「つまり人をあんな風にしちゃう奴らがいて、一夏はそいつらと戦ってるってこと?」
「まぁ、そういうことになるかな?」
 あの後、鈴への事情説明や状況確認の為に仮面ライダー部の部室となっている衛理華の研究室に来た一夏達。
そこには連絡を受けた楯無と虚の姿もあった。で、鈴は一夏達からこれまでの話を聞いていたりする。
「凄い……なんて動きなの……」
「ああ、もしかしたらIS以上かもしれんな」
 一方で千冬、真耶、楯無らはバガミールに記録されていた先程の戦闘を見ていた。
そして、真耶のようにサソリの怪人の動きに思わず感嘆してしまう。
なにしろ、ISでは出来ないような曲芸的な動きが出来るくらいに自由度が高すぎる。
地上戦に限定すればISを圧倒出来るかもしれないと千冬が思えるくらいの物だった。
「にしても、何者なんでしょうか?」
「ゾディアーツ……」
「え?」
 事情は聞いてはいたものの、初めて見るフォーゼと怪人との戦いに戸惑いつつもそんな疑問を漏らす虚。
そんな彼女の疑問に答えるように聞こえてきた声に虚は思わず振り向いてしまう。
その先にいたのは閉じた扇子を持った手であごに当てている楯無の姿であった。
「ああ、前に出た奴の体やあのサソリみたいな奴の体にあるレンズ状の物が星座のように並んでるでしょ?
その星座――ゾディアックをもじってみたんだけど、どうかしら?」
「まぁ、奴らのことは何もわかってないしね。暫定的に呼んでも問題は無いか……にしても、思った以上に早く動き出したわね」
 苦笑混じりに説明する楯無の話を聞いた衛理華はため息を吐きながらもそんなことを考える。
奴らがまた動くとは思ってはいた。しかし、数日で動くとは思っていなかっただけに頭が痛いことではあったが。
「こうなると、あいつらが持ってるスイッチが1つや2つじゃない可能性が高いわね」
「あの……多分だけど、このサソリみたいなのからスイッチを受け取ったと思う」
「本当か?」
「うん……あのマントとか見覚えがあったし」
 ため息混じりにそんなことを考える衛理華の横で、簪は右手を軽く挙げながらそんなことを言い出す。
それ聞いた千冬が確認の為に問い掛けると、簪はうなずきながらそう答えた。
「となると、この人が黒幕なんでしょうか?」
「そうとは限らないだろうが、少なくともただ者ではない。まったく、せめてISが自由に使えればな」
 それを聞いて真耶はそう考えるが、千冬は否定しつつもそんな考えに苦虫を潰したような顔になる。
怪人――ゾディアーツとの戦闘でISが使えないのは以前も話したが、そのせいで一夏が戦わなければならない。
実を言えば自衛などを理由にしてISを使うことは出来なくはない。ただ、そうなるといくつかの問題も出てくる。
例えば、ゾディアーツの扱いをどのようにするかということ。このことは下手をすれば国家間の問題にもなりかねない。
 もう1つがコズミックエナジーの早期露見の危険性。というのも、ISを使えば戦闘などの記録が映像付きで残されてしまう。
その記録によってコズミックエナジーが知られる可能性が非常に高い。
今は楯無らによって知られてもいいような対策を講じられてはいるが、その対策が成されないままで知られるのは大きな混乱が起きる可能性がある。
そうなればどうなるかは……あまり考えたくないというのが実情だ。
 後1つは被害の軽減だ。ISは使われる機体にもよるが、多くは火器、重火器を装備している。
そんな物を使えば当然公共施設などが破壊されるのは目に見えていた。
むろん、場合にもよるが、それを避けるためにもISの使用を極力避ける必要があったのだ。
他にもあるがこれらがネックになっているせいで、ゾディアーツとの戦闘にISを出したくても出せないのである。
千冬もなんとかしようとしてはいるが、今は一教師でしかない彼女では簡単に解決出来ることでもなかった。
「ま、今確実にわかることはあいつらが格上の相手だってことでしょうね」
「どういうことですか?」
「同じコズミックエナジーを用いながら、あいつらはスイッチ1つであそこまでの力を出している。
