血の繋がりではなく 共に生きるのが家族なのか
そこにあるのは互いの幸福を願う それだけの事
望んだものがそこに在り 守りたいと願う
されど運命はそれを許さないのか 試練を与える
守り抜く ただそれを胸に歩みだす
答えはその先にあるだろう
僕たちの独立戦争 第二十四話
著 EFF
「…………人って簡単に亡くなるものなんですね。
クロノの記憶を見て知っていましたが実際そうなると何と言えば良いのか、解りません」
リチャードの葬儀を見ながらアクアはクロノに呟いた。
「……アクア、泣きたいなら泣いてもいいぞ。家族を失ったんだ、悲しむ事は間違いじゃない。
俺で良ければ愚痴も聞くよ、俺達は家族だろ」
優しく肩を抱き寄せクロノはアクアに囁いた。
「違います、悲しめないのです。如何してでしょうか、冷たい女なのでしょうか」
呟くアクアにクロノは、
「どうしてそう思うんだい、悲しいと思えない自分に動揺する事があるのが暖かい証拠さ。
いいお父さんじゃ無いのかも知れないけど、それでもお父さんだったんだろう。
だから悲しめない自分に憤りがあるんだろう、それが真実なんじゃないか」
頭を優しく撫でクロノは静かに告げた。アクアは俯き何も言わなかった。
静かに葬儀が続くなか、シャロンがアクアの隣に来ると話しかけた。
「まあ、勝手に生きて勝手に死ぬんだから後悔は無いでしょうね。
そうでしょう私達には家族らしい事もせずに自分勝手に生きたのですから満足でしょう。
…………ダメね、それでも憎めないから困るわ。クロノは家族はどうなさったの」
その言葉にアクアは顔を上げシャロンを睨んだ。
「俺の両親はもういないよ、もう何処にもね。
最初に失ったのは両親で次に火星の友人達、そして仮初の妻と妹だった少女、救えなかった娘、
そして自分の未来と希望を全て失って、此処にいるからね」
淡々と自分の過去を話すクロノにシャロンは絶句し、アクアは詫び続けた。
「ごめんなさい、クリムゾンが全てを奪ったんですね。貴方の人生の幸せを奪い、絶望を与えた。
それなのに私は貴方に頼ってしまう、ひどい女ですね」
「まあ気にするな、未来は変わったからそれで十分さ。後は一緒に幸せになろうな」
再びアクアの肩を抱き寄せ告げるクロノにアクアは泣き続けた。
「…………悪い事を聞いたわね、そんなにひどいの貴方が知っている未来は」
「一言で言うなら地獄ですよ、救いはなく絶望しか残ってなかった。
だから願ったのかも知れませんね、………………ただ幸せなあの頃に帰りたいと。
でもそれは間違いでした、戻ってもそれは別のものなんですよ。
一度手から零れた水を戻せないように、その手には戻る事はありません。
だから俺は此処にいるんです、アクアの側に家族として居たいんですよ」
静かに話し微笑むクロノにシャロンは何も言えなかった。
「いいのですか、……私は貴方の側に居ても」
泣きながら呟くアクアにクロノは、
「俺が自分で決めたんだ、アクアが必要とする限り側にいるよ」
「ではずっといて下さい。子供達と一緒に私の側に最後まで」
「ああ、何があってもアクアの側に必ず帰るよ。アクアが俺の帰る場所になって欲しいな」
周囲の参列者は遠くから悲しむアクアを見て、何も言えないが側にいたシャロンは、
(ああ、何とかして下さい。いちゃつかれるのは困るのですが、助けて欲しいですわ)
と困惑していたがそこにロバートが現れた。
「まあ、年寄りの前でいちゃつくのは困るな。シャロンもそう思うだろう」
「そうですわ、まあ悲しんでいる様に見えるのが救いですか。
実際悲しんでいるから良いですが、違ったら怒っていますわ」
そう話す二人にクロノは、
「別にいちゃついてはいませんよ。そんな不謹慎な事はしませんよ」
それの声にロバートとシャロンはため息を吐いた。
「本当に自覚が無いのですね、怖いですわ。まあアクアにはお似合いですね」
「大変だな、これ程とは思わなかったぞ。大丈夫か、アクア」
「…………大丈夫です、この程度では負けませんよ。ええ、負けませんよ」
