苦労が報われ始めていた
俺の長い旅もこの地で終わるのか
それはまだ分からない
ただ未来を変えた責任だけは果たせそうだと思う
それだけで十分だ
僕たちの独立戦争 第三十七話
著 EFF
「閣下、反乱軍が後退して行きます!
このまま追撃しますか?」
後退する九十九率いる反乱軍の艦隊を見て、かぐらづきの艦橋の乗員は草壁に聞いた。
「いや、ここは戦力を整えようじゃないかね。
………我々の勝利の為に」
草壁が告げると艦橋の乗員はそれに従い正義を口にして指示を艦隊に伝えていった。
(ふん、ここで退くようなら反乱など無意味だな。
秋山も馬鹿な事をしたものだ)
草壁は九十九の後退を見て、自分達の勝利を考えていた。
………追いつめられて、自分達に都合のいい事を考えていたがそれが間違いだと気付く事はなかった。
自分達を支援する市民船で、秋山達を攻撃する準備を考えていた時に火星からの通信が入った。
『木連が火星に対して今回の一連の戦闘の謝罪も回答もなかったので、
………我々はここに木連に対して宣戦布告する!
現在、木連は二つの陣営に分裂しているが、
我々の攻撃目標は戦争の継続を目論む一派に行う事にする。
自分たちが行った行為の意味を理解せず、
都合のいい事ばかり話している。
現実を知らない馬鹿達に戦争の恐怖を知ってもらおうか?、………以上だ』
通信を聞いた乗員達はそれぞれに正義を口にして火星を罵倒した。
それを聞いた草壁は全艦に通信を開いて宣言した。
「我々の正義が挫ける事はない!
火星に踊らされる反乱者達を打倒して、
我々の正義を火星に知らしめるのだ!」
その言葉を聞いた乗員達は正義を叫んで、士気の高さを草壁に見せたがそれも長くは続かなかった。
火星方面から現れた無人戦艦の艦隊からの攻撃が始まったのだ。
艦隊は木連の制御から離れて活動していた。
戦艦から射出される黒く塗り替えられた無人機は彼らの操る物より優れていた。
そして識別が出来ずに混乱した状態で戦闘に陥り被害を拡大させた。
混乱の中で黒い無人機は市民船に到達して攻撃を開始した。
遂に木連の最初の民間人の被害が出た。
市民船に侵入した無人機は火星で起きた悲劇をそのまま繰り返した。
この事を草壁は自分の正義を正当化させる為にこの攻撃を非難する声明を出したが、
木連が火星にした無差別攻撃には一切触れなかった。
一方、秋山達は木連が火星に行った無差別攻撃を市民に説明して、
火星が木連に対して報復した事を告げた。
このまま事態が進めば木連全域に被害が拡大する危険性を示唆した。
市民達もここに至って自分達の置かれている状況を考え始めたが火星の攻撃はまだ始まったばかりであった。
無人機から送られる情報を監視基地に駐留するユーチャリスUから分析するクロノにアクアが訊ねる。
「クロノ、どうしますか?
草壁はまだ自分の正義の正当化を主張してますよ」
アクアの呆れるような声を聞いたクロノも同じ思いだった。
「……勘弁して欲しいな。
そろそろ理解してもらわないとな。
自分達がただの人殺しに過ぎないという事を」
『全くですね。
火星で何をしたのか、理解して欲しいですよ』
ダッシュも草壁の声明を聞いて呆れていた。
「やはり………この程度ではダメなのかな、
木連は命の重さを忘れてしまったのか?」
クロノの呟きを聞いたスタッフも木連の異常性に気付いて考え込んでいた。
「とりあえずエドに報告しよう。
その上で第二次攻撃を始めるかは議会の承認を待とうか?」
犠牲者の数を考えてクロノは第二次攻撃を控えた。
今回の作戦で木連に与えた被害は市民船一隻だがそこに住んでいた住民推定十万人は全員死亡した。
それでも諦めない草壁にスタッフもその狂気を危険だと再認識していた。
「……そうですね。
このまま続けても効果は期待できませんね。
残念ですが草壁の野望を止めるには………いえ、やめときましょう」
途中で躊躇ったアクアにクロノが、
「それしかないな、
……草壁を戦場に引きずり出して撃破するしかないな」
この一言にスタッフも難しさを感じていた。
「草壁は前線に出ない人物です。
安全な後方から都合のいい事しか言わない卑怯者です」
アクアの断言する声にスタッフも草壁の行動を鑑みてそう確信していた。
「……卑怯な男ですよ。
兵士達に死ねと云うのに自分の命は惜しみますか?」
スタッフの一人が呟くとそれぞれに意見を出していた。
それを聞きながらクロノはダッシュに、
「エドに報告してくれ。
今すぐに二次攻撃をするべきか?
