長い戦いに終わりが見えてきた

いつまでも独裁者がいられる世界ではないのだ

その事に気付けば救いがあったのだろう

指摘されないから独裁者は滅びるのかもしれない

独裁者の側にいる者は疑問など思わないだろう

従うだけの者が考える事はないのだ



僕たちの独立戦争  第三十八話
著 EFF


草壁は追い詰められていた。

日を追う毎に市民から現在の状況の説明を求める声が増え、

部下達も不安になり始めていた。

草壁が正義を口にしても市民達はそれを鵜呑みにせず、

事態の説明をしている秋山達に呼応する者も現れていた。

そして今日が火星の宣言した期日の終わりの日だった。

今日、返答をしなければ火星の攻撃が始まるだろう。

現在の戦力で火星の報復攻撃を完全に防ぐのは難しい事は理解している。

防衛できなければ、市民は完全に自分を信用しない事になるだろう。

秋山達によってこの戦争の無意味さを知らされた市民は自分から離反するのは間違いない。

ここに至って草壁は一つの決断をしようとしていた。

………人はそれを悪あがきというが。


監視基地のドックにいるユーチャリスUのブリッジから草壁派の監視をしていたクロノはある事を考えていた。

「ダッシュ、草壁派の戦艦は何隻あるか分かるか?