「何度も言うが説明してくれないか、全然解らんのだが」
クロノのセリフは当然の如く無視された。
多少の問題があったが無事に葬儀は終わり全員が本邸に戻ると、ラピス達がクロノ達を出迎えた。
「お帰りなさい、パパ、ママ。お疲れ様でした」
「ただいま、ラピス。セレスも退屈だったかい、ルリちゃんもクオーツも部屋にいるのは退屈だったろう。
もう少し我慢して欲しいな、ごめんよ」
ラピスの頭を撫でながらクロノは話した。
「ううん、そうでもないよ。執事のおじさんがお母さんの小さい頃の話をしてくれたんだ。
だから退屈じゃなかったよ」
「そうか、後でお父さんにも教えて欲しいな」
「そうですね、ぜひ聞いてください。なかなか面白い話でした」
「ダメですよ、絶対に聞かないで下さい。聞いたらお仕置きです」
アクアが静かに笑いながらクロノに話すが周囲は何故か退いていた。
「そうかな、可愛かったんだろうな。アクアの小さい頃は庭で洋服を汚しながら遊んでただけだろう。
お転婆で困ってましたってマリーさんは話していたけど他にもあるのかい」
「それだけでは無いぞ、イタズラばかりでな、よくマリーにお尻を叩かれては泣いてたな」
「おっお爺様、恥ずかしいからそこまでにして下さい。………お願いですから」
「私は聞きたいわね。まあそのうち聞かせてもらうわ、苦労したからね」
みんなの会話を聞きながらシャロンが愉快に話すと全員が笑い出した。
その光景を見てロバートは思う。
(どうやらクリムゾンも変わりつつあるな、まあ家族としてやっていけるだろう。
ああそうだな、昔はこうだったな。私が間違っていたのだな、これもこの子達のおかげかな)
四人の子供達が笑い合う光景に失くしたものを思い出すように見つめているロバートだった。
「………守らなければな、あの子達を。この光景を忘れないようにな」
誰にも聞こえないように呟いたロバートにセレスが近づき、
「あの………お爺ちゃんって呼んでいいですか」
もじもじと話すとロバートが笑い頭を撫でながら、
「ああ、構わんよセレス。アクアの娘ならそう呼んでいいよ」
ロバートの声にセレスは笑顔で頷いてロバートに抱きついた、それを見たラピスが、
「ああ―――ずるいよ、セレス一緒にお爺ちゃんって言う約束でしょ!」
「そうだよ、約束は守らないとダメだよ、セレス」
「だって〜二人とも遅いよ、早く言いたかったんだよ。今日はずっと楽しみにしてたんだよ〜。
お爺ちゃんに逢えるのを、ねえルリお姉ちゃん」
「まあそうですが、約束は大事ですからセレスも二人に謝らないとダメですよ」
「………うん、ごめんねラピス、クオーツ」
「そうだね、早くお話したかったからもういいよ」
「僕達も悪いからいいよ、セレス」
「えへへ、ありがとうね、ラピス、クオーツ」
仲の良い子供達にロバートは微笑み、楽しそうに話す光景を見ていたシャロンはアクアに、
「いい子達ね、純粋な処が良いわね。このまま育てるのよ、貴女の悪い所は真似させないように」
「分かってますよ、ですがクオーツが心配ですね」
「そうね、クロノにそっくりだわ。………大丈夫かしら何とかしないと大変よ」
「大丈夫ですよ、何とかなりますよ。………少し改善出来ましたから」
「そうなの、なら大丈夫かもね。まあこういう光景もいいわね、アクア」
「ええそうですね、お姉さま。ずっと待ち望んでいました、家族が笑いあえるこんな時間が来る事を」
嬉しそうに話すアクアにシャロンも、
「私も家族が欲しかったのかも知れませんね、唯一それが真実なのかも」
「多分、裕福なだけでは幸せにはなれないのですわ、分かち合う家族がいるから幸福があるのかも」
「そうね、クリムゾンにはそれが無かったから………救いがなかったのでしょう」
シャロンの告げる言葉にアクアは頷き、ルリを見て、
「ルリちゃんはお父さんとお母さんに会いたいかしら、………今なら大丈夫かしら」
「そうね、まだ早いかもしれないわ。それに向こうの都合もあるでしょう」
「そうですね、一度お会いするべきかしら重要人物ですし、王族ですから公私の問題もありますから」
