正義に酔う時間は終わりを告げる
これからは現実の戦争が始まる
その事の意味を彼等は理解出来るだろうか
自分達の犯した罪の深さを知った時
その苦しみに耐えられるか
それは誰にも判らない
僕たちの独立戦争 第十四話
著 EFF
―――ネルガル会長室―――
集まった二人を前にアカツキは発言した。
「オリンポスと北極冠が落ちてしまったねぇ、エリナ君、プロス君」
「笑い事じゃないんですが会長。
ドクターは無事なんですか?」
いつもと変わらないアカツキにプロスは状況を聞くと、
「ああ、それは大丈夫なんだけどね、プロス君。
エリナ君から聞いてないのかな?」
「いえ、何も聞いていませんが」
「あっ、言い忘れたわ。イネス博士と技術者は火星の政府に徴用されたのよ。
だから安全は保障されてるから多分大丈夫かしら?」
エリナが告げた状況を考えてプロスは話す。
「厄介な事になりましたな、会長。
これではどうする事も出来ませんよ」
「ああ、それは大丈夫よ。
スキャバレリプロジェクトが承認されたから、何とかなるわよ」
「つまり力づくですか?
問題になりますよ……最悪、火星軍と戦闘になりますよ」
最悪の事態を想定するプロスは二人に聞いた。
「そうだねぇ、プロス君。交渉で何とかならないかな。
まあ生き残っていたらだけどね」
「そうよ、多分生き残れないわよ。
いくらエステ並の兵器があってもね」
アカツキとエリナの話した内容にプロスは訊いた。
「エステ並の機動兵器があるのですか?
俄かには信じられませんが」
「ブレードストライカーという名の機体があるのよ。
でも戦艦が無いからダメね」
「それでプロス君はその戦艦に乗ってもらい、
火星に行ってもらう人材をこれから集めて欲しいんだよ」
二人の楽観的な発言にプロスは少し心配になって訊いた。
「はぁ、分かりました会長。
人材の条件はどうしますか?」
「そうだねぇ、能力は一流で性格は問わないよ。
これ位しないと不味いような気がするんだよ」
アカツキの考えにプロスも納得して話した。
「そうですな、火星に一隻で向かう訳ですし、能力は一流でないと危険な気もしますね」
「そうなんだよ。それにクリムゾンの事もあるしね」
「何よ、クリムゾンがどうかしたのかしら、会長」
「うん、試作艦なんだけど、相転移エンジンの船を発表したんだよ」
アカツキの言葉を信じられずにエリナは否定する。
「嘘よ!
だってまだネルガルでも出来てないのにそんな訳……」
慌てるエリナを落ち着かせるようにアカツキは資料を二人に見せた。
「確かに相転移エンジンの船ではありますが……巡航艦ですか、会長」
「そうね、スペックは判らないし、これだけでは何もいえないわね」
「どちらにせよ、そう甘くは無いと言うことです」
「そうだね、プロス君。
だからスキャバレリプロジェクトは成功させないとね」
「ええそうね。
でもしばらくは相転移エンジンはネルガルの独占状態だと思ったのにね」
ネルガルの独占を考えていたエリナは不満な顔で話した。
「プロス君、人材に関しては任せるよ。12月には集めてくれたまえ」
「判りました。では失礼します、会長」
プロスが退出した後、アカツキはエリナに聞いた。
「エリナ君、この船どう思う。専門家の意見を聞きたいんだけど」
「そうね、エンジンが多分2基もしくは3基あって機動力がうちの船位はあると思うけど、
武装が無いからこれ以上は言えないわ」
「そうか、ブレードストライカーの空母にはなるかな……この艦は」
「えっ……無理ね。
スペースが無いから4機も入らないわ。でもどうして?」
アカツキの質問にエリナは答える。
「いや、エステバリスをクリムゾンは使わないし、使うのならブレードかなって思うんだ」
「そうね。まだそうと決まった訳じゃ無いし、気にしすぎじゃないかしら」
「……だといいけどね」
アカツキは仕事を再開し、エリナは珍しく仕事をするアカツキを見ながら会長室を退出した。
(何故か気になるんだよ、ひどく気になるんだよ)
アカツキの疑問に答える者はいなかった。
その答えはいずれ火星で明らかになる。
―――木連 会議室―――
「決心したかね、我々に降伏する事を」
勝ち誇った顔をする将校と士官達を見て、カズヒサ・タキザワは失望を感じていた。
(こいつ等は何を喜んでいるんだ。
自分達のした事の意味を判ってないのか?