俺は時間を置いてから攻撃をした方が良いと思うが、
作戦参謀の意見を聞きたいと伝えてくれ」
『了解しました、マスター』
ダッシュはエドワードに報告する為に現在の状況を分析して資料を送った。
木連の異常性を火星に知ってもらうために。
クロノ達の監視は続いていく。
攻撃を受けた市民船の映像を見ていた士官達に秋山が呟いた。
「……始まったな、火星の報復が」
秋山の発言に賛同した士官達も事態が切迫している事に焦りを感じていた。
「おっおいっ源八郎!
このままでは不味いぞ、俺達も攻撃を再開するぞ!
何としても草壁を打倒して、火星に攻撃の中止を呼びかけないと」
慌てる月臣の発言に士官達も賛成していた。
「火星の言葉を信じよう。
……彼らは戦争を望んでいない。
我々が勝って草壁の身柄を確保して交渉に望めば……事態が収拾できるかもしれん」
九十九の意見を聞いて秋山も決断した。
「まず草壁派に降伏勧告をする。
その後、受け入れられない場合は攻撃に移る。
それで良いか?」
犠牲を最小にしようとする秋山に全員が賛成してすぐに通信を送る事にした。
無駄な提案だと秋山は考えていたが、
監視している火星に対して自分達の意思を示す為にはしなければならないと考えていたからである。
…………三日後、彼らの勧告は受け入れられずに再び内乱は始まった。
だが市民達はどちらに従えばいいのか迷っていた。
都合のいい様に誘導されていた為に自分で判断する事が出来なかったのだ。
……事態は混迷を深めていった。
―――クリムゾン ボソン通信施設―――
「秋山中佐だったかな?
……私に何か話があると聞いたが?」
ロバートの確認するような言い方に秋山は真剣な表情で伝えた。
『はい、今すぐではありませんが、
我々がこの内乱に勝利した時には火星との和平交渉の窓口になって頂きたいのです』
その言葉を聞いてロバートは次の時代が到来するのを感じていた。
「ふむ、おそらく火星の条件は厳しいものになるが大丈夫かな?」
内心の嬉しさを抑えてロバートは秋山に尋ねた。
『そうですな、
それだけの事を木連は火星にしましたので、
条件の厳しさは理解していますよ』
「私見で言うが、
火星は草壁の身柄を要求するぞ。
その後、戦争の責任追及をするだろうな」
『他には賠償問題もありますか?』
ロバートの意見に補足するように述べた秋山に、
「それは当然の事だろうな。
後は市民の意識改革を徹底させるだろうな」
『…………市民の意識改革ですか、
それはどういう意味ですか?』
よく分からないと秋山の顔に表れていたのでロバートははっきりとその場にいる士官達にも伝えた。
「……ゲキガンガーだったかな?
アニメを聖典にして現実を見ようともしない、市民など火星は信用せんよ。
軍の言うがままになって戦争を賛美する市民に、
今後、こういう事が起きないようにきちんと現実を見れるように市民の意識改革をしてもらうよ」
ロバートの言葉に士官達も自分達の行動に反省しているみたいだった。
『甘い言葉に騙されないようですか?
