未来は変化を始めていた

火星は生き残れるかまだ分からないが

地球と木星の犠牲にはならないだろう

だがそれが正しいか分からない

それは歴史が決めるだろう



僕たちの独立戦争  第二十三話
著 EFF



「港湾施設は一部は破壊されましたが、無事防衛出来ました。

 おそらく今回の攻撃が火星の単独での攻撃でしょうな、次は地球との協同作戦の可能性が大きいです。

 約半年は攻撃は無いと思いますので艦艇と無人機の補充が出来ますので、

 防衛態勢を整える事が出来ますな」

秋山の報告に士官達が安堵するが草壁は苛立つ声を出した。

「何故コロニーを守らなかった、この失態をどう説明するのかね、秋山中佐」

「どうして廃棄されたコロニーを守る必要がありましたか、

 閣下は港湾施設を最優先で防衛するように、命令されましたので我々はそれを守りました。

 廃棄コロニーですので問題はありませんが、運が良かったですな市民船に攻撃が向かわなくて。

 それより閣下は市民にどう説明しますか、今回の火星の攻撃を」

何も知らない士官達の前で草壁はこれ以上言えず、秋山の意見に答えた。

「今回の攻撃は地球の攻撃と発表し艦隊は撃沈、次の攻撃は無いとする以上だ」

「また火星が攻撃してきたらどうしますか、市民を騙す事になりますがよろしいのですか」

「構わんよ、中佐が言ったのだぞ。攻撃は半年は無いと」

「………そうですな、では攻撃が無い事に期待しましょう。地球の戦線はどうしますか」

「このまま維持するだけだな、戦力が整い次第再攻撃を開始する」

「閣下!これ以上戦争を続けるのは危険です、今なら有利な条件で和平も可能です。

 地球と一度会話のテーブルについてはどうでしょうか」

「無理だな、白鳥少佐。我々は存在すら認められていない、これではどうにもならんよ。

 それに我々の正義が負ける事は無い、必ず勝ってみせる。今は我慢の時だよ、勝利の為のな」

草壁の宣言に士官達は続いたが、一部の士官は疑問を抱いていた。

このままで大丈夫なのか、この戦争は本当に正しいモノなのかと。


会議を終え執務室に戻った草壁は今回の被害状況を考えていた。

秋山中佐には言わなかったが攻撃されたコロニーは木連の兵器開発施設で、

今回の攻撃でスタッフはほぼ全員を失った事であった。

一部のスタッフは無事だが山崎を中心とした部下達を失ったのは大きな痛手になっていた。

兵器関連は何とかなるが、ボソンジャンプ、遺跡に関する事は難しい状況になってしまった。

この先どうするか、ここまで強引な戦術できた草壁には防衛と言う弱気な戦術は出来なかった。



―――火星作戦会議室―――


「今回の攻撃で木連の継戦能力はかなりのダメージになるでしょう。

 当面は兵器部門の建て直しに時間が掛かり火星への侵攻は無いと思われます」

「そうですか、ところでタキザワさん。木連は休戦を申し込んでくると思いますか」

「こちらから申し込めば考えるでしょうが、木連からは無いでしょう。あの国は異常な国家ですから」

「………どうにもなりませんか、では火星はどういった戦略で臨みますか」

「当面は木連の監視を行います。無人機による木連内部の監視は続いています。

 今回の攻撃も地球からの攻撃になっています、市民からは戦争に不安を持つ者も出ていますね。

 こうして軍部への不信を煽る事は重要になりますね」

「では監視の続行を続けましょうか、地球の状況はどうですか」

「反撃の準備を整いつつありますね、地球上にあるチューリップの破壊が進んでいますわ。

 月の攻略戦の準備も始まりましたし、軍も忙しそうですわ、エドおじ様」

「問題は木連攻略時に火星に駐留する軍が問題を起こさないか、それが焦点になるな。

 火星に逮捕権、裁判権、拘留権を与えてもらう、これが駐留の条件にしないと大変な事になるかもな」

「そうだな、クロノの言う通りだ。

 地球の軍隊は横柄な奴等が多いからな、火星で犯罪を起こす可能性があるな。

 ただでさえ火星を放棄し逃げ出した軍に住民はいい感情は無いし、犯罪でも起きれば問題だな」

