小雨が降る中、傘を差して歩く青年が空を見上げて呟く。

「……この程度の結界で満足するようじゃ先が思いやられるな」

立ち止まり、前を見据えて……呆れを含んだ声で一般人には見えない壁に対してコメントする。
周囲に人達は何気なく歩いているが、青年は見えない壁が実際にあるように手を軽く伸ばして触れて調べる。

「……魔の侵入を拒み、中に居る魔の力を抑えつける、か。何様のつもりなんだろうな」

不愉快な感情が若干混ざった声で呟き、他の人達と同じように壁を無視して歩を進めていく。

《……私が先行して探りましょうか?》

他の通行人には聞こえない声が青年の足元から響く。

「必要ない……お前は彼女の事が嫌いなんだろう?」

他の者には聞こえないような小さな呟き。

《……はい。私はまだ独りで生きていけるほど強くありません》

辛そうに心情を吐露する声に青年は穏やかに微笑む。

「大丈夫だ。誰もが最初は独りだが、何時か見つかる……自分にとっても大切なものがな。
 そして、雛鳥はいつか親鳥から巣立つものだ」

《……生きる事が辛いと思っているのに押し付けるのですか?》

青年の心に深く突き刺さるような棘のある声に苦笑する。

《……この世界に希望がないとご自身が知っているのに?》

「……希望はあるさ」

《死が希望だと仰られるのは……分かりかねます》

青年の望みを知っている声は沈痛な言葉を投げ掛けて……思い止まらせようとする。

「さて、どうだろうな。もし彼女が遥か昔に聞いた予言の少女なら意味は変わるさ」

《闇より生まれし三つの魂を持つ少女が、そなたの道筋を作る……ですか?》

昔、光を失う事で未来を見通す事が出来るようになった外れる事がなかった占者が青年の為に最期に感じたもの。
盲目の占い師は自身の存在を知っても恐れる事なく……十年分の外れなかった未来と共に遺した。

「そうだ。私を殺す事が出来る魔法使いがようやく現れ……ようやく何かが始まった気がする。
 今までは滅びを願っていたが、前兆を感じた以上は簡単には死ねないな」

《主よ!!》

声に歓喜の響きが混じる。

「長い無為の流離う日々が終わるかもしれない……ダメだとしてもしばらくは彼女を見ているさ」

好奇心によって……退屈な墓守の時間は幕を閉じて此処まで来た。

「……行くぞ、シェード」

《主と共になら何処までも》

青年は軽やかに歩を進ませて目的地を見据えて歩く。

「……旧世界、麻帆良学園都市」

《まさか門を使わずに世界を渡る少女とは思いませんでした》

感心する声に青年はこの半年間の探索が全て見当違いだった事実に苦笑いする。
強大な魔力を持っていたので魔法世界の住人だと思い込んでいたが、旧世界で活動していたとは考えていなかった。
偶然にも自身も持つ情報網に彼女と同じ特徴を持つ人物が引っ掛からなかったら……見当違いの場所を探し続けていた。
たった一度の出会いだったが、その日の事は忘れられなかった。

……魔法で自分を傷つけられた事は初めてだった。

『……私を本気にさせたのは貴方で二人目ね』

……自分を捕まえる事が出来る魔法使いが存在する事を初めて知った。

『私は残酷で気まぐれなの……死にたいって言う存在を楽にさせる気はないわよ』

トドメを刺す事も出来たみたいだが、何故か悲しげに見つめて去って行った。

「…………リィンフォース・夜天」

こんなにも昂ぶり……血気に逸る心など今まで無かった。
青年は声と共に魔法使い達の拠点である麻帆良学園都市へと入っていった。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 四十七時間目
By EFF




ネギ・スプリングフィールドはエヴァンジェリンの別荘で関係者を集めていた。
面子は西洋魔法使い側でネギ、アスナ、のどかに和美、そして千草、小太郎、木乃香に刹那の東洋系術者。
この別荘の持ち主で魔法使い兼魔導師として勉強中のエヴァンジェリン、茶々丸、チャチャゼロ。

