IS学園職員室。自分の席に座る千冬は数枚の書類に目を通していた。
「ふむ……まぁ、国際IS委員会の指示となれば、従うしかないが――」
「わかってもらえて何よりだ」
 不満げな顔をしながらそんなことを漏らす千冬だが、前に立つ背広姿の青年の言葉に思わず睨んだ目を向けてしまう。
目の前に立つ青年は国際IS委員会が派遣したとされる者だ。目的は織斑 一夏の監視。
書類に直接書かれているわけでは無いが、そう見てもほぼ間違いはなかった。
それと共にフォーゼやゾディアーツの情報を得る為の監視だというのも推測出来る。
これまでの経緯を見れば、国際IS委員会が2つに興味を持つのはおかしなことではない。現に両方ともISに勝っているのだから。
だからこそ、千冬としては苦い顔をしそうになる。半分は自業自得だったとはいえ、この状況は出来れば避けたい。
しかし、下手な妨害は逆にこちらの首を絞めることにもなりかねないのだ。故にどうするべきかと千冬は悩む。
「それにしても、若いな?」
 それとは別に千冬は感じた疑問を漏らした。
派遣された者は20代半ばとのことだが、見た感じは一夏と変わらぬ歳に見えた。
もっとも、雰囲気としては20代過ぎてるのでは? といった感じもあるのだが。
「下手に歳を取った奴を送るよりはいいと上も思ったんだろ?
それと俺はあくまでも学園の素行調査に来ただけだ。問題が起きない限りは何もしない」
「だといいがな……」
 青年の言葉に千冬は思わず本音を漏らしていた。
国際IS委員会がフォーゼとゾディアーツの情報を欲している以上、何かしでかさないかと勘ぐってしまうのだ。
現にドイツでも一部の者とはいえ行動して、それをゾディアーツに利用されたのだから。
「では、門矢 士だったな? ここであまり変なことはするなよ?」
「当然だ。俺はあくまでも素行調査来ただけだからな」
 千冬の問い掛けに士と呼ばれた青年は右手の人差し指を立てながら答えるのだった。


「そういうわけで、今は国際IS委員会の監視員が来てる。
表向きは学園の素行調査となってるが、フォーゼやゾディアーツの情報集めと見て間違いないだろう」
「まぁ、そうなるでしょうね」
 所変わって、仮面ライダー部部室。千冬の話に衛理華はため息を吐いた。
これまでのことで予想は出来てはいたが、実際に起きても困るだけだ。
もっとも、対策をしようにも下手なことも出来ないので、なおのこと困るのだが。
「このことは一度みんなときっちり話し合った方がいいんでしょうけど……そのみんなは部活動中だったりするしねぇ」
 周りを見つつ、衛理華はそんなことを漏らした。
実はここには衛理華と千冬の他には一夏と結城に関根とオーリスがいて、他の者達はここにはいなかったりする。
他の者達はといえば、箒は剣道部、セシリアはテニス部、鈴はラクロス部、シャルロットは料理部、ラウラは茶道部に行っている。
仮面ライダー部では新たなスイッチのテストかフォーゼ及びISの訓練以外はこれといった活動はしない。
それで箒は戦いに備えて自ら鍛える為。セシリア達は代表候補生である以上、ただ暇をもてあますわけにはいかない為。
それぞれそのような理由で部活動に参加している。
 一方で本音はパワーダイザーとマッシグラーの整備をしつつ、簪と新たなフードロイドの製作中。
ちなみにフードロイドとは本音と簪がこれまで造ったロボットの総称だ。
ロボに変形する前の形が明らかに食べ物なので、そう名付けられた。
それでなぜ新しいフードロイドを製作することになったかといえば、先日新しいスイッチが調整を終えたのだが――
フラッシュスイッチ。機能、右腕に装着されるライトを点ける事が出来る。明るさはかなりある。といった物だった。
目くらましとかに使えなくも無いが基本的に使えないと判断されて、それでフードロイド用スイッチにしようということになったのだ。
後は真耶は現在別の仕事中。楯無と虚は生徒会で仕事中であった。
「やっぱ、俺もなんかした方がいいのかな?」
「まぁ、無理にする必要は無いと思うわよ? 織斑君にはもしもの場合に備えてもらわないと困るしね」
 ふと、そんなことを思う一夏に衛理華はそう答える。
授業中はまだしも一夏にはゾディアーツが起こす緊急時に備えてもらわねばならない。
むろん、彼の自由を阻害するつもりは無いが、いざという時にいてもらわないと困るのも事実だ。
今でこそパワーダイザーはかなり戦えるようになってはいるものの、やはりフォーゼがゾディアーツに対する要と言ってもいい。
衛理華としては一夏だけに戦わせるようなことはしたくはないものの、フォーゼになれるのが一夏しかいないこともあって頼るほかない。
ちなみにだが、パワーダイザーの方は箒以外にも乗れないことはないので、時折セシリア達が乗り込んで訓練したりはする。
