「マッシグラーに乗れるんですか!?」
 あのクラス対抗戦から数日後。仮面ライダー部の部室で一夏はそれを聞いて喜んでいたりする。
それはもう立ち上がって思わず叫んじゃうくらいに。
「正確には免許を取得する教習を特別に受けられるってことだけどね」
 それに対し、楯無は広げた扇子で口元を隠しながら答えていたが。ちなみにその扇子にはなぜか免許と達筆で書かれていたりする。
「しかし、良く許可がもらえたものだな?」
「餌が良かったですから」
「そうか」
 笑顔で答える楯無の言葉に問い掛けた千冬は呆れた顔をした。
餌とは一夏のことだ。一夏という存在は各国、特にIS関係には重要な存在とも言える。
なにしろ、初の男性IS操縦者だ。研究対象といった意味も含めて喉から手が出るほど欲しい存在なのだ。
そんな彼らに楯無はこんな風に打診したのである。
「織斑君がバイクの免許を取りたがってる。原付では無く大型の方で」と――
 それにいち早く反応したのが日本政府であり、正規の教習を受けることを条件にOKを出したのだった。
まぁ、日本政府としてはISでの条約の時に失態をやらかしただけに、これ以上の損失を避けたかったのだ。
ただ、手続きや準備で教習を受けれるのは数日後であったが。で、今の会話で千冬はそのことを察した為に呆れていたのである。
「しかし、なぜ免許を取らせようと思ったんですか?」
「今、ゾディアーツの対処が出来るのは織斑君のみ。ISは未だに使えません。
それに今まではIS学園近辺で起きていましたが、今後もそうなるとは限りませんから。
ですので、いち早く現場に行く方法はあった方が良いと思ったのです」
 真耶の問い掛けに楯無は真剣な顔で答えた。
現在も対ゾディアーツ用にISが使用出来るようにしようとはしてるが、交渉は難航している。
ゾディアーツの扱いをどうするかが一番の理由だが、それに付随してコズミックエナジーの存在も難航の原因になっている。
なにしろ、コズミックエナジーの有用性に気付かれれば、争奪戦が起きるのは目に見えていた。
そして、今コズミックエナジーを自由に扱えるのはゾディアーツであるのは衛理華としても認めるしかない。
それを考えるとゾディアーツが狙われることになるだろう。コズミックエナジーの活性化方法を知る為に――
そうなるとゾディアーツにそそのかされてゾディアーツとなった者も危険になる可能性がある。
それは出来る限り避けなければならないが、それが元で交渉が難航していたのだった。
「なにこれ、かわいい〜」
 そんな真剣な雰囲気とは別に、箒、鈴、セシリア、簪、本音がいる所は和やかな雰囲気に包まれていた。
というのも、思わず声を漏らした鈴を含めてある物に見入っていたからである。
それは一見するとカップに入ったフライドポテトをひっくり返したような姿をしている。
で、左右にはハサミのような手があり、カップの所にはメカっぽい目もある。
ポテチョキン。先日、調整を終えたシザースイッチを元に作られたロボットだ。
ちなみにシザースイッチは左腕に大きなハサミを装着し、あらゆる物を切断するという能力があった。
こう聞くと戦闘にも使えそうに思えるが、その為にはハサミと同じような使い方をしなければならない。
なので、戦闘ではあまり使い勝手が良くないと判断され――ポテチョキンの製作が決まったのである。
なお、ポテチョキンを造ったのは簪だったりする。まぁ、技術面が足りなかったので、本音の手も借りたが。
簪、前回のバガミールで思う所があったらしく、自分でも造ってみたくなったらしい。
「平和なものねぇ〜。ま、その方がいいんだけど」
 で、その光景を衛理華はイスに座りつつ眺めていた。ちなみに衛理華は今現在、新たなスイッチの調整中である。
実はシザースイッチの前にやっていたスイッチがあるのだが、その調整がまだ終わっていなかったのだ。
そんな時であった。
「ん? なに?」
 何かに気付いてカプセルに顔を向ける衛理華。
カプセルの中では調整中のスイッチが火花のように電気を幾度となく発していた。
更にモニターにはスイッチのエネルギー値が高すぎることを示していたりする。
「何かあったんですの?」
「このスイッチ……エレキスイッチって言うんだけど……これ、とんでもないパワーよ」
「とんでもないとはどれ程なのですか?」
「そうね……どんな物が出るかによるけど、使えばIS以上のパワーは出せるかもしれないわ」
「うそぉ!?」
 セシリアの問い掛けに衛理華は真剣な顔で答え、箒の問い掛けにも同じように答えると鈴が驚いていた。
ISはその武装や機動性でかすみがちになるが、そのパワーは決して弱くは無い。
まぁ、人以上の大きさの武装を振り回せるのだから、当然とも言えるが。
そのIS以上のパワーを出せるエレキスイッチ。まだ調整は終わっていない為、試すことは出来ないが――
そのスイッチにある者は期待を、ある者は不安を感じるのだった。


 その頃、ある一室でフェンシングに打ち込む男性の姿があった。
男性の名は松尾 孝(まつお たかし)。彼は真剣な顔でフェンシングに明け暮れていたのだが――
「くそぉ!」
 突然、叫んだかと思うとフェンシングの剣を投げ捨ててしまう。
理由はやるせなさだった。このままフェンシングを続けていく事への……
孝は小学生の頃に興味からフェンシングを始めた。そして、見事にその才能を開花させる。
苦悩もあったが実力を高め、高校生になった頃にはメダルも狙えるのではないかと噂されるまでになっていた。
むろん、孝も本気でメダルを狙い鍛錬を続けていった。しかし、そんな彼に不幸が襲う。
ISの発表。それによる女尊男卑の到来。これだけならばまだ良かった。
しかし、それはスポーツ界にも波及し、女性選手への優遇へと繋がり――
孝のオリンピック出場の話は立ち消えとなってしまう。
 この話を聞いた時、孝は理解出来なかった。女性を優先させたいというのはまだいい。
それでなぜ自分のオリンピック出場の話が無かったことになるのかわからない。
しかも、そのせいで自分を応援してくれていた者達が離れていってしまう。彼の両親さえも……
この時、孝は何も出来なかった。いや、何をすれば良かったのかわからなかったのだ。
かといって今まで続けてきただけにフェンシングを捨てることも出来ず、ただやるせなさだけが募る。
