「すご〜い」
「ですねぇ〜」
「そうだな」
 士達やなのは達はリンディ達と話し合うことになり、アースラの艦内へ転送という形で連れてこられた。
ちなみにバイクも一緒に転送されている。どうやら、リンディが気を利かせてくれたらしい。
 一方でその艦内の様子に望やなのはに雄介は感心してたりする。
なにしろ、魔法使いの船だからファンタジーに出てくるような帆船を思い浮かべていたのだ。
しかし、実際は未来SF的な文字通りとんでもないテクノロジーで造られた戦艦だったのである。
そのことに望や雄介、声には出さなかったが麗華も軽く驚いていた。なお、麗葉は興味深そうに辺りを見回している。
「それじゃ、頼む」
「はい」
 一方、士は白衣を着た男性と話していた。
気絶しているフェイトとアルフを任せる為で、2人は白衣を着た男性と女性によってストレッチャーで運ばれていった。
「では、付いてきてくれ。その前に君はバリアジャケットを解除した方がいい」
「あ、はい」
 クロノに言われ、なのはは意識を集中させる。
すると制服のような白い服が普段女の子が着るような普通の服へと変わっていた。
「なるほど、魔力で先程の服を作っていたのか。というか、あれは防御用か?」
「へぇ〜」
「いいなぁ〜」
 その光景に感心する麗華と望。雄介も声には出さないだけで同じような様子を見せている。
一方で麗葉は目を輝かせていた。自分もあんな風に変身出来たら……とか考えながら――
ちなみに麗葉は士達の世界に来てからアニメを見るようになった。とりわけ、変身する魔法少女モノがお気に入りだったりする。
だから、なのはのようなことが出来たらと密かに憧れていたりするのだ。
「君も元の姿に戻ったらどうかな?」
「あ、そうですね」
「へ?」
 と、クロノに言われてユーノがうなずくが、なのはは首を傾げていた。
言っている意味がわからなかったからだが。その間にユーノの体が輝き――
その輝きが消えると肩まである淡いブロンドの髪に民族衣装を思わせる半袖半ズボンを着て、マントを纏った少年へと変わっていた。
「ふぅ、そういえばなのはにはこの姿は久々に――」
「え、えぇ〜!?」
「え、どうしたの!?」
 少年――ユーノなのだが、にこやかに話しかけようとしたらなのはに驚かれてしまう。
ユーノはどうしたのかと思って戸惑ったのだが――
「え、ユーノ君、その姿って――」
「え? 確か、会った時にこの姿は見せたと思ったけど――」
「私、フェレットのユーノ君しか見てないよ!」
「え? だって、あの時、あれ?」
「どうも、お互い勘違いしてたみたいだな」
「そのようだな」
 驚くなのはと戸惑うユーノのやりとりを見ていた士とクロノはそんなことを言い合っていた。
ちなみに望達はユーノの変身に驚いて固まっていたが。
 そんなこともあったものの、改めてクロノに案内されて艦内を歩く士達。
その間、艦内を見回していたのだが、どう見ても魔法が使われてるようには見えなかった。
その辺りを聞いてみるとエネルギーとして魔法を使っているとのことだったが。
「艦長、彼らを連れてきました」
「ご苦労様」
 ある一室に通されて中に入り、その光景を見て士とクロノを除く全員が固まった。
というのも、いかにも戦艦の一室に見える一角に畳を敷き詰め、その上にリンディが正座していたからだ。
その周りは茶器があったり、ししおどしがあったりと和風の造りとなっているのだが――
士達にしてみれば激しく何かを間違っている気がしてならない。
「あら、どうかなされましたか?」
「いや、日本を勘違いした外国人を見ているような気分になってな」
 笑顔で問い掛けるリンディに士は額に手を当てつつ、ため息混じりに答えるのだった。


 その後、畳の上に思い思いに座り、まずはユーノからこれまでの経緯を聞くことになり――
「そう、大変だったのね」
「しかし、無謀だ」
 あらあらと言った様子のリンディだがクロノは憮然と言い放ち、そのことでユーノはうつむいてしまう。
話を要約するとユーノが乗っていた艦が事故を起こし、その影響でジュエルシードがなのはの世界に落ちてしまった。
ジュエルシードはわかっていないことも多く、下手をすれば大きな事故を起こしかねない。
そのことを考えたユーノは時空管理局に連絡を手早く済ませ、落ちたジュエルシードを回収する為になのはの世界に降り立ち――