 戦力の全てを火星に向けた場合のシミュレーションをしてくれ」

『了解しました、マスター。

 直ちに開始します』

クロノの指示にダッシュはすぐに計算を開始するとそれを聞いたスタッフは驚いてクロノを見ていた。

「……クロノ、

 草壁が市民を見捨てて火星に侵攻すると思うのですか?」

アクアがスタッフ全員の意思を代弁するようにクロノに訊ねるとクロノは考えを述べた。

「ああ、最悪はそうなると考えてみたんだよ。

 あいつの目的は人類を自分の正義の名の下に支配する事だ。

 木連はその為の道具にすぎないのなら、

 市民を見捨てると考えたんだが、……おかしいかな?」

「いえ、その通りですよ。

 草壁の事ですから勝てる条件があれば逃げるという選択もありますが、

 今の状況ではその選択の可能性はないと思います。

 逃げない以上は火星に侵攻する可能性は十分にありますよ」

アクアもクロノの意見に賛成する事でスタッフも草壁の悪あがきを考え始めていた。

『…………マスター、

 草壁派の戦力を全て終結させるなら先の侵攻艦隊に僅かには及びませんが十分可能だと判断します。

 万が一の事を考えて火星に報告します』

計算を終えてクロノに伝えたダッシュは火星にも警告を送った。

「よし、俺達は攻撃の準備をしながら火星に戻れる用意をしておく。

 草壁が自ら侵攻して来た時が最大のチャンスだ。

 ここで勝利して草壁を撃破すれば、火星の勝利は確定するぞ。

 後はエド達に任せる事になるが戦争は終結するだろうな」

クロノの宣言にスタッフも戦争の終わりを感じて喜んでいた。


―――火星作戦指令所―――


ダッシュから伝えられた報告にグレッグは憤りを感じていた。

彼にとっては草壁の行動を認める事は出来なかったからである。

地球にいた頃に軍に所属していたが、軍の権力争いに嫌気が差して軍を辞めて、

自堕落な生活をしていた時に友人であった前市長からの要請でアクエリアコロニーの守備隊の隊長になり、

この火星で市民を守りながら、

次の世代に力を持つ事の危険性を教えながら引退していこうと考えた時に木連の侵攻が始まった。

幸いにもクロノが事前に準備をしていたので最悪の事態を回避できた。

そして木連の行動を知れば知るほどその身勝手さに怒りを覚えていた。

「……都合のいい事ばかり考えるとはな、

 どこまでふざけているんだ、命をなんだと思っているんだ」

命を軽く考える草壁にグレッグは怒っていた。

「いい加減諦めて欲しいですね。

 どこまで犠牲が出れば分かるのでしょうか?」

グレッグの隣に座っていたエドワードも懲りない草壁の行動に呆れていた。

「ですがチャンスが訪れましたね。

 やっと草壁を前線に引き摺り出しましたよ」

「そうね、草壁も一緒に来ざるをえないわね。

 木連に残れば戦争犯罪人として逮捕、収監されるのは間違いないわ。

 もう後がない草壁は戦場に出なければならないわ」

レイの意見に続いてイネスも考えを述べると全員がチャンスだと感じていた。

「前回のような戦術は難しいな。

 …………いよいよ奥の手を使うべきかな」

エドワードが話すとレイもその意見に賛成した。

「そうですね、

 第一次防衛ラインで相転移砲を使うべきでしょう。

 これが通用しなかった場合はシステム掌握を使用しましょう」

グレッグはその意見を聞いて訊ねた。

「逆じゃないのか、

 まずシステム掌握でその次の策が相転移砲ではないのか?」

「いえシステム掌握は使いません。

 これは公にするべきではありません。

 マシンチャイルドと呼ばれる子供達が戦争の道具にされてしまいます。

 恩を仇で返す気は私にはありません。

 あの子供達を戦争の道具にする気はありません」

グレッグの質問にレイは子供達の未来を考えて全員に聞こえるように話した。

それを聞いたスタッフは納得して作業を始めた。

「では軍の記録を改竄しないとな。

 ダッシュにも頼んで誰にも分からない様にしておくか?」

「大丈夫だと思います。

 アクアがそんなミスをしないでしょう。

 私達が下手に介入するよりアクアに全て任せましょう」

「そうね、確認だけしておけば大丈夫よ。

 万が一の時は自分を囮にして子供達の安全だけは必ず確保するわよ」

イネスが結論を出すと全員が納得していた。

指令所は草壁の火星侵攻に備えるべく準備を開始した。

…………この戦争を終結させるチャンスが来た事を確信して。


―――木連 市民船―――


「ここに宣言する!

 ……私は市民を火星の暴挙から守る為に木連より離脱する!」

草壁は市民に向けて宣言をした。

それを聞いた市民は草壁の行動に疑問を持った。

そして次の宣言に呆然とした。

「私は全ての戦力を持って火星へ進軍する!

 そして勝利してここに戻ってくる。

 正義が負ける事はないのだ。

 …………そして私が正義なのだ!」

その宣言を聞いた草壁派の市民は歓声を上げたが、火星からの宣言に恐怖した。

『綺麗事をほざくなよ、独裁者……草壁よ。

 貴様が木連から離脱しようとも、火星の攻撃は続くぞ。

 何故なら貴様に従う者達を火星は許しはしないからだ。

 正義の名の下に火星の住民を抹殺しようとした貴様と貴様の正義に同調した市民は同罪だ。

 綺麗事で誤魔化す事など許しはしない。

 そして貴様が火星に来る事は出来ないぞ。

 火星に到着する前に火星宇宙軍の攻撃で死ぬからだ。

 その後、貴様に従う市民を攻撃する。

 市民を救いたくば、和平派に降伏して法の裁きを受けろ。

 もっとも貴様にとって市民は道具にすぎないだろうがな』

その言葉に草壁は叫んだ。

「私は脅しには屈しないぞ!