機能を限定してのもあるんでしょうけど、コズミックエナジーに関する理解力と技術力はあちらの方が上でしょうね」
 話を聞いて疑問に感じた箒に衛理華はため息を交えながら答えた。
相手は確実にコズミックエナジーの活性化方法がわかっている。そう思う理由は簪であった。
あの事件後、簪にフォーゼドライバーを持ってもらったが、コズミックエナジーは活性化したものの箒よりも低いレベルでしかなかった。
最初にゾディアーツになった川岸にいたっては反応すらしない。
このことで衛理華はコズミックエナジーの活性化には人のなんらかの感情がキーになっているのではと推測を立てていたりする。
そう考える理由としては川岸や簪がなんらかの形で憎悪を抱いていたという事実があるからだ。
しかし、推測止まりなのは一夏の存在だ。一夏は憎悪といった物は持っていない。
それなのに一夏はフォーゼドライバー単独でフォーゼに変身出来るほどにコズミックエナジーを活性化出来る。
この違いがわからない為に推測でしかならないのである。
「そちらの方は後で考えよう。今は今回襲ってきた奴――ゾディアーツがどうしてくるかを考えることだ。
なにしろ、目的がまったくもってわからないからな」
「でも、あの後から誰かが襲われたりとかの報告は無いんですよね」
 腕を組みながら話す千冬であったが、真耶は考えた様子を見せながらそんなことを言い出す。
あれからまだ数十分しか経ってないが、今のところ誰かが襲われたりしたなどの報告は無い。
その事実に誰もが考え込んでしまうが――
「様子を見ているということか?」
「もしくは、最初から鈴さんが狙いだったということでしょうか?」
「わ、私!?」
「それもありえなくはないわね」
 箒の意見の後にセシリアはそんなことを言い出した為に、鈴は自分を指差しながら驚いてしまう。
それに対し、衛理華は納得といった顔をしていたが。
「まぁ、まだ事例が少ないから断定するのは早計だけど、これまでのことを考えるとありえなくはないもの」
「ということは、凰に恨みを持つ者の犯行ということか?」
「可能性としてはね。もしそうだとしても、問題は誰がやったかになるけど」
「そ、そんなことを言われても――」
 千冬の考えに話していた衛理華は肩をすくめながら答える。
確かに今までゾディアーツになった者は何かしらの恨みや憎しみなどの感情に囚われていた。
それを考えるとありえなくもないが、かといって事例が少ないので断定するわけにもいかない。
ただ、恨みなどによるものだとすると誰がということになるのだが、鈴が戸惑ったように誰がそうなのかという断定が難しい。
情報が無いというのもあるが、可能性としてありえる数が多くなる場合もあるからだ。
「今の所は様子を見るしかあるまい。今日の訓練は休みとするから、お前達は寮に戻れ。ただし、何かあったらすぐに連絡するんだぞ」
「ああ、わかったよ」
 千冬の言葉にうなずく一夏。確かに現状では調べようにも情報が少なすぎる。
だから、また現れてもいいようにしようと思ったのだ。
そんなことを考える一夏を鈴はただ静かに見守っているのだった。


 で、寮に戻った鈴だが、これからのことを話そう一夏の部屋に行ってみたものの箒と共に部屋にはいなかった。
どこに行ったのだろうと探し回って屋上に来て――
「あれ? どうしたの?」
「あ、一夏に用があって、ってあいつは――」
 そこにいた簪に聞かれた鈴は少し困った様子を見せながら答えようとして、その光景を見て呆れてしまう。
屋上には本音や箒、セシリアに一夏もいたのだが――一夏はフォーゼに変身してホッピングで屋上を跳び回っていた。
「いつ戦いになってもいいように、もっと慣れておこうと思ったんだって」
「なるほど……一夏も相変わらずねぇ」
「ん? いたのか。で、相変わらずとは?」
 簪の言葉に呆れる鈴であったが、鈴がいたことに気付いた箒が問い掛ける。
その問い掛けに鈴はどこか遠い目をしながら一夏を見つめ――
「私が中国に戻る少し前だったかな?
