一つの戦いが終わった

勝つ事は出来たが空しさだけが残る

だがそんな事を感じる暇を与えないように問題は起こる

時代の変わり目とはそんな事の連続なのだろうか

俺達は問題を解決し平和な時代を作ってみせる

それが俺達の責任かもしれないと思う




僕たちの独立戦争  第三十三話
著 EFF


「提督、火星軍の大型戦艦の砲撃で艦隊の半数が大破しました」

「くっ突破は出来ないのか、こちらの主砲はどうした!」

「射程には入っていません、向こうの方が長いんです。このままだと半数は撃沈されます」

「構わん!進ませろ、半数あれば十分勝てるぞ。俺達の勝利は間違いないぞ」

高木はそう叫ぶが乗員は信じてはいなかった、それを裏付けるように報告が入ってきた。

「後方から砲撃が始まりました、以前木連に現れた戦艦です。それに続くように戦艦が現れています」

スコーピオの砲撃に続いてレオ、新型の重砲撃艦タウラスから砲撃が放たれていた。

「戦艦を向かわせろ、正面から戦えないのか火星は!卑怯な事ばかりするな、だがこれで終わりだよ」

高木はそう話すが事態は木連の敗北へと進み始めていた。


『マスター、囮に引っかかりました。二百隻ほどですがスコーピオに向かっています。

 このまま引き離してカプリコーンの設置した機動爆雷網に誘き寄せます』

「よしエリックに無理はするな、生き残る事を優先しろと伝えてくれ。他の状況はどうなっている」

『ユーチャリスUの砲撃を耐えてきた戦艦があります、ナデシコとミストルテインを含む六隻で迎撃しています。

 収束率を変更して広域の破壊に変更します、またミストルテインからストライカーシリーズが出撃します。

 それに呼応してナデシコからも対艦フレームのエステバリスが出撃しました』

「ではクロノ、こちらも無人のブレードを出撃させますか」

アクアの意見にクロノは頷いてダッシュに、


「こちらも無人機のブレードを発進させるぞ、乱戦に持ち込んで敵の砲撃を封じ込めるぞ」

『了解しました、乱戦になれば火星の機動兵器の攻撃に無人戦艦は対応できません。

 方法は相打ち覚悟で攻撃するしかありませんが、その決断は彼には出来ないでしょう』

「ひどいものですね、戦争の恐ろしさを知っていないなんて。戦争なんて綺麗なものじゃないのに」

「そうだな、無様な真似は出来んとか言って無策のまま戦うのだろうな。

 戦争も怖さも知らないくせに始めた報いだな、彼らには悪いが全滅してもらうぞ」

クロノの宣言にダッシュも続く。

『そうですね、撤退しない以上覚悟は出来ているでしょう。数で押しても無駄だと感じてもらいましょう。

 木連も敗北すれば変わるかもしれませんね、無理かもしれませんが』

「………だといいがな。ライブラとキャンサーの方はどうなっている、ダッシュ」

『まもなく攻撃を開始します、ジャンプ攻撃でいきなり乱戦になりますから彼らも驚くでしょう』


「まだ戦艦を撃沈できないのか、何をしてるんだ!」

高木の苛立つ声に乗員は報告する。

「機動兵器による攻撃で乱戦に入りました、次々と戦艦が撃沈されています。どうしますか」

「このまま進ませろ、数ではこちらの方が有利なんだ。勝てるはずなんだ」

高木はそう叫ぶが状況は刻一刻と木連の敗北に進んでいった。

「後方の艦隊が機動爆雷網に入りました、このままでは全滅します。戻しますか」

「さっさと戻せ、後ろは無視して前方に集中させろ。あのでかぶつを落せば勝てるぞ、全艦を向かわせろ」

高木の指示に艦を向かわせるが砲撃によって半数以上が撃沈されてしまい、

近づいても無人機による防衛網を突破できずに落されていった。

「どうしてだ!俺達が負ける訳がないんだ、正義が負ける訳がないんだよ」

状況を見ながら高木はそう叫ぶが現実は高木の考えたようにはならなかった。

「機動兵器が艦隊中央に跳躍してきました、数は七十機有人艦に攻撃を始めました」

「なっなんだと無人機は何をしているんだ!」

驚く高木に乗員は報告を続ける。

「無人機は役に立ちません、一方的に撃破されています。主砲は味方に当たる為使えません、

 無人戦艦も混乱して反撃も碌にしていません」

「くっどうしてだ、俺達の正義が負けるのか。正義が負ける事はないんだよ!」

高木の叫びに後ろから声が続いた。

