罪が暴かれていく

不誠実な事をしていた報いが少しずつ表に出てくる

信用は地に堕ち

信頼は砕け散る




僕たちの独立戦争  第五十四話
著 EFF


アカツキは月方面艦隊敗北の第一報を聞き、月研究所の閉鎖を急ぎ行う。

同時に軍から艦隊戦の報告を軍から聞くと、緊急役員会を開き新型機の開発を進める事を通達した。

アカツキから軍の報告を聞いた重役達もこの件には反対せずに満場一致で可決した。

木連が有人機でエステバリスを上回る機体を投入した事はネルガルにとって一大事であったからだ。

ただでさえクリムゾンのブレードストライカーに押され気味なのに、木連にまで押される訳にはいかないのだ。

折角手に入れたシェアをクリムゾンに奪われる訳にはいかないと重役達も考える。

会議を終えたアカツキはエリナに告げる。

「今回ばかりは一大事だと痛感するね。

 まさか木連がウチのエステを真似するとは思わなかったよ」

「火力の強化を急がないと大変な事になるわね。

 あの盾が曲者だと言わせてもらうわ。

 報告書を読んだ開発スタッフが言うには二層式のフィールドになっているみたいなの。

 機体のフィールドが第一層、そして盾が第二層になるのか分からないけど」

開発スタッフからの報告書を読んだエリナは木連の機体の最大の利点を挙げていく。

「つまり第一層で威力を弱めて、第二層で弾く、そして盾で受け止めるというのかい」

アカツキの問いにエリナは頷き、話を続ける。

「その通りよ、出力を上げられないなら数を増やす方式を採用したのよ。

 武器に関してもフィールドランサーと同じ効果の物を装備していたわ」

「……完全にエステの天敵だね。

 で、対抗機のエステバリス2の性能はいけそうかい」

開発中の新型の性能を尋ねると、

「まだ始めたばかりよ……互角くらいにはなるけど」

「火力の増加を考えないと不味いわけだ」

言葉を濁すエリナにアカツキは結論を述べる。

「ええ、現状ではエステカスタムを改修して対応する事にするわ。

 おそらく対艦フレームだけが……ね」

「火力でも対抗できるってことかい」

「そうよ」

キッパリと告げるエリナにアカツキは肩を竦めて苦笑する。

対艦フレームは訓練期間が必要な機体で本来のエステバリスのコンセプトから外れた機体なのに一番の主力機になる。

開発室も二人のように困惑しているだろう。

「コレも何とかしないと不味いよね」

アカツキは次の問題をエリナに相談する。

「ええ、木連も生体跳躍できる機体を出してきたわね。

 格好こそ可笑しいけど……対艦攻撃機になるのかしら」

スクリーンの映像に二人は意見を出していく。

「正直言って、手足とかいるのかな?

