戦争が始まる 

答えは既に出ているが

この勝利は当たり前の事でその為の準備をしてきた

だが木連は何もせず何も気付かない

自分達が罠に誘い込まれた

憐れな存在である事を

知る時には全て遅かったと後悔しても何もできないのだ




僕たちの独立戦争  第二十八話
著 EFF


「何を考えているんだ。一応予定通りだが彼らは状況が読めないのかね」

作戦司令室でグレッグが呆れるようにレイに尋ねると、

「簡単に事が進むので拍子抜けです」

「……そうですね。

 甘やかされて育ったみたいですし、どうも自分を中心に世界が動くと思っている節が見えますね」

今までのミスマル・ユリカの行動を側で見ていたアクアは意見を述べた。

「過去では自分の行動でユートピアコロニーに避難していた住民を死なせてから自覚が出来たからな。

 ……今のアイツはただの素人にすぎないよ」

アクアとクロノの発言に全員が納得した。

アクアはエドワードに現在の火星の状況を尋ねた。

「火星の状況はどうなりました、エドおじ様。

 エクスストライカーを見ましたから勝てるのは判りますが、敵の所在は判りましたか?」

「兵器開発施設は判明しましたが、暗部については不明です。

 この為、次の報復目標はその施設と再建途中の港湾施設になりますが、開発施設の完全消滅を優先します。

 できれば山崎の死亡を確認したいですね」

側で控えていたレイがアクアに話した。

「そうですか、山崎がいなくなれば火星の住民の安全が確保できますね。

 それに草壁の野望を挫くには足りませんが、木連の住民には現実を知るいい機会でしょう」

「そうね、医者として言うのはなんだけど、彼は死んで欲しいわね。もう遅いかもしれないけどね。

 ……優人部隊の開発に成功したかも知れないわ。

 時間的に考えるとこの辺りになるから」

イネスの発言に全員が事態の深刻さを理解したがクロノは話す。

「俺達は出来る事をやるしかないんだ。

 最悪の事態ではないよ、むしろいい機会かもしれない。

 木連の士官を捕らえ現在の状況を教えて帰還させて市民に危険を教えられるかもしれないからな」

「クロノの言う通りだな。

 事態は深刻だが我々は最後まで諦めないし、足掻き続けるさ。

 未来を子供達に平和な時間を与える必要があるからね」

エドワードの宣言にコウセイが続き、

「そうじゃな、……未来は子供達の為に残さないとな。では作戦を始めようか」

彼らは未来の為に会議を続けた。

火星の子供達と住民を守るという目的の為に。


―――ノクターンコロニー前線基地―――


「わかった、こっちも準備を始めるぞ」

アクエリアコロニーからの連絡を受けてレオンは準備を進める事にして副官に告げた。

「とりあえず新兵に12時間の休息を与えろ。

 家族に連絡したい奴もいるだろうからな」

「よろしいのですか?」

副官が尋ねるとレオンは話す。

「いいさ、すぐに始まる訳じゃない。

 それに家族に連絡くらいはさせてやらんと」

「了解しました。

 監視を除く部隊に休息を交代制で行います」

「おう、長丁場になる可能性があるから、出来る限り休ませてくれ。

 お前もきちんと休むんだぞ」

「隊長はどうするんですか?」

自分を気遣うレオンに訊ねると、

「無理だな、気が昂ぶって休めねえよ。

 この一年、木連の連中に殺された火星の住民の怒りを見せつけると思うとダメだな」

(根っからの戦士なんですね。

 この一年を考えると仕方ない事かもしれませんが)

無人機に殺された住民を前線で見てきたレオンに副官も同じ思いでいた。

「では前祝いに一杯だけやりますか?」

「そうだな、一杯だけやって休む事にするか」

自分を気遣う副官にレオンも応える事にした。

こうして束の間の平和は終わり、第二次火星会戦が始まろうとしていた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


「艦長、それではどう行動する心算ですか?

 これからの作戦行動を指示して下さい」

火星に降下したナデシコは北半球に侵入すると、ブリッジでルリが冷ややかな視線で問い掛ける。

「どうしようか?

