綾瀬 夕映はようやく掴んだ証拠を持ってリィンフォース・夜天と対峙していた。

「ヒドイじゃないですか!? リィンさんはやっぱり魔法使いだったんですね!!」
「……違うわよ。私は魔導師なの、魔法使いと一緒にされると困るわ(なに、やってんのよ!!)」

内心でネギの守秘義務のなさに呆れと苛立ちを感じているリィンフォース。

「へ、屁理屈です!!」

夕映の追及に何処吹く風のリィンフォース。
エヴァンジェリンの家のリビングは賑わい、茶々丸は席を外してお茶の用意をする。

「マスター、茶葉はウバにしますか?」
「ああ、それで良いぞ」

そんな二人の様子を見つめるアスナと刹那は、

「……屁理屈って言えば、屁理屈なんだけど」
「魔法使いとは異なる魔法を使う以上は違うと言っても良いかと……」

どっちつかずの意見を漏らして見物している。

「なあ、せっちゃん。お札って、どうやって使うの?」

リィンフォースと夕映の問答を聞きながら木乃香は刹那にお札の使い方の説明を求めている。

「あ、はい。お札を持って、真言を唱えて、魔力か、気をお札に流すのですが……」
「そっかー、うちって、魔力はあっても出し方知らんのやな」
「はい。まずはそこから学びませんと」

今まで一般人として生きていた木乃香は力を出す方法が分からない。

「なんや、力があっても使えんようやと……あかんな」

京都では必死だったから刹那の治療が出来たが、麻帆良に帰ってからは幾らやっても上手く行かない。
木乃香は自身の力を上手く使いこなせない自分を理解して、表情を曇らせていた。

「なあ、エヴァちゃん」
「なんだ?」

夕映とリィンフォースの問答を面白そうに見つめているエヴァンジェリンに木乃香は聞いてみる。
刹那とアスナから話を聞く限り、目の前にいるクラスメイトは歴戦の強者で知識量は遥かに上らしい。
もしかしたらと思い、顔を向けると、

「魔力を感じる方法ってないん?」
「……ない事もないが」
「あるん!?」
「ああ、魔法使いのやり方ですぐに出来るやつが一つある」
「エヴァちゃん、それってまさか!?」

聞いていたアスナがすぐに出来るという点でハッとした表情で聞く。
刹那も魔法使いのやり方ですぐに出来るという事で焦った様子に変わっていく。

「神楽坂の想像通り、パクティオー(仮契約)だ」
「パクティオー?」
「そ、それはちょっと不味いんじゃない」
「そ、そうです! それは色々と物議を醸し出します!!」


契約方法のやり方がやり方なだけに二人とも異議を唱える。
アスナは木乃香が誰かとキスするのはマズイと思い、刹那は木乃香の立場を考えてだが。

「なに、バレなきゃ問題ない♪ それに相手が魔法使いじゃなければ大丈夫だろう?」

面倒臭い雰囲気を出していたエヴァンジェリンは一転して楽しげな空気を出し始める。

「刹那、お前が契約すれば、護衛上の観点からも問題ないぞ♪」
「え? え、 え……ええ―――ッ!!!?」
「せっちゃんと?」
「パクティオーすれば、幾つかの特典も得られる。
 それには直通の連絡手段もあるぞ♪」
「あ、それ、ええな♪」

刹那を指差して話すエヴァンジェリンを見て、アスナは思う。
しかも刹那を誘導するのではなく、木乃香のほうからするように誘っている。

(……完全に楽しんでいるわね。刹那さんの性格を考えれば……どういう結果になるか分かっているくせに)

刹那のほうに目を向けると、そこには顔を真っ赤に染めて大混乱しているのが一目で分かる。

(なんか、またややこしい事になりそうね)
「マスター、楽しんでませんか?」
「フン、当然だ。なかなか面白いことになれば、いい酒の肴になるだろ?」
「……確かに否定できませんね」

お茶を用意していた茶々丸がエヴァンジェリンに渡し、来客に配っていく。

「なあ、アスナ。パクティオーってどうするん?」
え゛?  え、ええっと……」
「なんや、歯切れ悪いな〜?」

流石に誰かと契約の魔法陣上でキスするというのを自分から話すのは躊躇うアスナ。
緊急時と位置付けてノーカウントと言い切っても、恥ずかしいなどという乙女の純情ゆえに話したくない。
実際に木乃香には好きな人が高畑だと知られているだけにファーストキスが高畑ではないのを自分から言いたくない。

