「な、なんじゃと!?」
「どうかしましたか、学園長?」

麻帆良学園学園長 近衛 近右衛門は学園長室でその第一報を受けた。
ちょうど、次の麻帆良祭の警備配置の組み合わせを相談していた葛葉 刀子(くずのは とうこ)が何事かと誰何するように聞く。

「ネギ君から緊急の連絡が入ったんじゃが……」
「向こうで、また別のトラブルでも起きたんでしょうか?」

先程まで聞いた内容は無事に親書を渡し、両組織の関係改善を進める旨を告げられたと聞いていただけに不安になる。
もしかして、関西呪術協会内の反体制側が反対意見を集めて、待ったを掛けたとか。

「……関西呪術協会総本山の結界の一部が崩されたんじゃ」
「ま、まさかっ!?」

近右衛門の口から出た言葉を刀子は即座に否定する。
かつて関西呪術協会に所属していた刀子にとって、自分が知る本山の結界が壊れたなど到底信じられない出来事だ。
本山の結界はまだ新しい麻帆良学園都市の結界よりも遥かに長い年月を掛けて何度も改修し、強固に展開していたのだ。

「わしとて信じられんが……彼が嘘を吐くような子かね?」

今でこそ魔法使いだが、元は陰陽師で関西呪術協会に席を置いていた近右衛門もまさかという感情がありながらも、ネギの人柄を知っているだけに嘘ではないだ ろうと分かっていた。

「い、いえ、そのような事は……」

まだ見習い魔法使いという事できちんとした形で会ってはいないが、礼儀正しい少年と聞いているだけに刀子自身も近右衛門の意見に反論する気も無い。

「結界の一部が崩れたという事は……」
「そこから侵入する者が現れるという事じゃ」

刀子が言葉を濁していた部分を近右衛門が引き継ぐ形で口に出す。
しかし、刀子は今ひとつ信じられないのか……納得したような、納得できないようなそんな二つの感情が混じった表情で居る。

「しかも話を聞く限り内側から崩されたみたいなんじゃ」
「まさか、そこまで険悪になっていたと言うのですか?」

はっきり言って、この状況は関西呪術協会の決断に異を唱えて反乱したに等しい……いや、反乱したと言わざるを得ない。
自分が所属していた頃も良くはなかったが、後戻り出来ないほどの所まで追い詰められていたわけではない。

「……どちらにしても、今から人を送ったとしても間に合わんじゃろう」
「そ、そうですね。今からでは……間に合いませんね」

麻帆良から関西呪術協会の在る京都までの距離を転移出来る術者は限られている。
門を開き、世界を渡るほどの実力者は既に京都にいるし、もう一人も力を封じられた状態で京都にいる。
しかし話を聞く限り、時間制限はあるが一時的に封印解除は出来るらしい。

「……あの子達に任せるしかないんじゃろうな」
「……助けてくれると思いますか?」

刀子が漏らした言葉に近右衛門は貝のように口を閉じ……黙り込んでいる。
近右衛門と件の少女――リィンフォースとの関係はあまり良くない。
麻帆良にいる魔法使い達はその事を知っており、刀子もまたその点を指摘する。

「エヴァンジェリンさんは動くかもしれませんが……リィンフォースさんは動かないかも?
 ま、まあ木乃香さん以外のクラスメイトが巻き込まれていれば、仕事と割り切って動いてくれるかもしれませんね」

冷たい言い方だが、刀子の意見は間違っていないだろうと近右衛門は思っている。
彼女――リィンフォース――は最初から京都への修学旅行は反対していた。
このような事態になると予測はしていないと思うが、一般人の生徒がトラブルに巻き込まれる事を懸念していたのだ。
巻き込まれた生徒には悪いと思うが……彼女――リィンフォース――の助力を密かに期待していた。
もっとも後日、顔を合わした際には必ず嫌味を言われるだろうと思うと……憂鬱だったが。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 二十六時間目
By EFF