そんな時であった。
「ん? あ、え?」
 人の気配に気付いた孝が振り向くと、そこにはサソリの姿をしたゾディアーツの姿があった。
そのことに孝は思わずたじろいでしまう。
「な、なんだ、お前は――」
「ISが憎いのだろう? ならば、力を与えよう」
 戸惑う孝にサソリのゾディアーツは何かを投げ渡す。
孝は思わず受け取ってしまい、見てしまう。手の中にあったのは使う者をゾディアーツへと変えてしまうスイッチであった。
「さぁ、星に願いを――」
 胸に右手を当てながら頭を下げるサソリのゾディアーツ。その言葉に孝は戸惑いながらもスイッチを押した。
すると彼の体は星座の輝きと共に黒い何かに包まれたかと思うと、その姿を一変させる。
一言で言えば人の形をした黒いユニコーンと言えばいいだろうか? そのような姿に変わったのだ。
その姿を触ったりしつつ見回してから、孝はすぐに元の姿へと戻る。
それからスイッチを見つめ――笑みを浮かべた。狂気に歪んだ笑みを。
感じたのだ。あの姿になった時にあふれるような力を。
「は、はは……これなら……これなら、ISに――ははははは!」
 狂気の笑みを浮かべる孝。その様子をサソリのゾディアーツは静かに見守るのだった。


 次の日の朝。SHR(ショートホームルーム)の時間。それは突然やってきた。
「ええと、今日は転校生を紹介します。それも2人もです」
 真耶の言葉にクラスが騒がしくなる。
一度に2人も来るのもそうだが、時期的に微妙であるというのもある。
まぁ、一番の理由はどんな転校生が来るか気になるといった所であろうが。
「では、入ってきてください」
 そんな中、真耶の呼びかけでその2人が入ってくる。
1人は小柄な少女であった。身長は鈴ほど。IS学園の制服を着ていて、下はゆったりとしたズボンをはいている。
腰まで伸びる銀色に輝く髪に幼くも整った顔立ち。しかし、左目にはなぜか眼帯をしており、その表情もどこか険しい。
もう1人は一夏とほぼ同じ制服を着ている。当然、下もズボンだ。
身長はセシリアと同じくらいでスラリとした体型をしており、背中まで伸びるブロンドの髪を一束ねにしている。
顔立ちは可愛らしく整った物なのだが、それ以前にあることに気付いたクラスメート達が息を呑む。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。みなさん、よろしくお願いします」
「お、男?」
 まず、ブロンドの髪の者――シャルルが自己紹介をするが、その姿にクラスの1人が思わず声を漏らす。
確かにシャルルは見ようによっては男の子に見えなくもない。その事実にクラスメート達が騒がしくなる。
「はい、ここにボクと同じ境遇の人がいると聞いて本国から転入を――」
『きゃああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?』
「は、はい?」
 その疑問に答えるように自己紹介をするシャルルであったが、クラスメート達の叫びに思わず引いてしまう。
まぁ、まさか2人目の男子が現れるとは思わなかっただけに、喜んでいたりする。主に恋愛的な意味で――
「落ち着かんか馬鹿者共。ラウラ、自己紹介をしろ」
「はい、教官」
「教官ではない。ここでは織斑先生と呼べ」
 そんなクラスメートを千冬が一喝すると、ラウラと呼んだ銀髪の少女に声を掛け――
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「あ、えと……それだけですか?」
「ああ」
 あまりにも簡潔すぎる自己紹介に問い掛けた真耶だけでなく、先程まで騒がしかったクラスメート達も呆然としてしまう。
一方、ラウラは同じく呆然としている一夏を見つけると近付いていき――
「あ――」
 その頬を平手で打った。その突然のことに一夏やクラスメート達が静まりかえる。
「認めない。お前が教官の弟などと……絶対に認めない!」
 一夏を睨みながら言い放つラウラ。
そのことに一夏や真耶、クラスメート達も何も言えずにただ見ているしかなかった。
ただ1人、静かに見守っている千冬を除いて――


 が、騒ぎはこれだけでは終わらなかった。
「引っ越し……ですか?」
「はい、今日中に用意が終わるので、篠ノ之さんに引っ越ししてもらいます」
 SHR(ショートホームルーム)が終わった後、箒は真耶にそのことを告げられていた。そのことに箒は戸惑いを見せる。
箒としては一夏と一緒のままでいたかったのだから。
「あの、それはすぐに……ですか?」
「正確には放課後になりますね。男女が同じ部屋でというのは問題がありますし。
まぁ、織斑君とデュノア君を一緒の部屋にするというのもありますね」
 戸惑いがちに問い掛ける箒に真耶はあっさりと答える。
問題があるというのはわからなくもない。実際、一夏と箒が同室だったのは部屋が用意出来なかった為の緊急の措置のような物だった。
また、シャルルと同室にするというのもわからなくない。男同士なら、何かと都合がいいのも事実であったのだから。
それでも箒には躊躇われる。一夏と離れることに――
「一夏は……それでいいのか?」
「いいというか……俺がどうこう言える立場じゃ無いしな」
 不安げに問い掛ける箒に、一夏は困ったように後頭部を掻いていた。
一夏としては別に箒と同室でも構わない。気心が知れる仲というのもあるが、別に不都合があるわけでもない。
しかし、いくら問題を起こす気が無いと言っても、一夏が言ったからといって解決する問題でも無い。
結局は言うとおりにするしかなかったのだ。そのことに箒は何かを考えるのだった。


「そりゃ大変だったわねぇ〜」
 で、放課後。仮面ライダー部の部室で一夏は今日のことを話し、それを聞いていた衛理華は思わずそう返してしまう。
ちなみに千冬と真耶は仕事で、楯無と虚は生徒会の仕事でここにはいない。
あの後は大変だった。正気に戻ったクラスメート達や他のクラスの者達がシャルルを追いかけ回してきたのだ。
入学当時に同じような経験を持っていた一夏は、そんな者達から守る為にシャルルと走り回るはめになった。
なお、その時なぜかシャルルが顔を赤らめていたりする。一夏はまったく気付いてなかったが。
 で、ISの実習の時は別の意味で大変だった。
