大勢の生贄を求めて時が流れ出す
その激流の中で俺はどれだけの人々を救えるだろうか
俺はどれだけの事を成し得るだろうか
分かっている事は彼等となら何処までも歩いていける事だろうか
ならば成すべき事は唯一つ彼等と共に生きていこう
この火星の大地でやがて来る平和のために
僕たちの独立戦争 第6話
著 EFF
子供達を救出して 一ヵ月後
―――テニシアン島 会議室―――
『以上が現在この島の、防衛体制になります。
アクア様、グエンさん』
設置されたモニターに映る正確な島の防衛体制にグエンたちSSメンバー声がでなかった。
この一ヵ月前この島のジャンプアウトした。
ユーチャリスより放出されたバッタやジョロを改修した工作機により、
テニシアン島の要塞化が急ピッチで進められて、
その完了の報告がダッシュによりなされた。
現在ユーチャリスは無人工作機を回収し土星軌道上に戻っている。
「……見事ですね、ダッシュ。いい仕事してますね♪」
報告を見たアクアは楽しそうに笑っていた。
『はい♪、アクア様とマスターの為に腕を存分に揮いました。
グエンさん、どうですか♪』
「…………………………………………………………………………………………………………」
呆然と見ていたグエンに問題があったのかと思いダッシュは聞いてみた。
『もしかしてお気に召しませんでしたか、グエンさん』
「いや、一ヶ月でここまで出来た事に驚いているんだよ、ダッシュ」
『いえ、マスターがここにいる事が分かった時から設計していたからこそ一ヶ月で出来たんです』
「それでもよく出来てますわ、ダッシュ。ご苦労様でした」
『はい♪、これも子供達の安全を確保する為です。
アクア様、グエンさん不備がでたら直に連絡して下さい』
「特に問題は無さそうだし、とりあえずこの状態で変更する時は連絡するよ、ダッシュ」
『はい♪、訓練シミュレーターを設置出来たのいつでもラピス達と遊べるので嬉しいです♪』
「まぁご機嫌ねダッシュ。
……この場で皆さんに伝える事あるので聞いて下さい」
集まった全SSメンバーを前に、真摯な顔でアクアは告げた。
「私の我が侭で皆さんに余計な負担をかけてしまい申し訳ないですが何卒あの子達を護って下さい。
私やクロノはこれからあの子達の側には何時もいられません。
皆さんに頼る事になりますが無理はしないで下さい。
生きていれば何とかなる事もあります。
命を粗末にする様な事は止めて下さい、お願いします」
この言葉を聴いてここにいる者たちは仕える主が成長なさった事を嬉しく思った。
アクア様の笑顔を守り続けよう、それが私達の仕事だと。
「アクア様、ご安心を必ずお子様たちの身はお守りしますので存分に動かれて下さい」
『まかして、アクア様!
ダッシュがいればみんなをサポートするから♪』
「そうです、アクア様。
あとは我々に任せてお子様の元に行かれて下さい」
「……そう、では後はお願いするわ。
ダッシュ、グエン、皆さん、でも無理はしないで下さいね」
アクアが退出して、暫くしてからグエンはダッシュに尋ねた。
「ダッシュ、実際のところどうなんだ。俺は立場上最悪の事態も想定しないといかんのだが」
『……多分、北辰クラス以外は大丈夫だと思う。
アレは規格外だから』
現在の状況を考えて一番危険な人物をスクリーンに見せてダッシュは話した。
「北辰、誰だそいつはかなり出来るのか」
『うん、かつてのマスターの宿敵でラピスを誘拐した大嫌いな奴。
アイツのせいでラピスが壊された』
「……それは感情がなくなった事か」
『そう、マスターに会うまではほとんど感情がなく。
まるで人の姿をした機械人形だったよ』
「…………ひどいなそれは。でも今のラピスちゃんは違うだろう。」
『うん。ラピスは前以上に好きだよ♪
だから守りたいな、グエンさん』
「……あぁ守るさ、ダッシュ。
……木連だったかな、そんなに酷いのか」
『うん、ゲキガンガーが聖典だったからか、
それに上が自分の正義が絶対の物と考えてる人だからとにかく今考えても異常な国だと思う。
だから正義の名で火星の住民を無人兵器で殲滅しても平気な顔をしてたんだと思う』
