out side
「もう一度聞く、お前達は紫が話していたことを覚えているか?」
スカアハにもう一度問われるものの、高音とシャークティ、愛衣は戸惑った顔をしていた。
それがいったいなんだというのか? それが気になったからだが――
「確か……なぜ吸血鬼になったカ……だと思ウ」
「はい、その通り。良く出来ました」
そんな中、ココネの言葉にシンジは軽い拍手をしていた。
そのことに高音とシャークティは睨む。なぜなら、吸血鬼になったことが何の関係があるのかと思ったからだ。
「どうやら、まだ意味はわかってないようですね。さて、エヴァさん……そのお姿は本来の――
いえ、吸血鬼になった当時のお姿……で、間違いありませんね?」
「なんだ、いきなり? そうだが、それがどうかしたのか?」
その様子に少し呆れつつもシンジはそんなことを問い掛け、エヴァはそのことに首を傾げつつもうなずいた。
そのことに微笑んでから、シンジは高音達に顔を向け――
「さて、エヴァさんの姿から考えると10才前後といった所でしょうかね」
あごに手をやるシンジだが、高音とシャークティ、愛衣にはシンジの意図がわからずに訝しげな顔をする。
もっとも、それは美空や刀子も同じであった。逆に高畑はうつむいていた。
それに気付いたネギと明日菜は首を傾げていたが――
「さて、問題です。10才の子供が吸血鬼になろうなんて思うでしょうか?」
シンジの問い掛け。一瞬、高音もシャークティも愛衣も……刀子やネギ、明日菜達も言葉の意味を理解出来なかった。
「え? あ、あれ? 普通はやりませんよね?」
しばしの沈黙……少しして、意味を理解した愛衣が問い掛けるが、高音とシャークティは答えられなかった。
いや、高音やシャークティも同じことを考えていた。子供が吸血鬼になりたがるだろうか? まず、なろうとは思わない。
吸血鬼=バケモノと考える人は多いはずだ。だから、そんなものになろうとは考えないだろう。
よっぽどの理由でもない限りは――
「その通りです。では、エヴァさんはなぜ吸血鬼になったのでしょうか?」
「え? なぜって……それは――」
シンジに聞かれて、高音は戸惑いを見せていた。
確かにその考えで行くとエヴァがなぜ吸血鬼になったのかが疑問になる。
一方でシャークティは最初から吸血鬼だったのでは?
と、考えていた。希ではあるが、そういうのもいると聞いていたためである。
「無理矢理だよ……10才の誕生日に目覚めた時、私はこの体になっていた……」
「え?」
ポツリと……忌々しそうに呟くエヴァ。そのことにネギが驚いたような顔をする。
それは高音とシャークティも同じであったが、そのベクトルは違っていた。
エヴァは自ら望んで吸血鬼になったとばかり思っており、呟きを聞いた後も嘘だと思っていたのだ。
だから、エヴァのその言葉が受け止められなかったが――
「その前までは私は正真正銘の人間で……ある領主の城に預けられて、何不自由無い日々を過ごしていた……
だが、10才の誕生日……あの男は……私をこんな体にしたんだ……その時、私は神を呪ったよ……
その後、私をこんな体にした男に復讐を果たして……私は城を出た」
「その後のお話は私が引き継いでもよろしいでしょうか?」
「……ああ」
胸に手を当て、頭を下げるシンジに話していたエヴァは顔を背けながら返事をした。
エヴァとしてはこんな形で話したくは無かったのだろう。今も不機嫌そうな顔をしている。
だから、シンジに後を任せたのかもしれない。
「ありがとうございます。さて、話の続きですが……それからエヴァさんは地獄のような日々を強いられることとなります。
なにしろ、命を狙われ続けることとなりましたからね。最初の頃は大変だったようですよ。
力も今ほども無く、誰も助けてくれませんでしたから」
「助けてくれないって……そんな、なんで……」
シンジの話にネギが戸惑いを見せた。なぜ、誰も助けようとはしなかったのか?
