一つの時代が終わり

新しい時代が始まった

この先にあるものはまだ分からない

平和で豊かな時代になる事を信じて歩いて行こう

家族と共に





僕たちの独立戦争  第四十二話
著 EFF


「戦争も終わって平和になってきたねぇ。

 これで仕事が減ってくれると嬉しいんだけどな」

「無理ですな。

 会長が真面目に仕事をしない限り増える事はあっても減る事はありませんな」

アカツキのぼやきにプロスがすぐに反論するとアカツキはガックリとした。

その机の前にプロスは更に仕事を増やすように書類を置いた。

それを見たアカツキは慌ててプロスに訊ねた。

「何でこんなにあるんだい。

 いつもはもっと少ないんだけど」

「………そうですね、

 エリナさんがいた時は彼女が処理していましたからあの程度済んでいましたが、

 私の場合はSSの仕事があるので全部会長に回しています」

プロスの容赦ない一言にアカツキはエリナを木連に行ってもらった事を後悔していた。

窓の外を見てアカツキはプロスに話し出した。

「戦争が終わって二年になるね。

 いよいよユートピアコロニーの復興も始まるし、三年後には移民が来るな」

「そうですな、もうしばらくはSSも忙しいですから会長の負担は減りませんな」

プロスが告げる言葉にアカツキは逃げたくなったが、

「逃げるのは無理ですな。

 会長の逃亡先は既に押さえてありますよ。

 捕まえた後はその間の書類も溜まりますので更に負担は増加します」

その非情とも云える内容に泣きながら仕事をしていた。

「綺麗な方でしたね。

 彼女からの伝言がありますが聞きますか?」

「ぜひ聞きたいね」

アカツキが瞬時に答えるとプロスは呆れたように溜息を吐いて伝えた。

「『頑張って仕事しようね、逃げたらダメよ』との事です。

 どうもエリナさんから普段の会長の仕事振りを聞いていたみたいですな。

 私が挨拶に行ったら『私が好きになった人がこの程度で逃げるような弱い人じゃないですよ』

 なんて仰られましたよ。

 『逃げたら別れるわ』と追伸で言われましたよ」

アカツキはショックで呆然としていたが、言葉の意味を思い出して真面目に仕事をする事にした。

「大関スケコマシはやめられたんですな。

 今度、その頃の会長の事を話しましょうか?」

「プップロス君っ!

 それだけは勘弁してくれ!

