「ハアアアアアッ!」

愛紗の青龍刀による渾身の一撃が雄叫びと共に放たれる。
だが呂布はそれと同等の斬撃を繰り出す事で迎撃した。

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」

愛紗に続き、鈴々の蛇矛による連撃もあっさりと弾き返す。
呂布が手に持つ戟は未だに凶暴な光を放っていた。

「……鬱陶しい」

顔色一つ変えない呂布の驚異的な戦闘能力。
その場に仁王立ちする姿は、正に最強の称号に相応しい姿である。

その後も愛紗達は呂布へと攻撃を繰り返すが、容易く弾き返されてしまった。
2人が繰り出した攻撃は結果として無駄な体力を使うと言う形で終わった。

「うぅ……凄く強いのだ!」
「2人で戦っても駄目なのか……くそッ!」
「……どうした? もっと来い……」

呂布は狼狽する2人に向けて挑発する。
愛紗は唇を噛み締め、鈴々は怒りの炎を燃やした。

「ま、まだまだ鈴々は元気なのだ! ドンドン行くのだぁ!!」
「――ッ!? 鈴々!!」

自身に湧き上がった怒りに身を任せ、鈴々は呂布に向かって突撃する。
突拍子の無い鈴々の行動に愛紗の表情が驚愕の色に染まった。

「……む」

突撃してきた鈴々の意外なまでの素早い動きに、呂布の表情が一瞬歪んだ。

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」

怒りを力に変えた鈴々の一撃は今まで繰り出した攻撃の中で一番の威力である。
反応が一瞬遅れてしまったが、何とか蛇矛の刃を呂布は受け止める事が出来た。

「……くっ!」

だがその威力に呂布の口から微かな呻き声が漏れた。
呂布の反応に鈴々は満足そうに胸を張る。

「どうだぁ! 鈴々は物凄く強いのだ!」
「ふ……なかなかやる」

微笑を浮かべて呂布は先程の鈴々の一撃を褒め称える。
それに気を良くしたのか、鈴々の表情が得意気に変わった。

「えっへん! どんなもんなのだ!!」
「馬鹿ッ! 調子に乗るな!!」

愛紗の注意も虚しく、鈴々は得意顔を浮かべたままだ。
しかし鈴々のその表情はすぐに消え去る事になる。

「……次はこっちから行く」
「よーしッ! 受けて立ってやるのだ!」

今まで積極的に攻撃を仕掛けてこなかった呂布が初めて仕掛けてくる。
どれ程の攻撃を繰り出すしてくるのか、正確な予想は出来ない。
だが鈴々は呂布の攻撃を受け止めようと、果敢に立ち向かった。

「……喰らえ」

感情の無い、無機質な声が戦場に響く。
呂布が振り下ろした戟から繰り出された攻撃は激烈な物だった。
右側からの斬撃を鈴々は危うく受けきる事が出来たが、猛烈な手の痺れに顔を歪ませた。

「……まだやる?」
「無論だッ! 私達もやられっぱなしで止める訳にはいかないッ!!」
「……それなら続ける」

再び呂布は戟を構え、愛紗も青龍刀を構える。
愛紗と同時に鈴々も――手はまだ痺れているが――蛇矛を構えた。

「ハアアアアアアアッ!」
「うりゃーーーーーッ!」

右から愛紗、左から鈴々と、それぞれ呂布へと跳び掛かった。
その2人からの攻撃に怯む事なく、呂布は迎撃態勢を取る。

「――――ッ!」

その瞬間、呂布の表情が変わった。
愛紗と鈴々に挟まれるように、中央から突然出てきた人影。
その人影の正体に気付いた愛紗と鈴々は咄嗟に身を引いた。

そして――人影の持つ武器と、呂布の戟がぶつかって大きな火花を散らした。
その一撃に人影は微笑を浮かべ、呂布は顔を歪ませた。
それから後、互いが武器を大きく振り切り、距離を取る。