「はい、今食事中だから後にしてね」

鳴り出した携帯電話を取って、相手に後から電話して欲しいと告げるが、

『ちょ、ちょっとっ!?』

一大事な状況に置かれている朝倉 和美には無情な響きにも聞こえていた。

「……和美? 私の食事を邪魔するっていうのなら……敵になる気なの?」
『なんで、そうなんのよ!?』
「リィンさん、マナーモードで取らない方が良かったのでは?」

無理を言って、ホテルの厨房を借りてリィンの為に腕を振るった茶々丸が無粋な電話に不機嫌な様子で告げる。
ちなみに茶々丸の手伝いに超包子のメインシェフの四葉 五月(よつば さつき)が参加して、腕を振るっていた。

『ちゃ、茶々丸さんまで?』

偶然にも二人の会話が聞こえた和美は思いっきり焦った声に変わっていた。

「で、なに? 重要な事件でもあったの?
 アスナが酔ってネギ少年を押し倒したとか、のどかがお酒の勢いを借りて迫ったとか?」
『そ、それはそれで面白いけど、本山の結界に穴が開いたんだって』
「ほう、なかなかに面白い展開になってきたな」

偶然にも耳に入った和美の声にエヴァンジェリンが楽しげに笑いながら言う。
あの本山の結界に穴を開ける術者などそうそう居ないはずなので、不穏な空気をヒシヒシと感じているみたいだ。

「で、もう敵は現れたの?」
『え、ええっと……まだなんだけど』
「そう……後十五分ほどで食事も終わるから、それから行くね」
『いや、来てくれるのは嬉しいけど……間に合うの?』

もしかしたら食事の邪魔をしたから行きたくない、と言われるかもと思っていただけに拍子抜けした感のある言葉を和美は漏らしながら……尋ねる。

『ホテルから此処まで一時間は絶対に掛かると思ったんだけど?』

交通手段を考えると結構時間が掛かるような気になる。

「空間転移で五分も掛からないわよ。ちなみに京都−東京間だってその程度ね」
『そ、そうなの?』

しかし、リィンフォースが自信満々に告げる言葉に和美は魔法って便利よねと思ってしまう。

「ちなみに、こんな事できるのは私とエヴァだけだから」
『……つまり、安易に頼るなってこと?』
「そうよ。この世界は魔法が秘匿されているんだから好き勝手に使うのは間違っているからね」
『そりゃそうだね』

あっさりと納得した和美だが、内心では何か腑に落ちない言葉の棘のようなものを感じていた。

「戦力整えて向かうわ。それまではさよちゃんから離れないようにね」
『さよちゃんに?』
「ええ、突撃思考というか、経験不足で状況の読めないネギ少年よりもアテになるわよ。
 さよちゃんは性格的に戦いなんて出来ないけど、友達を守るためなら頑張れる子だよ。
 ネギ少年は一見落ち着いて大人びた感じだけど……中身は正義が必ず勝つと信じている少年なの。
 はっきり言うと無謀に真正面から戦う事が正しいと思い込んでいるの」
『ま、そういう部分はあるような気も否定しないよ』
「純粋と言えば、聞こえは良いんだけど……アレは間違いなく洗脳の類ね」
『……そんなにタチが悪いの?』

ちょっと不穏な響きのある言葉に和美の声が低くなる。

「本人にどこまで自覚があるか判らないけど……ね」
『ホントに?』
「だって、普通の十歳の子供が教師役を押し付けられて嫌がらないし、妙に悟ったところもあるし」
『……う〜ん、そう言われると……』

不承不承と言った感じで和美が途惑ったような……言葉を濁して、反論しにくい様子に変わる。

「一つ聞くけど……ネギ少年から同世代の同性の友人の話って聞いた事が あるかしら?」
『…………ないね』

リィンフォースの問いに和美は自分なりにネギから聞いた話を思い出して答える。
聞く限りと言うか、殆どネギは自分の事を話さないので判らないとしか言えないのだ。

「不自然だと思わない?」
『……まあね』
「本人は真っ直ぐにマギステル・マギを目指しているのかもしれないけど……周りの大人がそんな異常に気付かないのも変よ。
 穿った言い方をすれば、才能ある少年に自分達の理想を押し付けているとも言えないかな」