 小型艦みたいに作れば小回りとかも良くなると思うんだけどね」

「人型にする理由が理解できないのよ。

 確かにジャンプでフィールドの内側に跳び込んで、グラビティーブラストで攻撃。

 戦法としてはシンプルだけど、有効的だし」

「虫型の方が使い勝手が良いと思うけど。

 例えば甲虫みたいな形にして装甲を厚くしても、そんなに機動性は落ちないと思うよ。

 何ていうか……そう、無駄が多いと思うんだ」

「無駄が多いのは確かね。

 手足など要らないと思うわ。

 大きくなるから標的になり易いし、機動性も悪くなる。

 最初から戦闘機みたいにした方が便利だと思う」

この後も二人は話し合うが、結論は無駄が多い機体と判断する事になる。

おそらくジンシリーズの良さは地球側では……ダイゴウジ・ガイだけが理解出来るだけかもしれない。


―――アスカインダストリー会議室―――


「さて、仕度を整えて始めるとしようか」

キョウイチロウ・オニキリマルは会議室に集結した重役達を前にして宣言する。

重役達も与えられた情報を考慮して口を挟む気はなかったのだ。

「渡りに船というか、厄介事を火星に押し付けられたいうべきでしょうか?」

「だが火星に協力する事は間違いではないぞ。

 クリムゾンは火星の技術を提供して貰っている。

 我々もその恩恵を受ける事は……悪くはないだろう。

 それにテンカワファイルの事もある」

「その点こそが最大の問題だろう。

 此処にいる者の中の家族の安全を考えると火星に協力して保護を求めるのは正しいと判断する。

 アスカはコロニー開発で火星で何年も生活していた者がいるのだ。

 彼らを見殺しにはできんだろう」

重役達はそれぞれに考えを言うが、最後には家族の安全を守りたいと思っているのだ。

「そういう事なのだ。

 今の連合政府を信用する事は出来ないと我々は判断する」

キョウイチロウは頷く重役達を見ながら話を続ける。

「火星支社の社員達すら見殺しにされたのだ。

 こんな理不尽な行為を認める気は私にはない。

 火星の対応のおかげで全滅は免れたものの、被害総額は大きく……社員にも犠牲者が出ている」

重役達も手元の資料を見て、被害総額の大きさに苦い顔をしている。

支社の在ったコンロンコロニーは破壊され、そこに在った機材、研究施設は全て失っているのだ。

人的資源こそ火星のおかげで無事だっただけである。

「火星が緊急時の徴用という形で社員達を雇用して頂いた経緯もあります」

秘書のミヤシタ・タケオは現在、火星に取り残されていた社員達の状況を話す。

「火星は彼らに技術を教え、いずれアスカに戻す予定にしていたそうです。

 地球に家族がいる技術者達の何名かはアスカに戻るそうですが、現地で雇用した者は残るそうです。

 最新の技術を研究し、開発したい者は火星人として火星で生きていく事になるでしょう。

 やはり技術者としては最新の技術を学ぶ事が最高の喜びなのです」

ミヤシタの話に重役達も呆れるような、仕方がないなといった表情で聞いている。

アスカの重役は技術畑の人間が多く、彼らの心情も理解しているのだ。

「火星で生まれ育った者は火星人として生きていくんだろう。

 だがアスカが火星に支社を再建すれば、力を貸してくれる者もいるだろう。

 現在はクリムゾンの独占だが、二番手として火星に入り込むのは悪くないからな」

キョウイチロウの考えを聞いて、重役達も頷く。

「では条件としてカグヤを中心に君達の子供達も火星に出向させよう。

 次の世代を火星に移住させておけば、火星とアスカの関係も良好なものになるだろう」

「よろしいのですか?」

重役の一人が尋ねてくる。

「仕方なかろう、娘はジャンパーの可能性がある。

 このまま地球で生活させるのは危険だろう。

 君達の息子や娘も可能性がある。

 火星で生まれた子供は火星で育てるのが一番良いのかもしれんな」

キョウイチロウが達観した様子で話すと、

「火星から医療スタッフが来週にも到着します。

 皆様のご家族も内密で検査させて下さい」

ミヤシタがスケジュールを見せて、重役達に話していく。

「名目はこちらで決めていくので、ご家族の方には時間を空けてもらって下さい。

 社員の家族も実施して行きますので、まずは皆さんが率先して頂きます」

「家族の命には代えられんよ。

 慎重に事を進めなければならんな」

一人の声に全員が真剣な顔で頷き、作業を確認していく。

「火星も我々の苦労を考えて、仕事を一つ回してくれた。

 破壊されたユートピアコロニーの復興事業を任してくれるそうだ」

キョウイチロウの言葉に重役達も安堵している。

いくら家族のためとはいえ企業としての儲けがなければ困るのだ。

こうやって火星での公共事業を回してくれる事は非常にありがたい事だ。

「表向きは儲けにならないように収益は出ない形になりますが、実際には黒字になります」

「となれば、ピースランド銀行にも根回しするべきですかな?」

「その点はクリムゾンと火星が受け持ってくれるそうです。

 なんでもピースランドに強力な外交カードが一枚あるとの事です」

重役の懸念にミヤシタは告げる。

火星が万全の準備をしている事に重役達も驚いている。

「火星は戦後を考えて、深く静かに行動している。

 そういう所は我々も見習うべきだろう」

真剣な顔で話すキョウイチロウに重役達も気を引き締めて行動しようと考えていく。

アスカインダストリーも火星の独立に協力し、戦後を見つめようとしていた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