ジュエルシードによって起きた現象で力を使い果たし、以降はなのはの助力を得て回収を続けていたそうなのだ。
「そうは言うけどな。確かに無謀だったが、あんたらがすぐに来られるんだったら苦労はしなかったと思うが」
「う……」
 どことなく擁護するような士の言葉にクロノは軽くたじろいでしまう。
まぁ、ユーノに非が無いわけではない。キチンとやり方を考えていれば安全に回収出来たかもしれなかった。
それに彼が経緯等をちゃんと話していれば、リンディ達か他の時空管理局の職員が来るのが早まる可能性もある。
しかしながら組織という形式上、手続きや準備等でどうしたって時間が掛かってしまう。
なので、時として手遅れだった可能性もありえたのだ。そういった意味ではユーノの判断も間違いとは言えない。
ただ、なのはを巻き込んでしまったのは別の意味で問題ではあったが。
「ユーノさんの話はわかりました。では、あなた方のこととディエンドでしたか? 彼のことを聞きたいのですが」
「そうだな。先に海東、あんたらが言うディエンドだが、偶然会ったとしか言えない。名前はその時に聞いた。
で、俺達のことだが……俺達が異世界から来たと聞いたら、お前さん達はどう思う?」
「え?」
「異世界? 次元世界のことか?」
 士の返事に問い掛けたリンディはクロノと共に首を傾げる。
しかし、続けて士の話を聞く内にみるみる顔が強ばっていき――
「そんなのはありえない!?」
「きゃ!?」
 クロノがいきなり叫んでしまった為に、なのはは思わず驚いてしまう。
クロノの反応はある意味仕方が無い。なにしろ、彼らの常識では士の話はあり得ないのだ。
行く先々の世界の文明が違っているのはまだいい。普通に海外などに行けば文明が違ってるのは当然だからだ。
しかし、士が言う行った先々の魔法や魔術はクロノ達の常識から明らかに外れていた。
クロノ達の魔法はデバイスと呼ばれる杖のような物を使って行使される。
デバイスにはAIのような物があり、それを介することで呪文詠唱の短縮や汎用性を高めることが可能となるのだ。
むろん、デバイスを使わなくとも魔法は行使出来る。
しかし、士の話を聞く限りでは彼が話す魔法や魔術はデバイスが無くとも高い汎用性があるように思えるのだ。
それに士の話に出てきた電撃使いの少女の話もクロノ達にしてみればありえない。
レアスキルで魔力を雷などに変換出来る者は確かに存在する。
しかし、士の話出てきた少女のような汎用性は無い。せいぜい、魔法に上乗せがいい所だ。
だからこそ、クロノは否定しかったのだ。士の話を。
「そう言われてもな。実際に見てきたことだし」
「そうだよなぁ」
「その話は別にするにしても……あなた方がしていることは、あなた方がするようなことでは無いわ」
 肩をすくめる士の言葉に雄介が同意するようにうなずくが、それに対してリンディはそう言い放つ。
士達のやってることは極端な話、怪人を倒して世界を救うようなものだ。
ただ、リンディは世界を救うという部分を信じてるわけでは無いが、怪人達を倒すというのは士達がするようなことでは無いと思っている。
むしろ、それこそ自分達時空管理局が行うことだと考えていたのだ。
「別に頼まれたからってだけじゃない。俺がやろうと思ったからやっている。
ついでに言えば厄介ごとが俺達の所にも来ないようにしようと思ってるのもあるけどな」
 そんなリンディに対し士は肩をすくめながら返した。士に世界を救うという考えは微塵も無い。
ただ、厄介そうだからなんとかしよう。その程度の考えで行っているにすぎないのだ。
「あなた達はいいの?」
「私は……何か出来る訳じゃないけど、見守ってないとなんか不安だし」
「俺はただなんとかしたいってだけだしな」
「私は士に救われた。その恩を返したいだけだ」
 不安そうに問い掛けるリンディに望は苦笑しながら、雄介は後頭部を掻きつつ、麗華はうなずくように答える。
望はただ不安故に士に付いて行っている。そうしないと士はどこかに行ってしまいそうな気がしてならないからだ。
雄介はなんとかしたいというのもあるが、誰かの笑顔を守りたいという想いが強いのもある。
麗華は言葉通りだ。士に自覚は無かったとはいえ、色んな意味で救われた。その恩義に応えるべく一緒に戦っている。
麗葉も麗華と同じような想いであったし。
「ですが――」
