「何を
考えているのですか！？」
雪広 あやかは夕食の席で開口一番にそう怒鳴った。
「何って、成人男性の俺が酒を飲んじゃ不味いのか？」
「え゛？」
この中で成人しているソーマ・赤が至極マジメな顔で当たり前の要求を告げる。
尤もな意見だが、あやかとしては迂闊に許可を出すわけには行かない。
「申し訳ありませんが、今回は我慢してください」
チラリと周囲に視線を泳がせてあやかはソーマ・赤に事情を察しさせる。
「……お前さんも苦労してんな」
「……仰らないで下さい」
事情を察したソーマ・赤が気疲れした顔で話し、あやかは涙目で呟く。
「ええ！？ いいんちょ、ダメなの！？」
「ダメに決
まってます！ あ、貴方達は未成年なんですよ！！」
「ワインくらいなイイじゃん！」
「食前
酒程度なら文句は言いませんが、貴方達は限度を知らなさ過ぎなんです！！」
ここでタガを緩めれば酒盛りするのは目に見えているだけにあやかは絶対に飲ませないと決めている。
あやかのダメ発言に、明石 裕奈と早乙女 ハルナが文句を言い出し始め、他の者も追随するが、
「全くだ。酒はがぶ飲みするようなもんじゃねえぞ。
オメェらの飲み方は意地汚いんだよ。ちゃんと酒の美味さを味わってから飲めよ」
「法律を遵守して飲むように注意してください！」
未成年の飲酒行為を注意しないソーマ・赤にあやかは激しくツッコミを入れる。
「未成年
の飲酒、喫煙は禁止されているんです！！」
「そうなのか？ 俺はてっきり意地汚い飲み方をされるのが嫌なもんだと。
俺が思うに、コイツらの飲み方は下品で嗜み方を知らねえのもあったのかと？」
「確かにこの方達の飲み方は下品ではありますが、二十歳未満の方の飲酒は法律で禁止されているのです！」
決められたルールというものを口にしてあやかは注意するが、現代の法律に疎いソーマ・赤は首を捻るばかり。
「下品ってなんだよ〜！？」
「言葉通りだよ。今日、オメェらを見ていて思った。
オメェらには女の色気ってもんが全然足りねえ！！」
色気が足りないとソーマ・赤がはっきりと大声で断言すると全員が鼻白んだ。
「小僧相手だから恥じらいなんて不要かと勘違いしているみたいだが……それは間違っている！
オメェらに色気がないからこの小僧どもはガキのままなのだ！！」
「ちょっと待て――ッ！！ お、俺はガキやないで！！」
慌てて怒鳴ってくる小太郎だが、
「女の色香も知らんヤツはガキで十分だ」
「色香ってなんやねん！？」
「全く以って嘆かわしい。女の色香に惑わされて、バカやってこそ男だが……出発点にも立っていねえ。
四面四角なムッツリ系の小僧はともかく……坊主よ、お前も男だったらノゾキの一つや二つはやれよ」
「なんでそんなアホなことせなならんのや！？」
「俺は心配だよ。歳食ってから女の色香に騙されてドジ踏まねえかと」
「「ノ
ゾキを勧めるな！！」」
「がはぁっ！！」
ソーマ・赤の話を聞いていたアスナとあやかのダブルのキックがソーマ・赤の顔にめり込んで黙らせる。
「……ソーマの旦那、あんたは間違いなく勇者だよ」
一人部外者のフリをしつつ、ソーマ・赤の話を真剣に聞いていた男アルベール・カモミール。
カモにしてみれば、ノゾキの一つや二つくらいは男として生まれてきた以上は一度はやるものだと思っているみたいだった。
「い、色気がねえから男を本気にさせられねえんだよ……」
「つ、つまり私に色気がないからネギ先生は本気にならないと仰るのですね！」
「い、色気が…た、足りない……」
「も、もしかして、私に色気が足りないから高畑先生は……」
ソーマ・赤がアスナとあやかの攻撃でガックリと力尽きる前に告げた一言に数人の少女がダメージを受けていた。
「いやーソーマさん、イイ仕事しますねー♪」
