「え? あ、え?」
「なんだい、ありゃ……」
海東の変身に戸惑う少女達。獣耳の少女も未だに睨んではいるが、戸惑いを隠し切れてはいない。
だが、それも無理はなかった。少女達からしてみれば、海東の変身はある意味異常なのだから。
まぁ、少女達の方もある意味変身してるのだが……それは今は触れないでおこう。
「なんなんだ、お前は! 魔導士か!?」
「いやいや、違うよ。しいて言うなら仮面ライダー、かな?」
「仮面、ライダー?」
戸惑いながらも睨み、杖を向ける少年におどけた様子で答える海東。
その言葉におさげの少女は首を傾げながらも、内心ではどこか納得出来るような響きであると考えていた。
少女はライダーの意味は知らないものの、海東の今の顔は文字通り仮面だったのだから――
「ま、流石にボク1人で君達の相手は出来ないから――」
と、海東は話しながら3枚のカードを取り出して銃にセットし――
「この人達に相手してもらうよ」
『仮面ライド――ライオトルーパー!! 王蛇!! サイガ!!』
銃のトリガーを引くと合成音と共にいくつもの残像が不規則に動き、やがてそれらが重なり合うとその姿を現した。
1つは5人組の集団。フルフェイスヘルメットのような物と銅に似た色の装甲を纏い、手にはナイフのような物を握っていた。
もう1つは紫の蛇にも見える装甲を纏った者。その手には牙にも見えるサーベルが握られている。
最後の1人はヘルメットがΨの字に見える白い装甲を纏った者。その背中には何かの装置を背負っていた。
「な、なに?」「く……」
その者達が現れた事におさげの少女は怯え、ツインテールの少女は睨んでいるものの困惑の色が強い。
なにしろ、海東だけでなく謎の集団まで現れたのだ。本来なら逃げたい所である。
しかし、ツインテールの少女はジュエルシードが目的故に簡単に引き下がるわけにもいかなかった。
「なんのつもりだ!?」
「何って? ジュエルシードを手に入れる為に決まってるじゃないか?
でも、君達は邪魔しようとするよね? だから、そうさせないための援軍だよ」
「ま、待って、く!?」
「フェイト!?」
「うわ!?」「あわわわわわ!?」
少年もツインテールの少女と理由はある意味同じ故引き下がれず、困惑の色を隠し切れないまま叫ぶように問い掛ける。
それに対し、海東は人差し指を差しながら答え、ジュエルシードに向かってしまう。
ツインテールの少女はそれを止めようとするが、文字通り飛んできた白い装甲の者――サイガの突進を危うく受けそうになる。
幸いにも立ち止まることで回避出来たが、それを見て危ういと感じた獣耳の少女が駆け寄ってきた。
そして、それを切っ掛けに蛇の装甲を纏った者――王蛇が少年に襲いかかり、おさげの少女にも集団――ライオトルーパー部隊が襲いかかった。
「あわわわわわわ、きゃあ!?」
『プロテクション』
おさげの少女――名を高町 なのはと言うのだが、そのなのはにライオトルーパーの1人が斬りかかってくる。
それを慌てながら後ろに飛んで避けるものの、もう1人のライオトルーパーがナイフを折り曲げて銃の形にし、エネルギー弾を撃ってきた。
そのことになのはは思わず両腕で顔を守りつつ、顔を背けてしまう。
だが、杖から女性のような電子音が聞こえたかと思うと、なのはの前に輝く魔方陣が現れて銃撃を防いだ。
「きゃあ!?」
「なのは! く、これじゃあ――」
そこへ別のライオトルーパーが跳んで斬りかかってきた。
それも魔方陣によって防げたものの、その攻撃でなのはは吹き飛ばされそうになる。
このことになのはの肩にいたフェレット――名をユーノと言うのだが、どこか悔しそうな顔をしていた。
なのはは元々は普通の少女だった。しかし、この海鳴市にジュエルシードがやってきたこと。
それを回収するためにやってきたユーノと出会ったことで、魔導士となってジュエルシードの回収を手伝うことになった。
幸いだったのはなのはが魔導士として天才とも言える才能の持ち主であったこと。
それにユーノに教えてもらいながらとはいえ、独自に訓練していくことでその才能を目覚めさせていった。
その反面、戦闘に関しては難を残している。
なのはは元々普通の少女故に、そういった物を学んではいなかったのだ。
それにジュエルシードを回収する際に戦闘が起きることもあるが、それも数える程度でしかない。