いや判っているなら、こんな事は出来ないだろうな)
『そうですな……アナタ達が狂っている事が判りましたよ』
「この期に及んでまだそんな口を開くか、悪の地球人が」
口々に罵りの声を上げる軍人達をタキザワは冷ややかに見つめていた。
「これで君達の現状は理解出来ると思うのだが、言うべき事があるかね」
草壁が静かに告げるとタキザワも話した。
『そうですな、我々火星の住民はアナタ達木連軍を許す事は無いでしょう』
「まだそんな口を叩くか!
これ以上我々を怒らすなよ地球人め」
恫喝する士官にタキザワはゆっくりと言い聞かせるように話す。
『ふざけているのはアナタ達でしょう。
何をしたのか判らないのか?
あの二つのコロニーには約15万人の住民が生活していたのだぞ。
それをアナタ達は虐殺したのだ。
正義と言う自己満足の為に。
アナタ達の手は血だらけだ。
その服には血が付いてないが、私にはアナタ達が火星の住民の血を浴びているのがよく見えるよ』
タキザワの静かだが怒りに満ちた声に軍人達が退いた。
『我々はアナタ達に報復する。
必ずアナタ達の今回の暴挙に対して報復する。
我々は木連に対して宣戦布告する』
これを聞いた秋山は最悪の事態に進んでいる事に気付いていた。
秋山が最悪の事態を回避しようと意見を述べようとすると海藤が止めた。
海藤を見た秋山は首を横に振る海藤を見て天を仰いだ。
「出来るものならしてみるがいい、出来るものならな」
挑発する士官達を殴りたくなるのを我慢していた秋山はタキザワの声を聞いて焦りだした。
『その時になって知ればいい、命の重さを、命の尊さを』
タキザワはそう言い残し通信を終えた。
映像が切れた画面を見ながら士官の一人が話した。
「無礼な口を叩く地球人が我々の正義が負ける事は無い」
周囲の者達が続いて声を上げる中で草壁は発言した。
「我々の正義は知らしめた、彼等の悪あがきに耳を貸す気はない」
草壁の声に勇気付けられた者達が次々と正義の声を上げていた。
秋山はそれを聞いて慌てて草壁に話す。
「閣下!
万が一に備えて監視と防衛体制の強化を!」
秋山の発言を聞いた士官達は秋山を嘲笑うが秋山はそれを無視して草壁を見ていた。
草壁は秋山を見て、考え込むと答えた。
「その必要は無い。
監視体制は強化したばかりだ。
火星は今、制宙圏を取り戻そうと躍起になっているのだ。
そんな状態でここまで来る事はない」
「し、しかし」
食い下がる秋山に草壁は話す。
「それより次に作戦の立案したまえ。
それが君の役割だ、いいな」
こうして秋山の意見は受け入れられず会議は終了した。
いつもの場所で三人は食事をしながら相談していた。
「海藤さん、どうして止めたんですか?」
村上に会議の内容を教えていた海藤に秋山が訊ねると、
「海藤は間違っていないよ。
以前、言った事を忘れたのかい。
あんまり消極的な意見ばかり言えば、草壁は君を排除しようとするぞ」
「ですが、このままでは木連はどうなります。
地球と火星の二つを相手にして勝ち続けることが出来ますか?」
悔しそうに話す秋山に二人は何も言えなかった。
この日、木連は地球に続いて火星も完全に敵に回した。
―――クリムゾン ボソン通信施設―――
「いよいよ反撃をするのですか?」
通信を終えたタキザワにロバートが話しかけてきた。
「そうなりますね。
残念ですが、彼らは戦争の怖さを知らないみたいです」
タキザワが何も映っていない画面を見ながら話した。
「やはり木連は火星の説明通り、都合のいい事しか見えていないのかもしれませんな」
ロバートも憂いを見せるように話すと、
「虚しいものですな。
無理だと分かっていても、もしかしたらと考えている自分がいるんですよ。
同じ人間同士ですから話し合えば分かり合えると思ったんですが……」
タキザワは悔しそうに話し続けた。
「ですが諦めませんよ。
私は最後まで諦めませんよ。
火星の住民の命を預かっているんです。
この程度で諦めるのなら第一次火星会戦で死んだ住民の無念を奴らに教える事も出来ませんからね」
「その意気ですよ。