「戦争なんですよ、正義が勝つのではありません。強いほうが勝つんですよ、理解できましたか」

その声に振り向いた高木は参謀に反論する

「正義が勝つんだよ、俺達が正義なんだよ。負ける訳がないんだよ」

「では負ける我々が悪なんですね、提督の考え方ではそうなりますよ。木連が負ける以上正義は火星にありますね」

その言葉に高木は信じられなかったが乗員はここに至って木連の敗北を認めていた。

「戦争とは主義主張で勝てるものではないのです、強いほうが勝ち残るんですよ。

 正義が勝つなんて甘い事を言ってる木連では火星には勝てませんよ、提督」

その言葉に高木は崩れ落ちていくが、参謀は通信士に話す。

「回線を開いて火星に降伏を宣言しよう、もう遅いかもな」

準備を始めた通信士にそう話すと一機のエクスストライカーがボソン砲を発射した。

火に包まれていく艦橋を見ながら参謀は、

「………木連を頼みますよ、秋山さん。このままでは木連は草壁の狂気に………………」

旗艦こうげつの撃沈によって無人戦艦の指揮を奪い火星の勝利は確定した。

後の歴史研究家はこの戦いは避ける事が出来たが、

状況を理解しなかった木連によって起きた悲劇だと評している。



「勝ちましたね、お疲れ様でしたクロノ。気分は良くないですが」

「そうだな、こんな戦いはしたくはないな。これで終わりになるといいな」

疲れを見せるクロノにアクアは、

「ずっと戦場にいましたからね、みんなも心配してますよ」

「そうだな、心配かけたからみんなと遊んでやらないとな。まだ後始末があるが一段落したな」

『こちらの被害は軽微ですね、後はエドワードさんやタキザワさんの仕事ですね』

「お疲れさん、ダッシュ。俺達の仕事は戦う事だがこれからが大変だな、エドに通信を繋いでくれ」

『分かりました、マスター』

クロノの指示に画面にエドワードが映りクロノは報告した。

「とりあえず勝ったよ、これで時間も稼げるだろう。後はダミーを使うだけだな、エド」

『そうだな、報復攻撃は当分は無理だからな。交渉で時間を稼ぐよ、ダミーの位置は分かるかな』

『ダミーは木連に到着しました、科学者達に引き渡され解析が始まっていますね。

 場所は木連のコロニーでも市民船でもない場所ですね、北辰達暗部の警護で研究が始まるみたいです』

「好都合だな、では爆破させるか。これで問題が解決されて火星の安全が確保できそうだな」

『偽物だと分からない間に使うか、草壁の野望を砕くには丁度いいな。これ以上奴の思うようにさせる気はないな』

二人の意見を聞きダッシュはダミーの遺跡の中にある相転移爆弾を起動させた。

『では始めます………起動しました、臨界まで五分掛かりますので結果は後ほど』

「疲れたよ、今回は俺は指揮官なんて柄じゃないんだがな。次はパイロットで参加したいな」

苦笑して話すクロノにエドワードは、

『それは無理だな、全体はグレッグが見てくれるが前線での指揮官はまだ不安があるから無理だな』

「そうですよ、人材が育つまではダメですよ。ライトニングの使用もダメですよ」

「勘弁してくれ、アクア。サレナがないから俺の専用機なんだよ、エクスもいいんだがパワーが足りないんだよ」

『まあマスターにはもの足りないかもしれませんね、サレナはマスター専用の機体でしたから』

『指揮官が操縦するなんてどうかと思うが、パイロットが気にいっているのか』

「まあ五年以上乗ってきたからな、新型を操縦する時は楽しいんだよ。馬鹿な事かもしれないが」

クロノは感慨深げにそう話すとアクアは、

「仕方ありませんね、無茶はしないでくださいね。クロノは火星には必要なんですからね」

『そうだぞ、無茶だけはするなよ。子供達が心配するぞ、クロノ』

「ああ、帰る場所があるからな。無茶はしないよ、さあダッシュ全艦に通信を入れてくれ。

 内容は作戦終了、俺達は火星を守った。お疲れ様でした。と伝えてくれ」

『はい、では木連の生存者を捜索後、随時ドックへ帰還させます』

「アクアもお疲れ様、先に帰ってもいいよ。みんなが心配するから無事だって伝えて欲しいな」

「ダメですよ、帰る時は一緒ですよ。一緒に家に帰りましょうね、クロノ」

アクアを気遣うクロノにアクアは微笑んで話した。

二人は家族の待つ温かい家を思いながら作業を開始した。

