out side
「なんだ……これは……」
その光景をモニターごしに見ていたオレルは、思わずそんなことを漏らしていた。
自分が今までの研究の中で傑作と言ってもいい合成体『XG−12ギガント』――
人を素体にして数種類の悪魔を合成させるという……ある意味、無謀と言っていい行為によって生まれた生体兵器だ。
どれほど無謀かと言うと……例えばだが、あなたはいくつかの絵の具を渡されて、
「全部を使って指定した色を作れ」と言われて出来るだろうか?
そのような行為をオレルは人と悪魔を使って行ったのである。
ハッキリ言おう。翔太が言うタイラントもどき……オレルが創ったギガントは偶然の産物とも言える生体兵器なのだ。
そして、その力は”オレルの世界で確認されている悪魔”以上の力を持っている。
その力は大木をたやすくなぎ倒し、巨体でありながらその動きはまさしく風。
その気になれば、常人には捕らえられないほどの動きが可能。
また、その体も最高の威力を持つ特殊加工された弾丸でもちょっとした傷が付く程度。
例えバズーカをまともに受けたとしても、多少の傷で済んでしまう。
まさしくモンスター……少なくともオレルやギガントの合成に立ち会ってきた研究者達はそう思っていた。
そう思っていたのだ……この光景を見るまでは――
「があぁぁぁ!?」
「ぐぅ! なめんなぁ!」
「があぁ!?」
ギガントが振り回す腕を懐に飛び込みながら右腕で受け止め、体を回転させて回し蹴りを喰らわせる翔太。
その蹴りを受けたギガントはよろめきながら後ろへと下がり――
「ぐおおぉぉぉぉぉ!?」
すぐさま立ち直って右腕を突き出し――
「おらあぁぁぁ!?」
「ごはぁ!?」
跳ぶ形で突き出された腕を避け、お返しとばかりに振るった右の拳がギガントの後頭部を抉る。
先程からこのような戦いが続いていた。ギガントの攻撃はまったく当らず……逆に翔太の攻撃は当たり続ける。
しかも、翔太の攻撃は確実にダメージを与えていた。事実、ギガントの膝が一瞬だが崩れ落ちそうになっていた。
「なんだ……あれは……」
この光景をオレルは信じることが出来なかった。ありえない……ありえないのだ。
人間がギガントを圧倒するなんて……確かに普通ならば、オレルの考えは間違いではない。
いかに鍛えられたサマナーであろうと、ギガントと1対1で戦って勝てるような存在では無いのだ。
では、なぜこうなったのか? 理由の1つにオレル達の悪魔に対する認識が甘すぎることが上げられる。
どういうことか? オレル達の世界は翔太達の世界や他の世界と同様に生体マグネタイトがほとんど無い。
その為に高位な悪魔がまったくと言っていいほど存在してなかった。高位な悪魔ほど生体マグネタイトを大量に消費する。
そんな高位な悪魔が生体マグネタイトがほとんど無い世界に長時間いるのは自殺行為に等しかった。
その為、オレル達の世界に現れる一番強い悪魔の実力は、ネギ達の世界に通じる穴周辺に現れる悪魔とほぼ同等だったりする。
余談となるが、それ以上の強さを持つ悪魔がオレル達の世界に現れないわけではない。
実際、レイや啓自はそんな悪魔と戦ったことがあり、辛くも勝利した経験を持っている。
しかし、そのような事態はオレル達の世界では希であり、自分達の世界に現れる一番強い悪魔以上の悪魔は存在しないと考える者も少なくない。
オレルもその1人であったし……もし、オレル達がボルテクス界の奥地に進んでいたら……その常識は砕かれることとなるだろうが。
しかし、だからといってギガントが弱いかというとそうでもない。
事実、ギガントの力は士郎達の世界へ通じる穴周辺に現れる悪魔ほどの力を持っていた。
もし、翔太が今のアーマーを装備してなかったら、1対1で戦うのは無謀だったかもしれない。
それに翔太は士郎の世界へ通じる穴周辺に現れる悪魔とは幾度となく経験している。
それらが相まって、このような戦いを可能としていたのだが……レイと啓自はその戦いを顔を引きつらせて見ていた。
オレル達ほどでは無いにしろ、人1人があんなのと互角以上の戦いをするのは普通はありえなかったし。
「「「ぎゃあぁぁぁ!?」」」
「邪魔しないで!」
「そうだ! 翔太の所へは行かせん!」
「そうよ!」
もう一方でもオレル達には信じられない光景が繰り広げられていた。
なにしろ、理華が魔法を放ち、理華が切り裂き、ミュウが雷を放つことで自分達が差し向けた生体兵器を蹂躙していたのだから……
『XF−23イーター』……量産化を前提にした、人と悪魔を合成した生体兵器……
力こそギガントに数段劣る……といっても、やはり並のサマナーには脅威ではあるが……
更に量産化による数の暴力によって敵を蹂躙するというコンセプトで創られている。
その為、イーターは集団戦闘能力が非常に優れていた。
しかし、それでも理華達には及ばなかった。理華達もまた何度も戦い続けている。
それこそ、イーター以上の力を持つ悪魔とも……故に集団戦闘能力は理華達の方が高かった。
また、理華や美希を始めとした仲魔達のある想いが後押ししていた。翔太が怒っている……理華達はそれを感じ取っていたのだ。
漫画などで行われる残虐な行為……それを目の当たりにした翔太は怒りを隠せなかった。
正義感からでは無い。気に入らない……翔太としてはまさにそれだけの理由で……だが、無理もないだろう。
いくら漫画などでそのような行為を見ていたとしても、実際に行われているのを見たら……あなた方はどう思うだろうか?