 正義が負ける事はないのだ!」

『…………好きにするがいいさ。

 貴様の命運は既に尽きている。

 火星によって戦場で死ぬか、

 市民達の手によって戦争犯罪人として極刑になるか、

 木連から逃げ出して落ちぶれて消えていくか、

 独裁者の運命とはそういうものだよ。

 だが貴様に従い火星の住民の殺した事を反省しない者達を火星は許しはしない。

 家族を友人を奪われた痛みと苦しみを貴様らにも知ってもらうぞ。

 安易に戦争を始めた自分達の馬鹿さ加減を後悔しながら死んでいくがいい』

そう言い残して通信は途絶えた。

火星の宣言を聞いた市民は草壁がいなくなった後も自分達が死ぬ事を教えられて恐怖した。

戦争を始めて自分達が火星の住民を死なせた事にようやく気付いたみたいだった。

その宣言の直後に火星の攻撃が始まった。

だが草壁は戦力を温存して市民船を防衛しなかった。

逆に攻撃を受けていた市民船を包囲して市民船ごと火星の艦隊を攻撃した。

『君達の犠牲を忘れはしない。

 必ず火星に勝利する事を約束しよう。

 正義が悪に屈する事はないのだ』

火星の無人艦隊を撃破して、市民に告げた草壁は火星へと侵攻して行った。

市民達も草壁の唱える正義に疑問を感じていた。


「最後の悪あがきだな。

 戦力の全てを火星に向けたんだな」

秋山が聞くと月臣が呆れた様子で答えた。

「ああ、全艦艇を使って火星に侵攻したみたいだ。

 源八郎、この後はどうするんだ?」

「……とりあえず、このままの状態を維持するぞ。

 草壁派の市民船は無視して放置する。

 迂闊に助ける事が出来なくなったからな」

秋山が告げた事に士官達は疑問を感じたが白鳥が答えた。

「そうだな、反省させないと不味いな。

 草壁が敗北した後で自分達の命の危険を感じてもらい、

 二度と安易に戦争を賛美しないようにしてもらわんと困るな」

白鳥の考えを聞いて全員が納得したが、月臣が秋山に聞いた。

「源八郎、火星が攻撃した時はどうするんだ。

 無防備の市民船は簡単に崩壊するぞ。

 …………犠牲者が増えるのは嫌なんだが」

「元一朗、火星は攻撃の前に宣言するさ。

 それでも反省しないのならどうにもならんな」

火星の行動を予測した白鳥が月臣に話すと、

「そうか、そう予測したのならいいさ。

 だが俺は万が一の為に警戒態勢を我々の味方の市民船にして防御するぞ」

「そうしておいてくれ、

 九十九は新城と攻撃を受けた市民船の救助に行ってくれ。

 生存者がいれば救助したいからな。

 南雲は俺と防宙体制の確認をしてくれ。

 確認次第、みんなは市民船に行って市民に説明をして不安を出来る限り解消してくれ」

秋山がこれからの事を指示すると全員が行動を開始した。

恐怖に怯える市民が暴動を起こさない様にして、

………火星との交渉を始める為に。


「やれやれ、草壁の悪あがきにも困ったものだな。

 だがこれでこの戦争の終わりが見えてきたな」

呆れるように草壁の演説を聞いていたクロノが真剣な様子で話した。

「これからが本番です。

 この一戦に火星の未来が懸かっていますね」

「そうだな、自動制御で無人機を市民船に攻撃させてくれ。

 その隙に火星に帰還して、第四次火星会戦の準備を始めよう」

クロノは次々とスタッフに指示を出して火星への帰還を準備させた。

スタッフも指示に従い、準備を手早く終了させた。

「クロノ、準備は終わりましたよ」

アクアの報告を聞いたクロノはユーチャリスUを火星にジャンプさせた。

第四次火星会戦の始まりであった。


―――火星作戦指令所―――


「よし、これで木連との交渉の準備が出来そうになるぞ!

 私はスタッフを集めて交渉の条件の草案を作成しますよ、大統領」

クロノからの報告を受けたタキザワがエドワードに告げると

「ええ、タキザワさん達にお任せしますよ。

 我々の出番はこれからです。

 忙しくなりそうですね、コウセイさん」

エドワードが隣にいるコウセイに声をかけると

「そうだぞ、これからが本番じゃぞ。

 わしらの働きで次の戦争が起きるのを防ぐんじゃからな。

 大仕事になりそうだぞ」

コウセイがスタッフにも聞こえる様に話すとスタッフも真剣な顔になっていた。

「私の出番は終わりそうですな。

 後はクロノに任せて後進の育成に励むかな」

グレッグが肩の荷が下りたように笑いながら話すとエドワードが注意する。

「もう少しいて下さいよ、グレッグ。

 クロノは今しばらくは前線指揮官でいる事になりますから。

 軍の内部のお目付け役は必要ですよ」

それを聞いたグレッグは残念そうにして話した。

「……楽隠居は無理ですか?

