道を示す事は難しい

だが示さねばならないのだ

未来を示す事は我々には大事な事であるからだ

そして後に続く者の道標とならん



僕たちの独立戦争  第三十九話
著 EFF


元老院――正確には木連最高会議室と呼ばれる木連創設者達の子孫で構成された名誉職に近いものだった。

だがこの戦争で彼らは祖先の恨みを晴らすべく軍部や政治に口を出してきた。

現場の苦労も知らずに自分達の考えだけを伝えるだけの存在だが、名誉ある立場であるが故に民衆が従う事もある。

木連の思想であるゲキガンガーを利用して自分達の権威を強化する老害でもあった。

『月は我々の始まりの地で聖地でもある。

 さっさと火星を攻略して月を我々の手に取り戻すのだ』

(この老害どもが……確かに月は重要だが今の我々には重要なものではないのだ。

 戦場に出る気も無く、口だけを出すのはやめて欲しいものだな)

同じ事を繰り返して話す老人どもに草壁はうんざりしていた。

確かに彼らの父親や祖父が木連を建国したが、彼らはその後で何かを為した訳ではないのだ。

(状況を停滞させただけの存在がこれ以上口を出すな。

 これ以上戦争をややこしくさせるのは勘弁して欲しいものだ)

彼らが木連の思想を変えようとしてくれれば、火星に対する戦略も楽に変更できたのだと思う。

(ままならぬものだな。

 初戦に勝ち過ぎたせいで木連全体が狂ってきている。

 こんな時こそあなた方が引き締めてもらう立場でいなければならないのに……暴走させてどうするのだ)

軍部の暴走を抑えるべく士官達に連日説明をしているが、未だに正義を叫ぶ連中がいる事に危険を感じていた。

更に元老院のせいで火星に再侵攻するべきだと言う者が勢い付く事を懸念していた。

「火星の提案を受け入れる事は間違いではありませんよ。

 このまま木星蜥蜴などと呼ばれながら戦争をする気はないのです。

 敵の敵は味方でしょう……ならば利用しても問題はありません」

『ぐっ、確かにそうだが』

「正義は我らにあります。

 月の防衛にはあなた方からも人員を回してください……聖地を取り戻すにはあなた方にも協力して欲しいのです」

元老院の意見を遮るように草壁は月の事を話す。

現在、月は一進一退の攻防が続いている。

地球側の機動兵器が本格的に投入された所為で戦線が拮抗し始めたのだ。

『そ、それは……そうだが、我々は木連の管理があるのでそれは出来ない』

自分達が戦場に出る事を避けたいと言わんばかりに、

自分達の仕事を盾にして動きたいが無理だと話す老人に草壁は呆れていた。

(まさに老害だな……命を賭けずに都合の良い事を言うのはやめてもらうぞ)

この瞬間に草壁は彼らの抹殺を決断した。これ以上余計な口出しで戦略を狂わされる事を草壁は回避したかった。

彼らとの実りの無い通信を終えると次の問題を改善させるべく政務を執っていく。

(十年くらいは掛かるだろうが、木連の教育方針を見直さないとな。

 市民の考え方が似通っているのは不味いからな)

見通しは真っ暗だが、草壁は木連の未来を見据えて作業を進めていく。

政治家としての草壁春樹の仕事は始まったばかりであった。


「本当に困ったものだな。本来は軍の暴走を抑えるべき人達が暴走を加速させようとするとは」

「……はい、困ったものです」

村上と秋山が元老院の扇動を見て危険だと感じていた。

「閣下も呆れておられました。

 口を開けば「聖地を取り戻せ、火星を我が物に」ですよ。

 おかげでいつ強硬派が火星に再侵攻を言い出さないかと思うと」

「まあ当面は草壁も軍を動かせないと考えているから火星の提案に賛成したんだろう。

 大幅な部隊の再編も考えているかもしれないな」

「戦略の立て直しですか?」

「そういう事だな、秋山も変化する状況をしっかりと見極めて動くんだぞ」

「はい!」

真剣な眼差しで応える秋山に村上は思う。

(まあ、春樹が俺に任せると言った以上はきちんと育ててやらんと。

 あいつも自分の後継を育てる余裕が無いみたいだからな)