突然現れた意外な人物に愛紗と鈴々が驚きの声を上げる。
その人物とは言わずもがな、主の元親であった。

「ご、ご主人様ッ!?」
「お兄ちゃんッ! 敵は全部やっつけたのか?」

鈴々からの問い掛けに、元親は飄々とした面持ちで答えた。

「ああ、全部片付いたぜ。呂布をこれ以上お前等に任せる訳にはいかないからな。援護しに来たのさ」

元親からの答えに愛紗が少し複雑そうな表情を浮かべる。
それもそうだろう。今まで2対1だったのが、3対1になるのだ。
武人の持つ誇りとしては、この状況はあまり喜べたものではない。

「…………」
「そんな面をするな愛紗。……3人掛かりで構わないか? 呂布さんよ」

複雑な表情を浮かべる愛紗を制し、元親は呂布に問い掛ける。
呂布は相変わらずの無表情で、ゆっくりと頷いた。

「許しが下りたぜ。さあ、さっさと終わらせるぞ」
「しかしご主人様、呂布の武はかなりの物です。いくらご主人様が加わったと言っても、そう簡単に倒せる相手ではありません」
「そうなのだ。今まで戦ってきた相手とは格が全然違うのだ」

鈴々と愛紗が口を揃えて元親に言った。
確かに2人の言う通りではある。
しかし元親は勝利を確信しているかのような笑みを浮かべていた。

「大丈夫だ。3人で挑みゃ何とかなる。良いか? まず俺が……」

元親が耳打ちで、愛紗と鈴々にこれから実行すべき事を話す。
その内容に2人は一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたが、すぐに笑みへと変わった。

やるべき事は分かった。後は実行に移すだけだ。
元親は2人から少し離れ、前方の呂布と対峙する。

「さあ、いっちょ打ち合うかい? 呂布さんよぉ」
「……1人で来るのか?」
「別に良いだろ。俺1人じゃ役不足かい?」
「…………(フルフル)」

呂布が首を横に振るのを見て、元親は満足そうな笑みを浮かべる。
そして突然――元親が碇槍を地面に思い切り突き刺した。
彼の取った意味不明な行動に、呂布は思わず首を傾げる。

元親は呂布の反応を特に気にも留めず、次の行動へ移った。
碇槍を持つ右の掌に清め酒ならぬ唾を吐き、馴染ませる。

「おっしゃ! 俺の流儀って奴、教えてやるぜッ!!」

突き刺した碇槍を再び手に持った元親は、一気に呂布との間合いを詰める。
そして碇槍を縦横無尽に振り回し始めた。
その姿はまるで荒波に君臨する暴風のような物であった。

「――――ッ! ……ちっ」

呂布は戟を構え、元親の乱舞を受け止める。
どうにかして隙を突き、致命傷を与えてやりたいが、その隙が見つからないのだ。
一見滅茶苦茶とも取れる元親の攻撃だが、攻撃を加える隙が一切見当たらなかった。

元親の縦、横、斜めからの波状攻撃に呂布の表情が苦しげな物に変わる。
手に伝わる痺れが徐々に強くなっていった。

武器を手放してしまう前に無理矢理にでも攻撃を加えようと、呂布が考えた矢先――
元親が碇槍の先端を大きく振り回し、自分との距離を離したかと思うと、そこで攻撃が終わったのだ。
碇槍の先端を戻している元親は先程とは違って全くの隙だらけ。

その隙を見逃す程、呂布と言う武人は甘くなかった。

「……死ね」

呂布が手の痺れを無視し、離れた元親との距離を詰めようとする。
だが――

「――甘いねぇ」
「――――ッ!?」

元親がそう吹くと同時に、今まで動きを見せなかった愛紗と鈴々が一斉に呂布へと躍り掛かった。
その事態に呂布は動きを止め、2人からの攻撃を受け止める体制に入る。

「ハアアアアアアッ!!」
「てりゃーーーーッ!!」

辛うじて2人からの攻撃を受け止める事が出来た呂布だが、思わぬ事態が起こってしまった。
先程腕の痺れを無視したのが祟ったのか、攻撃を受け止めたと同時に戟を落としてしまったのだ。

