チャチャゼロは思う。

(……マトモナ従者ッテ俺ダケナノカ?)

――フニ、フニ

「……うみゅ…」

――プニ、プニ

「みゅ、みゅ……」
「朝の……至福の時です」

朝、リィンフォースを起こす際に茶々丸が可愛らしい頬をその指で突付く。
そして、子猫のようにむずがる姿を見るのが……茶々丸の朝のささやかな秘め 事

「プニ、プニ」
「……むにゅ……みゅ…」
「(妹ヨ……萌エテイルノカ?)面白ソウダカラ……俺ニモヤラセロ」
「ダメです。これは私だけのささやかな楽しみなんです」

子猫みたいな反応にチャチャゼロが面白さを感じている。

「ツレネーナ」
「マスターには内緒ですよ」
「朝ヨエーカラ絶対ニ気付カネェサ」
「それもそうですね」

この後、五分ほど楽しんでから茶々丸はリィンフォースを起こす。

……チャチャゼロがこの朝の楽しみに加わったかは不明だった。

ちなみに茶々丸のメモリーからこの映像を見た葉加瀬 聡美と超 鈴音が萌えた かどうかは……定かではない。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 三十五時間目
By EFF





「…………ご苦労じゃったな」

学園長室で報告書を一通り目を通した近衛 近右衛門はリィンフォースに労いの声を掛ける。

「仕事だからね」

しかし返ってきた声は……何言ってだ、このジジイ?というようなニュアンスが込められた冷ややか視線付きの言葉だった。

「素っ気ないのう」
「計算通りなんでしょ……ネギ少年使って、強硬派を挑発して一網打尽。使われたネギ少年がいい面の皮よね」
「そんな事はないんじゃが……」

報告書を読み、関西呪術協会のダメージを知って複雑な顔になる近右衛門。
ここまでの事態に発展するとは想像しなかったし、これで少しは改善するかとも思っていた。
だが、報告書を読む限り……婿である詠春の立場は完全に崖っぷちに晒され、関西呪術協会と関東魔法協会の仲は歪に拗れたままでネギを特使と派遣した意味を 為さず……彼の所在を公表しただけの結果に終わった。
これでは悪い方向に進めば、詠春は長の地位から転げ落ちて、関西呪術協会は完全に敵対関係にまで発展しそうな感じである。
今現在は大量に喪失した人員のおかげで立て直しという厄介事を誰も引き受けたがらずに詠春に押し付けている状態。
立て直しが完了した時に詠春の指導力が不足していたのなら……本当に危険な状態になってしまうだろうと感じていた。

「表立って逆らう連中は死んだし……和 平に向けてやりやすくなったじゃない」
「……本気で言っているのかね?」

明らかに分かっているくせに……知らないフリをするリィンフォースに近右衛門は苦々しい表情で見つめる。

「計算通りなんでしょ? 少なくとも実働部隊は消滅し、西からの侵入者は減ると思うけど」
「こんな結末など、望んでおらんわ。わしはもう少し時間を掛けて、蟠りをなくしたかったんじゃ」
「……嘘でしょう? あのね、自分の立場を鑑みて話しなさいよ」

意図して行ったわけではないと話しているが、リィンフォースは全く信じていなかった。

「向こうにすれば、学園長は古き伝統ある陰陽術を捨てて、異国の魔法に走った裏切り者と変わらないの」
「そうかのぉ……わしは伝統を否定したわけじゃなく、新しい風を吹き込みたかっただけなんじゃが」
「なら、自分一人で突っ走らないで、説明してから移籍しなさいよ」
「む……色々あったんじゃがな」