「……ちょっと待ちなさい、王族とはなんですかそれ程の人物ですか」
「静かにお姉さま、聴かれるとマズイですから」
シャロンに静かにする様に告げ、ロバートの方に目を向けるアクアに気付き、
「………………悪かったわ、でもそんなに重要な人物なのあの子の両親は」
「ええ、ピースランド国王夫妻の長女ですわ。その意味が解るでしょう、お姉さま」
告げられた真実にシャロンは絶句した。
ピースランドと言えば永世中立で金融関係ではトップの位置にいる国ではないか、
しかも国王の長女なら問題が大きすぎる事では片付けられない。
「あの子は情操面で問題がありますから両親と会っても良い結果にならないし、
国王夫妻にも今更娘がいますと言っても大丈夫か、相談しないと困るでしょうから」
「………………確かに継承権の問題もあるし、お爺様に相談しないと困る事になるわね」
「そんな事はどうでも良いですよ、大事なのはルリちゃんの幸せですから」
シャロンの意見をどうでもいいように答えるアクアにシャロンも考え始めた。
(そうかも知れないわね、あの子の望むようにすればいいかしら。大事なのはそれね)
「いずれ向こうから連絡がありますから、
その時までにあの子の情操面を育てて自分で決められるように出来ればいいですわ」
「知ってるのね、この先の事をどうなるのかしら」
「………………家族が理解できず、親権の放棄になります。そして一人で生きる事になりますわ」
「そう、それもいい事じゃないわね。今なら大丈夫だけど……それを回避したいのね」
「万が一の為にあの子を守れる場所が多いほうがいいと思うのです。未来は変わっていますから」
「やはりお爺様に相談するべきね。私達より良い考えがあるかも知れないし、
国王夫妻に会った事もあるはずだから、対処の仕方も解るでしょう」
「お爺様の負担になりませんか、今更ですけど」
アクアの意見にシャロンは苦笑して、ルリ達の方へ顔を向けて話した。
「遅いわよ、それにお爺様もあの子が気に入ってるから大丈夫ね」
仲の良い姉妹のように笑いあう子供達を微笑ましく見つめるロバートを見て、
「そうですね、お爺様に相談しましょう。大事な妹の未来ですからね」
「苦労するのは私達、報酬はあの子の幸福なら悪くないでしょう」
「ええ、お姉さま。何も問題はないですわ、それで十分です」
微笑むアクアにシャロンも微笑み返して思う。
(まあ、私も変わったものね。でもそれも悪くはないし、いい事でしょうね)
こうして穏やかな時間が過ぎていった。
ただ全員が望むのは家族が幸せである事だった。
―――ナデシコ ブリッジ―――
「それではナデシコ発進します。進路は欧州戦線に向けて下さい」
「は〜い、いいわよ出航するわよ。忘れ物はないわね〜」
ミナトの声にブリッジは明るい雰囲気で応えた
ナデシコは二ヶ月の改修を終えてサセボ地下ドックから出航した。
ブリッジは女性のオペレーターが増えた為に、男性クルーの居心地は良くなかったが、
ウリバタケに言わせると甘えるな羨ましいぞと魂の叫びが出て、スパナが飛んで来た。
「でも、きついんですよ。ウリバタケさんには天国かも知れませんが僕には地獄に思えます」
「まあ艦長のセリフには納得出来ますが我慢して下さい」
「そうだぞ、任務に問題はない。頑張れ」
プロスとゴートの慰めにジュンは肩を落とした。
「艦長!俺達は地球を守るんだぜ!泣き言はいいっこなしだぜ」
「………そうだね、ダイゴウジ君は気にならないのかい、この雰囲気が」
「何がだ、よく分からんが俺は地球を守る為に此処にいるんだ。全然気にならんが」
「ダイゴウジ疲れているなら医務室で休んでいいぞ、まだ作戦には時間があるからな」
「どうしてそうなるんだ!俺は真面目に話しているぞ!」
ある意味とても真面目なセリフだがクルーは信じられなかった。
…………日頃の行いがいかに重要か問われる場面だった。
「まあ問題はありませんし、ヤマダさんも無事改名出来ましたので良かったですな」