「……くっ!」

慌てて落としてしまった戟を拾おうとする呂布だったが、彼女の目前には接近していた元親が居た。
呂布の瞳が驚愕に開かれる。

「良いモン見ただろ?」

その言葉と同時に元親の左拳が、呂布の腹部に叩き込んだ。
呂布は瞳を見開いたまま、身体をガクガクと震わす。
苦しそうな息が呂布の口から少しだけ洩れた。

「……やった……な……!」

腹部を押さえながらも、必死に意識を保とうとする呂布。
彼女を見つめ、元親は溜め息を吐いた。

「悪いな。華雄と同じで、お前には聞きたい事があんだ。だから――」

元親は呂布の首筋に手刀を決め、必死に保っていた意識を刈り取る。
意識を無くした呂布は、ゆっくりと大地に倒れ伏した。

「今は大人しく眠ってな」

元親が気絶して倒れた呂布を見て、ポツリと吹く。
その様子を見ていた愛紗と鈴々も安心したのか、元親の元へと駆け寄った。

「ご主人様、ご無事ですか?」
「ああ。反撃されるかと思って冷や冷やしてたが、何とかな」
「お兄ちゃんの考えた攻撃、大成功なのだぁーッ!!」

鈴々が蛇矛を掲げ、喜びを露わにする。
鈴々の言っている通り、元親が提案したのは先程の連携攻撃である。
難しいと思われた策だったが、成功した今ではどうでも良かった。

最大の強敵だった呂布を倒した――
元親と愛紗は一時の安堵の溜め息を吐き、鈴々は蛇矛を振り回して興奮していた。

 

 

 

 

「長曾我部達が呂布に勝った……か」
「ああ……長曾我部も呂布も、とんでもない武の持ち主だったな」

元親達が戦っていた戦場からだいぶ離れた所から、夏候惇と夏候淵の姉妹は居た。
呂布と元親達の闘いを今まで眺めていた2人は、称賛の声を思わず漏らしていた。

「流石に鬼を名乗るだけの事はあるか……」
「ああ。あの力……侮れん」

夏候淵がふと、隣に居る捕虜となった女性に目を向けた。
その女性はかつて董卓軍の武将だった張遼である。
彼女は頬を赤らめ、熱い息を時折漏らしていた。

「? どうした張遼」

夏候淵が張遼に問い掛けるが、熱い息を漏らすだけで反応は無い。

「なんだ貴様。気持ちの悪い溜め息を吐きおって……」
「……む? 失礼やなぁ。これはウットリしとる溜め息やっちゅうねん」

反応が無かった張遼も、夏候惇の言葉に顔を顰めた。
先程の溜め息は彼女曰く“ウットリしていた溜め息”らしい。

「ふむ。それで何にウットリしていたんだ?」

夏候淵が未だに頬を赤らめている張遼に問い掛ける。
すると張遼は身体を少しくねらせながら言った。

「さっきの戦いやって。長曾我部が呂布と戦っていた姿……物凄い格好良かったやん」
「…………ハ?」
「…………む?」

張遼の言葉に夏候惇と夏候淵が少し唖然とした。
しかし張遼は気にも留めず、言葉を続ける。

「隙が無い攻撃……その度に靡く白髪……珍しい武器……う〜ん、格好ええ」
「……お前の言っている事がよく分からん。確かに呂布を圧倒していた攻撃は凄いと思ったが……」
「ああ。しかし、格好良いとは……」

夏候淵が先程の戦いを頭に思い浮かべてみた。
特に張遼が言っていた部分を重点に、である。

(……あれは格好良いのか?)

しかしあまりピンと来ない夏候淵であった。

「格好良いと思わんの? そりゃ残念やわ」

張遼は2人の反応に、少し不満らしい。
やれやれと言った表情をした後――

「はぁ〜……どうせならウチ、長曾我部の所へ下りたかったわ。もしかしたらウチ、惚れてしまったかもしれんし」

と言った。
張遼のその言葉に、夏候惇が彼女を睨んだ。

「なっ!? 貴様!! 華琳様に不満があると言うのか!!」
「いやいや、曹操のお眼鏡に適ったちゅうのは嬉しいで。でもどうせなら惚れた奴が居る所に行きたいやん?」

張遼の言葉に共感するものがあったのか、夏候惇は「むぅ」と口を閉ざしてしまった。

「それにあんたはええやん! 長曾我部と同じ眼帯しおって。ウチの恋敵かいな」

張遼が、夏候惇が戦中に負ってしまった左眼の傷を指摘する。
その言葉に夏候惇は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「こ、これは偶然だッ!! 決して故意に負った傷ではない!! と言うか故意に負ったら私はどんな変態だぁー!!」
「アハハハハ! 冗談、冗談やて」