 分かった!真面目に仕事するから、それで手を打とうじゃないか」

アカツキは慌てて話すとプロスは机の上に書類を置くと話した。

「ではお願いしますね。

 それと彼女からの伝言です。

 『今夜、時間ありますか?』と言われましたので、

 勝手ではありましたが時間を空けておきましたので食事でもなさって気分転換でもして下さい」

そう話すと夕方からのスケジュールを変更した事をアカツキに告げた。

それを聞いてアカツキは真面目に仕事を始めた。

プロスのやり方はエリナより狡猾にアカツキの負担を増やしている事にアカツキは気付いていなかった。

アカツキ本人は気付いていないので不幸かと言われると判断が難しいと社員達の見解だった。

なんにせよネルガルは今日も平和な一日だった。


―――連合軍 オセアニア基地―――


「…………これで地球側の問題は解決したな。

 二年前の第四次火星会戦で草壁を捕らえる事が出来たのが幸運だったな」

テレビのニュースを見ながらアルベルトが副長に話すと、副長も頷いて話した。

「そうですね。

 地球の問題を解決する為の時間が取れたのが良かったです。

 一年間の停戦状態に持ち込んでその間にこの戦争の責任追及が出来ました。

 政治家達の腐敗も酷かったです、軍も酷いものでしたがそれ以上でした」

「全くだな、安易に軍に同調して戦争を始めるなんて何を考えていたのか。

 だが一番の問題は市民側に問題があったな。

 政治に無関心なのがいけなかった」

「ですがこの戦争で市民も反省したみたいです。

 腐った政治家はクリムゾンとネルガルの協力で排除出来ましたので連合も建て直しが上手く進みました。

 軍もフクベ提督を中心に改革が進んだのでクロノさんが言っていた『火星の後継者の乱』はないでしょう」

副長が告げた事にアルベルトもウンザリしながら話した。

「あれは聞いていて気分が悪くなったよ。

 もう一つの未来は………最悪だったな」

「はい、テンカワ氏がボソンジャンプで帰還できた事がこの世界にとって最大の幸運だったと思います。

 あれが無ければ火星は草壁の歪んだ正義の犠牲になっていたでしょう」

副長も真剣な表情で話しているとアルベルトが自分の意見を述べた。

「クロノが言ってた過去で問題だと思ったのはミスマル・ユリカの行動だな。

 いい加減すぎるな、指揮官としては優秀かもしれんが、

 大局的に見て彼女の行動が悲劇を生んだ事になったな。

 演算ユニットの放棄など論外だよ、無責任すぎるな」

「確かにそうですよ。

 そのせいで戦争が中途半端に終わってしまい、更なる悲劇へと発展しました。

 彼女は大局を見る事が出来るほど成長していなかったんです。

 ナデシコそのものが子供達の集団でしたね」

「未熟な人間達の集団か………この時代では違っていたな。

 アクアさんが乗り込んだ事がその証拠だな」

副長の考えを聞いてアルベルトが呟くと、

「その通りですよ。

 彼女が乗り込んでミスマル・ユリカの排除に成功した事がその証拠です。

 あとはクロノさんと彼女がネルガルに注意を呼びかけた事も意味がありましたよ」

「そのおかげでボソンジャンプの危険性が判明したからな」

アルベルトの一言に副長も納得していた。

「時空間移動の技術など怖くて使うのは躊躇うぞ。

 ロバート会長が危険だと話していた意味が良く分かったよ。

 火星に管理を押し付けるのには心苦しいがな」

「この件に関しては地球も文句を言う事は無いでしょう。

 火星に住んでいる者しか使えないのですから」

副長が結論を話すとアルベルトも頷いていた。

「とりあえずチューリップを使ったターミナルコロニーで移動できる様にしたみたいです。

 個人のジャンプは緊急時のみにした事も地球の警戒を無くすように配慮したんでしょう。

 火星の住民はジャンプの危険性を子供の時から教育を受けていますから安心ですよ。

 火星でのジャンパー処理も順調に進んでますが志願制なのがいいですね。

 無理強いしないで個人の判断に任せる事なので住民の不安もありません」

副長が話すこの二年間の火星の行動にアルベルトが続いて話す。

「火星の場合はオモイカネシリーズによるコロニーの管理が良かったな。

 ジャンパーがあれの監視を逃れる事は難しいな。

 個人情報には一切の興味が無く、個人のプライバシーには完全なセキュリティーで守られているからな。

 何よりサービスに関しては24時間対応している点が素晴らしいよ」

感心したように話すアルベルトを見ながら副長は火星の現状を話す。

「去年から稼動していますが、大きなトラブルも無く順調みたいです。

 一度火星で生活した者はその快適さに驚いていますよ。

 ………いわゆるお役所仕事が無いですからね。

 事前に連絡しておけば書類を書き方から提出するまでをきちんと説明してくれますし、

 あとは役所に行って提出するだけです。