「ま、望達はともかく、俺は俺がやりたいと思ってるからやっている。そう思ってくれればいい」
 困惑するリンディに士は苦笑混じりに答えた。
良くも悪くも士は自己中心的であり、戦ったり何かに関わっていたりするのも厄介ごとを早々に終わらせる為でしかない。
これまでのことも結果的に良い方面に向かっていたにすぎないのだ。
「そうですか……あなた方のことに関しては保留にいたしますが、ジュエルシードに関しては時空管理局が全権を持ちます」
「え?」
「これからのことは僕達に任せて、君達は日常に戻るといい」
 一度息を吐いてから言い放つリンディの言葉になのはが思わず顔を向けると、クロノもうなずきながらそう言い聞かせる。
そんな光景に士を除く望達はなのはとリンディを見比べてしまっていたが。
「まぁ、確かになのはちゃん達に危険なことをさせるわけにもいかないからなぁ」
「でも、いきなりこんなことを言われても困るでしょうから、今日は帰ってゆっくりと考えるといいわ」
 その話に雄介が納得する中、リンディは微笑みながらそんなことを言い出す。
それに対し、なのはは戸惑った顔をする一方で士は何かに気付いたように眼を細めた。
そして、ふっとため息を吐き――
「そうだな。なら、俺達の勝手にやらせてもらうさ」
「っ!?」
「士?」
 士の言葉にリンディの表情が一瞬で強ばるが、望はそのことに気付かずに訝しげな顔になる。
望は士の言葉の意味を理解出来なかったが、リンディは理解してしまったからこその反応であった。
「別に構わないだろう? 俺達は自分達のやることに戻って、なのははいつもの日常に戻る。
ま、その行く先でジュエルシードが出てきたりしたら、その時はその時で対処するけどな」
「あなた……」
 それに構わず不敵な笑みを浮かべる士にリンディは顔を強ばらせながらも内心は恐怖していた。
士はこちらの意図を見抜いている。その上であんなことを言ったのだろうと感じた。
でなければ、あんな意味ありげな言い回しなんかしない。
この時、リンディは士が老齢の兵士に見えた。なぜ、そんな風に見えたかはわからないのだが。
「どういうことだ?」
「なに、結局は俺達もなのはもやることは変わらないってことさ。ただ、俺達はなのはの手伝いをした方が良さそうだがね」
「お前、何を言って――」
「あ、あの、そんなわけには――」
 首を傾げる麗華に士は肩をすくめながら答える。
それを聞いたクロノは反論しようとしたが、なのははそれを遮る形で断ろうとした。
士達に迷惑を掛けると想ったからだが――
「あた!?」
「は、ガキが大人ぶってるんじゃない。お前さんは心配して言ってるんだろうがな。
じゃあ聞くが、お前は自分が心配してる奴のことを考えたことはあるか?」
 が、士に軽いデコピンをされた挙句、そんなことを言われて目を白黒するはめになる。
というのも、言っていることが理解出来ない。確かに自分がやることに士達を巻き込むのは嫌だったが――
「どういう、ことですか?」
「お前さんはただ心配するだけで、そいつのことも自分のことも考えてないってだけだ。
その様子じゃ、親にもやってること内緒にしてるんだろ?」
「え? あ、はい……魔法のことは内緒にって言われてたし……」
「たぶん薄々だとは思うが、何をしてるかは気付かれてると思うぞ」
「「ええ!?」」
 士の言葉に問い掛けるなのはだったが、最後の方はユーノと一緒に驚くはめになった。
まぁ、なのは達にしてみれば親に気付かれてないと思っていたのだ。故に士の言葉は意外すぎたのである。
「大人はお前さんが思ってるほど甘くはない。
なんで何も言わないかは聞かなきゃわからないが、少なくとも心配はしてるだろ。
それでもお前さんは言えるのか? 誰かを心配させたくないって?」
「なのは!?」
 それでも言い放つ士の言葉になのはは崩れ落ち、ユーノがそのことに驚いた。
なのはは以前父親が重傷を負い、その関係で家で1人でいることが多くなった。
その為か、なのはは誰かが傷付くことを非常に恐れているように思える。
また、それとは別に自分がなんとかしなければという想いに駆られている節も見られた。
ジュエルシードのことに関わったり誰かを心配させたくないというのも、その想いからだろう。
「先に答えを言ってやるとだ。お前さんは自分が怪我をしたらどうなるかも考えてないだろ?
