現実を知らない大人によって戦端は開かれた
この戦いの後に何が残るだろうか
おそらく残るものは虚しさだけだろう
悲しい事だがこれが戦争なんだろうな
そんな気がしていた
僕たちの独立戦争 第三十二話
著 EFF
「いい気なものだな、自分達が何をするのか理解して火星に来るのかな」
「まあ、理解してないでしょう。彼等は正義の為に人殺しをするなんて考えていないでしょう。
都合のいい事しか考えられないような人間ですからこんなにも損害を出しても来るんですよ」
ユーチャリスUのブリッジでクロノとアクアはスクリーンに映る木連艦隊を見ながら話していた。
「では通信を開くぞ、エド。準備はいいかな」
『ああ、構わないよ。木連艦隊に通信を開いてくれ』
「提督、火星から通信が来ましたがどうしますか」
「ふん、どうでもいいが火星の言い訳でも聞いてやるかな、開いてくれ」
尊大な口調で話す高木に参謀は反論する。
「降伏勧告かもしれませんね、我々が勝つ見込みはありませんから」
「馬鹿を言うな!正義が負ける筈がないぞ、木連の敗北などありえん。通信を開いてくれ」
高木の命令に通信士は通信を繋いだ。
『こちらは火星コロニー連合政府大統領エドワード・ヒューズです。所属と目的を告げなさい』
画面に映る紳士に言葉に艦橋は静まり返ったが、高木は尊大な口調で話す。
「木連火星攻撃艦隊、提督の高木だ。随分汚い真似をするじゃないか、正々堂々戦えないのかな火星は」
『何を言うかと思えばこれは戦争なんですよ、理解してますか。
我々は木連みたいに無人兵器で虐殺するような卑怯者じゃないのです、真面目に戦争していますよ。
あなたは火星に何をする為に来たのですか、分かっているのですか』
エドワードの冷めた意見に高木は、
「馬鹿にするなよ、木連の正義をみせる為に来たんだよ。今なら降伏できるぞ、さっさと謝るんだな」
『正義ですか、火星の住民を殺しに来たのに正義など口にしないで欲しいですね。
これから人殺しをすると、はっきり言えないのですか……自覚はありますか、人を殺すという事に』
エドワードが告げる事に高木は自分の正義が貶められた事に怒り出す。
「ふざけるな!俺の正義を馬鹿にするのか!」
『当然でしょう、正義に酔って人殺しをする人間など危険な人物ですよ、自分が人を殺すと自覚できないと、
証明したのでしょう。これ以上火星に侵攻するのなら迎撃しますよ、今なら見逃しましょう。
撤退しなさい、クルーの生命を守るのも責任者の義務ですよ』
「断る!我々の正義は負けないぞ、必ず火星に一泡吹かせてやるぞ」
『ではこれより艦隊の殲滅を始めます、覚悟を決めてから侵攻して下さい』
エドワードはそう告げると通信を切り、高木は全艦に告げた。
「俺達の正義は負けないぞ、進行を始めろ!勝利は木連のものだ!」
『マスター侵攻を再開しました、迎撃の準備は出来ています。発射後最終防衛ラインに移動します』
「よし始めてくれ、ダッシュ」
その声にスクリーンに映し出されるミサイル群を見てクロノは、
「これで損害は90%以上になるかな、一万隻の艦隊が1000隻に満たなくなるのか。次はどうするのかな」
『おそらく演算ユニットを使ってくるつもりですが、ダミーだと気付いたら暗部によるテロ行為ですか』
「そんな事はさせんよ、火星の住民を守ってみせるさ。そうだろう、ダッシュ」
クロノの決意にダッシュも、
『はい、マスター。私達とみんなの力があれば守れますよ、早く平和になって欲しいですね』
「その為に頑張らないとな、火星の未来を変えた責任を取らないとな」
『でも悪くはないですよ、全てを救う事は出来ませんでしたが火星の人達を助ける事が出来ましたよ』
「そうだな、出来る事は全てしてきたがまだ出来る事があるのかと感じてな……すまんな余計な事だった」
「そうですよ、まだする事は多いですよ。ラピス達の通う学校も決めないといけませんし、
我が家の確保もしないとエドおじ様の家にいつまでもいるのも心苦しいですよ、クロノ」
「……なんか所帯じみた事になっているがそれも決めないとな、近くにしたいがいい物件を探すか。
それともユートピアコロニーの再建にみんなで行くか決めないとまずいかな、アクア」
