out side

 シグナム、ヴィータと翔太との模擬戦の後、シンジは士郎と恭也にフェイトの件を話した。
ジュエルシードのことも大事だが、今は彼女のことを解決するのが先決だと。その話に士郎と恭也はうなずく。
フェイトの境遇に同情したというのもあるが、このままではフェイトの母がなのは達に危害を加えると判断したからだ。
 一方でフェイトはつらそうにうつむく。
未だに自分がクローンだったいうことや母が自分を娘として見てくれないという事実を信じ切れなかったために。
だが、これは無理もない。フェイトの記憶には優しかった母親の記憶があるのだ。
なまじ、その記憶が強いために母から虐待を受けてもその記憶にすがってしまうのである。
自分ががんばれば、優しかった母親に戻ってくれると信じているために……
 そんなフェイトの為に明日の朝に母親の所へ行き、解決方法を模索することとなった。
理由としてはすでに今日はすでに日が暮れており、シンジ達はともかくなのは達が行動するには遅い時間だったということが上げられる。
このことになのはがすぐに行こうと反論するが、色々とあったので今日は休むべきと士郎に諭される。
これにより今日の所は解散となり、みなはそれぞれの場所へと帰ることとなった。
はやてはヴォルケンリッター達と共に自宅へ。翔太達はレッドスプライト号へ。
いつの間にか紫と藍の姿が無かったが、幻想郷に帰ったのだろうと判断されたので大した問題にはならなかった。
すずかも忍と共に自宅へ帰り、アリサも迎えに来てもらって帰宅。そんな中でフェイトとアルフだけはなのはの家に残ることとなった。
というのも、士郎が今日は泊まっていきなさいと言い出したからだ。理由としてはフェイトの境遇に同情したというのもある。
ただ、一度家族みんなで話した方がいいと思った。母親のことを解決するためには、フェイトの心を開いてあげるのも大事だと思ったから。
この提案をフェイトは最初は断っていた。何か悪いような気がしてならなかったから……
もっとも、士郎に押し切られる形で最後は了承することとなったが――
 で、現在なのはとフェイトは一緒にお風呂に入っている。なお、ユーノは入ってはいない。
なのはが連れていこうとしたが、ユーノはそれをなんとかして断ろうとした。で、このことに士郎と恭也は何かを感じ取ったのである。
そんなわけでなのは達とお風呂で一緒になるということは避けられ、ほっとするユーノであったが――
なぜか、士郎と恭也が殺気を向けてくるので、針のむしろいるような気分を味わったが……
 余談だが、後日ユーノの正体を知った士郎と恭也は『O・HA・NA・SI』しようと詰め寄り、シンジに諭されるという出来事があったりする。
このことでユーノはシンジに感謝をすることになるのだが……まぁ、未来の話はいずれしよう。
それはそれとしてお風呂場の中ではフェイトは鏡の前でイスに座り、うつむいていた。
そんな彼女を湯船につかるなのはは心配そうに見つめ――
「どうしたの、フェイトちゃん?」
「あ、うん……お母さんは本当に……私のこと、なんとも思ってないのかな?」
 なのはの問い掛けにフェイトは不安そうな声を漏らしていた。
フェイトとしては信じたかった。自分がジュエルシードを集めてくれば優しかった母親が戻ってくると――
だからこそ、シンジや翔太の言葉が信じ切れず……でも、覚えがあるだけに頭から否定することも出来ずにいた。
それ故に悩んでしまうのだ。自分はどうしたらいいのかを……
「そうだね……今は話し合ってみよう……きっと、わかってくれるよ」
 それに対し、なのはは笑顔でそう答えていた。
短絡的……と思われそうだが、なのははまだ子供だ。故に深い考えはない。
ただ、そうすればなんとかなると思っていたから――
「う……うん、そうだよ……ね」
 このことにフェイトはぎこちないながらも笑顔で返した。
そうだ、話し合おう。そうすればわかってくれる……なのはの笑顔を見て、フェイトはそう思ったのだ。
この後、夕食でフェイトは今日初めて笑顔を見せることとなる。このことにアルフはなのはやシンジに対して少しばかり感謝するのだった。