「すまんが、俺は元軍人で陸戦協定(戦争での最低限のルール)を一応知っているが、
木連は遵守しなかったのか」
『そんな事守るなら火星の住民3000万人は生きてるよ。
あの時代で生き残ったのは100人もいないよ。
そんな人達だから平気で人体実験するんじゃないか、グエンさん。
それに地球の軍隊は火星の住民を見捨てて地球に逃げ帰ったんだよ、
だから助けたいんだよ一人でも多くの人を』
「………と言うわけだみんな、
クロノが未来から来た事は知っているがこの事は内密にしてくれ、アクア様の為に」
グエンの言葉にSSメンバーが頷き、決意を新たにした。
『それではグエンさん、私はラピス達と遊ぶので何かありましたらコミュニケで連絡を』
「あぁ、またな、ダッシュ。
……みんな、汚い手を平気で使う者達だ。
対策を各自でも考えてくれ、解散」
グエンの声にSSメンバーは各々で対策を考えながら部屋をあとにした。
バルコニーでクロノとアクアはこれからの事を相談していた。
「クロノ、火星にはいつから行かれますか、
どんな方法で味方を作りますか、私に教えて下さい」
「……そうだな、アクアには言うべきだな。
まず中央都市のアクエリアコロニーの市長のエドワード・ヒューズに会おうと思う。
彼はIFSを持っているのでIFSを使って火星の惨劇を見せるつもりだ。
彼には過去を見てもらうが他の人達には見せない。
いずれ主要スタッフには話すつもりだがな。
また火星の独立を宣言している武装団体『マーズ・フォース』のリーダーのレオン・クラストと会う事にする」
「そうですね、エドワードさんなら真実を知れば必ず力になってくれますね」
「知っているのかい、アクア。
どんな人物だい、エドワード・ヒューズは」
「そうですね、お爺様の友人のお孫さんで子供の頃に二度、16歳の時が最後でしょうか。
清廉潔白で人の痛みを知る人でクリムゾンには珍しい人なのでよく覚えていますわ。
意外な事には綺麗事だけじゃなく、
現実的な対応も出来る方ですからこの事実を知れば必ず協力してくれますわ」
「そうかアクアがそこまで言うなら大丈夫か。
クリムゾンとの繋がりはどうなんだい」
「いえ、どちらかと言えばクリムゾンを嫌ってますので私によくしてくれたんだと思います。
『クリムゾンが嫌になったら火星に来なさい、後は私が何とかするからいつでも頼りなさい』
と言われましたから」
「そうかよかったな、アクア。
いい人が居てくれてアクアは一人じゃなかったんだね」
クロノが笑いかけるとアクアも嬉しそうに微笑んだ。
「はい、ですから私の名でお会いしてください。
連絡しておきますから、プライベートなら邪魔は入りません。
是非説得して下さい……生き残って欲しいので」
「あとは、イネスさんをどうするかだな。
どうやってこちらに引き込むかだな」
「……一つあります、汚いやり方ですが確実でしょう。
イネス、いえアイちゃんに『みかんのお兄さん』でお会いすればいいと思います」
「確かにそのやり方なら確実だな。
すまないな……アクアに嫌な事を言わせてしまったな」
気まずそうにアクアに話すクロノにアクアはからかうように話した。
「気にしないで下さい、クロノ。
イネスさんは私達には必要な人ですし、この際浮気してもいいですよ、クロノ♪」
「……何故そうなるんだ、アクア。
そんな事しないから信用してくれ。
それに俺達の体の事もあるしな。
俺のナノマシンが原因でアクアがジャンパー化した以上、
俺のナノマシンがジャンパー化の鍵になるからな」
「……知っていたんですね、クロノ」
「まあな、アクアが単独ジャンプ出来るはそれしかないし、
ダッシュ経由の簡易リンクもそれしかないからな」
「そうですね。やはり分かりますよね、クロノ。
どうしますかこの事は秘密にしますか」
「いや、アイちゃんに負担を掛けるけど協力してもらうよ。
厄介事ばかり増えるからのんびりできないな、アクア」
「大丈夫ですよ、アイちゃんなら頼りになりますよ。
大好きなお兄ちゃんの為ですもの♪」