――時間を少し戻して、テロ事件の二日後くらいに。

「……困ったわね。テロ事件のおかげでアクアちゃん入院中だって」

「「「「え、ええぇぇ――――!?」」」」

送られてきたメールを読んだムネタケの一言にブリッジは騒然としていた。

「ちょ、ちょっと、アクアちゃんが怪我したってホントなの?」

慌てるブリッジクルーの中でミナトが代表で尋ねる。

「一週間ほど入院して、体力が回復次第来るそうよ。

 あの子は治療用のナノマシンを持っているから、普通の人なら重症でも回復が早いから大丈夫なんでしょうね」

ムネタケが答えるとクルーも一安心していた。

「困りましたな……明日からオペレーターの皆さんが配属されるので準備を進めたかったのですが」

プロスがスケジュールの変更を考えて話す。

「しょうがないわね。こっちの都合だけで無理をいう訳にもいかないでしょう」

ムネタケがプロスに予定の変更を求めると、

「そうですな」

プロスも同意して変更を決断する。

「ミスター、外装の方は予定より進んでいる。

 全てが上手くいくという事ばかりではないだろう」

ゴートが慰めるように告げる。

ブリッジのメンバーもそれぞれにプロスの苦労を思い、声を掛けていく。

「ま、まあ、何とかなるわよ。

 ほら、いざとなったら目的地までの移動時間を訓練に当てるとか?」

「そ、そうですよ。ちょっと残業してテストするとか?」

「そういうこった、プロスの旦那。

 俺は努力と根性で乗り切ってみせるぜ!」

ミナト、メグミ、ガイの順に話していく。

「そういえば、ダイゴウジ君は平気なのかい。

 新しいパイロットの人も女性だけど」

ジュンの意見にプロス、ゴートもガイを見つめる。

新規に配属されるパイロットも女性でガイは唯一の男性パイロットになるのだ。

「俺も聞きてえな。花園にいる気分を知りたいんだが」

ウリバタケがこめかみに青筋を浮かべて聞く。

整備班とはあまりに違う環境に嫉妬の炎がメラメラと背景に浮かんでいる。

いつもはツッコミが入るのだが、今回だけは誰も入れなかった。

視線がガイに集中する中、

「……パイロットって奴は……昔から個性が…強い奴が多いんだよ。

 昔…博士が嫁さんの尻に敷かれた様に……な」

煤けたように、哀愁を滲ませ、更に言葉を選んで話すガイに、

ジュンやゴートは自分達がガイの様になるのではないかと顔を青くしていた。

ウリバタケはポン、ポンとガイの肩を叩くと、

「……すまねえ、お前も苦労しているんだな」

かつての自分の境遇を思い出して詫びていた。

「俺も博士の苦しみが分かったよ」

「ガイ!」

「博士!」

……男達は頷き手を取り合い、相互理解していた。

「でもダイゴウジさんってヒカルさんと仲良くしているじゃないですか?」

このメグミの一言によって、

「貴様ぁ、俺を裏切ったんだな!」

「何でそうなる!?」

男達の友情はあっさりと崩壊していた。

「あらら〜、ダイゴウジ君もやるわね〜♪」

場を盛り上げるかのように楽しそうにミナトは火に油を注いでいく。

「ちっ違います、ミナトさん。

 あいつとは趣味が合うだけです。

 アキトがいれば三人で仲良くしてましたよ」

焦るガイにウリバタケがウンザリした顔で話す。

「それってよぉ、ゲキガンガーのことか?」

「おうよ、博士!

 ゲキガンガーは、熱血は最高なんだぜ!」

胸を張って話すガイにブリッジはしらけた雰囲気になっていく。

単なる友人だと感じたメグミはゴシップネタにならない事にガッカリしている。

「まぁ、あそこは俺にとっては異界になりかけているぞ。

 ヒカルがフォローしてくれているから、まだマシだが……男一人っていうのは大変なんだぞ。

 プロスの旦那、なんで男のパイロットを一人でもスカウトしないんだよ」

ガイがプロスに抗議する。

「いや〜、男性の方は殆どが軍に取られたんですよ。

 ただでさえIFSで忌避されて、パイロットが少ないのに一流の人材になると見つかりませんよ」

スカウトとしての状況を話すと全員がなんとなく理解している。

(しかもこの先、単艦で行動する以上は絶対に一流でないと困るんです。

 二流では葬儀代が掛かりますので……昔から葬儀代だけは値切れませんから、はい)

