宮崎 のどかはラブラブキッス作戦で優勝賞品のカードが変化した本をどう扱うべきか悩んでいた。
(あ、あああ……こ、こここの本はとっても危険なものでは〜〜〜)
相手の名前を知り、呼ぶ事で白紙のページに絵日記風に絵と文字で心理状態が浮かび上がってくる。
人の気持ちを知りたいという感情は誰にもあるが……実際に知る事が出来るとなるとのどかは不味い気がしてならないと思う。
知らないからこそ、分かり合おうとコミュニケーションを取るのが普通であり、そんな手順を一切無視して人の心の中を覗く様な本は優しい心根を持つのどかに
とっては……怖いものに見えてくる。
捨てるという考えが頭の中を過ぎるが……大好きなネギとのファーストキスの思い出の品でもあるので捨てたくない。
(あ、あう〜〜と、とりあえず使わない事にしよう……う、うん! それが一番よね)
親友である夕映にも言えない秘密を抱えるのは心苦しいが事情が事情なだけに話すわけにも行かない。
「え、えーと……アベアット」
アスナが唱えていた呪文らしい単語を口に出して本をカードへと戻す。
「これって……魔法なのかな? ネギセンセーって実は魔法使いとか?」
ネギの秘密の一端に触れることが出来るかもしれないと思うと嬉しくなるが、誰にも教えていないものを無理に聞き出すのは不味いとも考えてしまう。
「と、とりあえず……ふ、二人っきりになれた時に――ふ、二人っきりなんて〜〜」
頬に熱が集まって顔全体が真っ赤になりながら、のどかはネギと二人っきりというシチュエーションを想像してドキドキと胸の鼓動を早くする。
当然、頭の中は真っ白になって自分でも分からないくらい混乱し……周囲に人がいれば"大丈夫なのか?"と思われるくらい不審な人物に見られたかもしれな
い。
「のどかー、ネギ先生を追っかけるよー」
「い、今行く〜〜」
のどかはハルナの声を聞いて慌てて駆け出して行く。
「のどか、どうしたです?」
「な、何でもないよ、夕映〜」
「……恥ずかしがっているばかりではいけないです。
せっかくのチャンスを逃さないようにするです」
「そ、そうだね。わ、私、頑張るね」
励ましてくれる夕映の気持ちを嬉しく思い、心配させないようにのどかは微笑む。
―――修学旅行 三日目の始まりだった。
麻帆良に降り立った夜天の騎士 二十時間目
By EFF
ネギ・スプリングフィールドは現在の状況について困惑していた。
「ア、アスナさん、これは一体?」
「ゴメン、パルに見つかっちゃってー」
二人で関西呪術協会本部に向かう予定だったが、待ち合わせ場所に現れたのはアスナを含む五班のフルメンバーに刹那の六人だった。
仕方なく五班のメンバーと観光しながら途中で抜け出す事にして移動する。
「……ねえアスナ、ちょっと聞いていい?」
ホテル周辺の観光スポットを歩くアスナにハルナがごく自然に声を掛ける。
「アスナとネギ先生って付き合っていないよね?」
何気なく聞いてくるハルナにアスナは足を滑らせ地面に額をぶつけて大きな激突音を響かせながら転ぶ。
「ア、アスナさん、大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねるネギの声よりもアスナはハルナの方に向き直って怒鳴る。
「そんなことある訳ないでしょ! コイツはまだ十歳なのよ!!」
「ア、アハハ、ご、ごめん。そーだよね、普通は」
自分でも何を聞いているのかと思わせるような表情でハルナが愛想笑いしながら納得している。
ハルナから見れば、友人であるのどかの最大のライバルはクラス委員長のあやかやまき絵ではなく、アスナではないかと思っていたから多少牽制の意味を込めて
聞いてみたのだ。
「だ、第一私は高畑先生みたいな渋いオジサマが好きなの!」
「それもそうか。アスナはお子さま先生ではなく、オジサマ先生が趣味だったわね」
「……なんか引っ掛かるような言い方だけどその通りよ」
何かバカにされた気がしたアスナが剣呑な目付きでハルナを見ながら頷いていた。
「何て言うかさ。リィンフォースがのどかの最大のライバルかとも考えたけど……」