だが、高音とシャークティは当然だと考えていた。だって、エヴァは吸血鬼なのだ。
人を襲い、血を啜り……そうやって、好き勝手やってきたのだと……
「その答えはあなた達が示しているんですけどね」
「え?」
指を差しながら答えるシンジだが、愛衣はわけがわからず首を傾げていた。
高音やシャークティも同じような反応をしたが――
「吸血鬼だから……ただ、それだけの理由だけで、エヴァさんは命を狙われ続けられたんです。
吸血鬼は危険だ、人を襲い血を啜り眷属にしてしまう。村や町を滅ぼすかもしれない。そんな風に決めつけて……
ですが、私に言わせてもらうと、吸血鬼がそんなことをするのは大きく分けて2つの理由があります」
話ながら指を2本立てるシンジ。一方でそれは当然だろうという顔をする高音とシャークティは睨んでいたが――
「まず、力に溺れる者。ま、これが一番多いです。人でも権力とか持つとろくでも無いことをするのがいますが、それと一緒です。
2つ目は全てに絶望し、諦めてしまった者。吸血鬼だからといって、必ずしも人を襲うわけではありません。
中には人を襲わず、眷属を増やそうともせずに静かに生きようとする方だっています。
最低限の血さえあれば、一応生きていくことも出来ますからね。ですが、本人がそのつもりでも、他の人はそうは思わない。
それで連日連夜のように追い掛け回され……ついには狂って人を襲うようになってしまった……
中には自分が吸血鬼になったというだけで大切な者達を殺されて、その復讐のために……なんて人もいましたね」
シンジの話を聞いてか、高音とシャークティの表情に困惑の色が出始めた。
シンジの話のようなことを考えたことすらも無かった。吸血鬼は人を襲う。それが当然だと思ってたから。
だから、シンジの話を信じることが出来ない。出来ないのに……なぜか、言葉が心に突き刺さるように感じた。
一方でネギや明日菜にココネなどは同情の眼差しをエヴァに向けていた。
ネギ達の場合は吸血鬼に対する禁忌感がそれほど無い。だからこそ、同情出来たのだが……
それは今のエヴァにとっては鬱陶しいだけでしかなく、不機嫌そうに表情を歪めていた。
「エヴァンジェリンは……何人も殺しているのですよ!」
「記録上で確認した限りではありますが、私から言わせてもらうと少なすぎますよ。
時代もあったのでしょう……殺さなければ、殺されていた。エヴァさんはそういう状況に追い込まれていたんです。
もちろん、それを正当化は出来ません。ですが、そうしなければならないほどに追い詰められていたとも言えます。
もし、あなた方がいわれのない罪で殺すとか言われたら……どうしますか?」
震える声で否定するようにシャークティは言うのだが、シンジは真っ直ぐ見据えながら答えた後にそんなことを聞いてくる。
吸血鬼……ただ、それだけの理由で命を狙われ続けたエヴァ。その苦しみと過酷さは普通の生活を送ってきた者には想像も出来ないだろう。
それは高音とシャークティも同じであった。話を聞いて困惑はしていたが、聞かれたことに関してはまだ楽観的に考えていたのだ。
そんなことはない。話せば、きっと自分の無実をわかってもらうと……
実はそうでは無いことが現実に起きており、2人ともそういったことをニュースで見ていた。
ただ、ここでは困惑していたこともあってか、思い出すこともなかったが……
「で、ですが……エヴァンジェリンがそうだという証拠は……ありません!」
「あなた達が言うような者であるという証拠もありませんよ」
だから、否定しようと高音は叫んだが、シンジは即座に返してからため息を吐き――
「あなた方はエヴァが吸血鬼だから……ただ、それだけの理由でそんなことを言っているようですが……
それを悪に対しても行っていたら、あなた方は絶対に後悔しますよ?」
「ど、どういうことですか!?」
そう言われて、シャークティは怒鳴るように問い返す。後悔する? なぜ、悪にそんなことをしたら後悔するというのか?
