戦争とは何か
それは正義の為と言うがそれは嘘である
何故なら歴史は勝者によって作られるからだ
正義が勝つのでは無い
勝者が正義になるのだ
そして勝者が正義ではない
悪が勝者になる事もある
そしてそれは歴史が教えてくれる
僕たちの独立戦争 第十三話
著 ＥＦＦ
―――クリムゾン造船施設―――
『作業員は全員、所定の場所へ退避して下さい。
繰り返します、作業員は全員、所定の場所へ退避して下さい』
その声に作業員は退避するとドックが輝いて一隻の空母が出現した。
「こうして見るのも二度目だが、ボソンジャンプの凄さがよく分かるな。
これなら戦略も戦術も今までの概念では満足に活用できんな」
「その通りです、会長。
正直火星と戦闘するのは危険だと判断します。
正面から決戦と見せかけていきなりジャンプして後方から奇襲なんて簡単に出来ますよ。
ゲリラ戦なんてされたらまず勝てません」
側に控える秘書の意見にロバートも頷いていた。
「火星は自衛のみに戦う事しかしませんよ。
問題は相手側にあります。木連と地球が火星を道具のように扱った事が全ての原因になっています」
「確かにそうですな。
ＳＳで調査をさせましたが、地球の政治家も軍の高官も命の重さを知らん連中ばかりだよ。
長すぎる平和のせいと言えば、そうかもしれんが火星にとっては大変な事でしょうな」
火星からの客であるタキザワにロバートは答えるとクリムゾンとしての活動を説明した。
アクアが火星にパイプを作ったがクリムゾンとして協力する事で強固にしようと考えていた。
「この際、クリムゾンとしては地球の大掃除を始めようと考えています。
連合の体質改善と軍の改革をしなければ、この先火星とも戦争が始まる可能性も出てきました。
私は経済関係者を説得して地球の状況を理解させようと思っていますよ」
「そうですか、では一つ良い作戦がありますよ」
タキザワが楽しそうに話しかけるとロバートもそれに乗ってきた。
「ほう、ぜひ聞きたいですな」
「おそらくネルガルが火星に戦艦を向けると我々は考えています。
イネス・フレサンジュ博士の設計した艦を現在製作していると思われます。
彼らはこの艦で軍とは独自に行動するでしょう。
名目は火星の救助などと言いますが、実際は火星にある資料と人材の奪回が目的です」
タキザワがそこで一息つくとロバートが呆れた様子で話す。
「随分、都合のいい事を考えていますな」
「ええ、火星を滅ぼそうとしたくせに都合のいい事しか見ていませんな。
これを火星は逆手に取ろうと考えています。
この艦を使ってネルガルを罠に嵌めようと計画しています」
タキザワがロバートを見るとロバートも愉快そうに笑っていた。
「いいですな、こちらもそれに合わせて動く事にしましょうか？」
「やり過ぎないようにしないといけませんが……よろしいですか？」
「確かにネルガルを潰すのは不味いですな。
この戦争の行方が分からん以上、ネルガルを潰すと問題が起きそうですな」
「まだこちらも計画を立案中で詳細はお答えできませんが、
決まり次第ご連絡します」
タキザワが伝えるとロバートも頷いていた。
二人はドックに入ると資材を降ろす作業員と艦から降りてきた作業員がリストを渡して相談していた。
「タキザワさん」
「どうした、トラブルでもあったのか？」
艦から降りてきた士官候補生のエリック・レナードがロバートに頭を下げて二人に話した。
「技術者の皆さんが責任者の方に挨拶をしておくべきかって言われてるんですが」
「そうですな、こちらも挨拶をしておくべきでしょう」
ロバートもタキザワを見ながら伝えると秘書が作業を中断させて全員を集めた。
「こちらは我々に協力してくださるロバート・クリムゾン会長だ。
クリムゾングループの支援の下で火星は独立へと行動する事を覚えておいてくれ」
技術者達は真剣な表情で頷いていた。
ここで建造する戦艦が火星を防衛するのだ、気合は十分入っていた。