交渉事は最後まで席を立たない者が勝者ですよ。
どんな時も諦めずに粘り強く話し続ける事が大事なんですよ」
タキザワに自分の経験を伝えるロバートにタキザワは頭を下げていた。
「ありがとうございます。
私は火星に報告しないといけませんので、一度火星に戻りますがみんなをよろしくお願いします」
「安心して下さい。
皆さんの安全はクリムゾンが守りますので信じて下さい」
「信じていますよ、私は。
ただ心配性なんですよ。
娘はいつも呆れていますけど」
苦笑するタキザワにロバートも、
「わしも孫に振り回されているからな。
タキザワさんの気持ちも分かりますよ」
苦笑してアクアのしてきたイタズラを思い出して溜め息を吐いていた。
お互い娘と孫で苦労している事に二人は変な処で共感していた。
タキザワは火星に連絡を入れると火星に戻っていった。
―――アクエリアコロニー 作戦指令所―――
「タキザワさんからの報告です。
『彼等は自分達のした事を理解していない。予定通り宣戦布告した』以上です」
指令所に沈黙が降りる中、エドワードが指令を発した。
「ユーチャリスに連絡を『報復作戦を開始せよ』以上だ」
「エドワード、痛みを知らない事は悲しい事だな。」
コウセイの呟きに指令所が静まり返った。
「でもコウセイさん、木連を許す事は出来ませんよ。
正義のという名の免罪符があっていい訳が無い。
彼等は約150万人の火星の住民を殺した。
だから……すみません、言いすぎました」
「いや、わしもお前と同じだ。むしろこの命令はわしが出したかった。
わし等が住んでいたユートピアコロニーの住民の無念を晴らす為にな。
だがそれでは奴等と変わらん。
だからわしは……」
コウセイの苦しみは指令所にいる者たちよりも深いのだとエドワードは感じた。
「それでは木星報復核攻撃を開始します。
ユーチャリスに連絡『攻撃目標、プラント及び港湾施設』以上」
レイの声が静かに指令所に響いた。
―――ユーチャリスT ブリッジ―――
「艦長、『作戦を開始せよ、目標プラント及び港湾施設』との連絡が入りました」
エリックの声にクロノは頷くとプラスに指示を出した。
「プラス、聞いての通りだ。準備はいいかい?」
『まーかせて、いつでもいけるよ。
無人機から座標が送られているし、絶対外さないよ』
「よし、キャンサーに連絡せよ。
『機動爆雷を同時に投下後、ジャンプで監視衛星基地へ帰還そのまま監視を続ける』以上だ」
クロノの声にオペレーターが応えてブリッジが慌しくなり、
「キャンサーより了解との事です、艦長」
「では、機動爆雷を投下せよ。
そしてキャンサーには先にジャンプして帰還するように連絡を」
クロノの指示で機動爆雷を投下したキャンサーはそのままジャンプした。
「我々はステルスモードで作戦の成功を確認した後、帰還する。
状況は指令所にも伝えるので細かく調査せよ。
奴等は防御の大切さを知らないだろう。
今回は成功するが次からは厳しくなるだろう。
エリック、覚えておけ木連は勝ち続けてきた。
それは守る事が必要ではなかったからだ。
チューリップを使い安全な後方で無人機に任せてきた。
……自らの手を汚さずにだ。
今そのツケを払う事になるが、火星もいつかこうなる時が来るかも知れない。
力を持つ事は覚悟を持つ事でもある。
軍が動くのは最悪の事態でもある事を覚えておけ。
安易に力を振るう事の危険を今ここで胸に刻み込んでおけ」
副長のエリックにクロノが告げた言葉をエリックを含むブリッジのメンバーは静かに聴いていた。
「……暇だな」
「そうですね、誰が言ったのか分かりませんがいい迷惑です」
遺跡の管理をしていた作業員は自分達の仕事が増えた事に不満を持っていた。
こんな所を攻撃する事など不可能だと思っていたが仕方なく索敵を続けていた。
「俺達が勝つんですからこんな事は必要ないと思うんですけど」
「まあそういうな。これも仕事の内なんだ」
苦笑しながら若い作業員を宥めていた先輩の作業員は反応が変わった事に気付いて慌てだした。
「あれ、隕石ですか?」
「警戒警報を出すんだ!