が、コズミックエナジーの出力が箒の半分にも満たないので、パワーダウンは覚悟しなければならないという欠点はあった。
なお、千冬や真耶も同じように乗り込んで訓練はしている。やはり、パワーダウンは免れなかったが。
「そう、ですか……」
 そんな衛理華の言葉に返事はしつつも一夏は考えてしまう。このままでいいのかと――
というか気になるのだ。自分はどのような仮面ライダーになろうとしているのかを。
だが、その答えは未だ見つからない。だから、不安を感じる時もあるのだ。
自分はどんな仮面ライダーを目指すべきなのか……そんなことに悩む一夏を結城は静かに見守るのだった。


 で、大した事が起きる様子も無いので、今日は帰宅となった一夏。
それでも悩みは尽きない。これからどうしていけばいいのかとか、仮面ライダーとしてどうしていくべきかとか。
そんなことを考えつつ歩いていたわけだが――
「いたぞ!」
「へ? え? なんだ?」
 聞こえてきた声に顔を上げるが、それで見えたものに一夏は戸惑う。
それは一見するとゾディアーツにも見える。というか、そうとしか見えない。だが、一夏には何かが違うように見えたのだ。
今は怪人と呼称するが、もう1つの問題がそれが集団で現れたことだった。ゾディアーツなら今までなら1体、多くても2体しか現れない。
それがざっと見ただけでも10体以上いた。その怪人達が自分に向かってきてるのである。
「貴様、高エネルギー体を持っているだろう? 出せ! 出さねば、力尽くで出させることになるぞ!」
「は? 高エネルギー体? 高エネルギー体って――」
 1体の怪人の言葉に一夏は首を傾げる。が、すぐにコズミックエナジーのことを思い出したが――
しかし、そうなるとわからない。ゾディアーツもコズミックエナジーを使っているはずだから、欲しがるのはおかしい。
訳がわからなかったが、にじり寄ってくる怪人達を見てるとこのままではマズイと判断してフォーゼドライバーを装着し――
「む?」
『スリー――ツー――ワン――』
「変身!!」
「のわ!?」「なんだぁ!?」
 怪人の1人がそのことに気付いて立ち止まると共にレバーを入れる一夏。
それと共に衝撃が発生し、そのことに怪人達は驚いて足を止めてしまった。
「よっしゃ!」
「な、なんだあれは!?」
「あ、あれは、電王(でんおう)の仲間か!?」
「は? でん、おう?」
 フォーゼへの変身を完了し、右手を振り下ろす一夏。が、怪人達の驚き方にまた首を傾げるはめになった。
まず、様子から見るに明らかにフォーゼのことを知らない。
いや、これは今までのゾディアーツになった人にも見られた反応なので、別段気にするものでも無かった。
問題なのは何かと勘違いをしているようだということ。
どうやら『電王』とやらと勘違いしてるようだが、一夏にはなんのことだかわからない。
「ええい! どのみち、高エネルギー体を手に入れればいいだけだ! 奴から奪え!」
 が、怪人達は戸惑いはしたものの、1体の怪人の言葉に全ての怪人が襲い掛かってくる。
「てぇ、一気に来た!? おわっと!?」
 で、それで困ることになったのが一夏だ。なにしろ、今まで1対1、多くても2対1での戦いしか経験がないのだ。
「く! おわ!? てぇ!? なんと!?」
 なんとか体をひねるなり跳んだりして怪人達の攻撃を躱し、時には殴ったり蹴ったり投げたりして応戦する。
が、数の多さがあまりにも厄介であった。次々と襲ってくる為、有効打を与えるのが難しい。
その為、怪人達は倒れるだけで、すぐに立ち上がって襲い掛かってくるのだ。
「なら、こいつで!」
 そこで一夏は怪人達を捌きながらもドリルスイッチをあるスイッチと入れ替える。
これは先日、フラッシュスイッチと共に調整を終えたスイッチであった。
『ランチャー――ガトリング――レーダー――オン』
 そして、ランチャーとレーダーのスイッチと共に入れ替えたスイッチも入れた。
すると右足にランチャーが、左腕にレーダーが、左足にはガトリング砲が装着される。
ガトリングスイッチ。その名の通り、左足にガトリング砲を装着する為のスイッチである。
「な、なんだ、あれは!?」
「いっけぇ!」
 1体の怪人が驚いている間に一夏はレーダーでロックオンし、ランチャーのミサイルとガトリング砲を一斉に発射した。
「ぐおおぉぉ!!?」「があぁぁ!?」「ぐわあぁぁ!!?」
 それによって怪人達が撃たれ、爆発していく。だが、その爆発の煙が怪人達の姿を隠してしまう。
そのことに油断無く構える一夏であったが――
「「「うおおぉぉ!!」」」
「く!」
 飛びかかってくる3体の怪人に一夏は一瞬どうするべきか迷った。
というのも近すぎてランチャーのミサイルだと巻き添えになってしまう。
ガトリング砲は1体、良くて2体は撃ち落とせるかもしれないが、当然ながら残った怪人が襲い掛かるだろう。
