さて、本日はクラス対抗戦の日。
アリーナの観客席では多くの女生徒達や教師達が観戦に来ており、特別席ではIS企業などのお偉いさんも観戦に来ている。
こちらは有望と思える生徒に目星を付けるのもあるが、一番の理由は一夏だろう。
なにしろ、初の男性IS操縦者。どんなものか確かめたいと考えているのだ。
「なんというか、流石ISと言えばいいのかしらね?」
 その様子を管制室に来ていた衛理華は呆れたようにつぶやく。なお、管制室には千冬に真耶、箒にセシリアに本音もいる。
箒達仮面ライダー部のメンバーがここにいるのは、衛理華の案内の為であったが。
ちなみに一夏と鈴は今から試合の為。簪もその後に試合が控えている為、現在はアリーナの発着所にいる。
「にしても、一夏は勝てるのだろうか?」
「難しい所だな。なにしろISに関して言えば凰の方が上だ」
 そして、今まさに試合が始まろうとした時、箒は不安からそんなことを漏らしてしまった。
それに対し、千冬は腕を組んだままハッキリと答えていたが。
「戦闘に関して言えば織斑に一日の長はある。だが、ISでの戦闘はほとんど経験していない。
操作に関しても上達には目を見張るが、それでも凰には及ばないだろう」
 と、冷静に言い放つ千冬。
戦闘はフォーゼによるゾディアーツとの戦いで経験してるので、そういったことに関しては一夏に軍配が上がる。
しかし、ISとなると軍配が上がるのは鈴の方だろう。
箒やセシリアらと一緒に訓練はしてるが、操作技術は専門に訓練してきた鈴には及ばない。
また、白式は高い機動性は持つものの、武装が近接ブレードの雪片二型のみ。
それに簪の協力である程度改善されてきてるとはいえ、白式の燃費の悪さは相変わらずでもあった。
なので、鈴のISの装備次第では劣勢に立たされる可能性は十分に考えられるのである。
 ただし、それは一夏が一方的に負けるということにはならない。
ゾディアーツとの戦いが生きているのか、一夏は余程の事がない限り冷静に対応しようとする。
前回のセシリアとの対戦がいい例であり、場合によっては面白い勝負になるかもしれないと千冬は考えていた。
「こうなると、フォーゼのアストロスイッチが羨ましくなるよねぇ〜」
 ため息混じりに本音がそんなことを漏らしてしまう。
ISは装備の交換・増設が出来ないわけではない。ただ、ISにもよるのだが、制約があるので自由度はそれ程高くはなかった。
白式に至っては雪片二型に容量を取られているせいで、増設がほぼ出来ない状態だったりする。
一方、フォーゼは1度に4つまでの制約はあるものの、スイッチを交換すればどんな装備でも使えた。
そういった点を考えればフォーゼはISに優れているとも言えなくもない。
ただし、なんでこんなスイッチまであるんだ?と思えるようなスイッチがあるのを除けばだが――
「ま、今回は織斑に手段を教えているから、それを出せるかが勝負の鍵となるだろうな」
 腕を組んだまま放す千冬。その時、アリーナでは鈴と一夏が入場しようとしていた所だった。
「ふふん、助けてくれたのは感謝してるけど、勝負は勝負よ。負けないからね!」
「そりゃどうも」
 黒と紫というダーク系の色でまとめられたIS『甲龍(シェンロン)』を纏い不敵な笑みを浮かべる鈴に一夏も笑みで返した。
鈴のISの武装は大きく凶悪な形をしている青竜刀のようだが、一夏はそれだけではないと感じていた。
というのも、鈴の左右の肩の辺りで浮かんでいるサイドバインダーの形がボール状なっているからだ。
あれは何かある。ゾディアーツとの戦闘で姿だけでは戦法はわからないと学んでるだけに、一夏はそう思ったのである。
 ちなみに千冬の指示により、鈴はこれまで一夏の前でISを展開したことは無い。
これは出来る限り対等になるようにと、相手に手の内を試合当日までさらさないようにする為であった。
「行くよ! 一夏!」
「おう!」
 鈴の掛け声に一夏も応えて雪片二型を構える。ただし、零落白夜は展開はしない。
展開すれば攻撃力は上がるものの、長期戦が出来なくなるのは目に見えていたからだ。
「ええい!」
「くぅ!」
 そうしてる間に鈴が飛びかかり、持っているブレードを振り落とす。一夏は雪片で受け止めるが、その瞬間に顔をしかめてしまう。
なにしろ、攻撃が重い。鈴のブレードの大きさもあるのだろうが、パワーがあるのが一番の要因だろう。
「なろ!」
「おっと。でりゃあ!」
「おおぉ!」
 かといって黙っているわけにもいかず、一夏は押し返す。しかし、鈴はあっさりと引いたかとすぐさま斬りかかってきた。
一夏はそれを受け流し、負けじと斬りかかる。そのまま付かず離れずの状態で斬り合いとなる2人。
「やるじゃない。なら、これならどうかしら?」
 そのことに思わず笑顔となる鈴であったが、空いていた左手に同じブレードを展開して再度斬りかかってきた。
「くそぉ!」
 一夏もなんとか受け流すなどしているが、攻撃の重さに加えて手数の多さに押され気味になっている。
それでも鈴から離れようとはしなかったが。
「何をしているんだ! あの場合は離れた方がいいだろうに!」
 この状況をモニターで見ていた箒が憤る。