世捨て人の村上にとって秋山は大事な息子に見えてきた。

木連の次の世代の重責を背負わせるのは心苦しいが、それに負けない男にしてみせると考える村上であった。


―――旗艦トライデント ブリッジ―――


「自分が欧州での案内役を引き受ける事になりました連合軍少佐のクロム・ロックウェルです」

緊張した顔で敬礼する青年にレイは言う。

「一応、民間人で構成された部隊なので気楽にしても構いませんよ」

「いえ、オセアニアでの活躍は友人から聞きました!

 上はまだ知りませんが、私はこの部隊の活躍に欧州の安全が確保できると信じていますので」

「その点は安心してください。

 我々は欧州の安全を確保して同胞の帰郷を成功させる為に来ました。

 逆に言えば失敗は許されない部隊ですので連合の思惑など気にしませんよ」

(あ〜凄い心理戦を展開されそうだな……大丈夫かな?

 顔が引き攣っているよ)

さり気なく嫌味を言いながらロックウェルさんにプレッシャーを与えていくレイさんに俺は逃げたくなっていた。

ブリッジのクルーは全然気にしていないから、これが日常の風景になるのかと不安に思っていた。

オセアニアを出発して途中で三度の戦闘があったが、俺達はその度に火星宇宙軍の実力を思い知らされていた。

(一度目はクロノさんがストレス解消?の為にライトニング・ナイト一機で全滅させるし、

 二度目は新装備のアンチフィールドミサイルの試射を兼ねての戦闘であっさり終わったし、

 三度目はトライデントのディストーションブレイクなんて冗談みたいな攻撃で終わるから吃驚したよな)

俺達は次から次へと出てくる火星の新兵器の実験に言葉が出なかった。

(その度にイネスさんの説明には困ったけど……)

それが最大の問題だと俺達は気付いていた。

(ジュールが逃げたくなる訳だ……俺も逃げたくなったよ)

出番がないと俺達は思ったが三度の戦闘を経た時には今回の火星の作戦は新兵器の実験を兼ねたものと理解していた。

よくは理解していないが相転移エンジンとかいう物を大気中でも十全に使用できるように新機軸のテストも兼ねているとか。

俺達の操縦するエクスストライカーもそのシステムを使用しているとか……う〜ん、ダメだな、俺って馬鹿なのか。

こういう技術系はルナとかジュールにまかせっきりだから……勉強しないとダメか。

(火星から木連の兵器を排除したから地球で実験するなんて考えないよ。

 しかも地球に住む火星人の帰郷を兼ねているから火星の政府も無駄がないよな。

 独立部隊として命令権が無い為に軍も最前線に送るしかない状況だが、

 その行為が自分達の首を絞める事になるとは理解していない)

最前線の人間は気付くだろう……自分達を救っているのが連合軍ではなく火星の軍だという事を。

(こうして連合軍は更に信頼を失っていくんだろうな……いい気味だな)

暗い感情だが俺は家族を奪われた元凶でもある連合政府も連合軍もどうでもいいと思っていた。

この事は火星の住民には当たり前のようになっている事をクロノさんは危惧していた。

(向こうがいい加減な人間でも俺達までそんな人間になってどうする……か。

 本当に気をつけるのはこれからなんだな……火星人は地球人のような傲慢な人間にならないようにしないとな)

クロノさんは俺に色々な事を教えてくれる。

それは多分、自分のような生き方をして欲しくないからだと思う。

(俺はクロノさんの思いに応える事が出来るだろうか?)