「だからカンベンして下さい、アクアさん。
ホントに信用してください……」
「信用してますよ、アナタ♪
でもイネスさん研究一筋だから子供が出来ても、
私が面倒見ますから大丈夫だし、何か気があいそうですもの♪
ちなみに他の人は許しませんよ、クロノ。
……あの時代で最後まで支えてくれた人だから許すのですから」
「……迷惑ばかりかけたからな、俺は」
あの時代でイネスにかけた迷惑の数々を思い出してクロノは悪い事をしたと思う。
「……そうです。心配をかけたから、優しくしてあげて下さい」
自分以上ににクロノを大事に思っていた女性に敬意を表していた。
「クロノ、私はお爺様に会おうと思います。
お爺様の協力があれば、ノクターンコロニーとその周辺にあるクリムゾンの実験施設が使用できます。
これらの施設が使えれば兵器関連の問題はかなり解消されると思います」
「そうだな、アカツキがどう動くか分からんからな。
クリムゾンの協力があれば第一次火星会戦での被害を抑える事も可能だな」
「ええ、それにマーズ・フォースを味方にすればパイロットの問題も解決できそうですね」
「確かにパイロットの育成は急務だな。
ブレードはエステと違い訓練が必要だからな」
「火星独自の守備隊だけでは足りませんよ。
兵士は徴用してきちんとした訓練をして初めて使えるものになります。
準備期間が足りませんからマーズ・フォースのメンバーがいないと人員不足で活動も満足にできません」
「あと五ヶ月か、急がないとな」
ここに至って時間の足りなさに、二人は深刻な状況だと感じていた。
そんな緊迫した空気を破るようにセレス達がクロノ達の元に来た。
「「パパ―――、ママ―――」」
「うぉっとっ」 「きゃっ」
ラピスがアクアに、セレスがクロノに抱きついた。
「ダメですよラピス様、セレス様。危ないですからね」
マリー優しく叱るが、二人は反省してないようだ。
「「はぁ――――――い」」
「クオーツは何処ですか、マリーさん」
辺りを見てクオーツがいないのでクロノはマリーに聞いた。
「はい、医務室のドクターに百科辞典を返しに行っておられます、クロノさん」
「百科辞典ですか、好奇心旺盛のようですね。クオーツは」
「はい、昔のアクア様のようにやんちゃで困ってます。
目を離すと何処に行かれるかわかりませんから」
「そうですか、クオーツはアクアに似てますか」
セレスの髪を撫でながらクロノはそう呟いた。
「マリー余計な事は言わないの」
ラピスを抱き上げながらアクアはマリーに言った。
「「クオーツは、ママに似ているの」」
二人の問いにマリーは楽しそうに答えた。
「ええ、やんちゃですがイタズラしてないからいいですが、イタズラ好きならお尻ペンペンですよ」
「「やだっっ」」
二人は怯えるように答えた。
「大丈夫ですよ、いけない事をしなければしませんよ。ラピス様、セレス様」
「「ほんとに」」
「ええ、しませんよ。いい子にして下されば約束しますよ」
「「なら、いい子でいる」」
「……マリーさん、アクアも叱ったんですか」
「アクア様のお尻は白くて叩きが「マリー、ダメ!!」」
アクアの大声がマリーの声を遮った、アクアは顔を赤く染めていた。
「「……ママ、たたかれたの」」
「…………とっても痛いから怒らせてはいけませんよラピス、セレス」
「「……うん、分かったママ」」
クロノはこの瞬間、この館の真の支配者を理解した。
「クオーツはドクターに懐いているんですか、マリーさん」
「ええドクターはああ見えても常識人で博識ですからクオーツ様のいい先生ですよ、クロノさん」
「そうですか。
………マリーさん、どうして二人はゴスロリなんですか?」
二人は何故か黒のゴスロリ服を着ていた。
二人の容姿も合わせてまるでお姫さまのようだった。
「……クロノさんのせいです」
「俺のせいですか、何かしましたか?」
「普段から黒の服ばかり着られるのでお子様たちが真似をするのです。
そう思うのなら少しは違う服を着てくださいクロノさん」
「そうですね。
火星では目立たないように普段着は私がコーディネートしますから、