ISを装着した真耶が突っ込んできてもみくちゃになり、その時になぜか彼女の胸をわしづかみにしたり――
それに怒ったセシリアと鈴が攻撃してきたり――それは真耶のおかげで助かったが。
で、セシリアと鈴、真耶との模擬戦は真耶の圧勝だったり、その後の実習で箒をお姫様抱っこすることになったり――
それらの前の着替えでシャルルがなぜか顔を合わせなかったのは不思議だったが。
 まぁ、それらのことはかいつまんで話した。全てを話さなかったのは、話すには別の意味で問題があったのもあるが。
その後にここに来る途中で路地で話していた千冬とラウラの会話を見かけ、そこで一夏は朝のラウラの言葉の意味を知った。
以前、誘拐された際、千冬はモンド・グロッソを棄権してまで一夏を助けにいった。
ラウラはそれを怒っていたのだ。それが無ければ、千冬は優勝していたのにと――
それと共に千冬がIS学園の教員をやってることも気に喰わないらしい。
どうやら、千冬はここに収まるような者ではないとラウラは考えているのだ。
「そっか、それで仮面ライダーになるって思うようになった訳ね」
 で、話を聞いていた鈴はそのことに思い当たる。
自分が誘拐された際に仮面ライダーに助けられたのを一夏は話したのである。
流石に一也のことは話さなかったが、その人のおかげで仮面ライダーを目指そうとしたことも話したのだ。
「一夏様も大変だったんですわねぇ」
「けど、なんて言うか……織斑君は考えすぎよね。ラウラって子は勘違いしてるけど」
「どういう……ことですか?」
 思わず感心するセシリアだが、話を聞いていた衛理華はため息混じりにそんなことを漏らした。
そのことに一夏は首を傾げるが――
「だいたい、誘拐されたのは織斑君の責任じゃないでしょ? 誘拐されるのがわかってた訳じゃないんだし。
そして、千冬にとって織斑君を助けに行ったのは、モンド・グロッソよりも大事だったからでしょうしね。
変に悩むよりは弟想いのお姉さんに感謝した方がいいんじゃない?」
 と、すました顔で語る衛理華。
確かに誘拐されたのは一夏の責任では無い。むしろ、一方的な被害者と言ってもいい。
その後、千冬が来たのは誘拐された一夏に要因があるのが否定出来ないが、モンド・グロッソよりも一夏を助けることを選んだのは千冬の意志だ。
そういった意味でも一夏が悪いというのは流石に無理がある。
 余談だが、衛理華は千冬の名前を言い合えるほどの仲になっていたりする。何かと気があったらしいのだが、その辺りは機会があったら語ろう。
「でぇ、ラウラちゃんの勘違いってなんですかぁ〜?」
「まぁ、極端な話になるけどね。千冬は織斑君の誘拐のことを教えたドイツにお礼として教官として行ったんでしょ?
それが無かったらラウラって子は千冬と出会うことも無かったんだしね。感謝しろとは言わないけど、織斑君を恨むのは筋違いよ」
「そうかもしれませんが……」
 本音の問い掛けに衛理華は肩をすくめながら答え、そのことに箒は顔をしかめる。
まぁ、衛理華の話は極端なものだが、そういった経緯であるのは間違い無い。
その時にラウラと千冬との間に何があったかはわからないが、そのことで千冬のことを尊敬しているのだろう。
その尊敬している者のモンド・グロッソ優勝を逃した原因が一夏にあり、それを恨んでいるのかもしれないが――
同時に千冬との出会いの原因となったのも一夏だ。そういった意味では複雑であるのだが。
「にしても、あなた達って平和ねぇ……」
「どういう、ことですか?」
 そんな中、衛理華のため息に簪は首を傾げる。それは一夏達も一緒であったが。
「あのね、都合が良すぎると思わない? モンド・グロッソ決勝間近に織斑君の誘拐。
しかも、それを先に知ったのが日本じゃなくてドイツ。出来過ぎって考えるのは私だけかしらね?」
「あ……」
 衛理華の言葉に一夏だけでなく、箒達もはっとしていた。
確かに言われてみればおかしなことだった。第2回モンド・グロッソ決勝間近の一夏の誘拐。
その際、会場が海外であったのを含めても、そのことをいち早く知ったのが日本では無くドイツ。
偶然と言えばそれまでかもしれないが、少々出来過ぎてる気がしないこともない。
「じゃあ、一夏様の誘拐はドイツの企みということですか?」
「まるっきり的外れな話って可能性もあるけどね。でも、偶然で片付けていいものかも首を傾げるところだけど。
ま、ここで話したからってわかるわけじゃないけどね」
 問い掛けるセシリアに衛理華は肩をすくめながら答えた。
確かにここにいては調べようが無い。かといって、偶然で済ませていいものかは首を傾げる所だが。
なので、話し合ってもらちがあかないと衛理華は話題を変えることにした。
「それはいずれ考えるとして、織斑君は明日は出掛けるのよね?」
「はい、荷物を取りに家にですけど」
 衛理華の問い掛けに一夏はあっさりと答える。
学園生活がようやく落ち着いてきたのもあり、一夏は私物を取りに外出許可をもらって取りに行くことにしていた。
まぁ、家の掃除をしに行くというのもあるのだが。
ちなみに箒、鈴、セシリアはこのことに悔やんでいたりする。知っていたら、付いて行く気でいたのだ。
なお、本音はバガミールを付けさせようとしていたが、それは衛理華に気付かれて止められていたりする。
簪と本音も似たようなことを考えていたりするが。
「じゃあ、その前に一度こっちに寄ってくれるかしら? 明日にはエレキスイッチの調整が終わると思うから、それを渡しておきたいのよ」
「どんなスイッチなのか、確かめなくていいんですか?」
「そうした方がいいのはわかってるんだけどね。でも、何があるかわからないもの。だから、念の為に渡しておこうと思ったの」
 話を聞いてそう思った簪であったが、話していた衛理華はため息混じりに答えた。
ぶっつけ本番というのは衛理華としても避けたい。しかし、前回一度だけ姿を見せたサソリのゾディアーツのこともある。
もしものことを考えると出来るだけ戦力になりそうな物を持たせたいと考えたのだ。
「わかりました。あ、すいません。ちょっとトイレに行ってきます」
「はいはい」
 そのことにうなずいてから、断りを入れて部室を出る一夏。衛理華は返事をしつつ、それを見送っていたが――
「で、ラウラって子のこと、なんとかしなさいよ? これは織斑君の問題じゃなく、あなたの問題なんだからね」
