in side

「で、あんたらは何しにここに来たんだ?」
 アマテラスとセイオウボと名乗った奴らにそんなことを聞いてみる。
まぁ、睨みも混じってるけど……あれだけの力を持ってて、ただここに来たってのは無いと思うしな。
「構えないで……私達はあなた方と争いに来たのではありません」
「我らは復活したバエルを止める為に来たに過ぎない。もっとも、遅すぎたがな」
 と、アマテラスにそう言われると、セイオウボがそんなことを言い出したが……
バエル? 聞いたことの無い名前だけど……もしかして――
「バエルって、トニオと合体した奴か?」
「失礼ですが……トニオというのは人間ですか?」
「へ? あ、そうだけど?」
「それは……マズイな……」
 首を傾げてるとアマテラスに聞かれたんで答えたんだが、セイオウボがそんなことを言い出しやがりました。
うん、なんだろうか? 何がマズイんだろうか……こっちは色々と一杯一杯なんだけど……嫌な予感しかしませんよ?
「お話ししましょう……私達がここに来た理由を……」
 と、アマテラスは目を閉じながら、そんなことを言い出し――
「その昔……このボルテクス界が創世されたばかりの頃……魔王バエルはボルテクス界を支配しようとしていました」
「悪魔は強き者に従う……そして、バエルはそれが出来るだけの力を持っていた……
その点で言えば、文句を言う者はいなかっただろう」
「ですが、バエルは……気にくわない……ただ、それだけの理由でありとあらゆる物を破壊し始めたのです」
 アマテラスとセイオウボの話を聞いて、顔が引きつるのを感じた。
ていうか、どこのわがままだよ……気にくわないから壊すって……
で、理華や美希も俺と同じ考えだったのか、顔が引きつってるしな。
「このままでは全てを壊されてしまう。そう思った私達はバエルを止めるべく戦い……」
「我らの友が犠牲になることで、バエルを友と共に封印することに成功し……ここに封じたのです」
 アマテラスとセイオウボの話を聞いて、俺は思わずため息を吐いた。
友が犠牲に……か……今の俺には胸に突き刺さる言葉だな……
「待て……ここに封印したと言ったな? その封印は人間に簡単に解ける物なのか?」
「実を言えば……封印が解かれるのは予想外でした……この洞窟の岩壁の奥底に塗り込める形で封印したのですから……」
「そうすれば、いかに悪魔であろうとも手出しは出来なくなる……そう思っていたのだが……」
 そこに気付いたスカアハが問い掛けるとアマテラスはうつむき、セイオウボは渋い顔をして答えていた。
これは後でわかったことなんだが、オレル達はこの洞窟を前線基地にする際に拡張工事をしたらしい。
洞窟の岩壁を砕いて広くしながら……そのおかげでバエルの魂を発見したと……
たく、どうしてこう余計なことをしてくれるんだか。
「その為に私達はバエルの封印が解かれたことに気付かず……バエルが動いた時には……」
「普通に考えれば、洞窟の壁を崩そうなんて考えんからな。そういった意味では、正に予想外だったわけか」
 アマテラスがうつむきながら話すが、スカアハが渋い顔をしながらそんなことを漏らしていた。
確かに洞窟の壁を崩そうなんてのはなにかしら理由が無ければ、普通はやらないわな。
「それもあるが……バエルの存在を知られぬよう、力を感じられないように封印したのも気付くのが遅れた要因となってしまった。
誰かにバエルの存在を気取られれば、封印が解かれると思ったのだが……それは同時に私達にも存在を感じ取れなくなっていたのだ」
 セイオウボもどこか渋そうな顔をして話しているのだが……
つまり、最善を尽くして封印したつもりだったので油断してた……て、ことなのか?
「しかし、ただ封印を解かれたのであれば、まだ良かったのですが……」
「問題は人間を依り代にして受肉してしまったことにある」
 アマテラスの話を続けるようにして語られたセイオウボの言葉に首を傾げる。
いや、ていうかなんの問題があるのかわからないだけなんだけど……
「どういうことさ?」
「悪魔ってのは基本的に魂魄……すなわち魂のみの存在や。
それが生体マグネタイトを使って実体化してるんやが……魂魄の状態なら人間に憑依することも出来るんや。
悪魔によっては完全に乗っ取って、姿形を変えてしまう奴もおるらしいけどな。
後、これも悪魔によるんやが、人間に憑依することで完全な力を使える奴もおる
ま、メディアと同じや。メディアに使ったドリー・カドモンは、それと同じ事が出来るように造ったからな。
あ、言っとくがあのドリー・カドモンには人間を使ってないからな!」
 首を傾げながら聞いてみると、スリルさんが答えてくれました。
ちなみに最後のひと言はスカアハに睨まれたのに気付いたからみたいだが……
「ということは、厄介になったってことか?」
「それだけでは無いがな……で、お前達はどうするつもりなのだ?」
「むろん、バエルを再び封印するつもりではいます。ですが、今の私達は守らねばならない地があります。
私達がそこを長い間離れることは……下手をすれば、ボルテクス界を危機に陥れることになるでしょう」
 そう考えるとスカアハにそう言われてしまったが……スカアハの疑問にアマテラスはすまなそうにうつむきながら答えていた。
つまり、アマテラスとセイオウボはバエルをなんとかすることが出来ないってことか?