張遼に良いようにからかわれる姉の姿を見て、夏候淵は溜め息を吐いた。
どうやら彼女も1人の苦労人のようである。

 

 

 

 

呂布との闘いを終えた元親達は倒れた呂布を陣地に運ぶよう、兵達に指示を出した。
その理由は華雄と同じく、董卓軍の内情を聞けるかもしれないと思ったが故の対応である。
呂布を無事に捕らえる事に成功した元親達は、その後の虎牢関制圧に成功したのだった。
制圧に成功したのも有力武将が全て居なくなり、敵の士気がガタガタになったのも要因の1つだった。

その後、完全に制圧された虎牢関に連合軍が次々と入場し、その日は城塞内部で休息を取る事になった。
そして次の日、虎牢関へと入場した連合軍は奥にある帝都洛陽へと進軍していく。
虎牢関を突破した連合軍の前に敵軍は恐れを成してしまったのか、現れる事は無かった。
その道中にはもう要塞も何も無いので、比較的進軍は楽であった。

しかし虎牢関を落としてから間も無い中での進軍は、兵も疲れると言う配慮だろうか。
虎牢関出発から2日程経過した所で、それぞれ陣を張って大休止を取る事となった。

その間、元親達は華雄と呂布から董卓軍の内情を聞き出す事にした。
以前にも偵察部隊を放っても、無事に帰ってきた者は誰1人居ない。
悪戯に兵を敵に殺されるより、懐に居る情報源を当たった方が得策である。

華雄と呂布を連れてくる際は、愛紗と鈴々が“もしも”の時の為に備えた。
もし2人が暴れ出した時には何時でも迎撃できるように、である。

「ただいま戻りました」

それから暫くして朱里が複数の兵士達と共に、元親達の元へ戻ってきた。
朱里の背後には数10人の兵士達に囲まれた華雄と呂布の姿が見える。

「よう。傷はもう大丈夫か?」
「ああ、問題は無い」

微笑を浮かべ、華雄は元親に答えた。

「そうか。呂布の方は?」
「…………(コクッ)」

呂布の方も問題は無いらしく、ゆっくりと頷いた。
与えられたご飯をおかわりしていると、元親は朱里から聞いたぐらいである。
彼女が頷いた通り、本当に問題は無いのだろう。

「ここにお前等を呼んだのは他でもねえ。洛陽と董卓軍の内情について教えてもらいてえんだ。不都合が無い限り、俺達に出来るだけ詳しい事を教えてくれ」
「私は構わない。既にこの身を貴方に預けたのだから」
「…………構わない」

どうやら2人は詳しい事を話してくれるようだ。
元親はまず最初に洛陽について尋ねてみる事にした。

「そんじゃあ1つ目の質問だ。洛陽に居る軍隊の規模ってどれくらいだ?」
「…………沢山」
「た、沢山とはな。抽象的過ぎるぞ……」

呂布の答えに愛紗は呆れたように言う。
それを見かねた華雄が続いて口を開いた。

「まあ呂布の言っている事は的を得ている。洛陽に残っているのは一万か二万くらいだろうな」
「案外まだ残っているんですね」
「だが洛陽は拠点防御に向いていない。連合軍の数で押せばすぐに落ちるだろう」