 しかもそこでも不備があれば随時説明してくれます。

 それが24時間いつでも受け付けています。

 また行けない時は書類を送ってもらい、あとは自宅で説明を受けてきちんと書いた書類を送るだけです。

 地球ではありえない事ですよ」

「そうだよな、俺達のほうもなんとかして欲しいよな。

 上に行くほど事務仕事が増えるんだぞ。

 しかも手間ばかり掛かるのは勘弁して欲しいよ」

事務仕事が増え始めた事にアルベルトが嫌そうに話すと副長は苦笑して、

「こればかりは仕方がないですな。

 クロノさんも嘆いてましたよ。

 『俺に子供達の遊び相手をさせてくれ』なんて愚痴をこぼしていましたよ」

「………親馬鹿だな。

 まあクロノにとっては家族が大事なんだろうけど……双子だったかな」

アルベルトは呆れるように話しながらクロノの子供達を思い出そうとしていた

「それもありますが、クロノさんにとってはみんな大事な子ですよ」

笑いながら副長はアルベルトに話すとアルベルトも納得していた。

「確かにあいつにとってはみんな大事な子供だな」

「みんな元気にしてるでしょうね。

 あの二人が側にいますから心配なんて不要かもしれませんが」

「全くだ、あの二人なら大丈夫さ。

 子供達を見れば判るさ。

 二人が皆を大事に思っているから、みんな二人を信頼しているのさ」

「そして二人も子供達の信頼に応えようと頑張っているからですか?」

副長が笑って訊ねるとアルベルトも笑っていた。

火星で今を懸命に生きている者達を思い出しながらアルベルト達は仕事を再開した。

この平和を少しでも長く続ける為に。


―――火星研究施設―――


「やっぱり平和が一番ね。

 落ち着いて研究が出来るから最高よね」

イネスフレサンジュは今の自分の状況を楽しんでいた。

「お母さんとアクアのおかげで子供の世話は大丈夫だからボソンジャンプの研究に専念できるのがいいわ」

研究室で一人喜んでいたがスタッフはその説明好きな所に怯えていた。

(これさえなければ最高なんだけど)とスタッフは思うが本人は気付いていなかった。

「アクアの所が双子で私が女の子ひとりか、もう一人くらい作ろうかな」

イネスが呟いた瞬間クロノは悪寒を感じていたが側にいた者は気付かない振りをしていた。

迂闊な事を口にすればイネスとアクアの二人を敵に回す恐怖を彼らは知っていたからだ。

家でイネスの帰りを待つ二人にお土産を買って行こうとイネスは思った。

今日も一日元気に説明をしようとイネスは考えていた。


―――火星大統領府―――


執務室で書類を読んでいたエドワードが手を止めてコウセイに話した。

「いよいよ木連と地球との国交の正常化ですね。

 これで移民への準備も公式に始められます」

「そうだな、向こうに行ったメンバーからの経済政策を読んでみたが文句ない出来だったな。

 これなら木連も地球に吸収される事もないだろう」

現在の状況を話すコウセイにエドワードも安心していた。

「最初はどうなるのかと思いましたが、

 ここまで無事来ましたね」

「火星が生き残る戦略を考えてからもう四年になるかな。

 あの頃は難しい局面が多かったが、

 若い者達が生き残る事に必死だったから、今こうして年寄りの出番があるな」

当時を振り返って話すコウセイにエドワードも頷いていた。

「常に紙一重の状況でした。

 数では勝てないから個人の力を高めるしかない状況でしたよ。

 みんな時間があれば己を高める為に頑張り、それでもダメな時は全員の意見をぶつけ合い努力しました」

「おかげで火星の政府は磐石の体制になりそうだな。

 わしらは土台を固めて次に渡すだけだな」

「まだバトンタッチは早いですよ。

 もう少し注意が必要です、移民が始めれば問題も出て来るでしょう」

エドワードがコウセイに伝えると、コウセイは笑っていた。

「問題があっても不安はないな。

 わしはスタッフを信じているからな、どんな困難があっても投げ出すような事はないぞ」

エドワードも笑って、

「当然ですよ。

 待ち望んだ平和が来たんですよ、そう簡単には捨てる気はないですよ」

二人が笑い合う時にダッシュから報告があった。

『エドワードさん、ユートピアコロニー再建のスタッフからの連絡が入ってきました。

 まず予定通り追悼式から始めるとの事です』

「そうですね。

 そこから始めないと何も進める事は出来ないでしょう。

 コウセイさんも今からでも行かれませんか?」

コウセイを気遣うように話すエドワードに、

「いや、今は行かないと決めたんだ。

 わしが行く時は火星の未来の安全を確認できた時だ。

 生き残った者として最後まで見届ける義務があるからな。

 なに、あと五年程の辛抱だろう」

コウセイはそう答えていた。

エドワードもそれ以上は何も言わずダッシュに尋ねた。

「ダッシュの方は大丈夫ですか。