それを持っていって着て下さい、クロノ」
「……そんなに変かな、アクア」
「ええ、逆に目立ちますから気を付けて下さい。
あの3年間で感性が狂っていますから気を付けて下さい」
その時、クオーツが部屋に入ってきた。
「ただいま、お父さん、お母さん」
「お帰りなさい、クオーツ。ドクターのお話は面白いですか」
「お帰り、クオーツ。楽しかったか」
二人の質問にクオーツが笑顔で答えた。
「ウン♪、ダッシュもいいけどドクターのお話も面白いよ。
知らない事をいっぱい教えてくれるんだよ♪」
クロノが優しく頭を撫でるとクオーツは嬉しそうに目を細めた。
「お母さんの小さい頃のお話とかも話してくれたよ。
それでお母さんのイタズラは真似しちゃいけないっていわれたよ。
マリーお祖母ちゃんがとっても怒ってお尻ペンペンされてとっても痛いぞっていわれたよ。
なんでもお母さんのお尻が真っ赤になって大声で泣いてたからって笑いながら教えてくれたよ」
「……ドクター、余計な事を教えないでくださいね」
アクアが顔を赤くしてから真っ青になりながら呟いた。
それからクオーツはとんでもない事を口にした。
「あとドクターがね、
『お前さんも、クロノみたいに自覚のない女たらしじゃから気をつけろ』って言ってたけど、
それだけがよく分からないんだけど、
お父さんわかるかな」
「ん……俺にも分からんし、ドクターの冗談かな。笑えんが」
「……そうなのかな、でもお父さんと一緒ならいいかな」
「……そうだな、
お父さんと一緒なら大丈夫だな、クオーツ」
「うん!! お父さん♪」
この二人の会話を聞いてアクアとマリーは顔を青ざめた。
(そっそんなドクター本当なんですか?
嘘ですよね、冗談ですよね。洒落になりませんわ)
(やはりそうでしたか。
クオーツ様は素材がよくて男を磨く環境もいいですから将来修羅場にならないといいんですが………。
しかしこの場はこれまでにして後日アクア様と対策を練りましょう。
今なら間に合うはずです、ええ間に合わせてみせますともきっと)
「それでは、お夕食にしましょう。アクア様、クロノさん」
「そうだな、みんな先に行ってくれ。
直に行くから手を洗って待っていなさい」
マリーに連れられて食堂に行く子供達を見ながらクロノはダッシュに問いかけた。
「ダッシュ、お前の事だ。
IFSを通じて子供達の健康状態を検査していたはずだ。
この一ヶ月で何が分かったか、説明してくれ」
「クロノ、どういうことですか。子供達に問題があるのでしょうか」
『研究所のデーターからラピス、セレスの二人は問題がありません。
クオーツは胚の状態の時に遺跡からのナノマシンを使用しているので
おそらくB級またはA級ジャンパーである事が確認されました。』
アクアの顔が青ざめ、沈黙が続く中クロノの声が響いた。
「一つ聞きたい。何故ジャンパーのクラスが特定できないんだ、ダッシュ」
『マスターもアクア様も遺伝子を変えられすぎている為、
判別するには他のジャンパーの比較データーが必要です。
ですがこれによりジャンパー化のナノマシンのデーターを特定することが容易になりました』
「ですがあの子の危険が増えましたマシンチャイルドにして人工ジャンパーですから」
「秘密が増えるばかりだが、あの子が自分を守る手段を知っていればいい。
幸いあの子の好奇心を利用して俺の技を全て伝えれば生き残れるさ、アクア」
「そうですね、自衛の手段があればいいですし、イネス博士に期待しましょう」
「さっ食堂に行こう。
子供達が待っている。俺が守るから大丈夫さ」
クロノはアクアを慰め、ともに食堂まで歩き出した。
アクアはクロノの腕に手を絡め祈るように願った。
(私を救ってくれたように、この手があの子達を守ってくれますように)
そして一月後、2195年7月21日
火星アクエリアコロニー、エドワード・ヒューズ邸
「初めまして、エドワード・ヒューズです。
こっちが妻のジェシカ、そして娘のサラです」
穏やかに微笑みながら二人をクロノ達に紹介した。
「初めまして、クロノと言います。
これは息子のクオーツ・アンバーです」