今は左腕と両足にモジュールを装着してる為、動きも鈍い。それ故にどうしようかと迷ってしまったのだ。
本来はガトリング砲で迎撃し、残った怪人は素手で対処するのが良かったのかもしれない。
だが、いくらゾディアーツと戦っているとはいえ、経験的にまだ浅い一夏はそのとっさの判断が出来なかったのだ。
このままでは3体に襲い掛かられる――と、思った瞬間だった。
「「とぉ!」」
「ぐはぁ!?」「ぐおわ!?」「がぁ!?」
 一夏の真上を何かが跳んでいったかと思うと、襲い掛かろうとしていた3体の怪人達を迎撃する。
いきなりのことに一夏は戸惑うが――
「な、なんだ? え?」
 自分の前に2つの人影が見えたことに訝しげになる。
というのも、一方の方には見覚えがあったからだ。銀色の腕や頭に赤いマフラー。
それは――
「な、なんだ!? また電王の仲間か!?」
 一方、怪人達はその2つの人影に戸惑いを見せていた。
なにしろ、怪人達にとって会いたくも無い者に、その人影達は姿がどことなく似ていたのだから。
「貴様達がゾディアーツか!」
「はぁ? ゾディアーツ? なんだそれは? 我らはイマジン! ゾディアーツなぞ、知らん!」
「なんだと?」
 その人影の1人が構えつつ問い掛けるが、イマジンと名乗る怪人の返事にもう1人の人影と共に首を傾げる。
一方で一夏はやはりかと思った。反応や姿がどこかゾディアーツと違うというのがあるし、それに言っていることも意味不明に近い。
それはそれとして、問題はこのイマジン達をどうするかであった。一夏の考えではこの2人は味方であると思う。
しかし、この2人がいたとしてもイマジン達の方が数が多い。
一夏は多対一での戦闘の経験が無いので、どうするべきか悩んでしまうのだ。
「一夏!!」
「え? 千冬姉?」
 そんな時だった。千冬の声が聞こえてきたことに人影と共に一夏は振り向いてしまう。
『ダイザーモード』
「大丈夫か、一夏!」
「あ、ああ、俺は大丈夫だけど――」
 で、見えてきたのはバギーのような形をしたパワーダイザーのビークル形態であった。
そのパワーダイザー一夏の所まで来ると人型に変形し、イマジン達を睨みながら千冬の声が聞こえてくる。
そのことに一夏は軽く戸惑いながらうなずいた。パワーダイザーに千冬が乗って現れるとは思っていなかったのだ。
千冬がパワーダイザーに乗っているのは事態に気付いたものの箒と連絡が取れず、その場にいた千冬が代わりにパイロットを務めたのだ。
なお、余談ではあるが現在箒はシャワー中で、そのせいで携帯の通話に気付かなかったりする。
「な、なんだ、あのデカイのは!?」
「く、くそ、あれも電王の仲間か!?」
「一旦引くぞ!」
 が、イマジン達はパワーダイザーが現れたことに戸惑ったかと思うと一斉に逃げ出してしまう。
そのことに一夏は呆然としてしまったが。
「なんなんだ、あいつらは……それとお前達、何者だ?」
「ちょ、ちょっと待った千冬姉!? この人達は味方だ!」
 そのことに呆れながらも向き直して2人の人影を睨む千冬。
そのことに一夏は慌てて前に出て、両手を振りつつそのことを答えていた。
それで千冬は訝しげな顔をするが、一夏は振り向いて人影の1人と向き合い――
「お久しぶりです、一也さん」
「ああ、久しぶりだな」
 人影の1人、仮面ライダースーパー1こと、沖 一也との再会を喜ぶのだった。


 一方、その光景を離れた場所で見ている者達がいた。
「なぁ……結局は逃げちゃったけど、助けなくて良かったのか? それに会わなくていいのかな?」
「危なけりゃ助けるが、今回はそうじゃなかったしな。それと感動の再会みたいだし、それを邪魔する必要は無いだろ。
後、今回は目的がハッキリとしてる。それを考えれば、すぐ会う必要は無いさ」
「確かにな」
 あのどこかの家のリビングにいた青年の問い掛けに背広姿の士が答えると、やはりリビングにいた女性がうなずく。
なぜ、ここに士達がいるのかは後で説明するとして、ここで久々の再会に喜ぶ一夏と一也を眺めているのである。
「それでこれからどうするの?」
「どのみち、顔を見せなきゃならないんだ。話とかはその時でいいだろ。まったく、海東も自分の物はちゃんと持っておけよな」
 同じくリビングにいた少女の問い掛けに、士は答えてからため息を吐いた。
そのことにやはりリビングにいた女の子や青年達が苦笑していたが――
そう、こうしているのはあの海東という青年がある意味原因であり、士は半ばその解決を手伝わされているのである。
まぁ、自分達の目的も含まれてるし、今回の原因の一端があのオーナーと名乗る男性――
正確にはそのオーナーがいた場所で起きた事に海東が巻き込まれ、今回のことが起きてしまったわけだが。
「しっかし、この世界には仮面ライダーがいたんだな」