 とりあえず北極冠の後はアクエリアコロニーへ行こうか、ルリちゃん」

「お断りします、私は死ぬ気はないですから」

ユリカの指示にルリははっきりと反対意見を述べた。

「どうしてかな〜ナデシコは救助に来たんだよ。そんな事にはならないよ〜」

「火星にケンカを売っておいて何様のつもりですか。

 ダイゴウジさんが言ったでしょう。

 火星はナデシコを撃沈できる力がある事を忘れましたか?」

ルリが話す事を聞いてユリカは、

「大丈夫だよ〜ナデシコは負けないからね、では何処に行こうかな〜」

と脳天気に話すユリカにクルーは、

(ダメだな、艦長は頼りにならないな)

と考えているとプロスがクルーに行き先を告げる。

「ナデシコはオリンポスと北極冠の二つのコロニーへ向かい資料の回収をしてアクエリアコロニーへ向かいます。

 そこで技術者達を引き取って火星を離脱します」

「本気なんですか?

 火星と戦争を始めるのですか、プロスさん」

呆れた様子のルリにプロスは話す。

「ホシノさんの言いたい事も理解出来ますが、技術者達の意見とは思えませんので強引ですが聞きに行きます」

「出来れば降りたいですね。

 私は自殺なんてする気はないですよ。

 ナデシコ一隻で勝てると思っているんですか?」

「それはどういう意味かな、ルリちゃん」

冷めた意見を述べるルリに、ユリカが不思議そうに訊いてきた。

さすがに何度も言われると、何かあるのかと聞いてみたくなったのかもしれない。

「降下した時点でナデシコの敗北は決定しました。

 相転移エンジンは真空でその力を完全に発揮しますが、大気中では満足に力を使えません。

 火星に戦艦があれば、上空からの砲撃でナデシコは撃沈します。

 副提督もそう思っているでしょう」

『そうね、グラビティーブラストも連射は出来ないし、フィールドも万全とはいかないわね。

 艦長のお手並み拝見ってとこかしら』

「え――――!

 聞いてないよ〜どうして言ってくれないのよ、二人とも」

コミュニケからブリッジに連絡するムネタケとルリにユリカは抗議するが、

『自分の乗っている戦艦の性能くらい調べるのは艦長の仕事よ。

 アンタは自分の仕事を放棄して、クルーを死なせようとしている馬鹿艦長みたいね』

辛辣なセリフでユリカの甘えを切り捨てるムネタケにユリカは焦っていた。

『色恋沙汰しか出来ないアンタは艦長の器じゃなかったみたいね。

 せめてクルーを死なせないように頑張るのよ』

ムネタケはそういい残すとウィンドウを閉じて会話を終わらせた。

「プロスさん、どうしますか?

 木星蜥蜴の攻撃を受けていない今なら火星を離脱できます。

 火星はナデシコの今回の行動を非難しますが、クルーの皆さんは生き残れますよ」

「ホシノさん……相転移エンジンの欠点を何時から気付いていましたか?」

プロスがルリに質問すると、

「火星に着く前にアクアさんが教えてくれました。

 多分、艦長も気付いていると思うから大丈夫だって話していましたが……違ったようですね」

ルリがユリカの様子を見て、ため息を吐いていた。

プロスもこれには文句を言う事が出来ないと判断した。

(もしかしてアクアさんに嵌められましたか?)

プロスは自分が火星の罠に陥った事に気付いて、ナデシコを火星の軌道上に戻そうとしたがその決断は遅かった。

「艦長、前方に敵影を発見しました!