まぁ、お前さんの歳でそこまで考えろってのは酷かもしれんが、少なくとも親兄弟に友達は心配するだろうな。
それでも言えるのか? 誰かを心配させたくないって?」
 士の問い掛けになのははうなだれた。確かに幼い故の短慮さもあったのは否めない。
しかし、それ故に周りが見えておらず、ただひたすらに突っ走ろうとしてしまったのだ。
ただし、これは別になのはが悪いとかでは無い。彼女が幼すぎた故の過ちのようなものなのだから。
「もう1つ答えを言ってやるとだ。誰かに頼ったっていいし、時と場合によっちゃ丸投げしたっていいんだ」
「いや、それはどうかと思うけど」
「じゃあ、なにか? ジュエルシードがどれ程厄介かは知らんが、なのは1人で解決しろとでも?」
「あ、いや……」
 その一言を聞いて思わずツッコミを入れる雄介だが、話していた士に言われて言いよどむ。
断っておくが、士はなんでもかんでも丸投げしろと言ってるのではない。
「自分1人じゃ出来ないことだってある。そういう時は大人なり友達なり頼ってもいいんだ。
その為に時空管理局ってのがあるんだし、ユーノだってなんでもって訳にもいかないだろうが手伝ってくれてるだろ?」
「あはは……」
 そう、なのは1人では出来ないこともある。
そういう時には人を頼り、時には全てを任せることも必要なのだ。
士はそう言い聞かせているのである。むろん、なのはが全てを理解するのは歳故に難しいだろう。
でも、大事なことを言っているのは良くわかっていた。
だからだろうか? 士に言われて照れくさそうにするユーノを見てから、なのはは潤んだ瞳で士を見つめた。
今のなのはには士が凄い人のように思えて――
「まったく、あなたって何者なのよ?」
「言わなかったか? 俺は通りすがりの仮面ライダーだ」
 呆れた様子を見せるリンディに士は人差し指を立てた右手を挙げながら答える。
このことにリンディは士のことをおかしな人だと思った。雰囲気が見た目と一致しないのだ。
冷たい感じがすると思ったらなのはのことを気に掛けるようにあれこれとアドバイスをする。
まるで孫を可愛がる祖父だと、リンディは失礼ながらに考えてしまったのだ。
『艦長。例の子が目を覚ましました』
「わかったわ。それじゃあ、彼女にも話を聞いておこうかしらね」
「あ、あの、私も一緒にいっていいですか? フェイトちゃんとお話ししたいから――」
「ええ、いいわよ」
「俺達もいいか? ちょっと気になることがあってね」
 エイミィの通信にうなずくとリンディは立ち上がりながらそんなことを言い出す。
それを聞いて正気に戻ったなのはの言葉に笑顔でうなずくが、士の言葉には怪訝な顔をしてしまう。
「気になること、ですか?」
「ああ、どうにも放って置かない方がいい気がしてな」
「こういう時の士の勘って良く当たるしねぇ」
 首を傾げるリンディに士が答えると望は呆れた様子でため息を吐く。
それを聞いたリンディはふと考えていた。これまでのやりとりなどで士が見た目通りの者では無いことはわかっている。
彼が持つ力もそうだが、今までのことを考えると彼の言葉を無視しない方がいいだろう。
「わかりました。では、まいりましょう」
 結果、リンディは士の同行を認めることにした。彼なら、何か進展を作ってくれるのではないかと思って。


「ん、あ……」
 その頃、医務室のベッドの上でフェイトは目を覚ましていた。
「つ……」
 それと共に体に痛みを感じたが、我慢出来ない程でないのでなんとか体を起こす。
それで医師が気付いたらしく、体の状態を問い掛けながら声を掛けてきた。
それに対しては大丈夫だと答えつつ、フェイトは自分の様子を確かめる。
バリアジャケット――魔法で作られる防護服のことだが、それが解除されて今は黒のワンピースを着ていた。