………確かに今の木連には必要ですね』
秋山は自分の意見をロバートに述べると、
「そういう事だよ。
まず国交を始めてから移民に移る予定だと話していたよ。
十年は掛かるだろうと火星は考えているよ」
『どういう意味ですか?
火星は最初から私達を受け入れる予定だったのですか?』
ロバートの発言に全員が驚いていた。
「……その通りだ。
火星は対話から始めていれば君達の移民を認めていたよ。
独裁者、草壁のせいで全て無駄に終わってしまったよ。
草壁の目的はボソンジャンプを独占して支配者になる事だよ」
ロバートから告げられた事実に秋山達は自責の念と草壁への怒りで溢れていた。
何も考えずに草壁に騙されて戦争を始める事に疑問を抱かなかった自分達の浅慮に。
我々を受け入れようとしていた火星に対して行った無差別攻撃の成功を喜んだ自分達の馬鹿さ加減に。
落ち込み始める彼らにロバートは告げる。
「時間はあまりないぞ。
私からも火星に連絡を入れて報復攻撃を遅らせるようにするが、
火星もそう長くは我慢できないぞ。
議会は攻撃はしたくないが火星の市民は木連を許す気はないからな。
今まで火星に謝罪もなかったのに、
いざ攻撃を受けてから謝罪するなど市民は認めんぞ。
そんな事なら戦争などするなというだろうな」
ロバートは秋山に今の木連の状況を考えて話すと、
『確かにそうですね。
では出来うる限り早期に終結させますのでお願いします』
「分かった、急ぐのはいいが慎重さも必要だぞ。
君達が負ければ木連も終わるだろうな」
ロバートの考えに自分達の置かれている状況を理解した士官達は真剣に考え始めていた。
『では……失礼します』
「ああ、気をつけてな」
通信が切れたスクリーンを見て、ロバートは安堵していた。
この時、歴史が動き始めたと後に歴史研究家達は結論付けていた。
事態は終息に向かい、新しい時代へと進み始めていた。
―――火星作戦会議室―――
「クロノからの通信では、
『草壁派は犠牲者が出ても気にしてない』との事です」
レイの報告を聞いた各コロニーの市長も呆れていた。
「……そうですか。
やはり第二次攻撃を始めないといけませんか」
エドワードが悩んだ末にそう結論を下した時、シャロンから通信が入った。
『今、お爺様から連絡がありました。
秋山中佐率いる部隊から内乱終結後、火星との交渉でクリムゾンの協力を求めてきましたわ』
その通信を聞いたスタッフは待ち望んだ事態が到来した事を知って喜んだ。
「では第二次攻撃を開始しますが、
攻撃目標は草壁派だけに限定します。
クロノにそう宣言するように通信を入れて下さい」
エドワードは指示を出すと浮かれていたスタッフに告げた。
「まだ安心は出来ませんよ。
これからが本番です、この先十年の時間をかけて火星の住民が平和に暮らせる環境を創るのです」
エドワードの言葉に込められた意味を知り、スタッフも真剣な表情になった。
「ですが今日は心から喜びましょう。
そして明日からまた頑張りましょう。
火星の未来を我々の手で創り、次の世代にに残しましょう」
エドワードの弾んだ声に全員が喜んでいた。
後にこの日を火星独立記念日となる事を今は誰も知らない。
………ただ今は小さな希望の光が火星に灯った事を喜んでいた。
―――ネルガル会長室―――
「……月攻略戦の部隊が帰還してきたね。
被害はどうなのかな?、エリナ君」
アカツキの質問にエリナは報告書を渡した。
「さて……………被害は大きいな。
でも全滅はしてないんだ?