 火星全域の管理なので負担は掛かっていませんか?」

『特に負担を感じてはいません。

 ヒメとオモイカネ、プラスがバックアップしてくれていますから』

「もう少し頑張って下さい。

 来年にはシオンが火星に帰ってきますよ」

『シオンも成長しているから楽しみです。

 ラピス達も楽しみにしてますよ♪』

楽しそうにカラフルな画面に変えるダッシュに二人も笑っていた。

火星の政府も復興に向けて歩き始めていた。


ではここまでの経過を話そう。

草壁の逮捕後、火星は木連との休戦を交渉して戦後を見据えた計画を木連に話した。

木連もその提案を住民に公開して賛同を得ると地球との交渉の準備を始める事にした。

地球では軍と連合政府の改革が始まった為にまず木連との交渉をクリムゾンを通じて水面下で行った。

木連は月の部隊を撤退させて停戦から始める事を地球に持ちかけた。

地球も改革が無事終わるまで和平を進める事が難しいと判断して停戦には賛成した。

連合政府はこの経緯を世界に公表すると厭戦気分が高まっていた市民は受け入れた。

また連合は木連を火星と同様に扱う事にして木連の独立を容認する形を取る事にした。

これによって太陽系に政治形態が違う三国が誕生した。

ただ木連の状況を考えて移民の準備を始める事を火星は公表し、地球も火星に木連との交渉を任せる事にした。

また地球からの移民を火星は進言すると新天地に行こうとする者も出てきた。

火星は地球の市民に現在の状況を説明すると平坦な場所ではないと知った者は諦めだした。

真剣に火星で生きようとする者だけが移民の申し込みを行った。

木連も市民に火星の状況を公開して自分達のした行為を伝え、

火星の住民に恨まれている事を覚悟の上で行く者だけを第一次の移民にすると宣言した。

この事で木連の住民も与えられた情報を知る事で草壁の行為を知り、

現在の政治形態の危険性を認識し議論を開始した。

また火星からの提言で国交が始まった後で地球の経済に吸収されないように経済政策を作るようにしたが、

初めての事なので難航していたが、火星から送られてきたスタッフのおかげで作業は順調に進んだ。

そして草壁逮捕から約二年、ようやく地球と木連の和平が実現した。


では次にナデシコクルーの事を説明しよう。

ナデシコはそのまま軍に所属したがスタッフは軍属になる事を嫌い、殆どのクルーが艦を降りる事になった。

現在は制御システムもシオンではなくなり通常の戦艦として活動している。

艦長はアオイ・ジュンがそのまま残ったが問題はなく、新規クルーからの信頼も篤かった。

「いいですね。胃が痛くなる事もないので助かっていますよ」

と笑いながら副長に話すのでクルーも相当キツイものがあったんだと想像していた。

通信士のメグミ・レイナードはアイドルとして地球で活躍していた。

操舵士のハルカ・ミナトは停戦後ネルガル本社に勤務。

後に木連へ経済政策スタッフの一員として出向して白鳥九十九と出会い三年の交際期間の後結婚した。

ダイゴウジ・ガイは停戦後、火星への移民を希望して現在は火星宇宙軍で勤務していた。

「待ってろよー、ゲキガンガー!俺がお前の相棒になってやるぜ」

これがクルーとの別れの言葉であった。

火星最強のパイロットを越えるべく現在奮闘中である。

ちなみに初めてライトニングをシミュレーターで操縦した時は感動して泣いていたみたいだった。

スバル・リョーコは連合軍に入隊して第一線のパイロットとして活躍している。

アマノ・ヒカルはパイロットを辞めて漫画家として活躍していた。

マキ・イズミは停戦後失踪していたが現在はバー花目子を開店してそれなりに繁盛していた。

その言動で一部の者にはカルト的な人気を誇っていた。

イツキ・カザマも軍に戻りリョーコ同様に第一線で活躍していた。

ミズハ・エノモトは火星に移住して火星宇宙軍で自分を鍛える事にした。

「目標はアクアさんを超えることです」

と本人は言っていたがその道のりは険しいが本人は楽しんでいた。

その技量は後に火星で五指に入る事になるが今はまだ発展途上であった。

リーラ・シンユエとエリノア・モートンはネルガルに戻りテストパイロットとして勤務していた。

その技量から度々軍から誘いがあったが本人達はそれを断って毎日を楽しんでいた。

整備班班長のウリバタケ・セイヤは家族の元に戻り、

町の整備屋に戻っていたがネルガルの仕事の依頼には時々は参加していた。

また他の企業からも依頼があったが興味のない事には一切関与しなかったので扱いが難しいと判断されていた。

ホウメイさんは地球で店を開き、毎日弟子を鍛えながら味の研究に余念がなかった。

ホウメイガールズと呼ばれた少女達は一人を除いて芸能界にデビューした。

みんな楽しそうに歌う姿に戦争で傷ついた人も癒される事になるだろう。

オペレーターの四人はネルガル本社勤務に戻ったが、