手元に自分のデバイスたるバルディッシュは無く、アルフは自分の横にあるベッドの上で未だに眠っている。
そこまで確認した所でフェイトは深くため息を吐く。ここは時空管理局の艦の中であろうことは容易に推測出来た。
自分がやられる前に時空管理局の職員らしき人物が来たのは見ていたからだ。それと共にマズイ事態だということも推測出来る。
なにしろ、自分達がしてきたことが犯罪であることは自覚していた。それが知られれば、時空管理局は自分達を拘束するだろう。
かといって逃げ出すのも難しい。バルディッシュは近くには無いし、第一ここは時空管理局の艦の中だ。
例え、アルフが目を覚ましたとしても結局は同じだろう。それを考えてフェイトは自分の体を抱きしめていた。
なんとしてもここから逃げ出さなければならなかった。だって、そうしないと母のお願いを実行することが出来ないのだから――
そんな時だった。士達が現れたのは。
「あなたがフェイト・テスタロッサさんね? お名前はなのはさんから聞いているわ」
 笑顔で問い掛けるリンディだが、内心はある疑問に満ちていた。
テスタロッサの性は昔なんらかの事故のニュースで見た記憶がある。
なのはにフェイトの名前を聞いた時にそのことに思い至り、エイミィに調べてもらっているが――
どうやら、士の勘は当たりそうだとため息を吐きそうになる。
「あなた方が今まで何をしてきたかはなのはさんに聞いています。
だからこそ、教えて欲しいの。なぜ、ジュエルシードを集めようとしているのかを」
 自己紹介をしてからイスに座るリンディは真剣な顔で問い掛ける。それに対し、フェイトはうつむいたままであった。
フェイトが考えるのは母のこと。このままだと母に迷惑を掛けてしまう。
なんとかしたいが今の自分ではどうしたらいいのか思いつかず、結局黙るしかなかった。
そのことに気付いたのかリンディはため息を吐き――
「ちょっといいかな?」
「え?」
 士が声を掛けてきたことにリンディは思わず呆然としてしまう。いきなり何をと思ったからだが――
「誰かに頼まれたのかな? そのジュエルシードってのを集めるのを?」
「あ……ん……」
 士の問い掛けにフェイトは思わず顔を向け、すぐにうつむいてしまう。
が、その瞳が揺れていることに士とリンディは見逃してはいなかった。士が問い掛けたことをリンディも考えなかったわけではない。
フェイトはなのはと同じくらいの歳だろうから、それを含めて考えても自主的にジュエルシードを集めるのは考えにくい。
ただ、リンディとしては段階を踏んでから聞きたかったというのが本音だ。
フェイトに何かあるのは最初のやりとりで気付いていたし、だからこそ慎重を期したかったのだが――
「フェイトちゃん……」
 そんな彼女をなのはは心配そうに見守る。
なのはとしても知りたかった。フェイトがなぜ必死になってジュエルシードを集めるのかを。
その為に今日までフェイトと戦ってきたのだから。
「く、うぅ……ここは?」
「アルフ」
 そんな時だった。アルフが目を覚まし、体を起こそうとしていたのは。
そのことにフェイトが声を掛け、そのことで誰もが顔を向けて――
「へ?」「え?」
 士がアルフの首に腕を回してどこかに連れ去ろうとする光景を眼にしたのだった。
そのことにやられたアルフ本人だけでなく、誰もが目を丸くしてしまう。
「悪いがちょっと話を聞かせてくれ」
 そう言いつつ、士はアルフを医務室の外に連れ出していった。
そのことに誰もが戸惑うが、リンディや雄介、麗華が気になって後を追う。
「て、ちょっと待ちな!? 何する気だい!?」
 医務室の外に出た所で正気に戻ったアルフが士の拘束を離れ、顔を赤くしながら歯をむき出し睨み付けてくる。
それに対し、士は気にした様子も無く顔を向け――