早乙女 ハルナが混沌と化した面子に目を向けて新たなネタが生まれると期待していた。
「円も頑張らないとね〜」
「にゃはは、そうだよね〜」
「バカ―――ッ！！ あんたらも色気がないって言われてんのよ！！」
「「ぐふっ！！」」
「わ、私だって泣きたいくらいよ―――ッ！！」
色気がないと言われたことをからかおうとした柿崎 美砂と椎名 桜子は釘宮
円からカウンターで返された指摘にダメージを受け、円もまた自分の発言にダメージを受けて……トリプルノックダウンしていた。
麻帆良に降り立った夜天の騎士 四十六時間目
Ｂｙ ＥＦＦ
狩りから帰ってきた超 鈴音はエヴァンジェリンの別荘で骨休めをしている。
一時間で二十四時間という時間が使える別荘は普段から忙しい超にとっては休息を取るには好都合だった。
「……ところで例の船はどうなたネ？」
「ああ、あれね」
超が今最も気になっている事柄はリィンフォースが開発を進めている次元航行艦である。
次元転移を可能とし、大気中だけではなく、宇宙空間のような場所でも航行可能な艦はまだこの時代には無い。
超の時代でも地球−火星間の移動にはそれなりの時間を要すが、次元転移を使えば……殆どロスが無く短時間で移動出来るだけでなく、他の次元世界への移動さ
えも可能だ。
「一応、ようやく建造ドックが完成して……これからってとこよ。
とりあえず試作の非武装のクルーザー(巡航船)タイプが早くて来月辺りにね。
後は稼動させてデーター取りをしてから、本番ってところ」
「以前聞いた……アルカンシェルは搭載する気なのカ？」
「もちろんよ。使えるものは何でも使うのが私の流儀だから」
リィンフォースのその一言で超の頬は引き攣っている。
アルカンシェル――かつてリィンフォースの母親の夜天の書の暴走プログラムを破壊した恐るべき魔導砲。
砲弾自体に破壊力は無く、着弾点を中心に百数キロに及ぶ、空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する殲滅兵器。
地上で使用すれば、核を上回る脅威になるだろうと思われる兵器を出すのはどうかと超は考えていた。
「……本気なのカ？」
「私はいつでも本気よ。核みたいに後に問題を残さない点は便利だと思うわ」
何故リィンフォースがこの殲滅兵器の資料を持っているかは母親である夜天の書が暴走プログラムの破壊後に次元航行艦アースラから黙って船の設計図と同時に
拝借(クラッキング)したのが原因だった。
夜天の書自体は単なる知的好奇心満たすために記録しただけだが、リィンフォースは有るからには有効活用したいと思っていたので開発を単独で始めたのだ。
超は開発場所こそ聞いていないが、リィンフォースに作業用に多脚砲台戦車を改修した無人機をある事を条件に貸していた。
「まあ実際に使うことはないと思うけど……備えあれば憂いなしって言うでしょう」
「……その点は否定しないヨ」
超は武器を持つな等と言う綺麗事を口にする気はない。
抑止力として持つ程度なら反対しても聞く耳持たないのが目の前の人物リィンフォースなのだ。
「ま、使うとしたら魔法世界でだろうと思うわ。
私が生きている間に大きな戦争が起きるとしたら向こうの方が可能性は高いし」
「……それも否定しないヨ。
あの世界は安定しているように見えて、実のところ……何時、何が起きても驚かないネ」
「裏で暗躍している連中も居るみたいだし……未だに賞金稼ぎなんていう職業も存在してる」
「北と南で冷戦までは行かないケド……隙あらば動きそうな雰囲気もあるヨ」
超もリィンフォースも悲劇を見てきた経緯があるだけに魔法使い達みたいに楽観的な考えなど持たないようにしている。
「例の多脚砲台型戦車のＡＩプログラムの修正は出来たよ」