「せっちゃんは知ってんの?」
え゛……そ、それは…………わ、私は知りません!!」
「嘘やな」

挙動不審とはっきり分かる様子の刹那をジト目で見つめて木乃香は一刀両断する。

「……せっちゃん」
「も、申し訳ありません!! わ、私の口からは言えないんで す!!」

土下座しそうな勢いで木乃香に謝罪する刹那。
もし、やり方を告げて、自分と仮契約しようと言われたら……どの選択肢を選んでもバツが悪い。

(こ、このちゃんとキ、キスな、なんて……)

想像しただけで頭の中が一気に茹だり……刹那はフラフラと身体を揺らして、

「あ、 あかんて……う、うちは…………あ、あぅぅぅ」
「せ、せっちゃん!?」「せ、刹那さん!?」
「ク、ククク、イイ反応だ」

倒れていく刹那を慌てて支える木乃香とアスナ。
そんな三人を見ながらご満悦な様子でお茶を楽しむエヴァンジェリンだった。

「エ、エヴァちゃん! アンタはって? 何よ、これ!?」
「お前が手より足が出るのは知っているからな」

怒りでエヴァンジェリンにキックを出そうとしたアスナの身体が糸で拘束されている。

「言ったろう……その気になれば、いつでも殺せると」
「う、うぅぅ……」
「お前がこちら側に飛び込んできた以上は手加減する理由もないぞ」
「エヴァちゃん……容赦ないな〜」

茹だってオーバーヒートしている刹那の頭を膝に乗せる木乃香が嘆息しながら話す。

「まあな……今まではシロートゆえにそれなりに気を遣っていたが、それもお終いだ。
 元々私はゲームで言うところの悪のラスボスみたいなものだ。
 こうして助言してやること事態が奇跡のようなものだと思っておけ」

頭に血が昇っていたアスナも思うところがあったのか……黙り込んでしまう。

「現実は運だけで生き抜けるほど甘いもんじゃないぞ」
「分かったわよ! ちゃんと真面目に鍛える!」

何処まで本気だったのかは分からないがエヴァンジェリンがからかいながら注意したのは事実でもある。
イライラはまだ残っているがアスナは一旦矛を収めて座り直す。

「綾瀬さん、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「お砂糖とミルクはこちらのをお使い下さい」

渡された夕映も受け取って、渇いていた喉を潤す。
しばしのティータイムの始まりだった。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 三十六時間目
By EFF





とりあえず落ち着きを取り戻した夕映はコホンと息を吐く。

「で、夕映はどうしたいわけ?」
「……そうですね」

いざどうするかと問われて夕映は答える。

「魔法というものを知りたいという気持ちはあるです」
「つまり魔法使いの勉強をしたい……で良いのかしら?」
「概ねその通りです。個人的には新しい世界というものをこの目で見たいという感情が一番です」

夕映は今一番思う事を口にしてリィンフォースを見つめる。

「じゃあネギ少年に教えてもらえば?」
「個人的にはそれも考えましたが……野暮なマネはしたくありません」
「なるほどね」

友人の恋のチャンスに割り込むのは本意ではないと夕映は告げている。
折角マンツーマンで習う機会があるのに、友人の恋の邪魔をするような真似は夕映はしたくない。

「で、代わりにコイツか?」
「そうですね。それもありますが、ネギ先生は今ひとつ頼りにならない気がしたので……」

陰口を叩くのは嫌なのか、少しトーンダウンして夕映は話す。

「ネギ先生はマジメな方ですが……抱えすぎて自滅するタイプにも見受けられます」
「否定しないけどね」
「そやな〜。ちょ〜と心配な部分もあるえ」
「フォロー役がいれば、大丈夫なんですが」

同室のアスナ、木乃香は苦笑いで話し、京都で行動を共にしていた刹那も心配そうに告げる。

「あのジジイがそんな気の利いたマネをするか!
 アイツはぼーやが苦労するのを笑いながら見ているタイプだぞ!!」

うんざりした顔で叫ぶエヴァンジェリンに一同は何とも言えない顔に変化する。

「大体だな、此処に赴任した当初にフォロー役を用意するべきだったのだ!
 たかが十歳でウェールズの片田舎で魔法使いばかりの場所で育った世間知らずのぼーやが上手く社会に適応出来る思うのか?」