「まだ早いですよ、もうしばらくはアクエリアコロニーで生活しないと……お友達が出来たみたいなんですよ。
みんなも離れるのは嫌がると思いますよ、初めての事ですから」
アクアの悩む声にクロノもまた考え始めた。
『まだ再建計画には具体的なスケジュールが出来ていませんので、今は現状維持が有効だと思います。
私もアクエリアコロニーの管理だけではなく火星のコロニー全ての管理をして欲しいと要請があります。
どうも市民に私の事が知られたみたいですが、受け入れられたようです』
「そうなのか、のんびり休めると思ったんだが大変だな、ダッシュ」
「でもダッシュはどうしたいのかしら、ダッシュの望むようにしないと」
『私は構いませんよ、する事はそう変わりません。私はマスターとアクア様が火星で生活されるのなら、
そのサポートをするだけです。後は子供達の遊び相手になるだけですよ♪』
「ご機嫌だな、あの子達が懐いてくれたから嬉しいんだな」
クロノの意見にダッシュはウィンドウをカラフルにして答える。
『そうです、いい子達ですよ。もう最高ですね、他のみんなも喜んでいますよ』
「あの子達を救えた事ができて良かったよ、アクアには苦労をかけてしまって申し訳ないな」
「違いますよ、私の望みは家族と共に生きていく事ですよ。クロノに出逢えた事が私には幸せな事なんです。
だから苦労なんかしていませんよ、毎日が充実していますよ」
「そうか、ならずっと側にいて欲しいな。アクアとこの火星で静かに暮らしていけたら良いな、
まあ元気な子供達がいるから静かになるかは分からんが、そんな生活も楽しいだろうな」
「ずっと側にいますよ、クロノ。だから幸せになりましょうね、この火星で」
二人の様子を見ながらダッシュは考える。
(いい雰囲気ですね、マスターに幸せになって欲しかった、私の願いは叶いそうですね。
後はラピス達の未来を見守って行きたいですね、私の仕事はまだまだ続きそうです)
ユーチャリスUは星の海を進んで行く………未来を見つめながら。
―――木連作戦会議室―――
「源八郎、防宙態勢はなんとかなりそうだが、閣下の様子はどうだ」
白鳥の質問に秋山は簡単に答える。
「裏でしていた事が成功したみたいだな、ご機嫌にしていたぞ。まあ僅かな時間になると思うがな」
「それより火星攻撃艦隊の件はどうする、被害状況は深刻だぞ90%を超えたみたいだ」
月臣の指摘に作業をしていた士官達が手を止めて驚いていた。
「どうする事もできないさ、閣下は最初から捨石にする積もりだからな。撤退しない以上どうする事もできんさ。
それより火星の報復を何とかしないとな、多分手加減無しで報復されたら半数の市民船はダメだろうな」
秋山の考えに全員が事態の深刻さを理解して顔を青くするが、
「そこまではいかないだろう、源八郎。あまり驚かすなよ、そう簡単には落されはしないさ」
「だがな、無人機の制御を奪われたら終わりだぞ。内側から崩壊するぞ、木連は」
月臣の意見に秋山は即座に反論して話を続けた。
「戦争とは相手の武器の分析も当然行うものだろう、木連は無人機に頼りすぎた。
火星には無人機の分析が出来るくらいの数の無人機が在った筈だ、
それらから制御する為の情報を得る事ができるなら木連の活動状況など火星には一目瞭然だ。
実際無人戦艦を使われ攻撃を受けている、ある日無人機が俺達に攻撃を仕掛けたらどうなると思う、
俺達が火星でした無人機による殲滅戦を木連にする事も可能だよ」
「ではどうするんだ!無人機の制御を何とかしないと大変な事になるぞ、源八郎」
「一番簡単なのが無人機を放棄する事だがそれは不可能だろうな」
「そうだな、木連は無人機がなければ何もできない。そんな環境になっているからな、放棄など無理だろうな」
秋山と月臣の会話に白鳥が意見を出すと、
「やはり木連はおかしな国になっているのでしょうか、空想と現実の違いが分からないほどに」
「そうかも知れんな、木連の矛盾に気付かなかった我々がこんな事態を引き起こしてしまった」
次々と士官達が木連の危うさに気付き、会議室は暗い雰囲気に包まれていた。
「それでも俺達は市民を守る為に頑張らないとな、この戦争を始めた責任を取らないと」
「そうだな、まずは市民船を守ろうか。それから例の作戦を始めようか、源八郎」