結果としてなのはは戦闘に関しては素人レベルでしかなく、このように集団で襲われては恐怖もあって何も出来なくなってしまう。
「くそ、なんなんだこいつは!?」
一方、少年――名をクロノ・ハラオウン。
この地球とは別の次元にある組織『時空管理局』の執務官を勤めるいわばエリートだ。
執務官がどういう役職なのかは説明が長くなるので割愛するが、その執務官となるべくそれ相応の訓練もしている。
その為、クロノはなのはよりも高い実力を持っているのだが――
戦っている王蛇があまりにも異常すぎた。力や速さは明らかにクロノを超えている。
接近戦は避けたいが、王蛇の動きが速くてそれが中々出来ない。
どうやら空を飛べないと見て、空を飛んでみるのだが――
「おっと、そうはさせないよ」
『アタックライド――アドベンド!!』
『アドベンド』
「な!? くぅ!」
それに気付いた海東が銃にカードをセットすると、王蛇も蛇の頭が付いている杖にカードをセットした。
その直後、どこからともなく赤いエイのようなモンスターが現れて襲いかかってくる。
かろうじて避けるものの、2対1なった状態でクロノは更に追い込まれていった。
「くぅ!?」
「フェイト!? くそ! こいつ速すぎる!?」
サイガと対峙するツインテールの少女と獣耳の少女は窮地に立たされていた。
ツインテールの少女の名はフェイト・テスタロッサ。獣耳の少女の名はアルフ。2人はある理由から独自にジュエルシードを集めている。
その為に戦闘などの訓練を受けてはいた。といっても経験の方はまだ浅いのだが。
そのことを差し引いてもフェイトとアルフから見てサイガは圧倒的過ぎた。まず、アルフが言ったとおりサイガは速い。
というか、速すぎた。サイガの背中にはフライングアタッカーという飛行ユニットが装着されている。
文字通り飛行が可能となるのだが、特筆すべきなのはその速力。最高速度は時速にして820km。
亜音速と言ってもいい速度で飛行が可能だ。フェイトも飛行速度は速い方だが、流石にサイガの速度までは出せない。
故にサイガを捉える事が出来ずにいたのだ。
「くぅ!?」
「フェイト!? くあ!?」
更にサイガの攻撃が凄まじかった。
時折止まったかと思うとフライングアタッカーを変形させてライフル形態にし、エネルギー弾を乱射してくるのだ。
しかも、そのエネルギー弾の威力が高い。
フェイトとアルフは光る魔方陣の盾で防いではいるものの、下手に受ければその盾も破壊されかねなかった。
「今だ!」
「あ、フェイト!」
このままではマズイと考えたフェイトはエネルギー弾の乱射が止まったのを見計らって飛び出す。
向かう先はジュエルシード。アルフは慌てて追いかける中、サイガもそれに気付いてフェイトに向い突進してくる。
しかし、それがフェイトの狙いだった。
「バルディッシュ!」
『イエス、サー』
フェイトの指示に杖が男性的な電子音で答えると先端が変形して光の刀身を持つ大きな鎌となった。
フェイトはそれを振り向きながらサイガに向かって振り回す。自身が囮となってサイガを引きつけて迎撃する。
現に速度とタイミング的にサイガはフェイトの剣を確実に受けるのは間違い無かった。
確かにフェイトの考えたとおり、サイガはフェイトの剣を『受ける』だろう。
だが、フェイトはここで2つの間違いを犯す。1つはジュエルシードを諦めなかったことだ。
ジュエルシードを諦めて退散すれば、少なくともこの後の結果は起きなかっただろう。
しかし、彼女はある理由からジュエルシードを諦めるわけにはいかず、故に退散することが出来なかった。
もう1つが――これが決定的なのだが、サイガの実力を見誤っていたことだ。
「え……」
その事実にフェイトは目を見開く。
なぜなら、サイガはフェイトの光る刃を手で受け止めていたからだ。
フェイトは知らぬ事だが、このサイガは装甲と装甲を纏う者共に強い力を持つ。
しかし、フェイトは経験の浅さから、そのことに気付くことが出来なかった。
「あぐ!?」
更に状況は悪化する。
サイガはフェイトの光る刃を受け止めたが、突進をやめたわけではない。
故にフェイトは突進をまともに喰らう事になり、そのままサイガと共に落ちていく。
突進のダメージは着ている物が魔法で作られた物だったおかげで軽減されている。
だが、流石に亜音速の突進の威力が強すぎて軽減しきれずに激痛が全身を貫き、フェイトは顔を歪めていた。