ごく当たり前の事を分かり易く問い続ける。

「実際に初日に安易に魔法を使い……神楽坂に正体をバラす!」
「まあ……人命救助だったし。ネギが助けなかったら、本屋ちゃん……病院行きだったわよ」
「それは本当ですか?」

夕映が至極真面目な表情で聞いてくる。
のどかから聞いた話では階段から足を滑らせたところをネギに助けてもらったとしか聞いていなかったのだ。

「うん、結構高いとこで背中から地面に落ちるところだったから……危なかったかもしんない」
「助けへん選択肢はネギ君にはないんとちゃうか?」
「……そうですね。ネギ先生はそういう考えはしません」
「甘やかすな! その結果が神楽坂のこっち側に足を踏み入れる 不始末だぞ!!」

アスナが日常の世界から非日常の世界に足を踏み入れた原因とエヴァンジェリンは吼える。

「お前自身、気付いていないのかもしれんが……お前はこっち側に来るべき 人間ではない!」
「なんでよ!?」
「おそらくで良いのなら話してやる!」

「聞いてやろうじゃない!」

売り言葉に買い言葉と言うようにケンカ腰気味に大声で叫ぶ。

「神楽坂……お前、記憶が何故無いのか、考えた事はあるのか?」
「へ?」
「バカレッドだから深く考えた事はないのだろうが……封じられた可能性だってあるのだぞ」
「それは……まさか、いえ……(ありえないと否定できないか)」

アスナが幼い頃の記憶がない事を聞いていた刹那は、エヴァンジェリンが言った意味を瞬時に悟ってしまう。

「魔法無効化能力……それがお前の持つ力だ」
「な、何よ、それは?」
「全くの無自覚だから言うまいと思っていたが……本格的にコッチ側に来るみたいだから教えてやる!」

ビシッとアスナに人差し指を突き付けてエヴァンジェリンは説明する。

「魔法使いが放つ魔法を無効化出来るのが貴様の力だ!
 どんな事情で麻帆良に来たかは知らんが、そのスキルは使い方次第で魔法使いに絶対のアドバンテージを得られる!」
「イ、イヤ、そういわれても……分かんないし」

アスナは自身の力を聞かされて困惑している。

「刹那、コイツは実際に式神を一撃で送還しただろう?」
「そうですね。確かに一撃で還しました……ですが、それはアーティファクトの力では?」
「それもあるかもしれんが、コイツは満月の夜の私を蹴りつけたんだぞ!」
「そ、それは本当ですか?」


満月の夜のエヴァンジェリンは一時的に魔力が回復し、魔法障壁を展開できる。
その状態のエヴァンジェリンに一般人だったアスナが蹴りつけたなど……信じられなかった。

「監視していたリィンフォースも驚いていたぞ」
「リィンさんが認めたと?」
「ああ。コイツは無自覚だが、よくよく考えると納得も出来るさ。
 あの過保護なジジイが孫娘の側に一般人を配置すると想像できるか?」

エヴァンジェリンの尤もな疑問に刹那は、

「………………そ、そうかもしれませんね」

長い間を取って答えていた。

「え、ええっと……」

刹那とエヴァンジェリンの視線に途惑うアスナ。

「調べてみたが……コイツの過去は染み一つないキレイなものだったぞ。
 あのタカミチがココに連れて来て……身元引受人でだ」
「そ、それは…………」

高畑・T・タカミチが係わっている以上……何やら怪しい匂いというか、不自然な何かを感じる。
刹那は高畑の経歴を顧みて、アスナが魔法使いが起こした事件の被害者かもしれないと判断した。

「それってさー、どういう事よ?」
「そやな。またおじいちゃんがおかしな事したん?」

アスナは意味が分からず首を捻り、木乃香は祖父がまた余計な事をしたのかと少し怒った様子で聞く。

「……気楽なものだ。お 前の失った記憶はココに居る連中によって実は消されたものかもしれんと言うのに」

エヴァンジェリンの一言にリビングから一切の音が消える。

「…………それは隠蔽工作による記憶消去というものでしょうか?」

静まり返っていたリビングに今までの話を聞いていた夕映が分析して問う。

「ま、そんなところでしょう」
「そういう事だ」

あっさりと否定する事なく、肯定するリィンフォースとエヴァンジェリン。

「で、ですが、もしかしたらアスナさんの今後の事を考えて……忘れたほうが良いと判断したのかもしれません」
「そこが大きな矛盾なのよ」

刹那の意見にリィンフォースが疑問点を提示する。

「もしアスナの未来を考えるのなら……きっぱりと魔法から遠ざける べきなのよ」
「そ、それは……」
「確かにな。コイツの能力を考えると出来る限り魔法使いと接触させるべきじゃない。
 もし知られたら、利用しようとするバカが出てくるのは間違いないさ」
「保護を名目に麻帆良で暮らさせるのなら……ネギ少年に会わせるべきじゃないのよ。
 魔法使いと接触させる事自体がおかしいし、もしかしたらアスナの力を利用したいと思ったのかもしれない」
「り、利用って何よ?」