第三次火星会戦はここに終了した。



―――クリムゾン会長室―――


「そうか無事終わったか、木連はこれからどう動くかな」

秘書の報告にロバートは次の事に意識を向け始めた。

「草壁の意思次第だと思いますね、休戦を申し込む事も考えられますが」

「無理だろう、そんな事をすれば彼がしてきた事が木連の住民に知られるからな。そんな事が出来るかな」

「無理ですね、言動からして自分の非を認める事はないでしょう。ではこのまま緊張状態が続きますか」

「今すぐは難しいが火星が報復攻撃をするからな、市民に説明しないとどうなるか」

「危険ですね、追いつめられて何をするかわかりませんよ」

「確かにそうだな、気をつけるように火星に話さないとな」

「地球の状況ですが月の攻略戦のスケジュールを早まるかもしれません。

 今回の作戦で木連の戦力ダウンを計算に入れてるみたいです、戦艦の準備を進めるように連絡がありました」

「進めろと言われても難しいぞ、アスカとの共同だからな。出向社員の教育をしながらでは無理は出来んぞ」

「一隻だけでも早めて欲しいです、アスカにも同様に伝えられています。向こうも困っているみたいです」

険しい顔で話す秘書にロバートは、

「何か裏がありそうな気がするな、アスカにも警戒するように連絡しておいてくれ。

 SSに調査を始めるように言っておいて欲しい、軍で干された者の独断専行かもしれないからな」

「分かりました、調査を開始します。今軍の暴挙を起こされると困った事になりそうですね」

「いやその逆だよ、この際彼らには退場してもらうよ。戦艦は無理だと伝えて自前の戦力で死んでもらうさ」

「そうしますか、私もその方法が後顧の憂いがなくなるので良いかと思いました」

「まだ分からんがな、調査次第だな。いい加減なんとかしないとな、問題ばかり出されては困るな」

「会長も変わりませんね、悪巧みを考えられた時は昔のままですよ」

秘書が語る事にロバートは苦笑して、

「変わらんさ、なんせクリムゾンの会長だからなグループの繁栄を考える立場だからな」

「ですがそれが必要ですよ、トップに立つ者が時には非情な決断も出来ないと危険ですよ。

 社員に迷惑や負担が掛かりますから、それでは人がついて来れませんよ」

「それに気付く者が何人いるかな、覚悟のない者が地球には多いから困るな」

「木連はもっと多いですよ、火星ぐらいですよ。上から下まで覚悟が出来ているのは」

「火星は地球と木連のせいで覚悟が出来たからな、自業自得といえ無様すぎるな」

「これからが大変です、ネルガルが復興事業を計画していますよ」

「地球の再建計画もしないとな、戦後を見据えての活動も考えないとな」

「ではスタッフを集めてプランを考えます、調査の件は分かり次第報告します」

ロバートは頷いて答えると秘書は行動を開始した。

戦後の方向を誤らないように慎重に考えながら。


―――木連作戦会議室―――


「閣下はどうしたんだ、まだ来られていないのか」

会議室を見て白鳥九十九は先に来ていた月臣に尋ねた。

「まだ来てないな、源八郎はどうしたんだ。あいつも来てないぞ」

「木連の衛星で変な爆発が起きてな、調査を無人戦艦にさせてるが不審な点があって直接行く事にしたんだよ。

 南雲が一緒にいるから大丈夫だと思うが、何故爆発が起きたのか分からんな」

月臣は九十九に声を潜めて、

「もしかして閣下のせいかもな、源八郎の言ってた事が関係してるんじゃないか」

「そうかもしれないな、閣下が来てないのもそのせいか」

「可能性はあるな、来たら大変だぞ。苛立っているからな、何が起きるか分からんぞ」

月臣の予想に九十九も納得して注意する事にしたが時間になっても草壁は現れなかった。

士官達は顔を見合わせ代表で何人かを執務室に行かせる事にした時、草壁が入って来た。

「どうかされましたか、お顔の色が優れませんが」

士官の一人が尋ねると苛立つようにして、

「なんでもない、秋山君と南雲君はどうしたんだ」

「不審な爆発が起きたので調査に向かっております、閣下」

九十九の発言に草壁は訊ねた。

「爆発とはなんだね、何処で起きたのか」

九十九が場所を話し状況を報告するにつれて草壁は怒りを見せだした。

「閣下、どうかしましたか。何か心当たりがあるのでしょうか」