「ま、そんな世界もあるだろうさ。しかし、あいつは少し悩んでるようだが……」
 青年の言葉に士はうなずきつつ、そんなことを言い出す。
そのことで士は一夏に話を聞くべきかと考える。ただし――
「しっかし、なんでまたこんな役職やるはめになってるんだか」
「しょうがないだろ? ここはそういうのがないといるのは難しいってオーナーさんも言ってたじゃないか」
「そりゃそうだが、他になかったのか? なんか、無茶苦茶怪しまれてたんだが」
 青年の返事に思わずぼやいた士はため息を吐いた。
千冬の反応を見る限り、何かがあったのだろう。自分では無く、国際IS委員会に。
おかげで凄く警戒されているので、ある意味やりづらいと士は感じているのだ。
その一方で今後のことも考える士。なにしろ、今回の目的は今までとは違うやり方をしなければならない。
だから、どうするべきかと考えて――
「とりあえず、今のところは静観かな?」
「は?」
 思わず漏らした言葉に、少女が首を傾げていたのだった。


 一方、あの戦闘から少し経って、一夏達は仮面ライダー部に戻っていた。
で、そこには連絡を受けた箒達も集まっていたのだが――
「あの人達が、仮面ライダーなの?」
「そうみたいだよ」
 この場にいる本郷と一也を見て、簪と鈴がそんなことを言い合っていたりする。
まぁ、一夏と千冬以外は本郷と一也が変身した姿を見ていないので懐疑的になってしまうのだ。
「にしても、都市伝説の仮面ライダーが本当にいて、更には結城さんがそのお仲間だったとはね」
「ははは、申し訳無い。ですが、本来はこのまま明かさずにいたかったのですけどね。
我々のことは色々と目立ってしまうものですから……今回は想定外のことが起きましたから、仕方がないのですが」
「イマジン……でしたっけ? 何者なんでしょうか?」
 視線を向ける衛理華の言葉に結城は頭を掻きつつ謝っていた。
実際、結城としても自分達の正体は明かすつもりは無かった。というのも、そうすることで別の問題が出る可能性があったからだ。
その辺りの話はあえて割愛するとして、そんな中で真耶は感じた疑問を漏らす。
 新たに現れた謎の組織イマジン。といっても、あまりにも唐突に現れたのでどんな存在なのかがわからない。
一応、怪人達がいるというのはわかっているのだが――
「わからない。奴らに関しては私達も初耳だからな。わかっているのはゾディアーツとは無関係らしいということ。
それに高エネルギー体を狙っているということだ」
「ですよね。なんか、コズミックエナジーを狙ってるというよりは、コズミックエナジーのエネルギーを狙ってきたって感じでしたし」
「それと電王と呼ばれるのと戦っていたらしいということですが、こちらもなんのことだか……」
 本郷の言葉に一夏がうなずくと、一也はそんな疑問を漏らした。今のところ、イマジンとゾディアーツとの関係は不透明だ。
というのも芝居の可能性も否定は出来ないし、今はまだゾディアーツの姿が見えないだけで断定が出来ないからである。
後は電王という存在。こちらは個人名というより、名前からしてなんらかの組織のトップにも思えなくもない。
その一方で気になるのは――
「でも、あいつら……変身した俺達の姿を見て、驚いてたんですよね」
 疑問に感じながらそのことを漏らす一夏の言葉通り、イマジン達は変身した一夏、本郷、一也の姿を見て驚き、その名を口にしたのだ。
ということは、その電王とやらはフォーゼ――というか、仮面ライダーの姿に似ているということにもなるのだが――
「今は情報を集め、調べるしかないだろうな。わからないことが多すぎる」
 結城が真剣な顔でそう締めくくった。確かに言葉だけで何もわかっていない。
だが、名前だけはわかっているので、その辺りから調べるしかないと判断したのだ。
「ですね……あ、こんな時になんですけど、改めて……お久しぶりです、一也さん。あの時はどうもありがとうございました」
「あ、いや、俺はその為にいたようなものだからな。だから、あまり気にしないでくれ」
「そうはいかない。あなたがいなければ、一夏はどうなっていたかわからなかったからな。
礼を言わせてくれ。それと先程は知らなかったとはいえ、すまなかった」
 ふと、そのことを思い出した一夏が頭を下げたことに一也は苦笑していた。が、そうはいかないと千冬も頭を下げる。
ちなみに一夏が誘拐された時のことを、ここに来るまでに一夏が千冬に話していたのだ。
なので、事情を知る本郷と結城と関根にオーリス以外は話を聞いていないので、わからずに首を傾げている。
「その話は後にしよう。今はこれからをどうするかだ。なにしろ、私達が来た理由は織斑君の手助けだけではないからな」
「空間の歪みのことよね? でも、何かが起きてるようには見えないし――」
