それって大丈夫なの?」
ネギの疑問に刹那が答えると、明日菜が心配そうな顔をしていた。
確かにフェイトに勝てるかと言えば無理としか言えないが――
「あくまで囮です。このちゃんを助けられたら、すぐに逃げて翔太さん達と合流します」
真剣な表情で刹那はそう返した。少なくとも足止めは出来ると刹那は考えていたのだ。
むろん、相手も馬鹿ではないから何か対処している可能性もあるが……今は時間も惜しいため、こんなことしか思い浮かばない。
「そうだ! 仮契約だ! そうすりゃ、刹那の姉さんも気と魔力が使えてパワーアップ――」
「いえ、気と魔力は基本的に反発しあうものです。
咸卦法という気と魔力を掛け合わせる技法はあることはありますが、私はそれが出来ませんから……
こう言うと失礼ですが、今仮契約をしても邪魔になるだけなのです」
「え?」
カモが名案とばかりにそんなことを言い出すが、刹那の説明に固まるはめとなる。
実を言えばネギま!のコミックスを読んだ刹那も咸卦法を覚えようとしたのだが、刹那自身は魔力を持たないために練習が出来なかった。
それにすぐに身に付く技術でも無い為、今この場で仮契約をしたとしても妨げにしかならない。
「とりあえず、ネギ先生が魔法を撃って目くらましをし、私が飛び込みます。
その後にネギ先生と明日菜さんがこのちゃんを助けてください」
「わ、わかりました!」
「う、うん! 刹那さんもがんばって!」
「気を付けてくださいね」
刹那の話を聞き、ネギと明日菜にさよは戸惑いながらもうなずいた。
ハッキリ言って不安要素しかないが、今の所はこれくらいしか方法が思いつかない。
翔太さんならどうしただろうか……ふとそんなことを考えて苦笑してしまった刹那だが、すぐに表情を引き締めて刀を構え――
「お願いします!」
「はい! ラス・テル マ・スキル マギステル――
光の精霊(ケントゥム・エト・ウーヌス)101柱(スピーリトゥス・ルーキス)!!
集い来たりて(コエウンテース) 敵を射て(イニミクス・サギテント)
魔法の射手(サギタ・マギカ) 集束・光の101矢(コンウェルゲンティア・ルークム)!! 」
刹那の掛け声にネギは返事をすると多数の光の矢を放った。
その光の矢は祭壇へと向かい飛んでいき――
「む?」
その光景にフェイトが気付いた。
(彼らが来た? でも、早すぎる?)
そのことにフェイトは疑問に感じていた。なぜなら、刹那の実力は侮れなかった。
だから、最優先で無力化しようとしたのだが……石化させたと思ったら、それから回復して現われた。
まぁ、ネギ達の足止め用にと多くの式神を召喚するように千草に仕向け、自らも前もって準備することで多くの悪魔を召喚した。
それが功を奏して刹那を足止めしたと思ったのだが……それをなんとかするために助けを呼ぶのは予想出来る。
だが、それでもここに来るのが早すぎる。
「ま、もう遅いけどね」
そんなことを漏らしつつ、フェイトは光の矢を対処するために体を向けた。
「な、もう来たんかいな?」
「でも、大丈夫だよ。そうでしょ?」
「ふふ、そうやな……」
光の矢が飛んできたことに千草は少し驚いたが、フェイトの言葉に笑みを浮かべていた。
そう、フェイトが前もって準備していたのは何も悪魔召喚だけではない。
思ったよりもここに来たのが早かったのには驚いたが、それでもそれだけなのだ。
「このちゃんを返せぇぇぇぇぇぇぇ!」
フェイトが光の矢を障壁を張ることで防いでいる所に刹那が飛び出し、斬りかかってきた。
フェイトはそれを左腕に魔力を纏わせることで受け止めるが――
「く……本当になんなんだい、その剣は……」
わずかに顔をしかめながら、フェイトは問い掛ける。
刹那の剣はおかしい。まるで障壁を素通りしているように思える。
まぁ、刹那の剣はボルテクス界の悪魔に対抗するためにフォルマを使って造られた剣である。
ボルテクス界の悪魔の守りを貫くための力がフェイトの障壁を無力化しているのだ。
それでも障壁を強化すれば防げるが、今回はあえて受け止めることにした。
フェイトは読んでいたのだ。この後、ネギ達がどうするかを――
「このかさぁぁぁぁん!」
「このぉぉぉ! このかを離しなさいよぉぉぉ!」
「そうです! 返してください!」
フェイトと刹那を横切る形でネギと明日菜にさよが飛び出してきた。
そこにいるはずのこのかを助けるために……だが――
「きゃ!?」「な、なんだ!?」「なんですか!?」
突然、祭壇から光の柱が天に向かって伸びたためにネギと明日菜にさよは驚いて立ち止まってしまう。
「な!?」
そして、次の光景に刹那は驚きを隠せなかった。
なぜなら、光の柱の根本から轟音と共に光り輝く巨躯が現われようとしたいのだから――