士官の一人が尋ねると、

「なんでもない、白鳥君。秋山君が戻ったら詳細な報告を出して欲しいと伝えてくれ」

「やはり火星の艦が潜んでいるのでしょうか、自分も行きましょうか」

白鳥が進言すると、

「もうそこにはいないだろう、だが警戒する必要はあるな。防宙態勢はどうなっているか」

「現在、艦を配備中です。三日後には終了します」

「それより今回の失敗は痛いです、閣下はどうお考えになりますか」

月臣の質問に草壁は、

「高木君は火星の罠に入ってしまったな、だが次は負けんよ。最後に勝つのは木連だからな」

「いえ責任の所在について聞いているのです、こんな杜撰な作戦を認めた閣下は何を考えていたのですか。

 途中で引き返させもせず、まるで捨石のような使い方をされたのは何故か聞きたいのです」

月臣の責任追及に草壁は、

「高木君に一任したからな、彼のせいじゃないかな。引き返すように言ったんだが意地になって聞かなかったな」

「そうですか、今後はこんな無謀な作戦は控えて下さい。プラントの寿命を縮める事になりかねませんから」

九十九がそう話すと草壁は苛立つように、

「分かった、気をつけようじゃないか。他に意見がなければ解散する」

草壁は周囲を見て意見がない事を確認すると席を立ち退室した。

それを見て月臣が、

「責任をとらないか、随分変わってしまったな。昔はあんな人ではなかったが」

「元一朗、驚かせるなよ。寿命が縮まるかと思ったぞ」

「九十九が言うなよ、俺もお前の発言には吃驚したんだぞ」

二人は笑いながら話すが士官の一人が、

「本当に変わりましたね、閣下は。木連はこれからどうなるのでしょうか」

その言葉に士官達は火星の報復攻撃に恐怖を抱いていた。

「覚悟を決めろよ!木連の命運が掛かっているからな、俺達が市民を守らないとな」

月臣の声に士官達も状況の把握する為に二人に質問していた。

木連もまた現実を見始めていた。



―――戦艦 かんなづき―――


「これはなんなんだ、爆発なのか。南雲はこれを見てどう思う」

「新城なら分析できるかも知れませんが、あいつは技術には詳しいですが自分には無理ですね。

 何かが消滅してその衝撃で周囲が巻き込まれた気がしますが、ここまでの被害は知りませんよ」

現場に到着した二人の前に映る光景に乗員達も不安を隠せなかった。

「それでも十分だな、多分相転移エンジンを暴走させて周囲の全てを相転移したんじゃないか。

 さしずめ相転移爆弾って言うかな、ここに閣下が火星から持ち込んだ物があったんだな。

 見事に火星の罠に引っ掛かったな、これで閣下の手駒は全て失っただろうな………なんとかなるかもな」

「そうですね、我々の計画は成功する可能性が出て来ました。木連の滅亡は避けられるかもしれません」

南雲の意見に乗員達も未来に希望が出て来た事を喜んでいたが、

「まだ分からんぞ、全てを失ったから危険だ。どんな暴挙に出るか、その行為に火星が激怒したら終わりだな」

「確かに手負いの閣下が何をするか判りませんね。計画を進める必要があります」

「周囲を調査して痕跡を調べよう無駄かもしれんが報告を出せと閣下が言ってくるだろう。

 その時の為にしっかりとしておかないと怪しまれるからな。無人機を出して現場にある物を分析していこうか」

秋山の指示に全員が行動を開始した。

二時間後秋山の元に南雲が分析結果を持って来た。

「見事に何もないな、かなりの破壊力があるな相転移爆弾は、俺達にも使えるが危険だな」

「自爆覚悟で使うしかないですよ、閣下には教えられません。特攻させるかもしれませんから、

 報告書は改竄しますよ。原因は不明にします、我々には分からなかった事にします」

「そうだな、無責任に部下を煽って特攻させられると困るな。今の閣下なら平気でするな」

「ええ、部下の命なんて使い捨ての道具みたいにしてますから危険ですよ」

二人の意見に草壁の危険性に乗員達も恐怖を感じていた。

「昔はそんな人じゃなかったんだがな」

「権力を持ってしまった事が悲劇の始まりでしょうか」

秋山の呟きに南雲が辛そうに話す。

「気をつけないとな、俺達はそんな事にならないようにしないと」

そう言って秋山はかんなづきを帰還させるように指示を出していた。

権力を持つ危険性を乗員達も感じていた。

 