クロノの隣にいたクオーツは初めて入る人の家に周囲をキョロキョロと見ていた。
そんなクオーツをジェシカは微笑ましく思っていた。
「よろしく、クロノさん、クオーツ君。ジェシカと言います」
「……サラです、よろしく」
母親の後ろに隠れるサラをクロノは優しく微笑み、クオーツは父親直伝のスマイルを見せた。
「うん、よろしくね。サラちゃん♪
クオーツ・アンバーだよ♪」
「……うん、よろしく」
どうやら効果はかなりあるようで、
サラとクオーツはヒューズ夫妻が驚く中、二人は楽しく笑いだすと話を始めた。
「じゃあ、お父さん達はお話があるから、
サラとクオーツ君はお母さんとリビングでケーキを食べましょうね」
「は〜い、おかあさん。クオーツ君行こうね♪」
「お父さん、行ってもいい?」
「ああいいよ、クオーツをお願いするねサラちゃん」
「うん、クロノおじさん。こっちだよクオーツ君」
クオーツの手を引きサラはリビングに向かい、クロノはサラの一言に時の流れを感じてた。
(お、おじさん。俺もそんな年になかったのか、いや俺はまだ若い。
しかしこれはウリバタケさんのセリフ。
なら俺も年なのか、そうなのか)
……………………………………結構ダメージがあったようだ……………………………………
煤けているクロノに苦笑しながらエドワードは声をかけた。
「大丈夫だよ、クロノ君。君は若いよ、書斎はこっちだ」
「……はい、そうですね」
二人は書斎に入ると、真剣な顔で会話を始めた。
「アクアから聞いてるよ、クロノ君。
……君に手を貸してくれと言われて正直驚いているよ。
あの子がこんな事を言うのは初めてだからね。
でも嬉しいよ、私を頼ってくれたのは。
クリムゾンの事で苦しんでるあの子を私はどうする事もできなくてな。
だから出来る限り力を貸すよ、クロノ君」
ああこの人は信頼できるこの人の目は嘘をいってない。
クロノは経験に基づきその事を理解した。
「アクアは強くなりました、クリムゾンの紅を血ではなく別の物に変えるつもりです。
そのための覚悟を決めました。
俺は最後までアクアの側にいて守り続けるつもりです」
バイザーで見えないがクロノの視線がヒューズを貫くように思えた。
「……どうやらあの子は大事な人を手に入れたようだな」
「俺にとってもかけがえのない女性です、アクアは」
「さて本題に入ろう。
私は何を手伝えばいいのかな、クロノ君いやクロノと呼ばせてもらうよ」
「それでいいですよ、ヒューズさん。
これからIFSを通して俺の記憶の一部を見てもらいます。
かなり衝撃的な内容ですので、気をしっかりもって見て下さい。
まずはそれを見てから協力するか、しないか……決断してほしいです。
しない場合はこの火星から避難してください。
する場合はこの火星と運命を共にする覚悟を持って下さい」
真剣な様子のクロノにエドワードは少し考えて話した。
「わかった、かなりの決断を迫るものなんだね。
……君の記憶は」
「はい、その決断にご家族を含む火星住民3000万人の生存がかかってます。
ではよろしいですか」
ヒューズは目を閉じクロノに手を差し出した。
クロノはその手に自分の手を合わせた。
「グ、グハッ………………………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………………………………
……なっ何だこれは。
現実なのか信じられんよ、クロノ」
IFSを通して見せられた火星の未来にエドワードは信じられずクロノに聞き返すがクロノは、
「ヒューズさん、これがこれから起きる火星の悲劇です。
生き残る事が出来るのはわずかな数でむしろ生き残る事が悲劇かもしれません。
俺は未来から事故で戻りましたがこんな未来にする気はありません。
変えるつもりです。
できればヒューズさんのお力を借りたいですがダメならはっきり言って下さい。
いまならアクアが助けてくれます。
戸籍を変え地球で暮らせますのでお逃げ下さい」
「……エドと呼んでくれ、クロノ。親しい友人はそう呼んでくれる。
私は逃げない。全ては救えないがやれる事はやる。