なんでかわからないけど、一夏ってばいきなり仮面ライダーになるって言い出して、体を鍛え始めたのよ。
理由を聞いたら仮面ライダーに助けてもらったとかなんとか言ってたわね。その時は何言ってるんだかって思ったものだけど――」
「そうなんだ」
 どこか楽しそうにしながら話す鈴。
ある事情から中国に戻ることになった鈴だが、その数ヶ月前に一夏は先程話していたようなことを言い出し、その時は一夏の親友と共に呆れたものだが、
だが、その頃から一夏なりに体を鍛えるなどの努力をしていたのと今回のことで仮面ライダーになるのが本気だと知り、少し複雑な気分でもあったが。
それを聞いていた簪は一夏を見つめながら返事をし、箒達も釣られるような形で一夏を見守っていた。
未だにホッピングで跳び回ったり、時には着地してバランスを取ったり。
今でもその努力を怠っていないことに鈴は安心するが、その一方で不安も感じてしまう。
「あいつ、本当に仮面ライダーになるつもりなのかな?」
「不満、なのか?」
「不満というか……さっきだって、かなり危ない目にあってたのに……」
 首を傾げる箒に思わず漏らした鈴は不安そうにそんなことを告げる。
先程の戦いで一夏はサソリ姿のゾディアーツに圧倒されていた。
もしかしたら、命の危険さえあったかもしれない。でも、今の一夏を見ているとやめる気が無いように思える。
それが鈴を不安にさせていた。もし、このまま戦ったら一夏は――
「織斑君に何があったかはわからないけど……でも、きっと大切なことだったんだと思う。
仮面ライダーになるのを目標にする位に――だから、簡単にはやめないと思うよ」
 一夏を見つめながら簪は思ったことを口にしていた。
こんな時に言うのもなんだが、簪は勧善懲悪のヒーロー物が好きだったりする。
だから、一夏と一緒にいるのかといえば少し違う。
一夏を見てるとそういうヒーローとは違うような気がするのだ。
それがなんなのかを確かめる為に一夏と一緒にいたりするのだが。
「目標……か」
 そんな話を聞いていた箒はうつむきながら考えてしまう。
自分にとっての目標。箒はそんなことを考えたことが無かった。
ある事情から箒は家族と共にあちこちを転々とし、いつの間にか家族とも離ればなれになってしまった。
その原因を作った姉を恨めしく思わなかったこともないが、そんなことをあって考えたことも無かったのだ。
だから、話を聞いて思ってしまう。自分にとっての目標はなんなのかを。
「よっと。あれ、鈴? 来てたのか?」
「お疲れ、おりむー」
「お疲れ様です、一夏様」
 そんな時、ホッピングを解除してやってきた一夏に本音とセシリアが笑顔で声を掛ける。
その後、鈴や簪を交えて雑談をする一夏であったが、そんな彼を箒は羨ましそうに見つめるのであった。


 次の日のSHR(ショートホームルーム)。鈴は頬杖をしつつ、ぼんやりとしていたのだが――
「吉沢 未来さん? お休みかしら? 連絡は受けていないんだけど――」
 首を傾げながらも不安そうにしている女性教師の姿を見て、まさかという考えが浮かんでしまう。
なぜなら未来は鈴が代わる前のクラス代表だったのだから――
「つまり、その吉沢さんって人が昨日のゾディアーツかもしれないってことか?」
「たぶん……なんか今日は連絡が取れないみたいだし……」
 で、昼休み。食堂でそのことを聞いて問い掛ける一夏に鈴がうなずく。
あの後、気になった鈴は担任に話を聞いたりしたのだが、結果は未来がゾディアーツの可能性が高いというものだった。
「なぜそう思うのだ? 二組の前のクラス代表とは聞いてはいるが――まさか、強引にクラス代表の座を奪ったのか?」
「強引というか……その時は頭を下げてお願いしたんだけど……考えてみたら、そうかも……しれない……」
 視線を向けながら問い掛ける箒だったが、鈴は落ち込んでいきながら答えていく。
未来にクラス代表を代わってもらうようお願いしに行った時、鈴は何度も頭を下げながらお願いしていた。
その時はそんなこともあって気にも止めなかったが、その様子を見ていたクラス中が未来よりも鈴の方がクラス代表にいいという流れになってしまったのだ。
