若者が死んでいく

必要な事と割り切れる自分がいる

随分と変わってしまったものだと思う

何時までも子供のままではいられないという事か

それとも復讐なのかしれない

かつての自分に手を差し伸べなかった世界への




僕たちの独立戦争  第五十三話
著 EFF


連合宇宙軍・月方面艦隊のチュン・レイフォン提督はここ数日の状況から艦隊に第二級警戒態勢を発令する。

哨戒を担当していた無人偵察機と艦艇の一部からの定時連絡が途絶えたからだ。

月方面艦隊は第一次火星会戦で生き残った部隊を中心に再編され、木連との戦いを最初に経験したせいなのか。

最初にエステバリス0G戦の導入を行い、機動兵器による戦艦を最初に撃沈した部隊として有名なのだ。

(前史ではテンカワ・アキトがパイロットとしては最初であったが、

 この世界ではパイロットではなかったので、この事がエステの有効性が実証された事になる。

 また火星が生き残った事で、木連は月の攻略より火星の攻略を優先した事で月は陥落しなかったのだ)

「不味いな、火星よりも先に月を落とす事に方針を変更したのかな」

旗艦シラヌイのブリッジでチュンは呟くと、

「もしかすると火星と停戦したのではありませんか?

 だとすると戦力の一本化が出来たので本格的な攻勢が始まるでしょう」

副官のヒラサワ・カツヒトがチュンに考えを述べる。

その考えを聞いたクルーは緊張を見せていく。

月方面艦隊――総艦艇数4百隻の内、相転移機関に変更された艦はまだ半数の二百隻にも満たなかった。

エステバリス隊による乱戦で敵艦の砲撃を封じ込んでの戦いで防衛し続けてきた。

負けてはいないが、勝ったとも言えない状況でもあったが、その士気は高く、連合でも屈指の精鋭部隊でもある。

「なあに負けはせんよ、我々には無敗のエステバリス隊がいる。

 そして新型の戦艦ユキカゼのグラビティーブラストもある」

チュンはクルーに告げてユキカゼを見つめる。

連合軍、相転移機関戦艦で初のグラビティーブラストを搭載した戦艦ユキカゼ。

クリムゾンの大盤振舞いとでも言うべき戦艦の供与に焦るネルガルが試験艦として月方面軍に提供した艦である。

相転移エンジンを一基搭載してグラビティーブラストの使用が出来るように戦艦を大規模に改修。

真空を相転移する機関である為に、一基の相転移エンジンでは出力不足で地上では主砲の使用が不可だった。

だが宇宙空間では万全の状態でグラビティーブラストを使用できるとネルガルの報告で月に配備される事になり、

月方面艦隊で最大の攻撃力を持つ戦艦として活躍していた。

チュンの言葉にクルーも最強の戦艦を見て安堵している。

(さてさて、どこまで戦えるか判らんが、出来うる限りエステバリス隊の損害は抑えていかんとな)

実戦を経験しているパイロットは貴重な人材だとチュンは考える。

(おそらく、この部隊とオセアニアのブレードストライカー部隊が拮抗しているかな?

 あとは最新の対艦フレームを導入した極東くらいだな)

現状で木連の無人兵器に対応できるのはエステバリスとブレードストライカーだけだとチュンは考える。

熟練したパイロットでもまだ一年にも満たないものばかりなのだ。

(IFSを忌避する連中ばかりだから数が揃わないし、補充も出来ない以上は損害を最少にしなければならんのだが)

もっとも生存が危ぶまれる部署という現実にチュンは悩む。

(クリムゾンの戦艦は優秀だと聞いているが、テロのおかげで生産が遅れるというし)

何考えてんだかと心の中でチュンはため息をついている。

未だに現実を理解しない連中がいる事に頭が痛くなる。

前線に戦力がなければ戦線は崩壊して、いずれは自分達が死ぬ事を理解していないのだ。

(ネルガルの新型艦コスモスが出るまで戦線を維持するのが、私の仕事になるのかな)

ユキカゼを上回る攻撃力を持つドック艦コスモスにチュンは期待しているが、

(何で……ドック艦なんだ?、戦艦を出して欲しいんだが。

 ネルガルも所詮は素人の企業なのか?