―――空母 ミストルテイン―――


「それは本当ですか、何を考えているんだ奴らは」

『君達はそのまま待機するようにして欲しい、君達が帰還すると彼らには不都合だろう』

「ですが危険ですよ、俺達がいないのに月の攻略戦を始めたら敗北するのでは」

『それも承知しているよ、一般の兵士達は参加しないだろうな。彼らの子飼いの者達でするのだろう。

 チャンスと言えるかもしれないな。いい加減理解して欲しいものだよ、時代が変わり始めている事に』

アルベルトに告げるロバートは苦笑していた。

「会長はいいのですか、逆らえば危険かもしれませんよ。奴らも何をするか、分かりませんよ」

『覚悟は出来てるよ、それに私を殺せばクリムゾンを敵に回すよ。その覚悟があればいいが彼らには無いよ』

「そうですね、ネルガルはどう動くと思いますか。奴らに従いますか」

副長が冷静に状況をロバートに尋ねた。

『今回は動かんだろうな、リスクが大きいよ。戦艦をすぐに失うと思うと避けるだろうな。

 向こうも今回の事には呆れているみたいだからな、事故が発生して戦艦の建造を遅らせているみたいだよ』

「事故ですか、危険ですね。気をつけないといけませんね」

ロバートの口調に気付いた副長は笑いながら話していた。

『そうだな、気をつけないと。こっちは新人が多いから思うように進められないから困るよ』

「こちらはもうしばらく掛かりそうですね、事後処理がありますから早くても三週間は掛かると思いますよ」

『そうか、出来るだけ急いでくれよ。月の攻略戦に間に合うようにな』

そう言ってロバートは通信を切ったがアルベルトは画面を見て、

「喰えない爺さんだな。………だが助かったな、奴らの都合に合わせる気はないな」

「そうですね、ナデシコにも注意を呼びかけないといけませんな。プロス氏に連絡をしておきましょうか」

「そうしてくれ、俺は火星に直接連絡しておくよ。向こうは気付いていると思うが連絡しておこうな」

ロバートからもたらされた情報に二人は思案してそれぞれに活動を始めた。


―――ナデシコ ブリッジ―――


『…………そういう事なのでナデシコも気をつけて下さい。こちらは準備を整えて連絡を待とうと思います』

「そうですか、ご連絡ありがとうございます。こちらも本社に連絡を取り事態を把握したいと思います。

 それにしても随分都合のいい事を考えますな、勝てると信じているのでしょうか」

『自分の都合のいい事しか考えない馬鹿達ですから勝てると思っているんでしょうな。

 こんな点は木連と似ていますな、現実を見ないで勝手な事ばかりする点は』

「その通りですな、いい加減にして欲しいですな。目を覚ましてくれるといいんですが」

『難しいですよ、では状況が変わり次第連絡します。失礼します』

ミストルテインからの通信を終えたプロスはため息を吐いた、それを見ていたジュンは、

「お疲れ様でした、プロスさん。僕達も準備は整えておきましょうか、最悪の事態だけは回避したいですから」

「そうですな、本社からの指示を聞いた時は変だと思いましたが、連絡を頂いて納得しましたよ。

 悪あがきもいい加減にして欲しいですな、ですが会長も強かさが出てきましたよ。いい傾向ですな」

「でもよ〜いいのか、地球に戻らなくて。やばいんじゃねえのか、勝てないと思うぜ」

「リョーコさんの言う通りですよ、彼らの戦力では負けると思いますよ。

 戦力はダウンしたかもしれませんが状況はかわっていませんよ、月の戦力はそのままの筈ですよ。

 そんな事も分からないんでしょうか、数では勝てますが戦闘力では負けていますから敗北は確実です」

リョーコの意見を補足するようにイツキが話すとプロスが、

「カザマさんの言う通り、負けるでしょうな。ですが勝たれては困るんですよ、負けて頂かないと」