「それは絶対ないわね。リィンちゃんはネギの事はただの友達みたいだし」
「そうなん、アスナ?」
二人の会話を耳に入れた木乃香が尋ねるとアスナが断言しながら返事をする。
「間違いないわね。リィンちゃんはネギには興味なさそうだし」
「やっぱり……そうなのでしょうか?」
ネギも少し気になっていたのか、アスナの意見にやや沈んだ声で聞いてくる。
異端の魔法使いとリィンフォースはネギに話していたが、その技量は自分よりも遥か上なので敬意を払っているのに素っ気ないのは仲良くしたいネギにとって悲
しい気がしてならないみたいだ。
「そうって……心当たりでもあるの?」
「何となくですけど、距離を取られている気がするんです……」
「まさかと思うけど……私のようにパンツ消したとか?」
ハルナのほうに声が届かないようにしてアスナは小声でジト目で問う。
「そ、そんな事していません!」
「……ホントに?」
「だから、アレは事故なんです!」
疑いの目で見つめるアスナにネギは必死に弁明する。
「ま、まあこれに懲りたら少しは自重することね」
「う、ううう……なんで記憶を消すはずが武装解除になったんだろ」
今もなお疑問に残る事件をネギは考えるが、原因がまさかアスナが無意識のうちに行った魔法無効化の影響だとは知る由もなかった。
「なあ、せっちゃん。リィンちゃんって、うちの事嫌いなんかなー?」
「え?」
「なんかなー冷たい目ぇで見られている気がするんや」
「ま、まさか……(実は学園長の所為ですとは口には出せません)」
裏の事情を告げるわけにも行かずに刹那は落ち込んだ雰囲気の木乃香をフォローしようとする。
あらかさまに敵意を見せ付けられたわけではないが、何となく嫌われているというのは分かってしまった。
悪意やら敵意とは縁のない世界で生きている木乃香にとってはそんな感情を向けられると悲しくなるし……辛いのだ。
「ま、まあリィンちゃんはクラスの中でもどっか距離を取っているし、このかだけ嫌われているんじゃないわよ」
「そ、そうですね。リィンフォースさんは人付き合いは苦手なのかもしれません」
アスナ、刹那が落ち込み気味の木乃香のフォローしている。
「確かに……リィンフォースさんはクラスの中に溶け込もうとはしていませんです」
「そうね。図書館島探検も仕事として付き合ってくれたみたいだし……」
夕映とハルナも自分なりに感じた事を述べている。
ちなみにのどかはネギとのツーショット気味の状態で仲良く会話中だった。
「浮いてるわけじゃないけど、自分からは近付こうとしていないって感じよ。
リィンフォースちゃんはエヴァちゃんと茶々丸ちゃんくらいにしかホントに笑ったりしないしね。
後のは俗に言う営業スマイル?」
「ハルナにしては的確な表現ですね。
これは私の推理ですが、リィンフォースさんは人を信用していません。
おそらく過去に人を嫌う、もしくは憎む何か事件があったのではないでしょうか?」
夕映の意見にアスナは以前リィンフォースが泣きそうな顔で自身の過去の出来事をほんの少し話した事を思い出していた。
(あー、間違いなく夕映ちゃんの予想通りだわ)
顔を顰めてアスナはリィンフォースの過去を想像するが……、
「ううぅ…あー……ゴメン。想像できないというか、何があったのかなんて分かんないわ」
「まあ、当事者に聞くのが一番ですが……堅牢な人物に聞いても答えてくれるとは限りませんです」
「あー、まー……私が言うのもなんだけど、口より手が出るというか……ハンマーでぶっ飛ばされそうだけどね」
「……否定できませんです」
何かあった事は想像できそうだが、足りない情報だらけで真実を思い浮かべる事が出来ずに唸るばかりだった。
夕映もリィンフォースが話すわけがないと思っているのか、特に期待するわけでもなく淡々と起こりそうな事態を述べるだけだった。
「すみません、刹那さん。僕たちはこの先のゲームセンターで皆さんを撒いて行きますのでフォローお願いします」
「分かりました。こちらは私のほうに任してください」
「いざという時は申し訳ないですがマスターの方へ行って下さい。