確かに今の状況を考えるなら、距離を取って仕切り直しをする方がいい。
自分の息を整え、構え直す為ではあるのだが――
「いや、たぶんだが織斑は警戒しているんだろう」
「警戒、ですか?」
「ああ、織斑は凰のISのことをほとんど知らないからな。その辺りを警戒しているのかもしれん」
 その一言を聞いて問い掛けるセシリアにその一言を漏らした千冬は腕を組んだまま答えた。
一夏としても一度離れたいのだが、鈴のISのサイドバインダーが気に掛かってそれが出来ない。
現状で使ってこない所を見ると考えがハズれているか、接近してる状態では使えないか――
その為、下手に離れるのは危険だと感じたのだ。
「ふぅ、まさかここまでやるなんてね。少し驚いたわ。でも――」
 そんな中、鈴は一旦離れて不敵な笑みを浮かべる。
そのことに一夏が警戒していると、鈴のISの左右のサイドバインダーの装甲が開くように左右にスライドし――
「やべ!」
 背筋が凍るような嫌な予感。その感覚に一夏はすぐさまその場から飛び退いた。
その一瞬後、鈴から何かが来たかと思った時、一夏がいた所を何かが通り過ぎ――
鈴から一夏がいた所の一直線上にあった地面が大きな爆発を起こした。
「な、なんだぁ!? て、うお!?」
 そのことに驚く一夏だったが、更に来た嫌な予感にまたもやそこから飛び退く。
で、一瞬後に同じような爆発が地面やアリーナの壁に次々と起きたのである。
まぁ、アリーナの観客席はISと同じようなバリアー機能で守られている為、観客である女生徒らには驚いたくらいで影響は無かったが。
「なんだ、あれは!?」
「衝撃砲ですね。空間自体に圧力を掛けて砲弾として撃ち出す武器です」
「わたくしのブルーティアーズと同じ第3世代の兵器ですわね」
 一方、その光景をモニター越しに見ていた箒は驚くが、それに対する真耶の説明にセシリアは冷静に判断していた。
龍砲(りゅうほう)』。それが鈴のISに装備されている衝撃砲の名だ。
真耶の説明を補足すると空間その物を砲身・砲弾とする為、基本的に不可視となっている。
「しかも、あれは射角がほぼ制限無しで撃てるようです」
「つまり、どこにでも撃てるってことぉ?」
「それは厄介ねぇ」
 で、更なる真耶の説明に本音が問い掛け、衛理華は呆れていたりする。
空間その物を砲身に出来るので、大雑把に言えば鈴の周囲なら砲身を作れることになる。
むろん制限はあるだろうが、方向に関して言えばあって無いような物だろう。
「しかし、それならなぜ一夏は撃たれるのがわかったのだ?」
「そういえば――」
「ハイパーセンサーによる感知も可能だろうが、織斑の場合は勘だろうな」
 一方でそのことに疑問に感じた箒とセシリアであるが、千冬はモニターを見据えたまま答えた。
確かにISのハイパーセンサーで発射される際の変化を感じ取ることは可能かもしれない。
ただし、感知出来るからといって避けれるかは別問題になるが。
一方、一夏はほぼ勘のみで回避してたりする。この辺りもゾディアーツとの戦闘で培われたものかもしれない。
「くそ! どうする!」
 一方、一夏は鈴の衝撃砲の砲撃を避けながら考えていた。実を言えば、鈴に対する戦法を千冬に授けられてはいる。
ただ――
「織斑君、何かするつもりですね」
瞬時加速(イグニッションブースト)だろう。私が教えた」
「なにそれ?」
 そのことに気付いた真耶の呟きに腕を組んだままの千冬が答えるが、衛理華が意味がわからずに問い掛ける。
「一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃だ。
隙を突ければ織斑にも十分勝ち目はある。ただし、使えるのは一度だけだろうがな」
 それに対して千冬は変わらない態度で答えていた。
この戦法のメリットは距離次第で相手には一瞬で目の前に来たように見えるので、隙さえ突ければ致命的なダメージをを与えることが可能となる。
反面、あるとわかれば距離を取るなどして対処されてしまいがちなのだが。
それに白式の場合燃費の悪さがあるので、失敗すれば逆に窮地に立たされる可能性もあった。
 だから、一夏は跳び回って攻撃を回避しつつ、慎重に鈴の様子をうかがう。
ただ闇雲に飛んでもダメなのはサソリのゾディアーツで経験済みだからだ。
そして、その時が来た。
「もう! ちょこまかと飛び回って!」
 鈴が振り向こうとして龍砲の砲撃を止めてしまう。
いくらほぼ全方位に撃てるといっても、後ろから来られると接近された際に対処が難しくなる為だ。
それはほんの一瞬のこと。でも、一夏には十分な間であった。
「うおおぉぉぉぉ!!」
「しまっ!?」
 零落白夜を起動させる一夏。瞬時加速もいつでも使えるようにしてある。
まさに好機と言える瞬間に鈴は自分の失態に気付くが――
「うわ!?」
「きゃ!?」
 しかし、それは行われることは無かった。
なぜなら、アリーナの上空に張られた遮断シールドを突き破った閃光が2人の間を奔り――
そのまま地面に直撃して大きな爆発を起こしたからだ。
「な、なんだ?」
「なに?」
 突然のことに戸惑う鈴と一夏。一夏の方は思わず零落白夜を切ってしまう。
観戦していた女生徒達もやはり同じように戸惑い、騒がしくなる。
