いよいよ戦争が始まる

俺達は必ず生き残る

そしてこの戦争の無意味さを後世に伝えよう



僕たちの独立戦争  第二十九話
著 EFF


草壁はいよいよ地球圏の支配が実現できると思い、表情には出さないようにして喜んでいた。

士官達もタキザワの暴言を懲らしめる事に喜んでいた。

白鳥九十九だけが秋山の意見を聞いて被害を抑えようと考えていた。

だが一人では何も変えられないと言う現実を九十九は知る事になる。

彼らは火星の怖ろしさをこの戦いで知る事になるのだ。

運命の開戦まであとわずか……。


―――ノクターンコロニー前線基地―――


「いいか、お前達はまず生き残る事を考えろ。

 この先、戦いは激化するからな。その時こそ経験を積んだお前達の出番が来るんだ。

 今は無人機だがいずれは木連、地球の軍人達を相手にする事になる。

 その時までに命を奪うという行為に対する覚悟を決めておくんだぞ。

 戦場で迷う事は死を意味するからな。

 お前達には守りたい家族や友人達がいることを忘れるな。

 命を粗末にする人間は何も守れずに死んでいく。

 どんな状況でも諦めずに最後まで生き残る事を考えろ!」

レオンが基地にいる全スタッフと新兵に訓示していた。

各部署のスタッフはその言葉の意味を真剣に受け止めて、これから戦争を始める事を自覚していた。

連絡を終えたレオンは椅子に座り直して一息吐いた。

「全員を無事に家族の元に帰したいですね」

「そうだな」

副官も不可能だと理解しているがそれでも口にしていた。

「今回の作戦では生き残れても次の作戦ではどうなるか」

「それでも進むしかねえのさ。

 このまま地球と木連の馬鹿どもに火星の住民を殺させる気はないぜ」

「そうですね。生きてこの戦争の真実を残さないと」

火星の住民はテンカワファイルを読んで火星の状況を理解していた。

また政府からこの戦争の裏側も教えられた事で火星の独立には賛成していた。

だがエドワードの演説を聞いて憎しみで戦う事だけはしないように考えていた。

『子供達に憎しみを見せて、教える事だけはやめて下さい。

 次の世代には共存できる世界を残しましょう』

理性ある大人はその意味を理解していた。

憎しみあって戦ったその先には……滅びしかない事を。

「新兵には徹底させろ。

 自分達が手にしている物は人殺しの道具だと……迂闊に民間人には向けない様に気をつけるようにな」

「はい。勝って調子の乗らないように注意します」

その言葉にレオンは頷くと準備を始めた。

部隊を率いてこの戦いで一人でも多くの部下を生き残らせる為に。


「いよいよですな。出来ればもう少し先であって欲しかったですな」

アクエリアコロニーの作戦指令所でグレッグはエドワードに話した。

「そうだな。分かってはいたが避けたかったな」

準備を急ぐスタッフを見つめながらエドワードは話す。

「木連は教育方針を間違っているな。

 それとも草壁がそういう方向に変えたのかな。

 地球への憎しみを教えて、自分達の行為を正当化させる為に」

「その可能性は高いですね。

 元から地球への憎しみはあったでしょうから、自分達が正義だと教え込まれればそうなります。

 だとするとゲキガンガーもその為に利用した可能性も捨て切れません」

「ふざけていますな、アニメを聖典などにするとは」

レイの意見にグレッグが呆れるように話した。

その意見に全スタッフも頷いていた。

「私達が木連に現実の戦争を教えて二度とこんな馬鹿げた戦争が起きないように注意しましょう」

エドワードの言葉にスタッフも頷いて、生き残る為に全力を尽くす事にした。


―――ナデシコ ブリッジ―――


「副提督は全部ご存知だったですか?」

指揮を任されたアオイ・ジュンはムネタケに聞いた。

これにはプロスも顔を向けて一言も聞き逃さないようにした。

クルーも全員がムネタケの説明を待っていた。

「ホシノさん、全艦に聞かせるから回線を開いてくれるかしら」

「独房の艦長にも聞かせますか?」

「そうね、無駄かもしれないけど聞かせるわ」

「では発信オンリーでいいですね」

「それでいいわよ。どうせ口を開けばテンカワの事しか言わないから」