流石にこれは言わなかったが、コストカッターとしてのプロスの考えであった。

「そうね、IFSの問題が未だに響いているわ。

 月方面艦隊は火星で生活していた者が多かったんで数は十分揃っていたけど、他は未だに足りていないのよ」

ムネタケがフォローするように話していく。

「オセアニアが機動兵器の質が最も優秀ね。

 先を見越したようにEOS(イージーオペレーションシステム)の開発を進めていたおかげで、

 IFSを使わない機体もあるから」

「それってブレードストライカーの量産機の事か?、提督」

ガイの質問にムネタケは答える。

「ええ、量産機は可変機能を排除して、操作性を向上させてEOSを主軸にしているのよ。

 無論、IFSに比べると性能は格段に落ちるけど、数で対抗すれば十分使えるの。

 新型の二機はIFSが主軸になるから、現状ではエース機になっているけど」

「量産機の性能にもの足りなくなったパイロットはIFSを導入して、新型か、IFSの機体に乗り換えると」

ムネタケの答えにプロスが合わせる。

「当然だと思うわ。

 生き残りたいと思う者は少しでも生き残る可能性が高いものを選択して行く。

 戦場には多くの死が存在している。

 それを見た者は我が侭など言わずに行動していくのよ。

 その結果が生き残る者は好き嫌いなんかせず、選り好みもしない者ばかりよ」

「うむ、提督の言う通りだ。

 戦場で生き残る者は無駄な事はしないで、常に最善の手段を選択していく」

シビアなムネタケの意見にゴートも頷く。

(本当に無駄な事していませんな、クリムゾンは。

 戦艦の改修や新型艦の売込みにはウチが有利ですが、機動兵器では不利な状況で)

プロスがネルガルの置かれた状況を考えながら、ブリッジの会話を聞いている。

(テロ事件のおかげで戦艦の納入も遅れたそうですが、本当にそうなのでしょうか?)

プロスはもしかしてテロは自作自演ではないのかと考えている。

(実際には製造された戦艦は火星に配備されているのではないでしょうか?)

まさかとは思うが、その可能性を否定できないと勘が告げている。

(今はどうか分かりませんが、造船施設の少ない火星なら高く買ってくれるでしょう。

 火星では旧式ですが、ブレードストライカーの生産を代わりに受け持つ事も出来ます。

 生産ラインをそのまま使用できる火星が生産を受け持ち、クリムゾンはブレードの発展系を開発する事に専念する。

 非常に効率が良いですな、在庫処分も出来そうですし)

火星とクリムゾンの関係を考えると案外その通りかもしれないとプロスは思う。

火星は押さえる所は押さえて、クリムゾンも承知の上で手を組んでいる。

水面下で誰も気付かないように戦争を演出しているように感じる。

(おそらくは悲惨な未来を変える為に行動しているのかもしれませんな。

 クリムゾンは儲けも考えながらでしょうが)

先代の会長の不始末を考えると頭が痛くなりそうだった。

この戦争は異星人の遺した文明を使用しての戦いになってきているのだ。

(この艦の武装も動力も借り物の技術を実用化しただけ。

 木連も同じ様にしているだけです。

 火星はその板ばさみにあって全滅しかけるなんて、火星にとっては堪りませんな)

この先の予測など地球の人間には誰にも出来ないだろう。

火星とクリムゾンが演出していくのだろう。

(地球で生活する者が戦争の悲惨さを知り、意識改革するまでは悲劇は続くのでしょうな。

 ですが、それも悪くはないと思いますよ。

 都合の良い事ばかり考えて、責任逃れをする政府など信用できませんから)

もっともそんな連中を火星は許さないだろうとプロスは考える。

(暢気に構えていられるのも、後少しですよ。

 市民の意識改革が始まれば、あなた方の命運など尽きる事は間違いありませんから)

未だに火星の事を放置して何の返答もしない政府など、火星は政府と認めないだろう。

(あなた方の対応次第では火星は地球に宣戦布告も行いますよ)

プロスは楽観的な見通しなどしているようではダメだと考える。

火星が通告した期日が近づいているのに、未だ地球は答えを出さない。


―――木連艦隊 旗艦こうげつ―――


「艦隊の再編を終えたら、全艦に連絡してくれ。

 手の空いた者は先の戦闘で死んでいった者に一分間の黙祷を行うとな」

「了解しました、提督」

通信士は高木の指示にを艦隊に伝えていく。

再編を終えた艦隊の乗員は静かに黙祷をしている。


『黙祷――!』

高木の号令を聞き、黙祷を捧げながら飛燕部隊の隊長である佐々木宗二は思う。

(こうやって慣れていくのか?、部下の死に)