そのせいで気付けなかった。このまま落ちたらどうなるのかを――
「か! はぁ!?」
そう、その先にあるのは地面。
フェイトのそのことに気付く前に地面に激突し、全身を飲み込むほどの大きさのクレーターを穿ちながら、その身を地面にめり込まされる。
そのあまりの激痛にフェイトは目を見開き、やがて事切れたように手足を地面に付け、目を閉じて意識を失ってしまう。
「てめぇぇぇぇぇぇ!! 良くもフェイトをぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
それを見たアルフが怒りの形相で突っ込んでくるが、すでにフェイトから離れていたサイガはその突進をあっさりと避け――
「がぁ!?」
容赦の無い回し蹴りで、アルフを蹴り飛ばす。
「がは!? あ、ぐ……フェイ――」
そのまま地面に激突するように倒れたアルフは手を伸ばそうとするがそのまま気を失い、伸ばした手が地面に落ちた。
「さてと、みんなが相手をしている間に、おや?」
その光景を眺めていた海東は飽きたとばかりに振り向くが、その先で起きていた現象に首を傾げる。
見ていると、自分から少し離れた所で何かの制服らしき物を着た十数人の男達が光る魔方陣の上に立ちながら現れた所だった。
「やれやれ、まだいたんだ」
その男達は杖を構えるが、海東はその様子に呆れたように首を振る。
そして、1枚のカードを銃にセットし――
『仮面ライド――ゼクトルーパー!!』
銃のトリガーを引くとベストのような黒い装甲と戦闘服を纏い、バッタを思わせるフルフェイスヘルメットをかぶり――
右手にボールのような銃身がはめられている10人の集団が現れ、先程現れた男達に向かい隊列を組んで銃弾を撃ち始めた。
「ま、まだ味方がいたの!?」
この光景をモニター越しに見ていた栗色のショートカットヘアに、どこかの制服を着た少女が驚愕していた。
少女の名はエイミィ・リミエッタ。可愛らしく整った顔立ちをしているのだが、今はモニターに映る光景に顔を引きつらせている。
エイミィがいるのはどこかの施設にも見える、様々なモニターや設備が備えられた場所であった。
そこに彼女の他にも複数の男女がおり、エイミィと同じ光景を見て困惑や驚愕といった表情を見せていた。
「まさか、管理外世界にあんな者がいたなんて――」
長いエメラルドグリーンの髪をポニーテールにした女性が、同じようにモニター越しに映る光景を見て綺麗な顔立ちを歪めていた。
女性の名はリンディ・ハラオウン。若く見えるが、実はモニターに映るクロノの母親だったりする。
それはともかく、リンディは悩んでしまう。リンディ達がいる場所は『アースラ』と呼ばれる巨大な艦船のブリッジだ。
リンディ達は時空管理局と呼ばれる所の職員であり、ある理由からなのは達がいる世界に来たのである。
本来は世界に来たという意味を詳しく説明する必要があるのだが、それは後ほど行うとして――
来たまでは良かったが、海東という予想外のイレギュラーに困惑していたのだ。アースラには戦闘員はまだいるにはいる。
しかし、海東が見せる力――リンディは召還のような物だと考えているが――を考えるとまだ呼び出せる可能性が高い。
これからのことを考えると下手な消耗は危険な為、なのは達がいる所へ増援を送るのも躊躇われる。
そのことにリンディは悩むものの解決策が思い浮かばない。
ロストロギア――ジュエルシードのことだが、それを諦めて全員を撤退させようかとも考えるが――
「それになんなの、あいつ? 魔力が一切無いなんて――て、別の反応!? クロノ達の所に向かってる!?」
「なんですって!?」
海東から魔力の反応が無いことに首を傾げるエイミィだったが、不意に現れたセンサーの反応に思わず驚いてしまう。
リンディもそれを聞いて驚き、センサーを凝視してしまった。確かに3つの反応がなのは達へと向かっている。
ただでさえ厄介な状況に新たに現れたイレギュラー。もしや、新たな敵か――そう考えたリンディは更に表情を歪めてしまうのだった。
「え? なに?」
一方、なのは達の元に3台のバイクが止まり、乗っていた者達がヘルメットを脱ぎながらバイクから降りていた。
そのことになのはは困惑するが、他の者達も突然の乱入者に動きを止めて顔を向けてしまう。
「なんか、厄介なことになってるな」
「な、なぁ……あれって、仮面ライダー……なのか?」