「ダイゴウジ・ガイ……正に魂の名に変わった俺は無敵だぜ!キョアック星人など敵じゃないぜ!」
「まあいいけどね〜、アクアちゃんに感謝しなさいよ〜。そのままじゃ気が付かなかったでしょう」
「確かにアクアさんがいないとヤマダさんのままですね」
「前任の方ですね、アクア・ルージュメイアンさんでしたか腕のいいオペレーターと聞きましたが、
ホシノ・ルリさんより上の実力があったそうですね、驚きましたよ」
「セリアさんは知りませんでしたね、アクアさんはIFS強化体質者ですよ。
ですから貴女方と比較する事が出来ませんよ」
「おかしいですね、公式ではホシノさんが最初の筈です。アクアさんは年上ですから違うのでは」
「いえ、アリマさん……彼女は自分をプロトタイプと言ってました。それが真実でしょう」
「……そうですか、生き残ったんですね。…………あの地獄から」
「何かご存知ですか」
「自殺した叔父が研究してたみたいなのです。途中で逃げ出したと言ってましたが最後は後悔の末に……。
資料は残ってないのでどうか分かりませんが、ヒドイものだったそうです」
静かに話すカスミにブリッジは沈黙したがミナトが、
「まあ本人は気にしてないし会っても大丈夫よ。もしかしたら叔父さんが助けたのかも知れないわよ。
保護してくれた人がいるみたいだから」
「そうだといいですね。叔父は何も言わず亡くなりましたから、気になっていたのです」
「すいません、ネルガルも資料が殆ど失われているのです。
前会長が極秘に行われた事で、会長もご存知ない事が多くて手探りで調査をしている状況です」
「でも強くて優しい人ですよ、いつも笑顔でいましたからどんな時も頼りになりましたし、
いろいろ教えてくれました。自分は何故此処にいるのか、何が出来るのか、
大事な事を考えさせるように注意してくれましたね」
「そうね〜メグミちゃんの言う通りね。回りに気配りが出来る人よ〜、ねえ艦長」
「ええ、僕より艦長に相応しい人物ですね。柔軟な戦術が出来るしクルーの信頼もありました。
ですが僕もこれから信頼を得て艦長になりますよ」
「まあ大丈夫ね、前の艦長よりはマトモだからね〜〜」
「それ知ってますよ〜、ヒドイ艦長だって聞いてますよ。
ナデシコ一隻で火星に喧嘩を売った馬鹿って、本社では聞きましたよ。
ミナトさん、冗談ですよね〜そんな事はしませんよね、無謀ですよ」
アリシアが笑いながら訊ねるがブリッジは沈黙した。
「…………えっとまさか本当なんですか、冗談だと思ってたんですが嘘ですよね」
ブリッジの様子にアリシアが混乱し始めるとミナトが、
「まあ、気にしちゃダメよ〜。今の艦長は常識人だから大丈夫よ」
「そうですよ、だから大丈夫です。泥船じゃないですから安心して下さい」
メグミのフォローはあまり効果が無かったが、
「大丈夫だ、その艦長はいない。そんな馬鹿は私が叩きのめすから安心しろ」
グロリアが毅然とアリシアに答えた。
その言葉にジュンは考える。
(えっと僕も馬鹿をすれば地獄に行くのかな、冗談だと思うんだけど確認するか、
いや冗談じゃなかったらどうすればいいんだ、聞けないぞ………怖くて)
………苦労症の艦長であった、彼の負担は増え続けるかそれはこれから分かる事になる。
補充されたクルーもナデシコに相応しい人物のようだった。
―――木連作戦会議室―――
「閣下、もうしばらくこの作戦は延期できませんか。せめてあと一月、時間が欲しいのですが」
「ダメだな、これ以上は引き延ばせない。火星に一泡吹かせるには今しかないのだ」
「ですが戦力が足りませんよ、作戦に支障が出ますよ。その点はどうするのですか」
「簡単な事だよ、プラントの生産を軍事に全て回せば問題はない」
草壁のこの発言に秋山は言葉を失い、一部の士官も呆然としたが、
「市民にどう説明するのですか、食料の生産や、流通もおかしくなりますよ。
ただでさえ先の火星の攻撃で市民から不安が出ているのに更に煽るつもりですか」
「勝てば良いだけだよ、そうは思わんか白鳥少佐」