ジュールもクロノさんから武術を教わっている。

「俺は家族を守りたいからな。

 失う痛みは知っている……だから守れるだけの力が必要なんだ」

とジュールは言い、アクアさんからもオペレーターとしての訓練も受けている。

(俺より苦労してきたから頑張れるんだろうな……本当に負けらんねえな)

相棒であり、ライバルだと思うジュールに負けたくないと思う感情に苦笑して俺は今日も生きている。

家族を失ったが、まだ全てを失っていないと気付かずに。


「はっ!」

繰り出される攻撃をクロノさんはわずかな動きで回避して、腹に軽く一撃を加えるとジュールは動きを止めた。

(強いな〜私じゃ勝てないよ、ジュールも強いけどクロノさんは別次元って感じか)

二人の組み手を見ながら私はその凄さに驚いていた。

後の先というべき攻撃に徹したクロノさんにジュールは様々なフェイントを織り交ぜた攻撃をしているが、

全てを読んでいるかのように攻撃を回避してジュールに一撃を加えていた。

「ク、クロノさん、その技は何ですか?

 地球にそんな武術が在ったなんて初めて知りましたよ」

お腹を押さえてジュールは信じられないものを見たような言い方で訊いてきた。

「これは元地球の武術でな。

 現在は木連にしか残っていない武術を俺が改良したものだよ。

 奴らの天敵になるようにな」

「……そういう事ですか」

ジュールは納得したが、私は二人の会話を思い返して違和感を感じていた。

(元地球で……今はないんだよね。

 でもクロノさんは知っている?

 しかも誰も知らない木連の武術?……天敵になるように改良した?)

「すいません、クロノさん。

 何かおかしな事を聞いたような気がするんですが?」

私は疑問をそのまま残すのが嫌だったので聞く事にした。

「どうして木連にしかない筈の武術をクロノさんは知っているんですか?

 それに天敵になるように改良するって簡単にはできないと思うんですが?」

「ほう、ルナも冴えてるな」

「どういう意味よ」

ジュールのシニカルな言い方に私はすぐに反応したが、やれやれと肩を竦めるだけでジュールは何も言わなかった。

(そう……そういう事なのね。

 あんたはやっぱり私の敵なのね)

「ふっ、感心しただけでどうしてそんな思考になるのかな?

 少しは女らしくしないとシンに嫌われるぞ」

私の視線に気付いたジュールが肩を竦めて言う。

「うっ」

(や、やっぱり読まれているのね……単純なのかな、私って)

「こらこら、ジュール。

 ルナちゃんをいじめちゃいかんぞ……確かに弄りがいがありそうだが」

クロノさんはフォローにならない事を仰って下さいました。

隣に座っていたクオーツくんの憐れみを含んだ癒すような視線に涙が出そうになった事は……内緒だ。

私は気を取り直して再度問う。

「で、どういう事なんですか?」

「ふむ、内緒にするなら答えても構わんが」

「シンには絶対言うと思いますよ。

 ルナはシンにベタ惚れですから」

「そこっ! うるさいわよ!」

ジュールの冷やかしに文句を言うとクロノさんは少し考え込んでから教えてくれた。

「まあ……いいかな。

 簡単に言うと俺はボソンジャンプの事故で2203年から戻ってきたのさ」

「そうなんですか」

あっさりと流した?私の発言にクロノさんとジュールは驚いていたが、

私もクロノさんの言葉を思い返して焦りだした。

「…え……ええぇ――――!

 それって未来から戻ってきたんですよね!