流石に不穏な空気が部屋に滲み出ていたのでアスナが不機嫌な顔で聞いてくる。

「あまり魔法使いどもを信用するなって事だ、バカレッド。
 ちなみに私はお前の事など特に気にしないし、どうでも良いがな」
「私もどうでも良いわ。アスナ程度なら……いつでも勝てるし」

リィンフォースの余裕発言にアスナが挑発されたと感じて、額に青筋を浮かべて話す。

「それはどうかしら? 話を聞く限り、私の力って魔法使いにとっては非常にマズイんじゃないの?」
「自分の力を自覚できないくせに自由に使えると思ってんの?」
「ぐっ……」

厳然たる事実を告げて、アスナの挑発を即座に切り返すリィンフォース。

「アスナの力は確かに魔法使いにとっては脅威かもしれないけど……魔導師にはそうでもないの。
 魔法使いは自身の魔力を精霊に与えて魔法を発動させる。
 そしてアスナはその魔力を消去、もしくは散らせる事で無力化するわけ」
「へ〜、そうなん」
「なるほど、確かにそれなら発動した魔法も無効化できますね」

リィンフォースの説明に木乃香と刹那は感心しながら聞いている。

「……ずいぶん詳しいじゃない」
「ちなみに私の魔法は精霊を使役せずに、魔力で自然現象を発生させてぶつけるから……手の届く範囲外なら無効化できない」
「ククク、調子に乗ったバカが死ぬ光景が見えるぞ。
 そして、私もお前を倒す手段など幾らでもある。ようは魔法に拘らなければ、ただのシロートなど敵じゃない」
「ケガしたくなかったら、ちゃんと戦い方と自分の力を使いこなせるようにガンバレ」

半分投げ遣り気味の声でリィンフォースとエヴァンジェリンが告げる。

「いいわよ! 必ず強くなってギャフンと言わせてやるわよ!!」

負け惜しみのような苛立ちを込めてアスナが二人に叫ぶも、どちらも肩を竦めて好きにしろと物語る。
端っから相手にしない様子にアスナはちょっとイライラしている。

「ぐ、ぐぐぐ……」
「ま、まあまあ落ち着きな、アスナ」
「あの二人を相手にするのなら……死ぬ気でやらないと多分無理です」

そんな二人の様子に木乃香と刹那が落ち着かせていく。

「ところで今後の事なんですが……リィンさんに魔法を教えて頂きたいんですが?」
「私に?」
「はい。今の話を聞く限り、リィンさんの魔法が優れていると判りましたです!」
「……私に学ぶという事は、もしかしたらのどかと戦う羽目になるかもしれないわよ。
 どうも私ってば、魔法使いと相性悪いから……このまま行けば、トラブルが発生しそうだし」

分かっちゃいるけど、どうにもならないと言うように肩を竦めて自身を取り巻く状況を教えるリィンフォース。

「改善は出来ないんですか?」
「……緊張感ない組織には付き合いきれないわ」

親友ののどかと戦うかもしれないと言われた夕映は思わず退いてしまう。

「それって、おじいちゃんが原因なん?」
「さあ、どうだろ?」

はぐらかすように木乃香の問いを誤魔化し、夕映に再度問う。

「ま、すぐに答えなくても良いけど、よ〜く考えて弟子入りするか決めなさい」
「……分かったです」
「ちなみにコイツはスパルタだから……死ぬかもしれんな」
「やるからには全力全開で鍛えるだけよ。
 自分の命を支えるのは自分だけだ……最後の最後で自分を支えるのは過酷な修行を乗り越えた自信じゃないかな」
「……何となく意味は分かるです」
「死力を尽くした戦いの先にあるのはそんなものかもしれませんね」