ただ――
「でも、先生はそれとは別の理由で私をクラス代表にしたみたいなんだけど」
「別の理由とは?」
「うん、なんでもね――」
 訝しげな顔をするセシリアに話していた鈴はうなずいてから担任と話していた時のことを話し始める。
それはSHR(ショートホームルーム)が終わった後、なぜ自分をクラス代表にしたのかを問い掛けた。
確かにあの時はクラス中があのような流れになっていたのは確かだ。
でも、最終的に鈴をクラス代表にしたのは担任の鶴の一声だったのである。
「最初はクラス全員がISを動かしてみて、その中で見込みがある人にクラス代表を務めてもらおうと思ってたの。
それで見込みがあった吉沢さんにお願いしたんだけど――」
 最初はにこやかに話していた担任であったが、次第に表情が曇ってしまう。
どうしたのかと鈴は気になっていたのだが――
「そのせいなのかはわからないんだけど、吉沢さんは無茶な訓練をするようになってしまったの。
言って止めようとはしたんだけど、如月さんは聞く耳持たずって感じで……
このままだと体を壊すだけじゃ済まなくなりそうで、どうしようかと思ってた時に凰さんが言い出してくれたから――」
 苦笑混じりに話す担任。
担任としてはこのままでは未来が体を壊しかねないと思い、それを避ける為に代表候補生でもある鈴にクラス代表を交代してもらったのである。
むろん、担任もこのことを未来に話したらしいのだが、その一方で聞いていた鈴は胸が痛む思いだった。
なぜなら――
「それで鈴ちゃんにバトンタッチしたってわけかぁ〜」
「でも、吉沢さんには鈴さんにクラス代表を奪われたと思ってしまった」
「恨みを抱くには十分ではありますわね」
 うなずく本音ではあったが、簪とセシリアの言葉に鈴はつらそうにうなずく。
理由はなんであれ、未来にはクラス代表の座を鈴に奪われたようにも見えなくはない。
それで未来が鈴に恨みを抱いたとしてもおかしくはないだろう。
「でも、だからといって襲ってもいい理由にはならないよな」
「確かに」
 しかし、真剣な顔の一夏の言葉に箒は同意するようにうなずく。自業自得はともかくとしても、襲われた方はたまったものではない。
それにゾディアーツの力で襲われようものなら、ケガだけで済まなくなる可能性もある。
といっても一夏はそこまで考えていたわけではないが、どのみちゾディアーツを止めなければと思っていた。
「ともかく、学校が終わったら千冬姉達にこのことを話して、その吉沢さんって人を探してみよう」
「私も姉さんに話しておく」
 故に一夏はそんなことを言い出し、簪も同意しながらそんなことを漏らす。
箒達もうなずく中、鈴はどこか決意を秘めた眼差しをしているのだった。


 そして放課後。鈴は1人でIS学園内を歩いていた。
本当は仮面ライダー部に集まることになっていたのだが、鈴なりに責任を感じて解決しようと考えたのである。
「あぐ!?」
 そして校舎の屋上に来た時、鈴は痛みを伴う衝撃を受けて吹っ飛び、そのまま床に倒れてしまった。
「う、いつ……う、なに、が……あ――」
 なんとか痛みに耐えながら鈴は顔を上げる。
そして、その先で何も無い風景から姿を現すカメレオン姿のゾディアーツがいたことに気付いた。
「く、あなた……吉沢、未来……さん、なの?」
 まだ痛む体に耐えながら、鈴は体を起こしつつ問い掛ける。それが聞こえた為か黒い渦のようなものがゾディアーツを包み――
それが消えると、IS学園の制服を着た背中まで伸びる黒髪を持つ女生徒の姿へと変わっていた。
「良くわかったわね?」
「そりゃま……心当たりはあったしね」
 睨みながら問い掛ける女生徒に鈴は痛みに耐えながらなんとか立ち上がる。
そう、この女生徒が吉沢 未来なのだが、睨んでくる彼女を見て鈴は心を痛めた。
やはり、自分がクラス代表を奪ってしまったから、こんなことをしてるんだと思って。
「なんで、こんなことを? やっぱり、私がクラス代表になったから?」