 数は大型戦艦20、他の艦艇も合わせると百隻を超えます。

 まもなく射程に入りますがどうしますか?」

メグミの声にユリカが作戦を考えようとしたが、戦闘力の低下という事態には対応できる訳がなかった。

そんなユリカを見てルリは話す。

「逃げるのが最良の選択ですね、難しいですが今なら間に合いますよ、艦長。

 敵部隊に包囲されれば、前にしか主砲を撃てないナデシコではまず勝てませんよ」

ルリの発言にクルーもユリカも慌て始めたが、既に敵の準備が終わっていた。

無人艦より放たれたグラビティーブラストがナデシコを大きく揺らしユリカを混乱させた。

「後退します、ミナトさん!後方の丘陵地帯を通り山岳に隠れながら移動します。

 ルートはコレを参考にして下さい」

ルリから送られた地図を見ながらミナトは艦を動かしていく。

「オッケー!ルリちゃんの言う通りにするわ。しっかりつかまってね、行くわよ!」

越権行為ではあるが、指示を出さないユリカよりミナトはルリの指示に従う事にした。

ナデシコは傷つきながら戦場を後にした。

犠牲者はいなかったが、初めての敗北であった。


―――火星作戦指令所―――


「あっけないものだな。

 所詮は民間人で構成された戦艦だという事なのか?」

グレッグがスクリーンに映るナデシコを見ながら話していた。

『まあ、これで作戦通りになるからいいんじゃねえか?

 ネルガルの思惑なんざ、俺達には関係ないからな』

『ルリちゃんは大丈夫かしら、やっぱり強引に連れてくるべきだったかな』

「その点に関しては謝るべきかもしれませんね。

 ナデシコを動かすには彼女が必要だったといえど、子供を危険に晒すのは避けるべきでした」

選択を間違ったかとレイは思い、その表情も暗くなっていた。

『大丈夫だ、簡単に死ぬような子じゃないよ。

 信じてやらないとな』

アクアを不安を消すようにクロノは話していく。

そんなクロノにアクアは自分以上に心配しているクロノを安心させるように微笑んで話す。

『そうですよね、ルリちゃんはしっかりした子だから大丈夫ですね』

『お嬢の仕込みが万全なら大丈夫じゃねえか?

 聞けば才能もあるみたいじゃないか、そう簡単に死ぬような一番弟子じゃないだろう』

安心させるようにレオンも話していく。

「確かに……アクアの一番弟子なら死ぬことはないでしょう。

 性格の悪さは似てもらうと困りますが、しぶとさでは火星で指折りの存在になりますね」

レオンの意見にレイも納得して安心していた。

『なんかひどい言い方だな、俺の大事な人なんだから気を遣って欲しいもんだ』

『……相変わらず自覚が無いんですね』

どこか疲れた様子のアクアにレオンとレイも苦労しているなと思っていた。

「まあクロノの件は置いといて、各自準備を始めるように。

 これからが本番だからな」

グレッグが話を綺麗に終わらせようとすると、その意図に気付いたクロノ以外の者は頷いていた。

アクアの苦労は続くみたいだとエドワードは思っていた。

「では皆さん、第二次火星会戦の始まりを宣言します。

 タキザワさんが交渉していますが、草壁は交渉などする気はないでしょう。

 おそらく戦争が始まりますので、市民の安全を優先して火星から木星の戦力を駆逐しましょう」

エドワードの宣言にスタッフも各部署に連絡を始めた。

火星は万全の準備をして生き残る為に戦う事をまだ草壁は知らない。


―――クリムゾン 通信施設―――


『だらしないものだな、交渉に失敗し火星に降下させるとはな』

相変わらず勝手な事を話すなとタキザワは思いながら、画面の草壁に話す。

「そうですか、二度のチャンスに撃沈できない木連よりはいいと思うんですが。

 調べましたらよく撃沈せずに火星まで来れたものだと思いますな……無能ですか木連は」

呆れるように話すタキザワに草壁は問う。

『では君達なら撃沈できるのかね、ナデシコを』

「ええ、簡単ですね。する意味がないからしませんが、

 あの程度の戦艦と言えるのかわからない艦を落とせない木連の方が遊び過ぎなんですよ」

『我々に勝てない火星が無礼な口を叩くな、死にたいか!!』

叫びだす士官達にタキザワが退屈そうに話していく。

「同じセリフばかり言いますが、他のセリフを聞きたいものですな。

 正直聞き飽きたので変えて欲しいんですよ、退屈なものですから」

『では戦争を選択するのかね。それも構わんが火星が持ち堪える事が出来るかね。

 現実を見て、我等に従うんだな。死にたくは無いだろう、降伏したまえ』

(勝てると思っているんだろうな、でもそう上手くいくとは限らないのにな。

 狭い社会で戦力の分析もしないで、目先の勝利に浮かれた結果がコレか、憐れだな)

口を噤んだタキザワに草壁が続ける。

『どうかしたかね、無礼な口が聞けないから話す事も出来んかね。

 所詮、火星など木連の前には全滅しか無いのだよ。早く降伏すれば待遇も良くなるがどうだね』

「……つまり木連の奴隷になれと」

『そこまで言わんよ。正義に選ばれたのは木連で、君達を正義の使徒にするだけだよ』

草壁が挑発していると思い、タキザワは乗る事にした。

「それを奴隷と言うのですよ。正義に選ばれたのなら何故火星に殲滅戦をする必要があった!