 一方、はやての自宅ではいつもと違う夕食風景となっていた。
いつもは1人で食べる夕食。しかし、今はヴォルケンリッターがいる。
そんな状況にはやては胸が高鳴るのを感じていた。
「すまんな。本当はちゃんと作りたかったんやけど……」
「あ、いえ……その、私達は……」
 シャマルやリインフォースに手伝ってもらいながらテーブルに夕食を並べるはやて。
なお、夕食のほとんどは時間が無かった事もあってスーパーで出来合の物を買い、ご飯と味噌汁のみはやてのお手製である。
そんな彼女に声を掛けようとして、なんと言えばいいかわからずにシグナムは戸惑った。
ヴォルケンリッターは基本的に食事は必要としない。まったくというわけではないが、1〜2日抜いたとしても問題は無い。
そう、そのはずなのだが……なぜか、夕食に視線を向けてしまう。お腹がつらいような、何かを求めてるような感覚がある。
「主が言ってるのだ。断るのは返って失礼だぞ。
それにシンジ殿は我々に食事をすることで魔力補給を出来る機能を付加してくれた。
主の負担を減らしたいのなら、食事をした方がいいぞ」
 そんなシグナムが何を言おうとしたのか察したリインフォースがそう言い放つ。
シグナムはなんでそんな機能をと疑問に思うが、これはシンジとしても考えてのことである。
なのはやフェイト、はやてらが使うミッド式及びベルカ式と呼ばれる魔法。
シンジはこの世界に来て、初めてそれらに触れた。その為、これらの魔法はシンジの研究対象となる。まだ初日なので、わかったことはわずか。
それでもこれらの魔法を使うのはなのはやフェイト、はやての歳では負担が大きいことがわかっている。
これは他の魔法にも言えることだが、ミッド式やベルカ式は魔力運用方法から考えて負担は大きい類に入ると思えた。
この考えはある意味間違っていないかもしれない。実際、はやてが改修前の夜天の書に魔力を蒐集されたことで体に麻痺が起きたのだから。
その為、シンジはヴォルケンリッターらにその機能を付加することではやてへの負担を出来るだけ減らそうとしたのである。
「そ、そうか……」
 で、リインフォースに言われてか、シグナムは渋々と言った様子でテーブルの席に着く。
ただし、その視線はちらちらと夕食に向けられていたが……
「それじゃあ、いただきま〜す」
「あ、いただき……ます」
「はい、いただきます」
「いただきま〜す!」
「それでは失礼いたしまして」
「では、いただきます」
「いただきますです〜」
 両手を合わせたはやてを切っ掛けにシグナムは戸惑いながら頭を下げ、シャマルは笑顔ではやての真似をし、
ヴィータは元気良く声を出し、リインフォースとザフィーラは静かに頭を下げ、リエル元気良く腕を振り上げ――
そして、みんなそろっての食事が始まった。ヴォルケンリッター達は箸が初めてなので、戸惑いながらの物となったが……
それでもみんなは笑顔で話し合いながら……そんな時だった。はやての瞳から一筋の涙が落ちる。
「え? はやてちゃん、どうしたの?」
「え? あ……あ、大丈夫や。ただな、うち……嬉しいんよ……」
 はやての様子に気付いて少しばかり驚いたシャマル。ちなみに食事中の会話でいつの間にやらちゃん付けで呼ぶようになっている。
それはそれとして、指摘されたはやては涙を拭いながら答えていた。ある者の目的によってはやては1人で生活することとなった。
まだ幼く体に麻痺があるはやてにそんな状況に耐えられるはずがなかった。だが、はやては耐えた。
少ないながらも支えてくれる人はいたから……かといって、寂しさが紛れるわけではない。
実際、食事中に寂しさがこみ上げてくるのは何度もある。だから、今というこの時ははやてにとって嬉しく感じたのである。
「主……」
「ああ、大丈夫や……でも、だからシンジはんには本当に感謝せなあかんな……」
「ええ……彼がいなければ、我らもこうしてはいられなかったでしょうから……」
 心配そうに見つめるリインフォースにはやては笑顔を向けながら答え、そのことにシグナムは同意するようにうなずいた。
だが、同時に疑問も感じる。専門ではないので確かとは言えないが、夜天の書を改修を簡単に行える物なのかと。
シグナムの懸念は間違ってはいない。だが、シンジはそれを可能とする知識と技術を持っていた。
これだけ聞けばチートだからと思われそうだが、シンジの力の本質は『智』
知り、理解することに特化しており、知識を得ることでそれを力とする。
むろん、なんでもというわけではないが、知って理解することはシンジの力となるのだ。
まぁ、地力が人間を超えていたのは否めないが……故に夜天の書を改修する知識と技術も得ていたのである。
「ふふ、シグナムは翔太君のことが気になってるみたいだけど。ああ、ヴィータちゃんもか」
「な!?」「な、なんであたしまで!?」
「え? そうなん?」
 なぜか意地悪っぽい笑みを浮かべるシャマルの言葉に慌てるシグナムとヴィータ。
はやては意外そうな顔をしていたが――
「ち、違うのです、主!? た、確かに翔太のことは気になってはいましたが、それは彼の力のことでして!?」
「そ、そうだぞ!? こ、これから一緒に戦うんだったら、どれだけ戦えるのか確かめたかっただけなんだ!?」
「ほぉ〜……そうなんやぁ〜……」
 慌てた様子で言い訳をするシグナムとヴィータであったが、はやては何かあるなと言わんばかりの視線を向けていた。
まぁ、2人の態度を見てばバレバレなので元凶であるシャマルは苦笑してたりするが。
(ど、どうしたというのだ私は……なぜ、こんなにも翔太のことを考えてしまう……)
(あ、あたしは……あいつのことなんか……た、確かに頼りになるとは思っちゃいるけどさ……)
 で、指摘されたシグナムとヴィータは今の自分達の想いに戸惑っていた。
今まで経験したことのない想い……ただ、翔太と剣を交えただけなのになぜ……
2人は気付いていない。剣を交えたことでわずかながらに翔太の心に触れたことに。
それによって2人は気になってしまったのだ。翔太の想いに……そういった意味で言えば2人が抱いてる感情は恋愛というわけではない。
だが、初めてのことで2人はそんなことに気付かず……そんな2人をはやて達は微笑ましそうに見ているのだった。