しかし、爆発の煙によって何が起きているのかがわからないままであったが。
「なに? 何が起きましたの!?」
「一夏!?」
 一方の管制室でも突然のことにセシリアと箒が慌てふためく。
本音は不安そうにしているが、千冬と衛理華は逆に視線を鋭くしていた。
「システム破損! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!」
「試合中止! 織斑! 凰! ただちに退避しろ!」
 そんな中、状況を確認した真耶の報告に千冬はマイクを手に取って叫ぶ。
アリーナの方では異常事態に気付いた女生徒らが逃げ惑う中、観客席のシャッターが次々と閉まっていた。
「な、なんだ? 何が起きたんだ?」
「一夏! 試合は中止よ! すぐにピットに戻って!」
 突然のことに一夏が戸惑う中、鈴が通信でそんなことを言ってくる。
確かに先程試合中止の連絡が千冬によって行われたので戻った方がいいのではと一夏は思ったのだが――
「は? え? ロックオン!? 俺をか!?」
 が、目の前にロックオンされているという警告文が投影されたことに驚くはめとなった。
いったい何にロックオンされているのか? 一夏がそのことを考えていると煙が晴れてきて、その姿が見えてくる。
一言で言うのなら、それは異様な物だった。全身を黒でほぼ統一している、一見するとISにも見えなくもない物。
ただ、頭部が装甲で覆われていたり、両腕が明らかに大きかったりと、普通のISでは見られないような造りであったが。
「なんだあれ? あれはIS、なのか? って、おわ!?」
 その姿に異様な雰囲気を感じてしまい、思わずたじろいでしまうたじろぐ一夏。
だが、そのISが右腕を向けたかと思うと、その腕に備えられた砲身からまばゆいまでの閃光を放たれたことで慌てて逃げるはめになったが。
「なんだあれ!? セシリアのライフルよりも威力が上じゃないか!」
「一夏! 早く逃げて!」
『そうです! 2人とも早くそこから退避を!』
 あまりの威力に驚く一夏。そんな彼に鈴と真耶が通信越しに退避を促してきた。
確かにこの状況で一夏があのISと戦う必要は無い。理由が無いのだから当然だ。
当然なのだが――
「そう言われたって、くそぉ!?」
 謎のISはそうはさせじと一夏に両腕を向けてビームを乱射してくる。
先程の威力程では無いが、追いかけてくるように撃ってくるのだ。
「なんだかわからないけど、あいつの狙いは俺なら逃げれない!」
「何言ってんのよあんた! 早く逃げなさいって!」
「ダメだ! 俺が逃げた先にこいつは追いかけてくる!」
「あ――」
 何を言ってるんだとばかりに怒鳴る鈴であったが、顔をしかめながら逃げ回る一夏の言葉にはっとする。
謎のISはビームを撃ちながら一夏を追いかけるように飛び回り始めていた。
確かに彼の言うとおり、あのISの狙いは一夏なのかもしれない。
もしそうなら、一夏が逃げてもしつこく追いかけてくる可能性は十分にあった。
今はアリーナ内にいるからまだいいが、これがもしIS学園内やその周囲にある都市にまで追いかけてくるなら――
「織斑君にとっては人質を取られたようなものね。これじゃ下手に逃げれないわ。誰か助けに行けないの?」
「そ、それが……遮断シールドがレベル4になってる上にアリーナへのゲートは全てロックされています」
「それって出ることも入ることも出来ないってことじゃ……」
「あのISの仕業……なのでしょうね」
 ため息を漏らしながら問い掛ける衛理華に真耶が答えるが、それを聞いた本音は顔を強ばらせ、セシリアも睨むようにモニターを見ていた。
真耶や管制室にいる生徒らはアリーナに一夏達を閉じ込めるような操作はしていない。
となれば、あの謎のISの仕業と考えるのは妥当だろう。
問題は――
「ならば、すぐに政府に救援を――」
「やっている。今も3年の精鋭や先生方によるシステムクラックの最中だ。
遮断シールドを解除出来れば、すぐにでも部隊を突入させる。だから、今はコーヒーでも飲んで落ち着け」
 進言するセシリアに千冬は腕を組みつつ答えた。管制室で出来ることはすでにやっている。
システムの方もISを装着した3年生達や先生達と共に解除しようと奮闘してる最中でもあった。
だが、謎のISがロックしたシステムの解除には未だに至っていない。
そんな彼女らを静めようと千冬はコーヒーを淹れ、砂糖を入れようとするのだが――
「あの、先生……それはお塩――」
「あなたが一番慌ててるじゃないの」
 なぜかある塩をコーヒーに入れてかき混ぜる千冬に箒が指摘し、衛理華が呆れたようにため息を漏らす。
千冬はといえばコーヒーを飲む寸前で指摘されたことで顔を赤らめていたりするが。
しかし、衛理華はそれを見届けることなくモニターに顔を向ける。
モニターでは逃げ回りながらもなんとか戦おうとする一夏や鈴の姿が映されていた。
「聞くけど、行けないのはアリーナだけなの?」
「ええと……アリーナへと繋がる所は全てロックされています。そのせいで生徒達が閉じ込められていますが――」
 衛理華の問い掛けに真耶は確認してから答えた。