 それとも連合軍と政府に対する嫌がらせなのか?)

後方支援の艦ではなく、前線に配備できる戦艦を出して欲しいと願っていた。


「さて、向こうも勘付いているだろうな。

 俺達が近づいている事に」

こうづきの艦橋で高木は戦場へと艦隊を進めている。

「しかし……いいんですか?

 前衛艦隊のたった五百隻で対応するなんて大胆すぎますよ」

大胆にも自らを囮にする高木を呆れるように大作がぼやく。

「仕方ないだろう。総数で動けば篭城される可能性もある。

 同数程度ならばいきなり逃げはせんだろう」

別宙域に待機させている本隊の事は出来る限り秘匿しておきたかったのだ。

「火星が教えてくれた月の戦力と次期主力艦……コスモスだったか。

 そのコスモスとやらが出て来る時までは千隻程度だと認識させておきたいんだよ」

「出来れば完成直後に奪取したいですが、警戒厳重な場所ですから無理ですし」

大作がコスモスを建造しているコロニーの情報を見て悩んでいる。

「偵察に留めて置きますか?」

「とりあえずはな、この戦いの結果次第では攻撃を仕掛ける事も考えておいてくれ。

 出来れば先制攻撃を行って戦力になる前に破壊しておきたい」

「了解しました。では飛燕とジンのお披露目を始める事にしますか?」

「おう。搭乗者にはこちらの指示に従うように言っておいてくれ。

 従わぬ者には厳罰を以って事に当たるとな」

「承知しました」

二人の声を聞いた通信士は搭乗者達に伝えていく。

「さて、始めるぞ!

 重力波砲の発射準備を始めろ。

 ジン部隊、飛燕部隊の発進準備を急がせろ!」

矢継ぎ早に高木は指示を出していく。

高木の指示に従って艦隊は月方面艦隊を襲撃する為の準備を整えていく。

木連VS連合の戦いのゴングが鳴ろうとしていた。


『敵勢力補足! 艦数、推定500!

 接触まであと推定三時間です』

シラヌイのブリッジでチュンは偵察機の第一報を聞き、直に戦闘準備を行う。

だが撃破された偵察機の最期の映像を見た瞬間、その顔は険しくなっていく。

「エ……エステバリスか?」

偵察機から送られた映像に映る機体は盾を構えたエステバリスによく似た機体だった。

「エステバリス隊隊長のシノノメに繋いでくれ」

チュンの指示にオペレーターは回線を繋げる。

「映像を見たか?」

『見ました』

簡潔に応えるシノノメだが、その表情は険しかった。

「白兵戦を行う可能性もあるが、出来るか?」

『シミュレーターでの対戦はありますが、実戦では何処まで出来るかは分かりません』

「……そうか」

『おそらく有人機の筈です。

 無人機のような単調な動きはしないでしょう』

手強い相手になるとシノノメは告げている。

「判った。作戦を変更する。

 エステバリス隊は艦隊の防空に配置する。

 そしてユキカゼのグラビティーブラストで無人兵器を掃討する。

 敵の反撃には相転移エンジン搭載艦を前面に出して、ディストーションフィールドで盾となる。

 ディストーションフィールドを装備していない艦は装備艦の陰から攻撃せよ。

 ミサイル、レールガンのよる質量攻撃をしながら、ユキカゼの主砲を中心に波状攻撃を行う」

チュンの指示に艦隊は動き出す。

(どこまで戦えるか判らんが、此処で敗れると連合軍はほぼ地上に封じ込められる。

 ビッグバリアが何処まで持つか判らん以上、簡単に負ける訳にはいかんのだ)

