悲劇が起きようとしていた
何も知らず踊らされた人が死んでいく
知らぬまま死ぬのは幸福だろうか
それとも不幸なのか分からない
答えは未来の人が歴史として評価するだろう
僕たちの独立戦争 第三十話
著 EFF
『マスター作戦は終了しました、これより火星へ帰還します』
「正直呆れるな、まさかここまで上手く攻撃が成功するとは思わなかったな」
スクリーンを見つめるクロノは木連艦隊の状態に呆れていた。
第一次防衛ラインでの作戦に木連艦隊は対策も考えずにそのまま侵攻してきたようだ。
その為、無人艦は再攻撃に混乱したまま迎撃が満足に出来ず被害だけが重なっていった。
『予定通り31%の損害を与えました、…………ちょっと驚いています。
私の考えでは正直20%の想定でしたが木連は想像以上に頭の固い人達のようです』
「そうだな、やはり無人機に頼りすぎなんだろうな。木連は狭い世界で生きてきたおかげで、
こういった無人機同士の戦いを考えていなかったんだろう。
戦争になれば敵を知る為に武器を分析する事は常識なんだが、無傷で勝てると思ったのかな」
『都合のいい事しか考えていないのではないでしょうか、そんな人達に負ける事はありませんね。
準備が出来ました火星に戻りましょう、一度家に帰られたら如何ですか』
「いや、最後まで見るよ。未来を変えた責任があるからな」
クロノはそう話してユーチャリスUをジャンプさせた。
…………戦いは続いている。
「被害状況はどうだ」
高木は苛立ちを見せて参謀の報告を促した。
「損害が31%になりました、司令一度閣下に連絡を取り指示を仰ぎましょう」
「馬鹿者が!!そんな事が出来るか、それに戦艦は全て撃沈した。後は勝つだけだ!!」
参謀に怒鳴り高木は叫んだ。
「このまま進撃する!火星の反撃もここまでだ、最後は正義が勝つ!我々の勝利は近いぞ!」
高木の宣言に乗員は口々に正義を唱えるがそれが悲劇だと誰も知る事はなかった。
…………木連は少しづつ崩壊している事に誰も気付いていなかった。
―――火星作戦会議室―――
「クロノさんの報告では被害を31%与えたそうです、やはり草壁はこの艦隊を囮にするみたいです。
索敵中の無人偵察機が不審な隕石らしき物を発見しましたが、そのまま放置しました」
「そうですか、目標は何処だと思いますか」
「おそらく遺跡ではないかと推測します、現在このコースで侵攻していますので間違いないと思います」
エドワードの質問にレイがスクリーンに状況を映しスタッフに見せていく。
「どうします、迎撃しておきますか。後顧の憂いを無くす為に」
グレッグの意見にエドワードは、
「いえ、北辰を殺しても科学者達がいれば草壁は人体実験を始めるでしょう。ここは見逃します」
「そうね、山崎が死亡しても科学者がいる限り火星の危険は変わらないわ。少しリスクが大きいけれど、
ここは見逃して確実に処理をするべきね。草壁が失脚するまでは火星の安全を確保したと言えないわ」
イネスの考えにエドワードも頷いて、
「その通りですね、草壁を排除しないと何も変わりません。今までは市民船への攻撃はしませんでしたが、
議会の承認を得た以上手加減はしません。何も知らない木連市民には申し訳ないが覚悟して貰いましょう」
「いいのですか、市民への攻撃は戦争の泥沼化になりませんか」
「シャロンさんの考えも理解出来ますが、この後の事を考えると市民の目を覚ます必要がありますね。
自分達が安易に戦争を始めた事を考え、軍の都合のいい様に動かされる危険を知ってもらいましょう」
今回の会議に参加したシャロンの意見にレイが答え、シャロンも考えを述べる。
「確かに何時までも無知なままでは困りますね、この先軍の反乱に同調されると問題ですね」
「ええ、それを回避しないと木連は自滅しますよ。これは火星が地球と対立しない為に必要な事ですね」
「地球は火星を脅威と感じますか、それを分からせない様に木連が必要なんですね」
「三極構造になれば地球も火星にだけ注意する事は出来ません。これは重要な事ですね」
レイとシャロンが話す内容にスタッフも理解し始めた。
火星の安全を確保する為に二人は意見を出しあっていた。
スタッフもそれに続くように意見を出しあい火星の未来をより良い方向へ導こうとしていた。