「それはありがたいネ。師父の持つデバイスに使用するＡＩプログラムは使い勝手がイイヨ」
「田中さんのほうは葉加瀬に任せているみたいだから手は出さないけどね」
「彼女は天才だから、師父のプログラムに刺激されてイイ物を生み出すから心配無用ネ」
デバイス関連のＡＩ(人工知能)は超と葉加瀬 聡美にはとても刺激的なプログラムだった。
茶々丸こそ上手く完成したが、それ以降のＡＩに関しては何故か……齟齬が出た気持ちになる。
魔法を使っていない事が原因かもしれないが、何かが足りないような感じがしている。
冷たいとまでは行かないが、どこかシステマチックでファジーな対応が出来ない。
あくまで与えられた命令のみを忠実にこなすだけで……それ以上の判断をせずに済ませる。
茶々丸のＡＩプログラムを複製したものでさえも反応が鈍い気がする。
経験の差だろうと超は考えているが、もしそうであるならば……容易には埋められないはずだった。
しかし、リィンフォースの提供するＡＩプログラムは自分達の開発したものよりもファジーな対応も出来る。
この点は葉加瀬も大いに刺激を受けて、それ以上のものを必ず生み出してみせると言って研究中だ。
「ＡＭＦ(アンチマギリングフィールド)の実用化は出来そう？」
「……時間不足と電力が足りない事がネックだたネ」
「魔力を電力で代替するのはまだ問題が多いみたいね」
次の研究についての意見交換を始める超 鈴音とリィンフォース・夜天。
「仮契約を応用した魔力供給システムを実用させれば……ジュエルシードを内蔵した指揮官機をマスターにして供給出来る？
それともミッドの技術を使った魔力炉を造って、デバイス経由で魔力供給する？」
「……魔力炉？」
「あれ、言ってなかった？
空間にある魔力素子を集めて、魔力を集積するシステムがミッドにはあるんだけど？」
「……それは初めて聞いたよ」
初耳と言って超は魔法科学の最先端の世界の動力について考察する。
（魔法世界にも似たようなシステムがあたガ、おそらく精霊機関よりも効率は良いんだろナ。
精霊と言うワンクッションがある物と違て……ダイレクトに使用する分の運用効率は良いはずネ。
だが、ＡＭＦ下の状況では供給は不可だけど、ＡＭＦをジャミング出来るシステムがあれば……使えるカ？）
リィンフォースの考えに超は頭の中で即座にシミュレートしてみる。
「……研究次第では可能だと思うネ。魔力供給は既に茶々丸とエヴァンジェリンでデーターは取れたヨ」
魔法と科学の融合を考えている超は様々な角度からのデーターを必要とし、その為にエヴァンジェリンに電力と魔力を併用出来る従者――絡繰
茶々丸――を学園長経由で提供した。
学園都市の警備員の人手不足は今もそう変わらず、頭の硬い人間であろうと使わなければならない。
たとえそれが悪を憎み、正義の名の下に排斥すべしと思い、望んで悪になった訳でもないような人物さえも憎む人物でもだ。
学園長にしても、エヴァンジェリンを嫌う者と一緒に警備に就かせるよりは揉め事が起きないだろうと判断していた。
「頭の硬い連中をどうにかしたわね」
「無理ネ。彼らは理想だけを見て、現実を見ない人達ヨ。
今も隙有らば、エヴァンジェリンを排除したがっているだろうナ」
「筆頭はガンドルフィーニあたりかしら？」
「間違いないネ。ここでの弟子の高音さんを見れば、判るヨ」
「アイツの頭の硬さを改善しない点から見ても師としては不適格だけどね」
「悪い人じゃない。ただ……上からの目線でしか何も言えないし、考えない動かしやすい駒になれる人ダヨ」
「上が貼ったレッテルが正しいと思い込む短絡思考だからな。
そういう欠点を改善しない師というのはダメなんだけど……ここでは有りだから」
