out side

 さて、場面を翔太とシグナム、ヴィータとの戦いに戻そう。
攻め込んでいるのはシグナムとヴィータであるが、焦っているのは同じく2人の方だった。
というのも――
(こ、こやつ……我々の攻撃を余裕で躱すだと……)
 そう、自分達の攻撃が躱され続けていたからだ。しかも、表情が変わらないところを見ると余裕があるように見える。
このことにシグナムは思わず焦りを見せてしまったのだ。
(この野郎!)
 ヴィータにしてみれば、それが自分達を侮っているように見えて気に入らない。
2人が翔太に模擬戦を挑んだのは翔太の実力を確かめたかったからだ。
自分達が再び目を覚ました時、目の前にいた翔太が主であるはやてに仇なす者と見て奇襲を掛け、あっさりと防がれた。
それは自分達の誤解だったわけだが、それによってシグナムとヴィータは翔太に興味を持ってしまった。
自分達の奇襲をあっさりと防ぐとなれば、相当の実力者なのだろうと思ったのだ。
だからこそ、確かめたい。自分の手で……といっても、そう考えているのはシグナムだけ。
ヴィータはなんか気に食わないから一度ぶっ飛ばす……という考えからだったりするが。
 しかし、ふたを開けてみれば自分達の攻撃は当らず、翔太の実力も見えない。
このことにシグナムとヴィータは焦りを募らせるが……だから、気付かなかったのかもしれない。
翔太が魔法を使っていなかったことに……もし、それを知ったら2人は驚いていただろう。
魔法も無しにあんな動きが出来ることに。
 一方、翔太は余裕そうに見えて……実は攻めあぐねいていた。というのも――
(たく、どうやって攻撃しろっていうんだよ)
 そう、攻撃の手段が思いつかなかったのである。今の翔太の武器は木刀のみ。
これでシグナムとヴィータのシールドや騎士甲冑を敗れるとは思ってはいない。
いつも使っている剣や銃なら可能だろうが、それだと下手をすれば2人を殺しかねない。
未だに手加減というのが苦手だというのを自覚している翔太としては木刀は仕方ないとは考えているが……
しかし、このままというわけにもいかない。今は2人の攻撃を躱し続けられているが、いつかはスタミナ切れで攻撃を受ける。
表情が変わらないのはある意味達観してるからであって、スタミナが切れ始めれば表情に出てしまうだろう。
そうなる前になんとかしたい翔太は考えて……そこであることに気付いた。
ズボンのポケットの中に何かが入っていて、それをがなんなのかをポケットに手を入れて確かめ――
(紫の奴、仕込んでやがったな……しかし、これだけじゃ……)
 それがなんなのかを感じ取ったことでそんなことを考えるが……これだけでは攻めに入るには弱い。
「なに!?」
 ある目的の為、翔太はここで初めて攻めに入る。それにシグナムは軽く驚きを見せた。翔太がいきなり向かってきたから……ではない。
自分の剣を躱すために翔太は体を反らしたのだが、その体勢から瞬時に向かってきたことに驚いたのだ。
体勢的に考えて出来ないわけではないが……しかし、翔太の動きは素人そのもの。
動きそのものは速いが、武術などのにおいが感じられない。だがら、今の体勢で今のような動きが出来たことに驚いたのだ。
もっとも、翔太としては出来なければ生き残れなかったので、自然と身に付いたものだったりするが……
「く!?」
 まるで一瞬の煌めきのように振るわれる木刀。シグナムはそれ剣で受けるが――
(なんだ!? この力は!?)
 あまりの力に剣を握る両手がわずかに痺れる。握ることには支障は無いものの、一撃でこうなったことにシグナムは驚きを隠せない。
しかし、翔太はその驚きを見逃さず、すかさず木刀を振るい――
「つっ!?」
 気付いたシグナムが今度はシールドを張って防いだ。何度も受けるのはマズイと判断したからだが――
(シールドが!?)