一人で先走ったと呆れを含んだ視線で咎めるようにリィンフォースは見つめる。

「向こうの千草って人が話してたけど、謝罪もなく……勝者の立場で踏み躙るのが魔法使いの流儀なの?」
「それに関しては申し訳ないとも感じているんじゃ」
「思っていたんなら改善しなさいよ。今回の一件の根っこは東と西の長の怠慢から始まったんだから。
 上から見下ろした物言いで平和、平和と訴えても……失った痛みを癒していない連中が従わないわ」
「……そうじゃのぉ」
「ま、私にも責任の一端があるから、これ以上は言わないわ」

言うべき事は言ったと判断したリィンフォースが背を向けて部屋から出て行く。

「あ、そうだ。ネギ少年が図書館島の最深部へ行こうとするかもしれないけど……死んでも知らないわよ」
「む? それはどういう意味じゃ?」

突然リィンフォースから切り出された話を近右衛門は不思議そうに聞く。

「あそこにいるクウネル・サンダースじゃなかった……アルビレオ・イマに会いに行くのよ。
 ちなみにエヴァは怒っていたわ」
「むぅ……」

大体の事情を察して近右衛門は顔を顰めて唸る。
ネギにはまだ早いと思いながら、エヴァンジェリンにも知られた事でどう誤魔化すか考えている。

「……隠し事するのは良いけど、バレた時の事も考えないとダメよ。
 それと報告書にも書いて置いたけど……ネギ少年の所在が公表された以上は警備体制の強化は急務よ。
 これ以上、怠慢な事しないでね」

ドアが閉まる瞬間にリィンフォースが呆れた声で呟く。

「…………やれやれ、ネギ君の事といい、警備体制の見直しといい……どうしたものかの?」

今のネギの力で図書館島を攻略するのは難しいどころではない。
あそこは防犯上の理由から下層に入れる者はそれなりの実力者でなければ……危険だった。

「まだ見習いの域から出始めたネギ君には荷が重いじゃろうな。
 さりとて、行くなと言っても聞き届けてくれるかどうか……」

父親の生存の手掛かりがあると知った以上は是が非でも挑戦する可能性が高い。

「エヴァンジェリンにどの程度仕上がったのか……聞いてみるかの」

順調に進んでいるのならば……アルビレオと相談して行かしても良いかと考える。

「それに警備体制の強化と言われてものぉ……慢性的な人手不足を解消せん事にはどうにもならんのじゃが……」

人手不足なのは今も昔も変わらない。
本国に人員の増強を頼むと……経歴を偽装した人物が入ってくる可能性もある。

「じゃが、警備体制の見直しをせんと物騒な気も……」

柔らかな朝の日差しが入ってくる学園長室で近右衛門がどうしたものかと悩んでいるところへ、

「ジジイ! どういうつもりだ!?」
「フォ!?」

吸血鬼にとって苦手な時間である朝にも係わらずに勢い良く部屋に飛び込んでくるエヴァンジェリンに焦る。
雰囲気からして、アルビレオの一件でお怒りみたいだ。

「返答次第によっては……凍らすぞ!!」
「ま、待たんか!」

何故か、魔力が復活気味のエヴァンジェリンの様子に大慌て。

「エヴァよ……魔力が戻っているようじゃが?」
「安心しろ。この一撃で元に戻る」
「安心出来んわぁ――――っ!!」

ニッコリと笑みを浮かべて魔法を発動させるエヴァンジェリンに近右衛門は必死に止めようと説得するが、

「フォ、フオォォォ―――っ!!」

叫び声を聞きつけて駆けつけた魔法先生達が見たのは氷のオブジェと化した近右衛門の姿だった。
一応自分達の上司なので救助はしたものの……事情を聞いて、

「……助けるんじゃなかった」
「フォ!? それは酷くないかのう?」
「自業自得です!」


遊び半分でエヴァンジェリンを刺激するような行動をする学園長に苛立ちを感じて怒鳴り返す。
他の魔法使い達も図書館島に実は英雄の一人が隠れ住んでいたのは初耳だったのだ。
遊び心満載で自分達にも秘密にする近右衛門に苛立ちを感じているのは間違いない。
また一つ信用を失う近衛 近右衛門……いつもの麻帆良学園の一日の始まりだった。