硬直しがちな人物の考え方を柔軟に出来るように指導するのが師の役目だが……改善できていないどころか助長している。
ガンドルフィーニの指導力がないわけではないが、彼自身も硬直しがち故に見えていないのだ。
おそらくガンドルフィーニは内心ではエヴァンジェリンがナギ・スプリングフィールドの息子であるネギ・スプリングフィールドの師には相応しくないと思い、
機会があれば……排除しようと企んでいてもおかしくないのだ。
「ちょっと情報操作すれば、すぐにバレるって考えないのかしら？」
「無理ネ。彼女は魔法世界から来た人物、魔法が当たり前の世界の住民が実は危険な存在だなんて考えないヨ」
「実弾が入った拳銃を所持している人間で簡単にトリガーを引きかねないのは不味いんだけどね」
魔法を使えるという事はある意味自制が出来る人間でなければならないと二人は思う。
アクセサリーに見える魔法発動体を所持しているだけなら、魔法を知らない人間はただの一般人にしか見えない。
目の前で呪文を唱えられても、お遊びにしか思えずに油断して……魔法を無防備な状態で貰ってしまう。
武装解除程度なら服を剥ぎ取られるくらいだが、攻撃呪文であれば……致命傷を受ける時だってある。
生まれた時から魔法がすぐ近くにあって関わる者は、そんな危険性に気付けない事が多いし、魔法を学んだ者も何時しか忘れてしまい……自分達がノーリスクで
人の範疇を超える力を得ている事を当たり前のように思ってしまう。
「私の居たところじゃ、お人好しな連中がある程度の管理はしてたけど……」
「この世界は魔法使いが勝手に自分達のルールで動いて、後手に回るからネ」
うんざりした顔で二人は頭を振って、この世界の現状を憂いている。
リィンフォースは管理局は嫌いだが、法によって魔法の使用を管理、保全する事は仕方ないと判断している。
人という存在は欲望を糧に動く生命体故に……管理しなければ、際限なく好き勝手しかねないと常々思っていた。
超が行う革命で魔法を管理する魔法使いと一般人が協力して公正明大な機関が出来れば参加しても構わないし、超が設立するのであれば間違いなく創設時のス
タッフの一員になろうと考えていた。
ネックはおそらく魔法使い側で、自分達の既得権益を守ろうとする連中が絶対に出てくる。
魔法使いを裁くのは同じ魔法使いでなければならない等とワガママを宣言して協力しない可能性もある。
その時こそ、魔法使い達が驚愕するだろう。
……自分達の力を無力化する装備を搭載した近代兵器の前にその身を曝け出して傷つく事で。
南の島での二日目の朝を迎えるネギ達。
「……あ、朝やな」
「ったく……百物語なんざ、するんじゃねえよ。
おかげでえれぇ騒ぎでせっかくの酒が不味くなったぜ」
酒盛りこそ不許可だったが、定番の怪談話には許可を出したあやか。
ソーマと小太郎は翌日の騒ぎ(探検)に対するために体力の温存を図って先に休もうとしたが……大騒ぎに巻き込まれた。
「さよ坊見ているくせに……何で浮遊霊如きに怯えんだ」
百物語をしている最中にさよがこの近くにいた浮遊霊を招待したのが昨日の夜の騒動だった。
呼ばれた浮遊霊は、さよのように穏やかな存在でどちらかと言えば人畜無害だったが、参加者の悲鳴によって思いっきり焦って……ついポルターガイスト現象を
引き起こして大混乱を発生させた。
「ホンマや、たかが幽霊にガタガタすんなや」
眠った直後に大きな悲鳴を聞かされて慌てて飛び起きた小太郎は不機嫌極まりなかった。
ソーマ・赤の方も一人静かに月を肴に飲もうとしたのを邪魔されて……怒っていた。
「さてそろそろ交代するか…………って、おい！？」
「ど、どうしたんや？」
突然虚空を睨んで叫ぶソーマ・赤の様子に小太郎が慌てている。
「面倒だから変わらないって！？ そりゃねえだろ！？」