カスミ・アリマは後に叔父の資料を発見して人体実験の危険性を公表して科学の危険性を訴え、

監視目的の市民団体を創設して企業と科学者の暴走を抑えるように市民に警告を続けていた。

これによって政府も企業の人体実験の禁止措置を強化して監視を強める事にした。

これには影からネルガルとクリムゾンも協力していた。

テンカワ・アキトは停戦後、ホウメイに弟子入りして地球で修行していた。

後に再建されたユートピアコロニーで評判の店を出して料理人として生きて行く事になるだろう。

その隣にはテラサキ・サユリが側で微笑みながら。

プロスペクターとゴート・ホーリーはネルガルのSSに戻り仕事を続けていたが、

その内容はネルガルの暴走を抑える様な活動に変わっていた。

ミスマル・ユリカは父親の陳情で軍に復帰できたが、その言動と行動で周囲に敵を作り孤立していった。

コウイチロウがその事に気付いた時は既に遅く、彼女は除隊するしかなかった。

その後は反省して実家で静かに生活していた。


木連も大きく変化していった。

秋山源八郎は木連初の大統領となり市民達を守りながら暮らしていった。

月臣元一朗は火星へと移住して火星の住民との摩擦を減らすように活動していた。

彼の活躍で戦後の混乱を抑えられたと歴史研究家は評価していた。

白鳥九十九はハルカ・ミナトと結婚後、木連の外交官として地球との折衝を引き受けていた。

彼の粘り強い交渉のおかげで地球も強引な事はできずに木連の吸収は無くなった。

新城有智は火星との共同作業で作ったターミナルコロニーの管理者として日夜安全な移動を行い、

彼が在任中は惨事も無く、その堅実な活動に功績を称えられた。

南雲義政は市民船とプラントの管理を行い、

木連がプラントを必要としない体制へと移行させようとした秋山に協力して、

様々な意見を聞きながら行動していった。

この二人の努力が実るのは十年以上先の事だが木連の過疎化は避ける事ができた。

草壁春樹は火星での逮捕後、火星で軍事裁判を受けて極刑の判決が下された。

その後、刑が執行されて火星で死亡した。

その頃には木連も草壁の唱える正義を信じなくなり、草壁の死刑が確定した時も殆ど抗議はなかった。


火星も時間をかけて木連からの移住者を受け入れた。

ホシノ・ルリは火星で生活する事を望み、王位継承権を放棄した。

現在は火星で生活しながら自分の進むべき未来を模索していた。

イネス・フレサンジュは火星で母親と娘と一緒に暮らしていた。

娘の父親はみんな知っているがあえて聞かない事にした。

周囲はアクアの怒りを恐れたがアクアは仲良く子供達の面倒を見ていたので納得済みだと知って安堵した。

エドワード・ヒューズは火星で様々な政策を行い火星の発展に力を注いで火星の礎を築いた。

その功績は火星で長く語り続けられた。

彼に憧れて政治家を志す者はその清廉潔白な姿勢と現実を見据えて決断するバランス感覚を重要視していた。

コウセイ・サカキはその補佐を行い、

後に月臣と共に火星と木連からの移住者との間にたって様々な問題を解決していった。

「辛抱強くどんな時も諦めずに話し合いで解決しようとした立派な人だった」

月臣が後にコウセイの事を聞かれるとそう答えていた。

木連の移住者からも尊敬する者が多くコウセイのおかげでトラブルもなく火星に馴染めたと皆が思っていた。

カズヒサ・タキザワは外交官として地球と木連との交渉事には欠かせない人物になり、

二つの陣営からも信頼を受けていた。

レイ・コウランは火星軍の参謀本部に所属していたが、

その計画性の高さを買われて火星の政策スタッフと兼任していた。

忙しい毎日を送っているが本人は充実しているので楽しく暮らしている。

シュン・サワムラは軍を退役して本業の輸送船の艦長に戻っていた。

ターミナルコロニーが完成するとその利便性の良さに警鐘を鳴らし、後進の育成に力を注ぐ事になる。

地球と木連の船長は長期の航海に不慣れな者が多く不安が残るが、

火星の船長は彼の育成のおかげで長期の航海に対応できる者が多かった。

後の金星へのテラーフォーミングが始まる時にこの事が表れていた。

新しい航路を作る時は彼と彼が指導した者が適任と言われた。

エリス・タキザワは火星宇宙軍のエースとして第一線で活躍していたが28歳の時に結婚した。

結婚後は一線を退いて次の世代のパイロットの育成に協力していた。

また彼女の子供達は火星のパイロットとして第一線で活躍する事になる。

グレッグ・ノートンは後に士官学校の校長となり、

次の火星を守る者達に力の持つ危険性を教えながら、後進の育成に励む事になる。

「一度動かすと決断した時は躊躇うな。迷いは悲劇が起きる事が多い。

 軍を動かす時は最後の手段ではあるが、できる限り対話をもって活動するように」

これが彼が士官学校に遺した言葉であった。

この言葉は政治家達も胸に刻み込んで常に対話をもって活動する事になる。