 だから、鈴は確認の為に改めて問い掛けるが、未来はそれを聞いて憎悪を露わにしたことに思わず目を見開いてしまう。
「そんなのは関係無い! あなたは……あなたは私の努力を踏みにじった!」
「え?」
 未来の叫びを鈴は理解出来なかった。
だが、少しして担任の話を思い出してはっとすることとなったが。
「努力って、あの訓練――」
「いつもそうだ! 私はいつだって努力してきた! なのに……なのにいつも一歩足りなくて……結果を出せなかった……」
「え? それって――」
 そうなのだろうと鈴は思ったのだが、未来が悔しさを爆発させるように叫び、最後の方では涙まで流してしまう。
その様子に鈴はわからずに戸惑うだけであった。
吉沢 未来はいわゆる努力型の人間だ。才能が無いのを自覚し、それでもなお勉学や運動を努力して良い結果を残そうとした。
そう、残そうとしたのだ。だが、これまでその結果が出ることが無かった。
未来はそのことに努力が足りないと思い、より一層の努力を重ねたのである。
そして、未来自身がついにその努力が実を結んだと感じた時がきた。IS学園の入学とクラス代表の選定だった。
そのことに手応えを感じた未来はクラス対抗戦で優勝を目指すべく更なる努力を重ねたのだが――
「やっと、今までの努力が報われる……そう思っていたのに……なのに、あなたはそれを邪魔をした!」
「そ、それは……」
 悔しさを隠さずに叫ぶ未来に鈴はつらそうな顔をしながら困惑していた。
未来に何があったのかはわからないが、今まで色んな努力をしてきたのだろうというのはなんとなくわかった。
でも、自分がクラス代表になったことでそれを邪魔してしまい、彼女の努力を邪魔してしまったのだと思ったのだ。
「あ、その、ごめん――」
「いえ、あなたが謝る必要はありません」
「「え?」」
 だから、鈴は謝ろうとしたのだが、そんな時に聞こえた声に未来と共に振り向いてしまう。
その先にいたのは楯無と簪に虚、それに本音とセシリアや千冬であった。
で、その楯無はといえば開いた扇子で口元を隠しているのだが、その扇子にはなぜか努力という文字が達筆調に書かれていたりする。
「吉沢 未来さんでしたわね? あなたがゾディアーツの疑いがあると聞いて、失礼を承知で少々調べさせて頂きました。
それを踏まえて言わせて頂きますと、あなたは努力の仕方を間違えている。
正確には努力をしすぎて、先のことを考えていないと言うべきかもしれませんわね」
 未来を見据えたまま話す楯無。
どういうことかといえば、未来は過度に努力してしまう傾向があったのだ。それこそ、体を壊しかねない程に。
今まで結果が出なかったのもそれによって体を壊しかけ、本来の実力を発揮出来なかった為であった。
そして、担任はその一端を見ており、その危険性から鈴へとクラス代表変えたのである。
「努力をするのは悪いことではありません。
ですが、その仕方を間違えれば、時には自分の身すら滅ぼすことになりかねないのですよ」
「うるさい! お前達に何がわかる! 選ばれただけのお前達に!」
「ふざけないで!」
「ええ、そうですわね!」
「その通りだな。図に乗るなよ、小娘」
 見据えたままに話す楯無だが、未来はその話を否定するかのように叫んだ。
しかし、その叫びに鈴とセシリア、千冬が反論する。
「選ばれただけですって? んなわけないでしょ! 代表候補生に選ばれるのってどんなに大変なのかわかって言ってるの!?」
「そうですわ!」
「その通りだ。何もせずに上に行くことが出来るわけがなかろう。自分がそうでなかったからといって、卑下するのは大概にしろよ?」
 反論する鈴とセシリアに同意するように千冬もうなずく。
鈴の場合、IS適正がAだとわかってから努力を重ねたことで専用機持ちの中国代表候補生に選ばれた。
セシリアもある事情もあるのだが、同じように努力して今の立場にいる。
だから、それをただ選ばれただけと言われた為に怒りがわいてしまったのである。
千冬も教師の立場上そういった者達を何人も見てるし、自分自身も苦労を重ねて今という立場にいる。
だから、未来の言ってることは戯れ言にも聞こえるのだ。