死んでいった部下達の顔を思い出して、佐々木は戦争をしている事を実感している。

(佐竹が俺達をゲキガン馬鹿などと言っていたが、その通りだな。

 戦争に対する心構えが出来ていなかったと考えさせられる)

覚悟はしていた、だが実際に隊員の死を前にして仲間達も心に影を落としている。

「訓練をするぞ!」

待機中の部下に佐々木は叫ぶと部下達は顔を上げて佐々木を見る。

「俺達は生き抜いて、この戦争に勝ち残るぞ!」

部下達も佐々木の言葉に頷き、次の戦いのために、そして生き残る為に訓練をしようと行動する。

「次の戦いは月での攻略戦になる。

 そうなると俺達の部隊が最前線に行くんだろう。

 死に物狂いの連中を相手にする以上、激戦になるだろう。

 あちらも必死だろうが、俺達には後が無いんだ。

 だから生き残る為に訓練をするぞ」

佐々木の声には気負うものも無く、現実を冷静に受け止める者が持つ重さがあった。

全員が歩き出す――次の戦いに勝ち、生き残るために。


―――空母 ミストルテイン―――


「月方面艦隊が敗北したのですか?」

『ああ、詳しい情報はまだ入っていないが、半数以上の艦が撃沈されたそうだ』

アルベルトの問いにグスタフが答えている。

『向こうも有人機らしいものを投入してきたとチュン提督からの第一報の連絡があった』

「本格的な戦争の始まりですか?」

険しい顔のアルベルトにグスタフも頷いている。

ブリッジも重苦しい雰囲気になっている。

『月の攻防戦が始まるが、市民の撤退は進んでいるのが朗報かもしれんな。

 問題は件の有人機にエステバリスが対抗できなかった事だよ。

 八割が未帰還機だった』

グスタフの話す内容にアルベルトも顔を顰める。

「それ程の機体なのですか?」

『ああ、チュン提督の報告書をネルガルにも読ませて意見を聞いたが、敵機の装備する盾が曲者なんだそうだ。

 報告によれば、二層式のディストーションフィールドになっている可能性があるそうだ』

「つまり一枚の盾では防御出来ないのなら、二枚に増やして強化する……ですか?」

『そういう事だな。

 クリムゾンに聞けば、ブレードのレールガンも弾かれる可能性があると言われた』

その一言にアルベルトも眉間にしわを寄せて考え込む。

『新型の機体なら対抗できるかもしれないと言っていた。

 量産機の追加装甲の火力を増強する方向で着手する事も始めるそうだ』

「……間に合うといいんですが」

時間との戦いになるとアルベルトは判断していた。

『当面は極東と北米が受け持つ事になっている』

グスタフが会議の一件を話すと、

「極東は貧乏クジを引かされましたね」

アルベルトが呆れるように話す。

『そうだな。火星にとっては極東には借りが沢山あるのでここらで返して欲しいみたいだな』

「借りですか?」

『そうだ、火星のクーデター事件の借りを返して欲しいそうだ』

その意味を思い出したアルベルトは納得していた。

「自業自得ですね」

『うむ』

クルーは意味を知らずに首を捻るが、二人にはそれで十分だった。

「裏切り者には死をですか?」

『まあ、火星はそこまでは言ってないが、経緯を考えると文句の一つも言いたいだろうな。

 表立って抗議が出来ない以上は、裏から手を出すしかないからな』

「また上層部が馬鹿をしたんですか?」

呆れるように副官が聞くと二人は頷いていた。

通信を聞いていたブリッジのクルーはため息を吐いている。

この戦争が歪なものだと気付いているクルーは地球連合の在り方に不信感が出ていた。

そんなクルーの様子に二人は彼らのように市民も早く気付いて欲しいと願う。

――今の連合が信用できない事を、そして自分達の手で改革しようと行動して欲しい事に。


―――アスカインダストリー応接室―――


「無茶を言うな。

 いきなり戦艦を作れなど……正気か?」

キョウイチロウは目の前の人物――ミスマル・コウイチロウを呆れながら見ている。

「勝手な言い分だと思うが、理解して欲しい」

「あのな、相転移機関の戦艦を造れと言われても俺の一存で決められんのだ。

 大体だな、クリムゾンとの技術提携をしたばかりで、すぐに造れるほどの力は我が社にはないぞ。