夕映、刹那が納得した顔で話し、

「ふ〜ん、そんなものかな?」
「うちには縁がなかったけど……これから知るんやろな」

アスナ、木乃香が今ひとつ分からないなりにも、分かろうとしていた。



……後日、綾瀬 夕映は熟考の末にリィンフォースへの弟子入りを決断した。


ちなみにネギがバラした事に関しては……最初から考慮していた。
秘匿、隠匿に関してネギは全くの素人であり、ポロポロとバレて行くだろうと諦めて、いや……既に見限っていたのだ。
好きにすれば良い。もしくは全部学園側に押し付ける心算。

「最初から、あのクラスは若き英雄ネギ・スプリングフィールドの従者候補の溜まり場なんでしょうね。
 もっとも、私はそんなものになる気はないけど」

理不尽にリィンフォースをネギの従者に仕立て上げようとした場合、彼女はネギの魔力封印、もしくはリンカーコア破壊を考えていた。
リィンフォースにとって、正義の味方とは……敵性存在みたいな者だったのだ。






同時刻、リィンフォース達が相談していたネギは図書館島で悩んでいた。
魔法がバレた事は思いっきり焦っていたが、それ以上に父親の手掛かりがすぐ側にあった。
ネギは一時その事を棚に上げて、父親の事を優先していた。

(……この下に父さんを知る人がいる)

図書館島最深部に、かつて父がリーダーとして組んでいたパーティーのメンバーの一人が住んでいるらしい。
父親を捜し求めているネギにとって……どうしても会って聞きたい事がある。

(アー、やっぱ……コイツを使う場面がありそうだな)

ネギの真剣な横顔を見つめるカモはアスナから手渡されたリィンフォース製作のマジックアイテムの出番があると感じていた。

(俺っちとしては……使わないほうが良いんだけどな)

カモには、ネギがリィンフォースに試されているような気がしてならない。

(軽挙妄動は慎むべきなんだが……無理だろうな)

六年前からずっと探していた父親の手掛かりがすぐ近くにある。
ネギとの付き合いが長いカモは注意されたくらいでは止まる事はないだろうとも理解していた。

「あの〜ネギせんせー」
「え、あ、はい。なんですか、のどかさん?」

悩んでいたネギは申し訳なさそうなのどかの声に慌てて返事をする。

「もしかして、ネギせんせーは地下に潜るおつもりなんですか?」
「え? いえ、そ、そんな事は……」

しないと言うつもりだったが、ネギはそう告げる事が出来なかった。

(兄貴ー、いい加減……素直になるべきだぜ)

ネギの肩に乗っていたカモは半ば諦観したかのようにため息を吐いていた。

「兄貴よー、自分の心に嘘吐いてもダメなんだぜ」
「カ、カモくん!?」
「で、でしたら「ワリィけど、今回はお嬢ちゃんはカンベンしてくれ」……」

ネギについて行こうとするのどかの声をカモは遮る。

「リィンの姐さんがヤバイと言った以上はいざという時……嬢ちゃんが足を引っ張る可能性もあるんだ。
 俺っちと兄貴なら……逃げる事も出来る」
「カ、カモくん……」
「言っておくが兄貴、今回ばかりは嬢ちゃんには申し訳ないがダメだぜ。
 どうしても嬢ちゃんを連れて行くって言うのなら……俺っちはリィンの姐さんに味方するぜ」
「カモくんっ!!」

のどかの同行は絶対にダメだとカモは主張し、必要と在らば……リィンフォースに地下探索を告げると言う。

「最初から危ねえと言われて、しかも言っちゃ悪いがシロートの嬢ちゃん連れて行くなんざ……自殺行為だぜ。
 この嬢ちゃんが魔法を習いたいって言うのは反対しねえし、今後も従者として兄貴についてきてくれるのは嬉しいけどな」
「そ、そんなに危ないんですか?」

ネギに甘いところがあるカモがここまで反対するので、のどかも本当に危ないんだと感じている。

「ドラゴンがいるらしいんだよ」
「ド、ドラゴンって……あ、あのドラゴンなんですかっ!?」
「……まあな」

やれやれと言った様子でカモがそんな場所へ行こうとするネギを思ってため息を吐いている。

「ネ、ネギせんせー! そ、そんな無茶はしないほうが良いと思います!!
 あ、相手はあのドラゴンなんですよ! 口から火が出るかもしれないんです!!」
「だ、大丈夫です。今回は偵察で、内部構造を把握したら……帰りますから」
「その言葉、信じて良いんだよな、兄貴?」