もしかして、俺達がやらなきゃならないとか――
「しかし、お前達の目的を考えるなら、任せるわけにもいかない」
「なら、どうするんだよ?」
「我らの友に再び立ち上がってもらおうと思います」
 セイオウボの話に首を傾げるクー・フーリンだったが、それにアマテラスが答えると共に右手に光の塊が現れた。
バエルの時よりも光が弱いが……それでも感じる力は結構強い。流石にバエル程じゃないけど――
「これは自らを犠牲にし、自らと共にバエルを封印した我らの友の魂……」
「ですが、それ故に命の灯火が消えようとしています。私達が力を与えただけでは復活は叶わないでしょう。
ですが……」
 セイオウボがそう言うと、アマテラスも話し……なぜか、リィナに視線を向ける……って、ちょっと待て。
「まさか、お前ら……リィナにそいつを憑依させる気か?」
「我らとて、このようなことをしたくはないが……今はこうするしか他ない。
我らの友の魂とその人間の命を救う方法は……それに我らもお前達もバエルだけを対処するわけにはいかないのだ」
 トニオに起こったことを思い出して睨むが、セイオウボに言われて思わず拳を握りしめてしまう。
そりゃ……確かに俺達はボルテクス界とかで起きていることをなんとかしなけりゃいけない。
でも、だからって……
「お前らの力でリィナを助けられないのかよ!? それにその友達ってのもドリー・カドモンを使えばいいじゃねぇか!?」
「そいつは……たぶん無理や。翔太はんにあげた奴以外じゃ、普通の造魔と同じくらいの力しか出せへん。
それにな……あのドリー・カドモンは、翔太はんにあげた物しか無いんや」
「確かに助けることは出来ないわけではありません……ですが、今の彼女の状態では……完全にと言うのは無理なのです」
 思わず叫びながら聞いてしまうが、スリルさんとアマテラスから返ってきた答えは良い物では無かった。
そのことに思わず拳を握りしめてしまう。納得は……出来なかった。だって、こんなのは……
「それで……それで、リィナはどうなるんだ?」
 気になったから、そのことを聞いてみる。なにしろ、トニオは尋常じゃないことになったんだ。
また、とんでもないことになるのは本気で勘弁して欲しい。色んな意味で……
「それは……私達にもどうなるかはわかりません……彼女の意識が残るのか……
私達の友の意識が残るのか……あるいは……」
 などと、アマテラスはうつむきながら話してくれたが……彼女も予想が付かないらしい。
下手をすれば、トニオと同じように……か――
ハッキリ言うと、やって欲しくないというのが本音だ。なんというか……リィナに申し訳無い気がしてならないから……
「わかった……」
「翔太……いいの?」
 しかし、俺はその気持ちを抑えた。その為に理華に聞かれるが……
「俺だって、本当は嫌だがな……けど、シンジが来れないんじゃ……そっちに賭けるしかないだろ……」
 深いため息を吐きながら、そう答えておく。賭けだってのはわかってる。
でも……でも、リィナを助ける方法がそれしかないなら……
「申し訳ありません……こんなことを言っても慰めにならないのはわかってはいますが……最良の結果になるよう、祈ってください」
「それと……生体マグネタイトを分けてもらえると助かる。我らも出すには出すが……多い方が都合が良いからな」
「わかったよ……」
 アマテラスの後にセイオウボがそんなことを言い出した為、俺は仕方なくGUMPを操作した。
まったく……これでリィナが助からなかったら……こいつら殴ってやろうかな?
なんてことを思いながら生体マグネタイトを出した。ちなみに量としては3千ほど。
その生体マグネタイトが光の塊に溶け込むと、アマテラスとセイオウボが差し出した手に導かれるようにリィナの元へ飛んでいき――
そのままリィナの体の中へ溶け込んでしまった……と、思った瞬間だった。リィナの体が輝きだしたのは。
「きゃ!?」
「く!」
 そのことに驚き、顔を背ける理華と美希。ミュウ達もあまりのまぶしさに顔を背けていたが……
俺だけは薄目になり、手で遮りながらも目を離そうとはしなかった。見届けたかった……リィナがどうなるのかを……
やがて、輝きが消えるとそこには……某ゲームのヴァルキリーの格好をした女性が中に浮かんでました。
いや、なんでさ?
「女神ヴァルキュリア……今、ここに戻りました」
「ああ……ヴァルキュリア……」
「よくぞ……戻ってきてくれました……」
 ヴァルキリー……じゃなくて、ヴァルキュリアの言葉にアマテラスとセイオウボは嬉しそうな顔をしてるが……
うん、なんていうか……なんでこう見覚えがあるのがくるのかね? 不謹慎だとはわかるが、疑問に思っちゃうんだけど?