ムネタケの指示に従ってルリは全クルーに回線を開いてムネタケの説明を聞ける状態にした。

「さて、賢い人は気付いているけど木星蜥蜴の正体から説明しようかしら。

 ホシノさんは分かるかな?」

「良いんですか、私が答えても?」

「いいわよ、理由も答えてね」

「木星蜥蜴と呼ばれていますが、その正体は人間ですね。

 理由は事前に交渉できるなんて人間以外には考えられませんから。

 政府もそれを知られたくないから正体を隠していたんですか?」

「アクアちゃんの教えが良いのか、ホシノさんの才能なのかしら」

先程の火星との通信をきちんと聞いて、浮かんだ疑問を自分なりに推測するルリにムネタケは感心していた。

クルーは初めて聞かされた真実に驚いて声が出なかった。

(やはりそうなんですか……事態は深刻なものになりそうですな)

プロスだけが落ち着いて聞いていた。

「その通りよ。木星蜥蜴といわれる存在の正体は人類よ。

 その正体は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体、

 略して木連と呼ばれている者達よ。

 百年前に月の独立を叫んで生き残った人達の子孫が私達の相手よ」

ムネタケの説明にクルーは絶句していた。

「百年前の月の独立に地球は内政干渉して勢力を分散させたのよ。

 独立を叫んだ武闘派は火星に逃げ込んだけど、地球は火星に核攻撃を行ったの。

 彼らは火星から逃げる事に成功して木星に逃げ込んで独自の文化を作り上げる事に成功した。

 そして地球に謝罪と移住の許可を求めたけど、自分達のご先祖の罪を隠す為に地球は拒否したせいで戦争が起きた。

 その交渉にネルガルは手を出して決裂する方向に持っていったのよ。

 火星は事前にその事をクリムゾンから聞いて備えたけど時間が足りなくて第一次火星会戦で負けたのよ。

 約150万人が木連と地球の都合で殺されたの。

 そこへナデシコが強引に降下した事で第二次火星会戦が始まったわ。

 これでネルガルの目論見通り火星の住民が死んでいくわよ」

「そういう皮肉はやめて下さい、副提督」

「でも事実でしょう。都合いい事ばかり考えてるみたいだけど火星が生き残ったらネルガルは潰れるかもね」

「それは社長派の仕業で会長は関与されていませんよ」

「残念だけどそれは違うわよ。

 会長はネルガルの利益に繋がると判断して黙認したわ。

 でなければオリンポスと北極冠コロニーに連絡を入れて住民を避難させる事も出来たはずよ」

プロスはムネタケの言葉に反論するが否定できない要因に黙ってしまった。

「ミスマル・ユリカに言っておくわね。

 アンタの行動で火星の住民がこれから死んでいくのよ。

 アクアちゃんは何度もアンタの行動に注意をしたし、私も注意したけどアンタは変わらなかった。

 これがその結果よ。アンタが大事に思っているテンカワの故郷をアンタが壊すのよ」

辛辣な言葉をユリカに告げるとムネタケはルリに話す。

「ホシノさんはアクアちゃんの元に行きなさい。

 あなたは火星でしか生きられないの。地球も木連もあなたを道具として扱うわ。

 火星はIFSの普及でナノマシンに抵抗がないわ。

 ここなら普通に生きていく事もできるから幸せになるのよ」

「えっと、いいんですか?」

「良いも悪いも戦争に子供を参加させている時点で間違っているの。

 そんな事に気付かない連中が地球には大勢いるからこんな戦争が起きたのよ。

 だいたい地球の市民は無人兵器で攻められているのに、その正体に疑問をもたないから政治家が調子に乗んのよ。

 ホシノさんみたいにさっきの火星との会話で気付くようにしなさいよね」

クルーはムネタケの意見に恥じ入るばかりであった。

「これから本当の意味で戦争が始まるのよ。

 私は地球に戻ったらこの事実をを公表するわ。

 こんな戦争を計画した馬鹿達に一泡吹かせてやるの」

「そんな事をすれば副提督の立場は悪くなりますよ」

プロスがそれで良いのかと問うと、ムネタケは苛立ちを込めて告げる。

「はん、だからなんなのよ。このまま何も知らずに戦争ゴッコでも続けるの。

 冗談じゃないわよ。部下を火星で失ったアタシの気持ちが分かるっていうの?