「……青の兄ちゃん、ぶっちゃけたな」
「言っとくが後で変われと言っても変わらんし、振り替えたりもせんぞ」
ちょっと近寄りがたい声で呟くソーマ・赤に小太郎は本能的にやばいと感じて逃げ腰気味になる。
「…………わーったよ。精々気疲れしてやるよ」
「そのうち、ええ事あると思うで……な」
へっぴり腰でソーマ・赤の側に近付き肩を叩いて慰める小太郎。
「ま、一緒に苦労するか？」
「いやいや、まだ苦労するとは限らんで！」
「あの面子を見て、お前はそう断言できると？」
「…………ゴメン、俺が悪かったで！！」
犬上 小太郎……現在ラック値が下がり気味な少年だった。
「実のところさー、秘密の聖堂って言われているけど……場所は判明してんのよ」
「「ハルナのバカ―――ッ！！」」
朝食の席でいきなり暴露したハルナの発言に今日の探検を楽しもうとしていた鳴滝姉妹の怒りの声がサラウンドで響く。
「嬢ちゃんは知らなかったのか？」
「……私が此処を使うのは今回が初めてです」
雪広グループ内にあるだけで細かい所までは知らなかったあやかが複雑な表情で返事をする。
事前に知っていれば、自分とネギだけで行っていたのにと悔しがっていた。
「んじゃ、ゲームにするか？
俺と小僧と坊主の三人で先に行って……最初に着いたヤツが勝者で小僧とチューをするという事で」
「ええっ!!??」
「小僧が嫌なら、坊主に変更ありで」
「お、俺もかよ!!??」
いきなり話を振られたネギと小太郎が慌てている。
「すまんな。俺はあの嬢ちゃんとは出来る限り揉めたくねえんだ」
ソーマ・赤に向けて笑みを浮かべている千鶴の圧力に屈した男が小太郎の目に入る。
「俺も無理やし……文句は言わんわ」
深くため息を吐いて二人は世間の厳しさを痛感していた後ろでは、
「のどかさん！ 今日こそは私のネギ先生への愛が勝ちます！！」
「は、はわわ〜〜。わ、私も負けませんから〜〜」
「いいんちょ！ ネギくんとキスするのは私だよ！！」
「ふ、ふふふ……貴女ともここで決着をつけて見せます！！」
ネギにぞっこんの三人が姦しく話し、
「誰が勝つと思う？」
「一番不利なのはフォローする人がいない宮崎さんだと思う」
「綾瀬さんがいないと宮崎さん一人じゃ厳しいよ」
「早乙女がいるけど？」
「ハルナは場をかき乱す事が出来ても……自分本位だからねー」
などと誰が勝つか予想しながら見物に回ろうとしている。
「うふふ……夏美ちゃんは倍率が低いから勝てるわよ」
「だ、だから違うって、ちづ姉！！」
楽しげに笑う千鶴に振り回される夏美を見ながらソーマ・赤は思う。
（結局、後始末は俺の仕事か？ 一つ判った事は……姫さんが参加しない旅行は注意する必要があるってこったな）
ドタバタ劇が始まり、姦しい面子の相手をする事で気疲れするのは目に見えている。
帰ったら別荘に行って不貞寝しようと決意するソーマ・赤だった。
「おい、カモ」
「なんすか？」
「ドサクサ紛れでパクティオーさせようとしたら……即レッドカードで姫さんの鍋の材料逝きだからな」
「マ、マジっすか？」
虎視眈々と仮契約の機会を窺っていたカモに釘を刺す。
「当たり前だ。俺の目の前で一般人を巻き込んだ時点で小僧の修行中断をジジィに進言する。
魔法の秘匿は魔法使いにとって守らなければならないルールだ。
お前の都合で勝手に魔法を曝け出す行為が正しいなどと思うなよ」
「お、脅す気かよ！？」
「バカか？ 俺は姫さんに頼まれているんだよ。
アルが勝手に遊び半分で仮契約させるなら……始末しろとな。
既にイギリスで下着泥棒の前科持ちだから、次に不始末起こしたら小僧の責任問題に発展する可能性もあるってな」
「…………」
「お前、姫さんに睨まれているって自覚しとけよ。
