あいつがガンダムを造り直したら、こうなりました/中編
その頃、ある空域をガウ改2隻とガルダ2隻が飛んでいた。
「司令、現在の速度で行きますと目標まで後1時間弱で到着します。”例のモノ”も今、飛び立ったとのことです」
「ふむ、予定通りだな」
ガウ改のブリッジの中で乗組員の1人から報告を受けるのはジオン軍の佐官クラスの軍服を着た初老の男性である。
目的はシンジ達がいる前線基地を襲撃するため。といっても、このまま行っては返り討ちに遭うのは目に見えていた。それ故にある方法で襲撃しようと考えていたのだ。
それは何か? その時、彼らが乗る艦1km程離れた横に巨大な影が現れたかと思うと、その形を認識するよりも前に彼方へと飛び去ってしまう。
「ふん、役立たずの屑に最期の華を添えてやったのだ。精々、派手に散るといい」
それが通り過ぎることで起きたソニック・ブームの衝撃で揺れるガウ改のブリッジの中で、その男は卑しい笑みを浮かべるのであった。
その頃、黒江はシンジと共にガンダムに乗っていた。そう、結果として黒江の願いは聞き入れられた。ただし――
「一応、限界機動のテストもしますので、レーバテインのアンダースーツを着ておいてくださいね」
というシンジの言葉にレーバテインのアンダースーツを着てくることとなったのだが、黒江としては問題は無いに等しい。
というのもシンジの様子から下心のような物は感じられないし、実機テストをするのだから用心するのもわかる。レーバテインのアンダースーツは単体でも優秀な耐Gスーツとなり得る。
ただ、黒江としては見くびられてる感じがして面白くは無い。バルキリーやゲッターに乗った経験がある上に自身が黄金闘士でもあったので、大抵のGには耐えられる自信があったのだ。
それ故の考えだったのだが、現代版ファーストガンダムに乗ったことでそれは間違いであったことに気付かされる。
というのも――
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ――」
通常のMSでは感じたことの無いGに思わず声を出してしまう黒江。そう、間違いだったのだ。自分もMSに乗っているだけに、そういう物だろうと思い込んでしまったのだ。
が、このファーストガンダムは違った。MSでも急制動などで強烈なGが掛かることは黒江だって経験している。それが今、絶え間なく感じられるのだ。
しかも、それがただ飛んでいるだけで――完全に予想外だった黒江にとって驚きと共に戸惑いでもあったせいもあって、声が思わず出てしまうのだ。
更にはコクピットの狭さもその感覚に拍車を掛ける。シンジ曰く、「ガンダムを再現してるので、当然コアファイターもありますよ」とのこと。
といっても本来のコアファイターのコクピットよりも広くはなってはいるがそれでも通常のコクピットよりも狭く、黒江はシンジが座る座席に密着に近い形でサブシートに座っていたのだ。
余談だが、コクピットは何気に全周囲モニターだったりする。
「あ〜、こりゃ量産機に使う時は慣性制御とかにパワー回した方が良さそうですね」
『というか、マッハ4に耐えられるMSは最新型のガンダムくらいだと思うのだが?』
一方、シンジは穏やかな表情のままでそんな感想を漏らしていた。黒江ですら戸惑うGの中で――パイロットスーツでは無く、普段着のラフな格好なままでだ。
これは黒江にとっては驚き以外の何物でも無い。確かに黒江も自身の体を使っての戦闘では音速どころか光速すら出せる。しかし、それはクロスなどの補助があるからこそ耐えられるのだ。
しかし、シンジは着ている物は明らかに普通の物だし、シンジ自身何かしらの力を使っているようには見えない。なのに普段通り……それどころかGをまったく受けてないように見える。
その光景に黒江は驚きを隠せずにいたのだ。いったい、何をすればこのようなことが出来るのかと――
そんなシンジに合成音でそんなことを言ってきたのは計器等を表示する小型モニター横にスマホスタンドのような物に固定された、これまたスマホにしか見えない物であった。