和美はリィンフォースの言い様に何か怖いものを感じていた。
確かに才能も人柄も悪くないかもしれないが、まだ十歳の少年という事を今更ながらに思い知らされた。

『あー、なんか魔法使いというものにドロドロしたものを感じ るわ』
「言っておくけど、魔法使いだって人間なのよ。
 世の為、人の為に貢献するなんて綺麗なお題目を抱えているけど……完全に信用するのはどうかと思うぞ」
『……そうかもね』
「魔法を公表したいみたいだけど……最悪、自分の命を懸ける覚悟はしないとね」
『う゛……安易に動くなって言うの?』
「そうよ、安易に動いたら、頭の中身弄られて……記憶を消されるわよ」
『……気をつけるわよ』

脅すわけでもなく、ごく自然な言い方のリィンフォースに和美は自分の行動が如何に甘いのか……自覚させられる。

「ああ見えて、ネギ君だってアスナにバレた時……記憶を消そうとしたんだから」
『……マジ?』
「マジよ。もっとも慌ててた所為でアスナのパンツ消 し飛ばしたけどね」
『そりゃまた……アスナもついてないね』
「しかも高畑先生に見られたし」
『……不憫な』

若干軽い方向へ移ったが、魔法使いに対する危機意識くらいは和美の中に芽生えている。

『と、とりあえず、リィンフォース達が来るまではさよちゃんをアテにしろで良いのね?』
「さよちゃんは性格的に攻撃魔法系には興味がなさそうだったから、まだ教えてないけど防御系は一通り基本は仕込んだ。
 それにデバイスも持ってる。少なくとも守りに関してはそうそう負けないと思うぞ」
『へーそうなんだ。でもなーんか……トゲのある言い方ね』
「まあね、今の私は食事を邪魔されてハリネズミのようにトゲだ らけだから」
「リィンさん、冷めると美味しさも半減しますのでお早めに」
『茶々丸さんまでトゲがある……』

和美は何か報われない気分になりながら助っ人の手配を無事に完了し、通話を切った。

「と言うわけで……二人の手を借りるわね」
「しょうがないね」
「……分かたネ」

茶々丸の手料理をご相伴していた超 鈴音と龍宮 真名の参戦が決定し、

「では、古 菲さんと長瀬さんも呼んでおきましょう。両者とも実力的には問題ありません」
「うむ。茶々丸、二人に話をつけて来い」
「承知しました、マスター。では五月さん、申し訳ありませんが給仕のほうをお願いします」
「いいですよ」

エヴァンジェリンの指示を聞いて茶々丸が二人の助力をお願いするべく部屋を移動する。
後を任された四葉 五月がお代わりを要求してくる面子に楽しそうに微笑みながら用意している。

「えっとエヴァ、予備のカートリッジも含めて三時間ほどしか全力戦闘出来ないからね」
「それだけあれば十分だろう。ちょうどベルカ式、ミッドチルダ式の術式の魔法を試したかったからな」
「……大規模破壊はダメだよ」
「そんな事は知らんな」
「ダメだよ! 私がしたいの。ちょっとフラストレーション溜まっているからね」
「ワガママな奴だな」

リィンフォースとエヴァンジェリンは互いに御飯を口にしながら注意というか、牽制しあうように今夜の戦いの事を話し合っている。

「超、私はベルカ式、ミッドチルダ式の魔法というものを良く知らんが……それほどのものなのか?」

二人の会話を聞いていた真名がこの場で二つの術式を学んでいる超に聞いている。

「まあネ、こちらの魔法とと別物と考えるのが一番ダヨ。
 同じ量の魔力を用いても、威力は完全に差がつくからネ」
「つまり効率良く運用しているって事だな?」
「そういう事ネ」