その内の1人である士がなのは達の状況を見てため息を吐く。
その一方、もう1人である雄介がサイガや王蛇、ライオトルーパーやゼクトルーパーを見て困惑する。
士達はこの世界に来てから、たまにはツーリングしながら見て回ろうという士の意見でバイクで海鳴市を回っていた。
その最中に士と麗華に麗葉が変な気配を感じ、そこへ向かって走っていたらここへたどり着いていたのである。
「おや、君達は喫茶店にいた子達じゃないか」
「その声……海東か?」
「え? ていうか、あの人も仮面ライダー?」
「というか、あれではまるで……ディケイドではないか……」
ディエンドが海東であると気付いた士の横で望はそのことに軽く驚いていた。その一方で麗華はディエンドの姿に戸惑いを隠せない。
ヘルメットやスーツのデザインや色は違うのだが、雰囲気が明らかにディケイドに似ていたからだ。
「で、お前は何してるんだ?」
「なに、そこにあるジュエルシードっていうお宝を手に入れようと思ったんだけど、邪魔されちゃってね。それで応戦してたってわけ」
「応戦ね。にしちゃ、やりすぎじゃないか?」
肩をすくめながら答える海東を問い掛けた士は睨んでいた。
士達の登場で戦闘こそ止まっているが、状況から見てなのはやクロノ達が一方的にやられていたように見える。
それにフェイトやアルフに至っては完全に気を失っていた。そのことに雄介や望達も睨んでしまうが――
「ボクとしてはお宝を諦める訳にはいかないからね。それなりの対処はするさ」
「にしたってやりようはあるだろうが?」
「その結果がこれだよ。それとも、君達も邪魔をするのかな?」
睨む士に話していた海東は銃を向けて挑発してくる。
そのことに望は思わず士の後ろに隠れてしまうが、士は雄介と麗華と共に海東を睨み続けていた。
「渡しちゃダメです! それは危険な物なんです!」
「ネズミさんがしゃべってる?」
「だ、そうだが?」
「お宝を手に入れるのに危険は時に付きものだよ」
ユーノが思わず叫んだ事に麗葉は首を傾げる。ネズミというのは麗葉の勘違いだが、動物がしゃべる所を見てなんだろうと思ったのだ。
一方、フェレット姿のユーノがしゃべったことに雄介と望は驚いて声を失っている。
麗華はというと、自分の世界の魔法使いや呪術師は似たような物を使ったりするのを知っているので、大して驚きはしなかったが。
そんな中、大して気にした様子を見せない士が問い掛けるが、海東はおどけた様子で答えていた。
「ど、どうするんだよ?」
「海東の邪魔をした方が良さそうだな。というか、明らかにやり過ぎてる」
「その方が良さそうだ」
戸惑う雄介に士はベルトを取り出しながら答え、麗華もカードを取り出しながら同意する。
なのはのような子供を複数で襲わせるのは明らかにやりすぎにしか思えない。
フェイトとアルフは士達の位置からでは確認が難しいが、倒されて気絶しているように思える。
理由はわからないが海東はやり過ぎているようにしか見えず、彼を止めた方がいいと考えたのだ。
雄介も同じ考えのようでカードを取り出しながら海東を睨み――
「「「変身!!」」」
『仮面ライド――ディケイド!!』『ターンアップ』
「え、ええぇ!?」「あ、あれはあの人と同じ!?」
海東を止める為に士、雄介、麗華と麗葉は変身する。その光景になのは達は驚いてしまうが――
「へぇ、君達も仮面ライダーなんだ。でも、やるっていうなら相手をしてあげるよ」
海東はどこか嬉しそうにしながらも、構えを見せる。そのことに呆れながらも、士はケースを剣に組み替えて持っていた。
事情は相変わらずわからないが、このまま海東に勝手にやらせているととんでもないことをしでかすと勘が働くのである。
「俺は倒れてる子達の所に行く。麗華はあっちの女の子を、雄介はあっちの男の子を頼む」
「で、でも他の人達は? ていうか私は!?」
「あっちはあっちでがんばってもらうしかない。望はどっかに隠れててくれ」
「あ、ちょっと!?」
戸惑う望に指示を出していた士が答えて雄介と麗華と共に駆け出すが、望は逆に困ってしまっていた。
なにしろ、隠れようにも隠れられるのが木の陰くらいしかない。
今までの戦闘を見てきた望にとってはそれはあまりにも頼りなく感じてしまい、本当に大丈夫かと不安になったのだ。
「は! 大丈夫か?」
「あ、はい、ありがとう、ございます……あの、あなた達は?」