 木刀を受けたシールドが大きく揺らいだことに驚いてしまう。
全力で張っていないとはいえ木刀で打たれただけでシールドが揺らいだ威力にシグナムは戦慄するが……
この時、シグナムは自分の勘違いに気付いていない。
(シンジの野郎……細工ってそういうことか)
 チラリとシンジに視線を向けながら翔太は呆れたようにため息を吐く。翔太としてはダメ元で攻撃したつもりだった。
フォルマで合成された武器ならまだしも木刀では大した威力は期待出来ない。今のだって木刀がどれだけ頑丈かを確かめるつもりだった。
しかし、考えとは裏腹にシグナムが張ったシールドにダメージを与えられた。このことに翔太はそう考えたのである。
「なろぉ!」
 そこにヴィータが割ってはいるような形でハンマーで殴り掛かるが、翔太はハンマーを叩き反らして後ろへと跳び下がる。
「おや、お気付きになられたようですね」
「まったく、話しておきなさいよ」
「紫さんもそうでしょう?」
 呆れる紫だが、その彼女に翔太の様子でそのことに気付いたシンジは視線を向けつつ声を掛ける。
そのことになのは達は首を傾げていたが……
「くそ! なんて野郎だ!」
「ヴィータ! バーストモードを使うぞ! 翔太は侮れん!」
「いや、俺としてはそれはやめて欲しいんだけど……」
 悔しそうな顔をするヴィータ。振りかぶったハンマーの軌道を叩き反らすなど簡単に出来るものではない。
しかし、ヴィータはそれを実現した驚きよりも攻撃を防がれた悔しさの方が強かったが。
一方でシグナムはそのことに気付いており、このままでは埒が明かないとそんなことを言い出した。
聞いていた翔太としてはやめて欲しかったのだが……
「ああ、そうだ……な!」
 ヴィータは最初からそのつもりだったようで、バーストモードを発動してシグナム並の体格へと変わる。
すぐ後にシグナムも騎士甲冑の形を変えると、そのことに恭也と士郎は驚いていた。
まぁ、2人はバーストモードのことを知らなかったし、それによってプレッシャーが増したのも要因となっている。
「てぇ、まちぃな!? それは流石にやりすぎや!?」
 一方、いきなりのことに呆然とするなのは達だが、はやてがそのことに気付いて正気に戻って言い止めようとする。
流石にやりすぎだと思ったからだが、シグナムとヴィータは聞こえていないかのように構え始めた。
それを見ていた翔太はため息を漏らすが、すぐ後に睨むかのように視線を向ける。
そのことにシグナムとヴィータとなぜかすずかまで胸が疼くような感覚を感じたが……
「いくぞぉ!」「おおよ!」
 飛び出すシグナムの掛け声と共にヴィータも飛び出す。
翔太もそれを見てから前へと跳び――
「うおぉぉぉ!!」「ぶっ飛べぇ!!」
 そこへシグナムが剣を振り落とし、ヴィータもハンマーを振り回す。
それに対し、翔太はシグナムの剣を木刀で受け流しながら上へと跳び、ヴィータのハンマーを躱し――
「ぐ!?」「うお!?」
 お返しとばかりに木刀を振るうが、シグナムとヴィータは咄嗟にシールドを張ることで防いだ。
この時、シグナムとヴィータが後ろに下がっていれば……
いや、攻撃の際にカートリッジを使った魔法を使っていたら勝負の行方は変わっていただろう。
だが、防いでしまった。即座に反撃出来るようにと……
だから、2人は顔を背けず……その為に翔太が自分達に向かって鉱石らしき物を投げる場面を見ていた。
「「な!?」」
 直後、氷の吹雪が起きたことに2人は驚愕する。
翔太が投げたのはブフーラストーン。といっても翔太が前もって用意していたわけではなく、紫が忍ばせておいた物だが。
翔太がこのような魔法を使うとは思わなかったことと、ボルテクス界の魔法を知らなかった為にシグナムとヴィータの驚きは強かった。