 ど、どうやって? 未来ってどんな未来だったんですか?」

「意外と鈍いんだな……反応がおかしいぞ」

「俺はいつもこれに付き合っていますよ」

「お前も大変だな」

「フッ……慣れましたよ」

「その調子でイネスの説明にも慣れろよ」

「クロノさんも苦労しているんですね」

「もう慣れたよ」

驚く私を放って置いてクロノさんとジュールは哀愁漂う雰囲気で自分達の境遇を嘆いていた。

クオーツくんをはじめとする男の子達も何故か哀しそうに二人を見ているのが印象的だった。

私には窺い知れない世界を見せられた気分だったが、真相を聞く為に再度尋ねる事にする。

「どういう事ですか?」

「言葉通り、俺は2203年から時間を遡ってきた人間だが」

文句でもあるのかと言いたげなクロノさんに私は聞く。

「だからどんな未来だったんですか?」

「……詳しくは言えないが、それでも聞きたいか?」

平坦で寒気がするような声に私は火星の住民には良い未来ではなかったと感じていた。

(聞きたいけど、聞くのが怖いよ。

 あ〜こんな時にシンが居てくれたら良かったのに〜〜)

私が迷っているとクロノさんは言うべきではないと判断したのか、子供達に技を教え始めていた。

子供達は真剣にクロノさんから武術を教わろうとしていた。

「ねえジュール。どうして皆に武術を教えるの?」

「どうしてって必要だからさ」

「だから何でよ?」

「生きて家族を守るためだよ。

 俺達は貴重な成功例だからな……企業にとっては大事なサンプルみたいな物だよ。

 企業の持つ権力の前には警察も頼りにならんさ。

 だから自分の身は自分で守る必要があるのさ」

「だからどうしてよ?」

苛立つようにジュールに問う私にジュールは自分達の出生にまつわる話をした。

「俺達は試験管で作られたからな……守ってくれる家族なんていないんだよ。

 ……俺の母さんは例外だったけどな」

……声が出なかった。

子供達に親がいない事が悲しくて、自分の身を守るのは自分しかいない現実が悔しかった。

「それでもクロノさんとアクアさんが親として守っているから笑顔でいられるんだよ。

 皆も薄々気付いているんだろうな……家族を守るのは自分達だと」

聞けば女の子達も護身術を教わっているそうだ。

怪我をしても泣き言一つ言わない男の子達が立派だと思うが、同時に悲しくなってきた。

「……恵まれているんだね」

自分の環境を思い出して呟くと、

「まあ……そうだが」

ジュールが苦笑して反論する。

「あの子達は自分を不幸なんて思っちゃいないぞ。

 大事に思ってくれる二人がいるからな」

「そうだね」

「それに俺も守ってやるさ。

 弟達を先に助けてもらったから、今度は俺が二人を助ける番だからな」

ジュールはそう告げると再びクロノさんに技を教えてもらっていた。

「家族か……」

火星に居る家族を思い出して私は皆が無事に火星に戻れるようにと祈っていた。

(あの子達の未来に幸せがありますように……)