 貴様等は無人兵器と言う玩具を使って遊んでる、ただのガキどもだ!

 お前達がしている事が悪そのものだ!

 正義などとほざくな!この人殺しどもが!」

タキザワが怒りと共に叫びに、草壁が内心で挑発が上手くいったと喜んでいた。

『無礼な!この代償は大きいぞ。

 後悔してももう遅いぞ、今なら間に合うがどうするかね』

「今更、綺麗事を言うなよ。独裁者とそれに踊らされている馬鹿どもが!!

 休戦は終わりだな、火星は実力で奪われた大地の奪還と貴様等への報復を誓ってやるぞ!

 火星の地獄を今度は貴様等の家族を失う事で理解するがいい、命の重さをな!!

 泣きついても、ただでは許す事はない貴様等軍人の命をもって償ってもらうぞ!!」

『いいだろう、では今より十二時間後より我々は火星に再侵攻する。

 泣き付くなら早くするんだな』

草壁の捨て台詞とともに通信は切れた。

タキザワは演じていた怒りを静めると、側にいたロバートと担当者に笑って告げる。

「見事に引っかかりましたよ。単純ですね、木連は罠に嵌ったとは思わないでしょう」

「そうですな、既に準備が終わり後は勝つだけとは信じてないでしょうな。

 彼等は自分達が勝つと思っているが、大敗北するとは知らないですからな、愉快ですな」

「ええ、次に会う時はどんな顔になるか楽しみですよ。特に草壁の顔は見物ですね」

「勝てると調子に乗っていた独裁者がどんな顔になるか、愉快な事になるな」

二人は楽しそうに笑いあったがタキザワが真面目な顔で礼を述べる。

「ロバート・クリムゾン会長のご支援には感謝します。

 火星の住民に代わりお礼を申し上げます、誠にありがとうございました」

深く頭を下げるタキザワにロバートも頭を下げる。

「いや、火星のおかげでクリムゾングループを立て直すチャンスが出来ました。

 クリムゾングループを代表して礼を言います」

静かに頭を下げるロバートに担当者が驚くなか二人は頭を上げて笑い合う。

「では一度火星に戻ります。ですがまた此処に来ますよ、木連との交渉で」

「ええ、一緒に草壁の苦い顔を見ましょうか、タキザワさん」

差し出された手に握手をし、そしてタキザワは部屋を後にした。

向かう先は火星、生き残る為に未来を掴む為の第二次火星会戦が始まった。


「諸君!

 我々の正義を再び火星に見せる事にする!

 予定通り作戦を開始する」

草壁の宣言に士官達は正義を口にして戦う準備を始めるが、白鳥九十九は思う。

(これで火星とはどちらかが滅びるまで戦う事になるかもしれないな。

 俺はどうすればいいんだ?)

熱狂する士官達を見ながら、九十九は木連の歪みに気付き始めていた。

周囲を見渡すと何人かの士官も九十九と同じ様子でいる事に気付いて顔を合わせると苦笑していた。

彼らも木連の暴走に危険だと思っているが、どうにもならないと感じているようだった。


九十九は火星侵攻の準備を終えると部屋を出て、秋山に相談する事にした。

「ん、どうした九十九。

 人殺しの準備は終わったのか?」

防衛指揮所に入ってきた九十九に秋山は辛辣な言葉で出迎えた。

その一言に九十九は何も言えなくなった。

「秋山さん、もう少し優しく話さないとダメですよ。

 この人達は現実を知らない子供達みたいなものですから」

庇うように聞こえたが内容は九十九達を馬鹿にするような言い方で新城が注意する。

「……随分な言い方だな」

「そうか?、事実だと思うがな。

 周囲の連中は気付いていないが、やる事は火星の住民を無差別に殺害する事じゃないか」

不機嫌な声で話した九十九に秋山はこれから木連が行う事を簡単に告げる。

「で、何か用なのか?