「で、私も参加してもいいんですか?」

見習いとして訓練中の魔導師夕映とさよ、その師リィンフォースにソーマと手合わせしていた古 菲の合わせて十六名。

「で、ぼーやは何をする気だ?」

代表でエヴァンジェリンが尋ねると全員の視線がネギに集まる。

「……皆さんには話しておくべきではないかと思ったんです」
「ナギのことか?」
「……はい、六年前の事を含めて全部」

そう告げて、ネギは対象の意識をして、術者の記憶を見せる魔法を提示する。

「フム…………ヤツの生存している事を再確認しておくか」

少し間を置いてエヴァンジェリンがネギのしようとする事に納得して頷く。
話だけはネギから聞いていたが、実際に自分の目で見るのも悪くないと思ったみたいだ。

「少年、良いのかい……言っちゃなんだけど、うっかりすると恥ずかしい過去を暴露しちゃうよ」
「う゛……そ、その点は注意します」
「そっちはぜひ見たいわね〜」

ソーマ・青の意見を聞いて、ニヤニヤと笑みを浮かべて和美がネギの恥ずかしい暴露話が出るのを期待していた。

「ネ、ネギせんせーの小さい頃ってどんなんだろうね」
「私が思うに、今とそう変わらないマジメなお子様だと」

小さい頃のネギの姿を想像して楽しむのどかと夕映。

「魔法使いの育成方法とか見れたらええな」
「ハデなバトルがあればおもろいかもな」

過去を見る事で陰陽師と魔法使いの育成方法の違いが分かる事を期待する千草とハデな魔法を使ったバトルが見れる事を期待している小太郎。

「ネギ君のちっちゃい頃か〜、せっちゃんみたいに凛々しいかな?」
「な、なにを言うんですか、このちゃん」

自分達の小さい頃を思い出している木乃香と刹那。

「ホントにいいの?」

知りたい気持ちとトラウマみたいなものを刺激するような気持ちが混ざって複雑なアスナが再度聞く。

「はい、僕が頑張る理由を知っておいて欲しいので」

決意したのか、躊躇う様子もなくネギは頷く。

「リィンさんはどう思います?」
「どっちでもいいけど……ただ、気になる事があるからそれを確認するには必要かな」
「気になる事ですか?」
「そ、ちょっとね」

どちらでもいいと言いながら気が変わったのか、リィンフォースは何か思案していた。

「少年の歪みの基を知る事が出来るかもね」
「フム、それも悪くないな」
「ハデナ殺シ合イハナイト思ウカラツマンネエカモナ」

ソーマ・青が呟いた一言にエヴァンジェリンがこの後の過去の話が楽しくなるかもと少し期待するが、ガキの過去に血湧き肉躍るような展開はないから今ひとつ 盛り上がらないとチャチャゼロが興味なさそうに話した。

「ま、なんにしても状況整理のために見るか」

それぞれに思うところがあるので反対する意見もなく、ネギが書いた大きな魔法陣の中に全員が入る。
全員が入ったのを確認してネギが呪文を唱え……ネギ・スプリングフィールドの過去を見る事になった。



ネギの三歳くらいの幼少時から始まる。

「やっぱりね……こんな事だろうと思ったわよ」
「……みたいだな」

姉代わりのネカネ・スプリングフィールドが魔法学校に行ってからは離れの部屋で一人で暮らす日々が始まる。
既に母親は他界したのか……存在せずに名前さえも誰もネギに教えているように見えなかった。
幼馴染のアーニャと呼ばれていた幼い少女が渡した練習用の魔法の杖を片手に一人練習に励み、一人で遊ぶ日が続く。

「寂しい交友関係の始まりね」
「全くだな。隔絶された魔法使いの村と言えば、それまでだが」

リィンフォースとエヴァンジェリンが端的に状況を斜めに見つめてコメントする。
聞いていた者達は顔を顰めたり、どうフォローするべきか悩んでいる。

「しっかし、この後起きる惨劇は間違いなく……ナギ・スプリングフィールドの所為ね」
『え?』
「そうかもな。あいつ自身はそんな事になるとは思わなかったのかもしれんが……もう少し自分の影響力を考えるべきだったな」

ネギが途惑うような声を出すが、二人はまるで気にしていない。

「ぼーや、別に驚く事じゃないだろう。少し調べれば判る事だぞ」
「実際に足を使って調べたのは私と茶々丸だけどね」
「…………悪かったな」

エヴァンジェリンがバツが悪そうな顔でそっぽを向いて話す。
リィンフォースは仕事の報酬の一つとして魔法使い達の活動記録を閲覧し、そして茶々丸が学園都市のコンピューターに侵入して閲覧不可の資料を探り当てたの だ。