「そこなんだよ、グレッグさん。その事を軍が知らずに住民とトラブルが起きれば、

 今度は火星と地球の戦争に発展する可能性も出てくる、地球の政治家がそれに気付いているか、

 それを理解させないと危険だな、そうか火星を後回しにさせて木連を独自に攻撃させるかだな」

「では私がクリムゾン、ネルガルに行き相談しましょうか、火星の代表として。

 おじ様が表から連合政府に相談し、裏から手を回すのは悪くは無いでしょう。

 私とクロノならネルガルへの対処も出来ますし、問題は無いでしょう」

「そうですね、タキザワさんは木連の担当を続けて貰いますし、

 火星は当面作戦行動はありませんからアクアの子供達を避難させるにはいいかも知れませんね。

 草壁の事ですから、暗部を火星に送り込む可能性がありますから気をつけないと大変ですから」

『レイさんの言う通りです、考えられる状況は小型チューリップによる連絡艇による独自の行動ですね。

 この方法ならば現状でも行える事が出来ます、火星での監視の強化も必要です。

 住民を誘拐したり、火星の施設へのテロ行為、VIPへの暗殺が考えられます』

「……監視の必要がありますね。住民にも注意を促す必要がありますか、ダッシュ」

『いえ大統領、推測の状況ですので不安を煽る必要は無いと思います。

 ですが職員には非常時の対応は出来るように対策を考えましょう、

 ですがラピス達はアクア様が保護するべきです。北辰に白兵戦で対抗できるのはお二人だけです。

 山崎亡き現在、北辰率いる暗部が火星の最大の問題になるでしょう』

「グエン達、クリムゾンSSをガードに回しても無理ですか」

『いえテニシアン島なら防衛体制も出来てますので安心ですが、

 過去では小型チューリップが落ちたので、落ちたら即破壊して下さい』

「そうですね、ブレードの対艦装備を配備して置きましょうか。後バリアの設置でいいですか」

『はい、それで十分だと思います。

 万一の時は子供達を避難させて北辰達を此処に誘導してマスター達で処理しましょう』

「すいませんが北辰とはそれ程の人物ですか、火星は大丈夫ですか」

『大丈夫です、エリスさん。かつては小型ディストーションフィールドがありましたが、

 今は無いでしょう、銃撃戦で対処すれば被害も最小で済みますし、

 マスターに連絡を取り対応してもらいますので大丈夫でしょう、いいですかマスター』

「ああ、それでいいよダッシュ。俺はここで決着をつける事に問題は無いさ」

こうして火星は次の事態への対策を考え始めた。

最悪の事態を避け、未来を変えていく為に。



―――クリムゾン 会長室―――


「………そうか、リチャードは死んだのか」

「はい、遺体の確認も終わりこちらへ搬送されます」

「空母への視察などするとは………馬鹿な事をしたものだな」

「安全は確認されていたのですが、無人機による単独活動による攻撃だそうです」

「随行した政府の高官達も死亡したのか」

「はい、ですがこれでクリムゾンの癒着が大幅に減りますから………申し訳ありません、会長」

「…………いや構わんよ、事実だからな。

 火星に連絡を取らないとな、シャロンとアクアに葬儀に出て貰う必要があるな」

「そうですね、申し訳ありませんが葬儀には出ていただかないと」

「分かった私から連絡しよう、他に問題はあるかな」

「いえ、問題はありません。以上です、会長」

「そうか、では少し席を外してくれんか……悪いが予定を変更してくれ」

「分かりました、では失礼します会長」

気落ちするロバートを見ながら会長室から退室した秘書はロバートの予定の変更を始めた。

クリムゾンの重役陣最初の犠牲者は社長のリチャード・クリムゾンであったという皮肉に、

クリムゾングループが動揺しないか心配していた。


―――テニシアン島 アクア私室―――


「それは本当ですか、グエン。お父様が亡くなったというのは」

「はい、シャロン様とアクア様に葬儀に参列するように会長からご連絡がありました」

「……そうですか、お姉さまはどうされますか。連絡はありましたか」

「クロノが迎えに行きました。まもなく、いえ着いたみたいです」