 俺達は火星の報復攻撃に対処する為に忙しいんだ。

 用が無いなら出て行ってくれ。閣下の後始末で忙しくなりそうなんでな」

「勝つなんて都合のいい事ばかり考えられると困るんです。

 負け戦の後始末なんて……大変なんですよ」

秋山と新城が木連の敗北する事を念頭に準備している事に気付いて九十九が聞く。

「まるで木連が負けるような言い方だな。

 勝つとは考えないのか?」

「勝つねえ……冗談にしては笑えないぞ、九十九。

 どう火星と木連の戦力分析すればそんな事が言えるんだ。

 俺には誰も戦力分析を満足にしていない様に思うぞ」

手抜きで勝てるのかと秋山は問うと九十九は答えられなかった。

そんな九十九に秋山は話し続ける。

「調子に乗りすぎた木連は戦況の分析もせずに火星に侵攻した。

 火星は木連の戦力を分析して万全の状態で戦う……どっちが勝つだろうな?」

「火星が勝ちますよ。

 向こうは万全の状態で戦いますから」

新城がはっきりと答えると九十九は反論しようとしたが、根拠のない意見など二人は認めないと判断して止めた。

「さあ準備を急がないと市民船に攻撃を受けるのは回避したいです」

事態を深刻に受け止めて行動する二人に九十九は、

「協力するぞ、源八郎。

 市民を守るのが木連軍人の役目だからな」

その言葉に秋山は告げる。

「ありがたいが無理だな。

 お前は自分の仕事を放棄する気か?」

「だが状況は切迫しているんだぞ」

「なら勝てる方法か、戦力を残せる方法でも考えて火星との決戦に備えとけ。

 今、任務を変える事は出来ないぞ」

九十九は自分の立場を言われてどうにもならない事を痛感した。

木連のおかれている状況を知った九十九は以前感じた事は正しかったと思った。

(木連は滅びへと進むかもしれない)

九十九はそんな思いに囚われ始めていた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


『艦長、悪いがエンジンは相転移エンジンはなんとか使えるが、核パルスの方はダメだな。

 地球に戻ってそうとっかえだ。

 ルリちゃんに感謝しろよ助かったんだからな、いい加減な事をするなよ』

機関部で作業していたウリバタケの報告にユリカは落ち込んでいたが、

「艦長〜これからどうするの。自力で脱出できるの、火星に頼るの、それとも……」

ミナトの意見にユリカは考えを話す。

「……そうですね、火星に連絡をしたいんですが、メグミちゃんできるかな」

「無理ですね、艦長は火星にケンカを売りましたから助けてくれるでしょうか。

 アクアお姉さんとの会話からネルガルは火星にかなり恨まれているみたいですから、

 これ幸いとしてナデシコを撃沈するかもしれませんね」

ルリが否定的な意見を述べて、ナデシコの命運を告げている。

それを聞いたブリッジのクルーは状況が切迫している事に気付いて焦る。

「そうですな、ホシノさんの言う通りですな。

 今頃は地球にネルガルの暴挙に抗議してるでしょう。

 地球はナデシコの行動に対して怒っていますから、撃沈しても文句は言わないでしょう」

自分が罠に嵌った事を知って苦々しい思いの中でプロスは最悪の事態を想定する。

「そうね、アクアちゃんが何度も警告していたのに聞いてない艦長のせいでクルーが全滅するかもしれないからね」

ムネタケの一言にクルーは自分達の死を予感していた。

ユリカもここに至って自分がクルーの命を危険に晒した事を自覚していた。

「ですが一応連絡を取りましょう。生き延びる為の選択肢は多いほうがいいでしょう」

オペレートを開始したルリを見たクルーはアクアがいるように思えた。

(見事ですよ……ホシノさんに才能があったとはいえ、わずか二ヶ月という期間で自分の後継者を育成するなんて。

 それに比べて艦長は…………ダメですね。アオイさんに任せますか)

プロスが考えているとスクリーンにレイ・コウランが現れた。

『一応聞きますが、何か用があるのでしょうか。

 今、火星はナデシコの暴挙で非常事態宣言を出したばかりなのです。

 火星北半球でで木星蜥蜴が活発に動き出し、これら無人兵器を完全に殲滅して、

 火星の大地を取り戻す準備で大変なのですが、どうかしましたか?』

レイの発言にブリッジは驚きで声が出なかったがユリカが否定する。

「そんな事できませんよ!