スクリーンを睨みながらチュンは生き残る為に必死に考えを巡らせていく。


木連と連合の艦隊決戦をステルスモードで監視中のユーチャリスTが見つめている。

『エリック艦長、どっちに勝って欲しいですか?』

プラスがエリックに聞いてくる。

ブリッジのクルーも固唾を飲んで艦隊決戦の様子を見ている。

「連合が敗北するのが、火星にとっては最良なんだけど……木連が勝つ瞬間を見るのも嫌なんだけど」

クルーもエリックの気持ちは理解しているのか、何度も頷いている。

『複雑な心境ってやつですか?』

「そういう事だよ。

 ただ木連があっさり負けると火星としては困るから、情報提供をしてるんだけどな」

苦笑して話すエリックにクルーも複雑な顔でスクリーンを見つめる。

「ホントはね、誰かが死ぬところなど見たくはないけど……戦争だから仕方ないよな」

『全くです。さっさと仕事を終えて火星に帰りたいです。

 折角モルガとヘリオと仲良くなってきたのに、これでは遊べないじゃないですか』

「いや……プラスの都合を言われても」

いきなり自分の都合で文句を言うプラスにクルーは困惑する。

「でも本体は火星にあるんだから……ああ、みんな地球にいるから寂しいんだね」

『そうです!

 ルリとも仲良くしたいのに―――!』

『オモイカネ、ずるいよ!』

『僕も地球に行きたかったよ!』

複数のウィンドウが開いてプンプンと文句を言うプラスに、

(随分、人間くさくなってきたな)

とエリックは思う。

「メ、メールでも送るかい?

 此処からじゃなく火星からみんなにね」

『……そうします』

『戦争なんか嫌いだ』

『ルリと遊びたい』

『ジュールにも会いたい』

プラスが寂しそうにウィンドウを見せていく。

「もうすぐ、提督達も帰還するから、その時は仕事に支障が出ない限りは遊んでいいよ。

 だから今は仕事に専念しような」

『……うん』

プラスの我が侭を聞いたクルーも火星に帰りたいという思いがあり、叱る気はなかった。

さっさと次の艦と任務を交代したいと願うクルー達であった。


―――トライデント ブリッジ―――


クロノは艦長席でダッシュの報告をリンク経由で聞いていた。

《死者こそいないが、当面は戦闘行動は難しいな》

《そうですね。トライデントのパイロットの負傷者は多いですから。

 幸いにもチャリオット、ランサーは無事なので戦闘行動には支障はありませんが》

《問題はオペレーターの不足か?》

《はい、ルリ一人で行うには負担が掛かると思います。

 ジュールの回復が完了するまでは、マスターもオペレーターとしてブリッジで勤務して下さい》

先のテロによるダメージが以外にも響いていたのだ。

《月のユーチャリスTからの報告でいよいよ戦争が始まります。

 木連も機動兵器を一新してきましたので、戦いも変わってきそうです》

《そうだよ、木連初の小型有人機動兵器、飛燕が出てきたよ。

 大型のジンシリーズも出てくるから見応えはあるよ》

月の報告と同時に火星経由でプラスがリンクしてくる。

《そうか……もうすぐ地球での仕事も終わるから火星に戻れそうだよ。

 プラスもみんなに会いたいだろう》

《うん!》

みんなの帰りを待ち望むプラスにクロノは優しく告げる。

《もう少しだよ、プラス。

 帰ったらみんなと沢山お話しようか?》

《当然だよ、ダッシュとオモイカネばかりみんなと一緒にいるのはズルイよ》

拗ねるように話していくプラスにクロノは苦笑している。

《では帰る為にも仕事をしないと。

 月の状況を見せてくれるか、プラス》

《了解♪》

クロノの意思に従い、プラスは状況を報告しながら映像を見せていく。

優人部隊の初戦をクロノは見つめ分析する……次の手を打つ為に。


―――月宙域にて―――


「ユキカゼ、主砲発射せよ」

チュンの命令に応えてユキカゼはグラビティーブラストを発砲する。

主砲の攻撃を受けた木連艦隊はダメージを受けたように思えたが、与えた損害はいつもの比ではなかった。

「な、なんだと!