華雄の答えに元親は顎に手を当てて頷く。
続いて次の質問に移る事にした。

「それじゃあ次の質問だ。そいつ等を率いてる奴ってどんな奴だ?」
「…………詠」
「詠?」

それが姓なのか字なのか分からないが、ともかくそんな名前の者らしい。
しかしあまりピンと来ない元親を見て、華雄が言う。

「詠と言うのは真名だ。私は賈駆と呼んでいる」
「……賈駆か。お前等は聞いた事あるか?」

元親の問い掛けに愛紗と鈴々、朱里は揃って首を横に振る。
どうやら自軍の中に知っている者は居ないらしい。

「賈駆は優れた軍師だ。その知力は連合軍の軍師にも劣らない。あとは月……董卓と仲がとても良いな」
「へぇ〜〜〜賈駆って奴は仲間想いなんだな」

悪逆非道の暴君にも思いやってくれる人が居る。
元親はその事実に少し驚いていた。

「しかし董卓の真名が月か。悪逆非道の暴君には不似合いだな」

愛紗が思ったままのことを口に出すと、華雄と呂布が首を傾げた。

「悪逆非道? 何の事だ?」
「…………月、とても優しい」

2人の言葉に次は元親達が首を傾げた。
董卓は悪逆非道では無く、とても優しいらしい。

「おかしいな。圧政を布いて、民から血と汗と税を搾り取っている暴君って聞いたが?」

元親の言った事が反董卓連合内での董卓の想像図である。
しかし華雄と呂布の2人は真っ向から否定した。

「…………違う」
「違うってどう言う事なのだ?」

呂布の吹きに鈴々がすぐさま反応する。

「…………変な奴が居る」
「変な奴? 誰なんだ?」
「…………白い奴。そいつが悪い」
「ああ。白装束が来てから、色々とおかしくなっていったんだ。私も殺されかけたからな」

華雄が表情を若干暗くして言った。
どうやらまだ、あの時の衝撃が抜けていない。

「白い奴……か。どうやら何か臭い物があるぜ。この戦にはよ」

元親は“白い奴”と言う単語に、まるで大物を釣り上げたような感覚に覆われた。
元親達と2人の意見が全くの正反対だと言うのはかなりおかしい。
暴政を布く董卓と、とても優しい董卓――情報の違いがあからさま過ぎる。

更に白装束の詳しい事情を反董卓連合軍に集った軍勢は誰1人知らない。
この件について2人が嘘をついている可能性も無い事も無かった。
だが元親は2人の言葉には信頼性がかなり感じられた為、信じていた。

訊くべき事を聞き終えた元親は、この2日間の間に考えていた事を切り出す事にした。
それは――

「どうだ呂布。あんたの強さは実感させてもらった。これも何かの縁だと思って、華雄と一緒に俺達の仲間にならねえか?」
「――――ッ!?」

元親の言葉に華雄と呂布が驚きに眼を見開く。
そして元親の傍らに居た愛紗が怒声を上げた。

「ご、ご主人様ッ!! 何を言っているのですか!!」
「そんな大声上げるなよ。仲間は多いに越した事はねえし、呂布の強さは俺達全員が充分過ぎるほど分かってるだろ。それだったら俺達の仲間になってもらった方が得ってもんよ」

「なあ?」と、元親は愛紗を尻目に、鈴々と朱里に問い掛ける。
問い掛けられた2人は、ゆっくりと頷いた。

「鈴々は別に良いのだ。強い奴が仲間になるのは心強いのだ」
「私も反対はしません。ご主人様の性格は分かってますから」

鈴々と朱里はあっさりと了承した。
特に朱里は同じような仲間入りをしただけに、元親の気質を分かっているらしい。
どんな者でも度胸のある奴や実力のある奴は引き入れる――それが元親の考えだ。

愛紗は2人の反応を見て、深い溜め息を吐く。
愛紗もまた、元親の気質を理解してるが故の溜め息だった。

「はぁ……私がこれ以上言っても、ご主人様は仲間に入れるのでしょう?」
「そう言う事だ。悪いな。我が儘な御遣いでよ」
「いえ、もう慣れました。呂布を捕らえた時から薄々感づいてはいましたので」