恐れるか、混乱するか、興味を持つか……もしくは翔太のように怒りを感じるか……
そんな翔太を守ろうと最初に見せた戸惑いはすぐさま無くし、彼を守るべく戦う――
なぜなら、翔太がいなくなるのを恐れているから……特に理華、美希、ミュウはそうなることを一番恐れている。
彼女達は翔太に依存していた。ある意味、崇拝していたと言ってもいい。
戦いの中で翔太は自分達の心の支えになっていただけに……それはスカアハも同じであった。
シンジによって翔太の師となった彼女……しかし、翔太を見守っている内に確かな想いを抱くようになる。
翔太をどことなく、かつての自分と重ねて見えてしまったために――
(この想いが叶わないことはわかっている……だが……だからこそ、あやつには私のようになって欲しく無いのだ)
そんな想い故に、スカアハもまた翔太を守るべく戦うのであった。
「ごはぁ!?」
「安心しろ……峰打ちだ……」
剣の峰でイーターの喉を打つ美希。
シンジによって与えられたアーマーは確かに美希の力となっている。
美希もまたボルテクス界で戦ってきただけに、生体マグネタイトの影響を受けてはいる。
しかし、翔太ほど激しい戦いをしていなかったのと、ある程度とは言え戦いを知っていたおかげか、翔太のような状態にはなってはいない。
もっとも、今の所はという話にはなるだろう。このまま戦い続ければ、美希も翔太のようになる可能性がある。
そこでシンジは外的要因だけでなく、生体マグネタイトの影響もコントロール出来るシステムを組み込んだのだ。
むろん、両方を同時に行おうとするのだから、完全とは言い難い。だが、今の美希の状態なら、問題無いレベルであった。
また、レイや啓自の戦いも一役買っていた。
流石に翔太や理華達ほどでは無いものの、イーター達をいなせるほどの力を持っていたのだ。
一方、そんな展開を見せられたオレルは震えていた。
なぜだ? なぜ、こうなる? あれは……あれはあの程度の物だったというのか!?
そんな思いがオレルの中で駆け巡る。知らないのだ。オレルは今、世界に起きようとしていることを……
ボルテクス界がどんな所なのかを……知らないが故に彼は混乱する。こんなはずではないと――
「どうなっている!? あれはフルパワーなのか!?」
「そ、そのはずです……いえ、すでにそれ以上のパワーを出しています……」
怒りからか大声になるオレルに、研究員の1人が怯えながら答える。
実際、ギガントのパワーは想定したよりも高い物を出している。これはある意味、嬉しい誤算と言えるだろう。
しかし、今のオレル達は喜べない。なにしろ、ギガントは翔太に圧倒されていたのだから――
「……もう1体出す……準備しろ!」
「し、しかし……もう、実験体は……」
オレルの言葉に研究員達がどよめく。無理もない。戦いに出せる実験体はあれで全部なのだから――
「能力値が高かった小僧がいただろう……そいつを連れて来い……それにここで発見したあれも出せ!」
「で、ですが……あれはまだどんな物かもわかってない――」
「いいからやれ! あんな奴らの好き勝手にさせるな!」
「は、はいぃ!?」
オレルの指示に研究員は戸惑うが、怒鳴られたことで慌てて動き出した。
他の研究員達も慌てて動き……トニオが入ったシリンダーを運び出す。別な所では子供が入りそうな大きさのカプセルが開けられていた。
そこにあったのは青白く輝く光の塊……オレル達がここを前線基地兼研究所にする際、発見した2つエネルギーの内の1つだった。
もう1つの方は輝きが弱かったため、研究員達はこちらを選んだのである。
今の所、これが悪魔の魂であるということがわかっている。しかも、かなりの力を持った――
オレルはこれをトニオと合成し、新たな生体兵器を創り出そうとしているのである。