「勝てばなどと簡単に言わないで下さい。この瞬間も火星は戦力が強化されているのですよ。
そんないい加減な事は口に出さないで下さい、高木少将」
「何を言うか!我々が負ける事はないこの作戦は必ず成功するさ、
地球とてこの大艦隊に勝てる事は出来んよ、正義は我に在りだよ」
「まあ、秋山中佐の意見も考えようではないか、市民に不安を与えるのは問題があるからな。
では二ヶ月作戦は引き延ばそう、それなら問題はないだろう」
「それでも危険です、火星がこちらを監視しているのは明らかです。迂闊な事は出来ませんよ」
「だから余計な小細工が出来ないように数で叩き潰すのだよ。
一万隻の大艦隊では火星など勝てはしないのだよ、そしてその勢いで地球へ進軍するのだ。
我々の正義を奴等に見せつけるのだ、木連の正義を知らしめるのだ」
草壁の宣言に士官達は血気盛んに叫ぶが、秋山は木連の最期を見ているように感じていた。
「では閣下もこの作戦の陣頭に立たれるのですか」
「いや高木少将に任せる、高木君、吉報を期待するよ」
「はっ!お任せ下さい、見事火星を落として見せましょう。そして閣下の正義を実現しましょう」
「うむ、人員は君が決めたまえ君の作戦が上手くいくようにすればいい。
必ず勝利したまえ、では準備は任せるよ」
(馬鹿な、これでは木連が終わる事になるぞ。閣下はどうなされたんだ)
秋山は草壁の変貌に狂気が見えている事に気付き始めた。
秋山は場所を変えて白鳥達と相談していた。
「おそらく高木少将は子飼いの部下達でこの作戦を実行するだろう。九十九はどう思うこの作戦を」
「おかしすぎるな、………何か裏があると思うな。
艦隊そのものを囮にして別の作戦をするのかも知れんな、それなら理解できるな」
「馬鹿を言うなよ、九十九。それだけの価値があるのか、別働隊がする作戦は」
「そうですよ、白鳥さん。そんな事は考えられませんよ、
………やはり戦況を変える為に無茶をしてるのではないですか、閣下らしくないですが」
「焦っておられるから、賭けに出られたのではないですか」
「違うな、閣下は最初から火星を手に入れる事を考えられていたのだろう。
火星に自分が支配者になる為の何かが在るんだろうな、木連の住民の移住など二の次なのさ」
秋山の発言に全員が耳を疑ったが、今までの草壁の行動に納得できる事も事実であった。
「さてどうするか、このまま行けば火星の報復が始まるな。………木連も終わりかな」
「馬鹿を言うな、源八郎!この作戦が成功すれば問題はないだろう。不吉な事を言うなよ」
「元一朗、この作戦は殲滅戦だぞ。お前は火星の住民を殺しつくす事ができるか、俺には出来んよ」
「つっ九十九、作戦なんだから仕方がないだろう。それに降伏すれば問題はないだろう、
そこまではしないさ、高木少将もな」
「無理だな、彼は自分の正義に酔っているから人を殺したなんて考えもしないさ。
火星は降伏などしないさ、最期まで戦い木連を許しはしないな。
逆に市民船を先に攻撃するかもな、………心中かなこの場合は」
秋山の予測に全員が顔を青くしたが秋山は平然として話した。
「まあ、火星が負ける事に期待しようか、俺達には出来る事は余りないからな。
木連と心中なら悪くはないしな、
閣下の変貌に気付かず戦い続けた責任を取らないとな、市民船を守って死ぬならいいさ」
「責任を取るならもう一つあるだろう、それをしないのか源八郎」
「それは考えたが無理だな、暗部の守りが堅くて俺一人では不可能だな」
「しかしそれはマズイですよ、こんな時にそれをすればどうなるか」
「南雲もそう思うか、最悪の事態は避けられるかと思ったんだが無理かな」
「自分もそう思います。今の閣下は危険です、市民に巻き添えが出るかも知れません」
「だがな新城、このままだと確実に木連は潰れるぞ。それは分かるだろう」
「ええ分かりますよ、失敗は許されませんよ。成功しても……その先は無いですよ」
「なに、責任は俺の首でなんとか許してもらうさ。あとは九十九とお前達が木連を守れよ。