「相も変わらず……お父さん、お父さんってか?」
「……一種の呪いだな」

リィンフォースの呆れた声にエヴァンジェリンの冷めた視線がネギへと向かう。
一応、授業はきちんとしているが、時折窓の外を見ては……ため息を漏らす。

「自分が何をしているのか……分かっていないわね」
「所謂……給料ドロボーでしょうか?」
「そんなところだ」

授業に身が入らない……明らかに何か問題を抱えて悩んでいますと見えるネギ。

「ああ、ネギ先生……何をお悩 みなのですか?
 一言、私に仰ってくだされば、如何なる 問題であるとも解決してみせます!!」

「いいんちょ……もう少し落ち着いて」
「……ネギせんせー……」
「のどか、これは更なるチャンスです。
 さり気なく近付いて悩みを聞き、解決に尽力する……」
「お、良いねえ。好感度アップのイベントか〜」
「ネギく〜ん、私ってば、あんまり賢くないけど、悩みを聞いてあげても良いよ♪」

生徒達も上の空で授業をしているネギを心配しながら見つめている。

「あれ?」
「なんだ?」

リィンフォースの元に飛んできたメモ。
訝しげにメモを取り、中身を確認すると、

『あのバカ、どうしたのよ?』

アスナが修学旅行から気が抜けたというか、何か考え事で一杯一杯のネギを指差してリィンフォースに聞いてくる。

『放っておきなさい……子供の我侭を相手にしたら負けよ』

返事を書いて渡すとアスナは顰め面で読んで次の手紙を渡す。

『ワガママって、例の件?』

リィンフォースがアスナのほうに顔を向けて縦に首を動かすと、アスナはため息を吐いている。
ネギが父親の仲間の存在を知り、会いたがっている事は既に聞いていた。
ただ、その場所が危険な場所だけに……行けない事で悩んでいるのだと知って、アスナは授業に身が入らないのだと気付いた。

(あのガキんちょは……真面目に仕事しなさいよね!)

給料を学園から貰っている以上はきっちりと仕事をしなければならない。
毎朝、新聞配達のアルバイトをして、社会の一端を見ているアスナにはネギが悩むのは構わないが……仕事はきちんとしろと言いたかった。

「エヴァから見て、ネギ少年はマトモに見える?」
「そうだな……どんな育て方をしたのかは知らんが、紛れもなく異常だ」
「異常ですか? 見る限りそんなふうには感じられませんが?」
「茶々丸、異常者というのはな……異常であると自覚できない奴が一番危険なのだ」
「しかも修正がかなり難しい」

茶々丸が首を傾げて不思議そうにネギを見つめる。

「あれはかなり歪だぞ。何があったかは知らんが……ぼーやの内面には相当な黒い闇がある。
 今のところは純粋で生真面目な性格故に表に出てないが一旦暴走を始めれば、極悪人になれる ぞ」

クククと邪笑を浮かべてエヴァンジェリンはネギを如何に極悪人に変えるか考えている。
立派な魔法使いを称するバカどもへの意趣返しに本当にネギを悪の魔法使いに仕立て上げようかと考えている。
今の歪みを更に歪めて……ナギ・スプリングフィールドと対峙させると面白い事になるだろうなと本気で思うし、他の魔法使い達を絶望させるのも悪くないかな とも頭の中で考えていた。

「手段を選らばないというか……執念というより妄執に近いわね」
「妄執か……確かにその通りだな」
「お父さん、お父さんって言うけど……お母さんの事はどうでも良いのかな?」

何気ない疑問だが、リィンフォースの言葉に茶々丸はようやくネギの異常性に気付く。

「人である以上は両親が存在しますが……ネギ先生からはお母様の話が一つも出ませんね」
「……確かにな」
「周りの大人はお父さんばかり褒め称えて……お母さんの事は何一つ教えなかったんだろうな」
「全く以って碌な大人しかいなかったみたいだな」
「自分達の理想をネギ先生に押し付けたと見るべきでしょうか?」
「おそらく……ね」
「ぼーやにすれば、いい迷惑なんだがな」