「え? あ、織斑先生――」
 衛理華のいきなりの言葉に戸惑う簪だったが、物陰に隠れるようにして立っていた千冬のことに気付いて軽く驚いてしまう。
そのことは箒達も驚いていたりするが――ちなみに仕事を終えてやってきた千冬だが、一夏の誘拐の話を聞いて思わず隠れてしまったのである。
衛理華は気付きながらも知らぬ振りをしていたのだが。
「だが――」
「あなたとラウラって子に何があったかは知らない。でも、織斑君は巻き込まれた側よ。
なのに、織斑君に丸投げするつもりなの? 問題が起きる前になんとかした方がいいわ」
 反論しようとした千冬だが、衛理華の言葉にそれ以上のことが言えなくなった。
ラウラを鍛え、その課程で自分を尊敬するようになったのは千冬もわかってはいる。
それが元でラウラが一夏を恨んでるのも気付いている。しかし、言って聞くようにも思えなかった。
路地で話していた時、ラウラの思い上がりを指摘したが、ラウラは聞いた様子も無かったのだし。
「わかった。ラウラとは機会を見て一度話し合っておこう」
 結局、自分の非を認めた千冬はラウラの様子を見つつ、必要があればそうしようと考えた。
その考えが後日後悔することになるとは知らずに――


 次の日――
「お前以外は全員女子か。いい思いしてんだろうなぁ〜」
「してねぇっての」
 ゲームをしつつ隣の少年と話す一夏。この少年の名は五反田 弾(ごたんだ だん)
赤色が強い紫の長い髪に太めのバンダナを巻いており、顔立ちはそれなりにといった所だろうか。
彼は一夏のいわゆる悪友であり、中学からの付き合いである。なお、この場所は弾の部屋であり、彼の家は食堂を営んでたりするが。
 で、ゲームをしつつ他愛のない話をする2人。
弾は一夏のIS学園入学を羨ましがっていたが、一夏としてはそうでもない。
なにしろ、今でこそ大人しくなってるが、入学当時は動物園のパンダの如く見せ物状態だったのだ。
それに周りが女生徒のみなので、それなりに気を使う。おかげでつい最近までは気苦労が絶えなかった。
「お兄、お昼出来たよ。さっさと来なさ――」
 そんな時、ドアを蹴って開ける少女の姿があった。
弾と同じ色と長さ髪のを結い上げ、これまた弾と同じく太めのバンダナを巻いている。
小柄な体型に幼くも可愛く整った顔立ち。ラフな格好でお腹をさらし、ショートパンツのボタンを外してるせいでショーツが少し見えてたりするが。
彼女は五反田 蘭(ごたんだ らん)。弾の妹である。
「って、一夏さん!?」
「久しぶり。お邪魔してるよ」
 その蘭が一夏の姿を見て慌てだし、その彼女に一夏は右手を挙げる。
が、蘭は自分の格好を見て慌てて隠れ、ショートパンツのボタンを掛け直していたが。
「あ、あの……来てたんですか?」
「うん、荷物を取りにと様子を見に家にね。そのついでに寄ってみた」
「そ、そうですか――」
 で、恐る恐る顔を出す蘭に一夏は笑顔で答える。そのことに蘭は顔を赤らめていたが――
「なぁ、蘭。ノックくらいはしろよ。恥知らずなおん――」
「む!」
「う――」
 で、いきなり入ってきた蘭をたしなめようとする弾であったが、蘭の睨みに青くなっていた。
実は彼、妹に頭が上がらなかったりする。その後、一夏もお昼を同伴し、食堂の方で食べることになったのだが――
ちなみにこの時、蘭は服を着替えて髪を下ろしていたのだが、一夏にどこかに出掛けるのかと聞かれて苦笑してたりする。
「そういやさ、お前って今でも仮面ライダーになるとか言ってんのか?」
「ああ、それか? あ〜、なんて言えばいいのかな?」
 そんな中、弾の言葉に一夏は思わず困ってしまう。
まさか、本当に仮面ライダーになりましたとは言えない。なまじ、言いふらすなと言明されてるだけに。
「あ、あの、一夏さん。私、IS学園に入学しようと思ってます!」
「え? あ、そう、なんだ? でも、適正は大丈夫なのかい?」
 そんな時、蘭がそんなことを言い出した為に一夏は戸惑う。
IS学園は学業が優秀なだけでなく、ISに乗れるということが条件になる。
ISは女性のみに反応するが、中には反応すらしない女性もいる。一夏としてはその辺りが心配だったのだが。
「だ、大丈夫です! この前、簡易適正試験を受けて、A判定もらえました!」
「A? そいつは凄いな」
 どこか慌てた様子で答える蘭に、一夏は素直に感心していた。実はISの適正を調べる試験は女性であれば簡単に受けることが出来る。
で、A判定というのは代表候補生クラスの適正があると言ってもいい。ただし、適正があるのと本当になるのとでは別の意味であるが。
それでもA判定というのは凄いので、一夏としては感心していたのである。その後も一夏達は楽しそうに会話をしていた。
その様子を孝ともう1人が見ているとも気付かずに。


 昼食も終わり、途中まで一緒に歩こうということになり、公園を歩く一夏達。
「そっか、鈴の奴もIS学園にいるのか。となると、お前も相変わらずなんだろうな」
「は?」
 その時の会話で弾は悪友仲間の鈴がIS学園にいることを知って呆れており、一夏はそのことに首を傾げていたが。
一方、それを聞いていた蘭は危機感を募らせていた。すでにお気付きの方もいるだろうが、蘭は一夏に惚れている。
そして、鈴も一夏に恋心を抱いているのも知っている。それでお互いにライバル宣言をしてたりするのだが――
話を聞いてると鈴がIS学園にいるだけでなく、一夏に恋心を抱いてる女性がいるらしいこともわかった。
それにより、自分が位置的に遅れてることもわかって焦っていたのだ。そのことにどうしようかと蘭が悩んでいた時である。
「ううぅぅぅぅぅぅ……」
「へ? なんだありゃ?」
「え? ええ!?」
「あいつは!?」
 一夏達の前に現れたユニコーン姿のゾディアーツに弾は戸惑い、気付いた蘭は驚いてしまう。
一方ですぐさま真剣な顔になり――
「わりぃ! これを持っててくれ!」
「おわ!?」
 弾に持っていた荷物を押し付け、すぐさまフォーゼドライバーを装着し――
『スリー――ツー――ワン――』
「変身!」
「なんだぁ!?」「きゃあ!?」
 すぐさまフォーゼへと変身する。その時の衝撃で弾と蘭は思わず顔を背けてしまうが――
「な、なんだそれは!?」
「仮面ライダーフォーゼだ!」