「ロバート・クリムゾンです。
皆さん、地球にようこそ。
此処での活動で不自由な事があれば、
タキザワさんやこちらの責任者を通じて改善できる事は出来る限りしますので安心して下さい。
外出に関しては事前に連絡して下されば護衛を付けての行動になりますが出来るように手配します。
これに関しては皆さんに不自由な思いをさせますが政治的な問題もあり我慢して下さい。
またこちらからサポートをさせる技術者は、
相転移エンジンの作業に関しては初めてなので不慣れな点はどんどん指摘して下さい」
ロバートの挨拶が終わると秘書が詳しい説明を始めて技術者達の意見を聞いて効率よい作業に変更していった。
クリムゾン側の技術者も真剣な様子で聞き、意見交換を始めていた。
「プロフェッショナルの集団ですから大丈夫そうですね」
タキザワがロバートに話すと、
「火星の方々は覚悟が出来た人達ですな」
「ええ、生き残る為にみんな必死ですよ。
本当は家族も避難させてあげたかったんですが、地球への移動手段がボソンジャンプしかないですから」
「もしネルガルに知られると大変な事になりますな。
おそらく強制的に実験へと参加させるでしょう。
ここにいる間は万全の警備体制を行いますので安心して下さい」
ロバートがタキザワに告げるとタキザワは頭を下げていた。
彼らもその事が分かっているのだろう。
クリムゾンの協力に感謝しながら技術者に自分達の知る事を全て教えようとする考えが出来ていた。
こうしてクリムゾンは相転移エンジンからなる新技術を手に入れる事になった。
これにより木連との関係は大きく変化をしていった。
―――アクエリアコロニー 作戦会議室―――
『残念だがそれは出来ん相談だ』
「しかし一般市民を犠牲にする気なのですか？」
エドワードが非難するように話すと男も困っていた。
「おそらく木連は君のいるオリンポスコロニーと北極冠を次の攻撃目標にする可能性が高いんだ。
彼らは殲滅戦を行うぞ」
『確かにそうかも知れない』
沈痛な表情で話す男にエドワードは話を続ける。
「せめて市民だけでも逃がすんだ、今なら間に合うんだ。
こちらから部隊を送るから避難活動を始めるんだ。
地球にいるネルガルのトップの事を信用するな、彼らは君達を見捨てたんだ。
だから生き残る事を考えてくれ」
真摯に語り続けるエドワードに男は告げる。
『残留する者は残すが避難する者達は任せるよ。
私に出来る事はそれだけだ』
オリンポスコロニーの市長はエドワードに告げる。
「三日後に部隊が到着するようにする。
それに合わせて避難準備を進めてくれ」
『分かった……すまない』
通信を終える時に礼を述べる市長にエドワードは悔しさを感じていた。
「ネルガルは何を考えているんだ」
エドワードは呟くとそれを聞いていたスタッフもネルガルの行動に憤りを感じていた。
「コウセイさん、北極冠はダメですがオリンポスは何とかなりそうです」
「北極冠はエステバリスだったかな。
それのせいで木連の攻撃から防衛できたから、こっちの言い分を聞かんからな。
どうにもならんがオリンポスだけでも救助できるなら失敗じゃないな」
コウセイは周囲にいるスタッフに言い聞かせるように話していた。
スタッフも助かる人がいる事を喜ぶようにしたが、ネルガルへの怒りは忘れる事が出来ないと思っていた。
こうしてオリンポスコロニーから全体の半数の５万人が救出された。
次の戦いの準備は始まっていた。
―――木連 作戦会議室―――
「これは何かの冗談かね、それとも火星は気でも違ったのかね」
白い軍服をきた将校が冷ややかな目で聞いてきた。
火星からの要求は謝罪と賠償請求から始まる今回の戦闘の責任追及であった。
草壁はその要求を聞いて当然の事かと思うが分からない振りをする事にしていた。
草壁はこの戦争に勝つ為に火星にある遺跡が必要だった。
この為に火星と和平を行う気がなかったのだ。
『いえ、本気ですが問題でもありますか？