 防御に徹すると此処まで効かないのか?」

無人機のフィールドを盾として配置して、更に無人艦をも盾にするという方法で被害を最小にしている。

二層のフィールドを重ねる事で防御力を増していたのだ。

そしてユキカゼのグラビティーブラストもナデシコに比べると威力が落ちている事も関係した。

隔絶した破壊力はあるが、それでも間に合わせに近い製品であった事も一因ではあった。

「ちっ、全艦砲撃せよ!」

ヒラサワの指示で砲撃を開始する月方面艦隊だが、相手の木連艦隊も砲撃を開始する。

砲火を交える事で木連艦隊は距離を縮めようとする。

「一定の距離を保ちつつ、砲撃を続けよ。

 いいか! 向こうにもエステと同じタイプの機動兵器がある事を忘れるな。

 フィールドを持たない艦は特に注意せよ。

 格好の標的にされるぞ!」

チュンは指示を出しながら嫌な予感を感じていた。

(エステもどきにエステバリスをぶつけるのは不味い。

 おそらくエステバリスに対抗する手段がある可能性が高い……)

今までは乱戦に持ち込む事でエステバリスによる戦艦の撃破という戦術が出来たが、

今回はその作戦が使えない事によって砲撃戦という形を取らざるを得なかった。

消耗戦など勘弁してくれとチュンは言いたかった。


「迂闊に飛び込んでは来なかったか……」

旗艦こうげつの艦橋で高木は残念そうに話している。

「飛燕と…エステバリスでしたか、一騎打ちになればその戦闘力を見せつけてやれたんですけど」

大作も残念そうに話していた。

「まあ、いいさ。予定通りジン部隊をを発進させろ」

「了解しました。

 ジン部隊の出撃を許可する……思いっきり暴れて来い、以上だ」

大作の言葉を通信士は部隊に送り、十五機のジンシリーズが跳躍する。


「艦長! アンノウン機接近!

 こ、こんな…事って?」

索敵を行っていたオペレーターが信じられない様子で状況を報告する。

「アンノウン、推定30メートル級の機動兵器です。

 しかも瞬間移動しながら来ます」

「はあぁぁぁ?」

ヒラサワは思わずなに言ってんだと叫びたくなったが、スクリーンの映像に度肝を抜かれていた。

「全艦急速後退!」

チュンの怒声にオペレーターは慌てて艦隊に指示を伝えていく。

「いいか! 移動方法は理解出来んが、フィールドの内側に入られたら終わるぞ」

チュンの警告は間違っていなかったが、既に巨大機動兵器は艦隊に肉迫していた。


「全艦! 一気に距離を詰めろ!

 次元跳躍門以外の跳躍を見るのは、地球はこれが初めてのはずだ。

 敵艦隊が混乱する瞬間に近づき、勝負を決めるぞ」

高木の指示に艦隊は最大戦速で月方面艦隊に接近していく。

「さあ、飛燕のお披露目だ!