オペレーター訓練の最中にラピスが聞いてくる。

「ルリ姉ちゃんはジュール兄が気に入ったの?」

「はあ?」

ラピスの質問に私はどう答えていいのか分からなかった。

私より年上のマシンチャイルドに会う事は初めてのようなものだし、アクア姉さんとは違った意味で貴重な出会いなのだ。

私は研究所暮らしだったが、ジュールさんは外で暮らしていた。その分、色々参考になる事も教えてくれるから。

「まあ、そうなの♪」

何故かアクア姉さんが嬉しそうにしていた事が不思議だった。

よく見るとマリーさんは何故かアクア姉さんを見て顔を顰めていた。

「アクア様、おかしな事をなされば、即クロノさんに過去の事を話しますよ」

「そ、それだけはやめて―――!」

「「お、お尻ペンペンは嫌ぁ―――!」」

アクア姉さんの叫びとセレスとラピスが震えながら怯える光景に私はマリーさんの真の実力を見ていた。

「お尻ペンペンって?」

「とても叩きがいがありましたよ」

大満足という笑顔で話すマリーさんに、セレスとラピスは部屋の隅でガタガタ震えていたのが印象的だった。

「イタズラしたらお尻ペンペンなんですね」

「はい♪」

笑顔で話すマリーさんに私より髪が青みがかった銀髪のサファイアが聞く。

「痛いの?」

「とっても痛いからイタズラはしてはいけませんよ」

アクア姉さんが真剣な顔でカーネリアンとガーネットにも話していた。

三人は何度も頷いていた。

「つまりお仕置きの事なんですね」

「そうです……アクア様のお尻も叩きがいがありましたよ」

昔のアクア様はそれはそれは可愛くてお尻も真っ白で叩きがいがありましたと言うマリーさんに、

「だから、それは言わないで……マリー」

アクア姉さんが恥ずかしそうに話すのがとても珍しかった。

「実はアクア様にお願いというか、していただきたい事があるのですが」

話題を変えようとしたのか、マリーさんは真面目な顔でアクア姉さんに話した。

「何か問題でもあったの?」

「いえ、これから向かう欧州では状況次第では歓迎式典もあるかもしれませんので、

 クロノさんやレイさんに社交ダンスの練習をして頂けないかと思いまして」

「……戦時下でも必要になるというのですね」

「おそらくは」

アクア姉さんは私達の方を向くと何故か真剣な顔で考え込んでから告げた。

「分かりました。

 クロノとレイには私から話しておきます」

「ではルリ様達も参加していただきますね」

「何故ですか?」

私には必要ないと思ってマリーさんに訊ねた。

「そうですね、立派な紳士淑女になる為の練習だとお考えください。

 備えあれば憂いなしと言いますから」

この時は意味が分からなかったが、後になって感謝する事になるとは思わなかった。

こうして私達の教育課程にダンス講座なるものが増える事になった。


―――ネルガル会長室―――


「オペレーターの手配をしないと」

「大まかに分けて四人ですか?

 火器管制、航法管制、エンジン出力管制、防衛管制でしょうか?」

「エステ隊の指揮はアオイ副長がするからそうなるだろうね」

ナデシコの状況から必要な人員の手配をしていた二人はオペレーターの問題で困っていた。

「どうしようか?」

「本社からオペレーターを向かわせるわよ。

 マキビ博士の子供を乗せたなんて知られたら絶対奪いに来て、その後でどうなるか分かるでしょう」

「……そうだね、やばいよね〜」

「それにムネタケ副提督の意見も聞いたでしょう。

 軍に売り込む気ならマシンチャイルドは使わない方針にしておきなさいって。

 今は戦時下だから問題になってないけど、後々問題になりそうだから控えなさいって言ってたわ」

「これも父上の負の遺産だね……なに考えていたんだか」

渋い顔のアカツキはどうしたものかと悩んでいた。

ネルガルは現在軍から受注はきているが、クリムゾンと二分する形になっている。

機動兵器に関してはマーベリック社の製品より優秀だと判断されていた。

ようやくマーベリックとの差を縮める事に成功したが、クリムゾンとの差は変わらなかった。

クリムゾンの製品は明らかに火星の技術力から齎された物だ。

それは即ち未来からの技術が活かされているのだ。

「でもジャンプ関連はクリムゾンにはないのが不思議なんだよね」

「確かに変よね、火星はどうやって生体ボソンジャンプを実用化したのかしら?」

失敗続きの実験を思い出してエリナは何故出来るのか不思議に思っていた。

未来からの資料があったとしても生体ボソンジャンプを成功させるには何らかの条件があるのだろうか。

「まさかと思うけど……火星人専用かな?」

「まさか……そんな訳…そうなのかしら?」

アカツキの意見を否定できずに今までの被験者が地球人であったことを考慮すると事実かもしれないとエリナは思う。

「だったら今まで私のしてきた事は無駄だったのね」

「そうなるね。あくまでそれが事実ならだけど」

「可能性は高いわよ。例外が一つあるけどね」

「アクア・ルージュメイアンかい?」

「彼女がもしアクア・クリムゾンならどうやってジャンプを可能にしたのかが知りたいわね。

 私達でも使用できるようにする方法が其処にあるから」

「遺書の用意をしてネルガルを辞めてから調べるようにしてくれたまえ。

 これ以上傷を広げるのは危険だからね」

真面目な顔で話すアカツキにエリナも悔しそうに言う。

「分かっているわよ!