 本郷の話に衛理華は考え込んだ。本郷達が来たのは、IS学園付近で観測される空間の歪みについて調べる為だ。
それは自己紹介も兼ねて聞いてはいたが、一夏達はそれらしい現象を見ていないので少し懐疑的だった。
一瞬の間にしか起こらないというのもあるのかもしれないが、それらしい変化が現れたようにも思えない。
なので、本当に起きているのかと思えてしまうのだ。
「確かめる必要はあるでしょう。なにしろ、イマジンという連中も出てきましたしね」
「それもそうだな」
 結城の言葉に千冬がうなずく。イマジンと空間の歪みに関係があるかは不明だが、関係が無いと断言するわけにもいかない。
その空間の歪みがあったからこそ、イマジンが現れたとも考えられるのだから。
「まぁ、今は時間も遅いし、調査は明日からにしましょ。幸い、明日は織斑君達も休日だしね」
 ため息を吐いてから、衛理華はそんなことを言い放った。
確かにすでに日は傾いており、寮生でもある一夏達は夕食の時間も限られている。
それ以前にいくら許可をもらって入ったとはいえ、本郷や一也がIS学園を夜に歩き回るのはいらぬ誤解を生みかねない。
一応、別途に許可をもらうなりする手もあるのだが、何もわからない状態で動くのは危険に身をさらすことにもなる。
時間が無いのであれば、それも覚悟の上でというのもあるが……今はその時では無いと判断したのだ。
 幸いなのは明日は一夏達が休日なので、朝から手伝いが出来ることだろう。
最悪な事態が起きていなければ、ある程度ではあるが対応が出来るようになると判断したのだ。
「ふむ、セシリア達のISの使用許可をもらっておくか……使えるかどうかはわからんがな」
 あごに手を添えて考え込むような様子を見せながら千冬は呟く。
先日の一件により、国際IS委員会はゾディアーツに対してのIS使用規制が限定的にだが緩和した。
ゾディアーツとの戦闘データ提出が原則という上でだが――
まぁ、体制、反体制共に思惑は色々とあるのだろうが、ゾディアーツとフォーゼのことが知りたいのだろう。
と、千冬は考えている。実にその通りなのであるが。
 ただ、ISの使用許可をもらえたからといって、使えるかはまた別の問題だ。
理由としてはセシリア達のISの武装にある。まず、武装が火器、重火器が主であるということだろう。
前にも説明したが、そんな物を使えば何かしらの物を壊してしまう。
むろん、被害無しで戦闘をやれとは言わないものの、必要以上の被害は別の意味で問題になりかねない。
一応、鈴、シャルロット、楯無、簪のISはゾディアーツに対して友好的な近接武装はある。
反面、場所的にISの性能が発揮出来ないという難点があるので、そちらの方で使用が難しくなるが。
「じゃあ、今日は解散ということでいいかしら?」
「そうですね。あ、一夏君。少し、話をいいかな?」
「はい?」
 衛理華の申し出に一也はうなずくと、そんなことを言い出した。
そのことに一夏は首を傾げてしまい、箒達仮面ライダー部の少女と女性達は思わず注目してしまうのだった。


 そんなわけで一夏と共に外に出た一也だが、どこで話すかで困ってしまう。
というのも、箒達仮面ライダー部の少女達が後を付けてくるのだ。
本人達は隠れてるつもりのようだが、一夏も苦笑いする程にバレバレである。
まぁ、総勢11人ともなれば、色んな意味で目立つのだが――
 これに困ったのは一也だ。聞かれて困るようなことを話すつもりは無いが、出来れば一夏と1対1で話し合いたい。
どうすればと思った矢先、一也の視界にある物が見えてくる。
「そうだな。あそこで話さないか?」
「あそこ……ですか?」
 一也が指差した先にある物に、一夏は戸惑いを見せた。
一也が指差した先にあったのは一件の喫茶店。看板には『フォトショップ』と店名が書かれている。
ここまでなら別段おかしな所は無い。問題なのはこの喫茶店が建っている場所だ。
どういうことかというと、ここはIS学園の敷地内。なので、学園に関わる物以外は基本的に無い。
そして、当然ながら喫茶店は学園に無い。なぜなら、有料となるが学食で軽食やデザートの類も食べることは出来る。
だから、喫茶店の必要も無いし、それ故に建てる必要も無い。なのに、一夏の視線の先には喫茶店がある。
今いる辺りはあまり来ないので詳しくは無いが、記憶の限りではここには喫茶店は無いはずなのに。
「ねぇ……あそこに喫茶店なんてあったかしら?」
「無い。というか、あるはずが無い。そんな話も聞いたことがないぞ」
 一夏達の後を付けていた鈴の疑問に声に千冬がキッパリと答える。
そう、あるはずが無いのだ。あんな所に喫茶店が……なので、自然と警戒してしまう。
なまじ、ゾディアーツやイマジンの件があるだけに。しかし、千冬達が中に入ることは出来ない。
いくらなんでも、この人数で入れば目立つのは請け合いなのだから。