「い、一夏、さん?」
「一夏……仮面ライダーって――」
 驚くゾディアーツに一夏は握りしめた右手を伸ばしつつ答える。そのことに蘭は呆然とするが、弾は戸惑いの色を見せていた。
一夏が仮面ライダーになろうとしていたのは知っている。でも、本当になってしまうとは思わなかった。
というか、あれはISじゃないのか? などと考えつつ、混乱してたりもするが。
「ISが使えるだけじゃなく、仮面ライダーだと? ふざけやがって!」
「おお!」
 どこか悔しそうにしていたゾディアーツが襲いかかり、一夏も対抗すべく駆け出す。
「うおぉぉ!」
「くっ。おりゃ!」
「おおぉぉ!」
「てりゃあ!」
 で、そのままつかみ合いになるが、一夏はなんとかふりほどいて殴り返す。
しかし、ゾディアーツは怯まず襲いかかり、一夏も蹴るなどして戦うが――
「ああぁ!」
「おわ!?」
「一夏!?」「一夏さん!?」
 いつの間にかゾディアーツの手に握られていた細身の剣に火花を上げながら斬り飛ばされる。
その光景に弾と蘭は思わず叫んでしまった。状況は理解出来ないが、一夏が危ないと感じた為である。
「くっそ、こいつ強い! なら!」
 倒れながらもすぐに身を起こし、アストロスイッチを取り出す一夏。
そのスイッチはここに来る前に衛理華に渡された半透明の黄色いスイッチ、エレキスイッチであった。
今の所、ユニコーンのゾディアーツのような武器を使えるスイッチが無い。
それで戦えないわけではないが、あのゾディアーツと戦うには難しい。
それだけあのゾディアーツが強いかったということなのだが、それ故に新しいスイッチに賭けたのである。
『エレキ』
 そのエレキスイッチをロケットスイッチと交換し――
『エレキ・オン』
 エレキスイッチを入れると右腕に電撃が走り、右手に剣の形をした黄色いロッドが握られる。
「これ、剣か? なら、ちょうどいいや!」
 そのロッドを見てから一夏は構える。ゾディアーツもそれを見て剣を構え――
「おりゃ!」
「ぐおぉ!」
 互いの武器で打ち合い、火花を散らす。
「くぅ……ん、これは?」
 そして、ゾディアーツの剣を受け止めた一夏は、ロッドに繋がれたコードとプラグに気付いた。
それに柄には左、真ん中、右と何かを差し込めるようになっているように見える。
「こうか?」
 それを見て、一夏はプラグを柄の左側の差し込み口に刺し――
「ぐわぁ!?」「おわぁ!?」
 その途端にゾディアーツが持つ剣に電撃が伝わるが、一夏にも伝わってしまう。
「な、なんだこれ?」
「がぁ!」
「うわっと! うおぉ!?」
「があぁぁ!?」
 そのことに戸惑う一夏。再び襲いかかるゾディアーツの剣をロッドで再び打ち払うが、またも電撃がゾディアーツと一夏に伝わっていた。
「く! あつぅ!?」「ぐわぁ!?」
 その後も打ち合うのだが、そのたびに電撃が一夏とゾディアーツに伝わってしまい、そのたびに一夏とゾディアーツは怯んでしまう。
「く、うう……うぅぅ……」
 それが堪えたのだろう。ゾディアーツはふらつきながらどこかに行ってしまう。
「く、つ〜……このスイッチ、ちょっと凄すぎるな」
 一夏としてはそれを追いかけたかったが、雷撃のダメージでへたり込んでいた。
その上でロッドとスイッチを見てそう思ってしまう。とんでもないパワーがあるとは聞いていたが、まさかこうなるとは思ってもいなかった。
このことに一夏は自分はまだこのスイッチを扱い切れてないのではと考えてしまう。
「お、おい、一夏……大丈夫、なのか? それにその格好って……」
「ん? ああ、大丈夫だ。それとこのことは内緒にしてもらうと助かるんだけど」
 そんな中、恐る恐る問い掛ける弾に一夏は立ち上がりながら答えていた。
その後、一夏は秘密にする所を秘密にしてフォーゼになった経緯を話すことになったのだが――
「い、一夏さん……更に格好良くなったかも」
 蘭は完全に恋する乙女な顔で一夏を見つめていた。どうやら、一夏の戦っている姿を見て、更に惚れてしまったらしい。
「なんだ、あれは……あれは……なんなんだ?」
 一方、その光景を物陰に隠れながらラウラが見つめていた。
実は彼女、一夏をずっと付けていたのである。なぜかと言えば、一夏より自分の方が優れてると千冬に知らしめる為だった。
そうすれば、千冬は自分だけを見てくれると思ったから――しかし、結果は焦燥感を生むこととなった。
フォーゼのことはわからないが、何かがISと違うというのはわかった。それがラウラに焦燥感を抱かせたのである。
このままでは……弾と蘭に話す一夏の姿を見て、ラウラは暗い物を心に募らせていた。


「ん〜、やっぱ見てもらった方がいいかな?」
 IS学園に戻り、エレキスイッチを見つめながら一夏は歩いていた。
その時に考えていたのは、エレキスイッチのコントロールの難しさだった。
自分が未熟だと思うのだが、他の人の意見も聞いた方がいいと思ったのである。
なので、スイッチを懐にしまい、荷物を置きに自分の部屋へと向かう。
衛理華の所に行くのに荷物が邪魔だったからだ。
「おわっと」「きゃ!」
 で、ドアを開けようとした所で昨日から同室となったシャルルとぶつかりそうになる。
幸いに2人とも寸前で立ち止まったおかげで、そうならずに済んだが。
「悪い。ノックするんだったな」
「ああ、大丈夫だよ。ケガをしたわけじゃないし」
 謝る一夏にシャルルは顔を少し赤らめつつも両手を軽く振りつつ答えた。
が、この時一夏は違和感を感じたが、それが何かわからずに首を傾げるだけですぐに忘れてしまう。
「本当に悪い。今、急いでるから、後でなんかおごるよ」
「別にいいのに」
「そうもいかないって。じゃあ、後で」
 部屋に入って荷物を置きつつそんなことを言う一夏は、シャルルの返事を聞いて苦笑しながら去っていった。
ちなみにだが、昨日のIS講習の着替えの際に2人は名前で呼び合うようになっていたりする。
それはそれとして、去っていく一夏を見送るシャルル。
「ん? なんだろ、これ?」
 その時に廊下に何か落ちているのに気付いて拾い上げる。それは一夏が持っているはずのエレキスイッチであった。


「なるほどね。パワーがあるのはわかっていたけど、織斑君でも制御出来ない程とはね」
 しばらくして、一夏は仮面ライダー部の部室に来ており、これまでの経緯を話していた。