 無理な事はしないし、出来ないわよ」

「ならいいけどね。

 勝手にして泣きついてもプロス君は許さないと思うよ。

 彼も今度は本気で君を処理しようとするし、僕も賛成するからね」

自分を切り捨てると言うアカツキにエリナは本気だと思い寒気がしていた。

「まあ、向こうが君を生かしておくとは思わないけど」

エリナは自分を取り巻く環境に危惧していた。

少しずつ自分のしてきた行為の危険性をエリナは気付き始めていた。

「言い忘れていたけど、チューリップを使った実験は控えるように連絡があったよ。

 出口が木連になっているから、いずれ彼らがチューリップから出てきて施設を破壊するから気をつけなさいって」

「何で言わないのよ!」

ニヤリと笑いながら話したアカツキにエリナは怒りを見せていた。

「その方が面白いじゃないか」

「で、誰からの情報よ」

怒りを抑えながらエリナはアカツキに訊く。

「クリムゾン・ウィッチさんから♪

 いや〜助かるね〜施設を破壊されずに済んだから

 できれば今度食事にでも誘いたいよ」

「あんた、プロスに似てきてない?」

「さあ、どうだろうね。

 とりあえず実験は中止にしてくれたまえ」

「……分かりました、会長。

 チューリップを使った実験は中止にして、C・Cを使った実験に切り替えます」

状況を考えてありえる可能性に気付いたエリナはボソンジャンプの実験が進まない事が残念に思えてきた。

(戦艦規模のディストーションフィールドがあれば、ジャンプ可能だと分かっただけでも良しとするしかないか)