グエンの報告の途中でクロノがシャロンを伴って部屋に入ってきた。

「アクア、お父様が亡くなったと聞いたのですが本当ですか」

「はい、本当みたいです。お爺様が葬儀に参加するようにと連絡がありました」

「そう………、グループはどうなってますか」

シャロンはアクアの側にいたグエンに訊ねた。

「グループ全体も動揺していますが会長が陣頭に立たれ抑えておられますが、

 重役陣最初の犠牲者ですので動揺も大きいみたいです」

「………ではアクア、急ぎましょうか。お爺様の手伝いをしないといけませんね」

「そうですね、お姉さま。クロノは子供達を守って下さいね、私達だけで行きますので後は任せます」

「ダメよ、クロノはアクアの婚約者として来てもらうわよ。アクアもグループに顔を出しなさい。

 子供達はマリーとグエン達に任せて一緒に連れて行くわ、いいわね」

「いいのですか、勝手な事になりませんか。お爺様に迷惑をかけるのではありませんか」

アクアの心配にシャロンは、

「いいわよ、クロノは後継者候補みたいだし、問題はないわね」

「ちょっと待った!俺はそんな事聞いてないぞ、何時決まったんだ」

クロノの慌てる声にシャロンは、

「お爺様が期待してたわ、アクアのお婿さんにはクリムゾンを任せてもいいかなって」

「そうなんですか、お姉さま。冗談ですよね、そんな事はしないでしょうお爺様も」

「どうかしら、私やアクアが継ぐ事はそれ程重要になっていないみたいね。

 オーナーとして経営に意見を出す位にするつもりみたいですわ、なら問題は無いでしょう」

「ではお爺様に相談しましょうか、お姉さまは継ぎたくはないのですか」

「いいわ、別に無理にする気はないわ。私には荷が重いわね、離れて考えると良く分かるわ、

 ……時には非情な決断が出来ないとダメなのよ、それが私には出来ないのね。

 これでは無理ですわ、潰れるのが関の山ですわ」

静かに告げるシャロンにアクアは何も言えなかった。

「まあ相談には乗るからいつでも話してくれればいいわ。責任の全てを放棄しないから安心しなさい」

「お姉さまが後継者になって欲しいんですが……無理ですね」

「今は無理ね、この先は分からないけど選択肢は多くある方がいいでしょうね。

 それも考えておきましょうね、では移動の準備を始めましょう」

シャロンの指示でグエン達が準備を開始するとクロノが、

「やっぱり姉妹なんだな、ここ一番の決断はアクアと似ているよ。

 ロバートさんもそうだし経営者としては才能があるのかもな」

「そうね、お父様がいい加減だから私もアクアもクリムゾンを嫌ったのね、

 権力に拘り挙句に勝手に死ぬなんて、自分勝手に生きて…………嫌な人ね」

シャロンが胸の蟠りを吐き出すように話すとクロノが頭を撫でながら、

「でも父親だからどこか憎めなかった、家族なんてそういうものさ。

 泣きたい時は泣いても良いんだよ、無理をする事はないさ」

「クロノ、お姉さまを口説くのは止めて下さいね。怒りますよ」

静かな迫力のアクアにクロノは、

「まっ待てアクア、俺はそんな事はしてないぞ。何故そうなるんだ分からんぞ」

慌てるクロノを見ながらシャロンは、

(確かに自覚のない女たらしですね、危なくその気になりそうでした。

 アクアも苦労しますね、いい気味ですわ)

と良からぬ事を考えていたがアクアが、

「お姉さまもクロノに惚れましたか、ですがクロノは渡しませんよ」

「なっ何故そうなります!貴女がキチンと管理しないから問題が起きるのですよ」

「冗談ですが…………顔が赤いですよ、まさか本当にそうなんですか!」

「なあ、俺には何の事か分からんぞ、詳しい説明を求めたいが」

「「黙って下さい!!」」

「………はい」

「アクアも苦労しますね、まさかここまでとは思いませんでしたわ」

「だっ大丈夫です、いっそクリムゾンのトップにして忙しくさせるのは良いかも知れませんね」

「周りを男で固めれば良いかも知れませんよ。平穏は保たれるでしょう」

クロノを見ながら二人は考えていたがグエンは、

(無理でしょう、自覚が無いから如何にもなりませんよ)