なお、部室にいるのは衛理華のみであり、他の者達は休日を思い思いに過ごしている。
「とりあえず、調整を含めて調べてみるから、スイッチをお願い」
「はい」
 で、衛理華に言われてスイッチを取り出そうとする一夏。が、その時に固まってしまう。
衛理華はその様子に首を傾げるが、一夏は慌てた様子で懐に入ってる物を全て出した。
財布に学生証にいくつかのアストロスイッチ。フォーゼドライバーを入れている小さなバッグからもフォーゼドライバーと残りのスイッチを出した。
ただし、エレキスイッチだけは無かったが――
「織斑君?」
 このことに何があったか気付いた衛理華に問い掛けられるが、一夏は冷や汗をだらだらと流すだけであった。
それでも出した物を全て懐やバッグにしまい――
「探してきます〜!?」
 慌てた様子で外へと出たのだった。
「まったく、最近油断のしすぎよ」
 そのことに衛理華は呆れ果てていたが。それでも自分の仕事に戻ろうとモニターに向き直し――
「星野先生! 大変です!」
「はい?」
 慌ててやってきた真耶の姿に首を傾げるはめとなったのだった。


「おっかしいな? どこで落としたんだ? ていうか、やっぱり大きいのを買うべきかな?」
 一方、一夏はIS学園の校内を探し回ってた。
フォーゼドライバーを入れているバッグは小さすぎて、フォーゼドライバーを入れるとスイッチが全て入らないのである。
それでスイッチのいくつかは上着の内ポケットに入れていたりするのだが、やはり大きいバッグを買うべきだったと反省してたりする。
一方で、どこで落としたかの検討が付かない。なので、最後にスイッチを確認した場所まで遡る形で探し回っていたのだが――
「あ、一夏。何をしてるの?」
 そこにシャルルが通り掛かり、一夏の様子に首を傾げていた。
「シャルルか。実は物を落としちゃって……それを探してるんだ」
「そうなんだ。じゃあ、手伝うよ。落としたのって、どんなの?」
「そりゃ助かる。落としたのは――」
『きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』
「なんだ!?」
 話を聞いてそんなことを言い出すシャルルに、答えた一夏は嬉しそうにエレキスイッチのことを教えようとした。
しかし、その時に聞こえてきた悲鳴に驚いてしまう。
『きゃああぁぁぁぁ!?』『いやあぁぁぁぁぁ!?』
「え? 何あれ?」
 で、すぐに逃げ惑う女生徒達の姿にシャルルは戸惑う。一夏も何事かと思いつつ、様子を見ていたのだが――
「あれは!?」
 逃げ惑う女生徒達を追うように歩くユニコーンのゾディアーツの姿を見て、何が起きているのかを理解した。
「な、なに、あれ?」
「シャルル! 逃げろ!」
「え?」
 そのゾディアーツの姿を見て戸惑うシャルルに叫びつつ、一夏はフォーゼドライバーを装着し――
『スリー――ツー――ワン――』
「変身!」
「うわ!?」
 そのまま変身する。その衝撃にシャルルは思わず顔を背けるが――
「うう……って、一夏!?」
 衝撃が収まって再び顔を向けると、フォーゼになっている一夏に驚くはめになった。
「うおおぉぉぉ!!」
「ん? またお前か!」
 そのことは気にせずに駆け出す一夏。それに気付いたゾディアーツはそのまま一夏とつかみ合いになった。
「な、なに、あれ? ん? あれって?」
 そのまま殴り合いになる一夏とゾディアーツの光景に戸惑いは消えなかったが、代わりにあることに気付いた。
一夏が装着しているフォーゼドライバー。それに装着されているスイッチが、先程拾ったエレキスイッチに似ていたことに。
「く、うわ!?」
「一夏!?」
 一方、力の差か一夏が大きく殴り飛ばされ、そのことに驚いたシャルルは思わず叫んでしまったが。
「くっそ! こんな時に!」
 一夏はそれでもすぐに立ち上がるが、内心はエレキスイッチを無くした自分に悔やんでいた。
あのスイッチなら自分もダメージを受けるが、あのゾディアーツに対抗出来たのだ。
しかし、今はスイッチが無く、このまま戦うのも難しい。構えつつもどうするべきかと一夏は悩んだが――
「織斑君! これを!」
 そんな時、駆け寄ってきた真耶が何かを投げてきた。
「山田先生? っと、これってスイッチか?」
 そのことに首を傾げながらも、投げられた物を受け取る一夏。
受け取った物を見ると、それは初めて見る2つのアストロスイッチであった。
「さっき調整が終わったばかりのスイッチだそうです! だから、どんな効果があるかわからないそうですよ〜!」
「そっか。助かったぜ、山田先生!」
『ビート』
 シャルルの横に立って叫ぶ真耶の言葉に感謝しつつ、一夏は渡されたスイッチをランチャーを交換する。
『ビート・オン』
「おわ!?」「「きゃ!!?」」
「ぐおお!?」
 で、早速スイッチを入れると右足にスピーカーが装着され、大きな衝撃が発生した。
そのことに一夏だけでなく、真耶にシャルル、ゾディアーツさえも驚き、困惑していたが。
「なにこれ……」
「み、耳が……」
「ぐわあぁぁ!?」
 衝撃と共に伝わる狂いそうな音に真耶とシャルルは両耳をふさぎ、ゾディアーツも両手で頭を抱えていた。
「た〜……凄いなこれ……次はこれだ!」
『チェーンアレイ』
 一夏の方はなんとか耐えられていたが、このままでは真耶とシャルルがマズイとスイッチを切って解除した。
その後に新たなスイッチをロケットスイッチと交換する。
『チェーンアレイ・オン』
 で、スイッチを入れると右腕に鎖で繋がれた表面にいくつものイボのような物がある鉄球が装着される。
「お、これなら。おりゃ!」
「ぐおお!?」
 それを見た一夏は早速鉄球を投げ飛ばし、先程のビートスイッチでふらついているゾディアーツにぶつけて大きく飛ばした。
「おお、りゃ!」
「があぁぁぁ!」
 それで終わらないとばかりに一夏は鉄球を振り回し、勢いを付けてゾディアーツにぶつけた。
それによってゾディアーツは更に飛ばされ、落下するように地面に倒れていく。
「よっしゃ! このまま一気に――」
「ふん、やはり貴様のような奴では手こずっているようだな」
「へ?」
 そのことに手応えを感じた一夏は一気に勝負を掛けようとして、空から聞こえる声に思わず顔を向けてしまう。