肩を竦めて話す超の言い様に何か薄ら寒いものを感じる真名。

(つまりエヴァンジェリンの封印が解けて、魔力が完全に解放されたら……リィンフォースくらいしか太刀打ち出来ないわけだ)

最弱状態でもそこらの魔法使いに負ける事は無いエヴァンジェリンが更に強くなる。
味方の間は大丈夫だが、敵に回れば……低い勝率が更にゼロに近付く。

(学園長、あまり調子に乗って愉快な事をしていると本気で麻帆良がなくなるかもね)

まもなくエヴァンジェリンの封印が解かれる日が来るのを真名は知っている。
今のところは封印が解けても大人しくするつもりみたいだが、魔法使い達の動き次第ではどうなるか……不明だ。

(ま、安易に使い回していたツケを払うだけだろうだが……ね)

皮肉げに唇を歪めながら、今後の麻帆良の警備状況の変化を予想する。
エヴァンジェリンが本来の魔力を取り戻したら、自分よりも格下の魔法使い達の指示など聞くはずがない。
当然、麻帆良の警備にも参加するかどうか分からない。
おそらくは気が向いた時だけ参加し、気が向かなければサボるのは間違いない。

(少々きつくなるかもしれんが、その分実入りは良いかもな)

エヴァンジェリンが抜けた穴を誰が埋めるかは知らないが、一人で埋められるような簡単な物でもないことも事実だった。
稼ぎ時が来るかもしれないと計算高く真名は新しい銃でも買おうかと考えていた。

「あ、そうだ。真名、開発中の銃型もアームドデバイスなんだけど、試し撃ちしてくんない?」
「別に構わんが、今からか?」

今夜の戦闘でいきなり使えと言われた感のある言い方に真名は途惑いつつ聞き返す。

「カートリッジ使用で貫通力のある魔力弾を撃ち出すの」
「ほう」

感心するような声で真名はリィンフォースの説明を聞いている。

「弾代不要だよ。しかもカートリッジに魔力を補充すれば無制限。
 まあ、実際には戦場で補充は無理でも普段からチャージすれば問題ないしね」
「ほ、ほう……試しても良いかな」

弾代が掛からないと聞いて真名は俄然興味を覚えている。

「ちなみに自動修復機構を備えているからメンテナンスフリーだね」
「良いこと尽くめだな」
「状況に応じて、銃身自体が変形してライフルとハンドガンになるし、試供品だからタダというか、今回の仕事の報酬でどう?」
「フ、異論は無いが、通常弾は使えないのか?」

カタログスペックとしては申し分ない内容に真名は新しい銃を買う手間が省けるかとやや期待している。

「何、言ってんのよ。魔力弾だけしかなんて片手落ちみたいな物を作ると思ってんの?」
「……愚問だったな」

少し怒った感じの口調でリィンフォースが魔力だけで使用するような銃ではないと反論する。

「ワンカートリッジで、そうね……真名が普段使用している弾丸30発くらいはあるよ。
 真名って、転移札とかも起動できるし、魔力の扱いは出来るから自前で全部用意できるんじゃない?」
「多少は……な」

魔法使いとしての訓練はしていないが、魔眼持ちというスキルがあるので魔力の扱いは出来る真名。
そんな真名にリィンフォースは淡いグリーンの薄く長さ五センチくらいの金属の板がついたペンダントを放り投げる。

「――っと」

受け取った真名は幅一センチ、薄さは三ミリ程度の淡く輝く板に目を向ける。

「これがアームドデバイスか?」
「魔力を通して、起動させて」

リィンフォースの指示に逆らう事なく、真名はペンダントに魔力を通すとペンダントは輝き……その銃身を真名に見せる。

「ほう……しっくりくる」
「そりゃそうでしょ……茶々丸に頼んで真名の手の大きさ、指の長さを記録して貰ったんだから。
 試作品ではあるけど、真名用のハイスペックな一品に仕上げたわ。
 ま、後は実戦を積んでその都度調整してバージョンアップかな」
「なるほど…な」