「通りすがりの仮面ライダーだ」
「仮面ライダー、ですか?」
ライオトルーパー達に斬り込み、なのはの元にたどり着く麗華。
なのはは小さく頭を下げながら問い掛けると、麗華は顔を向けて答えてからライオトルーパー達に向き直した。
その返事にユーノは首を傾げている。海東もそう名乗っていたが、どんな意味があるのだろうかと考えていたのだ。
「おりゃあ!」
その一方で雄介も王蛇に殴りかかるものの、避けられて距離を取られていた。
「く、君達はなんなんだ!? あいつの仲間か!?」
「あ、いや……知ってるだけで仲間ってわけじゃ、っておわ!?」
それである程度自由になったクロノに怒鳴られて困りながら答えようとする雄介であったが、王蛇に斬りかかられて慌てて逃れる。
その雄介の返事をクロノは信用出来なかった。なにしろ、海東と知り合いのようだし、ここへ来た目的もわからない。
雄介達もジュエルシードを狙っているのかと思ったのだ。
「まったく、ボクの邪魔をしないで欲しいものだね」
「邪魔をされるようなやり方をしてるからだろうが」
銃身で剣を受け止める海東に、斬り込んだ士がそう返す。
士がなんで海東と戦っているかといえば、フェイトの近くに海東がいたからにすぎない。
その後ろではジュエルシードが未だに宙に浮いていたが、今はそれに構ってる暇は無かった。
海東を近付けさせない為もあるが、どんな物かわからない為に下手に近付けないとも感じていた為だ。
「よっと」
「く!」
そこで海東が剣を弾き、撃ってくる。
そのことに舌打ちながらも士は避け、ケースを銃に組み替えながら撃ち返した。
海東もステップを踏むかのように躱すと撃ち返し、士も避けて撃ち返し――そんな繰り返しが行われる。
「ぬお!? おわっと!?」
「はぁ! くっ、しつこい!」
一方で王蛇の攻撃をなんとか躱し続ける雄介。麗華は数の多さに押されそうになっていた。
神鳴流には多数に対する技があるが、それは気を用いなければ使うのが難しいという難点がある。
変身して麗葉と合体しなければ気を用いた技をほとんど使えなかった麗華は、それが理由でその技を習得出来なかった。
故に多数相手には苦戦を強いられてしまうことがあるのだ。
雄介の場合は王蛇の実力が高く、武器もあって迂闊に近付けないというのが大きい。
紫の姿になりたい所だが、その姿だと動きが遅くなって王蛇に追いつけなくなる。
いくら防御力が高まるといっても、攻撃を受け続けるのは倒されるのと同義だ。
なので青の姿になりたい所だが、青の姿は素早さが上がる代わりに腕力が低下してしまう。
それを補うために武器を使うのだが、武器を使うためには最低でも長い棒が必要となる。
が、雄介の周りには棒が無かった。それで姿を変えることが出来ず、王蛇に押される形になってしまったのだ。
「くそ!」
クロノも王蛇が呼び出したモンスターとサイガの相手に苦戦を強いられていた。
動きが速い上に自由に飛び回って捉えるのが難しい。
トラップを仕掛けてはいるが、その動きと2対1という状況に誘い込むことが中々出来ずにいる。
クロノの仲間と思われる者達も海東が新たに呼び出した集団――ゼクトルーパー隊との相手に拮抗状態にあった。
士も撃ち合いをやめて海東と睨み合っており、このまま膠着状態が続く――かに思われた。
「封印!」
「え? あ!?」
と、そんな声が聞こえて海東が顔を向け、その光景に驚いてしまう。
何があったかといえば、なのはがジュエルシードに持っていた杖を向けていたのだ。
なのはがなぜここにいるかといえば、麗華が助けに来たことで向かってくるライオトルーパーの数が減ったのである。
おかげでなんとか対処出来るようになり、向かってきた2人を魔法で拘束してジュエルシードの元にたどり着いたのだ。
そして、杖を向けられたジュエルシードは杖の先端にある赤い宝玉に吸い込まれていった。
「あちゃ〜、取られちゃったか……ま、いいや。別にあれ1つじゃないしね。
じゃ、ボクはこれでおいとまさせてもらうよ。でも、次は邪魔をしないで欲しいな。じゃあねぇ〜」
『アタックライド――インビジブル!!』
そのことに海東は肩を落とすがすぐに立ち直って銃にカードをセットし、そんなことを言い残して文字通り姿を消してしまう。
「おわっと!? あれ?」
「消えた?」
すると王蛇やサイガ、モンスターやライオトルーパー、ゼクトルーパーらの姿がテレビの砂嵐のようにぼやけたかと思うと全員消えてしまう。