朝倉と勝手に手を組んで仮契約させた事も、その前の二回の事件も黙認されているが……うるさ型の連中も居るんだよ。
姫さんはどうでも良いみたいだが、お前の独走で小僧の未来に影を落とす真似をしたら……そいつらが容赦しないぞ」
カモもソーマ・赤経由で伝えられた警告を吟味して気付く。
「……兄貴は監視されているって事かよ？」
「少なくとも自分達の理想を押し付けたがっているアホが居るのは確かだぞ。
そういう連中はお前が普段どんなヤツか知れば……排斥したがるだろうな」
否定もしないが、肯定もしないソーマ・赤の言い様にカモは不穏な空気を感じている。
「エヴァはお前のようないい加減な小悪党が生真面目で純粋な小僧の側にいる方がまだマシだろうってさ」
「ソーマの兄さんが黙っているってーのは？」
「アホか……俺も青もお前みたいな小悪党は嫌いなんだよ。
ただな、あの小僧にはお前みたいな存在が居た方が反面教師になるかもしれない点で手を出さないだけさ。
お前、あの小僧のために動いているみたいだが、要は自分の金儲けだけにコソコソと動くだけじゃねえか」
「そりゃないっすよ！ 俺っちだって「足引っ張ってんだろ？」……って違うっすよ」
「姫さん曰く、結果を伴わない頑張りは無駄なんだとさ。
小僧の使い魔を自認する気なら……もう少し周囲に目を光らせろ。
あの小僧は……危ういところが多過ぎるから、いつ誰かの為に利用されて死んでもおかしくねえぞ」
ソーマ・赤の言い方に不穏な響きを感じてカモは押し黙る。
「ほんの少し後ろから押してやれば、あの小僧は平気で命を投げ出すようなやばい橋だって渡るだろうさ。
なんせ、そういうふうに意識誘導されている可能性があるからな。
お前だって判っているだろう……親父さんの事を出されたら、あの小僧は自分の事一切顧みない愚か者になるって」
「…………」
「本来、こういう事は使い魔たるお前が想定するべきなんだが……お前はエロと小金持ちになることしか頭にないからな」
言うべき事は全て告げたソーマ・赤は小太郎を連れて歩いて行く。
「……なあ？」
「なんだ？」
「ネギって……大丈夫なんか？」
事情を全て知っているわけではないが、小太郎はネギの周囲に嫌な空気を感じてソーマ・赤に聞く。
「……微妙なとこだな。あの坊主の周りには遊びで仕事をしているドアホが居るからな」
「あのじいさんは妖怪やし、言ってもダメなんやろな」
「老害ってやつだ。責任取るなんて、いつも言っているみたいだが、そもそもそんな事態にならないように監督するのが責任者の仕事ってやつだ」
ソーマ・赤が救いようがないと言わんばかりに諦めた顔で話す。
「マジメに仕事をしている時もあるが、一番大事な時に締める事ができないのはダメだな」
リィンフォースが警備体制の強化を進言しても、自分達の守りを過信している連中は"何を今更"と思って反対した。
ソーマ・赤はリィンフォースから事の経緯を聞いて……呆れ返っていたのだ。
「自分達の領土を主張するわりには……部外者を守りに配置しているのは何だろうな」
学園都市に結界を張って侵入者を防いでいる事は魔法使いにとっては正しいかもしれないが、一般人にとっては傍迷惑な話になる可能性が高い。
今現在は魔法使いも手段を選んでいるみたいだが……手段を選ばない連中が来ないとも限らない。
捕縛を優先し、殺さずなどと暢気な事を言っている甘い連中が……手段を選ばない集団に対して歯が立つとはソーマ・赤にはとても思えなかった。
「マヌケなだけやろ。西洋魔法使いちゅうのは甘いのが基本やて、千草姉ちゃんに聞いたで」
「……困った連中だな」
「そやな」
透き通るような青空の下で何故か黄昏るソーマ・赤と小太郎に不思議そうに全員が見ていた。