現在、謎のISによると思われるシステムロックのせいで、アリーナへと行く箇所のゲートやドアは全てロックされていた。
そのせいで観客席にいた女生徒達や高官らは閉じ込められた形になり、今もそこから逃げることが出来ずにいる。
幸いというか遮断シールのおかげで被害は出ていないものの、だからといって楽観も出来はしなかったが。
「何をする気だ?」
「織斑君にフォーゼドライバーを渡せないかと思ってね」
 視線を向けてくる千冬に衛理華は考える仕草をしながら答えた。
現在、フォーゼドライバーは衛理華の手にある。試合中だからといってロッカーに置きっぱなしに出来なかったからだが。
ともかく、衛理華はフォーゼドライバーを一夏に渡して状況を変えれないかと考えたのだ。
「今の状況では無理だな。それにそんなことをすれば――」
「わかってる。でも、人の命には代えられないでしょ?」
 答える千冬に衛理華は真剣な眼差しで返した。
フォーゼはISと戦うことは出来る。ただし、勝てるかは別になるが。
もっとも、そうすればフォーゼのことが世間に知られる危険性が高まってしまう。
衛理華もそれはわかってはいるが、このままでは被害が大きくなるのは目に見えていた為、そうなってでも止めねばと思ったのだ。
しかし、現状ではそれもままならない。どうするべきか――そのことに皆が悩んだ時、一夏から連絡が来たのだった。


 時間は少しばかり遡る。
謎のISの攻撃にさらされる一夏はなんとか逃げ回っていた。
今のところ、攻撃するのは一夏のみ。鈴には攻撃された時のみ反撃するくらいで、それ以外で攻撃をしようとはしなかった。
そのことに一夏は違和感を感じる。あのISの狙いが自分なのは間違い無い。
しかし、鈴はなぜああまで無視するのか? 攻撃されているのだから、落とすくらいに攻撃してもおかしくないのに。
「なぁ、鈴。あのIS、なんかおかしくないか?」
「おかしいって、何がよ?」
「いや、俺ばっかり狙うし、それに……機械じみてるというか――」
「はぁ? あんたを狙うのはあんたが狙いなんでしょうし、ISは機械でしょうが?」
 訝しげな様子を見せる一夏の鈴は呆れた様子を見せた。
一夏を狙うのは彼が狙いなのだから当然だし、ISは機械なのだから機械じみてるのは当然とも言える。
少なくとも鈴はそう思ったのだが――
「いや、鈴も攻撃してるのにあいつは思い出したかのように反撃するだけだし……
動きもなんというか……決められたことをやってるだけのように思えて」
 しかし、一夏としては別なことに疑問を感じていた。
自分は執拗なまでに追うのに、攻撃してくる鈴には反撃以外は見向きもしない。
それに攻撃したら避ける。攻撃も直線的とお決まりの行動しかしてこない
これがもし素人ならわからなくもないが、あのISの動きは妙にしっかりしている。
そのせいで一夏には謎のISが機械じみているように思えたのだ。
「なぁ、もしかして……あいつって、ロボットじゃないかな?」
「はぁ!? 何言ってんのよ!? ISは人じゃなきゃ動くわけないじゃない!?」
 ふと、そんなことを考えた一夏に鈴は思わず声を荒げて否定してしまった。
そう、ISは人が動かす物。それが常識故の鈴の反応であったが――
「でも、あいつ……妙に反応が薄すぎるし――」
 それでも一夏は自分の考えを否定出来なかった。
謎のISが現れてから一夏やIS学園関係者らの呼びかけはしているものの、反応らしい反応は返ってこない。
いや、反応していないというべきか。なにしろ、声を掛けられていること自体に反応しているように見えない。
意図的に無視してるかもしれないが、その辺りが一夏には妙に気になったのだ。
「それによ? もし、あいつが本当にロボットだとしても、それで勝てるっていうの?」
「ああ、やりようによってはだけどな」
 訝しげな鈴に対し、一夏はうなずきながら答える。
もし、これまでの考えがそうであれば、謎のISは誘いに乗ってくるはず。その為に一夏は管制室へと通信を繋げた。
『ふむ、出来なくもない。後始末が面倒だが、そちらはなんとかしよう。だが、準備に時間が掛かる。それまで保たせられるのか?』
「保たせなきゃダメだろ? とにかく頼んだ」
 千冬との通信を終え、一夏は改めて謎のISに顔を向ける。
謎のISは未だに自分を攻撃してくる。そちらは危うい所はあったが、なんとか回避したり受け止めたりている。
だが、そろそろエネルギーが心もと無くなってきた。
だからこそ、千冬達に頼んだ準備が早く終わることを祈って、一夏は改めて雪片を構える。
「行くぞ!」
 そして、そのまま飛び出す一夏。謎のISは待っていたとばかりにビームを乱射してきた。
一夏はその中をかいくぐり、斬りかかろうとするが――
「うおおおおぉぉぉぉ、ぐお!?」
 謎のISは避けたり防いだりはせずに殴ってきたのである。
それが予想外だった一夏はその拳を雪片で受け止める形になってしまった。
「なんのぉぉぉぉぉ!!?」
 それでも一夏は押し返そうとするが、謎のISの方がパワーがあってそれもままならない。
歯を食いしばるが、それでも状況は変わらず。逆に謎のISの拳の上に光が集まったのを見て、慌てて離れるはめになったが。
「くっ! あっちのエネルギーは底無しかよ!?」