 ナデシコですら相手にならないのに戦艦すらない火星に出来るわけないですよ」

『いえ、火星は連装式グラビティーブラストを標準装備の戦艦が15隻ありますよ。

 これと新型のエクスストライカーがあれば勝てますね。

 エクスは一機でチューリップすら撃沈できる単発式のグラビティーランチャー装備の機体です。

 木星蜥蜴は無人機のみで構成してますし、今の状況なら楽勝ですね』

ユリカの意見をあっさりと切り捨て、火星の状況を伝えた。

これにはクルーも驚いて声が出なかったが、レイはプロスに話す。

『ネルガルはテンカワ博士を殺しましたが、博士の遺志は火星に生きています。

 ネルガルは火星から常に監視されていたんですよ。

 そして今回の戦争の暴挙とナデシコの行動を火星は許す事はありません。

 証拠が無いのが残念ですが、会長に伝えて下さい。

 『この人殺しが!火星の殺された150万人の住民の怨みを忘れるなよ、地獄に落ちろ!』と』

レイから言われた事にルリが聞く。

「つまりネルガルは私達マシンチャイルドだけではなく、火星の住民も殺しているのですか?」

『テンカワ・アキトさんのご両親は約十年前のクーデター事件の時ネルガルに殺されました。

 クーデターもその為に演出されたものです。ミスマル家もそれに協力しましたね。

 ミスマル・コウイチロウは気が付きませんでしたが、結果として手伝いましたね。

 貴方がそれを指揮したんでしょう、プロスペクター。

 ネルガルシークレットサービスのリーダー、友人を殺すとは非情な人ですね』

蔑むように話すレイにブリッジのクルーはプロスの返答に注目する。

「ちっ違います。私は彼と友人だった為に知られないように極秘で行われました。

 私が気付いた時は既に遅かった。無事だったのは息子さんだけだった。

 何度も注意したのに、無理はするなと警告し逃げるように言ったのに。

 彼は最後まで自分の信念を曲げず生きた為に……」

プロスの告白にレイはどうでもいいように話す。

『だからどうしました、ネルガルは独占主義に陥り犠牲を出し続けてきた。

 火星はネルガルのせいで苦しんでいる、これからあなた達はそれを味わうでしょう。

 もう一つ教えましょう。この戦争を演出したのはネルガルです。

 木星との事前交渉を決裂するように手配して、連合政府の火星の住民の抹殺計画に協力したのです。

 プロス氏が火星に出立する前にした仕事で思い当たる事がある筈ですよ』

プロスはレイの言葉に思い当たる事があったので焦っていた。

クルーは信じられない思いで二人の会話を聞いていた。

「そういう事ですか……ですが会長は何も知らなかった筈ではないのですか?」

『知っていた筈ですよ。知りながら黙認したんですよ。

 オリンポスと北極冠に連絡もせず、彼らすら戦争の生け贄にしたんですよ。

 イネス博士や技術者達はその事実を知っているからネルガルを信用していないのです』

「アクアさんが先代を超えたと言われたのはそのせいですか。

 確かに先代を上回る犠牲を出していますな」

「すいませんが、お話があります。よろしいですか」

動揺して声が出ないクルーの中で冷静に事実を受け止めていたルリが二人の会話に割り込んできた。

『いいですよ。貴女はクロノ、アクアにとって大事な妹ですから便宜を図るように言われてます。

 出来る範囲なら手を貸しましょう。どうぞ言って下さい』

「実は火星を脱出する為に力を貸して欲しいんです。条件を言って下さい。」

『……条件はまずオモイカネの接収、テンカワ・アキト、貴女の身柄をこちらに預かる事です』

「説明次第ではその条件を飲みましょう、いいですか」

レイの出した条件にプロスが尋ねる。

プロスはクルーの安全を確保する事を優先する事にした。

このままクルーを死なせるのはプロスにとっては不本意な事だったのだ。

「ダメです、アキトは渡しません!聞く必要もありません!」

「黙りなさい、艦長!