「まあ俺の命で何とかなればいいな、木連の住民の安全が確保できたらいいな」
「お前だけを死なせはしないさ、俺も一緒に死んでみせるさ」
「ダメだな九十九は、雪菜ちゃんを独りにさせるのか。俺と源八郎の二人でいいさ、みんなは木連を立て直せよ」
秋山と月臣が笑いながら話す事にそこに居る者達は何も言えなかった。
彼らは覚悟を決めて何かをしようとしていた。
…………事態は静かに動き始めていた。
―――ナデシコ ブリッジ―――
「いよいよ来ますか、木連艦隊が」
『ああ撤退はしないみたいだな、愚かな事をしているよ。俺ならここまで被害を出す前に退いているがな』
アルベルトからの通信にジュンは考えて話した。
「怖いですね、現実を見ないなんて。木連は生き残る事が出来るのですか」
『無理だろうな、火星は本気で報復を行うだろうな。最悪は木連の全滅で終わるかもしれないな』
「そこまではしないでしょう、ですが市民に被害が出るのは仕方がないかもしれません。
戦争を理解せずに自分達の都合のいい考えで始めた事を反省してもらわないとこの先危険だらけです」
『それは地球にも言えるな、連合政府もこの戦争の後、火星に対して何らかの賠償をしないとな。
謝罪だけでは火星も収まらないかもな、地球のせいで最大の犠牲者を出しているからな』
「そうですね、地球の身勝手さから始まった戦争ですから反省してもらわないとまた起きるかもしれませんね」
二人の話が進む中、メグミがジュンに告げる。
「艦長、アルベルトさん、クロノさんから通信が入ってきました、繋げますよ」
『これより最終防衛ラインに合流する、木連艦隊の最終的な損害は91%になった。
十二時間後にはラインに侵攻するだろう、クルーに伝えて準備を怠らないようにしてくれ』
『分かったよ、クロノ。こっちはクルーに休息を与えて備えておくよ。クロノはどうするんだ』
『補給を行い、その後に合流するよ。正直木連の愚かさに付き合って疲れたよ、ここまで酷いとは思わなかった』
「僕もそう思いますよ、正直木連にはまともな人がいないと判断してしまいそうです」
『俺もそう思うな、木連は大丈夫なのか。この後の事が心配なんだがクロノ』
『まあ何とかなるだろう、現在クーデターを準備している連中が軍にいるみたいだ。
彼らが木連を独裁者草壁から解放できれば、事態は進展するかもしれん。俺達はそれを待つしかないな』
「どうしてクロノさんはそんな重要な事を知っているんですか、彼らから支援を要請されたんですか」
ジュンの疑問にブリッジにいたクルーとアルベルトがクロノを見ると、
『木連の無人兵器の制御方法を火星は知っている、既に木連は火星に全てを知られているのさ。
木連は火星の支配下に入ったも同然なんだよ、ここまで来るのにどれだけの時間が掛かったか分かるか、
気の遠くなるような時間と苦労があったよ、全てはこの時を待つ為の苦労だった』
感慨深げに話すクロノに火星の苦労を知って全員がその苦労を考えると、
『何故それを使わないんだ、もっと簡単に勝てるだろうこの戦いも無駄な事じゃないのか』
アルベルトの反論にクロノは、
『それが出来れば良かったが、知られると対抗策ができるだろう。まだそこまでの準備はできていなかったのさ』
『だが今は可能だろう、使わないのか』
『木連の市民の生活を支えているのは無人機なんだよ、無人機がないと木連は生存できないのさ。
木連の市民を死なせる訳にはいかんからな、最終手段として火星は考えているんだよ』
『火星は本当に考えているんだな、未来を見据えて行動している訳だ。これでは地球も木連も勝てんな』
アルベルトの感心する声に火星の苦労の大きさに地球と木連のいい加減さが出ていていた。
「クロノさん、ではこの戦闘は必要なんですか。火星にとっては重要な意味があるんですか」
『ああ、木連の物量作戦の無意味さを分からせる様にしなければならない戦闘なのさ、実際は違うがな』
『数で押されるのは火星にとっては不利だからな、それを誤魔化す為にしなければならない戦闘なんだな』
火星の戦略の一端を知りジュンとアルベルトは見事なものだと感心していた。
火星はこの戦争に生き残る為に全力を尽くしている事を知り、この戦闘は火星の勝利で終わる事は当然だった。