刹那さん一人だと大変かもしれませんからって、せ、刹那さんがや、役に立たないってわけじゃないですからね」
刹那の力量を疑っているわけじゃなく、心配しているネギの気持ちを考えて刹那は苦笑いしながら話す。
「大丈夫です。ネギ先生みたいに無理はしませんよ」
「せ、刹那さんまで! 僕は無理なんてしてません!」
怒るほどではないが、もう少し信用して欲しいという気持ちを込めて強く話すネギを刹那は微笑ましく感じている。
この後、ゲームセンターでネギとアスナがみんなの注意を逸らして別行動に入る。
ただし、二人が抜け出す場面を目撃していたのどかが追跡するところまでは予想は出来なかった。
学生服姿の少年と呼ぶにはまだ早いかと思われる男の子が路地裏を歩く。
「名前やけど、やっぱ千草姉の予想通りネギ・スプリングフィールドやったで」
ゲームセンターで対戦した際に相手をしたネギの名前を確認した男の子は待っていた天ヶ崎 千草達に告げた。
「そうどすか……ま、親書を渡すだけとはいえ、ネームバリューは十分過ぎますな。
さすがに英雄の息子が和平の使者として来たのを門前払いするのは出来ませんし」
「そんな強そうには見えんけどな」
「小太郎、あんたの実力なら勝てると思いますけど……格下や思うてナメたらあきませんえ」
「へーい」
千草に窘められながら犬上 小太郎は気楽に返事をしている。
「二手に分かれたようやし、親書を持つ二人組は結界内に封じ込めたら小太郎に任せるわ」
「おうよ。姉ちゃんは吉報をまっとれや♪
女の影に隠れな何も出来ひん西洋魔法使いなんざ、敵やないで」
自信満々に話し小太郎は戦いが始まる事を感じて笑みを漏らしている。
「結界を抜け出そうとする行動を起こした時が小太郎の出番ですえ。
ま、先にタコ殴りして黙らせるのも構いませんけど……先に言うたように油断は禁物やえ」
「わーとるがな。千草姉ちゃんの言う通りにするわ」
「どのみち結界内に閉じ込められたと知ったら抜け出そうとするさかい……そん時は好きにしたらええ」
「千草姉ちゃんは話が分かるからええで♪」
血気盛んな小太郎の手綱を引き締めつつ……千草はダメだろうとも感じていた。
(……ケンカ好きというか、自分の力を試したくて仕方ないちゅうところやね)
まだ十歳くらいの年齢だが実力はあるだけに半人前扱いされたくないのも確かだと思うし、強い奴と戦う事が何よりも楽しいのかもしれないと感じられる。
(高村はんも厄介者をうちに押し付けたという事か……後で切り捨てやすいように)
神鳴流の月詠は仕事を依頼されただけという形でフォローできるが、外から来たフェイトや千草、そしてまだ子供である小太郎はいざとなれば独断で勝手に動い
たという事で切り捨てる対象にしているのだと考える。
(今更やけど、あん人の決断は遅すぎたわ……やる事為す事、全部中途半端すぎですえ)
高村の動きは全てに於いて遅すぎたと千草は思っている。
(一年前……いや、それ以上前に動くべきやったな)
一年前ならば戦力は拮抗していたと千草は見ている。
その頃ならば日和見な連中の中からもこちら側に味方するものもいたが……もはや手遅れだ。
上層部と実務者レベルでの温度差は完全に開きがあり、大戦の英雄の肩書きを持つ近衛 詠春でも独断で決めるのは難しい。
関東魔法協会の理事である近衛 近右衛門が部下を抑えて関係修復に尽力を尽くそうが……からの物言いなど現場の人間が認めるわけがない。
(詠春はんもババ引いたもんやな。身内からの声を受け入れたいけど……公私混同と言われそうやし)
近衛 詠春とて関係改善は必要だと思うし、見識のある連中は賛同するが……家族を失った者には感情が許すわけがない。
(うちとて……まだ全部許したわけやないし、引けへんところもある。
まして意固地になった連中には東からの勝利宣言に聞こえるかもしれませんな)
不平不満は平和の時でも出てくるし、まして戦争が終わった後なら燻ったままで残りかねない。
実際に二十年前の大戦で身近な家族を失った連中なら火種どころか憎しみの炎が残っているのだ。