 のんびり家族と共に暮らせると思ったんですが」

「お前さん一人を楽にはさせんぞ。

 口うるさい年寄りの出番はこれからだぞ」

コウセイが笑いながら話すとグレッグも笑っていた。

この二年以上の間、常に不安と戦い続けてきたスタッフも笑顔で作業していた。

待ち望んできた平和が見えてきた事に緊張も解れてきたみたいだ。

「でも勝たないと全てが無駄になりますよ。

 数は前回と同程度ですが警戒していますのでミサイル攻撃も効果がありますか?」

報告を受けてオペレーターとして来ていたルリがレイに訊ねると、

「奥の手を使いますよ。

 この為に今まで使わずに苦労してきたんです」

「やっぱりあったんですか。

 先の会戦で使わなかったから不思議に思っていたんです」

「ええ、一度限りの使用にするつもりで、

 我慢してきたんです。

 でも草壁が来るのなら使用には躊躇う必要がないです」

レイが今までの苦労を思い出して話すとルリが聞いた。

「システム掌握ですか。

 あれなら確実に勝てますね、ではみんなの準備をしますか?」

「違います、それは最後の手段です。

 私達はホシノさん達を戦争の道具にする気はありません。

 その為にアクアもクロノも頑張ってきたんですよ」

レイが諭すように話すとルリは考え込み始めた。

その様子にスタッフも静かに見守りながら作業を続けていた。

「でもいいんですか?

 ……確実に勝てる手段を放棄しても」

ルリがレイに話すとそれを聞いたエドワードが答えた。

「いいんだよ、

 戦争は大人がして苦労するものなんだよ。

 君達のような子供を戦場に出した時点で間違っているのさ。

 君が大人になった時にそれが分かると嬉しいな」

優しく話すエドワードを見て、ルリは頭を下げると作業を再開した。

その顔には自分達を大事に思ってくれる人達に感謝する気持ちが出ていた。

アクアやクロノ、そしてここにいるスタッフのような大人になりたいとルリは思う。

ルリも自分の未来について考えていた。

諦観していたあの頃が遠くに感じられていた。

ルリも自分の意思で未来を歩き始めていた。


―――旗艦 かぐらづき―――


草壁は艦隊を見ながら自分の置かれている状況を分析していた。

木連では自分が帰る場所がない事を理解していたが、

勝つ事で活路を見出そうとしていた。

「よし、全艦に警戒態勢を維持させろ!

 悪の火星の攻撃を最小限に抑えて我々は進軍する。

 そしてこの宇宙に我々の正義を見せるのだ」

草壁の必勝宣言に部下達は浮かれていたが、火星侵攻は甘くはなかった。

これからその事を草壁は知る事になる。


―――ユーチャリスU ブリッジ―――


「防衛用の機動爆雷群の設置状況は順調に進んでいるか?

 無理があるなら数を減らして二次防衛ラインの数を増やそう、ダッシュ」

スクリーンを見ながらクロノはダッシュに現在の状況を聞くと、

『問題はありません。

 予定より早くなりそうですね。

 皆さん、休みなしで準備しています』

「……まあ気持ちは分かるが無理をさせないようにしないとな。

 作業スタッフに「無理をするな、先は長いぞ」と連絡してくれ、

 今倒れられると困るんでな」

ダッシュの報告を聞いたクロノは苦笑しながらスタッフに指示を出した。

クロノの指示を聞いたスタッフも苦笑して伝えた。

今回の侵攻に対して火星は三つの防衛ラインに対フィールドミサイル型の機動爆雷を設置して、

四つ目の最終防衛ラインまでに出来るだけ数を減らす作戦を開始していた。

これには草壁派の兵士が離脱できるように配慮した為であった。

無駄な行為かもしれないが、犠牲者を減らしたいと願うスタッフの意見でもあった。

こうしてクロノ達は機動爆雷の設置を行っていた。

大変な労力がいるがスタッフもこれが最終決戦だと知っていたので、

力の全てを出しきるつもりで作業を行っていた。


―――木連市民船―――


「一体どうなっているんだよ?