と諦観しアクアの苦労に意見を述べる事にした。

「それではこのままテニシアン島で生活するのはどうですか、

 アクア様とお子様達の家族だけなら問題は無いでしょう、オーナーなら意見を出すだけで良い筈です」

「それも良いですが子供達には友人が必要ですし、……難しいですね」

「確かに友人は必要ですわ、あの子達には味方が多いほど安全ですから。

 ただ……クオーツは問題がありますね、クロノと同じですからまさに親子と言えますわ」

「だから意味が分からんのだが説明を………」

クロノの意見は無視され二人は準備が終わるまで話し合っていた。

グエンはクロノの肩を叩いて慰めていたが自業自得だと何処かで思っていた。

こうして準備が終わり一行はクリムゾンの本社へ向かった。



―――ネルガル会長室―――


会長室にエリナと通信でプロスと相談していたアカツキは、

「クリムゾンも大変だね、まさか社長が死ぬなんて思わなかっただろうね」

『ですがこれでクリムゾンは健全化され良い事になるので、ネルガルも困りますな』

「そうね、会長と社長の対立が無くなるわ。クリムゾンの一本化が出来るから今以上に発展するわ」

「そうだね、この戦争でクリムゾンは大きく変化しているよ。

 今のクリムゾンはかなり社会に信頼されてるよ、昔以上に連合に食い込んでいるからね」

『非常時の協力体制の強化を確立しましたから、ネルガルはナデシコの一件が響いていますな。

 この件には責任を感じますよ、それからアクアさんから連絡がありました。

 『ネルガルにこの戦争に於ける地球と火星の状況について相談したい』とありますがどうしますか』

プロスの報告にアカツキは目を閉じ考え込み、しばらくして答えた。

「………そうか、火星も地球連合の暴走に危惧しているんだね。

 ナデシコのプロス君が窓口で相談に乗る事にしよう、僕やエリナ君は不味いからそれでいいかな」

「確かに問題があるかもね、私も兵器開発の方で手が離せないしそれが良いわね」

『ではその方向で進め、随時連絡します。

 まもなくナデシコの改修も終わりますので、報告書をそちらに送りますので確認をお願いします』

「対艦フレームは問題の洗い出しは終わったかしら、かなり急いで製作したから問題は無かった」

『特に問題は無く一部改良したので、それも報告書に書いてあります。

 後はナデシコと同様に実戦データーを出しながら更に改良するそうです』

「判ったわ、変更は随時本社に送ってもらうわよ。ナデシコは遊撃艦として行動するから注意して、

 軍もまだ信用していないから危険な任務とかになるから」

『はい、皆さんにも注意を促しますので大丈夫でしょう。では失礼します』

通信を終えアカツキはエリナに訊ねた。

「ナデシコはいいけど、コスモスの状況はどうだい順調かい」

「ええ、ナデシコでの問題点を直しているから時間が少し遅れたけど、無事出来上がるわ。

 これで月の攻略戦に間に合うわね、月を取り戻せば好転するわ」

「月の攻略戦にクリムゾンの戦艦も出るんだね、そっちの方はどうなってるかな」

アカツキの質問にエリナは苦い表情で答えた。

「アスカと協同で製作した艦が出るわ、スペックはコスモスと同じくらいね。

 まあコスモスはドック艦の面もあるから軍もこの先の事で納得してるけど不満はあるみたい」

「3番艦の準備は出来てるよね、計画は早めるようにしようか」

「カキツバタね………そうしましょうか、4番艦も準備を始めるわよ」

「ああ、おそらく半年後辺りに反撃があると思うんだよ。その時の準備を始めておこうと思うんだ」

「どうして……火星の報復戦の影響かしら」

「多分火星は時間を稼ぐ為の作戦しか出来ないからね、木星も火星には攻撃は迂闊には出来ないし、

 そうなれば地球が先に狙われるよ、そうだろうエリナ君」

「そうね、火星に攻撃は私ならしないわ。では準備を急ぎますよ会長」

「ああ、問題ないだろうね。どうせ軍に渡すから早くても悪くはないだろう。

 念の為軍には確認しておこうか、2隻先行して造りますが問題はありますかと」

「多分軍も宇宙軍の再編を始めるから確認はいると思うわ、クリムゾンとは半分になるわね」

「まあしょうがないね。エリナ君、時間が出来れば相転移エンジンでの旅客船を設計して欲しい。

 戦後を考えるとジャンプシップに変更するにはディストーションフィールドが絶対にいるからね、

 そうなると相転移エンジンは不可欠になるから」