「ちょっと! じゃあ二人はこの後、何が起きるのか知っているの!?」
「「そうだ(よ)」」

アスナの問いに二人の口からあっさりと肯定する声が出ると同時に……場面が変わる。




いつもと同じように村の外れで遊んでいたネギ……この時点で少年はまだ何も気付いていない。

「……あれは?」

久しぶりの帰郷となったネカネが空に異常な集団を発見したのが……始まりだった。




「な、なんで村が燃えているのよ!?」

アスナが叫ぶのを皮切りにエヴァンジェリン側の面子を除く少女達が騒ぎ出す。

「……なるほど、要するにその子の父親への逆恨みちゅうことやね」
「そうなんか!?」

村の所々が燃え上がり、黒煙が立ち上がるのをネギは呆気に取られて見つめている。
千草は事情を察してポツリと自分の考えを漏らしていた。

……非日常の光景がネギの心に暗い翳を落とす。

「僕がピンチになったらお父さんが来てくれるって思ったから……」

父親に会いたいと思った事が原因だと勘違いしているネギだった。

「そんな訳ないでしょうが……明らかにナギ・スプリングフィールドへの報復の一環じゃないの?」
「ま、そんなとこだな」
「ケケケ……イヨイヨ面白イ展開ニナッテキタジャネエカ♪」

見当違いの罪悪感に囚われるネギを呆れているリィンフォースとエヴァンジェリン。
チャチャゼロはつまらない過去話からの急展開を楽しげに見ていた。
少女達はあまりの展開に声が出なかった。


目に涙、心に恐怖を刻み付けながらネギは必死に村の中を走っていく。
そんなネギの前にこの村を襲撃した悪魔の一体が現れる。

「俗に言うピンチってやつね」
「そうだな」

アスナ達は思いっきり焦った声を出しているが、リィンフォースとエヴァンジェリンは大まかな詳細を知っているので余裕を見せている。

「ふぅん、遅れてきた勇者か?」
「……ナギか」

襲い掛かろうとした悪魔を片手で受け止める魔法使い――ナギ・スプリングフィールド。
強力な魔法で集まってきた悪魔達を薙ぎ払い一蹴していく姿は圧巻だった。

「オオッ♪ ボキット首ヲ捻リヤガッタゼ♪」

悪魔から化け物と言われるほどの強さを見せ付けるナギに幼いネギは怖くて怯えている。
ガタガタと震え、後ずさり……逃げ出す。

「まあ、いきなりあんなものを見せられたら……怖くなるわね」
「まあな」

この時点でネギは目の前の男が父親だと気付いていない様子だった。
怖くて逃げ出した先にもナギの攻撃から無事だった悪魔が現れてネギに襲い掛かるが、ネカネと老魔法使いスタンが庇い……石化の呪いを受けてしまう。
悪魔はスタンが封魔の壺に封じ込める事に成功したが……石化の呪いによって、物言わぬ石像へと変わる。
ネカネも石化の呪いの影響を受けて、足が砕け……倒れてしまう。
石像になったスタンと気を失ったネカネを泣きながら見つめるネギの前にナギがやってくると場面が変わる。

「すまない……来るのが遅すぎた……」

炎上する村を見下ろせる丘へと場所を移し、ナギは沈痛な声で呟いて、ネギとネカネのほうに振り返る。
そこには傷付いたネカネを守ろうとして初心者用の魔法の杖を持つネギの姿があった。

「……お前…………そうか…」

震える身体で必死に立っているネギを見ながらナギは近付いていく。
怯えていたネギの頭を優しく撫でて、口元に笑みを浮かべる。

「……大きくなったな」

優しく声をかけられてネギは途惑い、ナギは持っていた杖をネギに手渡す。

「これをやろう……俺の形見だ」
「お、お父さん……?」

ネギはようやく目の前の人物が誰なのか分かり始めるが、

「……もう時間がない」
「え?」
「……ネカネの石化は止めておいた。後はゆっくりと治療してもらえ」

ナギはネギと距離を取り……ゆっくりと空へと浮かび上がる。

「……悪いな。お前には何もしてやれなくて」
「お、お父さん……?」

離れていくナギを見つめ、ネギは慌てて追いかける。

「お父さん!」

声を上げるネギを見ながら、ナギは話す。

「こんなこと言えた義理じゃねぇが……幸せにな」

泣きながら追いかけるネギだが、足を滑らせて転ぶ。
そして、顔を上げた時には既にナギの姿は……消えていた。
後に残ったのはいなくなった父の姿を泣きながら求め続けるネギだけだった。