この後、朝倉 和美の主導の下でラブラブキッス作戦バージョン２が敢行され、そのドタバタ劇に巻き込まれたソーマ・赤と小太郎はは辟易する破目になる。
「……こいつら、まだまだガキだな」
「お、女って怖い生きモンやな」
「オーイ、カモ生きてるか？」
ネギの側でこのドタバタ劇を見物していたカモは物の見事に喜劇の中心地に入ってしまい……大ダメージを受けていた。
「…………な、内臓が出そうだ」
「いっそ出した方がすっきりするかもな。
どうだ、ついでに煩悩もありったけ出し切って悟ってみるか？
今なら俺が全力で握ってやるぞ？」
「……結構っす」
「残念だな……オコジョ鍋ってヤツを食ってみたかったんだが」
「赤の兄ちゃん……ハラこわすで」
すぐ近くでネギが助けを求めているが、聞こえないフリをする。
人間、誰しも自分が可愛いのかもしれなかった。
ちなみにゲームはドタバタ劇によって有耶無耶になって勝者不明のドローとなった。
「くっ！ 今日こそはネギ先生に私の愛の
深さを見てもらおうと思っていましたのに！！」
「……諦めなって。また次があるさ」
和美に肩を叩かれて慰められているあやかを見ながらハルナは楽しげに笑っている。
「は、はわわ〜〜。な、なんとかなりました〜〜」
「しかし、のどかも強くなったもんだね。
夕映抜きでここまでやるとはさー思ってもみなかったよ」
ハルナの隣には目を回しかけているのどかの姿があった。
「うふふ、残念だったわね、夏美ちゃん。せっかく小太郎くんとのファーストキスイベントが流されちゃって」
「いつも思うんだけど……ちづ姉ってイジワルだよね」
「あらあら、私はいつだって夏美ちゃんの味方なのに」
ジト〜と睨んでいる夏美だったが、迫力が足りずに拗ねているようにしか見えない。
そんな夏美を微笑ましく見ながら千鶴はほんの少し肩を竦めていた。
「まどかも惜しかったわねー」
「全然惜しくないわよ！」
参加する気はなかったのに友人達から突き出される形になってしまった円はヘトヘトに疲れ切っていた。
「う、うぅぅ……またオモチャになったよ。お姉ちゃん……女の人って怖いです」
散々振り回されて今にも口から魂が出そうなほどネギはダメージを受けていた。
「う〜〜ん、あと少しで……ネ、ネギくんとキスできたんだけどな〜〜」
本当に残念そうに話す佐々木 まき絵の隣では、
「新体操のリボンって、あんなふうに使うものなの？」
「多分、違うんじゃないかな」
明石 裕奈の素朴な疑問から始まった新体操の奥の深さについての話が行われていた。
「でもさー、あんだけ使えて……かろうじてレギュラーなんやで。奥が深いと思わへん？」
「……そうだね」
おもに聞き役の大河内アキラと和泉 亜子が本当に不思議そうに思った事を正直に口にする。
まさかリボンでネギを捕まえて引き寄せる真似が出来るとは二人とも思わなかっただけに本当に驚いていたのだ。
尤も捕まえて、事(キス)に及ぼうとした時にあやかが即座に割って入ってきて……ダメだったのはお約束だが。
「ホント、なんでこうも騒がしいんだろう」
「ええんとちゃうか、アスナ。元々息抜きに来たんやし」
「そうですね。ちょっと騒がしいですけど、気分転換にはなると思いますよ」
いつものドタバタイベントに少々不機嫌なアスナを木乃香と刹那が苦笑を浮かべてとりなしている。
「そうなんだけど……なんか学校にいるのと変わらないのはちょっとね。
これじゃ、リィンちゃん達のほうが息抜きできたかも」
「いや、そうとは限らへんでアスナ」
「ええ、おそらく私達が来ない事で別メニューの魔法の練習をしている可能性があります。
その場合は……かなり過酷なのではと思うんです」
「あ…………そ、そうかもしんないわね」
リィンフォースが使う魔法はネギ達が使う魔法とは違うと聞いていた事をアスナは思い出す。