愛紗が微笑を浮かべ、元親の了承の意を示した。
その答えに満足した元親は改めて呂布と向き合う。

「それじゃもう1度聞くぜ。仲間になってくれねえか?」

元親は再び呂布を誘う。
呂布の隣に居る華雄が不安そうに視線を向けた。
暫くの沈黙の後、呂布がゆっくりと口を開く。

「…………条件」
「ん?」
「…………仲間になる条件」
「条件か……そんじゃあ内容を教えてくれ。出来る限りの事はしてやる」

元親の返答を聞き、呂布は無言で頷く。
そして呂布は無表情のまま、条件の内容を言い始めた。

「…………条件は2つ」
「2つか。おし、何でも来やがれ」

条件の内容を忘れないようにと、元親は朱里に書き留めるように指示を出した。

「…………恋の家、壊さない」
「お前の家を壊すな、か。それは洛陽にあるのか?」
「…………うん。友達が居る」

友達の言葉と同時に、呂布の瞳に優しい光が宿る。
元親はそれを見て自然と笑顔になった。

「友達が居るんなら、すぐにお前の家を確保しなきゃな。分かった。俺達に任せとけ」

元親の言葉に、呂布は軽く頷く。
そして右手の人差し指を立てたかと思うと――

「…………あと、1つある」
「あと1つか。何だ?」

あと1つあると、条件を提示してきた。

「…………お金が欲しい」
「金? どれくらい欲しいんだ?」

元親が欲しい金額を訊くと、呂布は両手を大きく広げ始めた。
どうやらかなりの金額が欲しいらしい。

「…………沢山欲しい」
「なっ!? き、貴様ッ! 己の武を金で売ろうというのかッ!」

義を持って仕える武人の愛紗が、金の話を持ち掛けた呂布に怒鳴った。
激昂する愛紗を元親は何とか抑え、呂布に詳しい金額を訊いてみる。

元親の収める国はそれ程に金銭的な余裕は無い。
とりあえず詳しい金額を聞き、対処できるかどうかを判断したかった。

「…………みんなとご飯が食べられるぐらい欲しい」
「みんなって言うと……友達のことか?」
「…………(コクッ)」

呂布の瞳に再び優しい光が宿る。
その瞳を見ると、元親はどうにかして叶えてやりたいと言う気持ちに襲われた。

「う〜ん……その友達ってのは、何人なんだ?」
「…………50匹」
「50匹か……? って、ああ? 人間じゃねえのか?」
「…………(コクッ)」

匹――何人では無く、何匹。つまり人間では無くて動物と言う事である。
どうやら呂布は洛陽にある家で、多くの動物達と共に暮らしているらしい。
沢山のお金が必要と言っているのも、動物達の食費の為なのだろう。

「愛紗、朱里……動物の食費って俺達の金で賄えるか?」
「えっと……多分大丈夫だと思います」
「そうですね。それくらいの余裕はあります」

普段は財政的な書類等は愛紗と朱里に任せてある。
その担当をしている2人が言うのだから、大丈夫なのだろう。
元親の決意は固まった。

「よし分かった。お前の出した条件は全て飲んでやる。どうだ? 仲間になってくれるか?」
「…………………………(コクッ)」

どうやら呂布は納得したらしく、子供のような仕草で大きく頷いてくれた。
元親は決まったと言わんばかりに、手を大きく叩いた。

「よっしゃ! これで決まった!! これでお前は今から、俺達の家族だ!!」
「…………家族?」

元親の家族と言う言葉に、呂布は首を傾げる。
元親はそれを見て、不器用に微笑みながら、呂布の頭を優しく撫でた。

「…………ん」
「長曾我部軍の一員になった奴は、壁も何も無い家族よ。まだお前や華雄は慣れないかもしれねえが、遠慮無く話しかけな。お前等が俺に付いてきてくれるんなら、俺はお前等をとことん信じて、絶対に守ってやる!」

元親の浮かべる笑顔を呂布は視線を外さずに見つめ続ける。
呂布の隣に居た華雄もまた、元親の笑顔を見たままおずおずと口を開いた。

「わ、私もその……家族……なのか?」
「当たり前よ。呂布もお前も大切な俺の家族だ」

元親の答えに華雄は頬を薄っすらと赤らめながら、微笑を浮かべた。

「呂布、これからよろしく頼むぜ」
「…………うん」

こうして元親達の陣営に心強い仲間がまた1人加わったのだった。
だが元親はまだ気付かない。
華雄と呂布とのやり取りを見て、黒いオーラを放つ3人娘が居る事を――





押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.