パニック状態で止めようとするのどかにネギは安心させるように告げる。
聞いていたカモは言質を取るように真面目な様子で聞く。

「あ、当たり前だよ! 危ないって聞いているのに無茶はしないよ」
「「ホントかよ(ですか)?」」

息の合った二人の信用ゼロの問いにネギは愕然としていた。
この後、ネギは必死に二人に弁明して……何とか納得させる。
こうして、のどかから得た最新の図書館島の地図を使って、ネギ単独での図書館島への挑戦が始まろうとしていた。





修学旅行から数日後、麻帆良学園学園長室に関西呪術協会からの使者が来る。

「……な、なあ、あのジイさん…………人間なんやな?」
「そう聞いていますけど……ほんまのところどうなんです?」

犬上 小太郎が天ヶ崎 千草に逡巡しながら聞き、千草も自信がないのか……本人に聞いている。

「……いや、まあそう思うのも致し方ありませんが……人間ですよ」

ここまで案内してきた葛葉 刀子が複雑な思いを口にしながらフォローする。
実のところ、刀子自身も始めて顔を合わした時に同じような感想を頭に浮かべたからだ。

「イヤ、どう見ても……怪しい仙人やないか?
 あの後頭部のでっぱりは人外の証やろ」
「仙人か……うちは妖怪の類かと考えたわ」
「そうやな」
「仙人というのは東洋の超一流の魔法使いやで……そんなのと一緒にするのは仙人さんに失礼やと思うわ」
「…………悪かった、千草姉ちゃん。確かに仙人に失礼やったわ」


「……失礼じゃと思うのは気のせいかの?」

初対面の人間がよく言う事だと思いつつも、何となく嫌な気分になる近衛 近右衛門だった。
二人の会話を聞いていた刀子はいつもの事と判断して一応フォローした後は気にせず控えるだけだった。
何気に学園長の威厳がないのかもしれないと千草は考えていた。



挨拶を終えて、千草と近右衛門は実務レベルでの話を始める。

「うちの役目はお嬢さんの教育でよろしいんどすな?」
「うむ、概ねその通りじゃが……」
「一応、警備の話は事前に聞いておりますけど……ただでする気はないですえ」

千草から渡された親書には"外部の人間ですので、勝手に組織の一員として組み込まないで下さい"との一文が添えられてあった。

「まあプロですから、ボランティアなんて……自分を安売りするような真似はしません」

慈善事業などする気はないと千草は当たり前のように告げ、働いて欲しいのなら出すもんを出せと要求する。

「……実のところ、京都の一件で大赤字なんどす」

退屈そうに聞いている小太郎を見ながら千草は実情を告げると、

「か、堪忍や!! そやから折檻だけはやめてえな!!」

小太郎は条件反射のように慌てて部屋の隅に蹲り、ガタガタと震えていた。

「…………何をしたんじゃ?」
「……気にせんといて下さい。まあ躾というものは最初が肝心なんどす」

ニッコリと満足した様子で告げる千草に近右衛門は思う。

(もしかして、わしって地雷踏んだ?)

若干焦りを含んだ冷や汗を流す近右衛門を横目に見ながら刀子は考える。

(元反乱者を麻帆良に来させるとは……それだけ信頼できる術者が不足しているのでしょうか?)

既に事情はリィンフォースから聞き及んでいた刀子は関西呪術協会の内部事情を考えて複雑な心境だった。
冤罪のような立場であったのは理解していたが、言動はそう変わらない。
そんな人物を木乃香の教師役に抜擢するなど……何を考えているのかと詠春に問い詰めたくなる。

(もし木乃香さんにある事ない事吹き込んで……東と西の不和の種を植え付けられたら)

今でさえ和平へと向かっているが、実際には今にも切れそうな綱に乗っている綱渡りに近い状況なのだ。

「あ、そう言えば刀子さん、結婚したそうでおめでとうございます」

今思い出したと言わんばかりに手を叩いて、千草は申し訳なさそうに祝福の言葉を掛けるが……禁句だったとは知らなかった。

「ふぉ!?」
「な、なんや!?」

事情を知っている近右衛門は焦り、事情を知らないが部屋の空気が一変した事に気付いた小太郎が正気に戻る。

「あれ? もしかして、うちはなんか間違った事言いました?」

千草も何が何だか分からないといった様子で刀子に目を向けると、

「………………離婚し ました」

憮然というか、非常に複雑で厳しい表情で告げる刀子だった。

「そ、そりゃまた……何と言うたら……(あちゃ〜詠春はん、そういう重要な事情は言ってもらわんと困りますわ)」

流石の千草も自身が地雷を 踏んだと瞬時に理解した。

「すみませんな。なんせ、ずっと海外で仕事していたもので、そんな事件があったとは聞いてませんでしたわ」
「……いえ、気にしないで下さい」
(嘘や、思いっきり気にしてるわ)

後一押しすれば、確実に激怒しそうな雰囲気の刀子に千草は思う。

(……いつから神鳴流って、対人関係の構築が下手になったんやろか?)