「残念……どんなに急いだとしても、結局は間に合わないのさ」
刹那から離れながらフェイトはそう言い放つ。
フェイトが前もってしていた準備。それはすぐこの場へと来れるようにするためのゲートの設置。
そして、今現われようとしている巨躯の封印を解きやすくすること――
「ふふふ……遅かったどすなぁ〜……儀式はたった今終わりましたえ」
「むぅ〜!?」
巨躯の顔の横に口を塞がれシーツを掛けられただけのこのかと共に浮かびながら、千草は笑みを浮かべていた。
「デカッ!? つ〜かデケェ!? デカすぎるっておい!?」
「二面四手の巨躯の大鬼『リョウメンスクナノカミ』……1600年前に討ち倒された飛騨の大鬼神や……」
驚くカモの反応が楽しいのか、千草は笑みを浮かべたまま自慢するかのように話していたが――
「アニキ!?」
「ラス・テル マ・スキル マギステル!!
来れ雷精(ウェニアント・スピーリトゥス)風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)!!
雷を纏いて(クム・フルグラティオーネ) 吹きすさべ(フレット・テンペスタース) 南洋の嵐(アウストリーナ)
雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!!」
ネギが即座に呪文を唱え、巨大な旋風と稲妻を放った。
なんとかしなければと今使える中で最大級の魔法を放ったのだが――
「あ……ぐ……」
「あはははは、それが精一杯か? まるで効かへんなぁ〜!」
それはリョウメンスクナノカミ……スクナの体に弾かれてしまう。
まるでそよ風を受けるかのように……この事実にネギは呆然とし、千草は高笑いを上げる。
勝てる。この時、千草はそう確信していた。終わったな。フェイトはそう思っていた。
真祖の吸血鬼たるエヴァがいることは知っており、彼女がなんとかしてしまうだろうとは考えている。
だが、今この場ではネギ達は終わったと思ったのだ。
だから、気付かない。自分達が最悪なことに手を貸していたなどと……
前にも話したが、理不尽とは誰にでも起こりうることなのだ。フェイトは力を持つが為にそのことを知りもしなかった。
「このかお嬢様の力でコイツを完全に制御可能な今、もう怖いもんは――」
千草がそう言いながら高笑いを上げていたその時だった。
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!???』
「な、なんや!?」
「え?」
突然、スクナが雄叫びを上げたのだ。良く見るともがき苦しんでいるように見える。
いきなりのことに千草は戸惑い、フェイトも予想外のことに思わず目を見張ってしまう。
「な、何が起こってるのよ……」
ネギが呆然とその様子を見ている中、明日菜は突然のことに戸惑いの色を隠せずにいた。
『ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???』
「アホな!? スクナが!?」
更にスクナの体が崩れだしたことに千草は驚愕する。フェイトも黙って見ているが、内心は混乱していた。
スクナを倒せるほどの魔法を喰らったのならまだわかる。だが、スクナは”まだ何もされていない”のだ。
何もされていないのになぜ体が崩れているのかがわからない。この時、フェイトは注意深く見ていればわかっていたかもしれない。
スクナの力が奪われているのを――
やがて、スクナの体は完全に崩れ、残ったのは光の柱だけ――
「な、なんや!?」
「く……なんだこの力は!?」
その光の柱から膨大な力が吹き出したことに千草とフェイトは顔を腕でかばいながら見ていた。
ネギや明日菜、刹那も同じく腕で顔をかばいながらその光景に視線を向け――
「な、あ……な……」「あ、え……あ……」「む、う、む……」
その光景に千草とフェイトはほぼ同時に立ちすくんでしまう。
このかも口は塞がれているが、心境はほぼ同じであった。
「あ、ああ……」「な、え? あ、ああ……」「いや、いやぁ……」
ネギと明日菜も似てはいるが……こちらは怯えているようにも見えた。さよにいたっては完全にへたり込んでいる。
だが、それは無理も無かった。光の柱が消えると共にそれはそこにいたのだ。
『我が名はアスラ……この世を美しき世界にするために彼の鬼神を贄として降臨した』
アスラ……と名乗った存在。大きさはスクナの半分ほど。九つの腕を持ち、三つの面を持つ人型――
もし、ある者が見たらアスラをこう言い表すだろう。あれはまるで阿修羅だと……
それもそうだろう。アスラとはインド神話やヒンドゥー教、バラモン教における神族とも魔族ともなった存在である。