「それもそうね、生体のジャンプはフィールドがいるわね。火星はその点はどうしてるのかしら」

「これは勘なんだけど、あれは火星の住民にしか使えないのかもしれない。

 そう考えると納得出来るんだよ、火星がテンカワ博士の息子を要求したのも其処にあるかもね」

「火星に遺跡があるからかしら、だとすると私の研究は無駄になるわね」

残念そうに話すエリナに、

「実験はどうしたんだい中止にしたのかい、まだ続けてるのかい」

「有人はしないわ、無人機で資料は揃えているけど上手くはいかないわ」

「そうか、無人機は何処にジャンプアウトするのかな、どう思うエリナ君」

「何処って…………考えていないわよね、えっと問題あるわね……まさか!」

「そういう事だよ、木星に行くんじゃないかな、チューリップは木星の物だし…………ヤバイかな」

想像に顔を青くしていくエリナにアカツキは話した。

「どうしようか中止をした方が良いかな、チューリップから兵器が出て来たら大変だし」

「中止させるわ、本社はそれで承知するけど他はどうなるか判らないわ」

「そうしてくれないか、C・Cは確保すればいいだろう。でも最悪の事態は避けたいな」

「ナデシコがC・Cでジャンプ出来たからジャンプの鍵ではあるわね。

 火星はどうしてジャンプを実用化出来たのかしら、そこが解らないのよ。

 何故かしらテンカワ博士のレポートだけで其処まで出来るのかしら」

エリナの疑問にアカツキは答える事が出来なかったが何処か納得できる問題だった。

「ボソンジャンプとは何なのだろうね、ただの空間移動かな。それともまだ何かあるのかな、

 火星はそれに気付いたのかな、だとするとそれが問題になるね」

アカツキの呟いた声にエリナはボソンジャンプの問題点にようやく気付き始めた。

エリナ自身もボソンジャンプについて何も知らない事に気付き不安を感じ始めていた。

【未知の技術ボソンジャンプ】その一言で終わりにする危険にネルガルも気付いたが、

もう戻る事は出来ない事にまだ誰も気付いていなかった。


―――サセボ地下ドック ナデシコ―――


格納庫にいたウリバタケにプロスが近づき質問した。

「ウリバタケさん、パイロットの皆さんは対艦フレームを使えますか」

「おう、全員使えるな後は補充されるパイロット次第だな。何人来そうだ」

「一応四名来られます、軍から一名他はウチから来ますが、

 能力は一般の方ですからいきなり対艦フレームは無理があるかもしれません」

「まあそうだな、ウチはエース級ばかりだからな更にアクアちゃんが鍛えたからな、

 差が広がっているかもな、……まあ訓練プログラムを残してくれたから大丈夫だろう」

「そうなんですか、…………ではそれも本社に送りますか」

ウリバタケに訊ねるプロスに苦い顔でウリバタケが応えた。

「悪いがそれは無理だぜ、あれはブレードのシミュレーターから始めるからネルガルも不味いだろう」

「そうですか、確かに不味いですが変更できませんか」

「無理だな、その代わりにシミュレーターに対艦フレームのデーターを入れたから、

 それで訓練して貰うしかないな。悪いなプロスの旦那」

「…………仕方ありませんね。ですが経験者もいるし大丈夫ですな」

「そうだな、ナデシコは訓練プログラムがあるから大丈夫だぜ。

 コイツを本社に送って技術者に分析してもらえばいいんじゃねえか」

そう言ってディスクをプロスに差し出した。

「これは助かりますな、パイロットの皆さんはシミュレータールームですか」

ディスクを受け取りウリバタケに聞いた。

「そうだよ、対艦フレームの訓練をしてるんじゃねえか。危機感を持ってるし自覚も出来てるしな」

「確かに自覚が無いと大変ですな、今はいいですがこの先が問題ですな」

「アクアちゃんに航海中に言われたんだよ、無人機が工具で分解できるとな。

 ……驚いたぜ、内緒にするように言われたが考えさせられたぜ」

「言えませんね、問題がありますよ。彼らはまだ知りませんでしたから私やゴートさんは大丈夫ですが、

 人の死には耐えられませんね」

「アクアちゃんは人間の残酷さを知ってそれでも人を信じてるから強いんだよ。

 だから信用できるし頼りになるぜ。火星は大丈夫だろうな、兵器だけじゃねえよ扱う人間が強いよ」

「そうですな、実はアクアさんと連絡が取れそうなんです。これは内緒ですよ。

 火星から私経由で連絡があり、私が窓口で連絡を取る事になります。