……不思議だね、彼らって優秀だったかな」
報告書に目を通したアカツキは被害状況を知ると変に思ったが、
「違いますよ、クロノさんが状況を知らせてくれました。
司令と参謀は何もせず、士官の一人が途中から指揮を執って全滅から兵士を救ったそうです」
エリナが追加の報告をするとアカツキは疑問を口にする。
「だろうねぇ、彼らは逃げる事しか考えないだろう。
でもクロノさんはどうしてその場面を知っていたんだ?」
「簡単な事でしょう。
火星にとってあの二人は邪魔者よ。
多分監視しながら…………狙っていたんじゃないのかな?」
エリナが自分の考えを述べると、
「クリムゾンからの依頼かな。
あの爺さんならクロノさんに頼めるだろう。
なんせ孫娘の婿だからねぇ」
アカツキが楽しそうに話すと、エリナは悔しそうに話す。
「優秀なエージェントを手に入れたわね。
クリムゾンは火星に大きなパイプを作ったわ。
それ比べてネルガルは………………ダメかも」
「親子二代で火星に喧嘩を売りつけたからねぇ。
まあ殺されていないだけ良かったんだけど」
気楽に話すアカツキにエリナは呆れていた。
「実際テンカワ君がジャンプしてきて五体満足だったら、ネルガルの重役陣は無事で済まなかったよ。
それだけでも運が良かったと思わないと」
「……そうね。
酷い未来だったみたいね」
アカツキの指摘にエリナは変わる前の未来を考えていた。
「復興事業が認められるには僕が火星に謝罪しないとダメだろうな。
それが条件になるのは間違いないよ。
住民感情を考えると仕方ないだろう」
真剣なアカツキの顔にエリナは、
(変わったわね、ちゃらんぽらんな部分はあるけど無責任な事はしないわね)
「まあプロス君が帰ってきたら相談しようか?
……彼の意見を聞いておかないと不味いだろう」
「もうすぐ帰還するわ。
それまでに第二次月攻略戦の準備を万全にしておかないとね」
「後…………二週間かな?
彼らの調査航海に掛かる時間は」
「その予定になるわね。
航海自体は順調みたいよ、木連の攻撃もないみたいね」
その事にアカツキは火星が攻撃していると思っていた。
「火星の報復攻撃の影響かな。
……でもクロノさんは月にいたんだね?」
アカツキの疑問にエリナも気付いた。
「変よ、火星の前線指揮官が月にいるなんておかしいわ。
木星に何かあったのね?」
「プロス君に連絡を取るのは……無理か。
帰還を待たないと何も分からないかな」
「クリムゾンなら火星に連絡する手段はあるけど、
ネルガルにはないから無理ね。
推測だけど木連に異常事態が起きたんじゃないかしら?」
二人も木連に何かが起きた事に気付いた。
「いい方向に向かってくれるといいねぇ。
ここらで戦争を終わらせて欲しいよ」
アカツキの考えにエリナもその方向に変わる事を期待していた。
―――木連 市民船―――
草壁は現在の状況を考えていた。
全てが自分の思惑から外れていったのは何故か?
順調に行く筈だったが、全て失敗していった。
火星が生き残った事が原因か?
火星のせいで全てが狂い始めていた。
作戦の失敗、部下達の離反と続いた事に苛立ちを覚えていた。
ここに至っても自分の正義を信じきっていた。
「閣下!火星からの通信です」
部下の声に草壁は落ち着いて返事をして画面を見ていた。
『火星の住民を無差別に殺しておきながら、
正義を自認する草壁派に告げる。
今回の戦争の責任は草壁春樹にあると我々は考えている。
彼を戦争犯罪人として火星に引き渡すのであれば、
これ以上の攻撃は控えようじゃないか?