 本来、起きる筈のない戦争なのよ……連合政府と軍が隠蔽しなければ。

 しかも火星じゃ民間人が無人兵器で虐殺されていったのよ。

 木連も都合のいい正義を唱えて自分達の手を汚さずに戦争を始めた。

 そのツケはきちんと払ってもらうわよ!」

その言葉にプロスも考え込み始めた。

クルーもまた自分達が何も知らずに政府に踊らされていた事を考えて、これからどうするのか迷っていた。


ユリカはムネタケの説明を受けてショックを感じていた。

これから火星の住民が戦争で死んでいく……しかも自分の行動が引き金になってしまった。

怖かった……自分が人を死に追いやると気付いて怯えていた。

彼女も遊びではない本当の戦争を体験する事になる。


ムネタケの艦内放送を聞いたホウメイはアキトに言う。

「テンカワは火星で降りる事になりそうだね」

「そうっすね、このままナデシコに乗るのはダメみたいです」

「アクアの指示なのかな?

 お前とルリ坊を守る為に」

厨房でのホウメイとアキトの会話にホウメイガールズも残念に思っていた。

「残念ですよ、俺はホウメイさんに教わりたい事があったのに」

「まあ火星でも修行を続けていくんだよ」

「はい」

そんな二人を見ながらミズハラ・ジュンコがサユリに言う。

「テンカワさんがいなくなる前に告白しておくのよ」

「べ、別にそんなんじゃないわ」

「後悔しても知らないわよ。

 火星はこれから戦争を始めるのよ。もう会えないかも知れないのに」

ウエムラ・エリがサユリに話すと全員が暗くなっていた。

「ん、どうしたの?

 みんな元気ないけど」

「まあしょうがないよ。戦争が始まるからね」

ホウメイの言葉に少女達は初めて知る現実の戦争に怯えていた。

「……そうっすね。酷いもんですよ、人が死んでいく光景なんて見たくはないですね」

ユートピアコロニーの光景を思い出してアキトは辛そうにしていた。

「誰も死にたくはなかったし、生きたいと思っていましたよ」

理不尽な攻撃で死んでいく光景を知っているアキトは二度と見たくはないと思っていた。

今でもあの時助ける事が出来なかった少女の事を思い出す。

逃げる事はやめたが、無力な自分は許せない時が今もある。

そんな思いからアキトは呟く。

「俺も火星の軍に入ろうかな?

 二度とあの光景を見ないように……そして今度は助けたいから」

「やめときな、テンカワ。

 あんたには人は殺せないよ。そんな事をするより美味しい飯でも作って子供達を喜ばせてやんな。

 テンカワはテンカワのやり方でこの戦争を生き抜いてみな」

ホウメイの言葉にアキトは自分が何故料理人を目指したのか思い出していた。

「俺は美味しい料理を作れるコックに憧れて目指したんですよ。

 美味い飯を作って人を笑顔にさせる、そんな料理人になりたかったんです」

アキトの望みを聞いたホウメイはまっすぐに見据えて話す。

「だったら一人前の料理人になるんだよ。

 この戦争で家族をなくした人も大勢いるだろうから、その人達にせめて美味い飯でも作って喜ばしてみせな。

 それも一つの戦いだよ」

「はい!」

アキトもまた自分のやり方でこの戦争に参加しようとしていた。

その様子を見ていた少女達も自分のやり方でこの戦争に参加しようと考えていた。


―――ユーチャリスU ブリッジ―――


「クロノ、これから火星の戦いが始まりますね」

「そうだな、背負うものが増えた分頑張らないとな」

『マスター、この戦いの後で地球に行って欲しいのですがよろしいですか?』

「どうかしたのか、ダッシュ?」

『はい、ネルガルの監視を続けていたのですが、非合法の実験施設を発見しました。

 できれば助けたいのです、あの子達を』

その言葉にアクアとクロノは反応した。

「そう、まだあるのね」

『はい、私も火星の作業で後手に回ってしまいました。

 巧妙に隠蔽されていたので発見が遅れてしまいました』

「そうか、エドワードに話して襲撃の準備をしておくか」

『他の企業の再調査も開始しましたので、わかり次第報告します』

「忙しくなりそうだな」

「そうですね」

二人は子供達のことを思っていた。

「助け出して守ってやらないとな」

「名前も必要ですね」

「そうだな。奴らの事だ、どうせ名前も付けずにモルモット扱いなんだろうな」

ラピス達救出の事を思い出してクロノは怒りを見せていた。

「また背負うものが増えますね」

「いいさ、いくらでも背負ってやるさ。

 子供達が幸せになってくれたら十分だよ」

「私も一緒に背負いますから大丈夫です。

 一人じゃないんです、クロノは」

優しく微笑むアクアにクロノも笑っていた。

「そうだな」

ちなみにブリッジで勤務していたクルーは二人の様子を見ない事にしていた。

(迂闊に口を挟んでいい雰囲気をぶち壊して、アクアさんを怒らせたくはないですから)