どんな物が出来るかもわからないままに……それ以前にそれがどんな悪魔かも知らないままで――
もし、その悪魔がどんな者か知っていたら……オレルは喜んで合成に使ったかもしれない。
例え、それが自分を滅ぼす者だとしても……
in side
「ぐぅ!」
タイラントもどきが振り回した腕を受け止める。流石に力が強いが……受け止められない程じゃない。
それに――
「俺にばっか構っていいのか?」
なんて言ってみるが、タイラントもどきは構わず力を込めてくる。
やれやれ、人の言うことは聞いて欲しいもんだが――
「うがぁ!」
「ぶごぉ!?」
言わんこっちゃない……哀れ、タイラントもどきは女性バージョンのケルベロスに殴り飛ばされたのでした。
あ、動かない。流石に効いたみたいだな。
「メディア、頼む」
「はいはい」
すかさず頼むと、メディアはため息混じりに魔術を使ってくれた。
それによってタイラントもどきが拘束されたらしく、動こうとしてるが……身じろぎしている程度で済んでいるらしい。
「こっちも終わったけど……あなた、とんでもないわね」
「ま、ここじゃああいうのとも戦わなきゃならなかったんでね。何度も――」
「本気でとんでもないな……」
レイさんに呆れてたが、遠い目をしながら答えると、啓自さんにも呆れられた。
うん、本当になんでこんなことになってんだろうか……
「凄いですね……私じゃ、とても……」
「いや、真似すんなよ? 色んな意味でヤバイから……」
目を輝かせてるリィナに右手を振りつつ断っておく。うん、死ぬってもんじゃなかったからね……マジで……
「終わったわよ。流石に2、3日は無理だけど、しばらくは持つわよ」
「そっか……じゃあ、約束通り殴りに行くか」
メディアの話を聞いて、両手を鳴らす俺。こんな胸くそ悪いことする奴は殴るに限る。
そんなわけで洞窟の奥へと進む俺達であった。
で、奥に進んでみると研究所みたいな所に出た。
んで、中にいた研究者みたいな奴らが俺達を見て驚き……怯えている。
うん、なんか傷付くのは気のせいじゃないよね。
「さてと……オレルって奴は誰だ? 殴るから出てこい」
周りを見渡しつつ言ってみると、研究員達はある奴に一斉に視線を向けた。
白髪のオールバックに……なに、あのメガネは……ともかく、あいつがオレルらしいな……って、おい。
「は、はは……良く来たな、サマナー……まさか、あれほどとは……私の……私が造ったギガントを……貴様は……貴様はぁ!?」
「その前に……お前の後ろにいるそれって……」
「兄さん!?」
なんか、怒ってるオレルだが、俺は無視してそれを指差す。
指差した先にいたのはシリンダーっぽい物に入っているトニオ……うん、リィナが驚いてます。
もしかして、人質だろうか? だとしたら、拙いんですけど……
「こいつか……こいつは新たな素体だ……今から生み出される為のな!」
オレルがそんなこと言っていると、研究者の1人がなにやら容器に入った光の塊を持ってくる……更に待とうか?
あの、その光からとんでもねぇ力を感じるんですけど? なにそれ? 絶対にやばそうなんですけど?
「聞きたいんだが……それな――」
「な、何をする気だ!?」
聞こうと思ったら、スカアハが慌て出しました。え、何? あれって、相当ヤバイもんなの?
「決まっている。この悪魔と小僧を合成するのだ!」
「お前、まだそんなことする気か!?」
「馬鹿者!? それは悪魔どころの代物じゃないぞ!?」
オレルの叫びにスリルさんとスカアハが叫んでいる。え? 悪魔どころじゃないって……
絶対にヤバイ代物じゃん!? 急激に嫌な予感が増してくる。ていうか、絶対にヤバイって!?
「おい、やめろって、おわぁ!?」
止めようと思ったら、足下に銃弾を撃ち込まれました。思わず飛び跳ねて避けたけど。
そういや、戦える奴らを全員倒したわけじゃなかったっけ?