 存分に戦って来い!」

いつも地球側が行っていた乱戦を、今日は木連が行うという戦況になっていく。


「くそったれが―――!」

コクピットでシノノメは目の前の機体に向かって叫んでいた。

ラピッドライフルが効かないという状況に焦っているのだ。

敵の機体――飛燕は盾を使い、完全に銃弾を弾いていた。

『た、隊長、こいつらフィールドを中和して――』

部下の声が途絶えるとシノノメは目の前の機体が斧を握りこんでいる事に気付いた。

「ま、まさかフィールドランサーと同じ武器なのか?」

すぐさまランサーを構えるとシノノメはランサーで斧を受け止めていた。

「い、いかん」

シノノメは自分の機体のフィールドの出力が低下している事に気付いて離れようとする。

しかし目の前の機体の胸に装備されているチェーンガンが火を噴いた。

「くっ」

フィールドのないエステバリスは脆いと言われていた事が現実となってきた。

咄嗟に機体の最大出力で相手の機体を押し込む事でコクピットへの直撃は回避したが、

機体の損傷は大きく、コクピットより上の部分は大破している状態だった。

距離を取ったエステバリスと飛燕だが、相手はシノノメに止めを刺す事もなく次の獲物へと向かう。

「た、助かったのか?」

シノノメは周囲の状況を見るが間違いだったと気付いていく。

突入してきた無人戦艦がグラビティーブラストを発砲してきた時、シノノメの意識は消えて……死亡した。


「艦隊を密集させて火力を集中して戦域を離脱する」

チュンは残存する艦に生き残りを賭けた命令を下す。

ジンシリーズがフィールドを装備する艦の内側に侵入して、グラビティーブラストを発射した瞬間に勝敗は決していた。

チュンは崩れゆく艦隊を必死で立て直して撤退していく。

「まさか、こんな戦い方があるとはな」

「正直言って、勝つのは難しいと判断します。

 あんな移動手段など考えた事もなかったです」

ヒラサワも木連の大型機動兵器の攻撃にどう対応すればいいのか、困惑している。

「全くだな。エステバリス隊はどうなった?」

「……七割が通信途絶です」

オペレーターの報告にチュンは苦い顔をしている。

「向こうもエステに対抗する機体を作り上げてきたようです。

 どうもこちらのラピッドライフルでは敵のフィールドに通用しないみたいです……盾に弾かれているようです」

生き残ったパイロットの報告をヒラサワは読み、意見を加える。

「この分では砲戦でも火力で対応できるのか、判りません。

 早急に何らかの対策を考えないとエステバリス隊の損害は増えていきます」

「そうだな……上の不始末で死なずに済んだ者が死んでいく」

ギリギリと歯軋りしてチュンは怒りを見せている。

無様な指揮をした自分に対する怒りと、不用意に敵を生み出した連合政府に対する怒りがチュンには在った。

……この戦いで月方面艦隊の内、半数が撃沈、残りの艦艇の中破、小破していた。

エステバリス隊は最終的に八割の未帰還機を出して、地球側の敗北で第一次月攻防戦は終わる。


高木はこうげつの艦橋で大作から艦隊の被害報告を聞いていた。

「前衛の無人艦が二百隻ほど損害が出ています。

 地球も重力波砲を戦線に投入してきましたので、これからは無人機の思考も防御重視に変更するべきでしょう。

 なお優人部隊の損害はわずかです。

 出航前に佐竹技術士官の開発した盾は飛燕の防御に有効だったみたいです」

「そうか、出航を二週間遅らせて間に合わせた意味があったようだな」

高木は無理を言った事は無駄ではなかったと喜んでいた。

「はい、飛燕部隊は小破及び中破はありましたが、搭乗者は九割が生還しています。

 機動兵器戦では完勝しましたが、艦砲による被害はやはり出ています」

大作の報告に高木は考える。

(やはりそうなるか、月の都市攻略では損害が出る可能性もあるな。

 被害を如何に最少にするかが、今後の課題になりそうだな)