 俺達は助かるのか、それともダメなのか?」

草壁の出撃した後の市民船の住民は不安に苛まれていた。

草壁の行動に不審を抱き始めた直後に、草壁は市民船を巻き込んで火星の艦隊を攻撃した。

この行動で自分達が信じていた草壁の言う正義が危険なものだと感じていた。

そこに秋山率いる反乱軍の宣言が始まった。

『草壁派の市民船に伝えておきます。

 我々和平派はあなた達を助けたいのですが、助ける事が出来なくなりました。

 戦争継続を望むあなた達を受け入れる事は火星を刺激して、

 和平を望む市民が生活する市民船も攻撃の対象になる可能性があるからです。

 戦争を賛美して火星と地球に住む人々の命を軽視して、

 戦争の継続を望んだからには自分達も攻撃を受けて死ぬ覚悟が出来ていると我々は判断しました。

 我々も十分な戦力がない為に協力してくれた市民船の防衛が精一杯です。

 これから火星との和平交渉を行う事になりますが、

 我々の交渉次第ではあなた達への攻撃を止められるかもしれませんが、

 ……最悪の事態も覚悟して下さい』

この宣言を聞いて草壁派の住民は戦争の継続を望んだ自分達の命の危機に気付いた。

脱出を考えた者達は残っていた船に乗り込もうとしたが、

既に市民船に侵入していた火星の制御下にある無人機によって破壊されていた事を確認しただけだった。

姿こそ見えないが市民船に火星の黒い無人機が潜んでいる事に気付いた者達は恐怖した。

彼らも自分達の命が危険に晒されて、初めて戦争の怖さを知った。

怯える市民に市民船の責任者達は秋山に連絡を取り、防衛用の艦艇を回して欲しいと要請したが、

『我々の宣言を聞いたでしょう。

 こちらにはあなた方に送る戦力がないのですよ。

 たとえ有ったとしても送る事は出来ません』

秋山の冷酷な発言に怒り叫んでいた。

「ふざけるなよ、貴様達!

 木連軍人がそんな事を言ってもいいのか?

 貴様らの正義は何処に行った!

 さっさと艦艇をこちらにまわせ!」

『お断りしますよ。

 戦争の継続を望んだあなた方を助ける事は、和平を望む我々の正義に反する事です。

 それにあなた方は死ぬことは覚悟できているでしょう。

 戦争を始めたからには自分達も攻撃を受ける事を知っていた筈です。

 ………違いませんか?』

静かに話す秋山に焦る責任者達は、

「たっ頼む!

 こちらに戦艦を回してくれ!

 このままだと市民の暴動も起きそうなんだ」

自分達の状況を話して秋山達の力を貸してもらおうとするが、

『もう一度言います。

 戦争の継続を願った時に覚悟は出来ているでしょう。

 ……草壁派の正義は我々には悪なのです。

 これ以上、火星に攻撃の機会を与える事は出来ません。

 我々には戦力がなく、我々の正義を信じてくれた市民を守る事しか出来ません。

 泣きつくなら草壁にして下さい』

秋山は自分達の状況を伝えると通信を切った。

残された者達は自分達の行為が如何に浅慮であったか、理解して後悔していた。


「いいのか、源八郎?

 あそこまで突き放しても」

白鳥の意見に市民船より帰還した士官達も賛成していた。

「俺も自分の言った事を酷い事だと思っているよ。

 だがな火星が監視している状況で助ける危険性も理解できるだろう?」

秋山が全員に問いかけると皆は黙り込んでしまった。

「火星軍は攻撃する気がなくても火星の住民の感情を考えてみろ。

 戦争継続を望んだ者達を許すと思うか?

 自分達の家族や友人を殺された者達に、

 「戦争の怖さを知らずに、あなた達の友人を傷つけてごめんなさい」等と言われて許せるか?