とまぁ、一件冷静に見える千冬達だが、実際は1人か2人で行けばいいのに気付かない程に混乱してたりする。
「どうかしたのかい?」
「あ、いや――」
 などと一夏が考えてる内に一也が喫茶店のドアを開けていた。その一也の問い掛けに戸惑いながらも一夏は共に喫茶店の中へと入る。
喫茶店の中はなんというか、店名通りと言える造りであった。
風景やどこかの町中を撮影した写真パネルがいくつも壁に掛けてあったり、古いカメラをインテリアとして飾っていたりしているのだ。
「いらっしゃいませぇ〜」「いらっしゃいませ」
 で、一也と一夏をカウンター越しにいた女性と店内で立っていた女性が声を掛ける。
カウンター越しにいた女性はどこか本音を思わせるような口調であったが――
一方で立っていた女性に一夏は思わず目を奪われてしまう。なにしろ、絶世といっても過言でない美しさだったのだから。
が、その後ろに見えたものにも視線を向けるはめとなった。その先にいたのはテーブル席に座る1人の初老の男性。
黒髪をオールバックにし、襟から垂らしたナフキンの下に背広を着こなした紳士に見えなくもない。問題はその男性が食べていた物だ。
それはどう見てもチャーハンである。普通の喫茶店には無い物だ。更に食べ方にも問題があった。
まず、金のスプーンを両手に持ち、それを使って器用に食べている。
それに良く見るとチャーハンの真ん中に小さな旗が立ててあるのだが、それを倒さないように食べているように見える。
というか、そのようにしか見えない。なので、一夏としてはあれは何なのだろうと思ってしまうのだ。
「一夏君?」
「あ、すいません」
 が、一也に声を掛けられたことですぐに正気に戻り、奥の席に一也と向き合う形で座った。
「ご注文は?」
「一夏君はコーヒーは大丈夫かな?」
「は、はい」
「じゃあ、コーヒーを2つ……このオリジナルブレンドというのを」
「わかりました。(かなえ)さん、オリジナル2つです」
「はぁ〜い」
 女性が注文を受けて立ち去ると注文した一也はため息を吐き、その後に一夏へと顔を向ける。
一夏はその視線を受けてきょとんとするが、それを見た一也は複雑な思いだった。
彼が誘拐された時、姉がIS代表でモンド・グロッソ優勝者という関係はあったものの、基本的には普通の少年だったはずだ。
それが今ではISに関わっただけでなく、謎の組織とフォーゼとして戦う事になっている。
ISはまだしも謎の組織となぜ戦わねばならないのか……それを考えると後悔の念が渦巻く。
というのも、その要因の中に自分とであったことによるものがあると聞いていたからだ。
自分と出会い話し合ったことで仮面ライダーを目指していると――
「何から言うべきか……一夏君は仮面ライダーを目指しているそうだね?」
「はい。一也さんの話を聞いて、憧れたというかなんというか――」
 問い掛けに一夏はテレながら答えるが、問い掛けた一也は心配そうな顔を向ける。
確かに助けた後にあれこれと話したのは事実だ。だが、それは一夏を仮面ライダーにする為では無かった。
ただなんとなく……理由としてはそんなもので、他に他意があったわけではない。
なのに、あの話が元で一夏は仮面ライダーを目指してしまった。それが一也の後悔の念となってしまっている。
「俺としては、一夏君には普通の生活をして欲しかったんだが――」
「え? あ、いや、その――」
 一也の言葉に一夏は軽い戸惑いを見せた。一也の今の言葉は本心だ。
確かに一夏にはISを動かせてしまったり、姉である千冬の存在などの問題はある。
それでも一夏には普通の生活をしてもらいたい。それが自分のわがままとはわかっていても、一也としてはそうして欲しかった。
「本当なら、君がこのような戦いをする必要は無いのに――」
「いいじゃないか。本人がやりたいって言うなら、やらせておけば」
 そのことを一也が告げようとした時だった。不意に横から、そんな声が聞こえてくる。
2人がその声の方へと顔を向けると、そこにはカウンター席に座る士の姿があった。
その姿をフォトショップの外で見ていた千冬の顔が強ばる。なぜなら、出来れば一夏に会わせたくない人物なのだから。
「あ、えっと、あなた、は?」
「門矢 士。国際IS委員会から派遣された者だ。
で、話は聞かせてもらったが、本人もやる気になってるんだし、やらせておけばいいじゃないか」
「お待たせしました。オリジナルコーヒーです。ごゆっくりどうぞ」
 またもや軽く戸惑いながら問い掛ける一夏に士はどこかすました顔で答える。
その間に女性が注文していたコーヒーを置き、頭を下げてから戻っていったが。
「き、君は何を言ってるのかわかっているのか? 一夏君がしようとしていることは危険を伴うんだ」
「だが、本人がやりたいって言うんだから、やらせてみてもいいだろ?