あれば聞きますが』
カズヒサ・タキザワが当たり前のように聞いてきた。
「ふざけているのか？
お前達は敗戦国なのだぞ。
降伏ならともかくこんな要求をするとは何事だ」
将校の隣にいた軍人が叫び、それに合わせるように周囲の軍人も声を荒げた。
タキザワはそれを冷ややかに見つめながら思った。
（どうやら自分達が何をしたか本当に理解してないみたいだな）
以前クロノが行った事が事実であった事に驚き、そんな彼等に呆れていた。
『何を言うかと思えば呆れますな。
あなた方は地球の軍には完勝しましたが、火星とは引き分けにすぎませんよ。
しかも火星の住民を虐殺しておいて謝罪もしないとは……さすが木星蜥蜴と呼ばれますな』
タキザワの言葉に軍人の一人が叫ぶ。
「栄えある木連軍を木星蜥蜴などと言うな！
この無礼者が！！」
その言葉に他の軍人達が続いて、タキザワに罵声を浴びせる中で将校が声を出した。
「木星蜥蜴とは何だね、我々は人類の軍人なんだが」
『草壁さんでしたね。
地球ではアナタ達を木星からの侵略者、木星蜥蜴と呼んでますよ。
実際、私もアナタ達は人間なのかと疑ってますしね』
タキザワの発言に軍人達が吠えるように叫ぶが、草壁が落ち着かせてタキザワに問うた。
「随分な言い様だな、正直呆れてものの言えないが」
『そうでしょうか？
陸戦協定も知らずに無人兵器などと言う下劣な物で、
火星の住民１３５万人を虐殺する様な人達を人間と呼んで良いものか……疑問ですね』
タキザワの一言が理解出来ないのか、軍人の一人が言い放った。
「あれは我々の正義を知らしめる聖戦なのだよ。
無礼な口を叩くな悪の地球人め」
その言葉に続くように周囲の軍人達がタキザワに罵声を浴びせていた。
（呆れたな、ここまで酷いとは事前に聞いていなければ冷静になれなかっただろうな）
『そうですか……聖戦ね。
アナタ達は何も知らない一般市民を無差別に殺しておきながら、
自分達は正義の味方とでも言うのですか？
憐れというか無様ですね』
タキザワの冷ややかな声に木連の軍人達が声を詰まらせた。
「とにかく我々はこのような要求を受け入れる気はない。交渉は決裂だな」
『そうですか？
ですが火星はいつでも対話の用意が出来ていますのでクリムゾンを通じて連絡して下さい。
いつでも良いですよ、泣きついてきても』
ボソン通信が切れた後、軍人達がタキザワを罵倒する中で一人が草壁に意見を述べた。
「閣下！
火星の奴等に思い知らせてやりましょう。
我々の正義を！」
「うむ、目標はこの二つにする。
我々の正義を侮辱した火星に正義の鉄槌を落とそうではないか」
草壁の声に周囲の軍人が次々に声をあげ、ゲキガンガーの正義の言葉を口にした。
「待って下さい！」
秋山が草壁に意見を述べた。
「攻撃するのは不味いです。
火星は我々の事を知っています。
もしかするとこちらの所在も掴んでいるかもしれません。
防宙体制を強化してから攻撃するべきです」
秋山の意見を聞いた士官達は笑いだすと次々に秋山の意見を否定していた。
草壁は秋山の意見を聞いて考えると答えた。
「君の意見は一理あるので監視体制を強化しよう。
それでいいか？」
秋山は草壁に更なる強化を求めようとしたが状況を考えて無理だと判断した。
「分かりました」
「では準備を始めよう。
正義は我ら木連にある！
火星にそれを教えようじゃないか」
草壁の宣言を聞いて士官達は正義を口にするが秋山はそれを見て考える。
（これで火星の攻撃が正当化されるぞ。
火星と地球の二つを相手にして木連は無事にはすまんだろうな）
悲観的な思考で木連の未来を想像していた。
会議が終わり秋山は部屋を出ようとすると二人の人物が声をかけてきた。
「源八郎、どうしたんだ？
あんな事を会議で話すなんて」
「そうだぞ。
会議に水を差すような事を言うとはな」
白鳥九十九と月臣元一朗は秋山に注意してきた。
「では火星が報復攻撃をしてこないと言えるだけの理由があるのか？」