そのスマホには表情のような物が表示されており、話す言葉に応じて表情の表示を変えている。このスマホの名前は『セブン』。シンジ曰く、某特撮ドラマを参考に作ったAIマシンである。
なので、必要に応じて折りたたまれてる手足を展開し、自律行動も可能なスマホなの?的な物であった。
シンジがなぜセブンを作ったのか? それは連邦軍のパイロットの生存率を高める方法の1つとして、シンジが考えたからだ。
実の所、パイロットが操縦の際に求められるスキルは意外と多岐にわたる。FPS系のゲームをやったことがある人ならわかると思うが、移動しながらレーダーなどで索敵をしつつ動き回り、敵を見つけたら照準をして攻撃。
言葉にすると簡単であるが、同時にでは無いにしろ全てをこなすのは簡単に出来る物では無い。実際、1つの敵に気を取られて他の敵に撃たれるというのは珍しくも無い話だ。
それを避けるべくシンジが考えた方法がサポートAIによるパイロットの補助であった。補助と言っても行うのは主に索敵とパイロットの音声による火器管制のコントロール。
それだけなのだが、例えば1つの敵に集中していても、それとは別に脅威度が高い敵が現れれば即座に警告してもらえる。音声で使用したい武器を言えば、切り替えてもらえる。
それだけでもパイロットの負担は軽減されるのである。むろん、レーダーに関しては似たような機能はあったのだが、サポートAIによってより正確な情報が得られるようになるのだ。
これだけ聞くとなんでやってないの?と思われるかもしれないが、以前連邦ではゴースト事件があり、そのせいでAIに対する禁忌感が高まってしまったのである。
そのことにシンジはサポートAIを受け入れてもらえるよう試行錯誤しており、セブンはその雛型とも言える存在なのであった。
なお、セブンのようなスマホ型以外にもハロやタブレット、果てはフィギュア型まで予定してたりする。
ちなみに余談だが、セブンは実質的にはAIでは無かったりする。その辺りの話は機会があればすることになるのだが――
「マ、マッハ4って……MSが出せる速度じゃねぇぞ!?」
「いや、これでも巡航速度より少し遅い程度なんですがね」
「更にありえるかぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
さて、話を戻して――セブンの話に驚く黒江だが、シンジの言葉に絶叫する羽目となる。そう、MSでは考えられない速度なのだ。
宇宙空間ならまだしも、ここは地球――すなわち大気圏内。空気抵抗などでそこまでの速度を出すとなれば、それこそロケットかバルキリー、もしくはコスモタイガーくらいである。
それをMSが成すなど、普通に考えたらあり得ないのだが――シンジに言わせるとちゃんと研究が進んでいたらMSでも可能だという。
事実、V2ガンダムのミノフスキードライブも理論値では亜光速に達することが出来ると言われている。無論、様々な条件が重なった上での話であり、実際にそこまで達するのは無理なのだが――
”ミノフスキー粒子とはなんなのか?”を理解していれば可能だと、シンジは後の技術者達に伝えていたりする。
ともかく、こんな調子で飛行を続けていたシンジ達のガンダムであったが――
「あれ? あれって、ゼーゴックじゃありません?」
不意にシンジがそんなことを言い出す。黒江は言われてシンジが視線を向ける方に顔を向けるが、何も見えない。レーダーにも何も映っておらず、何を言っているんだと思ったのだが――
ちなみにだが、黒江はゼーゴックとは何かをほぼ知らない。昔、そのような名前のMSがいたかな?程度の知識しかなかったのだ。
ともかく、直後にガンダムが動き、シールド裏にマウントしていたビームサーベルを右手に取らせると即座にビームの刃を生み出した。
「お、おい、何を――」
シンジの行動に黒江が戸惑った時、全周囲モニターの前方方面で黒い点らしき物が見える。
なんだと黒江が思った瞬間、シンジはガンダムが持つビームサーベルを振り抜いた――その瞬間であった。