また、仏教における阿修羅の元となった存在なのだ。
「あ、あ……」
だから、千草が怯えているのも当然である。自分なんて簡単に潰されそうなまでの存在感。
そんなものを今まで感じたことの無い千草にアスラの存在感に耐えられるわけがない。
フェイトも恐怖を感じていた。勝てない……例え戦ったとしても一瞬でかき消されると否応にもわかってしまう。
「あ、ああ……」「ああ……」「あ、いや……いや……」
ネギと明日菜にさよも完全に怯えてしまっている。唯一、刹那だけは冷静に見ていられた。
怖いわけではない。敵わないのもわかっている。でも、以前似たような存在と対峙したことがあったため、なんとか耐えられたのだ。
「な、なん……なんや……あんたは……」
『我は母が願う美しき世界の為にここへと来た……今、ここで我はこの世を支配する。
支配し、美しき世界へと変えよう……その為にその者を――』
「ひぃ!?」
怯えながらも問い掛ける千草だが、アスラの言葉を聞いて逃げ出してしまう。
「むぅ〜!?」
それと共に支えが無くなったこのかは落ちていくが――
「このかさん!?」
「んむ!?」
間一髪、気付いたネギによって受け止められる。
ネギが動けたのは奇跡と言ってもいい。偶然、このかが落ちる所を見た為に体が勝手に動いたのである。
「このちゃん……く!」
そのことに刹那はほっとしたものの、すぐさまアスラを睨んで刀を構え、更には白銀の翼を出していた。
「ネギ先生! 明日菜さん! このちゃんを連れて逃げてください!」
「え? あ、刹那さんは……どうする気なのよ……」
刹那の叫びに正気を取り戻した明日菜が問い掛ける。どう見たって、刹那は戦おうとしているようにしか見えない。
そんなのは無茶だと明日菜だってわかる。だって、あんなのに勝てるはずがないのだから……
「あいつは言いました……この世を支配するためにその者が必要だと……その者とは――」
アスラを睨みながら、刹那は答える。もし、自分の考えが間違っていなければ……アスラは――
『寄越せ……その者は……』
「う、あ……」
ふと、アスラはネギに向かって腕を伸ばしてきた。その光景にネギは動けなくなる。
アスラの存在感に気圧されてしまい、動くという感覚が麻痺してしまったのである。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!?」
『む!?』
そこに割ってはいるかのように刹那が飛び込んできた。そのことにアスラはわずかに引いてしまうが――
「ネギ先生、このちゃんを連れて逃げてください! 早く!」
「え? あ……」
叫ぶ刹那だが、ネギは動けずにいた。アスラの存在感に気圧されたのもあるが、状況が理解出来ずに戸惑ってしまったのである。
「奴の狙いはこのちゃんです! だから、早く!」
それでも刹那は叫ぶ。前回、麻帆良に現われた異界でもこのかが狙われていた。
今回もこのかの力を使って何かをする気だと刹那は気付いたのである。
だからこそ、このかを逃す必要があったのだが――
「く……」
この間にフェイトは正気に戻り、水の中に解けるように消えていった。
何がどうなっているのかわからないが完全に予定外のことが起き、どうすることも出来ないとわかったが故の撤退であった。
「け、けど刹那さんはどうする気なのよ……」
「みなさんが逃げたら私も逃げます! だから早く!」
戸惑う明日菜に刹那はわずかに顔を向けながら叫ぶが……それがまずかった。
「あぐ!?」
「「「刹那さん!?」」」
アスラに右腕をつかまれて持ち上げられる刹那を見て、ネギと明日菜にさよは驚いてしまう。
そう、わずかとはいえ気をそらしてしまった為に捕らえられてしまったのだ。
「あ、ぐ……ぐぅ……」
『貴様のその心は醜い……誰かを守る為に戦うなど、あまりにも醜すぎる。そんな者は新しき世界にはいらない』
つかまれた腕に掛かるあまりの力に苦痛を感じてうめく刹那に、アスラはそう言いながら左の上の腕を振り上げた。
「あ……」
それを見た時、刹那はもうダメだと感じてしまう。自分はここで……
(ごめん、このちゃん……守れなかった……ごめん……なさい……翔太さん……)
思い浮かぶのは親友の笑顔と……自分の恩人とも言える人の顔……
それが心の中で浮かんだ後、刹那は静かに目を閉じてしまう。
「刹那さん!?」「むぅ〜!!?」「刹那さ〜ぁん!?」「いやあぁぁぁぁぁぁ!?」
その光景にネギとこのかにさよは叫び、明日菜は思わず顔を背けながら悲鳴を上げてしまう。
(最期に……翔太さんにお礼が言いたかったな……)
なぜか、そんなことを考えてしまう刹那。だが――
「だああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
『む?』
「え?」
いきなり聞こえてきた悲鳴。そのことにアスラは思わず顔を向けてしまう。
刹那も突然の事に戸惑いながらも目を開いて顔を向け――
誰かが飛び込んでくる光景を見てしまう。
「うそぉ!?」
『ぬお!?』
「きゃ!?」
その誰かがアスラとぶつかり、その拍子につかんでいた腕を放されて刹那は落ちてしまうが。
「あ……」
「あだ!?」
その誰かに抱きかかえられることで事無きを得た。誰かの方は背中から落ちる羽目になったが……
「え? あ、ああ……」
その誰かが誰なのかに気付いた時、刹那は思わず嬉しそうな顔をし……更には顔を赤らめてしまう。
だって、自分を助けてくれたのは翔太だったのだから……
「翔太……さん……」
「スキマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「きゃ!? って、スキマ?」
嬉しそうな顔をする刹那であったが、翔太はなぜかそんなことを叫んでしまう。
そのことに刹那は驚きながらも首を傾げてしまうが……
さて、何があったのか? それはまたもや少しばかり時間を遡る。
黒い穴を通って出てきた翔太達が見たのはアスラが現われる所であった。
「な……んだ、あれは……」「なによ……あれ……」
アスラの姿を見たエヴァと凜は呆然としていた。いや、内心は怯えていたと言っていい。
アスラの存在感は真祖の吸血鬼であるエヴァさえも塗りつぶすかのような圧力を感じたのだ。
「ああ……いやぁ!?」
「サクラ!? 気をしっかり持ってください!」
桜にいたっては完全に怯えしゃがみこんでしまった。そんな彼女をなだめるライダーだが、ライダーも内心は戸惑っていた。
わかってしまうのだ。アスラは自分以上の存在であると……バゼットもそれがわかったために顔をしかめていた。
「なんなのですか……あれは……」
「さぁ? まぁ、とんでもないってのはわかるがね」
「翔太さんは……平気……なんですか……」
セイバーも戸惑いの色を隠せない中、翔太は気にした風も無く答える。
それに士郎は少し驚いていた。アスラを見た時、士郎でさえも恐怖を感じた上に敵わないというのもわかってしまう。
なのに、翔太はそういったものを感じさせなかったのだ。
「嫌だね……慣れって……」
「慣れ……あのようなのに慣れるって……お前、どういう戦いをしているんだ……」
「いや、あれより凄いのに会ったことあるしな……なんていうか……今更?」
怯える美希の疑問に遠い目をしつつ明後日を見ていた翔太は後頭部を掻きつつ答えていた。
確かに翔太は今まで神や魔王といった存在と対峙してきた経験を持つ。
それにあのゴスロリの少女の方がアスラよりも凄いと翔太は思っていたのだから。
「それで……良く生きているものだな?」
「まぁ、仲魔達のおかげでなんとか……あれより凄いのはあっちに遊ばれてるだけだけど……ていうか、絶対に勝てない自信があるよ」
アスラの存在感に内心戸惑いながらも睨みつけるアーチャーに、翔太は顔を引きつらせながら答えていた。
事実、翔太はあの戦いを自分1人で勝ったとは思っていない。毎回、なにかしらの助けを得ていたのだから。
それにゴスロリの少女に勝てないのも理解しているつもりだった。あれは次元とかそういう話では無く、根本的に勝てない。
なぜか、そう思えるが故の言葉であった。
「それでどうするんだい?」
「今は刹那達を退かせる。そのために我々は援護を――」
「あ!」
アスラの存在感になんとか耐えられた真名の問い掛けにスカアハが答えようとした時だった。
翔太が何かに気付いて声を上げ――
「あ、翔太!」「待ちなさい!」
理華とメディアの制止を聞かずに走り出したのである。
何があったのか? それは刹那がアスラに捕まった所を見た為であった。
知り合いを死なせたくない……その想いが翔太を動かしていたが――
「間に合えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
思わず叫んでしまうが、翔太自身も嫌でも気付いてしまう。刹那との距離が離れすぎて、このままでは間に合わないことに。
アーチャーもそれがわかったのだろう。密かに口元に笑みを浮かべ――
「理想に溺れて溺死しろ……」
なんてことを呟く。でも、翔太は走るのをやめない。
わかっている。でも、止まれないのだ。目の前で知り合いがいなくなるのは見たくないから――
「なら、間に合わせてあげましょうか?」
「へ?」
そんな時に聞こえてきた声に思わず顔を向ける翔太。なぜだろうか?