 その後も回避や防御、時折攻撃を繰り返す一夏であったが、謎のISは堪えた様子は無い。
一夏の方はすでに息が上がりっぱなしなのに対し、あちらは動きによどみが無いのだ。
動きに無駄が無いとはいえ、普通の人なら一夏以上に消耗してまともに動けるかどうかという位に動いてるはずなのに。
これから考えると、あのISがロボットのという可能性がますます高まるのだが。
それに武器の方も相変わらずぶっ放してくる。白式のエネルギーは後数分保つか、という所まで追い込まれているのに。
かと思ったのだが――
「ん? あいつ、動きが――」
 謎のISの動きが目に見えて悪くなったことに一夏は気付いた。一夏は気付いてないが、謎のIS登場から十数分は経っている。
これが普通にしていれば問題無かっただろうが、あれだけバカスカと撃ちまくればエネルギーを使い尽くしてもおかしくはないだろう。
ただし、一夏の白式もエネルギーがギリギリであり、これ以上動き回るのは危険になるのだが。
そんな状態でも攻撃を続けようとする謎のIS。そのISが腕を向けたのを見て一夏は構えるのだが――
一条の青い閃光が謎のISを貫いていた。
「あ、セシリアか!」
「お待たせしましたわ、一夏様!」
 その光景に一瞬遅れて気付いて顔を向ける一夏。
その先にはISを纏ったセシリアが、ライフルを構えつつ笑顔で手を振っていたが――
「なんとか……間に合ったか……」
 その横では片膝を付くパワーダイザーの姿があった。むろん、パイロットは箒である。
さて、なんで2人がここにいるかというと――
一夏の提案で自分が囮になって謎のISを引きつけてる間にセシリアに来てもらい、攻撃してもらう為であった。
これは今までの動きを見て、自分を襲えとか単純な命令しか実行出来ないのではと一夏が考えた作戦である。
しかし、先程も言っていたが、アリーナへのゲートは謎のISによってロックされてる上に遮断シールドまで張られて中には入れない。
ゲートの方はセシリアのISでも破壊出来るが、エネルギー温存の為に箒が乗るパワーダイザーで行われることとなった。
ちなみにこの温存方法を考えたのは千冬だったりするが――
で、その間に鈴が遮断シールドをどうにかし、2人を招き入れる手はずになっていた。
もっとも、鈴が手こずったので箒が協力することとなり、パワーダイザーの欠点がまだ解決してないのもあってかなり消耗してしまったが。
 ともかく、なんとか中に入れたセシリアは一夏に気を取られていたISに攻撃したわけである。
「さっきは良くもやってくれたわね。これはお返しよ!」
「こちらも色々と好き勝手してくれた礼はしませんとね」
 龍砲を展開する鈴とライフルを構え、ブルーティアーズを全機展開するセシリア。
向ける先は当然謎のISであり――
「「でええぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」」
 衝撃砲からレーザー、ミサイルが次々と発射されて謎のISに突き刺さり、爆発を起こしていく。
一夏はその光景を離れた場所で見守っていた。エネルギーがほとんど無い為、動けなかったのもある。
だが、前回の戦いでとどめをと思ったら襲撃されたという経験があった為、油断が出来なかったのが大きかった。
一方、ようやく撃ち終えた鈴とセシリア。鈴はエネルギーが少なかったこともあって早く撃ち終わっていたが。
「やった、の?」
「たぶん……あれだけ撃ち込んだのですから、普通のISはひとたまりも無いはずですわ」
 自分達の攻撃によって発生した爆発の煙を眺めながら、問い掛ける鈴にセシリアは顔を向けながら答えた。
実際、鈴とセシリアの攻撃は普通ならば過剰とも言える。なので、普通なら倒したと考えても不思議ではなかったが――
「え!?」「な!?」
 ハイパーセンサーが謎のISの動きを検知したことに驚く2人。2人は一夏から謎のISはロボットではないかとは聞いてはいた。
しかし、ISは人が動かす物というのが頭にあったせいでもしかしたらという思いがあり、思わず威力を抑えて撃ってしまったのである。
「しま――」「く……」
更に間が悪いことに箒が消耗しすぎている為に即座に動くことが出来なかった。
セシリアがそのことに気付いた時にはすでに遅く、謎のISは攻撃態勢入ってしまっている。
しまった。鈴やセシリア、箒がそう思った時、動く者がいた。
「させるかぁ!!」
 一夏である。状況を見て飛び出していたのだ。
だが、それは誰の目が見ても間に合いそうには無い。距離がありすぎるのだ。
ダメか――管制室にいる千冬らも含めて誰もがそう思う。それでも一夏は諦めなかった。
「うおおぉぉぉおぉぉぉぉ!!」
 そんな一夏の想いを受けるかのように白式に変化が起こる。
左右のウイングバインダーが花が開くかのように展開し――
『リミット・ブレイク』
「おおぉぉぉおぉぉぉぉ!!」
 それだけではない。電子音――
いや、明らかに女性の声が響いたかと思うと零落白夜まで展開され、左右のウイングバインダーから光が吹き出し、一夏は文字通り光となった。
しかし、このことに一夏は気付かない。ただ、箒達を助けたいという想いだけで動いていたから。