「う、うるさい! お前達なんか……お前達なんかぁ!?」
『ラスト・ワン』
 それに対し、逆上した未来は簪がゾディアーツになる際に使ったスイッチを取り出すと、そのスイッチが不気味な形へと変化してしまう。
しかし、未来はそのことに気付かずにスイッチを押し――
「う――」
「うそ……」
 蜘蛛の巣のような糸が体中に巻き付いた状態で気を失い倒れ、その横にカメレオン姿のゾディアーツが姿を現した。
そのことに鈴は驚くが――
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
「え? きゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?」
 ゾディアーツが舌を伸ばしたかと思うと鈴の体をつかみ、そのまま学園の外に投げ飛ばしてしまう。
「鈴さん!?」「鈴ちゃん!?」
「く!?」
 そのことにセシリアや本音が叫び、虚や簪も驚きと共に顔を向けていた。
鈴はといえばなんとか正気に戻ってISを展開しようとしたのだが――
「やれやれ、あなたは覚えておくべきです。時として努力だけではダメだということを」
 そんな中、楯無はつぶやきながら扇子を閉じると共に、鈴に向かって何かが飛び出してきた。
「え? きゃ!?」
 そのことに驚く鈴であったが――
「ほへ?」
 抱きかかえられているとわかって、思わず呆然としてしまう。
「大丈夫だったか?」
「え? 一夏? え? え? ええぇ!?」
 声を掛けられたことでフォーゼに変身している一夏だと気付いた鈴であったが、その彼にお姫様抱っこされてると気付いて驚いてしまう。
「まったく、ちょっと怒らせすぎじゃないかしら?」
「その辺りに関してはお詫びいたします」
 で、着地してホッピングを解除する一夏から少し離れた所にいる衛理華がモバイルPC越しに話し掛けると、楯無もバガミール越しににこやかに頭を下げる。
そう、一夏はすでに来ていて、楯無の指示で地上で待機していたのだ。
で、バガミールを通してレーダーのモニターで今までの話を聞き、鈴を投げ飛ばされたのを見てホッピングで跳んでキャッチしたのである。
ちなみに箒もパワーダイザーに乗って待機していたが、屋上から見ているセシリア、本音、簪、千冬と共に一夏に抱えられている鈴を睨んでいたりする。
余談だが真耶も衛理華の横にいて、こっちはなぜか羨ましそうに見ていたが。
「あなた達ぃ〜!?」
 一方、馬鹿にされたと感じたゾディアーツは構えを見せるのだが――
「あら? 私達だけに構って良いのですか?」
『マジックハンド』
 楯無は動じた様子を見せず、その間に一夏は鈴を降ろしてからロケットスイッチを別のスイッチに交換し――
『マジックハンド・オン』
「おりゃ!」
「え?」
 その交換したスイッチのレバーを入れて右腕にピンク色の長いアームとなった物を装着し、それを伸ばしてゾディアーツをつかみ――
「おおりゃ!」
「きゃあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!?」
 そのまま引きずるようにゾディアーツを地上へと落とした。
「あぐ!?」
「言っとくが、体を伸ばせるのはお前だけじゃないんだよ」
「くぅ……」
 マジックハンドを解除して顔を向ける一夏に、そのまま地面に倒れたゾディアーツは睨みながら立ち上がろうとしていた。
「うるさい! お前も私の努力の邪魔をする気か!?」
「ふざけんな! あんたに何があったかは知らないけど、こんな努力を俺は絶対に認めない!」
 かがむような形で構えるゾディアーツの言葉に一夏は叫び返す。
一夏は未来に何があったかは知らない。かといって、人を襲うことを努力とするのは認める訳にはいかなかった。
「ああぁぁぁぁ!!」
「おりゃ!」
「あぐぅ!?」
 だから、襲いかかってきたゾディアーツを容赦なく蹴り飛ばす。
ゾディアーツを――未来を止める為に。
「は!」
「がっ!?」
『チェンソー・オン』
 それでも手を休めずにゾディアーツを殴り、怯んだ所でセットしていたチェンソーのスイッチを入れ――