ていうか、リィナは……ダメだったのかな? 姿が完全に変わっちゃったし――
「それと……ありがとうございます、翔太さん」
「はい?」
 ヴァルキュリアにいきなり言われて首を傾げるが……って、ちょっと待て?
「もしかして……」
「はい、私はヴァルキュリアであり……同時にリィナでもあります……」
 思わず指を差してしまうが、ヴァルキュリアは微笑みながら答えてくれました。
それを見て、顔が引きつった俺は悪くないと思う。いや、リィナが助かってくれればいいとは考えたよ。
でも、こうなるなんて思わなかったんだけど……下手すると最悪な状況にもなってたかもしれなかったみたいだし。
けどさ……姿まで変わるなんて思わなかったんで、どうしたらいいか混乱しちゃったんだって。
あ、良く見たら髪の色はリィナと同じピンク色だよ。
「ええっと……こんなこと聞くのもあれだけど……大丈夫なのか?」
「はい……今の私は互いの記憶と感情を共有している状態です。
ですから、翔太さんが私を心配してくれて、助けるために生体マグネタイトを与えてくれたのも、ヴァルキュリアを通じて知っています」
 思わず聞いてしまったことにヴァルキュリアは笑顔で答えてくれた。
そのことに思わず恥ずかしくなり、指で頬を掻いてしまったが……とりあえず、リィナが助かった……のかな? これって……
「しかし、良いのか? もしかしたら、お前は兄と戦うことになるかもしれないのだぞ?」
 と、スカアハがそんなことを言い出す。て、そういやバエルはトニオに憑依してるんだったよな。
そうなると兄妹で戦うかもしれないのか……その疑問にヴァルキュリアは胸に手を当てながら真剣な顔付きになり――
「わかっています。このままでは戦いは避けられないことも……
ですが、兄はこのままではバエルに呑み込まれてしまうでしょう。そうなる前に、私は兄を助けたいのです」
 真っ直ぐに見据えながら、ヴァルキュリアはそう答えていた。
しかし、こう見てると本当にリィナか? と思いたくなってしまう。
いや、だって……ヴァルキュリアになる前はどこか怯えてたようにも見えてたからさ。
「おかしいですか?」
「え?」
「確かにリィナだった私なら、怖くてそんなことも出来なかったかもしれません。
ですが、ヴァルキュリアと1つになったことで……それに翔太さんのおかげで……私は決心することが出来たのです」
 いきなり聞かれたんで首を傾げてしまったが、ヴァルキュリアは笑顔で答えてくれました。
なぜか、顔を赤くしてたりもするけど……まさか……だよね?
うん、理華達からすっごく視線を感じます。ていうか、またかって呟きが聞こえた気がしたんですが?
いや、俺何もしてないよ。何も……してないよね?
「ヴァルキュリア……お願いいたします。今はあなただけが頼りなのですから……」
「我々も出来うる限りの協力を惜しみません。ですから、必ずやバエルを封印してください」
「わかっています」
 アマテラスとセイオウボの言葉にヴァルキュリアがうなずく。
これを見ていると、俺達も何か出来ないかと考えてしまう。確かに俺達は別なことをやらなきゃいけないけど……
でも、このままでいいのか? と、考えてしまうのだ。
「運命にあがないし者よ……そなたの気持ちは嬉しい……だが、自分のやるべきことを見失ってはいけない。
確かにバエルのことも大事だが……そなたがやるべきこともまた大事なのだから……」
 どうやら、セイオウボに見透かされていたらしい。確かにそうなのかもしれないが……ちょいと待て?
「えと……運命にあがないし者って……もしかして、俺のこと? そういや、来た時も他の呼び方してなかった?」
「む? そうか、お前はまだ知らぬのか……」
 疑問だったので思わず聞いてみる。いや、名前を知らないのはしょうがないにしても、その呼び方は何って感じだし。
というか、明らかに厨二病的な呼び方なんですが……
「では、話しましょう……このボルテクス界が創成された理由を……」
「なんでさ?」
 アマテラスの言葉に思わずツッコミを入れてしまったが……いや、本当になんで?
呼び方の理由を聞いたのに、なんでそんなことを聞くはめになってるんだろうか?



 あとがき
先に……前回の掲載は少し早めに投稿を行ったために、いつもより早めに掲載されてました。
本当は定期更新のつもりでやったのですがね。
さて、リィナはヴァルキュリアと融合する形で復活する事が出来ました。
しかし、それは同時に彼女につらい覚悟を強いることとなってましましたが……

次回はついに明かされるボルテクス界が創られた理由……そこで翔太達はメムアレフの正体を知ることとなります。
そして、もう1つ何かが明らかになることが……というようなお話です。次回をお楽しみに〜



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