逆に力を貸してくれ、クロノ。
君の経験を火星の為に貸してくれ、一緒に戦ってくるかい」
「……俺は大勢の人を殺しました。今度は救う為に戦うつもりですよ、エド」
「そうか、ではこれから計画について相談しようか。
その前に君の戸籍をどうするかだな、今の戸籍は使えんだろう。
どうする戸籍がないと拙いぞ」
これから火星で行動するクロノにエドワードは戸籍の偽造も考えた。
「そうですね、今まで気にしてなかったんですが、これからは要りますね。
ちょっと待って下さい、ダッシュ」
『マスターどうかしましたか。
クオーツは現在無事ですし、アクア様達もご無事ですが』
コミュニケから発する声にエドワードが彼がオモイカネ・ダッシュだと気付いた。
「ああ、こちらはエドワード・ヒューズさんだ。
俺達に協力してくれることになった」
『はじめまして、ダッシュといいます。エドワードさんでよろしいですか』
「ああ、エドワードだ。
君がダッシュか、驚いたなとてもA・Iには思えないな」
「ダッシュは俺の最高の相棒ですよ、エド。
じつは俺の戸籍の事なんだがどうしようかと思ってな。
それでお前の意見を聞きたくてな」
『それでしたら、アクア様と相談の上で用意しました。
火星の戸籍で『クロノ・ユーリ』25歳ユートピアコロニー在住の人物で3人の養父になります。
完璧な偽装をしていますので出来ればこのまま使って欲しいんですがよろしいですか?』
「サレナの読み方を変えたのか?
それでいいよダッシュ。
エド、とりあえずこれで行く事になるからよろしく頼むよ」
「そうか、ではユートピアコロニーを当面の拠点にするんだなクロノ。
連絡はそこにすればいいのかな、ダッシュ」
『はい、ここにすれば私経由でマスターに連絡が出来ますし、クオーツの安全を確保出来ます』
「そういえばクオーツ君の瞳は……もしかしてクオーツ君はIFS強化体質なのか、クロノ」
クオーツの瞳の色を思い出したエドワードはクロノの記憶の中に在った二人の少女を思い出して聞いた。
「……そうです。
俺とダッシュとアクアの3人で非合法実験施設より助け出しました。
他の二人の少女と共に」
「その二人はあの子の保護下のいるんだな。
ではどうしてクオーツ君をここに連れて来たんだ」
「クオーツは俺の側で鍛えなければならなかったんです、エド」
「……事情があるみたいだから聞かないよ、クロノ。
どうだろう今日は家に泊まらないか?
相談したい事があるんだ、君とダッシュに」
『マスター周囲におかしな人物も危険な要素もありません。
警戒は私がしますのでエドワードさんと計画の詳細を確認して下さい。
私の計画案は過去のデーターからの物によります。
現在の状況はエドワードさんの方が分かると思います。
特に人材は私には分かりません。
パイロット、オペレーター、戦略発案者、艦長、技術者、など多岐に渡るものは分かりません。
あと相転移エンジン、機動兵器の工場の建設などもあり、するべき事は山のようにあります」
「ダッシュ、リストを私に作ってくれ。
それを基に極秘に私が手配しよう。
優先順位は人材、まずはそこから始めよう。
12月の会戦前にオリンポス、北極冠を除く各コロニーの代表者を集めて、
クリムゾンからの警告で教えて警戒を呼びかける。
それと同時にユートピアコロニーへの救援部隊を派遣するしかないだろう」
『そうですね、ハーメルン・システムは最後の切り札ですし現状ではそれしかないでしょう
幸い小型プラントのおかげで土星衛星工場でブレードストライカーが現在1500機ロールアウトしました。
無人機動型を500機アクエリアコロニー配備すれば、安全は確保できます。
また輸送用の空母型の艦も一隻できました。
現在は戦艦を建造中です。
このまま問題がなければ会戦までに三隻出来そうです。
あとはこの戦艦で軌道上からチューリップの破壊を行い、
有人機でユートピアコロニー及びアルカディア、コンロンコロニーの救援を行うべきでしょう。
おそらくオリンポス、北極冠の二つはこちらの要請には応えないでしょうから切り捨てます。