離婚の原因は知らないが……大抵は性格の不和が掲げられる。
やっぱり剣の修行に明け暮れて……それが原因で心の機微を感じられなくなるほど鈍化したのではないかと想像する。

(この分やと、あの刹那って子も……ダメかもしれへんな)

詠春に事前に聞いていた話では目の前の葛葉 刀子が刹那の麻帆良での剣の師匠らしい。
師を見れば、弟子の事が分かると昔から言い、それを当てはめて見る限り……ダメっぽい。

「何か、失礼な事を考えていませんか?」
「いや、そんな事は考えていませんわ。ただ……申し訳ない事を言ったと反省しているだけ」

しれっとしたり顔で内心を隠して刀子の質問を避ける千草。
それで一旦会話が途切れたのを見計らって近右衛門がもう一つの話を始める。

「ところで……この学園都市に滞在する以上は仕事を受け持って欲しいんじゃが?」
「仕事おすか? それなら易者でもしておきますわ」
「ふぉ? いや、できれば教職か、学園関係の仕事をしてもらいたいんじゃ」
「いや、資格持ってませんし、偽造はあきませんから……ええですわ」
「その点は大丈夫じゃ! 必要とあらば「偽造は犯罪行為ですし……治外法権下の場所でもないですし」……」

真面目な顔で正論を告げて、千草は近右衛門の言い分を却下する。

「ここは魔法世界やないんおす……勝手な事ばかりしているとバレた時が大変ですわ」

もう一度勧めようとしていた近右衛門の口を閉ざさせる千草に刀子は感心している。

(全く以ってその通りです! 学園長のお遊びには付き合わない人物が来た事は喜ばしい限りです)

権力の乱用は正直好ましく思っていない刀子は何度も頷いている。

「それにうちはそんな面倒な仕事なんて嫌ですし、教師なんて柄やおまへん」

だが、千草の面倒の一言に刀子は折角上げた千草の評価を下げていた。

「正直、うちはまだまだ駆け出しで人に教えるだけの力量があると思うてません。
 ほんまは師匠役も辞退したかったんですが……高村はんが思いっきり不和の芽を植えましたから色々大変なんですわ。
 なんせ火中の栗を拾いたがるような物好きは減ってますし。
 しかも学園長が自分の意向に沿う人物を見合い相手に選んでいると聞きました」
「むぅ……」

近右衛門は千草の話から自分の所為で詠春の立場を更に悪化させていると思って唸る。

「関西の面子は内心ではこう思ってますわ……裏切り者の血族の為に敵地に乗り込んでまで教 える意味があるのかと」
「なっ!?」

聞き役に徹していた刀子は思わず驚きの声を漏らす。

「何を驚いているのか、よう分かりませんけど?
 考えてみなはれ……次の世代の中心になりえた少女を親のエゴでよりにもよって魔法使いの本拠地に預けたんどす。
 陰陽師達を統括する長の立場を放棄したも同然やないですか……そんな人物に従えると?」

刀子の驚きを呆れた様子で見つめて、問題の重さを指摘する千草。
事情が事情だけに思うところはそれぞれにあるかもしれないが……長の立場の詠春がした事は問題があるのだ。

「……婿殿は…いやよそう」
「申し訳ないですけど、学園長は外の人間どす。
 これ以上、自分の都合で内政干渉していたら、詠春はんらが暗殺されるかもしれませんで。
 長として、何処まで信頼すればええんか……みなが不安に思っておるんです」
「…………あい分かった」