「おおぉぉぉぉりゃ!!」
 そして、一夏は間に合った。すり抜けざまに謎のISを切り裂いたのだ。
謎のISの体は右の脇腹から左肩に掛けて割れるように離れていき、そのまま体ごと崩れ落ちるようにして倒れてしまうのだった。
「ふぅ、ふぅ……はぁ……」
 一方、地面に降り立った一夏は息を整えると共に白式が解除される。
今の一撃でエネルギーを全て使い切ってしまった為だ。
「「一夏!」」「一夏様!」
「はは……」
 駆け寄りながらも心配そうに声を掛ける箒、鈴、セシリア。
そんな彼女達に一夏は右手を振りながら、笑顔で向けるのだった。


「クラス対抗は中止かぁ〜」
 で、しばらくして一夏達はアリーナの管制室に集まっていた。
謎のISが倒されたことでロックされていたゲートは全て解除され、今のIS学園は平静を取り戻している。
ただ、今回の事で騒ぎが大きくなりすぎた為に、事後処理を理由に以降のクラス対抗戦は一回戦を除き中止が決まった。
一回戦だけをやるのは生徒の現在の状態を確かめる必要があったからである。
まぁ、それによって優勝賞品である食堂のデザートフリーパスが立ち消えとなったので、本音はそれを残念がっていたが。
「しかし、何度見ても凄いな」
「そうよねぇ」
 一方、モニターを見ていた箒の呟きに鈴が同意するようにうなずく。
見ているのは一夏が謎のISを倒した時の映像なのだが、それは代表候補生である鈴から見ても凄いとしか言いようがなかった。
一夏がやったことは実を言えば難しい事ではない。
ただ、あの時見せた加速はいかに白式が優れたISだからといっても、早々に出せる物ではなかったが。
「にしても、どうやったらこんなことが出来たの?」
「いや、俺もあの時は必死で……」
 試合が延期となった為、ISスーツのままのここに来ている簪の問い掛けに一夏は後頭部を掻きつつ、困った顔で答えていた。
言葉通り、一夏はあの時は必死だった。故に出せた馬鹿力的な物かもしれないが、それ故に何をどうしたかは一夏もわからないのである。
「ですが……あれは、なんなのでしょうか?」
 不意にセシリアが疑問の声を漏らす。なんのことかと言えば、白式が見せた変化の事だ。
白式があの加速を出した際、左右のウイングバインダーが変形とも言える展開をした。
これだけだとどうしたかと思われるが、ISに詳しい者から言わせるとありえないとも言える現象なのである。
専用機となったISは戦闘などによる経験を経て、新たな形態へと移行する。
それによって形状が変化して新たな機能を得たりするのだが、白式はまだ一次移行(ファーストシフト)の状態なのだ。
つまり、そのようなことが起こるのは考えにくいのである。
単一仕様能力(ワンオフアビリティー)と言われるIS特有の特殊能力の発現かとも思われたが、データ上を見る限りではそれも無い。
結局は白式に何が起きたのかわからずじまいなのである。
「そういえば……千冬姉や山田先生は?」
「ああ、2人は謎のISの解析だって。しばらくは戻らないそうよ」
 と、そこで一夏は千冬と真耶がいないことに気付いた。
そのことに衛理華が答えると、一夏はため息を吐きながら「そうですか」と返事を返す。
その時、待機状態の白式が鈍く輝いたのだが、そのことに一夏を含めて誰かが気付くことは無かった。


 一方、IS学園のある施設内に千冬と真耶、それに楯無がいた。
この施設は一部の教師など許可がある者しか使えない場所なのだが、なぜ3人がいるかといえばここで謎のISの解析を行う為である。
「で、なんでここに更識がいる?」
「私的に気になることがありましたので」
 しかし、いくら生徒会長だからといってここにいられるはずがない楯無に、千冬はジト目を向けていたりするが。
「織斑先生。解析結果が出ました」
「そうか。それで?」
「織斑君の指摘通り、これは無人機でした。ただ、中枢機能が破壊されているので、どのように動いていたかまではわかりませんが」
「そうでしたか――」
 千冬の問い掛けに報告する真耶の話を聞いて楯無は謎のISの残骸に顔を向ける。
無人機――早い話がロボットなのだが、出来るか否かと聞かれると大抵の者が首を横に振るだろう。
人工知能――AIに関しては難しいが造れなくも無い。だが、問題はISを起動出来るかどうかになる。
ISは基本的に人――女性にしか反応を示さない。反応を示さなければ、機械であろうとISを動かすことは出来ないのだ。
しかし、この謎のISはそれが出来ている。残念ながら、中枢機能が破壊された為にどのように動いたかまではわからないままだが。
「それと気になることが――」
「気になることとは?」
 そんな中、真耶が困惑した顔を向けてくることに千冬は訝しむが――
「その……ISのコアなのですけど……無登録の物なんです」
 戸惑いながらも告げる真耶だが、その言葉に千冬と楯無は目を見開いた。
現在、ISコアの数は467機となっている。なぜ、そんな数かと言えば、ISのコアを造れる者がその数しか造らなかった為だ。
その者もそれ以上は造らないと宣言しているし、コア自体ブラックボックス化してるので誰かが同じ物を造るといった事が出来ない。