先程の声にはすっごく聞き覚えがあって、なのに嫌な予感しかしないのは?
「へ?」
そんなことを考えていた時に感じる浮遊感。浮遊感? なぜそんなのを感じるのかと翔太は足下を見てみる。
そこには避けた空間に無数の瞳があるという、ある意味トラウマになりそうな光景であった。
で、それを見た瞬間に翔太はわかってしまった。先程の声の主が誰なのかを――
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
しかし、わかったからといって空を飛べない翔太はそのまま避けた空間……スキマに落ちるしかなく――
「うそぉ!?」
すぐさま外に出たと思ったら、目の前にはアスラがいた。
『ぬお!?』
「きゃ!?」
かといって止まれない翔太はそのままアスラと激突し、そのまま落下してしまう。
その時に刹那がすぐ横にいたのに気付いて思わず抱きかかえてしまい――
「あだ!?」
着地出来ずに背中から落ちるはめとなった。
「いつつ……あ――」
「ふふふ……借りは返したわよ。それじゃあ、後はがんばってね」
痛みにこらえる翔太だが、気配に気付いて顔を向ける。
その先にいたのはスキマから上半身を出し、こちらを見下ろしながら閉じた扇子で口元を隠しつつくすくすと笑う八雲 紫の姿であった。
その紫はそんなことを言いながらスキマへと身を沈め消えていき、それを見届けた翔太はというと――
「スキマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「きゃ!? って、スキマ?」
思わず叫んでしまい、刹那を驚かせて挙句に首を傾げさせる結果となってしまったが。
この時、翔太は思った。もうちょっとやりようはあっただろうと……まぁ、実際その通りなのだが……
そのことに怒りを感じて思わずスキマと呼んでしまい……以降、紫のことをスキマと呼ぶようになる切っ掛けとなったのだった。
『現われたか……我らが母の邪魔をする人間よ』
「またそれか! 何度も言うがそいつが何しようとしているか知らねぇって言ってるだろうが!?」
「あ、あの……翔太……さん?」
アスラの言葉に立ち上がって怒鳴る翔太。で、刹那は真っ赤になっている。
というのも翔太にお姫様抱っこされてるからである。翔太自身は気付いてないが……
『ならば、なぜここにいる?』
「てめぇらのせいだよ! 無理矢理巻き込まれた挙句に変な呪いまで掛けられたんだぞ!」
睨みつけるアスラに翔太は怒鳴り返していた。まぁ、実際その通りなので翔太の怒りももっともだったりする。
相手の勘違いと逆恨みでアスラの仲魔と戦う羽目になり……
その場をゴスロリの少女に見られた為に今回の事態に巻き込まれるように仕向けられ、更には逃げられないように呪いまで掛けられたのだ。
結果として、翔太はあまりにも理不尽な重荷を背負う羽目となってしまった。
だから、このような状況にした者達にそのようなことを聞かれて怒り出したとしても、ある意味しょうがなかったかもしれない。
「あったまきた! 今度こそ全部話してもらうからな!」
だからこそ、翔太はアスラを睨みつける。
今までの怒りをぶつけるかのように――
今度こそ、全てを知るために――
翔太は戦おうとしていた。
「わ、私は……どうしたらいいのでしょうか……」
未だに真っ赤になったままの刹那をお姫様抱っこしているのには未だに気付いてなかったが……
あとがき
そんなわけでスクナ戦……と思いきや、アスラ戦でした。
ちなみにこの戦いは結構前から決まってました。決して拍手を見たからじゃないよ?
それはともかく、次回のアスラ戦はどうなるのか? 次回はそんなお話です。
アスラとの戦いで翔太は始めから魔人の力を使う。それに対し、スカアハが考えた作戦とは――
そして、戦いを見るリニアスは何を思うのか……そんなお話です。
え〜、相変わらず拍手や感想のレスが返せなくて申し訳ないです。
でも、現状作品書くのが精一杯でして……お盆には返せるようにしたいです。
では、次回をお楽しみに〜。
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