物量で押す木連と様々な作戦で封じ込めようとしている火星では無策に近い木連の勝利は無いと感じていた。
実際火星の新兵器のミサイルはディストーションフィールドを完全に無効化した。
ブレードシリーズは木連の無人機に対して有効に活用している。
木連が勝てたのは最初の奇襲のみという状況を理解してないのだろうか。
いや理解できないからこんな状況になっているのだろう、木連の未来はお先真っ暗に思えてきた。
そう感じさせる一面をクルーは見せられていた。
「では準備を始めますよ、クロノさん。木連の暴挙は止めたいですから」
『すまんな、火星の都合で迷惑をかけるよ。時間が掛かるが平和に終わる為には最善の方法だと思うんだよ』
『そうだな、泥沼の戦争を続けるよりはいいな。市民の苦しみには変えられないよ、平和が一番さ』
『子供達が元気に遊ぶ姿を見てるとな、このまま平和になって欲しいと思うんだよ。
そのための苦労なら幾らでもしてやるよ、未来は子供達に平和という形で残したいからな』
クロノの未来への想いに二人もそうなる事を願っていた。
『では十二時間後、決戦を勝利で迎えるか。守ってやらないとな、次の世代に未来を良い形で残さないとな』
未来への思いを乗せて彼らは作業を進める事にした。
―――木連艦隊旗艦 こうづき―――
「いよいよ火星に到着だな、俺達の正義を見せつけてやるぞ。正義は我に在りだ、火星に思い知らせてやるぞ」
高木が血気盛んに叫ぶが乗員達はそれに付いてこなかった。
「勝てれば良いですね、無理だと思いますが」
参謀の投げやりな意見に高木は苛立つように叫ぶ。
「馬鹿野郎!勝つに決まっているだろう、俺達には正義があるからな。負ける事はありえんな」
「人殺しに正義などありませんよ、次の攻撃に備えましょうか。このまま火星の攻撃を受け続けるのも嫌ですね」
高木の言い分に耳を貸さずに参謀は指示を出して艦隊の防宙に苦労していた。
「いい加減にしろ!火星の言葉に惑わされたのか、俺達の正義は間違ってはいないんだ」
「では銃で私を撃ち殺して下さい、私が悪なら殺せるでしょう。提督の正義を守る為に悪を殺す事など、
簡単な事でしょう。いつでも良いですよ、このまま行けば火星の攻撃に全艦撃沈しますから問題はありません」
冷めた声の参謀に高木は動揺を隠せなかった。
「ばっ馬鹿な事を言うな、お前を殺せる訳が何処にあるんだ。いい加減にしろ」
「でも火星の住民は殺せるのでしょう、おかしな話ですね。木連と火星にはどんな違いがあるのですか、
火星の住民は殺せるのに木連の住民は出来ないなんて差別しているのですか」
参謀の声に艦橋の乗員は自分達の行為に気付き始めていたが高木はそれに対して、
「正義は木連にあるからな、悪の地球人に与する火星に鉄槌を示すのだ。それが間違いだというのか」
「誰が木連を正義だと決めたんですか、自分達が勝手に決めた正義など正しいと言えるのでしょうか。
そんなふうになってしまった木連がおかしくなっている事に気付かなかった我々に責任があるのでしょうな」
参謀は高木を見ずに木連の在りかたを考えていた。
「まあ先に死んでいく我々には木連の命運を秋山さんに託すしかないですが」
「冗談はよせ!俺達は勝って木連に英雄として帰るんだよ、死ぬ訳がないだろう」
高木の強がりに参謀は事実だけを伝える。
「いえ、このまま進めば我々は間違いなく全滅します。既に艦隊は九割を超える損害を出しています、
おそらく火星は我々を殺したくはなかったから最後通告で引き返すように連絡を入れたんですよ。
我々はそれを拒否した以上、彼らは全力で攻撃するでしょう。
ミサイル攻撃だけでこれだけの損害を出した我々に火星の攻撃を跳ね返す力などもうありませんよ」
淡々と事実を述べる参謀に高木は怒りを込めて殴った。
「貴様の様な臆病風に吹かれた者など必要ない!ここから出て行け、戻る事は許さん」
そう言って参謀に目を向けずに前を見ていた、参謀は高木に向かって、
「現実を知らない提督にはついてはいけません、では失礼します」
そう告げると艦橋から出て行った。
「ふん、木連の勝利が現実なのさ。馬鹿な男だな、火星の攻撃に怯える臆病者が」
吐き捨てる言葉を告げる高木に艦橋の乗員は自分達の最期を感じ取っていた。