会議は続いていく、未来を作り次の世代に残す為に。
―――空母 ミストルテイン―――
「副長、火星との連携は問題はないか」
「特に不安はありません、市民との摩擦も特にないです。やはり艦長の謝罪が功を奏しましたね」
「そうだな、火星に来て分かったんだがここで生きている人達はタフな人が多いな。
地球とは全く違うよ、やはり地球は恵まれすぎて弱いのかもな」
「ナノマシンの件だけでも違いますね、使えると判断すれば何も躊躇いませんから。
苛酷な環境なのに文句を言わずに出来る事を全力でしますから強いですよ。
地球のお偉いさんにはここでの生活など出来ませんね、子供ですらIFSを平気で使用してますよ」
二人の話にブリッジのクルーは火星の住民のタフさに驚いていた。
「艦長、エクスストライカーの武装なんですけどボソン砲に勝てる方法は見つかりますか」
オペレーターの質問にアルベルトは、
「無理だな、撃たれたら回避は出来ないな。防御は出来ないから先制で撃破しないとまず勝てないな。
言うのは簡単だけど、実行するのは大変だよ。それにあの機体には勝てないな」
アルベルトの示す先にライトニングナイトが宇宙を駆け巡っていた。
「ジャンプ可能な戦艦も凄いがあの機体はパイロットも含めて反則だと思うよ、敵にはしたくないね」
苦笑するアルベルトに副長が、
「クロノ・ユーリ大佐、火星最強のパイロットにしてA級ジャンパーですか。うちの連中が腕試しをして、
全員負けましたよ。しかもエステバリス対ランサー5機のハンデ戦で勝てないのですから無敵ですね」
「でもな、いい奴だよ。アイツは守る為に戦っているからな、火星の住民が安心して暮らせる日が来る事を、
誰よりも待ち望んでいるよ。まあ格好はアレだけどな」
「そうですね、格好はいただけませんが他は文句の付けようがないですね」
「まあ火星は大丈夫だろうな、アイツを含めて覚悟が出来ている奴らがいるからな。
問題は木連だな、クロノの報告に問題はないから頭が痛いな。副長はどう思う」
「はっきり言って困っています。一次、二次防衛ラインの戦闘でも31%の損害を出すなど論外ですね。
私なら15%で抑える自信ありますよ、普通は対策を考えますが何もしないで侵攻するなど馬鹿ですよ」
「俺なら一次防衛ラインで完全に殲滅するぞ、無人機だからなど言い訳に過ぎないな。
戦争する以上自分達の兵器を分析されるのは当然だから対策を講じるのは必然だからな、
それも出来ない木連は戦争を舐めているよ、市民が馬鹿なら軍も馬鹿だね」
「戦後の対応が大変ですな、軍の暴走を平気で認める市民など怖いですよ。
この先木連の暴挙に注意が必要です、まず軍部の責任を追及し市民への説明が必須ですね」
「草壁春樹だったか、独裁者と呼べるな。こいつと政府のせいで戦争が起きたからな、責任は追及するさ。
特に連合政府の連中はキチンと説明を求めるよ、死んだ兵士達の無念を晴らさないとな」
「何も知らずに死んでいった兵士の為にも木連と政府の責任追及はしませんと」
「火星に対する謝罪もあるよ、一番の被害者は火星だよ。対応次第では緊張状態になるぞ、
ネメシスの件もあるからな、政府の責任は重いぞ。もし戦争になれば地球には大義も正義もないな。
連合市民も政府の言う事を信じないだろう、今までの経緯を考えると軍には力を貸さないだろう。
俺は軍の命令でも動かんよ、これは俺なりの誠意を火星に見せる心算だよ」
アルベルトの決意にクルーも考え始める、地球の勝手な行為に自分なりの答えを出す必要を感じていた。
「俺は市民と正義を守りたくて軍に入ったんだ、正義なき政府に従う気はないな。
………最悪は火星に行くかな、ここはいいな。ここの住民は見捨てた俺達を許してくれた、
今度は俺が手を貸す番だと思っている。まあ偽善と言われても仕方がないけどな」
苦笑するアルベルトにクルーもそれぞれに自分の信じるものを考え始めた。
地球と火星が手を携える為には何が必要か。
まだ答えは出ないが平和を築き上げたいと願っていた。
―――木連作戦会議室―――
「閣下、万が一の場合はどうしますか。防衛体制を考えませんと問題がありますよ」
「必要かね、高木君は負けんよ」