一応年長者だからな、このくらいは当然だろう。独裁を許した罪は償わないとな」
この瞬間、木連の未来を変える事態がようやく起こる事になる。
まだそれを知る者は少なかった。
―――火星作戦会議室―――
無人機からの報告にグレッグは呆れた様子でエドワードに話した。
「何を考えているのか、どうすればここまで出来るのか知りたいな。木連は馬鹿共が多いな」
「そうだな、ダッシュ現状を教えて欲しい。どの位の戦力になるかな、
どう対応すればいいか意見を聞かせて欲しい。分かる範囲で構わないよ」
『艦隊の数は一万隻になります。その殆どは無人艦隊ですが指揮は有人部隊です。
部隊は高木少将が率いる事になりますが………この人物は危険ですね、現実が理解出来ていません。
このままですと火星に殲滅戦を仕掛ける事になりますね、どうしますか』
「迎え討つしかないか、侵攻ルートが分かり次第作戦を立てる必要があるな。
おかしいな草壁がこんな下策をする事はないから、何か裏があるかも知れんな」
『グレッグさん、一つは陽動かも知れません。艦隊に注意を向けさせ暗部による強襲が考えられます。
もしくは遺跡の演算ユニットの強奪かもしれません、私が推察できるのはこの二つです』
「ふむ、艦隊が勝てば良し、負けてもその隙を突いて暗部によるテロ行為か………汚い事だな」
「ですが無駄はありませんね、VIPの家族の安全を確保しましょうか」
「いやそれより市民の安全に気を付けよう、実験体として誘拐されるのは避けたいな。
奴等の恐ろしさはクロノから聞いているだろう、それをさせる訳にはいかんな」
「タキザワさん、草壁は火星の政治家達を知っていますか」
レイの意見にタキザワは少し考えてから答えた。
「いや奴等はそんな事には注意してなかった、クリムゾンも教えなかったから情報は何もないだろう」
「では演算ユニットの強奪が確実ですね、ダミーをわざと奪われた振りをしますか」
「ダミーは爆弾ですから暗部を呼び寄せるエサとしては十分ですね、
クロノに指揮をさせて北辰を倒させて、ダミーは木連に行くようにすれば最高なんですが」
『それは難しいです、艦隊に対してマスターがいないと勝率は下がります。
マスターがいれば勝てますがいないと50%を切りますよ、危険です』
「そこまでの差があるのか、ハーメルン・システムを使うからか」
『いえ相転移砲も外していますから、単純な攻撃力でその差がつきます。
マスターは乱戦に強いですから数が多い程、戦いやすいでしょう。
そういう戦いをこなして生き残りましたから、数では勝てません兵の質が高くないと負けますよ』
「そうだな、たった一人で絶望と戦い続けた男だからな、………無人機ごときでは問題にならんか」
『その通りです、有人兵器でも数で押す事は難しいです。
昔はお体の問題がありましたが、今はその問題も解決しましたので弱点は無いでしょう。
太陽系最強のパイロットの名はマスターに相応しいモノです』
「そうですね、私達が束になっても勝てませんし、教わる事が山のようにありますね。
経験と覚悟に絶対的な差がありますよ、修羅場を潜り抜けた者しか追いつけないと思います」
エリスが自分とクロノの差を全員に話すと会議室は静まり返った。
「………まあ、その事よりも木連をどうするか。
これを考えないとね、どうするのダミーの演算ユニットを渡すの」
「イネスさん、ダミーとばれる事は無いですか、爆発の範囲はどれくらいですか」
「そうね、ばれる事はないでしょう、同じ材質で作られているから判断するには研究施設がいるわね。
暗部には判断できないわ、先の攻撃で人材を失ったし火星まで連れて来る余裕は無い筈よ。
爆発の範囲は広いわよ、コロニー船を一つ丸ごと相転移するから被害は大きいわね」
『そうですね、木連の科学班全員がこれで全滅しますから木連は終わりですね。
運が良ければ暗部も巻き添えをくって全滅しますね』
「起動して五分掛かりますがそれだけの威力があれば充分ですね。
では予定通り北極冠は放棄した振りをしましょう、ダッシュの監視体制だけに任せます」