 内容は地球の火星への対応ですがどうなるか、大変な事になるかも知れません」

「…………まあ状況次第で火星と喧嘩になったら負けるぜ、地球はよ。勝ち目はないな。

 見ただろ、火星の実力を。ルリちゃんが言ったろまだ全部を出していないと、

 改修中の艦がそれだと思うな、かなりの戦闘力があるな、単艦での攻撃に特化した艦じゃないかな。

 ナデシコ級の艦が数隻じゃあ相手にならないと思うぜ」

ウリバタケの推論にプロスは驚きながら、

「そっそこまでの艦ですか、信じられませんが……」

「あのなアクアちゃんがいい加減な艦を切り札に使うか、あの娘は完璧を求めて更に柔軟に対応すんだぜ。

 いい加減なスペックの艦など使わねえよ、そうだろう」

「確かにそうですな、それだけの高性能な艦でしかも彼女が指揮すれば……無敵ですか」

「そう言うこった其処にジャンプシップだぜ。見えない艦みたいなもんだぜ、勝てねえよ地球は。

 一隻で艦隊に勝てるさ、機動兵器ですら出来るんだぜ、木星の無人艦隊相手に出来るんだ。

 地球だって何処まで持つか分からんよ。

 ライトニングナイトを見ただろ、クロノにアクアちゃん二人で絶対的なアドバンテージがあるぜ、

 絶対に喧嘩を売るなよ、自分の死刑執行書にサインするもんだぜ」

真面目に語るウリバタケにプロスは背中に冷たい汗が流れてる事に気付いた。

技術者の観点からの見方だが事実だと感じていた。

「責任重大ですな、胃が痛くなりそうです。地球の政治家さんは馬鹿な人がいますし、

 軍の方は更に酷いですからどうなるか、想像できませんよ」

「要は火星を後にすれば良いんじゃねえか、

 先に木星を相手にしながら火星の実力を軍に見せるのはどうだ、実力を見てから軍も気付くだろうし、

 それでもダメならまた考えるしかないな」

「そうですね、火星は敵対している訳ではありませんし、良い考えですな」

「協同作戦で火星の実力を知って、軍の火星の仕打ちを思い出せば軍も考えるぜ。

 真面目に考えれば危険な事をしでかしたとな」

「そうですな軍も再編が始まりましたし、まともな方が上層部にいますし大丈夫ですね」

二人は笑いながら良い方向に考えていた、悪い方向は考えたくなかった。

出来る限り選択を間違えない様にプロスは慎重に対応する事に決めた。

火星もその為に連絡をして来たのだから、最悪の事態は避けられるだろう、そう信じる事にした。

「ちなみにパイロットは………野郎か、プロスの旦那」

「いえ、全員女性ですが問題がありますか」

「そうか……ふっふっふ聞いたか野郎ども、歓迎の準備をするぞ!!」

「「「「「分かりました、班長!!!」」」」」

ウリバタケの叫びに全員が応え、格納庫は阿鼻叫喚の戦場へと変化した

プロスは一抹の不安を感じていた。

ナデシコはやっぱり戦艦とは言えないのかも知れない。


数日後ナデシコにオペレーターと補充パイロットが着任したが、

プロスの提案で格納庫で挨拶をする事になった。

「オペレーターのアリシア・ブラインです、アリスと呼んで下さい」

ショートヘアの活発な少女が元気よく話し、

「セリア・クリフォードです、よろしくお願いします」

落ち着いた雰囲気の女性が静かに話すと、

「カスミ・アリマと申します、皆さんお世話になります」

静謐な雰囲気の大人の女性と少女の間の年齢の女性が頭を下げてるとクルーも反射的に頭を下げた。

「グロリア・セレスティーだ、よろしくな」

最後の女性は毅然とした態度で無駄なく話した。

「以上の四人の方ががブリッジ勤務のオペレーターの皆さんです。

 ………ウリバタケさん落ち着いてください、オペレーターの皆さんが怯えるでしょう。

 まだパイロットの皆さんを紹介しなければならないので馬鹿騒ぎは止めてください」

後ろで騒ぎ出すウリバタケ率いる整備班を叱るプロスにウリバタケは、

「すまねえな、整備班は野郎ばかりで羨ましいんだよ。艦長はいいよなブリッジで女性に囲まれてよ〜」

ウリバタケの意見に整備班は全員頷き悔しがっていた。

「僕は女性ばかりで困るんですけど、プロスさん何故こうなるんですか」

「いや〜オペレーターの優秀な方を頼んだらこうなりまして、問題がありますか」

「いえブリッジが女性ばかりで男性は少ないかなと思ったんです、特に意味はないです」

慌てて答えるジュンにウリバタケは、

「馬鹿野郎!!てめえは何文句をいってんだ!この幸せもんが!」