そこにいたのはラウラだった。赤いラインの入った黒いISを纏って。なお、頭のバイザーはどことなく兎耳にも見えたりするが。
「ぼ、ボーデヴィッヒさん? なんでここに? ていうか、なんでISを?」
 そのことに真耶は戸惑う。ISは授業中などを除いて個人使用は基本的に禁止されている。
それがゾディアーツとの戦闘にISが使えない理由にもなっているのだが、当然ながらラウラの今の使用も禁止にあたる。
「見せてやる。お前と私の差をな」
 しかし、ラウラは真耶の言葉を無視して右のスラスターバインダーに装着された大きな砲身をゾディアーツに向け――
「「きゃあ!?」」「おわ!?」
 いきなり撃ってきたのである。突然のことに驚く真耶とシャルルに一夏。
撃たれたゾディアーツはすぐさま避けていたが。
「ははは、どうだ! 手も足も出まい!」
「やめろ、ラウラ!」
 それでもラウラはゾディアーツに向かって撃ち続ける。
一夏は叫んで止めようとした。というのも、ゾディアーツは回避してるので当たっていない。
かといって撃たれた弾丸――レールカノンなのだがそれが消えるわけでは無いので、そのまま路地や建物に当たって破壊している。
しかし、ラウラはそのことに気付いていないかのように撃ち続けていたが。
「ラウラ、やめろ!」
「ぐおおぉぉぉ!」
 このままでは被害が拡大すると判断して止めようと駆け出す一夏。
ゾディアーツの方もこのままではダメだと思ったのかラウラに襲いかかるが――
「掛かったな」
「ぐああ!?」
「なんだ!?」
 しかし、ゾディアーツの動きがラウラの目の前で止まり、そのことに一夏は驚く。
説明をすると、この現象はラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』に備えられた特殊システムによる物だ。
AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)と呼ばれる物で、ISを浮遊させたり装着者を衝撃から守るPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の発展型である。
別名『停止結界』とも呼ばれ、その名の通り取り込んだ相手、物質の動きを止める力場を生み出す。ゾディアーツの停止もそれによる物だ。
「終わりだ」
「待て! ラウラ!」
 その動きが止まったゾディアーツにレールカノンを向けるラウラ。まずいと感じた一夏は止めようとするが――
「きゃあ!?」
「な!?」
 横から飛び出してきた何かにラウラが突き飛ばされた事に驚くはめとなった。
何事かと一夏は飛び出してきたものに顔を向け――
「お前は!」
 それはマントを脱ぎ捨てたサソリのゾディアーツであることに気付いて、思わず構えてしまう。
「奴は私が相手をする。お前はフォーゼの相手をしろ」
「く、わかった」
「おい、待て! くそ!」
 そのサソリのゾディアーツの言葉にユニコーンのゾディアーツは渋々うなずく。
話を聞いていた一夏は止めようとするが、その前にユニコーンのゾディアーツが立ちふさがっていた。
「貴様ぁ!」
 一方、突き飛ばされたラウラは体勢を立て直し、レールカノンを乱射してくる。
だが、サソリのゾディアーツは軽やかな動きでその全てを躱していた。
「やめてください、ボーデヴィッヒさん! このままじゃ学校が!」
「逃すかぁ!?」
 しかも、躱された弾丸がそのまま路地や建物を破壊してる為、真耶は叫んで止めようとする。
しかし、ラウラは気付くことも無く、怒りのままにワイヤーを撃ってサソリのゾディアーツ捕まえようとした。
「やめろ、ラウラ! くそ、邪魔をするな!」
 一夏も止めようとするが、ユニコーンのゾディアーツに邪魔されて出来ない。
しかも、鉄球を受けるのが危険とわかってしまった為に、攻撃しても避けられる始末である。
一方、サソリのゾディアーツはワイヤーを跳んで躱し、そのままラウラに突っ込んでいく。
「馬鹿め!」
 そのことに鋭い笑みを浮かべたラウラは停止結界でサソリのゾディアーツを捕らえるが――
「貴様がな」
「え? きゃああぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?」
「ラウラ!?」「ボーデヴィッヒさん!?」
 サソリのゾディアーツが言葉と共に頭の飾りをサソリのしっぽのようにして、ラウラを突き飛ばす。
そのあまりの衝撃にラウラは悲鳴を上げて吹っ飛ばされ、その光景に一夏と真耶は思わず叫んでしまう。
ラウラのISの停止結界は万能に見えるが、使用には極度の集中力が必要となる。
その為、突発的な事態や複数相手には効果が薄いという欠点があるのだ。
「く、うう……うぐ!?」
 そのまま激突するような形で地面に倒れるラウラ。
それでもサソリのゾディアーツは容赦無くラウラの首をわしづかみにし、彼女の体を持ち上げた。
「ラウラ! どけぇ!」
「うおおぉぉ!!」
 その光景に助けに行こうとする一夏だが、やはりユニコーンのゾディアーツが邪魔をする。
「ボーデヴィッヒさん……」
「一夏……ラウラ……」
 その様子を心配そうに見守る真耶とシャルル。しかしながら、何も出来ない。
シャルルの場合は出来ないというより、事態に混乱して自分の専用機を使うことが思いつけなかったのもあるが。
「あ、う、あ……」
(わ、私は……負ける……のか?)
 一方、持ち上げられているラウラは呻きながら、思わずそんなことを考えてしまう。
一夏に力の差を見せつけるはずが、ラウラにとって謎の相手に圧倒される。
(そんなのは……認められるか!)
 その事実はラウラには認められなかった。まだ、一夏を打ちのめしてもいないのに。
ラウラにとって千冬は強く凛々しく、堂々としている存在。常にそうあるべきだと考えていた。
なのに、千冬は時折顔をほころばせ、笑顔を見せる。そうさせるのが一夏が理由なのはすぐにわかった。
だから、ラウラは許せなかった。千冬に笑顔を浮かべさせる一夏の存在が――
(認めない……私は……だから、こいつを倒す力を――)
 それ故にラウラは望んでしまった。サソリのゾディアーツを――一夏を倒す力を――
(願うか? 汝、より強い力を欲するか?)
 そんな時だった。ラウラの中にそんな声が聞こえてくる。
(寄越せ、力を。比類無き最強の!)