「おお――」
「ぐぁ!?」
「――おおりゃ!!」
「ああぁぁぁ!!?」
 そのチェンソーが装着された右足を振ってゾディアーツの胸を切り、更に宙返りをしながら下から上へと切り裂いていく。
それによってゾディアーツは火花を上げながら吹っ飛び、地面へと倒れていった。
『ランチャー――ランチャー・オン』
 その間に一夏はチェンソーを解除してからランチャースイッチに入れ替えてスイッチを入れ――
「いっけぇ!!」
 未だに装着していたレーダーでロックオンしてからランチャーのミサイルを解き放った。
「く、あ! きゃああぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?」
 立ち上がるゾディアーツだったが直後にミサイルが直撃し、その爆風と衝撃で大きく飛び上がってしまう。
『ロケット――ドリル』
 それと共に一夏はランチャーを解除し、マジックハンドとホッピングのスイッチをロケットとドリルのスイッチに交換し――
『ロケット・ドリル・オン』
「は!」
 ロケットとドリルのスイッチを入れ、ロケットの推力で飛び上がり――
『ロケット・ドリル・レーダー・リミットブレイク』
「ライダーロケットドリルキーック!!」
 左足のドリルを向けつつロケットの推力でゾディアーツに突撃し――
「あああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?」
 高速回転するドリルでゾディアーツの胸を砕き、貫かれてゾディアーツは爆発した。
「よ、っと」
 そして、一夏はスイッチを全て切ってから着地し、振り返って飛んできたスイッチを受け止めるのだった。


「それじゃ、スイッチを切って」
「はい」
 その後、楯無達が来てから衛理華の指示でゾディアーツのスイッチを切る一夏。
それによってゾディアーツのスイッチは火花を散らしながら黒い渦に呑み込まれるように消え――
「う、あ、あ……」
 楯無達に運ばれた未来は目を覚ました。
「どうだ?」
「バッチリとはいかないけど、データは取れたわ。これで何かわかるといいんだけど」
 その様子を見ていた千冬の問い掛けにモバイルPCを操作していた衛理華はため息混じりに答えた。
実は今の光景をバガミールを通じて撮影していたのである。
本当はフォーゼがカメラかレーダーのスイッチで記録すれば良いのだが、スイッチを切る際に普通の人に影響が出ないとも限らない。
パワーダイザーでは細かい作業は厳しい為、結局フォーゼである一夏がスイッチを切ることになったのである。
「なんで……なんでよぉ……なんで、私の努力の邪魔をするの……」
「では聞くが、お前はなんの為に努力をする?」
 一方、起き上がった未来はうつむきながら涙を流す。
正気に戻ったことで罪悪感はあったものの、なぜこうも自分の努力を邪魔されるのかと思って悲しくなってしまったのだ。
そんな未来に千冬は腕を組んだまま問い掛ける。
「なぜって、決まってるじゃない! いい結果を出す為よ!」
「それじゃあ、その為にはどうすれば良いか考えたことはあるか?」
「え?」
 それに対し未来は叫ぶように答えるが、千冬の更なる問い掛けに呆然としてしまう。
この時はその問い掛けの意味を理解出来なかったからだが――
「良い結果を出す為にはただ努力すればいいというものではない。その為には何をどうするべきなのかを考えなければならない時もある。
お前はそれをしなかっただけでなく、自らの体をいじめるようなことをしてきた。そんなことをすれば、良い結果が出ないのは当然だ」
 腕を組んだまま言い放つ千冬の言葉に未来はうなだれる。
言われてみるとただ努力するだけで、何をどうすればいいのか考えたことが無かった。
体をいじめるようなことをしていたと言われたらそうかもしれない。
本番で疲れ果てているのは努力が足りないと思っていたが、今の言葉で努力をしすぎてたかもしれないとも思えてきたのだ。
「それにあなたは友達や家族の言葉に耳を傾けましたか?