何と言うか、やるせない気持ちになり、ネギの未来を案じる三人だった。




上の空でも時間は過ぎて、昼休みへと移る。
屋上でビニールシートを敷いて、昼食を取ろうとするリィンフォース達。
ネギはあやからに捕まって強引にランチタイムへと連れ出されていた。

「で、今のガキんちょには絶対に無理なのね?」
「おそらく無理ですね」
「そうなん、せっちゃん?」

いつもはエヴァンジェリンと茶々丸の三人だが、今日はアスナと刹那、木乃香の三人が加わっている。

「あのね、前回の時は裏道から警備用の魔法生物と接触してなかったでしょ?」
「ああ、まあそうね」

前回というキーワードでアスナと木乃香は思い出す。

「でも、あれはあれで大変だったんやえ」
「……そんな危ない場所へ行かないで下さい、このちゃん」

その時は学園長の指示で護衛しなくても良いと言われていた刹那は困った顔で話す。

「中等部は地下三階まで、と意味もなく決められたわけじゃないんです」
「そういう事だ。あそこには古今東西の魔法書が納められている所為もあって、魔法使い達が目を光らせている」
「ふぅん、そうなんや」
「図書館島探検部は本棚の上を歩くと聞いていますが、下の通路だと警備用の魔法生物が巡回して侵入者を排除します」
「中には制御が不安定になって、人を無差別で襲うから三階の出口で封じ込めているのよ。
 そして月に一度、魔法使い達が下に潜ってメンテナンスを兼ねた戦闘訓練をしているの」
「そうなんだ…………あれ? でもネギはしてないわよ」
「ネギ少年はまだ見習いでも研修終了前だから……ね。
 あそこは見習いから一人前として認められた魔法使いの社会に出る前の最終訓練場なのよ」

リィンフォースの説明にアスナは納得して頷き、木乃香も内部事情を理解する。

「ほな……もしかしたら、うちも潜るん?」
「まあ、戦闘系で行くんなら練習は必要だけどね」
「こいつは戦闘系には向いておらんよ。どちらかというと治癒系に特化しているぞ」

京都の一件を思い出してエヴァンジェリンが木乃香の魔法特性を告げる。

「陰陽師になるんだったら、攻撃は式神に担当させてバックアップ専門が最適だ。
 回復系の魔法は馬鹿デカイ魔力を流し込む事で効果が大きくなる。
 馬鹿デカイ魔力タンクを持つお前なら、修行をきちっとすれば一流どころは約束されたも同然だ」

「ま、その先はお前の覚悟次第だがな」と告げてエヴァンジェリンはお弁当に箸をつける。

「そっか、木乃香は陰陽師かー」
「そやな〜、魔法使いになろうとしたら色々ややこしゅうなるんは間違いないえ」
「…………否定できません」

複雑な顔で刹那が木乃香を取り巻く環境を考えて話した。

「あ、そうだ。アスナ、コレをアルに渡しておいて」

リィンフォースがポケットから小さい宝石を出してアスナに渡す。

「緊急時の転移用マジックアイテム。ネギ少年が警告を無視して潜って、危ないと判断したら使うように言っておいて」
「……分かった。確かに必要かもしんないわね」
「普段は頭の回転は悪くないけど、お父さんの事が絡めば……途端に突撃バカになるのよね」
「そうなの。あいつってば、お父さんの事になると周りが見えなくなる危なっかしい奴なのよ」
「幸い、アルは状況判断もきちんとできるし、危ないと判断すれば退くわ」
「そうだな。あの小動物はその程度の判断は出来るさ」