 ……俺には我慢できんぞ。

 これ以上、火星を刺激するのは危険なんだよ。

 草壁の行動で事態は悪化しているのに、更に悪化させるのはどういう事になるか分かるだろう?」

現在の火星と木連の状況を冷静に話されて会議室は静寂に包まれた。

「こっちは既に殲滅戦を始めてしまった。

 火星がその行為をこっちにしないと誰が決めたんだ。

 以前……話したが無人機の制御を奪われたら、間違いなく木連は滅亡するぞ」

秋山の発言に自分達の置かれている状況に全員が気付いていた。

「問題は交渉だな、源八郎。

 こっちは交渉事には慣れていないからな。

 前回の地球との交渉みたいに挑発されて決裂する事は絶対に出来ないぞ」

「そうだな、俺には無理だから源八郎か、九十九に任せるぞ。

 火星の無理難題を上手くかわして、なんとか和平に持ち込んでくれ」

月臣が二人に話すと全員が前回の交渉を思い出して考え込んでいた。

地球の挑発とも言える条件に怒り、戦争を始めた事を反省していた。

今回の火星との交渉で同じ事をすれば、どうなるか考えるだけで怖かった。

慎重な対応が必要だと考えて、二人を真剣に見つめていた。

「まあ、やるだけやってみるさ。

 火星は地球みたいな事をしないだろうな」

「火星は信用できるさ。

 ここまで手の込んだ方法を取ってきたんだ。

 信じるしかないからな、源八郎」

秋山と白鳥の考えに士官達も安堵した。

…………火星は平和を望んでいると信じて。


―――ユーチャリスU ブリッジ―――


『マスター、作業は完了しました。

 後は草壁が来るのを待つだけですね』

「そうだな、今回はどの程度戦力を奪えると思う。

 俺は二割ぐらいだと考えているが、ダッシュはどう思う?」

ダッシュの報告にクロノは今回の作戦での迎撃できる数をダッシュに聞くと、

『良くて四割、最悪は二割と考えています。

 最終防衛ラインには五千から六千五百隻が火星に侵攻すると想定します』

ダッシュが提示した具体的な数を聞いて、クロノは考え込んでいた。

考え込むクロノにスタッフは何か問題でもあるのかと不思議に思っていた。

「ダッシュ、草壁の目的はなんだと思う。

 演算ユニットか、それとも火星の政府を潰すつもりかな?」

クロノの疑問にスタッフは草壁の目的について考えたが、与えられた情報が少ないので分からなかった。

『マスターは草壁が味方を囮にして、

 そのどちらかを強襲すると考えているのですか?』

「ああ、演算ユニットが目的なら遺跡に強行着陸して確保しようとするだろう。

 また政府を狙うなら無人戦艦を囮にして衛星軌道からの核攻撃も考えられるからな。

 草壁はここまで火星に煮え湯を飲まされてきたからな、

 正直どういう行動に出るか、よく分からんのさ」

クロノが自分の考えをダッシュとスタッフに述べるとアクアが話した。

「では火星の護衛に戦艦を回しましょうか?

 相転移砲を使用するのでユーチャリスUがあれば十分です。

 各コロニーには防衛用のディストーションフィールドがありますので核攻撃にも対応できるでしょう。

 遺跡にいる研究者の皆さんは避難してもらって、

 市民の皆さんにはコロニーの外へ出ない様にしてもらいましょう」

クロノはアクアの意見を聞いて付け加えた。

「遺跡に侵攻した場合は包囲するに止めて、無人艦隊を全滅させてから攻撃を始めよう。

 火星には宇宙軍しかないからな、陸戦はグレッグさんにしか指揮は無理だろう。

 コロニーに侵攻する時はエクスとブレードで防衛して、

 戦艦による砲撃で撃破していこう」

『それでは火星に今の内容を伝えておきます、マスター』

ダッシュが火星に連絡を取ると、クロノはスタッフに告げる。

「最後の戦いにする為に全員に負担をかけるが我慢してくれ。

 この決戦が火星の安全を確保する最大の山場になるだろう。

 この戦いの後はタキザワさん達が和平に向けて頑張ってくれるからな。

 もう少しで今までの苦労が報われる時が来るんだ」

その言葉にスタッフも長い戦いの終わりを感じ取っていた。

スタッフの中には第一次火星会戦からの苦労を思い出している者もいた。

地球から見捨てられて必死で生き残る為に頑張ってきた事がようやく報われる時が来たと思っていた。

火星の独立戦争はやっとゴールが見えてきたのだ。











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

いよいよ最終局面に向かっています。
草壁の正義はどこに向けられるのか?
火星は無事生き残れるのか?
地球と木連は和解できるのか?

この三つが焦点になりますね。
では次回でお会いしましょう。



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