「ジンの方はどうだ?」

「無論、無事です。秋山さんの言う通り、この戦いでジンの利用法が判明しました。

 やはり対艦攻撃機としての運用が最適みたいです」

「機動兵器戦はしない方がいいようだな」

報告を聞いて高木は話す。

「ダメですね。相手の方が小回りも効き、速さもありますから翻弄されそうです。

 今回は飛燕が支援する事で上手く行きましたが、単独で運用する時は注意しないと」

「地上では使用できんな。

 ジンは宇宙でこそ、その性能を満足に発揮する事が出来るみたいだな」

「ええ、陸上では性能はガタ落ちになります」

「では地上で使えるのは有人機では飛燕だけだな」

顔を顰めて高木は考えを述べる。

「木連の戦艦は全て相転移エンジンを使用している。

 大気中ではその性能も落ちていくからジンも例外ではないだろう。

 飛燕は相転移エンジンを搭載していないから大丈夫だから、陸戦では主力機になりそうだな」

「そうなります。防御力を考えないと人的損害は大きくなりそうです」

今後の課題に二人は意見を交換していく。

勝ってもその先が見えない状況では如何に被害を少なくして戦線を維持するべきか、二人は考えなければならない。

高木と大作の苦悩の日々の始まりであった。


《…………まあ、こんなものだな。

 ジンの使い方を少しは考えたようだが》

トライデントのブリッジでクロノはプラスから送られる情報を分析していた。

《木連も本気で戦う事にしたんでしょうか?》

《いや、最初から本気だったと思うが》

ダッシュの考えにクロノは冗談で戦争なんかしないと告げる。

《でもジンシリーズを見てると遊んでいると判断するよ。

 別にゲキガンガーにしなくてもいいと思うけど》

プラスもダッシュに賛成している。

《シンボルという物だと思うが》

《その点は理解していますが、やり過ぎだと思います》

《そうだよ。別に人型にしなくても》

ダッシュもプラスも変だよと告げている。

《宇宙空間での作業効率から考えると虫型は悪くはありません。

 多脚なら安定した作業も可能ですので、そのまま兵器転用したのも理解できます》

《でもあの大きさの人型はダメだよ。

 規格が全部違うから扱い難くなると思うよ》

《なら手足を無くして戦闘機型にした方が便利だな》

《偵察機には便利だと考えます。

 相転移エンジンには燃料切れという問題がありませんので、航続距離が無制限になる電子偵察機なら便利ですね》

《攻撃力もあるから使い勝手が良いと思うよ。

 僕達が操作して運用できる電子偵察機があれば、みんなの負担も少し減ると思うな》

《無人型と有人型の二機種を作製するように進言しておくかな。

 戦闘時が三名くらいで通常は一人で制御出来るようにした戦艦の代替機になりそうだな》

クロノ意見にダッシュとプラスも意見を出していく。

《電子制圧も可能にすれば用途は広がります。

 攻撃力に関しても宇宙空間なら相転移エンジンを有効に使用できますので、問題はありません》

《そうだよ、有人機ならボソン砲も使用できるようにジャンプシステムを搭載すれば良いかも。

 エクスより高出力のグラビティーブラストも使用できるから安心だよ》

《戦艦より小型になりますので、ジャンパーの負担も軽くなりますので便利になると判断します》

《よし、では現場からの意見として開発局に報告しておこう。

 武装を外して少し大型にすれば民間用の輸送旅客機や小型の恒星間旅客船にも転用出来るだろう。

 だいたい二十名から三十名の搭乗になれば、今の戦艦を使った移動より楽になるからな》

《いい考えですね、マスター。

 戦後を考えると民間に転用出来る物を今から開発しておく事は効率も良いです》

《じゃあ、開発局にはマスターの意見で提言書として出しておくよ。

 題名としては「新規開発する物の民間への転用の可能性の追求」で良いよね》

《ああ、頼むよ》

《うん♪》

月の情報分析から少し脱線したが、

今回のクロノの報告から開発される新型機は軍事だけではなく、民間にも有効に使われる事になって行く。

軍用として正式名称はシルフィードと呼ばれていく――小型巡航攻撃機になり、