自分達の前ではあまり見せていないだけに……今回の息抜きの合間に別荘を使用して修行しているかもしれなかった。
「なんかさーリィンちゃん達の方が魔法使いっぽい気がするわ。
エヴァちゃんもリィンちゃんも魔法を出来る限り使わずにしているしね」
「そやな。あの二人は多分ウチらを信用してへん感じや。
まあウチの場合は見習いで未熟やから仕方ないとして、せっちゃんも信用してないんは何でやろ？」
木乃香がふと漏らした意見に刹那はギクリと身体を硬直させる。
「せっちゃん、何かしたん？」
「い、いえ、そ、その……聞かんといて、このちゃん」
刹那の脳裡に浮かぶのは怪しいからという理由で安易にケンカを売った自分の失点だった。
しかもケンカを売り、戦ったが……負けたという事実がある。
木乃香が事情を知れば、間違いなく怒り心配するのは目に見えているだけに絶対に黙っておこうと思う刹那。
「まさかと思うんやけど……リィンちゃんにケンカでも売ったん？」
木乃香の問いに、ギクッと言わんばかりに刹那の背が跳ねるように動く。
「……せっちゃん、ちょーと話があるんやけど……ええな？」
「…………は、はい」
ジト目で睨んでくる木乃香に刹那は大きく肩を落として引っ張られるように人気のない場所に木乃香に連れられて行く。
「……刹那さんって、ウッカリよね？」
アスナは誰に言うわけでもなくボソリと小さな声で呟いていた。
どうも新しい友人は木乃香が絡むと……暴走傾向があり、自爆するという欠点があると判断する。
「魔法使いとその関係者って、ホント大丈夫なのかしら？」
アスナが見てきた魔法使いは例外を除いて基本的にいい人だけど、何処か……抜けている。
ネギにしても、人助けに魔法を使うのは文句はないが……安易に使い過ぎているような気がしてならない。
「学園都市が魔法使いの支配する都市ってわけじゃないんだから、もうちょっと気をつけて欲しいわね」
裏から管理しているだけで実際に表に出ていない点を考慮して慎ましく行動して欲しいものだとアスナは思う。
（この世界は……色々あるけど、魔法使いだけが生きているわけじゃないんだから）
魔法使い達の世界がある事は既にリィンフォースから聞いていただけに、アスナはその世界が此処と同じように矛盾を抱えているのならば、まずはそれを改善す
るべきじゃないかと思う。
自分達の問題を解決する事が出来ないのに、よその問題に首を突っ込むなど……何かおかしいと言いたい。
お人好しなのが悪いとは思わないが、自分の事は自分で何とかするのが一人前の大人だとアスナは思う。
自身がバイトする事で学費の足しにしているだけに現実の厳しさをほんの少し知っているアスナだから、魔法使い達がまるで大人なのに大人になりきれていない
などと感じてしまい……ちょっと厳しく見てしまいそうになる。
自分なりに魔法とどう向き合うべきか、悩むアスナだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ＥＦＦです。
価値観、思想の違いと言った感じです。
魔法使いがこの世界に関わる理由がよく分からない。
人助け、善行らしいみたいですが、自分達の世界だってそんなに治安が良くないのに……こっちに関わっている不自然さ。
要するに、非公式で交易したいから、カモフラージュなんでしょうか？
原作ではライター輸入しているみたいでしたし、組織的な密貿易？
魔法がバレたら、安く買い叩けなくなるから秘匿中なんでしょうか？
穿って見るとそんなふうに感じるヒネた私です。
それでは次回も刮目してお読み下さい。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
＜＜前話 目次 次話＞＞