機動爆雷による攻撃だぞ、早くしろ!」
先輩の指示に慌てて警報を鳴らすがその時、彼らが最初の犠牲者として木連の死亡者リストに入った。
ネメシスより接収した核を用いた機動爆雷は無人機の支援の下で遺跡内部に侵入して放射能汚染を含む、
大規模な爆発を開始した。
その光景を木連市民は遺跡周辺の施設が核の火に飲み込まれていく瞬間を見ていた。
そして火がピークに達した瞬間に追撃の機動爆雷が撃ち込まれた。
「始まったな、火星の報復攻撃が」
「そうですね。ですが火星はまだ和平を諦めた訳ではないようです」
「これで軍の暴走も無くなるといいんですが」
海藤の呟きに村上が答えて、秋山が次の問題を話していた。
「多分、草壁は諦めないでしょうね。
ですが火星とは休戦に持ち込む事は出来ますよ」
「村上さん。
俺が会議でそういう方向に持ち込みますので安心して下さい」
秋山は真剣な顔で村上に答えると海藤が、
「俺も協力するぞ。
次の攻撃は避けるようにしないとな」
海藤と秋山は次の攻撃だけは回避しなければならないと考えていた。
木連の安全はこの日をもって終わりを告げた。
市民の中には戦争の怖ろしさを感じている者も現れていた。
――そして1時間後、プラスの報告が始まった。
『マスター、報告するね。
プラント自体の損害は軽微、港湾施設はほぼ消滅したよ。
ただプラントに放射能汚染があるから、
港湾施設の再建までの時間は半年以上は掛かると思うよ。
無人機で隔壁の閉鎖を遅らせるようにしたからね。
後は交渉で時間が稼げると良いね。
作戦成功だよ、マスター♪』
「そうか、ユーチャリスも帰還する。
ジャンプ準備開始、目標は木連監視衛星基地だ。
プラス、みんなお疲れさま」
クロノの命令にブリッジは直ちに行動を開始した。
ジャンプフィールドに包まれたユーチャリスは基地へとジャンプした。
―――アクエリアコロニー 作戦指令所―――
「ユーチャリスTから通信が入りました」
オペレーターの声にスタッフはスクリーンに目を向けた。
『無事に作戦は成功した。
詳しい事は無人機の報告待ちだが被害は大きくなりそうだ。
予定通り港湾施設は壊滅させた。
また事前に計画した作戦が成功して遺跡内部の放射能汚染も出来たみたいだ』
クロノの報告を聞いたスタッフは歓声を上げたがグレッグが注意する。
「浮かれるな!
この作戦のせいで木連の市民に犠牲が出たんだ。
我々は木連みたいに人を殺して喜ぶような真似をしてはいかんぞ。
命の重さを忘れないようにしてくれ……いいな!」
グレッグの注意を聞いたスタッフは複雑な顔をしていた。
家族や友人を殺された者の心情を考えると木連に一矢報いた事は嬉しい。
だがこれで泥沼の戦争になる可能性も出たのだ……それを考えると不安が出てくる。
なんとも言えない沈黙が漂うとクロノが話す。
『今の俺達に出来るのは生き残る事だ
これで時間を稼ぐ事が可能になったんだ。
その点は喜んでもいいだろう。
だけど忘れないでくれ、復讐は何も生み出さず虚しさだけが残る事を』
スタッフもクロノの言葉の意味を考えていた。
命の重さを知り、大切さを知る火星はこの成功が最初で最後の攻撃になる事を願っていた。
―――木連 会議室―――
そこに居た士官達は今回の出来事に動揺していた。
起きる事がないと思っていた攻撃が起こり、木連の市民に犠牲者が出たのだ。
「それで……被害状況はどうなっている」
草壁は苛立つ様に青年士官に訊ねた。
「それでは報告します。プラントの被害は軽微ですが、港湾施設は………」
被害を知らせ難く言葉を濁らせる青年士官の新城有智を見て、
「新城君のせいではないから、気にせず報告をしたまえ」
と言い、続きを促した。
「……はい、港湾施設は壊滅、完全な再建には1年は掛かると思われます。
現在最低限の機能を確保する為に無人機で復旧作業をしていますが半年はかかります。
また港湾施設の作業員、約8000人は全員死亡との事です。
そして遺跡ですが放射能の汚染による被害で当面は内部への出入りは難しいです。
食料を含む生活物資は現在は備蓄はありますが、汚染の除去次第では深刻なものになりそうです」
新城の報告に会議室の士官たちは動揺していた。
「閣下、直ちに卑劣な地球人に報復しましょう!