その際に火星コロニー連合政府を樹立しオリンポスの技術者を徴用します。
その後、クリムゾンを通じて木連に宣戦布告しプラントへの報復攻撃を行い休戦へと移行します。
ナデシコが来た時にどう動くかによって休戦が終わるかもしれませんが、
その頃にはクリムゾンの工場で艦船が土星の工場で機動兵器が揃うので十分な対応が出来ると思います。
とにかくここ1年が勝負になると思われます』
「そうだな。ダッシュの言うとうりだな、この1年が全ての鍵になるな。
クロノ、ダッシュとの連絡はお前でいいのか。
出来れば相談に乗って欲しい事が出てくるからな」
『エドワードさん、私に依存しないのであれば相談に応じますので連絡して下さい。
私はデーターからの推論は出来ますが、判断は難しいので』
「ああ、安心してくれ、最後の決断は私がする。
だが判断材料は多い方がいいんだ。すまんな、ダッシュ」
『はい、それでしたらデーターを分かる限り送りますので、当てにして下さい♪』
「それでは俺は個人で動く事になるので連絡にはダッシュ経由でしてくれ、エド。
まずは火星独立を掲げるマーズ・フォースに協力を求める。
アクアがクリムゾンを通じてノクターンとその周辺の実験施設に協力を求める事が出来ればいいんだが」
「どうやら本気でクリムゾンと向き合う覚悟が出来たんだな。
あとはネルガルがどう動くかだな。
会戦を避けられると思うか?」
「多分、無理だと思うな。
あいつはまだ父親の妄執に囚われているだろうな」
アカツキを思い出してエドワードに告げると。
「そうか、軍はどうするかな」
『軍は会戦の準備を地球で行っています。
火星から新型艦は引き上げられているので、今いるスタッフもこのまま行けば敗戦後、降格されますね。
どうも軍内部の勢力争いに火星は使われるみたいです。
フクベ提督の発言力を低下させてこの戦争で甘い汁を啜るつもりみたいです』
「その資料はあるか、
マーズ・フォースに見せて火星の状況を説明したいんだ」
『はい、マスター準備は出来ています。
軍には説明しますか?』
「いや、火星の独立を優先させる事が重要だからな。
……ムネタケは今は火星にいるんだな」
『はい、フクベ提督の副官として火星におられます』
「なら時間があればあいつの性格の矯正をしておこう。
どのみち軍の改革をしなければならないだろう。
その時の布石になってくれるといいな」
「確かに今は無理でもあとで必要になるな。
逃げ出すのは将官ばかりで逃げ遅れる兵士もいるだろう。
彼らも味方に出来ればいいな」
『エドワードさんの言う通りです。
火星で育った人は残られて最後まで戦ったと資料にありました。
その人達も救いたいですね』
「そうだ。
救える限り手を伸ばしていこうな」
「では準備を始めますか。
秘書官には例のテンカワファイルを見せて協力させるが良いかな」
「秘書には悪いが火星の現実を知ってもらわないとエドの仕事を理解できないから仕方ないかな」
『そうですね、エドワードさんの秘書官には知って貰いましょうか、ですが耐えられますか』
「大丈夫だな、タフな男だからな。事態の深刻さを知れば協力を惜しまないさ」
二人の心配に苦笑するエドワードであった。
こうして夜は更けていく、火星の独立の為に
火星の住民を来るべき、悲劇より回避する為に
約束された絶望よりも、まだ見ぬ希望の為に
彼らは突き進む、強固な意志を胸に
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです
火星の話が始まります、オリジナルのキャラを出して大丈夫かな
クロノの活動も書きたいし、アクアさんの活動も書かないと
不安だらけですね
追記事項
火星編は延ばすつもりです。
一度アクアさんのクリムゾン訪問に入りますが、その後は火星編を続けたいと思います。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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