「結論から言うと……ネギ少年の所為じゃなくて、ナギ・スプリングフィールドの驕りってとこね」
「え?」

自分が父親に逢いたいと思った事が原因ではないかと話すネギにリィンフォースは告げる。

「前にも言ったけど、ネギ少年のお父さんは英雄であると同時に敗者を踏み躙った側の人間なのよ」

リィンフォースはマジメな顔で淡々と語るので誰も口を挟めなかった。

「戦いに勝つという事は当然敗者が生まれ……誰かを踏み躙るわ。
 誰も彼もが納得できるような終わり方なんてあれば、戦争なんて起きない。
 敵であれ、味方であれ、誰もが自分の信念と思いを持って戦う」

全員が静かになってリィンフォースの意見に耳を傾ける。

「当然、事の善悪を決めるのは勝者側で敗者の思いなど、多少は考慮する余裕があれば聞くけどね」
「でも、それが……父さんの所為に?」

ネギが今ひとつ分からない様子でリィンフォースに尋ねる。

「人はね、踏み躙った事は簡単に忘れるけど……踏み躙られた者は決して忘れないわ」

冷淡で何の感情も込められていないがリィンフォースの意見に周囲に温度は下がったように感じられた。

「ナギ・スプリングフィールドは勝者になったけど、備えを怠った……その結果がこれかな」
「ま、否定できる理由がない。実際に来るのが遅れたことを詫びていたからな」
「先の戦争で生き残った連中が再び活動を再開し、危険要素を排除しようとしただけね。
 見る限り、あの村の住民はナギ・スプリングフィールドを慕う者で構成されたいた。
 もし私が敵対する側だったら……あの襲撃は必要不可欠な選択ね」
「ちょ、ちょっと!?」

アスナが淡々と告げるリィンフォースに憤りを感じて叫ぶ。
罪のない村の住民が無惨にも石にされる事が必要不可欠と言った事に不満を爆発させていた。

「後がなく、絶対に負けられない戦いなら……手段を選ぶ余裕なんてないわよ。
 だからネギ少年が責任を感じる事自体が見当外れで間違い」

話すべき事は全部告げたと言わんばかりに背を向けて自分の部屋へと戻るリィンフォース。
そんなリィンフォースの背を見ながらアスナはエヴァンジェリンに話す。

「リィンちゃんって……なんか冷たくない?」
「……アイツは踏み躙られた側でもあるんだよ。
 望んだものは平穏でありふれた日常だが、そんな思いは……いや、言っても詮無き事だな。
 ま、後は時間が来るまで自由にしろ。何かあったら、茶々丸か、他の人形に言え」

フォローしようかとして、自分が言うべき事ではないと判断したエヴァンジェリンが席を立つ。
自身もくだらない正義感や決め付けに散々な苦渋を味わっただけにうんざりした気持ちになっていたみたいだ。

「……ぼーや」
「は、はい?」
「リィンも言ったが、戦うという事は誰かの思いを踏み躙る事に繋がる。
 その覚悟もなく、戦う事だけは選ぶな……それは最も愚かでマヌケなバカのする行為だぞ」
「ケケケ、正義ナンテモノハ人ノ数ダケ世界ニハ溢レテイルカラナ。
 正義ト正義ガ、ブチ当タッテ負ケタ方ガ悪ナンダゼ♪」

からかうように告げるチャチャゼロにネギ達は反論するべきか逡巡する。

「なあ千草さん……?」
「極論ではあるけど、一概に間違いとは言えへんわな」
「そうなん?」
「そうや、事の善し悪しなんてもんは人それぞれ。
 少なくとも二人とも色々あったんは間違いないやろな」

千草はリィンフォースの方はよく知らないが、エヴァンジェリンの方は大体理解している。
宗教上の教義で散々狙われていたんだろうと千草は確信している。
狂信者というのは傍迷惑な存在で、こちらの言い分などお構い無しの自己中心的なものだ。