エリック・レナードはこの後、多くの戦艦に乗り込み艦長として最前線に立っていた。

この時の経験を活かして火星宇宙軍の艦隊司令として艦の性能を活かした作戦を行う事になる。

クロノとグレッグの教えを受けた彼は常に慎重に軍を動かす事にしていたが、

一度動かすと決めた時は迷いもなく最適な動きで行動していた。

その無駄のない作戦行動から彼を恐れる海賊船は火星付近では活動しなかった。

その事が火星の経済を活性化する事になる。


地球は急激な変化はなかったが少しずつ時間をかけて変わっていった。

フクベ・ジンは軍に復帰して軍の改革を推進していった。

これによって軍内部の規律も引き締められて無責任な士官は減っていった。

アルベルト・ヴァイスは軍の改革に協力すると同時に軍人の意識改革を始めた。

これには時間が掛かったがアルベルトは辛抱強く続けて意識改革を進めていった。

彼のこの行動によって軍は少しずつ市民から信頼される軍へと変わっていった。

ロバート・クリムゾンは惜しまれつつクリムゾン会長を後進に譲り、筆頭株主としてグループの監査を行っていた。

後に火星に進出したグループの相談役となり、火星で移住して孫達と暮らしていった。

クリムゾングループは市民から信頼される企業として発展する事になる。

アカツキ・ナガレはネルガル内部の改革を始めて企業としての体質を改善していた。

また火星の復興事業を行う為、火星に赴き市民達に謝罪した。

事前に今回の戦争の事は市民に伝えられていたが、

きちんとした誠意ある謝罪を行った事でネルガルの火星進出を市民達から認められた。

現在は火星との関係も良好となっていた。

シャロン・ウィドーリンは木連から帰国後、クリムゾン火星支社の支社長に就任した。

火星での活動を通じて火星の経済政策を支援して、不安定だった火星の経済基盤を磐石なものに変えた。

その後、地球に戻り結婚と同時に家庭に入り家族と共に暮らしていった。

彼女の子供達が後に火星と地球、木連の経済交流を安定させて新しい開拓地である金星の支援を万全にした。



……そして

「クロノは今幸せですか?」

「何を言うかと思えば、そんなの決まっているさ。

 愛する妻と子供達が側にいるんだよ。

 幸せに決まっているだろ。

 まだ不安なのか、アクア」

アクアの質問にクロノは不思議そうに尋ねる。

「なんとなく確認しただけですよ。

 こうして家族と一緒に生きて行けるとは思わなかったので」

微笑みながら話すアクアをクロノは微笑んで一緒に双子の赤ん坊を見つめた。

「まあ不安なのはわかるよ。

 これからが大変なんだからな」

スヤスヤと眠る子供達を優しく見ながらクロノが話す。

「でも何とかなりますよ。

 今までだって楽に進んできた訳じゃありません。

 この子達とルリ達を守る為なら何度でも立ち上がって戦いますよ」

アクアが慈しむように子供達の頬を撫でるとクロノも頷いて、

「それもそうだな。

 大事な家族を守る為なら何度でも立ち上がって戦うさ」

「頼りにしてますよ」

「ああ」

長い旅は終わったとクロノは思ったがこれから二人で歩いて行く人生を大事にしようと思っていた。

アクアは自分の願いが叶った事を喜んで家族と共に火星で暮らしていこうと決めた。



一説によればクロノ・ユーリは逆行者だと言われたがそれを裏付ける証拠がなく判断は個人個人でなされた。

アクア・ルージュメイアンもその素性が判らずに歴史研究者は判断に苦しんだ。

しかし火星で生活する者は彼らが火星に来た事が全ての始まりだと感じていた。

彼女達が育てた子供は火星で様々な分野で活躍して火星の発展に力を貸したからだ。

今はその子供達と一緒に火星で暮らしていくだろう。

こうして二人の願いは叶えられた。









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EFFです。

なんとか完結まで書く事ができました。
黒い鳩さんにはお世話になりました。
また読んでくださった皆さんの感想の後押しにも感謝しています。

外伝を書くか?、それとも改訂版を書くか?
判断に迷っています。

多分改訂版にすればもっと長くなりますね(汗)
では今回はこれで失礼します。



EFFさん作品完結おめでとうございます!
このような長編を僅か一ヶ月ちょっとの間に完結させてしまうとは…
一日一話のペースより早いのでは(汗)
素晴らしいです!

私にとっては残念ながら感想の書きにくい作品でしたが、
非常に人気が出るのもうなずける所であります。

しかし、完全に完結したのではなく、これから外伝か改訂版に行く訳ですか…
凄まじい精神力ですね(汗)
今後もご活躍期待しております♪


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