民間では小型ジャンプシップとして、または火星初の小型航宙機として活用される事になる。


―――クリムゾン会長室―――


『―――以上が月方面艦隊の状況です』

秘匿回線でクロノがロバートに報告している。

「いよいよ木連もジャンプ兵器を戦線に投入してきたか」

『ええ、ジンシリーズは機械式で跳躍は一定のパターンでしかありませんが出て来た事が問題です』

「ネルガルもジャンプ研究を再開する可能性もあるな」

ロバートは真剣な顔で話す。

「監視を強める必要もあるか?」

隣にいるミハイルに意見を聞く。

「今度の経済界の会合で各社のトップが集まります。

 その時に今回の戦争が異星人の遺した技術の奪い合いだと教えますか?」

「いや、それはやめておこう。

 戦争の経緯を教えて現状の連合政府の危険性を認識してもらう事から始める事にしよう」

『長い戦争にならないといいですね』

クロノの声に二人も頷く。

「現状では火星が最も安全な場所かもしれんな。

 無論、戦後が問題になりそうだが」

「連合政府の体質改善が終わるまでは、火星人にとっての安全な場所など何処にもありません。

 禍根は速やかに排除していきたいですね」

『一刻も早い市民の目覚めを期待したいです。

 おそらく今の状況で全てを発表しても他人事としか思わないでしょうけど』

「頭の痛い話だな」

ロバートがため息を吐きながら話す。

『とり急ぎ報告しましたので、詳しい事は後ほど報告書にして送ります』

クロノの声にロバートは頷き、二人は通信を終わらせる。

(まだ始まったばかりだが、先の見えないトンネルを歩く事になりそうだな)

そんなイメージを思い浮かべてロバートは仕事を再開していく……現状を知り、変える為に。


―――月 ネルガル研究所―――


月方面艦隊の敗北の一報を聞いて、軍は月の市民の避難を開始させる事にした。

その為に研究所は資料の整理を急いでいた。

「月面フレームは廃棄して構いませんか?」

『持って帰る事は出来ないかしら?』

「無理です」

月研究所の所長であるイノウエははっきりと会長秘書のエリナに告げる。

「今から解体して運搬するなど時間がありません。

 エステバリス2を放棄しても良いのなら出来ます」

エリナに好きな方を選択しろと告げるとエリナは額に青筋を浮かべていた。

「設計図と今までの運用資料はまとめていますので、すぐにでも再開出来るようにしています。

 ですがエステバリス2の方は始めたばかりなので、失えば一からやり直しになります。

 通信で送信する危険性は理解しておられるでしょう」

新型機の開発状況など通信で送れない事はお互い理解していた。

『分かったわ。

 但し木連には開発中の小型相転移エンジンの事を秘密にしたいからエンジン部のみ運び出して』

譲歩できるのは此処までとエリナは告げる。

「ではそのように手配します」

イノウエは通信を終えるとすぐに指示を出して、自身も作業を進めていく。


翌日から月の市民は避難していく……月に残るは軍関係者のみになり、月面での攻防戦が開始される。

無人機での戦闘ではない……本当の戦争が始まる事をまだ連合市民は理解していなかった。

月からの避難してきた市民の声を聞く事で少しだけ理解していく。

自分達の近くに死が迫って来る事に……そして理解した時は遅いという事に気付くだろう。

自分の命や大切な家族を失う事がどれ程の痛みと悲しみを伴うのか?

そして自分達が選んだ政治家達がその行為を選択したのだと知り、

そして彼らに怒りを向ける時こそ本当の意味で火星の勝利だと気付く者はいないだろう。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

戦闘シーンって書くの苦手です、今更ですけど(核爆)
今回は主に連合軍の視点にしたと思うんですが、上手くいったか不安です。
幾つかの視点に変えたいけど、その度にキャラの名前を考えるのが辛いです。
ネーミングのセンスの無さが響いています。
一話限りになりそうなキャラでも名前は必要な場合がありますから難しいです。

では次回でお会いしましょう。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.