試作品とはいえ、自分専用の銃と言われて、真名は感心した様子でその手に掴んだ銃を見つめている。

(グリップは問題ない。重さも適度だな)

今の自分の手のサイズに合せたと言うようにしっくりと馴染むハンドガンタイプの銃。

「あ、それ、二丁銃だから」
「どこが…………」

一丁しかない銃を二丁と言われて真名は不審そうにリィンフォースに顔を向けた時、手の中にあった銃が輝き二丁の銃に変わる。

「変形……ね」
「そうよ」
「デバイスというのはアーティファクトに似ているな」
「そう? 私としては、あんな変なアイテムと一緒にされるのは嫌だな」

リィンフォースとしては、自分の中にある魔法科学の知識を集めて作ったデバイスが、契約陣の中でキスだけで手にする事が出来る安易な品物と一緒にされるの は不愉快だった。

「そうか?」
「そうよ。一応、魔道書兼発動体で、望めば持ち主のスキルアップの協力さえしてくれるのがデバイスなんだから」
「ふむ、契約者の潜在能力を形にしたアーティファクトとは違うんだな。
 ま、後は実際に使ってみれば、おのずと答えも出るさ」

ハンドガンからカードへと戻して、真名は現実的な意見を述べる。

「はっきり言って、真名を唸らせるだけの力を秘めていると私は確信している」
「ほっぺたにご飯粒つけて言われても…な」

少々気が抜けた顔で真名はリィンフォースを見つめている。

「あ〜〜! エヴァ、それは私のおかずだよ!」

「フ、隙を見せたお前のミスだ」
「ひ、酷い……今度、エヴァが冷蔵庫に保管しているお菓子……勝手に食べてやる」
「バ、バカモン! あれはとっておきの一品だぞ!」
「食い物の恨みを思い知れ〜〜」

目の前のおかずの取り合いから始まって、睨み合うリィンフォースとエヴァンジェリンに真名は呆れている。

「……何を…………五月、ここにあった私のデザートは?」
「ご馳走サマネ♪」

ちゃっかりと自分のデザートを食べて、更に真名のを奪い取っている超がそこに居た。

「……なんてこった」
「油断大敵ネ。この面子での食事は戦争ダヨ」
「この恨み……いつか晴らすぞ」
「大丈夫です。ここにちゃんと用意してあります」

険悪な方向に進み掛けているテーブルの空気を一変させるように五月が微笑みながらデザートを出す。

「うむ、頂こうか」
「五月の作った杏仁豆腐は絶品だな」
「私、五月の杏仁豆腐好きだよ〜」

三者三様に話しながら食べる姿に超は安堵する。
流石に自分が仕出かした事ではあるが、出発前にチームワークが壊れそうになるのは不味いかなと若干焦っていたみたいだった。

「ストッパー役の茶々丸不在でも五月が居れば、問題ないネ」
「ちなみに超さんの分……ありませんよ」
「ナント!?」

よく見ると自分の前にあった杏仁豆腐は既に三人によって……食べられていた。

「帰ったら……また作りますね」
「……スマナイ」

油断した自分のミスではあるが、五月の優しさにホロリと心の中で涙する超だった。
この後、古 菲と長瀬 楓が部屋にやって来て、エヴァンジェリン、リィンフォース、超、茶々丸、真名の七名が出発した。




関西呪術協会総本山は切迫した空気を隠さずに陣容を整えている。
しかし、過激派による封印破壊の一件で主だった術者は出払っていたので……戦力的には非常に厳しいものがあった。