注意はしていても、ネギが潜る可能性を捨て切れない。
と言うよりも潜る事を前提にリィンフォースとアスナは話し、エヴァンジェリンも否定しない。
ネギ・スプリングフィールドに対する信用がゼロに等しい厳しい意見だった。

「あ、しまった。のどかに協力しないように言ってなかった」
「ゲ、そりゃマズイよ。本屋ちゃん、図書館島のこと詳しいし……安全な地図とか持ってるかも…」
「あ〜夕映が一枚噛んだら、間違いなく下まで行けそうやな」
「綾瀬さんなら……不味いですね。彼女の行動力は侮れません」

図書館島探検部の力量は今ひとつ分かっていない刹那だが、流石に地図があるとなれば、最深部に到達できるかもしれないと考えて心配で顔を顰めている。

「放っておけ。ぼーやが巻き込んだのなら、ぼーやにケジメをつけさせろ」
「よろしいのですか、マスター?」
「構わんよ。仮に死んだとしても、それに対する責任はぼーやにある」
「そ、そ……いっそ、死人でも出してくれると魔力封じとか出来るし、そのほうがネギ少年のためになるわよ」
「それって、魔法使いとして……再起不能にする気なの?」

リィンフォースの二つ名――魔法使 い殺し――を知っているアスナは流石にそれは酷いかと思って睨む。

「そうよ。何年か封じて、少し考えさせるのも一つの選択。
 ネギ少年って、余裕がなさ過ぎで……周りが全然見えていない」
「…………それは否定できないけど」
「ですが、それを行えば……問題になりませんか?
 おそらく学園長や他の魔法先生方が抗議しかねません」
「過剰な期待ばかりしている連中なんて知らないわよ。
 子供に過剰な期待を押し付けて、それが当たり前だと考えるのはネギ少年の為になるのかしら?」

見守って、時には手を差し出して成長を促すのなら大丈夫だが、最初からこうなるように仕向け、強引に自分達が作り上げたレールの上を走らせるのはどうかと リィンフォースは考える。

「ナギ・スプリングフィールドの息子は、英雄の子として父に匹敵する英雄にならなければならない……そんな押し付けはダメ」
「自分達が英雄になれないから、ぼーやに期待して押し付ける。
 ぼーやが純真だから大丈夫だが、歪み出したら……誰が責任を取るんだろうな」
「この場合、誰も責任など取らずに、"なれなかったネギ先生が悪い"で済ませるのではないでしょうか?」

アスナも木乃香、刹那も嫌そうな顔で聞いている。

「……ネギって、苦労してるわね」
「ほんま、大変やね〜」
「お嬢様の言う通り「……せっちゃん」―― はっ! も、申し訳ありません!」

NGワードである"お嬢様"を 口にした刹那に木乃香がジト目で睨んでいる。
刹那は木乃香の非難する視線をまともに受けて……脂汗を額に浮かべていた。

「そう言えば、天ヶ崎さんが木乃香の教師役で来るって聞いたけど?」
「そうなんや! ちょっと無理言うたけど来週辺りにこっちに来るって連絡があったんよ♪」

木乃香が向こうに戻らない以上は誰かが師匠として麻帆良に来なければならない。

「……誰も引き受けたがらないと思ったんだけどね」
「詠春あたりが強引に押し付けたんだろうな。無論、報酬はきちんと出しているだろうがな」

京都では色々あったが、木乃香の様子を見る限り……大丈夫そうに見える。
隣で聞いている刹那は以前敵対した事もある人物だけに不安そうな気持ちを隠せずにいるが。

「あ、そう言うたら、小太郎くんも一緒に来るって聞いたえ」
「それは好都合だな。ぼーやにはちょうど良い練習相手になりそうだ」
「そうね。同年代のタメ口できる相手がいないと息が詰まるかもしんないし」
「共に競い合う相手がいれば、上達も早くなるかもしれません」
「あいつってば、友達少なそうだもんね」
「確かに、ここでは女性しかいません」