「難しいでしょう、既に損害は31%まで出ていますよ。まだ航路は半分にも達していないのに。
これでは火星に到着時には四割残るか分かりませんね」
秋山の説明に草壁は、
「では君達に任せよう、だが勝つのは我々だよ」
口元に笑みを浮かべる草壁に秋山は、
(何を企んでいる、余程の自信があるかも知れないが火星が閣下の思惑に気付かないと思うのかな)
「どうかしたかな、問題があるかな秋山中佐」
「いえ、では部隊の再編を始めますが責任者は私でよろしいですか」
「うむ、君なら大丈夫だろう。時間はどのくらい掛かるかな」
「準備に時間が掛かります、戦艦は全て使いましたので地球から戻すか、新しく建造するか選択しないと」
「そうか、地球から外すのは無理だな。新規に作るようにしないと」
「それも問題です、そろそろ市民に物資を回さないと不安が広がり始めます。
最小限で最大の効果を出す必要がありますね、これでどうでしょうか」
秋山から渡された資料を見て草壁は、
「いいだろう、時間は掛かるがこれで行きたまえ。市民の安全を確保し攻撃を防ぐように」
「では準備を始めます」
秋山の声に草壁は頷き会議は終了した、士官達が去った会議室で、
「なんとか戦力を確保出来そうだな、市民船の防衛が急務だが上手くいきそうだ」
「源八郎、火星が勝つと思うか」
「間違いないな、九十九。閣下は裏で何かを企んでいるが火星に気付かれないかな」
「おそらく気付かれるか、罠に落ちるだろうな。都合のいい事しか見てないからな、閣下は」
「この戦争は木連の負けなんだよ。火星が生き残った時点で講和すれば無事に終結したが、もう無理だな。
火星はこの艦隊を全滅させると木連に報復攻撃を始めるだろう。俺達は市民を守る必要があるな、
火星は今までは市民船を狙わなかったが、先の宣言で攻撃目標になってしまった。
防御をしなければならないし、市民への説明も考えなければならない。作戦を急ぐ事になるな」
「源八郎、今の戦力では無理だな。後は戦力を揃える必要があるな、時間との戦いだな。
間に合うかどうか、時間が勝敗を分ける事になるな」
月臣の考えに新城が、
「月臣さん、戦況をどう考えますか。高木少将はどの程度時間を稼げると考えますか」
「そうだな、二週間が限界と考えるな。今までは鹵獲した戦艦だ、これから跳躍によるゲリラ戦をするだろう。
これを持ち堪えても火星付近で決戦に入るだろう、総力戦になれば火星が有利だ。
補給も万全な状態とぼろぼろの艦隊では数で有利でも戦力の質で火星が負ける事はないな」
「閣下は何を企んでいると思いますか、秋山さんはどう考えます」
南雲が秋山に草壁の行動を尋ねたが、
「分からんが、火星から何かを奪うつもりなんだろう。但し火星はそれを知った上で行動していると思うな。
成功させたように見せて、実は無駄な行為だった事になると思うね。
閣下は自分の都合のいい事しか考えていないよ、まあ火星の手の上で踊らされるな」
ここにいた士官達が草壁の行動に疑問を抱いてここに集まっていた。
若い士官達を中心に木連の状況を分析し、事態の推移を研究していたが事実を知れば知るほど、
木連の状況が最悪の事態を迎えてる事に危機感を持っていた。
木連を火星の攻撃からどう防ぐのか、その対策を考えていたがいい案は浮かばず焦りだけが出ていた。
ただ最悪の事態を避ける方法を模索していた、だが結論は一つしかなく苦悩していた。
彼らも選択を迫られていた、ただ時間だけが過ぎていく。
―――木連艦隊 旗艦こうづき―――
「進行状況はどうだ、予定通り順調か」
「はい、順調に進行しています」
高木の問いに乗員が簡潔に答え、参謀が高木に具申した。
「警戒態勢をとりますか、おそらくつまらん攻撃があるかもしれません。
無駄な足掻きですが付き合うのは止めましょうか、正義は我ら木連ですが奴等は卑怯な手を使いますから」
「そうだな、火星は汚い手しか使えんからな。こちらが注意すれば問題はないな、よし全艦に警戒を促せ」
そう言った時に乗員から報告が告げられた。
「提督!ミサイルが接近します。数は計測できません、多すぎます」
「来たか、馬鹿め!空間歪曲場を知らんのか、愚かな事をするもんだな」