「な!? なん――」
突如、巨大な――シンジ達が乗るガンダムよりも大きい何かが現れ、そのままガンダムの横を通り過ぎようとする。それこそ、瞬く間という言葉に相応しい程に。
この時になって黒江も注視することが出来、それによってようやくその巨大な物の正体を見ることが出来た。それは巨大すぎる弾頭だった。
拳銃の弾丸をそのまま大きくしたような形をしており、後方で巨大な爆炎を上げている。一見すると拳銃の弾丸の形をしたミサイルにも見えた。
そして、その弾頭の上部に添えられるような形でズゴックの姿が見える。といってもズゴックその物では無い。脚部はブースターらしき物になっており、右腕も本来の腕では無くライフルのような物になっていた。
その姿を確認した瞬間、黒江はシンジが何をやったのかを理解した。そのズゴックらしき物と巨大な弾頭を繋ぐパーツをガンダムに持たせたビームサーベルで斬り裂いたのだ。
「セブン、2連装ビームライフルを連射モード、他も稼働。照準は手動で!」
『了解』
それと共にシンジは指示を飛ばし、セブンが返事をすると共にガンダムはビームサーベルをマウントし直しつつ、すぐさま体勢を整えて全火力を放った。
右肩のビームキャノンで巨大な弾頭のような物を撃ち抜き、ミサイルと2連装ビームライフルで落ちていったズゴックらしきMSに向けて幾度となく撃ち込んでいく。
巨大な弾頭のような物はビームキャノンに撃ち抜かれると爆発が起こり、その直後に推進力となっていた爆炎が消えて落下していく。
一方でいくつもの爆発がズゴックらしきMSが落下していった先で起き、その光景に黒江は容赦が無いと感じてしまう。
その直後、シンジはガンダムを振り向かせ、ビームキャノンをどこかへと向ける。その行為に黒江がいぶかしんだ時、それは起きた。
「え? なんだ……これ……」
その現象に黒江は戸惑った。何が起こったかと言えば輝いていた。ガンダムの周囲が、コクピット内が、緑色に輝く粒子に包まれるような形で。
その粒子自体、黒江になんらかの影響を与えているわけでは無いのだが、光景故に戸惑いと不安を感じたのはいたしかたなかっただろう。
だが、次第にそれらを感じなくなる。緑色に輝く粒子から、力強さを感じたから――
その直後、ビームキャノンから一条のビームが放たれる。先程とは撃ったのとは違い、輝きが強すぎるビームが――
行ったのはそれだけ。ビームを放った直後に先程の輝きは消えるとシンジはすぐさまガンダム振り向かせ、落ちていったズゴックへと向かい飛んでいく。
「お、おい、どこに行くんだ?」
「落ちていったゼーゴックですよ。ちょいと気になることがありましてね」
シンジの突然の行動に黒江はビームのことも気にしながらも問い掛けると、すぐさまそんな返答が来た。
しかし、そのことに黒江はいぶかしむ。ゼーゴックとは先程のズゴックもどきのことだとはわかったが、気になる所があるとは思えなかったからだ。
それに先程、シンジが撃墜したはずなのに――その時はそう考えていたのだ。この後、黒江は更に思い知ることになる。
シンジのあまりの異常さに――
あとがき
というわけで、後編のはずが中編となりました今回のお話……あい、すいません、私の見込み不足でした。
最初は本気で前後編で書いてたつもりなのですが、前編での区切り方が中途半端だったみたいで……結果、後半をそのまま載せると逆に長くなってしまうという――
そんなわけでこんな形になってしまいました。いや、マジで申し訳ない。後半は鋭意執筆中です……コミックスの幼女戦記読んだおかげで余計な設定を思い付いてしまったが……(え?)
それはそれとして、今回のお話は……前もって言っときますが、シンジ君はニュータイプでは無いです。というか、人でも無いのですがね(え?)
それに関しては次回にて。というわけで次回は後編……は、本気でいつになるやら――
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