 クルーの安全を確保できない貴女に艦長の資格はありません!!」

プロスの声にユリカが噤んだのを見て、レイが続いた。

『テンカワ君は火星の住民で恩人の息子さんですから保護したいんです。

 ホシノさんもこのままネルガルにいるのは危険ですし、

 オモイカネはホシノさんの友人でネルガルにいるとホシノさん共々兵器として扱われるからです』

「……いいでしょう、私が全責任を取ります。その条件を飲みましょう」

『判りました、ですがオモイカネの本体はいりません。

 記憶をこちらのオモイカネシリーズの体に移ってもらいます。それで良いですか』

「ええ、いいですよ。ナデシコはどうします、……廃艦になりますか」

『いえ、ボソンジャンプで火星から地球へ送ります。そのままお使い下さい』

「やはり実用化できたんですね、……ボソンジャンプを」

『ええ、生体ボソンジャンプは条件がありましたが出来ましたよ。

 ではこちらの部隊を木星の総攻撃時に護衛で回しますので周囲に気をつけて下さい』

通信が切れるとユリカがプロスに文句を言った。

「どうしてですか、このまま隠れていれば火星が木星蜥蜴を退治している間に脱出できますよ。

 私が艦長なんですから私に従って下さい、プロスさん!」

「いえ、そんな事をすれば火星の攻撃には対応できないでしょう。

 向こうはこちらを迎撃する気がありますから、クルーの命を危険に晒す気はありませんので」

「言っとくけど、火星はナデシコを落とす気があるわよ。

 アンタはこの状況で生き残る方法が考えられるの?」

プロスとムネタケが状況を話すとクルーは納得してユリカは何も言えなかった。

「貴女には艦長を降りてもらいます。アオイさんに臨時で指揮を執って貰います。

 提督もそれでいいですね」

プロスはこの後の事を考えてユリカを艦長にしておくのは不味いと判断した。

「うむ、許可しよう。ミスマル・ユリカには荷が重すぎたようだ。

 ゴート君、彼女を独房へ入れておいてくれ、何をするか判らんからね」

「了解しました」

ゴートは騒ぎたてるユリカに当身をあてて気絶させるとそのまま連れて行った。

「ホシノさんはアクアさんの元に行って下さい。彼女の言う通りネルガルは危険かもしれません。

 オモイカネがいれば大丈夫でしょう。

 オモイカネ、ホシノさんを守るんですよ」

『分かりました、ルリは私が必ず守ります。プロスさんも気をつけて下さい』

「いいの〜プロスさん。後が大変だと思うわよ」

「いいですよ、ネルガルには愛想が尽きました。辞める事になっても構いませんよ。

 ……あの時辞めるべきだったんですよ」

疲れたように話すプロスに誰も何も言えなかったが、しばらくしてジュンが指示を出す。

「ホシノさん、周囲を索敵し続けて欲しい。今、木星蜥蜴の攻撃をくらうのはマズイから」

「大丈夫です、脱出してから警戒レベルを最大で維持しています。

 おそらく火星は木星蜥蜴の総攻撃に勝てるでしょう。

 アクアお姉さんが言ってました、

 『切り札は先に見せるなと見せる時はより強力な切り札を持ちなさい』と、

 火星はまだ全てを出し切っていません。この戦いは火星の勝利で終わります」

ルリが宣言した事に全員が驚いたが、アクアの行動を考えると納得できた。

火星はその隠された真の力を見せようとしていた。

木連は何も知らず、罠へと誘われたのだった。

ナデシコはそれを見ることになる。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

大筋を変えないようにしてみました。
ナデシコ拿捕のストーリーも考えたんですが、その場合ナデシコが火星で撃沈するというパターンになりそうなんで。
後半くらいからスピードを重視したせいで内容が薄くなったとの指摘がありましたので直してみたいと思います。
あの頃は勢いで書いてたからな〜〜(爆)
一度書き始めた以上は最後まできちんと書かないと感想を書いてくれた人に悪いと思っていましたから。
無論、今もその時以上に思っています。

では次回でお会いしましょう。




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