犯罪行為と知りつつも麻帆良学園都市に侵入しようとする連中がいるのも事実。
(……あのお嬢ちゃんが麻帆良に現れた時に数の力で協会会長を追い落とせばこの事態も多少は変わったかもしれませんな)
千草の脳裡に浮かぶ銀髪紅眼の魔法使いリィンフォース。
麻帆良学園都市の警備を担当する魔法使いにして……魔法使い殺しの二つ名を得た謎だらけの少女。
学園都市に侵入しようとする連中にとって最もぶつかりたくない相手の一人で忌むべき人物。
命こそ奪わないが……ある意味魔法使いにとって死に等しい状況に追い込む恐るべき魔法使い。
(まさか……うちより一回り近い年下の少女とは思えませんでしたわ)
正体不明の魔法使い殺しが実は中学生とは想像出来ずにいたが、その技量は見せてもらった。
ホテル周辺を監視していた強硬派の連中の面子は再起不能にされ、誘拐に成功したと思っていた自分達も本物と見分けのつかないニセモノを背負わされて失敗し
た。
そして昨日の夜は危険なマジックアイテムの処理で戦闘力の高さを見せ付けられた。
他にもいきり立った連中の何名かが先走って攻撃を仕掛けて潰されたという話も耳にした。
「……小太郎」
「なんや? 千草姉ちゃん」
「銀髪の赤い目の少女が出てきたら、即座に撤収するんや……今のあんたでは勝てんしな」
「……やってみな「その言葉は言わん方がええ」……わぁったわ。姉ちゃんの言う通りにする」
不満そうに話す小太郎に真剣な面持ちで千草は告げて少し強引に従わせる。
「ええか、小太郎は強うなりたいんやったら、相手の実力を感じ取って引き際を決して間違わんようにせんとな。
見かけに騙されんのは三流で、ほんまに強い連中はそんなヘマはしませんえ」
「お、おう」
「逃げへんというのは立派な事かも知れへんけど……プロやったら退くべき時は退く事も憶えなあきません。
別に本山に親書を持って入られてもかましませんし、ヤバイと思うたらこっちに合流するんやで」
「それでええんかいな?」
プロとしての心構えを告げる千草に小太郎は水を差された気分になってつまらなさそうに聞く。
「ええんや。どのみち高村はんは強硬に動くしかないし、後戻りは出来ひんのや……そうは思いまへんか、フェイトはん?」
「……否定はしないよ。僕達が失敗しても関西呪術協会の内紛は止まらないね」
「そういう事や、小太郎。最悪はここが戦場になる。ま、どちらが勝とうがうちみたいな外様には関係あらしませんけどな」
「へ、おもろいやないか。ここにおる腰抜けどもに気合が入るんならかまへんで」
派手なケンカになると勘違いしている小太郎に千草は頭痛を感じ、フェイトは何も変化はないように見えるが千草には呆れているように思えた。
(小太郎……ケンカやない。ただの殺し合いになるだけや。なんも面白い事にはなりませんえ)
忠告するべきかと思った千草だが、今の小太郎に言っても理解されないと判断して口を噤んだ。
凄惨な殺し合いなど実際に見ない限り……その怖さを理解できるはずがないのだから。
「……千草はん、そろそろ行ったほうがよろしいんとちゃうやろか?」
今まで黙っていた月詠が千草に話しかけてくる。
「そやな。ほな小太郎、行きますえ」
「おうよ」
これからするケンカが楽しくて仕方ないと思いはしゃぐ小太郎と、
「ふ、うふふ……刹那先輩と死合い出来るなんて嬉しいわ〜」
同じ流派の先輩と剣を交えた殺し合いを想像してトリップしている月詠を見て深いため息を吐く。
戦闘狂の気質を持っているのか、小太郎とは別の意味で注意が必要だと思う。
「フェイトはん、この子の押さえ頼みますわ」
「……わかったよ」
自分が戻ってくるまでに月詠に勝手な行動をさせないようにと小声でフェイトに頼む千草。
頼まれたフェイトも表情こそ変わらないが、どことなく嫌そうな空気を醸し出していた。
超 鈴音にとって目の前の人物はイレギュラーとして自分の前に現れた。
自分の知る魔法とは違う技術体系の魔法を使い、更に魔法科学という自分が作り上げた茶々丸を上回る知識と技術を持っていた。
(ヤハリ、コレは私がこの時代に来た事が原因……カ?)