エドワードが決断し、全員がそれに従い作戦を立案するべく考え始めた。
『大統領、都市の監視レベルを最大に変更しますがよろしいですか。
あとは各施設のセキュリティーをもう一度見直したいのですがいいですか』
「構いません、市民の安全を守って下さい。あとは専門家の意見も聞きたいですね。
コウセイさん、市民は動揺しませんか今回の木連の行動に対して」
「それは大丈夫だろう、逃げる事は出来んからな。……大人は覚悟しているみたいだな、
テンカワファイルを見たせいで一時は不安になった者もいたが、
今はカウンセリングも万全にしているから、今回の事もそれ程動揺はしとらんよ。
むしろ子供達の方がタフだな、元気なもんだよ。おかげで大人も落ち着いてるみたいだ」
コウセイの報告にエドワードが全員に話した。
「子供達は我々を信じてくれるみたいです、それを裏切る事は出来ません。
この艦隊を撃破し木連に火星の実力を再確認させて、決断を促しましょう。
最悪は市民船への攻撃も考えなければなりませんが、
…………この責任は私が全て負いますので確実な作戦を考えて下さい」
エドワードは全員を見ながら木連への攻撃を始める事を決断した。
「待て、お前一人に責任を負わす気はないぞ。これは議会を通す必要があるな、
わしも木連を攻撃する事は賛成だが民主主義の火星では市民にも決断してもらう事が必要だぞ」
「その通りですね、この作戦が終わり次第火星の市民に決めてもらい、
その後に地球と相談して木連への攻撃を承認させましょうか」
コウセイの意見にエドワードが補足した意見を出したところへイネスが、
「その方がいいわね、このまま戦争が終われば地球も納得できないし、問題が出るかもね」
「そうですね、地球も殴られたままでは困るでしょう。不満を火星に向けられると困りますね」
レイもイネスの意見に賛成しエドワードも納得した。
「独裁者の悪あがきに付き合うのはいい加減にしたいな、これが最後になればいいな。
次は地球の動きに注意しないといけないかな、………ネメシスを造られるのは困るからな」
グレッグの意見に全員が賛成し、次の問題にどう対応するか考え始めた。
ただ願うは平和な環境を子供達に与え守るそれが大事な事だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
今回のお題は
ガイ、魂の名に改名する。
ジュンの苦難の日々が始まるです。
構想予定初期では全三十話を目処にしていたのですが伸びそうです。
余計な事を書き過ぎるからでしょうか。
外伝は何時書けるのか、期待されるのも困りますが(爆)
それでは次回にまたお会いしましょう。
感想
お話も大分盛り上がってまいりました!
木連は草壁の独走によって崩壊が早まった感じですね…
ですが、地球側も今一戦力不足。
火星は俄然優位に立ち始めています。
木連内にも草壁春樹否定派のようなものが出来始めていますね…
うん、方向性がはっきりし始めたね。
ただ、現状だと火星のボソンジャンプ技術独占と言う形になる可能性がある。
その場合も実は大変だと思うんだけどね。
それはどういった意味ですか?
いや、火星人の逆襲じゃないけどね。
簡単に言えば、恨みからの火星側からの侵略なども考えられる。
確かに…無いとは言い切れませんが…
多分そまでは行かないんじゃないですか?
でも、戦力比が傾き始めているのは確かだしね…
そうはいっても…一体何が出来るんですか?
そりゃ、聞くまでもない事だと思うけど。
木星の支配から、続けて地球との戦争。
地球にも見捨てられた恨みがあるからね、ちょっとした動機で動き出す筈だよ?
そうなんでしょうか? 火星の人たちが哀れに見えてきます…
でも、一番操り安いんだよ復讐心というものはね…
…。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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