ネギの麻帆良での交友関係は同性の友人は皆無に近い。
高畑が年の離れた友人かもしれないが、忙しくて麻帆良にいる事が少なくて、偶にしか顔を出さない。

「よくよく思うと……ネギってワガママ言わないわね」
「そうやね〜」
「今までは真面目な方の一言で片付けていましたが……少し不自然な気がしない事も」
「それが奴らの教育方針なんだろ。"マギステル・マギ"になる為にはイイ子じゃないとダメってとかな」
「ネギ先生の性質もありますが、所謂……悪質な洗脳と言うものでしょうか?」

数えで十歳の少年と見れば、妙に悟りきっているのがネギ・スプリングフィールドという子供なのだ。

「まあ目標があって、それを目指すために努力するのは悪くないけど、普通は息抜きもせずに走り続けたら……壊れるわよ」
「小利口な頭があって、才能もそこそこ有していれば……少々の事では壊れんよ」
「才能がある分、歩くペースが常人とは違うのかもしれませんが、人である限り限界はいずれ訪れます。
 その際にネギ先生は周りを見て愕然とするのではありませんか」
「……孤高という名の孤独が待っているわよ。
 英雄とは大なり小なり突出した才故に人とは違うところに立っているからね」
「概ねその通りだ。そして英雄は世界に身を捧げて……家族を守れない。
 世界と家族、どちらも大切なものでも英雄は世界を救う役目を持っているからな。
 ぼーやの父親は英雄だが……家族と共に生きる事が出来なかった」

理由の如何に係わらずナギ・スプリングフィールドは息子を育てる事が出来なかったし、友人くらいの関係だったエヴァンジェリンの呪いの解呪を放置して…… 行方知らずなのだ。

「ナギのパーティーの面子で消息が判っているのは二人だけだった。
 最近になって、此処に一人いるらしいが……」
「あれは無事とは言い難いけどね。
 少なくとも今のエヴァと同じで幽閉というか、治療中なのかな」
「フン、イイ気味だ」

アルビレオ・イマの実情をリィンフォースが予想し、聞いていたエヴァンジェリンは楽しげに嗤う。

「悪い人じゃないと思うけど……楽しい事、愉快になりそうな事には労力を惜しまないタイプよね」
「正にその通りだ! アイツはいつも人を小馬鹿にして、からかってばかりだぞ!!
 あのジジイ同様におちょくる事に掛けては天下一品だ!!」


経験則で何一つ間違った事は言っていないと言う様にエヴァンジェリンが吼える。

「うわ〜、聞いていれば、とんでもない人みたい」
「そやな〜、一回しか会ってないけど……楽しげに笑ってたわ」
「学園長の同類ですか……とんでもない人かもしれませんね」

エヴァンジェリンの咆哮にアスナ達はアルビレオ・イマという人物が変な人としか感じ取れない。
頼りになるのか、ならんのか……ネギの父親の友人らしい人物とそのうちに会うかも知れないと感じて、アスナ達は会うべきなのか、会わないほうが良いのか、 複雑な気持ちになっていた。





放課後の図書館島地上一階部分でネギは宮崎 のどか、綾瀬 夕映と会っていた。

「ども、ネギ先生。確かにこの地図は図書館島の地下部分を正確に記した物です」
「や、やっぱりそうなんですか!?」

近衛 詠春から渡された物の中に地図らしい物があり、注意深く見ると図書館島らしいマッピングだった。
どうも全部を簡単に目を通してみると麻帆良学園都市の研究をしていたんだと判明した。
そこでネギはのどかを通じて、夕映が以前持っていた図書館島の地図と比較して貰ったのだ。

(……兄貴、そう焦るのは危ないんだが…………聞いてくれねえだろうな)