秋山は二人に告げると二人は困惑してきた。
「お前達の方がおかしいんだよ。
この木連は難攻不落の要塞なのか？
違うだろう、宇宙空間に浮かぶ都市に過ぎないんだよ」
「確かにそうだが火星にここまで来る力があるとは思えんな」
月臣が不安を吹き飛ばすように話すと秋山は呆れたように話した。
「来る必要など無いだろう。
ミサイルをここへ飛ばして当てるだけで良いんだよ。
一発の核が市民船に当たればいいんだよ」
秋山はそれ以上は何も言わずに二人から離れて会議室から出て行った。
二人は秋山の意見に木連の危険性を自覚した。
「正義があれば木連は負けんさ」
月臣は不安を吹き飛ばそうとするが虚勢に過ぎなかった。
「源八郎のいう通りだな。
防御を疎かにしているのかもな」
白鳥は気付いたが既に会議は終わり何も出来ない事を知って天を仰いでいた。
こうして木連は泥沼の戦争に身を投じていった。
一方クリムゾンの通信機の前でタキザワにロバート・クリムゾンが声をかけた。
「よろしいのかな。
あそこまで言ってもおそらく奴等の事だ。
軍を動かすぞ」
側に居たロバートの秘書とクリムゾンの木連担当官は頷いた。
「いずれ彼等は軍を動かします。
ならばこちらの都合に合わせて貰ったほうがいいので」
「そうか、出来れば教えてくれんか。
奴等の攻撃目標を………」
ロバートの問いにタキザワはスクリーンに状況を説明した。
「おそらくこの二つのコロニーですね。
奴等はまずコンロンとアルカディアを落としました。
うちの戦略研究者は木連がまず北半球を制圧すると見ています」
「なるほどオリンポスと北極冠の二つだな、ある意味火星には邪魔だからな」
ロバートは二つのコロニーの背後にいる企業を思いだして呟いた。
「……アクアさんから何処まで聞いていますか？」
「あの子は口が堅くてな。
最初からわしが知っていたのはネルガルの悪巧みだけだよ。
そこから推測してな」
「そうですか。
……話は変わりますが技術者の皆さんにメールなどのお土産があるのですが面会しても良いですか。
色々こちらの事も話したいのですがよければ会長も如何ですか？」
「ええ構わんよ。
こちらも助かっていますな、新型船のノウハウを学べて高機動艦でしたか」
「はい、いきなり戦艦はマズイと思うので試験艦にする事にして申し訳ありません。
代わりにそれを先に使って機動データーをお取りになって下さい」
「……外装の変更は向こうですか、出来れば見たい物ですな」
「その頃にはお預かりした技術者の皆さんがこちらでその外装を作られますよ」
「なるほど、彼等は今武装のノウハウを学んでいるのかな、彼等が戻るのが楽しみだ。
では担当者に案内をさせよう。
彼等の状況を確かめるといいですな」
（流石に、木連とは違うか。だが今は信用するしかないかな）
「ありがとうございます。ではお世話になります」
タキザワの声にロバートは秘書に指示を出し、タキザワと共に部屋を後にした。
「おーい。
土産を持って来たぞ！」
タキザワは技術者達に声をかけるとクリムゾンの技術者が気を利かせて休憩を入れる事にした。
「タキザワさん、向こうはどうですか？」
「残念だが交渉は不首尾に終わりそうだよ。
木連は降伏以外は認めそうもないな」
「確かに駆け引きも満足に出来ない連中だな。
わしなら条件を擦り合わせながら少しずつ有利に進めようと考えるがそんな気配もなかったな。
第一火星の言い分すら認めていない奴もいたな」
タキザワの話に合わせてロバートが補足すると技術者達は呆れていた。
「みんなの方は順調か？」
「ええ、来月には一隻目の完成です。
これからテストを繰り返して機動データーを集めていく予定です」
「無理はするなよ。
これは来るべき第二次火星会戦に間に合えばいいんだよ。
まだ時間は十分とは言えんがあるからな。
それまでは火星にある戦艦で何とかするさ」
タキザワの言葉を聞いてロバートは火星が戦艦を所有している事に内心では驚いていた。