翔太が魔法を使えるというのは勘違いだが……その驚きと襲いかかる氷の吹雪で思わず動きを止めてしまう。
だが、一瞬後に正気に戻った。氷の吹雪はシールドで防がれているが、先程の木刀の一撃もあってかなり揺らいでいる。
シグナムとヴィータは壊せまいと必死にシールドを保たせようとして……そこで気付いた。
翔太の姿を見失ったことに――
「く!?」
 それに気付いたのはシグナムは剣を盾にそれを防ごうとしたが――
「な!? ぐ!?」
 翔太によって剣ごと蹴り飛ばされた。このことにシグナムは吹き飛びながら驚き、道場の壁に背を打ってしまう。
「おおぉ!!」
「うぐ!?」
 この間に翔太は木刀を容赦なく振り落とし、ヴィータは新たに張ったシールドで防ぐが――
「おおおおぉ!!」
 翔太は構わずに木刀を降り続けた。型も何も無い、ただ無茶苦茶な振り――
「く、嘘だろ!?」
 確かに木刀がシールドにぶつけられるたびに信じられないような衝撃が来るのは事実だ。
だが、だからといってシールドがすでに壊れそうになるのは信じられなかった。
ヴィータとて、簡単に壊れるようなシールドは張ってはいない。なのに魔力も何も無しにただ腕力だけでシールドが壊れようとしている。
そんな理不尽に思わず恐怖を感じ、叫びとなって出てしまったのである。
それで気付かなかったのかもしれない。木刀の仕込みに……もっとも、気付く前にシールドが壊れたというのがあるが――
「な!? え?」
 シールドが破壊されるのとほぼ同時に翔太に胸のアーマーをいきなりわしづかみにされる。
そのことにヴィータは顔を赤くするが、その直後に景色がぶれた。ぶれる? なぜ? それはすぐにわかった。
「どっせえぇぇぇぇぇい!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!?」
 翔太に投げ飛ばされたからである。あまりのことに思わず悲鳴が出るヴィータ。
「あぐ!?」
「が!?」
 しかも、立ち上がって飛び出そうとしていたシグナムと激突してしまい、2人はもつれるようにして床へと倒れた。
「く、あ……ぐ!?」
「つぅ……うぐ!?」
 それでもすぐに立ち上がろうとする2人だが、同時に首をわしづかみにされる。
それを成した翔太は2人を睨み――
「これで終わりにしろ。でなきゃ、今度は本気で殴る!」
 そんなことを言われてしまう。このことに2人はうなずく形で負けを認めるしかなかった。
確かに今の状況から反撃は出来る。しかし、翔太はそれすらもさせずに自分達を無力化出来る。
シグナムとヴィータはなぜかそんな確信を持ってしまい、潔く負けを認めたのだ。
2人の考えは間違ってはいない。翔太は似たような状況で悪魔の反撃を受けたことが何度もある。
だから、2人が何かするなら投げ飛ばすかぶつけ合うかをしたであろう。
そのシグナムとヴィータが負けを認め、何もしてこないと感じたところでため息を吐きながら2人を離し――
「シンジ! 木刀に仕掛けしてるんならそれを言っとけ! 紫もブフーラストーン入れてあったんなら言えよ!」
「いや、翔太さんなら気付くと思っていたので。ちなみに木刀には弱いながらも結界を破壊出来る概念を仕込んでおきました」
「そういうことよ」
「怒ってもいいか?」
 人差し指を立てて話すシンジと紫の言葉に睨んでいた翔太は顔を引きつらせていた。
もし、前もってこのことを聞いていれば、早く終わらせられたかもしれない。ただし、結果は変わるかもしれないが。
「くそ……てめぇ、とんでもねぇ力してやがんな……バケモンかよ」
「翔太さんはバケモノなんかじゃない!!」
 立ち上がるヴィータの言葉に叫んだのはすずかであった。