(神の正義だか、愛とか……まあ何でもええけど、自分の世界だけに留めてくれるとややこしゅうならんえ)

主義主張をあれこれ言う分には構わないが、力を示そうと動くと途端に迷惑極まりない暴力に早変わりする。
実際に放浪の旅をしていた時に傍迷惑な連中のおかげで苦労したこともあるだけに思い出して……うんざりした。

「覚えとき……自身の考えをしゃべるのはかまへんけど、それを誰かに押し付けるのは正しいとは言えへん。
 そこのぼーやがマギステル・マギを目指すんはええけど、その考えを他の誰かの押し付けたら……傲慢やな」

個人で目標を定めて頑張るのは良いが、無理強いはするなと千草は言葉の端々に感じさせた。

「うちは魔法使いの言う正しい魔法使いのあり方なんて信用してへん」
「な、なぜですか?」

魔法使いの正しいあり方のお手本でもあるマギステル・マギを否定されてネギは即反応する。

「そんなん簡単やないか……魔法世界の治安が碌でもないからや」
「え?」

ネギは何を言われたのか一瞬分からずに呆けるが、千草はそんな事など気にせずに話す。

「未だに賞金稼ぎやら、人身売買に奴隷制度なんてもんを採用している点で後進国と違いあらへん。
 そのくせ、こっちの世界の紛争地帯にでしゃばって人助けしているのはどうかと思うわ。
 人助けが悪いとは言わへんけど……自分の世界の問題をきちんと片付けてからするのがマトモな人間のする事やで」

言われたネギは絶句し、聞いていたメンバーも微妙な空気を滲ませていた。
ネギから見れば、頑張っている事をもっと評価して欲しいのだが……現実はそんな甘くはないと言われたようなものだった。
完全に魔法使い達の活動を否定したわけではないが、リィンフォースが快く思っていない理由が判っただけに気が重かった。

「あー、まーそうかもしれないわね」
「う〜ん、奴隷制度っていうのはちょっとね」

聞いていたアスナ、和美が何となく千草やリィンフォースの気持ちが分かって頷いている。

「まあ千草さんの言いたい事は私も常々思っていましたです。
 師匠も魔法使いの無責任なやり方には……ムカついているみたいです」
「そやろなぁ。リィンはんはそういうところは不愉快に思うわな」
「あの姉ちゃん、律儀というか、自分なりのスジ通すタイプみたいやし」

夕映はリィンフォースからそれなりに魔法使い達のダメな点を聞き、自分なりに思うところがあるので反論する気はない。
千草もリィンフォースの性格を考えると、魔法使い達のあり方を快く思っていないだろうと考えていた。
元々魔法使いを侮って見ている小太郎は特に気にしていない。

「ぼーやが魔法使いとして活動する時は今言うた点を自覚して頑張りや」
「は、はい」
「さて、木乃香……明日は朝食後から始めるえ」
「はーい。了解や」
「刹那のほうは復習と思うて参加してもええよ」
「わ、わかりました」
「お、俺は?」
「小太郎はソーマはんに稽古つけてもらい。
 うちは術者やさかい……よう分からんのや」
「……そやな。んじゃ、俺はソーマはんに稽古つけてもらうわ」

明日の予定を立てて、それぞれに場所を移そうとする。

「ほな、解散。後は自己の責任で稽古するなり、休みを取るなりしいな」

千草が解散の音頭を取り、各自が自分の判断で休息を取る事にした。



真夜中の別荘でネギはぼんやりとリィンフォースに言われた事を考える。
確かにあの村は父を慕う者が集まって出来たから……父親と敵対する者が襲撃する可能性はあったが、

(やっぱり……僕が望んだ事が原因だと…)

リィンフォースに言われたから意見を変えるほどネギは柔軟には出来ていない。
自分の所為と思う事で今まで……頑張ってきただけに簡単に"はい、そうですか"と言える訳もなく……苦悩する。

「まーたグルグル余計なことばかり考えているんでしょ?」
「え゛?」

背後からアスナが図星を指すような声が掛けられてネギは大慌て。

「はん……あんたって、ホントに見当違いのことで悩むわね」
「う、うぅぅ…………そうなんでしょうか?」

アスナが呆れた視線でネギを見つめ、ネギの方もアスナに呆れられていることに気付いて気まずい顔をしていた。

「ま、リィンちゃんが言ったことは正しいかもしんないけど……ね。
 大体、子供が親に会いたいと思うのは当然だし、一々そんな事であんな事件が起きるんなら……世界中に悪魔が出るわよ」