ある意味、別の意味でアクアは火星のスタッフから恐れられていた。

……これも必然の事なのかもしれない。


―――クリムゾン会長室―――


「いよいよ地球の大掃除を始める事になるな」

「はい、準備は終わっています。

 マスコミを通じて情報操作の用意は出来ています」

ロバートに秘書はこの後の予定を話していた。

「そろそろ現実を見てもらおうかな。

 都合のいい事を考えている連中に全てを失うという事を経験してもらおう」

「火星からの情報提供のおかげで木連と地球の戦力分析が完了しました。

 現状で両者がぶつかれば地球が勝利しますが、被害は甚大なものになると報告がございました」

「火星は漁夫の利を狙えばいいのに、それをしないとはな」

「それでは何も変わらず、火星も滅ぶ危険性を考慮したのでしょう」

現状の危うさを知る二人は火星の行動を快く思っていた。

「クリムゾンとしてもこの計画に反対する意味がないな」

「はい、収支を考えると文句など出ませんよ。

 賄賂ばかり要求する人材がいなくなる事は喜ばしい事です」

「リチャードの方はどうなっている?」

「監視を付けて行動を押さえています」

ロバートにとってあまり気分のいい事ではないと知っているので簡潔に述べる秘書であった。

「そうか」

自分に気を遣ってくれる秘書にロバートも一言で応えた。

「ウチのマシンチャイルドの計画は中止したか?」

「はい、マシンチャイルド、ボソンジャンプの実験は凍結して、現在調査中です。

 必要だったといえどあまり気分のいい話ではありませんね」

「そうだな、企業としてネルガルに対抗するとはいえ人体実験などするものではなかった」

アクアの指摘を受けて調査してロバートの元に来る報告書を読んでその非道さに驚いていた。

「これでは一流とは言えんな」

「そうですね。焦っていたのでしょうか?