『マスター、木連艦隊が来ましたよ。作戦通りミサイル攻撃を始めます』
「始めてくれ、ダッシュ。後は任せるよ、アクア。俺はライトニングで攻撃を開始する」
放たれていくミサイルを見ながらクロノはブリッジを出ようとしたが、
「ダメですよ、クロノにはここに居てもらわないと困りますよ。艦隊の指揮を放り出すんですか」
『その通りです、艦隊の指揮を執るように言われたでしょうマスター。指揮をどうするのですか』
アクアとダッシュの声にクロノは慌てて説明をする。
「まあ俺はパイロットとして出たいんだけど、ダメかな」
「ダメですよ、実戦経験者が少ないのですから我慢してください。いいですね」
アクアのダメ出しにクロノは諦めずにもう一度お願いする。
「行かせて欲しいな、前線に出るのは多い方が良いだろう」
「行かないでください、クロノ。経験の無い艦長達のフォローをお願いします」
『そうですよ、みんな艦隊戦は初めてなんですよ。私とマスターだけが経験してるだけなんですよ』
二人の言葉にクロノは考えると残念そうに話した。
「仕方がないか、今回は諦めるよ。それで良いかな、アクア、ダッシュ」
「ごめんなさい、みんなの為に我慢してね、クロノ」
『まだチャンスはありますよ、いつか昔のように二人で全力戦闘をしたいですね、マスター』
「そうだな、ダッシュ。その時はアクアにこの艦を任せて俺が前線に出るからな。
さて主砲の準備を始めようか、収束率を最大にして狙撃していくぞ。スコーピオにも連絡してくれ」
『了解しました、私が連絡しますのでアクア様は主砲の制御をお願いします』
「分かったわ、ダッシュ。クロノ、前方の無人戦艦から砲撃しますよ」
「任せるよ、数が多いから連鎖的に撃沈できるように艦を巻き込んでいくと効率は良いぞ」
クロノの意見にアクアは頷いて狙いを正確にしていった。
「始まったな、ユーチャリスUの砲撃でどこまで保てるかな」
スクリーンに映る木連艦隊の状況を見てアルベルトの分析に副長が答えた。
「我々の前に辿り着けた時には半数も残りそうに無いですね。
出力が三倍ほどありますから彼等のフィールドの防御など効果は無いですよ、
それにスコーピオの砲撃もかなりのものですよ、見て下さいフィールドを貫いていくんですよ。
これでは辿り着くのも難しいですよ、密集すれば貫通されてまとめて撃沈されますよ」
「喧嘩を売らなくて良かったな、火星には勝てる気がしないぞ。あの艦は反則に見えるな」
どこかホッとした様子のアルベルトに副長は、
「機動力、攻撃力は完全に全艦を上回っていますな。それにナデシコの意見を聞いたら、
まだ何かあるような気がしますよ。奥の手が幾つもあるように言ってましたから」
「そこが怖いな、あの艦だけでも脅威なのにまだ切り札が有りそうだから敵にならなくて良かったよ」
「連合政府には気をつけてもらわないと大変な事になりますよ」
副長の苦笑する姿にアルベルトも苦笑で返していた。
「すごいわね〜このまま勝てるんじゃないかな。艦長はどう思いますか」
スクリーンに映る映像を見てアリスの質問にジュンは、
「無理だね、数が多いから戦艦を盾にしながら進んでくるよ。でも半分以上は撃沈されるかな」
「愚かね、木連は馬鹿しかいないのかしら。呆れてものが言えないわよ」
『まあ無人機で攻撃するような国だから戦術とかは単調なものしかねえんじゃないか』
「ウリバタケさん、あの艦ですが作ることが出来ますか」
プロスの意見にウリバタケは考えて意見を述べる。
『難しいな、出力を考えると相転移エンジンが最低でも6基は要るかな。それに制御するシステムが重要だな、
オモイカネシリーズが絶対に必要だぜ、ただなアクアちゃんが乗っているから奥の手がありそうだな』
「奥の手ですか、どんな武器があると思いますか」
『相転移エンジンを使った兵器がありそうだな、それも凄まじい破壊力がありそうな感じがするぜ』
「そうですか、やはり勝てそうもありませんね。火星が敵でなくて良かったですな」
『それだけじゃねえような気もするぜ。奥の手が一つとは限らんぜ、なんせペテンを掛けるのは得意そうだしな』
苦笑して話すウリバタケにプロスは、
「うちの会長達ではまず勝てませんね、格が違いますよ。迷惑ばかり掛けていますから心苦しくて」