高木の声に乗員も火星を馬鹿にしようとしたが、事態は最悪の方向に向かって行った。
「そんな空間歪曲場が中和されています、艦隊に被害が出ています、提督」
「なんだと!馬鹿を言うな、何故歪曲場が中和される。おかしいではないか」
ブリッジに映し出される光景に乗員は自分の目を疑っていた。
第一波のミサイルが歪曲場を中和し、第二波のミサイルが戦艦を撃沈していた。
「被害はどうなった、艦隊は大丈夫か」
参謀の声に乗員達はすぐに被害状況を調べて報告してきた。
「艦隊の5%が完全に撃沈されました、また大破、中破が4%になっています。
小破に至っては10%は確実に出ています、更に第二段が来ます、提督」
乗員の報告と同時にこうづきが揺れて、高木の頭を真っ白に変えた。
「迎撃せよ!ミサイルを撃ち落とせ、これ以上の被害を出すな。艦列を立て直すんだ、急げよ!」
参謀の指示に艦隊は行動を開始して、被害を抑えようとしたが既に被害は深刻な数になっていた。
火星の攻撃が終わった時、艦隊の被害は甚大なものになっていた。
「報告します、被害は13%に到達しました。また修理が必要な中破以上の戦艦が無数にあり、
それらを含めると18%まで到達します。
人的被害も出ました有人戦艦五隻が撃沈され乗員全員の死亡が確認されました、提督」
被害報告に高木は呆然としていたが、気を取り直して全艦に連絡する。
「警戒を厳重にしろ、我々は火星に進行する。正義は負けんぞ、最後に勝つのは我々だ!」
その声に勇気付けられるように乗員は行動を開始した。
「参謀!火星の攻撃はこれで終わらんだろう、全艦に徹底した警戒をするようにさせろ」
「分かりました、全艦に連絡し艦隊の外周部に中破した戦艦を配備して盾にします」
「いいだろう、これ以上の損害は出来んぞ。火星に到着するまでに70%の被害が出ないようにするぞ。
それ以上出るのはマズイ、何とかしないと火星に着いても行動が制限されるのは避けたいからな」
高木の考えに参謀も頷いて被害を抑えるべく、艦隊を再編させて対応出来るように変更した。
だが既に状況は切迫している事に高木は気付いていなかった。
後の第三次火星開戦の悲劇と歴史研究家が言う事態が進んでいった事に木連は何も知らなかった。
「上手くいったわね、フィールドランサーの応用したミサイルは効果が大きいわ。
まあ当然と言えばそうなんだけど、実際成果が出ると嬉しいけど兵器として完成度が高いと困るわね」
「そうですね、イネスさん。これが自分に返ってくる事を考えるといい気分にはなれませんね」
「本当にそう思うわ、アクアの言う通り科学者としては嬉しいけど医師としては考えさせられるわね。
正直戦争なんてやる気は出ないし、ラボで研究の日々が充実していたわ」
二人の意見にブリッジのクルーも同じ様に考えていた。
「オモイカネ、被害はどうなっているかしら」
『推定で損害は13%出ています、破損した戦艦を盾にしていますので更に損害を与える事も可能です』
「ではライブラ、キャンサーに補給後、再攻撃をするように通信を入れて下さい。
アリエスはこの宙域に残り、敵艦隊の状況を監視していきます」
『了解しました、では通信を入れて監視を続行します』
「お願いね。イネスさんはどう考えます、草壁はこの失敗で反省すると思いますか」
アクアの質問にイネスは、
「無理でしょうね、自分の正義が絶対のものだと信じているからこの敗戦を認めないわよ。
でも遺跡の奪取に失敗して、暗部と生き残りの科学者を失えば少し考えるかもね」
「少しですか、やはりそう思いますか。私も反省などしないと考えるのです。力に溺れた軍人は怖いですね」
「そうね、歴史上こういうタイプの軍人が戦争を起こす事が殆どね。
振り回されるのは何も知らず踊らされる人々ね、木連は典型的なパターンになってるわ」
「典型的ですか、単純と言えばそうかもしれませんが国としては異常なのかも」
「そうよ、アニメが聖典なのよ。これだけでも異常だけど普通は戦争に反対する人達も大勢いる筈よ。
でも市民の殆どが軍を支持しているわ、地球や火星のように人間相手と知ったなら反対する者は増えるけど、
最初から知っているのに反対する者が殆どいないわ、おかしい国なのよ、木連は」