自分の逆行が原因で未来が徐々に変化していると思うと希望が湧いてくる。
それと同時に自分が戻る原因となった悲劇が更に悪い方向に進むのではないかという不安も生じている。
(イヤ、この程度のイレギュラーで諦めるほど私は甘くないネ。
逆に取り込んでしまえば陣営の戦力強化に繋がるし、得られた知識を未来に持ち帰れば……)
宝の山と言えるほど……欲しい技術を目の前の師匠リィンフォース・夜天は持っている。
(例えばマルチタスクという思考方法なんて……喉から手が出るほど欲しがるナ)
無詠唱魔法を使える者ほど特に役に立つのは間違いない。
複数の呪文を幾つも打ち出せる技術など……効率良く運用出来る者ほど魔法戦闘での手数が増えて高速化に繋がっていくのだ。
(デバイスがあれば、詠唱に時間の掛かる中位呪文や上位呪文さえ連続で撃てるようになるネ)
デバイスが詠唱を代わりに行う事で連続に放てるのは反則だと思う。
そしてデバイスがあれば、何の知識を持たない木乃香でもデバイスがあれば即座に魔法を行使出来るようになると考えられる。
(魔法を発動させる発動体と魔法書が一つになて、詠唱する人工知能を組み込むのはズルイネ。
魔力があれば、いきなりシロートでも魔法使いになてしまう……反則ヨ)
魔法を覚えるための時間を一気に短縮できるアイテムなど……初めて知った。
しかも教育プログラムがあれば、シロートが実戦をしながらでも着実に生き延び、経験を得ながら強くなれる可能性さえも秘めている。
事実、魔法書や師の手解きを必要とせずデバイスの中に記憶されている魔法を使いながら自分はレベルアップしている。
(デバイスが自動防御してくれるなんて……便利としか言えないネ。
しかも、この騎士甲冑という名のバリアジャケットが標準装備なんて……防御力という点では一級品だナ)
自身が纏う深紅のチャイナドレス風味のバリアジャケットを見つめて超は感嘆の吐息を漏らす。
両手にはガントレット状の篭手を装備し、裾が腰より上になるジャケット風味の上着に肩には小さめのショルダーアーマー。
お団子状にまとめた髪を結ぶリボンも魔力で編まれ、頭部の守りの要だと思う。
装甲や服だけではなく目に見えない魔力の防壁もあり、ジャケットをパージする事で一時的に緊急回避兼リアクティブアーマーにもなる。
防御用の呪文を一々唱えずとも常時展開している点ではエヴァンジェリンのような吸血鬼が持つ魔法障壁と大差がない。
魔眼のような精神攻撃には余り効果がないみたいだが通常の魔法攻撃に関しては大丈夫だ。
(魔法の射手連弾でも最低40発くらいが着弾しない限りは抜く事は出来そうもないネ。
それでも痣が残るくらいの打撲で……いや、その前にデバイスが自動防御で防ぐ可能性が高いカ……)
使用者の魔力を勝手に使うが安全面を考えれば文句のつけようがない。
生き残るという点に於いては魔法使いよりも遥かに高いと超は結論付ける。
(最初はビジネスライクな付き合いだたけど……味方に引き込めてラッキーだたネ♪
これも学園長の悪趣味なイタズラ好きのおかげダナ)
リィンフォースが学園長を好ましく思っていない部分に付け込んでこちら側に引き込めたのは幸運だった。
そして、更にエヴァンジェリンの助力をも得られたのはツキがこちら側に回ってきたと思う。
(魔法使いがエヴァンジェリンを嫌悪しているのは明白だたネ。
同じ魔法使いで味方になりえる存在を感情で遠ざけるのは愚策ヨ)
綺麗なお題目を並べて悪の魔法使いを毛嫌いするなど愚かとしか言い様がない。
学園長や元担任の高畑は自然に接しているが潔癖症気味な善なる魔法使い連中は清濁併せ持つという意味を理解していない。