（どうも火星は相当先の事まで考えているみたいだな。
まるで未来を見てきたような感じがするな）
火星はこの戦争に万全とはいかなかったが準備を進めていたみたいだった。
機動兵器ブレードストライカーもその一つだった。
ノクターンから稼動状況を教えてもらって分析をしたが地球にある機動兵器など玩具に見えていた。
木連の無人兵器など問題ではなかった。
開戦当初こそ疑問視されていたが、
本社の兵器部門ではブレードのライセンス契約をして地球でも量産すべきだと思っているみたいだった。
現在、ネルガルで開発している機体に十分対抗できると兵器部門は判断していた。
この事からロバートは木連ではなく火星との付き合いを優先するべきだと考えている。
また木連の分析も進めているがその報告は危険なものだと感じていた。
どうも精神的に未熟な人間が多いと判断していた。
実質的な指導者の草壁の思考を分析した者は危険だと話していた。
彼には中立という考えがないのだ。
敵か、味方かしかないのだ。
自分の考えに賛同する者が味方で、反対する者が敵だと思っている部分があるのだ。
木連という世界で生きてきたためなのか？
世の中はそう簡単に割り切れるものではないとロバートは知っている。
火星も草壁の思考をそう判断しているみたいで危険視していた。
ロバートは自分の判断でクリムゾンの命運を決める事になると感じていた。
―――アクエリアコロニー 作戦指令所―――
「タキザワ木連交渉官より連絡がありました。
交渉は予定通り決裂、木連は動くだろうとの事です」
「そうですか……残念です。
北極冠コロニーはこちらの救援を受け入れましたか？」
「……ダメでした。
救援は要らない、自分達でやるから余計な事はするなとの事です」
レイの発言にエドワードは顔を顰めて尋ねた。
「市民の避難に関してはどうでしたか？」
「それも断られました。
おそらく情報の流出を恐れての事でしょう」
「馬鹿な事を住民をネルガルの道連れにするのか？
愚かな事を……大統領、ご命令を！」
グレッグの声にエドワードは首を振り答えた。
「こうなる事は分かっていました。
ならばこちらは生き残る為に行動しましょう」
「……そうですな。
申し訳ありません、大統領。
直ちに発進準備を開始せよ！」
グレッグの声に指令所は活気を帯び、オペレーター達の声が響き始めた。
（いやな決断をしなければならないとは、だが彼らの死を無駄にしない事が我々にできる事だ）
苦悩する火星コロニー連合政府、初代大統領エドワード・ヒューズの姿があった。
「大統領、火星宇宙軍旗艦ユーチャリスⅠより連絡『準備はできた、連絡をまつ』以上です」
レイの声に大統領は頷き、
「木連は知らないのだろう、戦争の恐ろしさを。
ならば我々が木連に教えてやろうではないか。
遊びで戦争はするなと、死の意味を、命の尊さをな」
大統領の発言に全員が頷き、グレッグが宣言した。
「これより衛星フォボス、ディモス開放作戦を開始する、我々は宇宙への道を切り開く。
開放部隊、順次発進せよ」
「聞いたな、これより作戦を開始する。
フォボス開放チームは順次発進後、作戦ポイントで合流して橋頭堡を確保する」
レオンが部隊に指示を出すと各機体は発進していった。
「よーし、新型の力を存分に見せてやるぜ」
レオンは楽しそうに呟くと試作機のエクスストライカーを発進させた。
「こっちも発進するわよ。
ディモス開放部隊リーダー、エリス・タキザワ出ますっ！」
エリスが率いる部隊も発進していった。
どの機体にもブースターユニットを装着して次々と発進していく様子がアクエリアコロニーから見えていた。
それを見た市民はこの作戦が火星を宇宙からの攻撃を防ぐ為の事だと知って祈るように見つめていた。
火星の未来を懸けた作戦が始まった。
―――ユーチャリス ブリッジ―――
「始まったか、プラス。火星の状況とこちらのを教えてくれ」