我々の怒りを見せ付けてやりましょう」
そう叫ぶ士官を皮切りに次々と地球に報復を叫ぶ士官の中で一人の士官が草壁に進言した。
「閣下、まず防宙体制を確立してそれから地球の真意を確かめ報復するべきです」
白鳥九十九少佐の発言に士官の一人が、
「何を暢気な事を言ってるんだ!
貴官は臆病風に吹かれたか、我々の力を持ってすれば事は容易いぞ」
「そんなに簡単にはいかん。
港湾施設を失った今、戦艦の整備が出来ないのだ。
この状況では戦線が維持できん。
遺跡を使う事が出来ない以上戦艦の補充も出来ないのだ。
もし市民船に攻撃を受けたら次は木連市民に被害が出るぞ」
白鳥の発言に草壁は頷き、士官の一人に命令した。
「南雲君、君が中心になって無人戦艦による防宙体制を編成してくれ。
まず木連市民の安全を優先する。
そして報復する」
「はっ、直ちに編成作業を開始します、閣下」
返事をして退出する南雲を見ながら、草壁は全員に意見を述べた。
「この攻撃をどう考える諸君。地球だと思うかそれとも………」
「私は火星の報復攻撃だと思います。
その場合は慎重な対応が必要だと進言します」
秋山源八郎中佐の発言に周囲は驚き叫んだ。
「馬鹿を言うな、中佐!
君は火星に出来ると思っているのか?
我々に負け続けている奴等に」
その言葉に周囲の者は続くが、
「お前達は馬鹿か?
火星は先の戦いでこちらと五分とはいかんが反撃してきたんだぞ。
地球には余裕で勝てたが火星には辛勝みたいなものだ。
そんな事も分からずに浮かれているな!」
この海藤の言葉に士官達は反論できずに沈黙した。
「火星は我々の存在を知り宣戦布告を宣言した。
そして今回の攻撃が火星ならば彼等は周到な準備の上で報復をした。
もしそうなら彼等はこちらの情報を持ち、第二、第三の攻撃もあるかも知れません。
我々は勝ち続けて防御を疎かにした。
もし遺跡、港湾施設ではなく市民船に攻撃を受けたら……どうなっていたか?
おそらく火星ならばこれ以上の攻撃はないとおもいます」
「秋山中佐、何故そう言える」
「はい、市民船ではなく遺跡周辺の施設を破壊したからです。その意味は………」
「そう言う事か、小癪な真似をするな。
確かに中佐の言う通りだな。
こちらの継戦能力を挫いて地球の反撃を待つつもりか?」
秋山の発言に草壁は苦渋の表情をした。
「そうです。これ以上の攻撃を火星にすれば次は市民船への攻撃になります。
彼等にすれば一発の核が当たればいいのです。
私はこの攻撃が火星ならば一時休戦して全戦力を地球に向けるべきだと思います。
地球には無人戦艦を撃破するのは困難ですが、火星には機動兵器があります。
まず地球を黙らして、港湾施設の再建後に戦力を火星に向けるのが効率的だと思います」
周囲の士官達が秋山の発言に苦々しい表情の中で、
「中佐の進言を受け入れよう。
忌々しいが最後に勝つのは我々木連だ。
我々の正義はこんな苦難の前に挫ける事は無い。正義は勝つのだ!」
草壁の声に士官達が続く中で秋山と海藤は頷いていた。
(……正義が勝つか、これで市民船の被害が出る事は無いだろう)
一人、安堵する秋山であった。
(なんとか矛先を変える事が出来たな。
だがこれで火星はまだ諦めていない事が分かっただけでも良しとしておくべきだな)
海藤も今回の攻撃で火星の真意に気付き、慎重な対応が必要だと考えていた。
―――地球連合軍 司令官執務室―――
「どういう事だ?