(エヴァンジェリンは悪の魔法使いにして真祖の吸血鬼ダが……彼女を真祖にしたのは同じ魔法使いネ。
その意味を理解せずに悪と罵るのは無知蒙昧だたネ)
エヴァンジェリンを孤立させるのは失策だと超は考える。
彼女を孤立させても何ら解決にはならずに……平行線のままで徒に無駄な時間を使うだけなのだ。
(そういう意味ではネギ坊主は最善の手を打た。
才能だけで強くなれると思たら大間違いネ。才能、努力、環境、そして苦悩こそが人を強くする。
まだ原石では有るがネギ坊主は強くなるネ)
実戦経験豊富なエヴァンジェリンとの訓練は着実にネギを鍛え上げていく。
そして、それは超自身の計画にとって有利に動く事に他ならない。
「師父はネギ坊主にデバイスをあげないのカ?」
「……渡さない」
少し気になった点を師であるリィンフォースに聞いてみる超。
ネギにデバイスを渡されると些か困った事になるが、ダメだと自分から言う事で今の関係を壊すのは憚られた。
「何故かナ?」
渡さないと言ってくれたのは嬉しいが、逆に何故渡さないかと言う点が気になり超は尋ねる。
「……ネギ少年は無意識だと思うけど、力を求めている」
「イケナイ事なのカ?」
「歪んだ感情でなければ構わないけど……あの子は歪んでいるわ」
「……歪み?」
聞き捨てならないという感情が超の中に溢れてくる。
「あの子は前を見ているようで見ていない」
「……否定できないネ。確かにネギ坊主は前だけを見ていないヨ」
「経験からして、そういう子に私の持つ知識やデバイスを与えると碌な事にならない気がするのよ」
「なるほど……」
「一人で何でも抱え込んで落ち込む子って自滅するのよ。
問題は自滅する際に周りを巻き込んでしまうかもしれないでしょ」
「……巨大な力を持っていれば被害は拡大すると?」
「その通りよ。本来はネギ少年の周りの大人が歪みを直すべきだけど……一番近そうな高畑でさえネギ少年本人を見ていない。
いえ、見てはいるんだけど、憧れの人物に近付きたいという思いから……期待を押し付けている感じかな」
「フム、ナギ・スプリングフィールドというフィルター越しに見ていると言うのだナ?」
「そうよ。誰も彼もがネギ少年に過剰な期待を持って見つめている。
そして同年代で同性の友人も居ない孤独な少年は自分がおかしいと思っていない。
育児放棄した父親を尊敬するというのは異常かもしれないのに……ね」
「…………」
超は裏の事情を知っていても口に出すのを躊躇う。
「ああ、言わなくても良いわよ。
私はネギ少年にはあまり係わりたくないし」
「何故かナ?」
「潔癖すぎるし、白と黒しかないっていう考えがあるうちはどうもね。
なんせ私自身キレイな人間じゃないから」
「それを言たらオシマイネ」
苦笑いしながら話すリィンフォースに超も自身を振り返って苦笑を漏らしている。
自分達がこの後で行う事は真っ当とは言えない犯罪に近しい事なのだから。
『Master』
「ン……師父、反応があたネ」
自身のパートナーであるフレイムロードが探査魔法の範囲内にあったジュエルシードらしき存在を示す。
「じゃ、一度封印をしてみる?」
「オッケーだよ。私も見ているだけじゃ退屈だたしネ」
二人は目的の場所に向かいながら封印の手筈を整える。
裏方のような形で超 鈴音は自身の目的を叶える為にリィンフォースに協力しつつ友情を深め合っていた。
――残るジュエルシード……五つ。
強硬派、もしくは過激派と呼ばれる術者達は目の前の人物がようやく本気になった事を喜んでいる。