現在分かった事がこの点だけだが、無理に知ろうとする場合の危険性を考えると手が出せない事も事実であった。

クリムゾンがボソンジャンプの実用化が進んでいない事はネルガルにとっても悪い話ではない。

火星が意図的に教えないのならボソンジャンプは地球では実用化できないのかもしれないと判断する。

実際に時空間移動なら迂闊な事はできない事も事実だと思い、エリナは実験の凍結も考えるべきかと思っていた。


―――アクエリアコロニー大会議室―――


火星の行動を決めるべく各分野から代表を選出された者達が会議を続けていた。

何故かレオンが議長を務めていたが、誰からも文句は出なかった。

彼は現場に出たがるが、こういった会議でも立派に議長を務めることが出来る人物だったのだ。

「とりあえず地球が俺達の独立を認めない時はどうするか選択しないと不味いだろうな。

 まず地球が独立を認めた時は謝罪を求めて現状維持でいくべきか?」

この意見には全員が賛成していた。

「では独立を認めない場合について幾つかの方向があるので煮詰めるべきだな」

レオンの意見に誰も口を出さなかった。

「まずは地球に対して宣戦布告する。

 先の会戦の事もあるので正当性はこちらにあるだろう。

 いい加減……地球の人間にも戦争している事を自覚してもらう必要があるからな」

この意見には難色を示す者がいたがレオンは更に続けていく。

「次に地球の事なんざ、無視して火星は独立独歩で進んで行く。

 この場合はいずれ地球とも戦争状態になる可能性がある。

 なんせ地球の上層部は火星の住民の命など何とも思っていねえからな」

この意見には納得できる部分があるので全員が悔しそうにしていた。

第一次火星会戦の事を考えると当然かもしれない。

火星の住民を見殺しにした事実があるのだ。

「または木連を惑星国家と認めて同盟を結ぶかだ。

 この場合のメリットは地球に一本化できるから戦力の分散を避ける事が出来るが市民の反発も大きいだろうな。

 他にも問題はあるが一番の問題は地球の連中が馬鹿しかいない事が最大の問題点だ」

誰もが最後は地球の問題に行き着く事に嫌そうにしていた。

「とりあえず木連は我々の提案に応じる事にしたようだ。

 今更ですが木連は地球の連合市民に対して宣戦布告する事を決断した。

 これを利用して地球の決断を先延ばしにする事はどうだろう?」

タキザワの意見には賛成する者が多かったが、次のレオンの意見に声が出なかった。

「悪いが問題の先延ばしはやめた方がいいぞ。

 往生際の悪い連中ばかりだからな、この件が火星の仕業だと知れば間違いなく敵対するぞ。

 今更だが地球の連中に理性ある対応を求める事は危険だと言わせてもらうぞ」

「やっぱりダメか?」

残念そうにタキザワが話すと、レオンは肩を竦めて全員に告げる。

「ダメと言うか……理性ある人間なら最初にきちんとした対応をして戦争なんざ起きていねえよ。

 碌に責任がとれない連中だから、未だに火星に連絡をしねえんだよ」

これには全員がため息を吐いていた。

「まあ俺達が状況を動かすしか選択肢はないと思うぞ。

 木連には監視して防衛して報復する事にして、

 地球に対しては独立を承認させる為に政治家を動かして世論を独立承認に持って行くしかないかな。

 後は交渉次第って事だな」

「現状ではオセアニアは火星の独立を承認しそうだな」

「アメリカは無理だろうな。

 残り二つを動かせばいい訳だが、ここに《マーズ・ファング》の価値が出てきそうだな。

 恩を仇で返すのが欧州のやり方なら仕方ないが」

意外ともいえる事に全員が唖然としていた。

「上手くいくと欧州が味方に付くのか?」

参加者の一人が聞くと、

「可能性はあるだろう、なんせ《マーズ・ファング》と名乗っているんだ。

 火星の部隊だと気付かん方がおかしくはないか?」

「それは確かにそうだが」

「意外な効果が出てきそうだな」

それぞれに参加者が感心するように言う。

「実際に戦果を上げているからな。

 連合政府も軍も困っている事は間違いないな。

 地球では手をこまねいている事を火星の軍にさせているんだぞ。

 市民も連中を能無し呼ばわりする事は確実だな」

レオンが愉快に話すと参加者も笑っていた。

「クリムゾンからの報告も同じようになっている。

 向こうも欧州でのシェアが急激に伸びたのは《マーズ・ファング》のおかげだと考えているみたいだ」

「そりゃそうだろう。自分達を救ってくれたのが火星宇宙軍でその支援をクリムゾンがしてくれるんだ。

 同じ製品で値段が同じなら俺なら迷わずクリムゾンの製品を買うぞ」

タキザワの意見にレオンが自分の考えを話すと全員が納得している。

助けてもらった事に感謝しない人間など多くはいないから。

「後はアフリカ次第だろう。

 極東はいつも中途半端にしか答えを出さないから信用できんからな」

タキザワの意見を聞いて無血で独立への道が出来る事に全員が安心していた。

「この事を組み込んで再度方針を決め直すべきだろうな」

レオンの意見にそれぞれが意見を出したが纏まらなかった。

「とりあえず出た意見を吟味して来週の会議で決定するぞ。

 各自で出た意見に対策を盛り込んでおいて欲しい」

タキザワが告げて次の会議までにどうするか考える事にした。

「では次の意見に移るぞ。

 火星の農業事業を改善させる意見だが…………」

会議は続いていく。

少しでも火星を取り巻く環境を改善する為に彼らは意見を出していく。

この会議が火星の行く末を担う事を誰もが知っているからこそ意見を出し合う。

想いは一つ……火星に生きる人の為に最善を尽くす。

明日を掴む為に……。











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

フェイントかまして、いきなり木連から出ましたがいよいよナデシコも発進へと進みます。
そろそろ木連の内部事情も書きたいけど難しいんだよね。
サブちゃんは活躍するのか?それとも雑魚キャラになるのか?

では次回でお会いしましょう。

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