 犠牲の上に立っている事を一般の社員達が知れば逃げ出すかもしれません」

「方向を間違えたようだ。

 これではクリムゾンが潰れる可能性もあるな」

「ネルガルの御曹司が躍起になるわけです。

 こんな事が表に出れば企業としての存在そのものを市民が否定します」

「だが今なら間に合うな」

「はい」

「科学者達の動向に注意しろ。

 自分達の研究が出来ないと分かれば、何をするか想像がつくだろう」

「では必要とあらば」

「ああ、処理してくれ。

 蜥蜴の尻尾切りだが仕方ないだろう」

「彼らも理解できれば良かったんですが」

「無理だろう。命の重さを認識できないからこんな非道な研究が行えるのだ。

 アクアやシャロンに残しておく訳にはいかんからな。

 私の手で終わらしておこう」

孫の手を汚させる訳にはいかないとロバートは思い、秘書もクリムゾンの安泰を考え従っていた。

こうしてクリムゾンでの人体実験は終わりを告げる事になる。


―――テニシアン島―――


『グエンには申し訳ないけど人員を回して欲しいの。

 一応ダッシュが監視してくれてるから大丈夫だけど、バックアップが必要だと判断したの』

「お任せ下さい、アクア様。

 そういう事でしたら是非協力させてもらいます」

事情を知ったグエンは問題などないと言い切る様に答えた。

「幸いテニシアン島の防衛はアクア様がいないので人員はそれほど必要ではありません。

 ダッシュによる防衛システムもありますので大丈夫です」

『ではお願いしますね』

「はい、お任せ下さい」

その一言にアクアは安心すると通信を終えた。

グエンは部屋を出ると部下達を集めて、緊急のミーティングを開いた。

「実は火星からアクア様のお願いがあった。

 目的はマシンチャイルドの実験施設の監視と襲撃時のバックアップだ。

 構わないな」

「クリムゾン本社からのバックアップがあれば我々でも十分出来ますが」

「残念だがクリムゾンの仕業だと思われるのは不味いのだ。

 この件はマシンチャイルドであるアクア様とクロノのネルガルへの報復と思わせる必要があるんだ。

 またロバート様が本社の大掃除でSSを使われているのだ。

 そこで我々の出番になるという訳だ」

グエンの説明によって状況を把握したメンバーは頷いて、全員が参加したいと思った。

この島で暮らしていた子供達を思うと助けたいと感じているのだ。

裏で生きている者には命と平和の重みを理解していた。

正直なところ綺麗事だと思っているが、それでも子供を道具にするのは嫌だった。

自分達を信じて懐いてくれたラピス達を思うと、幸せになって欲しいのだ。

「ではリーダー、準備を始めましょう」

「ああ、そうだな」

一人が急ぐように話すとグエンもその言葉に従って手筈を整えようとしていた。


―――アクエリアコロニー基地内―――


「こっちの準備は出来たけど、全員機体の最終チェックは終わった」

慌ただしく動くメカニック達を見ながらエリスは全員に確認した。

「いつでもいけますよ」

「今度は木星の無人機なんぞに負けませんよ」

「そうですよ。あいつらを火星から追い出すんですよ」

「そうね。でも気をつけるのよ。

 今回は私達の部隊は防衛じゃなくて攻撃するから失敗しないでよ」

エリスは全員に告げるとパイロット達は真剣な表情で話す。

「失敗なんかしませんよ。

 生き残って家族を守り続けるんですから」

「そういう事です」

「ドジ踏む気はないですよ」

「だったら生きて帰ってくるのよ。

 人手が足りないんだから無駄死になんてするんじゃないわよ」

笑って話すエリスにパイロットも笑って答えていた。

メカニック達もパイロット達の無事を願い、作業をしていた。


―――アクエリアコロニー避難シェルター―――


『皆さん、まもなく碌でもない戦争が始まります』

エドワードの宣言に市民達は不安な様子だった。

『各コロニーも無事に市民の皆さんをシェルターへと避難させています。

 私達は全力を持って火星を守り、木連から皆さんを守ります。

 どうか私達を信じて下さい』

エドワードの演説を聞きながら市民は不安と戦っていた。

『勝って生き残る為に今日まで準備をしてきました。

 皆さんには不自由な生活を数日してもらいますが、必ず皆さんを我が家へ帰れるようにします』

エドワードが自信を持って話すので市民は落ち着いていた。

(内心では不安なんでしょうね。

 でもそんな事は言えずに我慢している……そんな所は昔から変わらないわね)

ジェシカはサラと一緒にシェルターに避難していた。

側にはマリーが控えて二人を見ていた。

「クオーツ達、大丈夫かな?」

ここにはいないクオーツの心配しているサラにジェシカは微笑んで話す。

「大丈夫ですよ、サラ。

 クオーツくん達はバッタなんかには負けませんよ」

「そうですよ、クロノさんとアクア様がいるんです。

 無事に帰ってきますよ」

ジェシカとマリーの言葉に頷くとサラは安心したのか眠くなってきた。

「ゆっくりお休みなさい、サラ」

ジェシカに抱きかかえられて、サラは頷いて眠り始めた。

「ジェシカさんも休んでください。

 あとは私が見ていますよ」

サラを横にしたジェシカにマリーは言う。

「ですが……」

「今は休む事が貴女の仕事です。

 疲れて帰ってきたエドワードさんが一息つけるのはジェシカさんだけなんですよ。

 倒れる事は絶対にしてはいけません」

マリーの言葉にジェシカも従う事にした。

(エドに負担を与えたくはないわね)

「では先に休みますね。

 但し交代制ですよ、マリーさん」

「当然ですよ。では先にお休み下さい」

ジェシカを安心させるように微笑んでマリーは話す。

周囲にいる市民もそれぞれに家族を気遣いながら休んでいく。

中にいる火星の職員も安心させるように市民に話している。

(俺達が不安な姿を見せるとみんなが動揺するからな)