今までは中庸というか、秘密裏に事を推し進め……出来うる限り安全策、慎重論で運ぼうとしていた。
しかし、事此処に至ってはそんな気配を完全に断ち切って過激な行動も已む無しと告げていた。
「高村さん、いよいよ我らの出番がやってきますな」
「そうだ。憎い近衛の連中を黙らせる時が来た!」
「西洋かぶれの老人など不要よ!」
「魔法使いとチームを組むような男が我らの頭目など虫唾が走るわ!」
悪口雑言が飛び交う中、首座の位置に座る高村は一言だけ告げる。
「裏切り者 近衛の娘を生贄にして我らの反撃の狼煙としようぞ」
「はっ!!」
一同が暗い笑みを浮かべながらようやく自分達の悲願が叶うと信じ首を垂れる。
「今回の天ヶ崎の襲撃の成否は別にして……小僧共は親書を携えて本山に逃げ込むだろう」
「よろしいのですか?」
「構わぬ。むしろ本山の結界を過信している油断をこちらが逆用する」
「おおっ! では!」
「そうだ。今本山に居る者は我らに背く者ばかり……敵と味方ははっきりと分かれた。
もはやどちらかが勝利するまでは終わらんよ」
「では我らの勝利を持って!」
「そうだ! 我らが勝つ!! そして東へと進軍する!!」
高村の勝利宣言と決意表明に一同は歓喜の表情で自分達の輝かしい未来を夢想する。
西洋魔法がこの国に上陸してから自分達の存在は蔑ろされ始め、先の大戦では大きな爪痕を両陣営に刻み込んでいる。
元々この地に根付いて影から守ってきた自負のある自分達陰陽師よりも後から遣って来て自分達の土地を我が物顔に侵略してくる西洋魔法使いなど認めるわけに
はいかない。
そんな連中と手を携えるべきと主張する連中など信用が置けぬし、憎き西洋魔法使いの長と縁戚で娘を人質に差し出す弱腰の今の長の言葉など聞く耳持たない。
「今宵、我らに逆らう者を始末する! 準備を怠るような真似は許さんぞ!!」
高村の激に一同は席を立ち、反撃の準備へと奔走する。
もし、この場に普段の高村を知り、客観的な見方を出来るものが居れば……不審に思ったかもしれない。
千草当たりなら間違いなくこう思っていた。
……妙に好戦的で後先考えないような手段を選ぶ人物だったかと。
「く、くくくっ!」
高村は胸元を開いて身体に融合している青い宝石を見ながら狂笑を浮かべる。
「ふ、ふははっ! この力があれば、西洋魔法使いなど敵ではない!」
励起して輝きを放つジュエルシードが同化した胸の周囲に呪符を張って制御しているようにも見えるが……既に精神面では歪みが顕在していた。
自身を次の長に選ばなかった連中に対する恨みや嫉みが徐々に大きくなり……殺意、憎悪といった感情へと変化し、近衛詠春とその家族への狂気だけで動いてい
る状態になっていた。
「この二つの奇跡の宝石があれば、小娘の力など不要だが……生かしておいても意味はない。
我らの戦意を昂ぶるための礎となるがいい!」
胸に同化して輝きを放つジュエルシードにシンクロするように周囲に浮かぶ血管のような物も脈動する。
人の形をした狂気の怪物と呼ぶに相応しい存在へと高村 重然は変容しつつあった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
内紛、もしくは反乱は避けられない状況です。
イメージ的には京都大乱と
言った感じでしょうか?
ジュエルシードを制御できると勘違いした男が逆に取り込まれながら……狂気を孕んでいます。
事態は非常に危険な方向へと突き進む中、ネギ達の運命は如何に!?
それでは活目して次回を待て!
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