既に決定したように告げた、その言葉にクルーは驚いていたがプロスは説明を続けた。

「このまま月の攻略戦に勝たれると勢い付いてこの戦争を続行させるでしょう、

 そして自分達の汚点を誤魔化して軍を再び私物化するでしょうな、そうなれば泥沼のまま戦争が続きますよ。

 被害を受けるのは前線で戦う兵士と市民の皆さんです、そんな事はさせる気はないみたいですね。

 うちの会長とクリムゾンの会長は彼らをこの戦いで切り捨てるつもりみたいですな、私も賛成ですよ」

非情とも言える言葉にクルーは声も出なかったがプロスは、

「こんな考え方は好きじゃないでしょうが、彼らのせいで戦争が始まり火星の住民が犠牲になったんですよ。

 その事を反省もせずに自分達の利権を求めるような人間がいられるとまた戦争が起きますよ。

 今度戦争が起きれば被害は何倍にも増えるでしょうな、

 この戦争で技術が進歩していますから兵器の進化が進めばそれだけ人が死ぬ事になりますよ。

 二人はその点も注意しているのかもしれません、ですから非情ともいえる決断をしたのでしょう」

話し終えるとプロスは会長との通信を行う為に自室に戻った。

「当然の結果だな、二人の決断は間違ってはいないさ。この先を考えれば彼らは邪魔だからな」

グロリアは自分の意見を告げると作業を始めた。

「でも人が死ぬんですよ、グロリアさん。それでもいいんですか」

「だが戦争が続けば犠牲の数は増え続けるぞ、この分だと火星とも戦争も始まるな。

 そうなれば火星は手加減などしないで全力で攻撃するぞ、地球の人口の半分は死滅するな。

 メグミはそれでも構わないか、私はそんな結末は見たくはないな」

グロリアの考えにメグミは絶句したがクルーもその意見には納得していた。

「まあそうなるな、兵器に関しては火星は地球や木連の先を進んでいるが、

 人口が少ないから最大の火力で先制するしかねえな、ビッグバリアは意味がねえからな防御は出来ないしな」

「ウリバタケさんもそう思いますか、僕の考えも同じですよ。ボソンジャンプの攻撃なんて防御は無理ですね」

「そういうこった、まあこの戦争を始めた連中は責任を取ってもらわねえと困るな。

 責任も取らずに都合のいい事ばかり言うんじゃねえと言いたいな。じゃあ報告書は渡したぞ、艦長」

「はい、確かに受け取りましたよ。ウリバタケさん、準備だけ進めていて下さい」

了解と手を振りながらウリバタケは格納庫に戻って行った。

「まあメグミさんも気にしないで下さい、あなたの考えは間違ってはいませんよ。ただ立場の違いなんですよ。

 責任を取れない人が上にいるのは危険なんですよ。

 それに彼らには未来はもうないんですよ、この戦争が終われば彼らは戦争責任を取る事になりますよ。

 そうなればこの戦争で甘い汁を啜ってきた人はそれなりの刑罰を受ける事になります。

 今受けるか、後になるかの違いだけですよ」

ジュンの説明にクルーは責任の重さについて考え始めていた。

一つの問題が解決したがまた別の問題が現れて来た。

………時代の変わり目とはそんな事が続くのかもしれない。










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EFFです。

第三次火星会戦が終わりました。
ダラダラと続けたような気もしますが読まれた人がどう思うか知りたい気もします。

黒い鳩さんのおかげでSSを掲載出来る事ができたので様々な指摘を皆さんから頂いています。
この作品では活かせるか分かりませんが、次に書く事があれば活かしたいですね。

では次回でお会いしましょう。






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