それであんたが言う危険な事で大変な目にあって、やめたくなったんならやめさせてもいいんだし。
それでも続けるって言うのなら、続けさせてもいい。もっとも、考えも無しにただやらせるってのは問題だけどな。
ただやらせるのでは無く、何をどうしていけばいいのか? そういうことを教えていくのは大事だと俺は思うがね」
 反論する一也だが、士はすました顔で語る言葉に口を閉ざした。士の言うことはわからないわけでもない。
正しいというわけではないが、そのようなやり方があるのも事実だ。
だが――
「し、しかしだな――」
「心配なのはわかるさ。あんたが言う危険が、一夏の命を脅かすかもしれないと考えてるんだろうしな。
けどな、こいつは踏み出してしまったんだよ。起きている事件とやらに。ま、途中退場出来るならそれでもいいが。
本人にそのつもりがあるかは、今後次第だろうが。だが、それが出来なかったら、どうしたらいいと思う?」
「く……」
 それでも言い返そうとした一也であったが、顔を向けて話す士の言葉に思わず顔をそらした。
本人の意志とは裏腹に事態が起こることは良くある話だ。一也自身もその経験があるだけに言い返すことが出来ない。
故にもし一夏がやめたくなっても、やめることが出来なくなるという事態は考えられた。
いや、半ばそのような状態にすでになってるとも言える。なにしろ、ゾディアーツが起こす事件はすでに国際IS委員会に知られている。
そして、仲間の助力があったとはいえ、それを解決してきたのは一夏だ。
国際IS委員会もそう見ているかもしれないし、そうなのであればやめるということが簡単ではないかもしれなくなってくる。
むろん、これらは全て憶測でしかない。かといって、無視出来るものでも無いのも事実なのだが。
「ま、話してるだけじゃどうにもならんさ。何をどうするかは、その時じゃないとわからない時もあるしな」
「それは――」
「ああっ!?」
 士の言葉に一也はうつむき、一夏はそんな彼を心配そうに見つめていた。
一也とて士が言いたいことがわからないわけではない。事実、事態は色々と動いている。
その時に考えていたことが、後になったら出来なくなったということもありえるのだ。
だからこそ、一也は言い返せない。そういうこともありえるのだから――
そんな時だった。何かが落ちる音と共に悲鳴が聞こえ、その方へと全員が顔を向ける。
その先にはチャーハンを食べていた男性が両手の甲を両頬に添えるような形でなにやら驚いた顔を見せていた。
「もう少しで新記録だったのに――」
「あんたは普通に食べれないのか?」
 と、そんなことを漏らす男性。良く見ると更にあったチャーハンはわずかにしか残っておらず、立っていた旗が倒れていた。
なお、残っているチャーハンを見る限り、物理的に立つのは無理という量しか残ってなかったが。
それを見てか、士は呆れた様子を見せていた。
「こういう食べ方が醍醐味なのですよ。さて、仮面ライダースーパー1の沖 一也君。
そして、仮面ライダーフォーゼの織斑 一夏君。初めまして、私はデンライナーのオーナーを務める者です」
「え?」「な!?」
 と、その男性がナフキンを外してから杖を持って立ち上がり、そんなことを言い出す。
そのことに一夏は目を丸くし、一也は驚きの顔を見せた。
まぁ、自分達の名前だけでなく、自分達が仮面ライダーであることを知っていたのだ。
故にそのことを知る男性の言葉に驚き、警戒したのはある意味当然とも言える。
それにデンライナーのオーナーと言われてもなんのことかわからないというのもあった。
「なぜ、私があなた方のことを知っているかは、いずれお話ししましょう。
ですが、その前に言っておくことがあります。あなた方の仲間をお呼びなさい。
イマジン達はこの世界の歴史を変えるべく、総攻撃を仕掛けてくるでしょう。それに備えておくのです」
「な、ま、待ってくれ! 歴史を変えるとはどういうことだ? あなたはイマジンのことを知っているのか?」
 フォトショップの出入口に向かいながら話す、デンライナーのオーナーと名乗る男性。そのことに一也は慌てて問い掛ける。
オーナーの話を聞く限り、イマジンの目的を――もしかしたら、正体を知っているように聞こえたからだ。
「イマジンとはこの世界とは別の世界の未来から来た存在です。しかし、同時に彼らはあまりにも不安定な存在でもあります。
ですから、イマジン達は自分達の存在を確立し、同時に自分達の世界を得る為にこの世界の歴史を変えようとしているのです。
すでにその方法をイマジン達は得ています。エネルギー体を求めたのは、その方法を早める為でしたがね」
「別の世界の未来?」
 出入口の前で話すオーナー。一方で一夏はその話に首を傾げる。というのも、あまりにも不可解なのだ。
イマジンの目的もそうだが、その正体――別の世界の未来から来たというものに。
ハッキリと言ってしまえばうさんくさいとしか言いようがない。故に怪訝な顔をしたのも当然と言えた。
「その辺りのことは先程のことも含めていずれお話しますよ。それはそれとして、イマジン達の準備は整いつつあります。
そしてその時が来たら、イマジン達は総攻撃を仕掛けてくるでしょう」
「な、なぜそんなことを?」
「理由はあなた方です。過去へ飛ぼうとした時、あなた方に邪魔をされると考えているでしょうからね。
だから、その前にあなた方を倒して憂いを除き、過去へ飛ぼうとするでしょう。その為の総攻撃です。
いかにあなた方が戦えると言っても、数の暴力に抗うのは難しいでしょう。ですから、仲間を呼んでおいた方がいいと言っているのです」
「「な!?」」
 出入口のドアを開けながら話すオーナーだが、戸惑いながらも問い掛けた一也と一夏はその光景に目を見開いて驚いた。