 さて、アリサはというと自室にいて今日のことを考えていた。
今日は色んな事がありすぎた。魔法の存在や親友であるなのはが魔法少女であったこと。
更には異世界の存在と……色々とありすぎて精神的に疲れてしまった。
そのせいで夕食の時に母親に心配されてしまったが……そこで思うのだ。自分はこれからどうするべきなのかを。
なのはの親友であることは変わりない。でも、親友として何か出来ないかと思ってしまうのだ。
自分では何も出来ないのはわかっている。でも、それで納得出来るかと言えば別である。
そこでふとシンジの事を思い出した。シンジは夜天の書のプログラムを改修していた。
プログラムとかそういうのは良くわからないが、頭が良くないとそういうのは出来ないのではと考え――
「それなら良い方法を知ってるかもしれないわね」
 と、アリサはそんな考えに行き着いた。もしかしたら魔法が使えるようになるかも。そんな風にも考えてしまう。
まだ確定したわけでもないのにアリサは楽しみになってきた。だから、明日は必ずシンジに聞いてみようと思った。
これが自分とすずかの運命を変えることになるとは知らずに――


 さて、そのすずかはといえば、夕食を終えて姉の忍とリビングにいた。
食後の紅茶を嗜むためにだが――
「すずか……もしかして、翔太さんのこと気になってる?」
「え? ええ!?」
 忍のいきなりの言葉にすずかは思わず戸惑ってしまい……顔を赤くしながらうつむいてしまう。
このことに忍はやはりと思いつつ苦笑していた。まぁ、今までのすずかの様子を見れば予想は付いたが……
それが恋愛感情かどうかは忍としては問いただすつもりはない。それに悪いことでは無いとも思っていた。
すずかが自分達の一族のことで思い悩んでいたのは気付いていた。しかし、何も出来なかったのが実情である。
話し合ったとしてもすずか自身は納得出来なかっただろうから……
自分のように秘密を受け止めてくれる人がいてくれれば良かったのだが、そういう人は中々いない。
例えなのはやアリサでも、もしかしたらそのことですずかから離れてしまう可能性があったから……
 そういった意味で言えば忍は翔太には感謝している。
すずかに切っ掛けを与えてくれたのもそうだが、彼の反応はある意味忍としても新鮮であった。
前もって知っていたとはいえ、彼は一族のことに関して気にしているようには見えない。
いや、実際に気にしてないのだろう。そのことを聞こうともしなかったし、何かと視線を向けることもなかったのだから。
それがすずかには新鮮に思えて、だから気になってしまったのだろうと忍は考えている。
 一方ですずかが翔太に恋愛感情を抱いたとしたら厳しいかもと考えてしまうが……
忍は気付いていたのだ。翔太と一緒にいた女性達が彼に心を寄せていることに。
何があったのかまでは詮索するつもりはないが……翔太から手を出したとすれば忍としては問題だと思っている。
だから、翔太のことを見極めようと思った。もしもの未来のために――



 あとがき
そんなわけでなのは達の一夜でした。彼女達の想いは今後どうなっていくのか?
そして、シグナム、ヴィータ、すずかの想いはどうなっていくのか? 
また、アリサの思い付きはどんな形になるのか? それはいずれまたということで――

さて、次回は翔太達の一夜。今日のことを思い返す翔太はタカハシとシンジと話し合いますが……
そこに現れたフィオによって新たなことが発覚。それがどのような影響を及ぼすのか――
次回はそんなお話です。お楽しみに〜



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