ネギの肩に乗り、話を聞いていたカモは内心で憂鬱なため息を吐きつつ二人の会話を聞いている。

「特にこの分ですが……」
「……"オレノテガカリ"って!?」

夕映が指し示す先にあったのはカタカナで書かれた一文だった。

「他の暗号らしきものは私には解読できませんが……これは読めます」
「な、なんで? あれ、日本語だから、僕が気付かなかった!?」

この場にアスナがいたら、間違いなくアホだろうと思うかもしれないが、アスナは刹那から剣術を教わっているところだった。
"ま、一旦係わった以上は無視できないし、そういうのは趣味じゃないのよ"と複雑な心情を吐露して、刹那に頼んだ。
刹那は新しく出来た友人の頼みを無碍に断る気もなく、放課後の時間を使って基礎を教えていた。

「おそらくですが……ここに大司書長がいるのでしょう」
「な、なるほど、確かにそうみたいですね」
「そして、一つ分からなかったのが……この絵です」

DANGERと 書かれて、何か動物らしきものが吼えている絵を夕映が示すと、

(……これが番人のドラゴンだね)
(間違いねえよ、兄貴)

念話を用いてカモと話すネギだった。

「これはもしかして……以前見たゴーレムですか?」
「そ、それは……どうでしょうか」

夕映がネギのほうに顔を向けて尋ねてくる。

「常々思っていたのですが……」
「な、なんでしょうか?」

質問があると言わんばかりに夕映が更に顔を近づけて見つめてくるのをネギが落ち着かない様子でいる。

「この麻帆良学園都市は何かおかしな街だと思うのです」
「は、はぁ……」
「この図書館島の地下にある遺跡、世界樹におかしな都市伝説……」
「そ、そうですね」

相槌を打ちながらネギの表情は次第に焦りで曇っていき、隣で聞いているのどかも汗が止まらずにいた。

「あれほどの大樹が何故か評判にならないのもおかしいですし……」
「え、ええっと……」

夕映はチラリと横目でネギを見ると、その表情は焦りが表れ……冷や汗らしいものが流れているのを確認する。

「真夜中に現れる魔法少女
「え、ええっ!?」
「桜通りの吸血鬼」
「そ、それは!?」
「どうもネギ先生が麻帆良に来てから、噂として流れていますです」

頬が引き攣り、もう一杯一杯の様相でネギの焦りが限界を超えようとしている。

「そしてネギ先生……その杖は魔法使いが持っていそうな杖に見えるです」
「な、なななな!?」

図星と言うか、確信しきった目でネギを見つめる夕映に一歩下がる。

「推測ですが、地下の遺跡を建造したのは魔法使いで……今も尚この街で活動していると考えました」
「え゛え、えええっ!?」

流石に夕映の話している内容が事実だと知っているネギはどうやって誤魔化すべきか焦りながら考える。

「ネギ先生は魔法使いですね?」
「そ、それはっ!?」

ズズッと顔を押し寄せて問う夕映の迫力にネギは気圧されていく。

「は、はぅ……そ、それは……(あ、あぅぅぅ)」
(……兄貴、落ち着け)
「そして、その肩にいるカモさんは使い魔ですね?」
(ナ、ナニィィ……何でバレたぁぁぁ)
「よーく観察するとネギ先生とテレパシーのようなもので会話しているように見えるです」
「ゆ、ゆえ〜〜」

その事だけはまだ聞いていなかったのどかはネギ達と一緒に焦っていた。

「私が思うに、カモさんはネギ先生より年上で助言者ではないかと考えるです」
(あ、焦るな! カモミール、こ、ここで変な態度を取ったら間違いなくバレちまうぞ!)

夕映の観察眼にカモは焦りつつネギのペットのフリをし続ける。

(もしバレたら真祖の姐さんの……お仕置きだべさ!!)