それは外で様子をうかがっていた千冬達も同じであった。というのも、一也達から見れば外の景色が。千冬達からはフォトショップの店内が。
その開かれたドアからそれらが見えるはずだった。だが、見えたのはまったく別の物。
虹色の空にどこまでも続く砂漠。そんな景色が双方から見えたのである。
その景色の中へとオーナーが入っていくと、白い列車のような物が走るのが見えて――そこでドアが閉まってしまう。
「あ、待ってくれ!?」
 ドアが閉まると共に正気に戻った一也が慌ててドアを開けるが、その先にあったのは外の景色と呆然としている千冬達の姿だけ。
あまりのことに一也は戸惑い、立ち尽くしかなかった。
「やれやれ、少しはのんびり出来るかと思ったんだがな」
「き、君達は……何者、なんだ?」
 どこか呆れた様子でため息を吐く士。そんな彼に一也は戸惑いを隠さずに問い掛ける。
士の様子を見れば、何かを知っているようにも思えたからこその問い掛けであった。
「そうだな。一言で言うなら、あんた達の味方だよ。先輩」
「味方? 先輩?」
 それに対し士は笑みを浮かべながら答えるのだが、それを聞いていた一夏は訝しげな顔をする。
味方……というのは疑いはするが、それ自体はおかしくはない。問題は先輩という言葉。
なぜ、一也が先輩なのか? 一夏にはそれがわからなかった。そして、それは一也も同じであった。
「先輩とは、どういうことだ?」
「そうだな。話すのは簡単だ。だが、信じてくれるかは別問題。だから、その時が来たら、行動で答えるよ。
そういうわけで、オーナーの言うとおり仲間を呼んでおいた方がいいぞ。俺はこれ以上の面倒はごめんだからな」
 睨むように問い掛ける一也に対し、士は少し考えてから真剣な顔で答える。
そのまましばらくの間2人は互いを見つめ続け、その様子に一夏は息を呑んでいた。
一触即発――そんな状態かと一夏が思った時、一也は深いため息を吐く。
「色々と疑わしいことはあるが、そうした方が良さそうだな。行こう、一夏君」
「あ、はい……」
 一也の言葉に一夏は戸惑いながらもうなずき、そのまま2人でフォトショップを出ようとして――
「織斑 一夏。お前はなんの為に仮面ライダーになろうとする?」
 不意に士がそんなことを問い掛けてきて、2人は思わず立ち止まってしまう。
一夏はその問い掛けに悩むかのようにうつむくが、少しして士へと顔を向けた。
「助けなきゃいけない人がいたら、その人を助けられるように――
そして、自分がどんな仮面ライダーになりたいのか、その答えを見つける為です」
「なるほど。じゃ、答えておこう。お前さんはその答えをすでに持っている」
「え?」
「もっとも、お前さんはその答えに気付いてないようだがな。
その答えを知りたきゃ、たまには立ち止まって周りを見てみな。そうすりゃ、その答えが見えてくるはずだ」
 士の言葉に答えた一夏は首を傾げる。
士が何を言いたいのか、わからなかった。だが、なにか大事なことを言っているようには思えてならない。
それは一也も同じ考えであったが、気になることもあるので一夏を促し、共にフォトショップから去ってしまう。
一方で千冬達はフォトショップでの出来事が気になりながらも、一夏のことが気掛かりな為にその後を追うのだった。
「いいのか? どう考えても怪しまれたぞ?」
「今回は相手が相手だしな。どのみち怪しまれただろうし、こういう時もあるさ」
 一夏達が去って少ししてから、コーヒーを運んできた女性の言葉に士は肩をすくめながら答えていた。
今までもそうであったが、一也は今まで以上に警戒心が強い者だった。といっても、彼が何者かを考えたら当然でもあったが。
だからこそ、士はこのような状況は仕方がないと考えている。その一方でサプライズ的なものも考えてたりする。
そのサプライズとはなんなのかは――それはその時になったらとわかるとだけ言っておく。
なお、オーナーにはその為にあることをお願いしていたが、ここでの出来事はオーナーのアドリブだったりすることを話しておこう。
「あ――」
「ん? どうしたんですか、叶さん?」
 何かに気付いて声を漏らす叶に女性が振り向く。士も気になって顔を向けたが、叶はある方へと顔を向け――
「コーヒーのお代、もらい忘れちゃった」
「そういや、コーヒーも飲んでないな。こりゃ悪いことしたかな?」
 叶の呟きに士もそのことに気付く。
事実、一夏と一也が座っていた席のテーブルには湯気が立つコーヒーが2つ、置かれたままだったのだから。
そのことに士はコーヒーを少し飲ませてから声を掛けるべきだったか? なんてことを考えるのだった。




 あとがき
というわけでお久しぶりです。今回は中々筆が進みませんでした。
といってもスランプというわけでなく気持ち的な問題で、ワープロソフト開いても書く気がまったく起きないという――
なんだそりゃと言われそうですが、ここしばらくはそんな感じだったのです。
まぁ、ここしばらくはごたごたしてたのもありましたが――

さて、今回のフォーゼは特別編。特別編なのに内容が薄いとはこれいかに?
うん、書くたびにテンション違うから、なんかちぐはぐになってます。後で直しておこう……
そんなわけで一夏にとって恩人である一也の登場。一也は一夏に普通に生きてもらおうと思っているようですが。
そんな中で士君は相変わらずの様子。これがはたしてどんな結果をもたらすのか――
次回は後編。なんというか、いきなりクライマックス? になるといいなぁ……
というわけで、次回またお会いしましょう。



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