渡さない場合は草壁派に組する市民船を全て攻撃する事をここに宣言する。
三日以内にこの内乱を終結して和平派に引き渡すようにすれば、
我々は木連に平和を望む意思があると判断する。
市民など死んでもいいと考えるなら引き渡さなければいいさ。
その場合は正義など口にするなよ。
お前達は所詮ただの人殺しにすぎない事をいい加減に自覚するようにしろ……以上だ』
告げられた内容に草壁は怒りを感じていた。
……このままでは再び攻撃が始まるだろう。
だが市民に犠牲が出ると自分が市民の犠牲など気にしないと部下に思われるだろう。
また市民も自分に不信感を抱くのは間違いない。
草壁は自分が追いつめられている事に気付き始めていた。
画面を見つめていた秋山は呟いた。
「………終わりだな。
完全に火星に追いつめられたな。
火星は最初から草壁を相手にせず市民だけを見ていたな。
このまま行けば、草壁が正義を口にする度に市民は疑問に思うだろうな。
草壁の唱える正義とはなんなんだ?とな」
全員がその言葉を聞いて自分達が正義という言葉に踊らされた事を反省していた。
「中将はどう動くと思いますか。
このまま終わる事はないでしょう?」
南雲が秋山に自分の疑問を訊ねると秋山は考えてから答えた。
「………………戦力があれば全てを率いて火星に行くだろうな。
だがプラントと港湾施設は俺達が押さえているからな、
戦力が揃う事はないだろう。
このままの状態も維持するのは難しいな。
市民からの説明要求に答える事が出来ないのなら、
いずれは…………」
言葉を濁した秋山に全員が草壁の命運が尽き始めた事に気付いていた。
「あの方は支配者になる事を考えてしまった。
それが間違いだと気付く事が出来れば、こんな事にはならなかった」
白鳥が静かに語ると士官達は黙り込んでしまった。
静かになった作戦会議室で誰かがポツリと呟いた。
「どうしてこんな事になったんでしょうか?
………俺達は正義を信じてここにいた筈なのに」
その声に秋山は自分が考えていた事を正直に話す事にした。
「多分、狭い社会で無人機に頼りすぎて命の重さを忘れてしまったんだよ。
そして草壁の都合のいい正義を教え込まれてしまった。
……騙された俺達が愚かだったのさ」
秋山の意見に月臣が慌てて問い質す。
「げっ源八郎!
俺達の正義は間違っていたのか?」
「それは分からん。
だが地球に移住の交渉を断られたとしても、
火星の住民を虐殺しても良いとは言えんだろう。
………違うか、みんな?
実際、火星は俺達の移住を考えてくれたんだよ。
その行為が悪と言えるのか?」
月臣の質問に秋山は自分達のした行為を話していた。
「正義は俺達には在ったかもしれない。
だが火星には宣言も交渉もせずに一方的に攻撃をしてしまった。
その時、俺達の正義は悪になってしまったのだろうな」
「だが地球には責任を追及したいです。
我々の存在を隠した事は許せませんよ。
我々は火星に謝罪はしますが、地球には我々に謝罪してもらいますよ」
南雲がはっきりと意見を述べると士官達もそれに続いた。
秋山はそれを見て話した。
「当然だ、その為に火星に謝罪して地球の状況を教えてもらうぞ。
まだ戦争を続けるなら火星とは休戦する。
そして地球だけを相手にして戦争を始める。
俺達の存在を否定した地球の奴らを許しはしないぞ」
秋山の力強い言葉に全員が顔を上げて声をあげた。
その光景を見ながら秋山は考えていた。
(まあ地球は火星にやり込められているからこの戦争は終わるだろうな。
俺の役目は木連の戦争責任を取る事だな。
後は市民の意識改革をみんなに任せておけば大丈夫だろう。
なんとか木連の崩壊を避ける事が出来そうだな)
秋山は自分のするべき事を決め、実行に移そうとしていた。
―――ユーチャリスU ブリッジ―――
「草壁の命運は尽きましたね、クロノ」
通信を終えたクロノにアクアは告げた。
「………そうだな、
これから何処まで耐えられるかな?