「見るがいい!? 新たな力が生まれる瞬間を!!」
「やめろぉ!?」
「兄さん!?」
オレルが叫び、スカアハとリィナが悲鳴を上げる。
俺達は……黙ってそれを見ているしか出来なかった。遅かったのだ……すでに光がトニオが入っているシリンダーに入れられ――
「ぐ!?」
「きゃ!?」
「く!? なんと……」
とんでもない輝きを放つ。そのことに俺と理華、美希は腕で顔を覆いながら背ける。
他のみんなも同じようなことをし――
何かが砕ける音が聞こえると共に輝きが消えたのを感じて顔を向けて……顔を引きつるのを感じた。
そこにいたのはトニオだった。少なくとも顔だけはそう見える。だって、背は明らかに高くなってるし――
その体も騎士が身に付けるような甲冑を纏っている。ただし、色は毒々しい朱……しかも、なんか禍々しいデザインの……
同じ朱のマントも付けてるし……髪もやはり朱、しかも逆立ってる。あ、良く見ると耳がとがってるし。
んで……あの光から感じられた力をトニオと思われる奴から感じる……いや、それよりも強くなってね?
「は、はは……いいぞいいぞ! まさか、こうもあっさりと成功するとは……さぁ、奴らを殺せぇ!?」
「ちぃ!」
「なんてことを……」
狂ったように喜んでいるオレルの言葉を聞いて、俺は思わず構えた。逆にスカアハは睨んでたけど。
くっそ! 助けに来たはずが、助けようとした奴と戦う羽目になるなんてな。
どうしたら――
「兄……さん?」
呆然とするリィナが呟くが……ここで俺は様子がおかしいことに気付いた。
トニオが動く気配を見せないのだ。まるで人形のように動かない……けど、力が高まっていく感じがするのはなぜでしょう?
うん、とんでもなく嫌な予感がしますよ?
「どうした!? 動け!? 奴らを殺せ!?」
オレルが叫ぶけど、トニオは相変わらず動く気配を見せない。
逆に俺達は引いていた。未だに高まっていくトニオの力を感じて、嫌な予感が消えないからである。
「助けに来た手前、こんなこと言うのもあれだけど……逃げた方が良くないか?」
「同感ね……あれ、絶対に拙いわよ」
「そんな、兄さんは……」
「諦めろと言わん。だが、このままでは私達がマズイということだ」
「なぜだ!? なぜ言うことを聞かない!?」
俺の意見にレイさんは賛成してくれた。リィナは戸惑ってるが、スカアハの言うとおりだと思う。
オレルは気付いてないらしく、トニオを蹴ってたりしてるんだが……
トニオの力の高まりがやっと止まったんだけど……アスラを超えてる気がするんだけど?
勘違いじゃなかったら、本気でマズイって――
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
突然、トニオが吼えたかと思うと、とんでもない衝撃が起き……
更にトニオからとんでもない光が球状に広がっていくんだが――
「な、なん――」
オレルが戸惑ったままその光に呑み込まれるのを見て、俺達は駆け出していた。
ていうか、あの光に呑み込まれたらろくなことでは済まない気がしてならない。
だから、逃げ出したんだが――
その瞬間、爆音と共に何かが砕ける音が聞こえる。
その直後に衝撃に襲われて体がよろめいた時、誰かに背中を押される感触を感じた。
なんとか振り向いてみると、リィナがこちらを向いて笑顔を見せ……そこで俺は光に呑まれていた。
「あつつ……たく、何がどうなったんだ……」
目を覚ますが……体のあちこちが痛い……どうやら、気を失ってたみたいだな。
ていうか、何が起きたんだ? トニオが光を放ったかと思ったら――
「う、う〜ん……」
「く、ここ……は?」
どうやら、理華と美希も無事らしく、声が聞こえてくる。
俺は他のみんなも確認しようとして、辺りを見回して……それを見てしまった。
「ど、どうしたの?」
「とりあえず、振り向かない方がいい……」
「え?」
「そうだな……」
理華が怪訝そうな顔をしたが、言葉を返すと首を傾げられた。
その一方でスカアハに同意されたけど……そこは……酷い惨状だった。
爆発音が聞こえたと思ったから、爆発が起きたのは間違いないのだろう。
それによって、この場にあった色々な機材や装置が吹き飛んでおり……多くの研究者達や銃を持ってる奴らが潰されていた。
また、洞窟にでっかい穴が空いていて……それで洞窟が崩れたのだろう……岩に押し潰されてる奴もいた。
オレルは……原形を留めていない。真っ黒焦げになってて、岩にも押し潰されて……メガネのフレームから、本人だと思った。
しかも、そのつぶされ方が……なんというか、グロい……理華や美希には見せられんな……これ……
幸いというか……俺達は無事で済んだみたいだけど……あれ?