そのことに誰もが驚くものの、叫んだすずかは自分のしたことにとまどったのか思わず辺りを見回してしまう。
「まぁ、なんていうか……これくらい出来ないと戦えなかったというか……
ていうか、なんでこんなこと出来るようになってるかね……俺って……」
 で、翔太はというと後頭部を掻きながらそんなことを言い出し、最後の方では落ち込んだように深いため息を吐いた。
すずかがいきなり言い出したことには驚いたが、翔太としてはそれは気にするほどでもない。
気にするほどでも無いが……今の自分の現状に泣きそうになっている。翔太とて望んで今のような力を得たわけではない。
巻き込まれ、死にたくない一心で戦っていたら、いつの間にかこうなっていた。翔太としてはそんな感じなのだ。
なので、時よりこのように悩んでしまうこともあった。
 そんな翔太を見て、何かあったのだろうと思うシグナムとヴィータ。
ヴィータにいたっては先程の自分の言葉を悔いて、思わず舌打ちしそうになる。
すずかは翔太のそんな内心を悟ったわけではない。ただ、自分に近い何かを感じ取り、ただ静かに見守っていた。
「ま、色々とありましたが……結果は見ての通りです。
私や翔太さん達がいない間はヴォルケンリッターのみなさんに留守をお願いしておりますので。
余程の事がない限りはなのはさん達を守ってくれますよ」
 立ち上がり、にこやかに話すシンジ。そんな彼を士郎は何かを感じ取るかのようにあごに手をやりながら見ていた。
一方で翔太はそんなシンジにジト目を向ける。気付いたのだ。その余程の事がなんなのかを。
余程の事……すなわち悪魔の事だろう。それが出てきたらヴォルケンリッターでも危ないかもしれない。
翔太自身戦ってみてわかったのだが、シグナムとヴィータは良くも悪くも真っ直ぐすぎた。
時として裏をかいてくる悪魔と戦ったことがある翔太としてはある意味戦いやすく、そのおかげで2人の攻撃を避け続けることが出来た。
一方で相手が策を弄した戦いをしてきたのも経験していたのか、翔太の戦い方に文句を付けてくるようなことは無いのだが……
翔太としてはその辺りが気掛かりになり、思わずシグナムとヴィータを見てしまう。
シンジもそれはわかっており、呼び寄せた援軍はある意味正解だったと内心考えてたりするが。
なお、翔太に視線を向けられたシグナムとヴィータは思わず顔を反らしてしまう。
(ど、どうしたというのだ? な、なぜ顔を向けられるのが恥ずかしく思えるのだ?)
(な、なんでだ? なんで、あいつの顔がまともに見られねぇんだよ?)
 内心は不意に起きた衝動に戸惑い、顔を赤らめていたりするのだが……
「わかりました。なのはやフェイトちゃん達をお願いいたします」
「ええ、私としても小さな子供達を早々危険な目にあわせるつもりはありませんから」
 頭を下げる士郎さんにシンジはにこやかに答える。一方、その様子を見ていた翔太は疑いの眼差しをシンジに向けていた。
なぜか、微妙にシンジの言葉が信じられなかったからだが、それがある意味間違いでなかったことに……翔太は後に知ることとなる。




 あとがき
そんなわけで勝利を収めた翔太。そのおかげでフラグも立っちゃいましたが……
それはそれとして今回の模擬戦でシグナムとヴィータに少しばかりの不安を感じる翔太。
シンジもそれはわかっているようで、その為に援軍を呼んだようですが……

さて、次回はそれぞれの家に帰宅したなのは達。そこで何を思うのか……そんなお話です。
なのは編、まだ続きますよ〜。そんでもって、そろそろキャラ紹介やらないと……
そんなわけで次回をお楽しみに〜



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