市民からの説明要求に答える事が出来ないとダメだな」
クロノが草壁の未来を告げると、アクアも意見を述べる。
「そうかもしれませんね。
自分の正義を述べても市民は納得しません。
正義が聞きたい訳ではありませんからね。
知りたいのは、自分達の置かれている状況だと分かれば大丈夫ですけど……」
「無理だろうな。
都合のいい事しか話さないからな。
市民も納得しないだろう、彼らが欲しいのは真実だからな。
正義が欲しい訳じゃないからな、自分達の安全だからな」
クロノが話す事にスタッフの一人が話す。
「木連の市民もいい加減ですよ。
戦争を肯定していたのに犠牲が出ると戦争を否定するなんて、
ふざけるなと言いたいですよ」
その言葉に他のスタッフも反応する。
「そうですよ、
このまま戦争が終われば反省も碌にしないんじゃないですか?」
「火星にした行為を許す気はないですよ」
一通りの意見が出た後でクロノは全員に質問を投げかける。
「では木連の住民を皆殺しにするか?」
その言葉にスタッフも自分達の言動の迂闊さに気付いた。
それを見てクロノは全員に告げる。
「軍にいる所属する者は絶対に覚えていないとダメな事がある。
それは自分達が強力な武力を持っている事を自覚する事だ。
俺達はいつも考えなければならない。
…………俺達の力を使わずに済ます方法をな。
出来ない時はただの人殺しと変わらんさ、
必要なのはその力を使わずに済ますように考えることだな。
まして火星はジャンパーが大勢いるんだよ。
安易な考えで行動する事は危険だよ、
火星の住民を巻き込んでしまうからな、
危険なジャンパーなど全滅させてしまえとなれば、
俺達は自分達を守る為にジャンパー以外の人間を殺さなければならない。
……そんな事をしたくはないだろう」
クロノの話す内容にスタッフ達も力を持つ意味を考え込み始めた。
それを見ながらアクアは全員に聞こえるようにクロノに話す。
「みんなも理解はしていますよ。
ただ気心の知れた仲間内だから言ったんですよ。
そうでしょう、皆さん?」
その声にブリッジの雰囲気も変わり、それを感じたクロノもスタッフに話す。
「……すまんな、
俺は立場上、みんなに注意しないと不味いんでな。
お前達の言いたい事も分かっているが、同じ事を繰り返せば何も変わらん。
自分達の行動は必ず同じ様に自分に返って来るんだよ。
その事だけは覚えておいてくれ」
そう話すとクロノはそれ以上は何も言わなかった。
スタッフもクロノを見て、怒りを抑えている事を感じていた。
悲しまない人間ではないのだ、クロノ・ユーリは。
自分達以上に怒っているのだろうが、それを見せないようにしているのだと。
優しくて不器用な人だとアクアはクロノを評価していた。
自分の事は後回しでいつも苦労している。
損得勘定などしないで行動しては、自分が損をしてばかりなのに笑っている。
この戦争の最大の犠牲者なのに恨みも言わず、火星の人々を救う為に行動している。
自分は辛い現実から逃げ出したのに、彼は現実から逃げずに立ち向かう。
そんな事を考えるとクロノの側にいて、守りたいと願う。
「んっ、どうかしたのか?アクア」
考え込んでいたアクアの様子に気付いたクロノが声をかけると微笑みながらアクアは答えた。
「少し考えていただけですよ、クロノ。
不器用で優しいあなたが幸せになる方法をね」
それを聞いたクロノは肩をすくめて呆れるように話した。
「やれやれ、何度も言うが俺は火星でアクア達とのんびり暮らすのが夢だよ。
その為にここにいるんだよ。
俺が戦うのは火星でみんなと平和に暮らす為さ。
みんなも家族と一緒に暮らすのがいいだろう?」
アクアに話しながらスタッフに問いかけるとスタッフも緊張を解きほぐし笑っていた。
『ではマスター、
監視を続けましょうか?
マスターとアクア様と皆さんの幸せに暮らせる場所を作る為に』
ダッシュの声を聞いたクロノはスタッフ全員に指示を出した。
「よし、監視を続行するぞ。
俺達の生きる場所は俺達が作り上げるぞ」
その声にブリッジは活気が溢れ始めていた。
自分達の生きる場所を作るという目的を持つ者達の努力がやっと報われようとしていた。
新しい時代が始まる予感がスタッフ達の心に響き始めていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
次の時代への準備を始める火星、
変わり始めた木連、
そして時代を狂わせた地球の改革の始まり。
クロノの長い旅はこの火星が安住の地になるのか?
アクアの願いは叶うのか?
それでは次回でお会いしましょう。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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