イネスの考えにブリッジのクルーも納得できた、普通は戦争を躊躇う者がいるのに木連は戦争を賛美していた。
この事実にクルーは木連の異常さが良く理解出来なかった。
「無人機のせいですか、自分の手を汚さずに何でもしてくれるから人の死に鈍くなりましたか」
「まあそれもあるし、情報操作がやり易かった事もあるかもね」
イネスの考えにアクアも情報を操る危険性を今まで以上に認識していた。
『アクア、艦隊が侵攻を始めました。損害は無視するみたいですね』
オモイカネの報告に二人はため息を吐いて話し合う。
「馬鹿ね、ここまで負けても気にしないのかしら。私なら帰るけど、やっぱり異常ね………木連は」
「そうですね、頑固と言うか意地を見せてるのか。まともな人間なら44%の損害で進む事はないですね」
「無人機の被害など気にしないのね。やっぱり人的被害を受けないと木連は変われないかもね」
「悲しい事ですね、命の重さを知らない人達がいる事は」
アクアの声にクルーもやりきれない思いになるが、
「ダメよ、ここで躊躇したら意味が無くなるわ。悲しいけどこれが戦争なのよ、逃げる事は出来ないわ」
イネスの叱咤する声に全員が今までの事を思い出し、それぞれに作業を始めた。
「そうですね、もう後へは退けませんね。ごめんなさい、弱気になりました」
アクアの反省にイネスは、
「いいわよ、私も逃げたいからね。早くこの戦争を終わらしましょう、犠牲を減らしてね」
「ええ、そうですよ。早く終わりにしましょう、この戦争を」
クルーの一人がそう言って、ブリッジの雰囲気を変えようとしクルーもそれに続いた。
火星は最後まで諦めない強さを持っているのかもしれないと感じるアクアであった。
―――ネルガル会長室―――
「一応無事にボソンジャンプの実験を終了させました。
チューリップは破壊し、C・Cによる研究に変える事を約束させました」
「そう、アトモ社も理解したんだね。チューリップを使う危険性を」
ホッとした様子のアカツキにエリナは、
「まあ安心するのは良いけど、大変だったのよ。向こうはチューリップから木星の部隊が攻撃すると聞いて、
大慌てでパニック状態になったのよ。落ち着かせるのに苦労したわ」
思い出してうんざりするエリナにアカツキは、
「ご苦労様、エリナ君。火星の状況はどうかな」
「順調に作戦は進んでると報告がありました。既に40%以上の損害が出てるみたいです」
「本当かい、何を考えているんだ。僕ならもう撤退するよ、効率の悪い事をするもんだね」
アカツキの考えにエリナも頷いて報告を続ける。
「このままだと最終防衛ラインに残るのは15%から30%程になると火星は考えてるようです」
「悲劇だね、有人艦隊なんだろ。もう少し柔軟な考えが出来ないのかな」
「私もそう思ったけど木連の行動は自分の都合のいい事しかないって火星は考えているわ」
「異常な国なんだね、木連は。付き合い方を考えないとね、戦後が怖いよ」
アカツキの考えにエリナも、
「そうね、連合政府の対応でどうなるか。更なる混乱が起きて、反乱事件が発生する可能性があるわ」
「やだな〜戦争はもう勘弁して欲しいね〜。ネルガルは火星の復興事業の計画を打診したいのに」
「聞いてないわよ、いつ考えたのよ」
「儲けは少なくして火星に謝罪を兼ねてしようかと計画したんだよ。
ジャンプを使えば資材の運搬も経費が掛からないだろ、火星にジャンプは任せるけど」
アカツキの意見にエリナも考えて答えた。
「いいかもね、火星次第だけど復興事業は悪くないわ。ネルガルのイメージを上げないとマズイしね」
「そこが問題だね、火星と相談してみようと思うんだ。プロス君に連絡しておいてくれないか」
「分かったわ、船は以前話した旅客船の改修した船にするわ」
「そこは任せるよ、ボソンジャンプは火星で生活した者が手に入れる事が出来るように思うよ。
最初から僕達には無理だったみたいだね」
「多分そうなのね、差別化が進むかもね。気をつけないと」
「頭の痛い事を火星に押し付けているね、迷惑をかけてるな」
「でも火星独自の技術ならそうしないと、地球では管理なんて無理よ」
「はあ、なんか自分が極悪人だと自覚できて来たよ。覚悟が足りない事が分かってきたね」