大げさかもしれないが、アスナがネギの不安を一蹴するように告げると、

「そやなー。まあちょーと極論かもしれへんけど……な?」
「お……じゃなくて、このちゃんの言う通りですよ、ネギ先生」

アスナについてきた木乃香と、危うく"お嬢様"と言い掛けて……慌てて"このちゃん"と変える刹那の姿があった。

「ま、なんにせよ。ネギくんのお父さん探しには協力するってことでよろしく♪」
「わ、私も協力します!」
「ウム、弟子のためとまだ見ぬ強敵との戦いに心躍るアル♪」

ネギの父親を探す過程で色々と事件が起きるだろうと思うと後で一大スぺクタル巨編でも発表できるかもと企む和美と、恋するネギの力になりたいと考えるのど かと、弟子のために一肌脱ぎ且つ今まで知らなかった世界の強敵との戦いを想像して楽しむ古 菲の姿があった。

「え、ええ―――っ!? ぼ、僕は危ないから……これ以上係わらないようにと言ったのに!?」
「諦めなさい。ここに居るみんなは危ないと分かった上で協力するって言ってんの」
「そうやで、ネギくん。うちらは友達やし、助け合うのもありなんよ」
「そういう事です。京都ではお力を貸して頂いたので、今度はこちらが力を貸す番だと思ってください」

全員が不敵に笑ってネギに力を貸すと言う。
六年前の事件を見せる事でこれ以上危ない世界に係わらない様に注意したはずなのに……逆効果になっていた。

「兄貴……持ちつ持たれつって言葉があるんだ。
 今、助けてもらったら、後日、兄貴が力を貸せばいいのさ」
「……カモくん」

困った顔で立っているネギに妥協点を提示するカモ。

「そういう事よ! ま、困った時はお互い様ってことにしときなさい」
「……は、はぁ……でも、ホントに危ないかもしれないんですよ?」
「大丈夫、大丈夫♪ そうならないように気をつけて……ついでに修行もするから」

アバウトな言い方ではあるが、アスナ達は立ち止まる気はない。
少々強引ではあるが、ネギが返答に困っているのをスルーして……決定事項のように決めていた。




手元の水晶玉でアスナ達の様子を見聞きしていたエヴァンジェリン、茶々丸の主従にリィンフォースと千草。
そして、のどかが積極的に行動するのを微笑ましげに見守る夕映の姿があった。

「ま、納まるべくして納まったというところだな」
「そうね……夕映もあっちに行きたかったかもしれないけど」
「いえ、私は少し距離を取って見る事にするです」
「そやな、全員が同じ方向を見るちゅうのは……危ないかもしれへん。
 和美ちゃんだったか? あん子もどっちかと言うとそういうタイプみたいやし……バランスはええんとちゃうかな」

ネギ達のチーム編成は悪いものではないと千草は思う。
まだ素人の域を出ない前衛の神楽坂 アスナ。
精神面では要修行だと感じている神鳴流剣士の桜咲 刹那。
今後更なる成長が期待でき、裏に係わり始めた拳法家の古 菲。
ネギから魔法を習い始め、読心系のアーティファクトを持つ後衛の魔法使い見習いの宮崎 のどか。
情報を整理して、チームの方向性を指し示す参謀向きの朝倉 和美。
治癒系の術に特化していると思われ、回復、支援を行いつつ、式神による遊撃も出来そうな陰陽師見習いの近衛 木乃香。

「ま、小太郎も係わるはずやし……戦力的には悪うないえ」
「後は私が仕込み中のさよちゃんが参加するかどうかで……機動力が倍増するかもね」
「……かもな」

魔導師の移動魔法を知っているエヴァンジェリンは少々頬を引き攣らせて頷いている。
エヴァンジェリンの影を使った転移魔法も長距離移動は可能だが、魔導師の次元転移にはどうしても劣る。
自身も使い方は教わっているので封印が解けた後は自由に世界を渡ることも可能だが。
リィンフォースから話を聞く限りはさよの魔力量では連続での次元転移はカートリッジの使用を要するが、それでも便利な事には変わりない。
実際にリィンフォースは魔法世界での活動も学園の魔法使い達には気付かれないように注意しながら行っていた。
そしてエヴァンジェリンもその恩恵にあやかって……魔法世界や他の次元世界のお菓子や美味しいものをご相伴していた。