なので、現状はその者が新たにコアを造らない限り、ISのコアは減ることはあっても増えることは無いのである。
 また、それ故に現在存在するISのコアは全て登録されている。
ある理由から居所が不明なコアはあるが、それ故に無登録のISコアは普通に考えればありえなかった。
だから、楯無は今回の事件はISコア製作者が関わっているのでは? と考えてしまう。
千冬も同じ考えだった。いや、ある意味違うとも言える。というのも――
(まさか、お前なのか? (たばね)――)
 親友であった者のことを考えていた。
なぜなら、その者は唯一のISコアの製作者でもあったからだ。
無登録のISコアに無人機のIS。それが造れる者といったら、千冬はその者しか思いつかない。
故に千冬はその者を怪しむのだった。


「あ〜はっはっは! 凄い! 凄いよいっくん!」
 一方、謎の場所でアリスの格好をした女性は喜んでいた。
見ているのはクラス対抗戦で起きた謎のISの襲撃事件の一部始終である。
その時、一夏が纏う白式があの機能を見せたのだが、女性はそのことに喜んでいた。
なにしろ、女性から見ても白式の変化はありえない。しかし、それ故に嬉しかったのだ。
自分でも想像しえなかった変化を見せたことに。
「うんうん、今回のことを起こしたかいがあったってものだよ」
 などと嬉しそうに言ってたりするが。
そう、今回の謎のIS襲撃事件を起こしたのはこの女性なのである。
ISコアを開発し、千冬の親友でもあり、箒の姉でもあるこの女性――篠ノ之 束(しのの たばね)
その彼女がなんでこんなことをしたかといえば――
「しっかし、いっくんがなんでISを使えるのかを調べようと思ったら、思いがけない物が見れたなぁ〜」
 そう、一夏がなぜISを使えるのかを調べようと起こしたのだ。
かといって、なんでこんなことをしなければならないのかが激しく理解不明だったりするが。
それはともかく、束としても一夏がなぜISを使えるのかはわからない。
束自身、ISのコアの全てがわかっているわけではないからだ。
だから、それを調べようとあの襲撃事件を起こしたのだが――結果は予想以上の物が得られた。
なにしろ、ISの新たな可能性を見られたのだ。束としても心躍らせる結果だったのである。
だから、気付かなかったのかもしれない。データ上でしか見なかったのもあるのかもしれない。
その変化が何によってもたらされたのか、束は知らなかったのだ。
それがどのような事態をもたらすのか……それはまだ、誰にもわからないことであった。


「すまないな。忙しい所を集まってもらって」
 所変わって、とある場所である者達が集まっていた。
楯無と話していた男性を中心に、その中には本郷や一也の姿もある。
「俺達に新しい後輩が出来るかもしれないんだろ? だったら、見てみたくもなるさ」
 と、両手に革の手袋をはめた青年が軽い口調で答えた。そのことに男性は苦笑しながらも、ある映像を再生させる。
『スリー――ツー――ワン――』
『変身!』
「へぇ、面白い変身の仕方だな」
「しかもこれ、ベルトによる物なんだろ? ある意味、羨ましくもあるな」
 それは一夏がフォーゼへと変身する時の物なのだが、その映像にある青年がそんなことを言うと、別の青年が苦笑混じりにそんなことを漏らした。
彼らは全員仮面ライダーと呼ばれる存在なのだが、彼らはある事情により一夏とは別のプロセスを経て変身する。
その理由は今は語ることは出来ないが、それ故に一夏が羨ましくあり、同時に良かったとも思えることであったりするが。
『ライダーロケットドリル宇宙キーック!!』
「おいおい、宇宙に行けるって、どんなバイクだよ?」
「にしても、一夏君は気概だけはありそうだな」
 戦闘に続き、宇宙でゾディアーツを倒した映像に別の青年が呆れる中、その隣に座っていた本郷は思わず苦笑する。
自分達もそうだが、戦いとはただやればいいというものではない。
時として何をしなければならないのか? それに立ち向かえるのか? そういったことも必要となってくる。
そういった意味では一夏は立ち向かうということは出来ているようだった。
ただ、それが良いこととは言えないので、本郷としては複雑な思いではあったが。
「ところでコズミックエナジーでしたか? 解析は出来たのですか?」
「サンプルの採取は出来たが、今の所これといったことはわかっていない。むしろ、良くこんな物が使えるなと解析班が驚いていたくらいだよ」
 一也の問い掛けに男性は肩をすくめながら答えた。
衛理華も言っていたが、コズミックエナジーはどこにでもあるエネルギーである。
前もってデータがあったこともあって、男性らの組織も採取は簡単に行えた。
しかし、解析しようとしても衛理華が一夏と出会う前と同じようにほとんどわからなかったのだ。
わかったのはあらゆる装置のエネルギー源になりえ、なおかつその性能を上げることが出来る。
しかも、物質化も可能。ただし、その力はあまりにも小さすぎるということだけだ。
「ではやはり、その一夏君になにかあるのでしょうか?」
「そうとも言えないだろう。ゾディアーツだったか? 奴らもコズミックエナジーを使ってるんだろう?