ウリバタケの叫びに整備班全員がジュンに中指を立てて抗議した。

「艦長は私が嫌いですか〜ヒドイですよ〜〜」

アリシアがジュンに涙ぐみながら聞くとジュンが、

「とっとんでもないです、こちらこそよろしくお願いします」

と答えるとアリシアが途端に笑顔に変わったのでクルーは見かけに騙されたと思った。

「では続いてパイロットの皆さんの紹介になります、ではどうぞ」

見てない振りで話すプロスにクルーは平然としたが補充されたメンバーは付いて行けなかった。

「えっと、そのあ〜〜パイロットのミズハ・エノモトです。よろしく」

「そんなに慌てなくてもいいわよ。馬鹿に付き合うと疲れるわよ、リーラ・シンユエよ」

混乱する少女の肩に手を乗せ落ち着かせる女性が挨拶して、

「そうそう、女に飢えてるモテナイ男なんてあんなモンよ。エリノア・モートンよ」

それに続くように冷めた意見を述べて整備班を黙らせる女性の後に、

「えっと、軍から来ましたイツキ・カザマです。よろしくお願いします」

敬礼しキチンと挨拶したのは彼女だけだった、ある意味ナデシコのクルーらしいと言える光景であった。

「以上がパイロットの皆さんです、他にも随時補充メンバーが来られるので仲良くして下さい。

 あと火星からお客さんが来られるかも知れないのでその時は内密にして下さい」

「プロスの旦那〜いいのかばらしても、驚かせる方が面白いじゃねえか」

「すっすいません!どうやって火星から来るんですか、航路は確保出来てませんよ。

 それ程の戦艦が火星にあるんですか信じられません。軍では情報が無いのですがナデシコにはあるのですか」

プロスの発言にイツキが慌てて確認しようとするとプロスが、

「そうですね、このナデシコ級戦艦が四隻か五隻、空母が二隻ありますな。

 他にも機動兵器がブレードストライカーの新型もありますし地球より戦力が充実してますな」

あっさりと答えるプロスにイツキは絶句した。

「ああ、大丈夫よ〜。多分ボソンジャンプで来るんでしょう、プロスさん」

「………多分そうなります、実はアクアさんから連絡がありまして地球軍との連携に問題があるので、

 ネルガルとクリムゾンにも窓口を作る事になるそうです。

 カザマさんも同席して軍に報告してくださいね、

 火星軍は最強の軍隊ですので地球軍が暴挙を行わないように注意を促して下さい」

「そんなに差があるんですか、信じられませんが」

「私達は火星で見ましたから、カザマさんの言われる事も分かりますが事実です。

 軍の対応次第で火星と戦争になれば100%地球は負けますな」

プロスの発言に火星を知るクルーは頷いていた、イツキはその光景が理解出来なかった。

「まあその内分かるわよ〜、イツキちゃんも見る事になるからね〜」

ミナトの声に呆然としていたイツキは気を取り直した。

「そうですね、では見せて貰いましょう、火星の実力を」

「よっしゃ〜、じゃあ対戦しようぜ。ここにはブレードのデーターもあるからな、

 火星を知るにはそこからだぜ!……おっと俺はリョーコ・スバルだ、よろしくな」

イツキの手を取りシミュレータールームに行くリョーコを見ながら、

「ごめんね〜、リョーコはいつもこうなんで」

「いいわよ、ナデシコのパイロットはエース級が揃ってるから来たんだし、さっそく見せて貰うわ。

 その実力をね、ミズハもエリノアもいいでしょう」

「はっはい、勿論です。ここにくれば強くなれると聞いたのですから文句はありません」

「退屈はしないからいいわね、行きましょうか。プロスさんいいかしら」

「どうぞ、パイロット同士の親睦を深めて下さい。作戦までは時間は十分ありますから」

プロスに後押しされてパイロットは格納庫から離れていった。

「では解散します、オペレーターの皆さんはブリッジに来てもらいます。

 他に質問があれば私か、艦長に聞いて下さい」

こうして新たなクルーを交えてナデシコは行動する事になった。

未来は着実に変化を始めていた。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

ナデシコの改修も無事終わり、いよいよ出撃です。
何か違うような話になりそうで不安ですが、
それも良いかな〜〜と不届きな考えでいるEFFです。

では次回の後書きでお会いしましょう。



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