「社殿の結界の補強を急げ!」

穴が開いた部分から侵入してくるのは明白で、社務所を含む建築物を守るように結界を張る術者達。

「式を出して、守りを固めろ!
 連絡は既に送っている! 時間を稼げば、戻ってくるぞ!」


前衛を務める式神を出して、備え始める。

「あ、あの、長さん! 僕も手伝います!」

状況が切迫し、戦力不足であるのが分かっていたネギは声を上げて告げる。

「…………すまない」

苦々しい顔で近衛 詠春はネギの申し出を受け入れる。
今から木乃香を含む預かっている生徒を逃がすのは不味いと詠春は判断している。

(おそらく監視している人員もいるだろう……ネギ君と刹那君の二人で状況を知らない者達を守るのは無理がある)

撤退の際の最後尾など、実戦経験が皆無に近いネギにさせるなど……不安要素が多過ぎる。
ならば、自分の目の届く範囲内で行動させるのが一番不安がない。
事情を知らない生徒は酔っ払っていたので、そのまま魔法で眠らせて休ませている。

(一般人に手を掛ける事はないはずだと信じるしかないな)

今までにない行動故に敵の首領である高村をどこまで信じられるか……不安だが。

「ネギ君、決して私の側から離れないようにね」
「は、はい!」

かつて背中を預けあった親友の一人息子を死なせるわけには行かない。

(錆び付いた今の身体でどこまで戦えるかは分からないが……死なせはしない!)

最悪の時は自分の身体を盾にしてでも守ろうと詠春は決意していた。

「だ、第一陣……来ました!」

怯えが混じった声で告げられ、詠春は目を向ける。

「ば、馬鹿な……」

そこには詠春自身が想定していた数を遥かに上回る鬼達の群れがある。

(これだけの魔力をどこから集めたんだ?)

軽く見積もっても四百は優に超えている。しかも、これは第一陣の襲来に過ぎない。

(高村さんは勝つ為に動いたのか……これは私の油断だったと言うのか?)

雲霞の如く森を埋め尽くす鬼達を前に詠春はこのような事態を招いた自分の判断の甘さを苦々しく思っていた。



――少し時間を遡る。

「こ、これは一体!?」
「お、おのれ……裏切ったのか?」

総本山への襲撃を計画し、その切り札であるリョウメンスクナの封印されていた場所に集結していた過激派達は突如発生した魔力収奪に、自分達の魔力を奪われ ながら力を失い……地面に倒れ伏していった。

「ふ、ふははは! これで良い! 私に面倒ばかり押し付ける者達など……滅びるが良い!!」

高らかに嗤いながら高村 重然は狂気を携えた哄笑を浮かべている。

「こ、高村殿! これは何の真似だ!」

術者の一人が息を乱せながら、激しく詰問するが……高村は冷ややかな目で見つめている。

「はて、お前達の望むように戦力を集めて……敵を滅ぼすだけだ」
「このような真似をしてかっ!!」

魔力だけではなく、術者の生命力さえも奪うような陣に激しく睨み抗議するも、

「役に立たない駒など……命を武器にしてくれんとな」

まるで意に返さずに……術者達に死ねと言い渡す冷酷さを見せる。
魔力が尽き、生命力を奪われ始めた者は言葉も出なくなり……水分を奪われて干乾びたような姿になってしまう。

「何故、このような事に……」

最後の一人が振り絞った掠れた声で呟く。
この瞬間、過激派達は高村一人を残し……死に絶える。
そして、集められた魔力の全てを使って……召喚された異形の鬼達が姿を見せる。

「なんや……鬼以上の悪辣な召喚やな」

鬼の頭目らしい存在が周囲を見渡して呟く。
目の前にいる人物以外は全て……死に絶え、死の大地をイメージさせるような死骸しかない。
何よりも、大量の生贄を出したというのに男は楽しげに……狂笑を浮かべている。

「お前達の役目はあの場所にいる全ての者を殺す事だ」
「ま、雇い主には従うけどな」

肩を竦めて狂気を纏いし術者――高村――の命令を聞く鬼。
高村の示す先にあるのは関西呪術協会総本山。

「ほな、遠慮のう……皆殺しでええんやな?」
「そうだ! 私に歯向かった連中など不要だ!!
 お前達は私がリョウメンスクナの神の封印を解くまでに奴らを始末しろ!」
「へいへい……ほな、行くで」