ならば、彼だけが要因というのは無理があるんじゃないかな?」
 指の部分が無い革製のドライバーグローブをはめる青年の意見に別の青年が反論する。
何がコズミックエナジーを活性化させているのか? それは衛理華もわかってはいない。
わかってるのは人の何かに反応しているという可能性があるとだけ。
そのことと効能以外は未だにわからずじまいのままなのだ。
「それはそれとして、これからどうするんだ?」
「何もしない訳にもいかないが、一夏君の存在が色々と騒がしくしてしまってね。我々はそちらの対処にあたらなければならない」
 ある青年の問い掛けに男性はため息混じりに答えた。
なにしろ、一夏は初の男性IS操縦者だ。それ故に色んな所から注目を集めている。
中には良からぬ所からも……彼らはそれらの対処に回らなければならなかった。
「しかし、今後のことも考えると彼らだけにというわけにもいかない。なので、結城君に解析班2名を連れて行ってもらう予定だ」
「結城をか?」
 男性の言葉に先程問い掛けた青年は驚いたような顔を向ける。なぜなら、結城と呼ばれた者とは親友とも言える仲だったのだから。
「結城君はすでに一線は退いたが、彼の知識と経験は彼らの助けになるだろう。だから、そんな顔をしないでくれ、沖君」
「……はい」
 男性はそのことを話しつつ、うつむいていた一也に声を掛ける。
一也としては一刻も早く一夏に会いたかった。会って話をし、確かめたかったのだ。
だが、今はその時では無いとわかっている為、気持ちを入れ替えていたが。
「諸君。今回はもしかしたら我々が今まで経験したことが無いことが起きるかもしれない。
だが、我々がやることは変わらない。この世界に住む人達の為にもな」
 男性の言葉に本郷や一也を含めた青年達が静かにうなずく。
青年達は誰かに知られることなく、世界に住む人達を守ってきた。
正確には知られていないのではなく、知られてはならないのだが……その理由はいずれ語ろう。
だからこそ、男性の言葉に青年達はうなずいたのだ。
それは今まで変わらぬことなのだから――


 別の場所。あの卵の形をしたイスに座る男性の元に、あのサソリの顔を持つゾディアーツがひざまずいていた。
「そうか……彼のISに兆候が現れたか……」
 そんなことをつぶやきながら、男性は嬉しそうな顔をする。彼のISといえば1つしかない。一夏の白式のことだ。
そのことでなぜ男性が嬉しそうにするのか?
それは――
「かの魔女に横やりを入れられた時はどうなるかと思ったが、思った以上に上手く行っているようだな」
 嬉しそうな顔を崩さずにつぶやく男性。
かの魔女とは束のことだ。彼らは束が白式に何かをしたのは気付いている。
しかし、それを黙っていたのは自分達の存在を出来る限り気取られない為であった。
まぁ、白式の完成に一役買ってもいたので、今回のことで束にはある意味感謝もしてたりする。
「織斑 一夏……君が我らの福音となるのか、それとも否か……楽しみだよ」
 立ち上がり、瞳を紅く輝かせながら男性は呟く。
一夏がフォーゼに変身出来るだけならば、男性もここまで注目することは無かった。
しかし、一夏がISも動かせると知って、男性にとっては一夏は要注意人物となった。
危険という意味では無い。ある特別な意味があってのことだ。
フォーゼとなり、ISも動かせる。それが男性にとっては大事なことなのだ。
そして、今回白式にその兆候が現れた。
これからどうなるのか――それが男性の楽しみとなっていく。


 こうして運命は走り続ける。本人達の知らない中で。
それがどんなことを起こすのか……今はまだ、誰にもわからなかった。



 あとがき
そんなわけで、今回はIS側のお話。そして、白式に何かしらの変化が現れてます。
それはなんなのか? そして、謎の人物達の目的は? まぁ、それが明かされるのはかなり後になりますけどね。

次回は一夏達の元に新たな転校生が現れます。一夏の他にもいた男性IS操縦者に軍人娘。
その軍人娘が原因で新たな騒動が。果たして、一夏はどうなってしまうのか?
というわけで、次回にまたお会いしましょう。



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