そのことに雄介や麗華は辺りを見回しながら戸惑いを見せていた。
「なるほど、人から奪う気は無いということか……助かったよ、嬢ちゃん」
「あ、いえ、その……」
ケースを腰に戻しながら考える士が礼を言うと、言われたなのはは照れくさそうにしていた。
その様子に思わず微笑んでしまう士であったが――
「時空管理局だ! お前達の身柄を拘束させてもらう!」
クロノが杖を向けながらそんなことを言い出していた。ひどいと思われそうだが、ある意味仕方の無い対応でもあった。
なにしろ、士達は現時点では身元不明な上に明らかに強い力を持っている。
それに助けてもらったとはいえ、味方であると決まったわけでは無いのだ。
また、海東のこともあったので、クロノとしてはどうしても警戒してしまうのである。
「時空管理局?」
「この世界の警察みたいな組織か?」
「この世界?」
一方、クロノの対応に雄介が首を傾げ、士はあごに手をやりながら考えている。
その士の一言にユーノが反応していた。この世界ということは、彼らは別の『次元世界』から来たのだろうか?
しかし、それだと時空管理局を知らないのはおかしいのだが――などとユーノが考えていた時だった。
『クロノ、杖を下げなさい』
「母さ、艦長!? こいつらは――」
『落ち着きなさい。先程のこともあるのはわかるけど、相手を下手に刺激するものでは無いわ』
「は、はい……」
突如、士達の目の高さに現れたモニターのような映像に士やクロノ、クロノ仲間達以外の全員が驚く。
そして、その映像に映る女性――リンディの言葉にクロノは反論しようとするが、逆にたしなめられていた。
『私は時空管理局所属巡航艦アースラ艦長のリンディ・ハラオウンです。
申し訳ありませんが、詳しい話を聞きたいのでこちらに来て頂けないでしょうか?』
「その方が良さそうだな」
「いいのか?」
「一応、海東の邪魔をしたはいいが、ここで何が起きてたかわからないんだ。
それを聞いた方がいいだろうし、その方がこの世界でやることもわかるだろ?」
「そうだな。ていうか今更だけど、そういうのは教えて欲しいよな」
「そうだよね」
麗華の問い掛けに肩をすくめていた士は変身を解きながら答える。それに納得しながらも同じく変身を解く雄介はぼやいていたが。
まぁ、異世界に行かされても、その世界で何をすれば良いのかわからない。
今までは怪人を倒して終わりだったが、それだけだったとしても教えて欲しいと思うのだ。
そんな雄介のぼやきに同意しながら、望も士達の元へと来ていた。
「おっと、そういえば――」
そこで士が何かを思い出して歩き出す。その先にいたのは気絶しているフェイトだった。
「よっと。麗華、悪いがそっちを頼む」
「わかった」
「すまないが、この子達の手当てを頼めるかな?」
『ええ、そのくらいでしたら、お安いご用です』
そのフェイトをお姫様抱っこの形で抱き上げる士は、アルフのことを変身を解いた麗華に頼んでからリンディにもお願いをする。
そのことにリンディは笑顔で答え――
「ん、んん……ぅん……だ、れ?」
「通りすがりの仮面ライダーだ」
「仮面、らい、ん……」
抱き上げられたことで気が付いたフェイトが、かすかな意識で問い掛ける。
そのことに笑顔で問い掛ける士であったが、それを聞いたフェイトは再び意識を失ってしまうのだった。
「仮面ライダーって……なんだろう?」
その様子を見つめていたなのはは、そんな疑問を持ってしまう。
なぜか、大事なことのような気がしてならなかったから――
あとがき
そんなわけでついにやってきた魔法少女リリカルなのはの世界。
やってきた早々に戦闘になりましたが、これがいったいどうなることやら――
さて、海東が本格的に参戦となりましたが、この海東は原作とは違う設定になっております。
そっちの方は追々物語りでも書いていきますが、今回のように人から奪うような真似はしません。
そうでなかったら容赦はしませんけどね。
次回はリンディと話し合うことになった士達。
一方、フェイトは今までしてきたことが明るみとなってリンディ達に拘束されそうになるのですが――
といったお話です。それでは、次回またお会いしましょう。
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