やる気のない声で配下の鬼達を従えて出陣する。

「親びん……あのおっさん、かなり壊れとるんとちゃうか?」
「そんな分かりきった事聞くなや。なんや、つまらんというか……後味悪い仕事せなならんな」

歩き出して、干乾びた術者にぶつかって……その身が砕けて塵へと変える様子に嫌そうな声で告げる。
そこは異形の者達が住む……地獄絵図のように凄惨な場所になっていた。



鬼達の襲来に朝倉 和美は刹那の後を追って来た事に……夕映とハルナを巻き込んだのは不味かったと自覚せざるを得なかった。
今は魔法で眠らして、奥の部屋で休ませているが、ここの守りが崩壊したら……巻き添えを食って死ぬのは目に見えている。
一応助っ人の手配はしたが……戦力的に増えても足りないかも等と不安な気持ちが出てきた。

『わわわ……来ました〜〜』

おっかなびっくりの様子で隣にいるさよが守りの結界を展開する。
攻撃力こそないが、さよちゃんの作る結界はとても強力で壊れにくいらしい。

「う、うう……見るだけっていうのも辛いわ」
「ネ、ネギせんせ〜大丈夫かな?」

木乃香のお父さんに戦力外と判断されたのか、アスナが私達の護衛として悔しそうに隣に立っている。
そして同じように本屋ちゃんこと宮崎 のどかもこの場で心配そうな顔で見つめている。

「しょうがないさ、アスナも本屋ちゃんも一般人に毛が生えたようなもんだし」
「だって、ネギが頑張っているのに!」

人手不足故にネギ先生が前線に出るのが悔しいらしい。
まあ、ネギ先生の従者という肩書きがあるのに側で守ることが出来ないのは……不安と不満がごちゃまぜなんだろう。

「やっぱり帰ったら、刹那さんに剣を教えてもらおうかな」
「う、うう……私もネギせんせ〜に魔法を教えてもらおうかな」

ぼそりと呟いたアスナと本屋ちゃんの声を聞いた私は、

(アスナって自覚はないけど……本屋ちゃんと同じでネギ先生に惚れてんのかな?)

口に出して言えば……間違いなくぶん殴られそうな考えを頭に浮かべていた。

(リィンフォース……早く来てよね)



桜咲 刹那はまたしても自分の判断の甘さを呪う破目になっていた。

(本山に入れば、大丈夫だと言ったのに……この体たらくか)

過信したわけでもなく、このような暴挙に出る事など絶対にないと勝手に決め付けていた。
しかし、事態は刹那の思惑を遥かに上回る方向に進み、

「……せっちゃん、無理せんとな」

心配している表情で自分を見つめる木乃香が隣に立っていた。

「……このちゃん、相坂さんの側に居て下さい。
 彼女の張った結界の中なら……安全です」
「……せっちゃんはどうすんの?」

不安そうに自分を見つめる木乃香に笑って答える。

「少しでも数を減らして、皆さんの負担を軽くしようと思います」

鬼達が侵入してくる方向に顔を向けて、鞘から夕凪を抜いて構える。

「う、うん……こんな事言うのもなんやけど……無理せんといてな」
「もちろんです。さ、奥へ行ってください」

木乃香が何か言いたげな顔で刹那を見つめるが、結局何も言わずに後ろへ……さよ達がいる部屋へと下がっていく。
迎え撃つ用意を整えながら、夜が更けていく。


逢が魔時……魔が最も力を発揮すると言われる時間がすぐ其処まで来ていた。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

完全に原作とは掛け離れています。
千草個人でした反乱と過激派達が率先して行う反乱である以上はその差は歴然たるものには違いありませんが。
高村の暴走は……少し意味があります。その理由は察しがつくと思いますが(汗っ)
それでは次回を活目して待て!



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