ため息吐いて話すアカツキにエリナも、
「言いたい放題言われたけど、事実だからしょうがないわね。火星の人には勝てないわ」
「向こうは覚悟を決めた人達で僕等は半端な覚悟な者達じゃ勝てないよ、連合も大変だね」
「連合はダメかもね、ネメシスの件で議会は大混乱よ。市民もこれには怒っているわよ」
「そうだね〜ネルガルもクリムゾンも関与は資材提供だけど、抗議があったからね」
「ええ、これには参ったわ。連合政府の暴挙にはついていけないわ」
「他の惑星にも作るつもりがあったら大変だよ、地球は袋叩きになるよ。その事を理解してるのかな」
「無理でしょうね、作った時点で気付かないのよ。危機感が欠けてるのよ」
頭を押さえて話すエリナにアカツキも同じ思いだが、次の話題に変える事にした。
「次の問題に移ろうか、木連が地球に今回のような艦隊を送ってきたら勝てるかな」
「無理ね、数で押されるわよ。火星とは戦力が違うわ」
「どうしようか、数を揃える必要があるかな」
「時間が掛かるけどそれが確実な方法ね、しばらくは大丈夫だから準備は出来るわ」
「軍と相談しようか、戦艦はいるだろうね。向こうも戦争は懲りると良いけどね」
「難しいわよ、木連は負けた事に気付けばいいけど、多分諦めないわよ。なんせ独裁者の支配する国だから」
「そうだね、気を付けないとね。地球は連合政府が好きにしてくれたから立て直さないと、
火星と戦端が開かれたらどうするんだろうね、火星と地球じゃ戦略自体が違うよ、戦線なんて意味はないね」
「そうね、ボソンジャンプなら戦線なんて要らないわね。
監視体制が十分なら必要な時に必要な数だけ送ればいいし、直接拠点へ集中攻撃出来るわね」
「そう言う事だよ、防御なんて難しいよね。突然出現して核を落とせばそれで終わりだよ。
ビッグバリアなんて役には立たないね、バリアの手前でボソン砲でジャンプさせればオッケーだよ」
「はあ、怖いわね。頭上に絶対の死があるなんて考えると」
ため息を吐くエリナにアカツキは、
「まあ、大丈夫だと思うよ。火星は地球と仲良くするみたいだし、政府の対応も昔はともかく今は大丈夫さ」
「そうね、火星の政府の代表の演説を聴けば理解出来るわ。見事ね、市民は納得していたわ」
「いずれ各惑星から代表を出しての政府を作り人類全体で繁栄しましょうって言われたら文句は出ないよ。
これで月もまた独立を考えるかもね、今度は平和に対話を重ねてね」
「連合も無茶は出来ないわね、それにビッグバリアは月には有効だし100年前のようにはならないわ」
「しかも火星は移民を募集してるよ、各企業も進出するみたいだね」
「時間は掛かるけど、火星で生活すればジャンパーになれるなら行く人間は多いかもね。
なんか大航海時代が始まりそうね、ネルガルも進出したいわね」
「その為の復興事業さ、まあ風当たりはキツイけど10年先を考えると必要だよ」
「はいはい、準備するわ。完璧な計画出して火星に認めてもらうわよ。エステの改造も考えるわ、
建設用のフレームがあれば火星も使い易いでしょう、IFSが普及してるからすぐ使えるわ」
「いいね、ナデシコのウリバタケさんだっけ、彼なら作ってくれそうだね。打診して欲しいな」
「いい腕してるから作ってくれるといいけど、趣味に走っているから不安ね」
「やっぱり人格も大事かな、でもナデシコはあれでいいかもね。火星に馴染んでいるし」
「まあ、民間人で構成してるから火星も安心してるのよ。軍も謝罪したから少しは変わったかもね。
では会長、復興事業の計画するメンバーを選び、立案して火星に送りますよ」
そう答えてエリナは会長室を退室し、アカツキも火星に対する謝罪を考える事にしていた。
ネルガルも未来について考え始めていた、………緩やかではあるが。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
事態は動き始めました。
よき未来をそれぞれが考えて動き出します。
クロノの長い戦いは終わるのか。
アクアさんとの新婚生活は始まるのか(爆)
では次回でお会いしましょう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
<<前話 目次 次話>>