一気に老け込んだように沈鬱な表情で近右衛門は言う。
正直なところ、自分達の判断の甘さが二つの組織の関係を歪に変えてしまったも同然だった。

「今後、お嬢さんに縁談話を持ち込まんでおくれやす。
 うちは別に気にしませんけど……過剰に反応する面子も居るんですわ」

一応定期的に報告書を送らなあきませんし、と千草が話す。

「うち個人はこれ以上不穏な雰囲気を加速させたくはないんです。
 本音を言えば、密偵紛いの真似はしとうないけど……きちんと報告する事で不安材料を減らせますしね」

疑心暗鬼な気持ちを抱える術者を減らすのが目的と千草が告げていた。

「……よろしいのですか?」

刀子が千草にありのままを報告せずとも良いのかと尋ねてくる。

「まあ、ええんとちゃいます。今は西も立て直しが急務ですから」

人手不足を理由に厄介事は話題にしたくないと千草が肩を竦めて話している。
実際に中堅どころからの現役の術者が大量に死んだので……何かと不都合も生じているのも事実なのだ。

「人が死ぬところを見るのは……好きやおませんし」
「そうじゃのう」
「と言うわけで……調子に乗らんといて下さいな」

千草の意見に同意した近右衛門に今後のために千草は釘を刺しておく。
正直なところ、千草は目の前にいる近衛 近右衛門があまり緊張感を持っていない指導者だと感じている。

(組織の屋台骨は長で決まる。うちが見る限り……緊張感のない組織は腐りやすい)

上にある程度の緊張感がなければ、下がなあなあで済ましてしまう緩いものへと突き進んでいく。
そんな組織ほど付け込む隙が出来……内部崩壊する危険性が大きい。

(まあ、どういう形になって行くかは未定なんやけど……勉強させてもらいますえ)

麻帆良で学ぶ事は山ほどある。
魔法使い達がどんな活動をして、一般社会に溶け込んでいるのかをこの目で見るまたとない機会を得たのだ。

(嫌いだから知ろうとしないのは、愚か者のすること。
 うちは知った上で何かを変えるだけの力が欲しい)

違いをはっきりと見据え、自分達の活動に活かせれば……何かが変わるかもしれない。
平和が一番だが、人間である限り……争いとは無縁の世界には居られないと千草は知ったのだ。
この後、麻帆良で用意してもらった住居へと足を運び、千草はここでの生活を前向きにしていこうと考えている。

(さてさて、とりあえずはあの魔法少女を観察しますか?)

なんとなく馬が合いそうな感じがする魔法少女が居る。

(フェイトはんにはああ言ったものの……すんなり教えるのもなんやしな)

何かどえらい事件を引き起こしそうな人物に情報を流出するのは……後々考えると怖い。

(何を企んでいるのか分かりませんけど……何かが起きるのは間違いない)

自身の情報は全て偽装して、何らかの目的を持って関西呪術協会に来た謎だらけの人物。
長である詠春から聞いた限りでは、先の大戦に係わっていた人物と同じ名を持っているので身内の可能性もあるらしい。
今後の事を考えると迂闊に情報を流すのは躊躇われる。

(魔法使い同士が殺し合いをするのは好きにすればええ。
 けどな……無差別に巻き込むような真似はどうかと思いますえ)

京都で出会ったネギという魔法使いの少年は否応無しに関わりそうな予感がする。
話を聞く限り……親の代からの因縁めいた関係にも見える。

(小太郎が係わらんかったら良かったんやけど……無理やな)

千草が思うに、ネギ・スプリングフィールドという少年は小太郎にとって最初の友人とも言える存在。
義理人情に厚い小太郎が友人を見捨てるような真似をしない以上は……フェイト・アーウェルンクスと敵対する可能性が高い。

「ところでこちらの警備体制って万全どすな?」
「無論です」

刀子が自信を持ってはっきりと告げる。

「そうどすか……なんや、きな臭い空気が漂っていますし、信じてもよろしいおすな?」
「……きな臭いか?」

近右衛門は複雑な気持ちを隠さずに呟く。

「長が言うには、"完全なる世界"の残党らしい人物が動いているみたいですわ」
「……そうか(やはり、警備体制を強化するべきなんじゃろうな)」

詠春からの伝言に近右衛門は眉を寄せて一考する。
初夏へと近付きつつある陽気な陽射しが照りつける学園長室だが、どこか肌寒い空気が満ちていた。
そんな空気が漂う中で、天ヶ崎 千草、犬上 小太郎の麻帆良での生活が始まろうとしていた。



――ホンマは人間やないんとちゃうやろか?(By 小太郎)







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EFFです。

綾瀬夕映の魔導師への道が開かれ、小太郎、千草の麻帆良入りがありました。

さて皆さんが希望しているかどうかは分かりませんが、夕映のハンター日記変は既に書いてあります。
いずれ出すので期待していただけると嬉しいです。

それでは次回を刮目して待て!です。



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