 その声に不思議に思わずにラウラは望んでしまう。更なる力を――
「うわああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!?」
「む?」
 その時だった。突然、ラウラから悲鳴と共に電撃が発せられる。
そのことに勘付いたサソリのゾディアーツはいち早く彼女から離れていたが。
「ああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!?」
「なんだ? 何が起きてるんだ?」
 しかし、電撃は止まらずにラウラは悲鳴を上げ続けた。
それどころかISが水銀の様に流体化し、ラウラを呑み込んでしまおうとする。
その光景に一夏は思わず動きを止めてしまう。まぁ、同じように光景に驚いていたユニコーンのゾディアーツも動きを止めていたが。
一方でラウラの変化は続いていた。電撃は未だに発せられており、IS呑み込まれようとするラウラは悲鳴を上げ続ける。
「ああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ……」
 やがて、流体化したISにラウラは呑み込まれ、その悲鳴も聞こえなくなる。
その後もISの変化は続き、改めて人の姿を形成していき……やがて、電撃が止まると変化も止まった。
それはISを纏った人の姿に見える。しかし、その姿はひどく不安定な物だったが。
「あれは……雪片? なんで、あれがあんな物を――」
 一方、一夏はそのことに気付いて困惑する。
気付いたのはそのISが持つブレード。形こそ不定形ではあるが、それが姉である千冬が使っていた雪片に似ていたのだ。
「ふん、くだらないおもちゃを仕込んだ物だ。行くぞ」
「し、しかし――」
「今は退け。機会はまだある」
「……わかった」
 言われたことに食い下がろうとするユニコーンのゾディアーツだったが、サソリのゾディアーツに睨まれたことに怯み、大人しく付いていく。
「あ、待て! あ、うわあぁぁ!?」
「織斑君!?」「一夏!?」
 それを止めようとした一夏であったが、いつの間にかISが間合いを詰めてブレードを振るっていた。
一夏は両腕で防ごうとするがあっさりと斬り飛ばされてしまい、落ちるように地面に倒れた。
そのことに悲鳴を上げる真耶とシャルルだが、ISは構わず一夏に近付こうとしていた。
「くそ、あの野郎……武器までじゃなく、動きまで千冬姉の真似かよ……」
 なんとか立ち上がる一夏だったが、そのことに怒りを覚えていた。
そのISの動きは似ていたのだ。昔、千冬や箒と共にやっていた剣道。その時に見た千冬の動きに似ていたのだ。
「く! この野郎!」
 その怒りのまま一夏は戦いを挑むが――
「おわぁ!?」
 ISに斬られ吹き飛びそうになる。しかし、一夏はそれに耐えて顔を向ける。許せなかった。
武器だけじゃなく、動きまで千冬に似ている。それが一夏には千冬が汚されたように思えて許せなかったのだ。
「おおぁ!」
 だから、未だに装着していた鉄球を投げ放った。ISは左腕で受け止めるようにして防ぐが――
「おおぉぉぉぉ!!」
 一夏は振り向くことで鉄球を振り回し、ISにぶつけて突き飛ばす。
「おおぉぉぉぉ!!」
「ダメです、織斑君! そのままじゃ、ボーデヴィッヒさんが!」
「は! って、うわぁ!?」
「織斑君!?」「一夏!?」
 更に振り回してぶつけるが、その時の真耶の言葉に正気に戻る。
しかし、そのせいで動きが止まり、それを狙われて大きな火花を上げながら斬り飛ばされてしまう。
そのことに真耶とシャルルは悲鳴を上げてしまったが。
「くっそ……なんとか……しないと……」
 立ち上がる一夏だが、明らかによろめいていた。
1日に2度の戦闘。しかも、そのどちらともダメージを受けており、それが一夏を蝕んでいたのだ。
だが、そのおかげで一夏は正気に戻ることが出来た。
確かにこのまま戦えばラウラがどうなるかわからない。かといってこのままというわけにもいかないと思う。
そう考えた一夏はあることを思いつく。ハッキリ言ってしまうと賭けだが、ラウラを助けるためにはこれしか思いつかなかった。
『チェンソー――チェンソー・オン』
 その為に一夏はビートスイッチをチェンソースイッチに変えて、右足にチェンソーを装着した。
「おおぉ!」
 そして、駆け出すのだが、ISの方も待っていたとばかりにブレードを振るっていた。
「くぅ! うおおぉぉぉぉ!!」
 そのブレードを一夏は受け止め、更に右足を伸ばしてチェンソーでISを斬ろうとした。
しかし、ISは左腕で受け止めて耐えようとする。拮抗する両者。しかし、耐えられなかったISがよろめいて、膝を付いてしまう。
「おおぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!」
 その間に一夏は大きく跳び上がって宙返りをし――
『チェンソー・リミットブレイク』
「ライダーから竹割りキーック!!」
 レバーを入れたことで更なる高速回転をするチェンソーで、ISをかかと落としの容量で縦に切り裂いた。
それによってISの胸元が割れ、そこからラウラがこぼれるように落ちてくる。
「おっと」
 そのラウラを受け止める一夏。それと共にISは崩壊したらしく、その形を崩していた。
「う、あ……」
「まったく、苦労……させるなよ……」
 ラウラは無事らしく、紅い瞳と取れた眼帯の下にあった金色の瞳を一夏に向けていた。
そのことにほっとする一夏であったが――
「あ、でも……俺、ダメ、かも……」
「織斑君!?」「一夏ぁ!?」
 ラウラに押し潰されるような形で仰向けに倒れ、気を失ってしまう。そのことに驚いた真耶とシャルルが駆け寄っていたが。
「あ、いたぁ!」
「大丈夫か、一夏!?」
「一夏様! 大丈夫ですか!?」
「おりむー!?」
「一夏君!?」
 そこに騒ぎで探し回っていた鈴、箒、セシリア、本音、簪もやってきて、事態に気付いて慌てて駆け寄る。
(織斑 一夏……お前はなぜ……そんなに……強い?)
 そんな中、ラウラはそんな疑問を感じながら、自身も気を失う。
ISに呑み込まれながらも見ていたのだ。今までの一夏の行動を。
それ故に感じる疑問。一夏の強さに、ラウラは疑問に感じながら――



 あとがき
というわけで始まりました転校生編。ラウラの暴走にエレキスイッチを拾ってしまったシャルル。
ラウラは今後どうなってしまうのか? スイッチのことに気付いたシャルルはどうするのか?
そして、千冬は今回の事態は自分が原因と思ってしまい――
色んな思惑が絡む中、一夏はどうなってしまうのか?
それは次回ということで。では、また会いしましょ〜



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