 少なくとも後発である以上は一年先くらいなら出来ても、今は無理だと言わせてもらう」

頭を下げて話すコウイチロウにキョウイチロウはアスカの現状を告げる。

「だから造船施設をクリムゾンに貸して急いで建造して欲しいのだ」

「それこそ無理だ。そんな事を俺の一存ですれば重役会で大問題になる。

 企業として儲けにならない事をする訳には出来ない事は理解できるだろう」

自分の立場も理解しろとキョウイチロウは告げる。

「それに極東にはナデシコもあるだろう。

 あの艦もまもなく改修が終わる筈、前線に使用すればいいじゃないか?

 それに我が社に注文せずともネルガルに依頼すれば問題はないだろう」

「それは出来んのだ。

 ネルガルは現状の戦艦の改修で手一杯なのだ。

 そしてナデシコは民間人で構成された戦艦だ。

 民間人を戦場に出すのは避けたいのだ」

憮然とした顔でコウイチロウは話すが、

「ハッキリと言ったらどうだ?、娘を最前線に送りたくないと」

冷ややかな視線でキョウイチロウは告げる。

「そ、それもある。だが戦力が一つでも欲しいのだ。

 た、頼む、クリムゾンに頭を下げてくれないか。

 前線で戦う兵士達の為に」

「だから無理なものは無理なのだ。

 一応、重役会には話をするがまず無理だと言わせてもらうぞ」

キッパリと断るキョウイチロウに、

「……どうしても無理なのか?」

「クリムゾンに言ってくれ。

 向こうからの申し出で、我が社にもそれなりの収益が出ると判断できるなら重役会も文句は言えないさ」

「む、むぅ」

唸るコウイチロウを見ながら、キョウイチロウは考える。

(勝手なものだな、テンカワを見殺しにしたくせに兵士の命は大事ときたか。

 上からの命令があれば、こいつは俺も見殺しにするんだろうな)

テンカワ夫妻の死の真相を知り、火星の状況を知る事でキョウイチロウは連合軍に対する考え方を改める事にした。

「とにかく、今の俺に出来る事はこの程度だ」

席を立ち、応接室を退出しようとするキョウイチロウに、

「ま、待ってくれ!

 どうしても軍に協力できないのか?」

「出来んな……第一次火星会戦で軍は火星を見捨てた。

 あそこには我が社の施設と社員達もいたのだ。

 火星宇宙軍のおかげで人的被害は少なかったが、施設や機材の被害は馬鹿にならんほど出ている」

冷ややかな目でコウイチロウを見ると、コウイチロウは押し黙っていた。

「クリムゾンを通じて、火星からこの戦争の裏の意味を知ったよ。

 独立するかどうかも分からないのに、疑心暗鬼になって火星の住民を木連に殲滅させようとしたそうじゃないか」

「そ、それは……」

「悪いが火星支社の社員達を殺そうとした軍は信用出来んと重役達は話している。

 まあ、元々俺はテンカワが殺された時から軍を信用してはいないがな」

「どういう意味だ」

睨むようにキョウイチロウを見るコウイチロウに、

「協力したくせに、何を言っているんだ?」

呆れるように話すキョウイチロウがそこにいた。

「ネルガルと軍の共同でしたんだろ。

 友人を切り捨てて出世か……いい身分だな」

蔑むようにコウイチロウに告げると、キョウイチロウは部屋を出て行く。

コウイチロウは声を掛けようとしたが、言い訳など聞きたくないと言わんばかりに物語る背に声が掛けられなかった。










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EFFです。

第三の企業としてアスカインダストリーが動き出していきます。
どうも私の頭の中ではネルガルの先代会長が全ての元凶に思えているようです。
そのツケの支払いをアカツキにさせるようになってきてますね。

またミスマル・コウイチロウは真相を知っていたと考えます。
無論、直後ではなく出世していく過程で。
あの人って根っからの軍人さんですから、軍の行為を知っても黙認したのではないでしょうか?
私の想像ですけどね。

では次回でお会いしましょう。





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