「さっきも言ったとおり、話を聞きたいだけだ。あの嬢ちゃん、誰かをかばってるのか話す気は無さそうでね。
でも、それだと色々とまずいことにもなりかねない。だから、あんたに聞こうと思ってな」
「け、けどな――」
「もし、話してくれるなら、あんたらがやってきたことは大目に見てもらえるかもしれないぞ?」
 言いよどむアルフ。彼女としてはフェイトの不利になるようなことはしたくなかった。
しかし、話し掛けてきた士の言葉に思わず目をむき出してしまう。
「ほ、本当かい?」
「話次第、にもよるだろうけどな。そっちの判断はリンディさんにしてもらうさ」
 問い掛けるアルフに士はリンディがいる方へと顔を向けながら答えた。それに対しリンディはというと士の言葉に静かにうなずく。
確かに司法取引という意味合いでは出来なくもない。ただし、リンディが出来るのは口添えまでだけだ。
それ以上は司法の判断に委ねる為、確約出来るわけではない。
なお、ここにいない他の者達はフェイトの所で話し掛けていたりしたが。
「わかったよ――」
 それを聞いてアルフは静かに話し始め――その内容に士を除く聞いていた全員が顔をしかめていた。
フェイトは母親であるプレシア・テスタロッサに頼まれてジュエルシードを集めている。
何に使うかまでは聞いてはいない。ただ、集めてこいと言うだけ。けど、集めてきても理由を付けてフェイトを虐待する。
そのことでアルフはプレシアをくそ婆と呼ぶ程に憎んでいる。アルフの話を要約するとそのような内容であった。
「そんなの親のすることかよ!」
 雄介が思わず怒鳴ってしまったが、ある意味当然かもしれない。なにしろ、雄介としては許せない行為をプレシアはしていたのだから。
麗華も似たような顔をしているが、一方でリンディと士だけは考え込むような仕草をしている。
リンディはプレシアのことをある程度であるが知っており、なぜそんな人物がジュエルシードを集めているのかと疑問に思っていた。
一方、士はアルフが話した内容に疑問を持つ。どの部分がと聞かれたら困るのだが、どうにも気になる一言を聞いた気がしたのだ。
「なぁ、プレシアって奴のこと調べてもらえるか? 後、何かわかったら俺達に伝えて欲しい。その為に通信手段があれば助かるけどな」
「ええ、元からそのつもりです。通信手段に関しては検討しておきましょう」
 士の問い掛けにリンディはうなずく。リンディとしてもプレシアに何かがあるのは間違い無いと思っている。
一方で問い掛けた士としてはどうにも不安がぬぐえない。なにか、他にもありそうな気がしてならない為に。
リンディに問い掛けたのもその思いからであった、
「そ、それで……フェイトはどうなるんだい?」
 不安そうに問い掛けるアルフだが、リンディは複雑そうな顔をしてしまう。
順当にいけばフェイトとアルフは拘束されることになるだろう。
理由が理由とはいえ、2人がしたことは犯罪と言われても否定出来ないことだからだ。
かといって理由を考えるとリンディとしては拘束はしづらい。
時空管理局としては失格な考えではあるが、彼女個人としてはそう思ってしまうのだ。
「なぁ、フェイト達を俺達に預けてくれないか?」
「はい?」
 が、士がいきなりそんなことを言い出したために思わず呆然としてしまったが。
「し、しかし、彼女達は――」
「まぁ、流石に逃げないようにする必要はあるだろうが、フェイトとはじっくり話し合った方がいいと思ってな」
「で、ですが――」
 士の言葉にリンディは困惑する。士の言っていることはわからなくもない。それが最善だとも思う。
しかしながら組織の手前上、はいそうですかと出来ることでも無かったのだ。
「なに、フェイト達を保護しただけだろ? だったら、解放しても問題は無いよな?」
「あ、あなたって人は――」