『はーいマスター、現在火星は予定通り作戦を始めてるよ。
ただね、北極冠コロニーはこっちの言う聞かなかったよ。
オリンポスは何も知らない市民は全員避難を終了したよ。
それとキャンサーはね準備オッケーだって』
プラス――ユーチャリスに搭載されたオモイカネ・ダッシュより枝分けされたＡ・Ｉ――が答えた。
キャンサー ――火星宇宙軍 最初の艦として土星で造られた空母――が、
現在木星の衛星群に潜んでいた。
彼等は第一次木星攻略戦の為、木連が戦略的に放棄していた衛星にジャンプしていた。
キャンサーにはオリンポス研より接収したクシナダヒメを改修してアクア達が再教育していた。
その為、短時間で稼動できる様になり現在無人工作機で木連を監視する無人基地を建設していた。
この基地が後の火星の戦略に大きな影響をあたえる事になる。
「イネスさん、ジャンパーの数について聞いても良いですか」
「ええ、現在火星の人口約２８５０万人の内１８歳以上の成人が検査を受けている。、
まだ全員の結果は出てないけどＡ級が約４万人、Ｂ級が約２０万人になっているから、
おそらく一割弱の２００万人前後はＡ級になる可能性があるわね。
でもこれから検査する子供達にはＣ級はいないし、生まれる子供はほぼＡ級になると思うわ」
イネスの発言にブリッジのメンバーは息をのんだ。
「驚く事はないわよ。
火星の人はナノマシンと共に生きてる様なものだから親和性が高いし、
ＩＦＳのせいで抵抗もないし増える事はあっても減る事はないわね」
イネスの冷静な発言で納得は出来たが、未来を思うと沈みこむ者がほとんどだった。
「ただジャンパー処理が実用化できれば、多少は緩和されるかもね」
オペレーターの一人がイネスに尋ねた。
「ジャンパー処理とは何ですか？」
「ナノマシンを使ってＣ級の人をＢ級にする技術を今開発中なの。
それと……これはここじゃ無理か」
「じゃあ、火星で独占はしないんですか？」
「独占はしない、テンカワファイルにもそう書いてあるしな。
いずれは地球からの移民もあるだろう、木連と和解出来れば木星からの移民もあるからな」
クロノの発言に士官の一人が反発した。
「地球はいいですが、木星は許せません。
彼等が火星にした事は許される事ではありません」
「そうだな、でも今の木連と和解は無理だと思うがな。
軍の情報統制で住民は嘘で動かされているからな。
軍の独裁状態を打開して民主主義にならない限り和平は全て嘘だろうな」
「そうですか、だからこんな作戦になるんですね。
プラントへの核攻撃、コロニー船への攻撃はしないのはこの為ですか？」
「俺達は木連とは違う。
命の重さを知っている、だから遠回りかも知れないがこのやり方で行く。
だが奴等が気付かなければ、いずれはコロニー、市民船への攻撃も辞さないつもりだ」
「……分かりました。艦長の言う通り従います」
クロノの発言に全員が納得して作業を再開したが、
「ですがテンカワ博士には感謝しないといけませんね。
博士がファイルを残してくれたおかげで、火星の未来が変わるかもしれませんから」
士官候補生から急遽副長に任命されたエリック・レナードが答えた。
「……そうだな、エリック。
それから作戦の状況はどうだ…順調か？」
「はい、問題はありません、艦長。すべて予定通りです」
まだ２３歳の青年を見ながらクロノは話す。
「お前もいずれ戦艦の艦長になるだろう。
いまは多くの経験を積みながら多くの艦に乗り込み、その艦のクセを知りそれを使いこなす事が重要だ。
まずこのユーチャリス、次はいきなり艦長になるかも知れんがそれを覚えていれば大丈夫だろう。
後は乗組員を信頼し信頼される事だ。
……それが名艦長と言われる者たちの条件だ」
「はっはい、肝に銘じます、艦長」
「ではキャンサーに通信を入れてくれ」
『おうクロノ、準備は出来たし後は待つだけだな』
「そうですね、サワムラさん。