最悪は死亡フラグが 立つ予感にカモは内心ではガタガタと震えながらも偽装を維持する。

「何故、魔法使いがその正体を隠すのも知りたいですが……魔法使い達の数はおそらく相当な数なのでしょう?」
「え、え、ええっと……」
「おそらく組織的な隠蔽も出来る点を考えると……世界に数万人くらいはいるのではありませんか?」
「は、はぅぅぅ……」
「思うに……この学園都市は魔法使い達で運営されているんですね?」

突きつけられる夕映の推測が正しいだけにネギの動揺はピークへと近付いていく。

「ちなみに私個人が知りたいだけなので……言いふらす気はありませんです」
「へ?」
「ですから、個人的な興味があり、知りたいだけです」

ズイッとネギを指差し、一旦焦る気持ちを緩めさせる夕映。

「と言うことでネギ先生を魔法使いと判断して本題に入ります」
「え゛?」

ほんの少し落ち着きかけたネギの頬が再び引き攣る。

「リィンフォースさんはネギ先生の教師役の魔法使いですね?」
「い、いえ! そ、それは断じて違います!!」
「では魔法使いである事には違いありませんね?」
「そ、それも違います! リィンさんは魔導師――って、あ、ああ!!」

テンパっていたネギは夕映の問い掛けに否定しながらも……肯定するという離れ業を決めてしまった。

「フ、フフフ……聞きましたよ、ネギ先生♪」
「は、はぅぅぅ……ぼ、僕ってやつは!!」

夕映の勢いに呑まれて最大のチョンボとも言うべき失態にネギは頭を抱えてしまう。
ネギが暴露した内容に夕映は満足し、笑みを浮かべている。

(よ、よりに もよってリィンさんの正体をバラしてしまうなんて!!)
(…………もしかして、兄貴の死亡フラグが立ったのかよ!!)


自分の事がバレるのも不味いが、リィンフォースの正体をうっかり暴露した等とエヴァンジェリンとリィンフォースに知られれば……間違いなくフルコースのお仕置きが待っている。

「……のどか」
「え、ええと……」
「後は任せます……私はこれからリィンさんに詰問しなければなりませんので」
「「え゛?」」
「尻尾を掴んだ以上……遠慮はしないです!」

クルリと滑らかに踵を返して、夕映はダッシュしてネギとのどかの前から去って行く。

「はっ! ま、待ってください!!」

慌ててネギがその手を伸ばすが……届かず空を切る。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁ!! ぼ、僕は災厄の箱 を開いてしまった!?」
「あ、兄貴ィィィィ!!」


完全にパニック状態に陥ったネギにカモが慌てて落ち着かせようと声を掛けるが……耳に入るわけもなく。

「ど、どどどうしよう……父さんに会う事もなく……この地で!?」
「お、お落ち着け、兄貴!」
「お、お姉ちゃん……先立つ不幸を許してっ!」
「ネ、ネ、ネギせんせー!! 災厄の箱の最後には希望があります!!
 だ、だから……大丈夫です!!」


焦るネギとカモに同調してのどかも大慌てだが……一応気休めの意見を出す。

「のどかさん……死が救いになるのでしょうか?」
「ま、まあ、あっさり死ねたら……楽かもな」
「あ、あぅぅぅ!!」

完全に暗い影を落として話すネギとカモにのどかは不安をようやく覚え始める。

(も、もももしかして……リィンさんって、そんなに危険な人なんですか 〜〜!?)

自分が知る一般人のフリをしているリィンフォースと、自分が知らない魔法使いとしてのリィンフォースのギャップに今更ながらに気付いてしまった。

「「「あ、あぁぁぁ……」」」

ネギ、カモ、のどかは三者三様に嘆きの悲鳴を上げていた。







――フ、フフフ、ついに尻尾を掴みましたよ!(By 夕映)







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

ネギって本気で隠蔽する気があるようには見えないんですよね。
と言うか、教師役の魔法使いが居ない以上は秘密に対する守秘義務自体がちゃんと教えているようには見えない。
まるで好きに暴露しろとでも言っているような感じですね。

さて次回は夕映がリィンフォースに詰問するところから始まります。
それでは次回を刮目してお待ち下さい。




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