「どうしたの?」
「いや、誰か足りないような……」
レイさんに聞かれて、答えながら辺りを見回す。
なんか、誰かが足りない気がする。理華に美希、ミュウにスカアハ、クー・フーリンにケルベロスとアリス……
シルフとフロストとランタン、モー・ショボーにルカ、メディアに……それにレイさんと啓自さん。
後はスリルさんにリゼルにリゼッタ……あ!?
「おい、リィナはどうした!?」
そうだよ。リィナの姿が見えないんだ。いったいどこに――
「しょ、翔太……」
と、理華が俺の足下を指差す……が、その手は震えていた。
それを見て、俺は嫌な予感を感じる。今まで感じた物とは別種の……あって欲しく無い予感……
それを感じながら足下を見て……俺は息を呑んだ。
そこにいたのはリィナだった……下半身を岩に押し潰された状態で……そのせいで血が広がっていき……その顔も虚ろで――
「リィナ!?」
「動かすな! メディア! 一緒に診てくれ!」
「ええ……」
思わず助け起こそうとした所をスカアハに止められ、そのスカアハはメディアと共にリィナの様子を見ていた。
スカアハはリィナの首に手を当て、メディアは背中に手をかざすが……
少ししてから、2人は互いを見ながら顔を横に振ってしまう。
「おい、リィナは……」
「手遅れだ……これではどうにも出来ん……」
聞こうとして……スカアハの言葉に愕然とする。どうにも出来ないって……そんなのって――
「道返玉とか宝玉とか……それでなんとか出来ないのかよ!?」
「どちらも無理だ。宝玉などの治療は相手が生きていることが前提だ。
道返玉もこのような損傷では……生き返らせることは出来ないだろう」
「じゃあ、シンジを呼べよ! あいつなら――」
「忘れたのか? あやつは今日明日は来れないと……」
「魂はまだリィナの体の中にあるけど……たぶん、シンジが来るまでは持たないわ」
なんとかしようと言ってみるが、スカアハに否定されて……それでもなんとかしようと言ってみるが……
またスカアハに否定された挙句、メディアにも言われてしまった。
そのことに思わず歯を食いしばり……右手を握りしめ……そこで思い出す。
光に呑み込まれた瞬間、背中を押された感触とリィナの笑顔を……まさか、あの時に……
「ちくしょおっ!?」
それに気付いて、俺は叫びながらリィナを押し潰す岩を殴っていた。
リィナは俺を助けようとして……なんでだよ……確かに俺は死にたくないさ。
だけど……だけど、こんなのって……くそぉ……
「「「「「翔太……」」」」
理華、美希、ミュウ、スカアハが心配そうにこっちを見ているが……俺はそれに顔を向けることも出来ない。
ただ、何か無性に悔しくて……なんでだよ……なんで……
「あのさ……俺が言うのもなんだが……俺達がやってるのって……」
「わかってる……わかってるけど……」
クー・フーリンの言葉にそうとしか言えない。クー・フーリンが言いたいのはわかってる。
もしかしたら、こんなことが起こるんじゃないかって思ってた。クー・フーリンがオニだった頃にもあったはずなんだ。
あったはずなのに……くっそぉ……
「あの、どうしたら……」
「彼女をあのままには出来ないからな……まずは岩をどけよう。後は……」
ルカに聞かれ、スカアハは沈痛な面持ちで答えていた。
こんなことはあって欲しく無かった……たぶん、心のどこかでそんなことを考えてしまったのだろう。
だから、このことに虚無感に襲われて――
「運命にあがないし者よ……」
その時だった。そんな声が聞こえたのは……
「運命にあがないし者よ……」
「大いなる者に立ち向かおうとする者よ……」
再び声が聞こえたかと思うと、いきなり周りが光に満ちあふれ……そいつらが現れた。
1人は黒髪の女性……でも、どこか日本神話っぽい格好をしていた。
もう1人も黒髪の女性……こっちはなんか中国の王族のような格好をしている。
「私の名は女神アマテラス……」
「我の名は地母神セイオウボ……」
「「我らはボルテクス界を守護する者……」」
そう名乗る2人の女性……今気付いたんだが、2人とも人間じゃない?
ていうか、とんでもない力を感じるんだが……なんなんだ、こいつらは?
その2人の登場に……俺も他のみんなも……なにも言えずにいたのだった。
あとがき
予想外な結末を迎えた今回の事件……そして、いきなり現れたアマテラスとセイオウボ。
なぜ、2人が現れたのか? そして、リィナは……
次回はアマテラスとセイオウボがなぜ翔太達の前に現れた理由が明かされます。
そして、ボルテクス界の秘密も……そして、リィナは……
そんなお話です。次回をお楽しみに〜
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m