ため息を吐くプロスにウリバタケは、
『まあ気にすんなよ、例の土木フレームだけど設計図が出来たから後で送ってくれよ』
「お手数をおかけしますね、復興事業に使うそうですがコストの方は下げられますか」
『ああ戦闘用じゃねえから四割くらいは落せるぜ、火星に持って行くには丁度良いじゃねえか』
「いい仕事をしますね、これで趣味に走らなければ本社に迎える事も出来るのですが」
残念そうに話すプロスにウリバタケは、
『だから俺は作りたいものしか作る気はねえんだよ、作りたくない物を作れと言われても困るんだよ』
「プロにはなれないアマチュアだな、まあ個人の問題だから諦めるんだな」
グロリアの意見にブリッジの意見は統一されたみたいだった。
「でもいいんじゃないかな〜自分の気持ちに従っているのだから。でも奥さんは苦労してるみたいね〜」
ミナトが話した内容にブリッジはウリバタケの奥さんの苦労を思いため息を吐いていた。
「その点は大丈夫です、アクアさんの意見を採用してウリバタケさんの給料の半分以上は、
奥さんの口座に振り込んでいますからご家族の生活は守られています」
プロスの説明にブリッジは感心していたがウリバタケは驚いて聞き返した。
『ちょっと待て、俺の給料は変わっていないぞ。これはどういう事なんだ、おかしいじゃねえかよ』
「対艦フレームなどのパテントは全て奥様に説明して口座に振り込む事にしています、
奥様に聞けばそうしてもらえると助かると言われたので変更しました。
ちなみにいつ気付くのか、待っていたのですが気付かれないので今回こうして話す事にしました」
絶句するウリバタケを見ながらプロスは続けた。
「アクアさん曰く風呂場の罰ですから諦めて下さいとの事です、ちなみに変更は出来ませんのであしからず」
『くっやってくれるじゃねえか、根に持っていたのか、だが俺も罰を受けたのにどうしてだ』
「首謀者だからですよとの事です。本当は全額を送ろうかしらと言われたのですが、
それはまずいので私の一存で変更しておきました、感謝して下さいウリバタケさん」
『仕方ねえな、この件は諦めようじゃねえか。他にはないだろうな、プロスの旦那』
「ありませんよ、土木フレームの件をどうするかくらいですね」
プロスの説明にウリバタケは考え始めたが、その時砲撃の中から戦艦が現れてきた。
「作戦を開始します、各機出撃準備を始めて下さい。主砲発射できるかい、シオン」
『問題ありません、主砲の射程まで後五分です』
「よし入り次第、砲撃を開始します。ミサイル、レールガンの準備もいいですか」
ジュンの指示にクルーも準備を終えて木連艦隊が来るのを待ち構えていた。
「主砲発射ぁ―――!続いて対艦フレーム出撃せよ、ミサイルで援護をしてくれシオン」
『了解しました、ミストルテインからも出撃が始まりました。第一波は六十隻です』
「よし連続して砲撃するぞ、ミナトさん最適ポイントへ艦を動かして下さい」
「了解、行くわよ。荒っぽいけど勘弁してね〜」
そう話すとミナトはナデシコを最適ポイントへ移動させた。
『ここならグンニグルと交互に撃ち続ける事が可能です』
「艦長、グンニグルから合わせてくれとの事です」
「了解したと伝えて下さい、シオン向こうに合わせて砲撃を始めてくれ」
『了解しました、艦長。他の地点でも戦闘が始まりました、数は4百隻程です。後方に有人艦がいるみたいです』
「まずは無人戦艦を撃破するよ、この程度の敵には負ける気はないからね」
そう話すジュンにクルーもそれぞれの仕事を完璧にこなしていた。
第三次火星会戦の始まりだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
いよいよクライマックスへ向かいそうです。
予定では全三十話を考えていたんですが、ダメでした。
未熟ですなと言わないで下さいね。
書きたい事が増えたのでもう少し続きそうです。
では次回でお会いしましょう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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