 しかし、士の意味ありげなウインク混じりの言葉にリンディは額に手を当てつつ、ため息を吐いていた。
確かにフェイト達をここに連れてきたのは状況から考えてもそう言ってもいい。
通じるかは別にしても言い訳としては成り立つが、あまりにも無理矢理過ぎる言い分にリンディは頭を痛めていたのだ。
「ま、フェイトは自分がしていることを理解してるようで理解してないのかもしれない。そういった意味では話をしたいと思ってね」
「……わかりました。ただし、魔法に関してはリミッターは付けさせてもらいますよ」
「妥当だろうな。今のフェイトじゃ、解放した途端に逃げ出しかねない」
 ため息を吐きつつも不満げにうなずくリンディ。士の言いたいこともわかる故になんとかしたいとも思っている。
かといって組織の手前上、心情だけでフェイトを半ば解放するわけにもいかない。
なので後の言い訳が大変になるが、とりあえず妥協点としてそんなことを言い出したのだ。
そのことに言い出した士は真剣な眼差しをフェイトに向けながら答える。
士としてはフェイトがなのはと同じくらいに周りが見えていない気がしてならない。
もしかしたら、それが不幸を呼び寄せるかもしれないとも感じている。故にリンディの妥協案もある意味渡りに船に思えたのだ。
「ついでと言っちゃなんだが、なのはの両親に会ってこれまでのことを話してくれないか?
魔法のことは秘密にしなけりゃならないんだろうが、今回はその方がいいような気がしてな」
「む……」
 で、ついでとばかりに士はそんなことを言い出すが、リンディは途端に考え込んでしまう。
確かにこの世界は管理外――時空管理局があまり手出ししていない世界であり、それ故に魔法のことなどが知られるのは好ましくない。
かといって、なのはの両親などにもこれからも秘密というのも難しいだろう。
なんでこんなことを考えるかといえば、実は時空管理局は慢性的な人手不足に陥っている。
理由は魔法文明の世界なので時空管理局の職員は魔法を使える者で大半で占められているのだが――
一般人で魔法が使える者が多くないというのもあるが、その者が魔法が使えるからといって必ずしも職員になるわけでもない。
他にも理由はあるが、その為に時空管理局の職員の数、特に戦闘を行う者の人手が慢性的に足りていないのである。
それを示すかのようにアースラに乗る戦闘などをこなす実働部隊の人数もギリギリの数しかいない。
故になのはに協力してもらうつもりでいたのだ。
ただ、リンディはなのはから自主的に協力を申し出るように仕向けようとして、士に見抜かれてしまっていたが。
 ともかく、なのはに協力してもらうつもりなら両親に秘密というのは難しいだろう。
起こすつもりは無いが、何かあった場合のことを考えると色々とマズイ事態にもなりかねないからだ。
むろん、話したからといって万事解決とはならないが、秘密にするよりはマシだろう。
「わかりました。準備を進めておきましょう」
「すまないな」
 うなずくリンディに士は苦笑する。
それと共に考えてしまう。今回はかなり大事になりそうだと。


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
 なお、このことをなのはに話したら大変混乱していたことを記しておく。




 あとがき
そんなわけで今回は話し合いの回です。うん、上手くまとめられてない気がしてならないよ^^;
自分で書いておいて不安いっぱいですが、それでも次回に続きます。
次回はリンディ達と共になのはの両親と話すことになった士達。
しかし、その先では――といったお話。というわけで、次回またお会いしましょう。



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