職員の一人が始まる前に言われた事を守って不安な様子を見せないように行動していた。

その様子に市民達も安心するように落ち着きを取り戻している。

これも一つの戦いなのだ。


―――ナデシコ ブリッジ―――


「部隊が展開していますね」

ウリバタケが急遽作製した無人探査機からの映像を見ながらジュンは呟いていた。

「木連は本気で火星の住民を殲滅するつもりね」

隣で見ていたムネタケの意見にクルーは焦っていた。

「それって私達のせい……」

ミナトが不安な様子で聞くと、

「そうでもないのよ。木連は火星に侵攻するきっかけが必要だったの。

 どのみち戦争は始まっていたわ。

 ただそれが早いか、遅いかの違いだけなのよ。

 火星は既に戦争を行う事を決意して、生き残る事を考えているの。

 このくだらない戦争を生き抜いて地球と木連の行為を歴史に刻む為にね」

「確かにくだらない戦争ですな。地球と木連の都合で火星を滅ぼすなど」

「アンタのとこの会長に注意しておきなさいよ。

 アクアちゃんもクロノも必ず報復するわよ。

 あの二人って普段は温厚だけどやる時は……怖いわよ」

ムネタケがプロスに告げると、

「やはりしますか?」

「絶対するわね。火星の住民も協力するわ。

 一応ネルガルが交渉を潰した事は内密にするらしいけど、報復だけはキッチリするみたいよ。

 何も知らない一般の社員を路頭に迷わせる気はないからね」

「その点だけは感謝するべきですな」

「でも勝てるの?

 これだけの戦力を相手にして」

「戦艦が約8500隻あります。

 おそらく無人機が10万機はあると見た方がいいですね。

 これでもホシノさんは火星が勝つと思いますか?」

ミナトの質問にジュンが戦力を見ながらルリに聞く。

「勝てると思いますよ。

 ブレード一機落とすのに無人機は30機は必要なんですよ。

 まして新型の機体は更に戦闘力を増している筈です。

 私達はまだ見ていませんが、火星の戦艦もナデシコより性能は上だと思います。

 おそらく軌道上からの砲撃で機動兵器のバックアップをするでしょう。

 相転移エンジンの特性を理解している火星なら十分勝てますよ」

火星の戦力を考えて話すルリにクルーは何も言えなかった。

「何の為にアクアさんが対艦フレームを設計したのか理解してませんね。

 ブレードの性能をそれとなく教えて火星での行動に注意を促す為にしたんです。

 もう少し真面目に仕事をして下さい」

「アンタも言うようになってきたわね」

絶句するクルーを見ながらムネタケは感心するように話す。

「この先、人を相手に戦争をするんですよ。

 遊び感覚でするようなら危険です」

無人機を相手にするのとは訳が違うとルリは告げる。

「そうね。艦を降りても残っても戦争は続くから、自覚がないとやばいわね」

先の事を思うと地球は自覚の無い連中が多いのでムネタケは困っていた。

(この先を考えると頭が痛くなるわね)

惑星間戦争などという初めての事態を地球の住民は気付いていないように思える。

市民は大規模な戦争になると思っていないのだろうとムネタケは考えている。

(火星がこれからする行為を知っても地球は落ち着いていられるかしらね)

平和ボケした地球にはいい刺激になると思いながら、ムネタケはこれから起きる戦闘を見る事にした。


―――木連作戦会議室―――


「時間だな。

 火星へ我々の怒りを見せつける時が来た!

 進軍を開始する!」

草壁の宣言に士官達が正義を叫びながら部隊の様子を見ていた。

(勝てれば良いが、おそらくダメだろうな)

秋山達の話を聞いた九十九は木連が敗北する瞬間を見逃さないようにしていた。

(せめて俺だけは現実を見ておこう。

 そして市民を守る為にどうすれば良いのか、考えよう)


「始まったな」

「そうですね。今頃は会議室は馬鹿騒ぎしていますね」

いつもの料理屋で海藤と村上は酒を飲んでいた。

哨戒任務を終えた海藤は一時的な休暇を与えられていたが、それは会議での発言を封じる為のものだと考えていた。

「秋山達を生き残らせるようにしますよ。

 まだ死なすには惜しい奴らです」

「海藤もだよ。この先を考えると人手は多い方がいいからね。

 火星とは仲良く出来るといいな。向こうはこっちみたいに感情で動く事はないと思うよ。

 元凶は地球にあるから、火星とは協力するべきだな」

「歪になった社会を直していかないと不味いですな」

未来を見据えて二人は話し合っていた。

木連の社会構造の改革などの事を今から考えるには早い気もするが準備だけはしないと思っていた。

彼らもまた未来を考えての戦争を始めようとしていた。


――この日から地球、木星、火星の三惑星の戦争が始まった。









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EFFです。

ちょっと前振りが長かったですが、戦争が始まります。
それぞれの思惑を秘めて。

では次回でお会いしましょう。


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