キャンサーはどうですか、問題が出ましたか？」
『特にないぜ。いい艦だな、空母だが前の船とは比べもんにならんな。
相転移エンジンがこれ程の物とは驚いたよ』
今まで乗ってきた艦と比べてその性能に驚くサワムラにクロノは話す。
「サワムラさんも艦長になってもらいますよ。
火星は実務経験者が不足していますから」
『俺はただの船乗りでいいんだがな、まあしょうがないか』
「そうですね、今は人手が足りないし経験者が一人でも欲しいですから」
『そうだな、子供を戦場に出す気は無いしな』
「苦労するのは俺達だけでいいですよ、アクアはちゃんと仕事してますか」
『おう助かってるよ。
実際艦ごとジャンプ出来るのが現在はクロノとイネス博士以外は彼女だけなんだ。
負担をかけてるのが悪いがな』
『そうでもないですよ。その内ジャンパーが増えれば楽になりますよ』
「すまんな、苦労をかけて。
１年持たせれば楽になると思うよ、幸いエリックに期待しているしな」
「はっはい、艦長！
必ず戦艦規模のジャンプを可能にしますよ。
弟達を戦場に出したくはないですから」
側で聞いていたエリックは真剣な表情で話した。
「ジャンプの基本にして奥義は意思の強さだ。後は体力を使うがこれは大丈夫だろう。
慣れると負担は軽くなるからな」
『そうですね、最初は私もキツイなと思いましたが、今はそうでもないですしね。
でもクロノみたいに連続のジャンプは無理みたいね』
『そりゃ無理だよ。
クロノは人体実験という地獄に落とされ、其処から這い上がってきた強いやつさ。
アクアさんもタフだけど、まだ差は大きいな。
しかし二人ともよく似てるな、似合いの夫婦になるよ。俺が保障するぜ』
『そうだと良いんですが、私でいいんでしょうか』
「俺はお前がいいんだが、アクアが嫌なら他はいらないが」
『あう、とっとにかくキャンサーは問題ありませんからいいですね』
「何か怒らせる事いいましたか、サワムラさん」
慌てるアクアを不思議に思い、クロノはサワムラに聞いたがサワムラは沈痛な顔で答えた。
『……気付いてないのか？
……エリックよ、これだけは真似するなよ。
とりあえず通信を切るぞ、クロノ』
訳が分からず、首を捻るクロノにイネスが話す。
「話があります、お兄ちゃん。ちょっとこちらに来てください」
振り向くとそこには何故か殺気を振りまいてイネスがクロノを睨んでいた。
「いや作戦中なんで後でいいかな、アイちゃん」
その様子に動揺しながら逃げようとするクロノにイネスはクロノの手を取りエリックに話しかける。
「ダメよ、エリックくん。艦長借りるわね」
「りょ了解しました。
作戦前には返して下さい、イネス博士」
逆らうのは危険だと判断したエリックは状況を伝える事だけはした。
「ええもちろん返すわ。
心配しなくてもいいわ、ではお兄ちゃん逝きましょうか？」
「……俺何かしたか、エリック」
イネスに引き摺られながら医務室に向かうクロノにクルーは、
（朴念仁の女たらしは怖いですね。アクアさんもイネス博士も苦労しますね）
と複雑な思いで二人を見ていたエリックは、
「あのような地獄を耐えられるから、ジャンプが出来るのかな」
と見当違いのセリフを出していたが、クルーも何故か納得出来るような気にさせられた。
…………概ね作戦は順調に進んで行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ＥＦＦです。
木連の攻撃が始まる前に住民を避難させようとするエドワード達の様子を書いてみました。
また秋山が木連の防宙体制を訴えるシーンも入れてみました。
ロバートの視点から見た火星の様子も僅かですが書きました。
では次回でお会いしましょう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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