悪は悪なのだから、私達のような者がなんとかしなければならないのは当然……そう考えていた。
「悪を行うのはそれなりの理由があるからですよ。確かにろくでもない理由でやってる人もいますが……
中にはやむにやまれず、やってしまったという人もいます。
また、家族などを人質に取られて脅されて、悪事を働いた……なんて人もいましたね」
「確かに……そうだね」
「な!?」
シンジの話に高畑がうなずいたことに高音はシャークティと共に驚いていた。
高畑もただ同意したわけでは無い。そういう経験があるために同意し……2人は高畑が同意したことに驚いたのである。
「シンジ君の言うとおりだよ。悪を行う側にも理由がある……確かにろくでもない理由の時もある。
でもね、時には何かの為に悪を行う人だっているし、さっきも話してたけど大切な人を守る為に……なんて人もいるよ」
苦笑混じりに話す高畑だが、高音とシャークティは何も言えずにいた。
高畑がどういった人物なのかを知る故に、その話の信憑性が増していて……否定したかったことが否定出来なくなってしまったのだ。
「相手が悪事を働いたから悪……としてしまうのは、早計です。
なんでそんなことをしたのか? それを調べるのは警察だってやってることですよ?
そうしないと冤罪でしょっぴいてしまう……なんてことにもなりかねませんしね。
むろん、そういったことを調べるのは簡単ではありません。
ですが、そうしなければ時には失敗をするかもしれませんし、後悔するかもしれませんからね」
肩をすくめながら話すシンジ。言われた高音とシャークティはうつむき、落ち込んでいた。
悪はただ悪として……2人はそう見てきた。少なくともそれが当然だと考えていた。
だが――
「あえて言わせていただきますが、正義と悪というのは見る者によってとらえ方が違ってきます。
自分が正しいことをしたつもりでも、他の方々がそうは見ていなかった……なんてのは、良くある話です」
シンジはそんなことを話すが、高音とシャークティは反論することは無かった。
それは違うと言いたかった。でも、今までの話を考えてしまうと、それが言えなくなる。
自分は何をしていたのか……そんなことを考えてしまうのだ。そんな2人の様子に愛衣や美空、ココネは心配そうに見ていた。
そして、それはエミヤも同じであった。九を救うために一を切り捨てる。
そんなやり方をしてきたエミヤだが、その一に対して今の話で考えてしまったのだ。
エミヤはその一を切り捨てるために必要だから……それだけの理由でその一を選んでいた。
だから、その一の事情なんて考えたことも無かった。しかし、今の話でもしその一にも事情があったら……
「は……人に裏切られて当然だったわけか……」
「どうやら、お気付きになられたようですね。先程も話しましたが、一を切り捨てなければならない時はあります。
ですが、その一をどんな者にするのか? それ次第では結果も変わってきますよ。
必要だから切り捨てた……じゃ、大抵の人は納得しないでしょうしね。
だから、考えなければなりません。切り捨てる一をどんな者にするのかを」
改めて己の過ちに気付いたエミヤ。そのことに気付いたシンジが静かに話した。
みなさんも映画などで仲間のために1人が残って犠牲になる。というのを見たことがあると思う。
あれはあれで感動的な物であるが、流石に現実ではそうはいかない。
そうはいかないが、切り捨てる一をどうするかによってはそれに近い形に出来ることもあるのだ。
「しかし、今回は高畑さんに助けられましたね」
「え? そうかい?」
ふと、シンジが漏らしたひと言に高畑は首を傾げる。高畑としてはそんなつもりは無かったのだが――
「なに、私や映姫さん、紫さんの言葉だけでは彼女達は話を聞くだけで深くは考えなかったでしょう。
そういった意味では助かったと言えます。例え、言葉だけでも知っておくことは大事なことですしね」
にこやかに話すシンジ。確かに他人の言葉は普通は信じにくい。
その一方で、高畑を高音やシャークティは歴戦の勇士として知っていた。だからこそ、その言葉を受け止め、考えてくれたのである。
彼女達のことを気に掛けて話しかけたスカアハもそれを感じ取り、ほっと息を吐いていた。
この先、苦難が待っているかもしれない。でも、今の話を聞いて考えてくれたのなら、乗り越えられるだろう。
むろん、簡単にとはいかないだろうが……彼女達の今後を考えるなら、その方が良いとスカアハは思っていたのである。
ただ、この時もう1人の少女が別な意味で真剣に考えていたとは気付かなかったが――
あとがき
まずは……すいません……やはりというか、時間が取れませんでした;;
しかも、体調不良も起こしてまして……ツライ状態です。
それはともかくとして、現実を知った高音とシャークティ。彼女達は今後どうなるのか?
次回は本当に幻想郷編最終回。いつものように行われる宴会。
そんな中で行われるやりとり……そして、ある少女がある決意をする。
その決意とは? そんなお話です。次回をお楽しみに〜
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