もしかしたら、その人達は大事なことを言っていたかもしれないし、時にはあなたの支えにもなってくれたかもしれないのよ?」
「少なくともここにいる代表候補生は1人の力でなったわけではない。そういった者達の助けもあって、今こうしてここにいるんだ」
 そんな未来に楯無も話し掛け、千冬も腕を組んだまま語りかける。1人でただ闇雲に努力すれば良い結果が出るというわけではない。
スポーツ選手がそうであるように、他の人のサポートがあってより確実に良い結果を出せるようになるのだ。
未来はそのことに気付かずにいたのである。
「で、でも、私は……私は……」
「何があなたをそこまで追い詰めていたのかは知らない。
だからというわけじゃないけど、体を休める意味も含めて一度ゆっくり考えてみた方がいいわ。
それでも答えが出ないなら、教師とかに相談してみなさい。その方が気分的にも楽になると思うしね」
 しかし、指摘されたからといってこれまでのことをすぐに直せるわけでもなく、未来は困惑していた。
そんな彼女に衛理華はそう言い聞かせる。今の未来に必要なのは時間。それがわかっているからこその言葉であった。
「そっか。ただ、努力するだけじゃダメなのか……」
 一方、一夏は変身を解きながら今の会話で考えさせられていた。
一夏は未来のような無茶はしなかったものの、仮面ライダーになる為にどうするべきなのかを明確に考えたことは無かった。
かといって、そういった目標を誰に相談するべきなのかで悩んでしまうのだが。
「あの……ごめんね……私が変なこと頼んじゃったから……」
 そんな中、鈴はしゃがんで未来に謝っていた。
未来をここまで追い詰めたのは自分がクラス代表を代わってと言い出したせいだと思った。
そのせいで彼女はここまで思い詰めてしまったのだとも考えてしまったのだ。
「あ、ああ……ああ〜」
 そんな鈴を見つめていた未来だったが、涙を浮かべたかと思うと鈴に抱きついて泣き出してしまう。
実を言えば、未来には明確な友達はいなかった。
だからだろうか? 心配してくれる鈴の言葉が嬉しく感じて、思わず泣き出してしまったのである。
そんな未来を鈴は優しく抱きしめた。未来が泣き止むまでずっと――
そんな2人を一夏達はただ静かに見守っていたのだが。
「にしても――」
「どうかしたのか?」
「いや、今日はあのサソリのゾディアーツが出てこなかったから、気になってね」
「確かにな」
 その一方でサソリの姿をしたゾディアーツが出てこなかったことに不安を感じる衛理華に、問い掛けた千冬は同意するようにうなずいていた。
昨日はゾディアーツとなった未来を助けるような形で現れたのに今回は現れない。
衛理華としてはそのことに何か意味がありそうな気がして、不安になってしまったのだった。


 以降、吉沢 未来は自分にとって良い結果が残せるような努力をするようになり、無茶なことをするようなことが無くなった。
そして、今回の事件が切っ掛けとなってか、鈴とも良く話すようになり――
そんなことが実を結んだのかしばらくした後、未来は代表候補生に選ばれることとなる。


 それはそれとして、次の日の放課後――
「なんでここにいるんだ?」
 仮面ライダー部に備え付けのソファーに座る鈴に箒が睨むように問い掛ける。
その横ではセシリアも同意するようにうなずいていたが。
「何って、私もここに入部するんだけど?」
「な、なんですってぇ!?」
 それに対し鈴はケロッとした様子で答えるが、そのことにセシリアはなぜか大げさに驚いてみせる。
いや、実際に驚いていたのだが。なにせ、何をどうしたら鈴がこの部に入部することになったのかわからない為に。
「ま、あなた達に抜け駆けさせるわけにはいかないしねぇ〜」
「「な!?」」
 で、鈴はといえば挑発的な笑みを向けるのだが、箒とセシリアは思わず顔を赤くさせる。
良く見れば、一緒にいた本音や簪も同じであったが。そう、鈴は気付いているのだ。彼女達が一夏にどんな想いを抱いているのかを。
「やれやれ、賑やかになっていくわねぇ〜」
「あはは……なんか、すみません」
 その光景を眺めていた衛理華のぼやきに一夏は頭を下げる。
鈴達が騒がしいことに代わりに謝ったつもりだったのだが――
「彼女達がああなってるのが自分が原因だって気付いた方がいいわよ、織斑君」
「へ?」
 衛理華の私的にポカンとしてしまう。
自分が原因? なぜ? と、理解出来ずに一夏は首を傾げるはめになったが。


 こうして、一夏は新たな日常を迎えることとなる。
今はまだ、どんな仮面ライダーになるのかという答えを見いだせないままで――



 あとがき
というわけで、なんとか事件を解決した一夏達。で、なぜか仮面ライダー部に入部する鈴。
で、やきもきする箒達。うん、ハーレムタグを入れておくべきだったか?(何を今更――)
しかしながら、これで終わりではなかったりしますが。

そうそう、白樺さんのオリジナルリミットブレイク技ですが、別に構いませんよ。
ただし、本編で採用されるかは話は別になりますけどね。

さて、次回はクラス対抗戦。そこで一夏と鈴は対戦することになりますが、突如乱入者が。
その乱入者に苦戦を強いられますが――果たして? というお話です。
では、次のお話でまたお会いしましょう。



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