「では私達もそろそろ休むか?」
「そうだね」
「そうやね」
「明日は狩りですから……もう寝るです」

狩りというキーワードに千草は不思議に思うが、魔導師と魔法使いの違いを考えて押し黙る。

(……迂闊に尋ねると巻き込まれそうで怖いかも)

弟子の育て方に関しては、この二人はスパルタなので……自分も係わると凄い大変な目に遭いそうな予感がヒシヒシと感じられたのだ。

「……飛竜退治は大変だな」

自身の直感を肯定するようなエヴァンジェリンの呟きに千草は内心で大いに焦っている。

(ちょ、ちょい待ち! 飛竜ってなんや!?)

口に出していれば、間違いなく自身も強制参加の可能性があるので千草はリィンフォースと夕映を視界から逸らす。

「いえ、明日は盾蟹を呼ばれる巨大ヤドカリの狩りです」
(……巨大ヤドカリってなんや!? うち、そんな生き物しらんえ?)

耳に入る夕映の言葉にツッコミたくなるのを我慢して千草はお茶を飲む。

「ダイミョウザザミね。あれも雷と火に弱いから……それを中心に攻撃を組み立てなさい」
「分かったです」
「後は結構硬く、高水圧の泡ブレスがあるから気を付けなさい」
「はいです」

リィンフォースから一通りの注意を聞き終えた夕映が自身に割り当てられた部屋に戻って行く。
そんな夕映の背中を見ながら、リィンフォースは呟く。

「そろそろ夕映に……竜召喚の魔法を教えようかな?」
「ぶほっ!?」

流石の千草も次から次へと耳に入るリィンフォースのとんでも発言に耐えられなかった。
飲みかけていたお茶を噴き出し……咳き込んでいた。

「ま、マトモな術者なら……その反応はしょうがないだろうな」
「そうですね。千草さん、これをどうぞ」

堪えきれずに動揺している千草を若干憐れみを含んだ視線で見つめるエヴァンジェリンと冷静に千草にナプキンを渡してテーブルの上を掃除する茶々丸だった。
エヴァンジェリンにしてもリィンフォースの使う魔法と自分達が使う魔法の質の違いをはっきりと理解している。
精霊達と感応して使う精霊魔法とは簡単に言えば、相性もしくは感性が非常に左右される感覚的な部分が、リィンフォースの使う魔法は感性よりもきちんと組み 立てられた数式のような違いはあるのだ。

(もしかしたら魔法使い達が使う魔法は何時か……駆逐されるかもしれんな)

感覚的な部分が多大にある魔法は本人の感性に左右され、使い手を選びかねない。
今でさえも属性に左右されて、どうしても使えないとは言わないが使い難い魔法がある。

(タカミチ辺りはこっちの方なら魔法が使えるかもな)

高畑・T・タカミチが魔法を使えないのは周知の事実だが、それはタカミチと精霊の相性の悪さだとエヴァンジェリンは思う。
個人の資質に左右される点はリィンフォースの使う魔法にもあるが……それでも自分が使っている魔法よりは門戸が広い。
利便性のよさで火を起こすのに自分達の使う魔法よりもこちらの世界のライターを使う以上は……本気で駆逐されても仕方ないと感じていたエヴァンジェリン だった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

どうしてネギは自分のせいというネガティブな結論に至ったのか……分からない。
原因としては周りとのコミュニケーションの不足なんだろうかと考える。
そして、一番不自然に感じたのがナギ・スプリングフィールド。
一応実体らしきものはあったみたいだけど……実際には魔力で作られたボディに本人が入っていただけだったりするんだろうか?
原作ではフェイトと相討ちみたいな話も出ただけに本人は重傷で動けない可能性が高そうだし。
問題はこういう異常事態が発生した後、子供の心のケアを怠った魔法使い達なんだろうな。
真面目に勉学に励んでいるように見えるけど、実際のところは心の逃避みたいな感じだった。
もう少し注意深く見るべきなんじゃないかと言いたいし、父親越しに見るのは頂けないなと思った。

それでは次回でお会いしましょう。




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