誰が木連を攻撃したんだ}
報告書を読んだ司令官は驚きを隠せずに呟いた。
側にいた参謀もこの事態に驚いていた。
「まさかと思いますが火星が攻撃したのではないでしょうか?」
「どうして火星が木連の位置を知っているのだ?」
司令官が参謀に聞くと参謀にも答える事が出来なかった。
二人はこの戦争が自分達の思惑から外れていくような感じを受けていた。
「仮に火星だとしても地球には問題はありませんね。
しかも我々の援護をしてくれましたよ」
参謀が火星を馬鹿にするように話すと司令官も尊大な態度で話す。
「そうだな、所詮火星は地球の属国なのだよ。
独立などと言ってはいるが地球に従うしかないのだ」
「まあ今回の事で独立などと言った事は多めにみてやろうじゃありませんか」
参謀は司令官に笑いながら話すと司令官も笑いながら頷いていた。
この二人は自分達の都合の良いように判断したが、火星の思惑に気付く事はなかった。
「そういえばクリムゾンとネルガルが開発している戦艦はどうなった?」
司令官の質問に参謀は、
「ネルガルが独自に運営したいと政府に言ってるそうです。
クリムゾンは好きにさせても良いのではと言っていますな」
「何故だ?」
「入手した情報では試験艦みたいなものだと判断したみたいです。
これを使って実戦練習を行い、データーを取るみたいだと」
「ほう、クリムゾンはネルガルの戦艦など眼中にないのか?」
意外そうに話す司令官に、
「ネルガルは試験艦ですが我々の作る艦は戦艦ですから比較しないで欲しいと言ってました」
「相当自信があるみたいだな。
では好きにさせるか」
「いえ、フクベを提督に迎えようとしているのでそれは不味いかと」
「ちっ退役しても目障りな事だな」
不愉快な顔をして司令官は不機嫌になると参謀が意見を述べる。
「誰かを潜入させて性能が良ければ、強引にこちらの物にしませんか?
フクベの副官だったムネタケにその任務をさせませんか?
奴なら強引に艦に乗り込む事も出来ます。
成功すれば閑職から戻してやると言えば従うでしょう。
失敗しても責任を取らせて軍から排除して、父親の発言力を低下させるもの良いと思います」
「悪くないな。どちらに転んでも問題はないな。
寧ろ失敗して欲しいな、これでうるさい連中を黙らせる事も出来るな」
「では失敗させるように手配しますか?」
「いや、万が一の為にムネタケに全部任せよう。
あとで問題が起きないようにしておかんとな」
二人はそう言うと笑いあっていたが、この二人の思惑は見事に覆させられ事になる。
「ふん、都合のいい事を考えてるわね。
まあ良いわよ、そっちの思惑など知ったこっちゃないわね」
告げられた内容を聞いたムネタケはあの二人に一矢報いる事にした。
軍を去る事になるかも知れないが、それでもいいかと考えていた。
監視が解けた後、軍内部の調査をしていく過程でこの戦争が茶番である可能性が出て来た事に気付いたからだ。
(無人兵器だけなんておかしいわよ。
操る者がいる筈なのに誰もそれに気付く事がないなんてどうかしてるわ。
多分、政府とあの馬鹿二人が情報操作してるのね。
もしかしたら火星はその事に気付いていたのかも?
それなら火星に行けば、全てが分かるかもね)
ムネタケはこの状況を利用して真実を知ろうと考えていた。
彼は一歩ずつ真相に近づいていた。
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EFFです。
やっとナデシコの影みたいなものが見えてきました。
もうすぐナデシコ編が始まりますね。
次に出ると良いけど出るかな?(オイッ)
では次回でお会いしましょう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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